充電式LED電球

24.07.08

毎日、通販会社から、いろいろな品物の宣伝広告メールがくる。通販会社と言っても一つじゃないからもう大変。そんなメールはゴミ箱に直送という方もいるだろうが、いろいろな品物を見るのが楽しみなのです。だから時間がかかる。

電子メール
三木さんですよ
三木さんですよ
メールが多すぎて大変じゃ

売り込んでくるのはどんなものかと言えば、台所用品とかインテリアなど家庭で使うもの、パズルとか模型飛行機など趣味のもの、筋トレマシーンとかウェア類のスポーツ用品、通常の衣類、パソコンのソフトウェアやハードウェア、健康食品やサプリメント、おとなのおもちゃ💗などなんでもござれの多種多様。

共通することは、そこらへんで売っていないこと、アイデア商品(実用性ゼロ)だったり、大量には売れないようなクラフト品とか、恥ずかしくてお店では買えないようなものとかが多い。
そんなのを眺めているのがとても楽しい。

ただ、永久機関もどきのアリエナイものとか、まるパクリで違法じゃないかと思えるものもある。
中には、どう考えても1万はするだろうと思えるものが、500円くらいだったりする。本当に送られてくるのか、送られて来ても梱包箱だけなのか、詐欺の餌なのか、注文したことないけどワクワクする(謎)。


でもって先日来たLED電球のコマーシャルは、これまた一筋縄ではなかった。突っ込みどころたくさんというか、マスコミの偏向報道テクニックを最大限に駆使した優れものであった。
本日はそれをネタに語る。


「停電時に自動点灯する電球」という売り文句である。
簡単に言えばLED電球に充電池を内蔵し、停電になるとバッテリーに切り替わって点灯する、また電球を外して手に持てば懐中電灯にもなるとある。
何か素敵な気がしませんか?

そして電気代が安いと説明した図がありました。

充電式LED電球

よく図を見てください。おかしなところありませんか?

電気代は1年間の電気代が50W白熱電球なら4,457円のところ、このLED電球なら446円とある。これは電気代が10%に減るということです。

ところが図中には「(年間電気代)白熱電球の1/8以下」になっています。
1/8なら白熱電球の年間電気代が4,457円だから557円以下になるはずです。もちろん446円も「1/8以下である」ことは間違いないですが、一つの図の中では明らかな矛盾です。
これはどうしてなのでしょう


50Wの白熱電球と5WのLED電球の明るさは等しいのだろうか?
もちろんメーカーや品種によってさまざまでしょうけど、業界の解説を見ると50Wの白熱電球に相当する明るさのLED電球で5Wは無理なようだ。

下表は我が家で買置きしてあるLED電球の箱に書かれた仕様をチェックした結果である。
すべてメーカー違いとか仕様違いで同じ型のものはない。


相当する白熱電球ルーメン(光の量)LED電球の消費電力備考
60W900lm9.0W
60W810lm7.3W
40W530lm5.1W人感センサー付
40W485lm5.6W人感センサー付
表記なし360lm6.0W人感センサー付
25W230lm4.3W

アマゾンでも20件ほど見たが、LED電球の消費電力は同じ明るさの白熱電球の12〜14%というところだ。白熱電球と同等の明るさのLED電球の消費電力が白熱電球の1割以下というのは見当たらなかった。
となるとグラフで示すLED電球の電気代を446円と表記してあるのはどうみてもおかしい。虚偽の記載ではなかろうか?


を眺めているといろいろ変なことに気が付く。
まずグラフ右側のLED電球の電気代が446円と書いてあるオレンジの棒グラフです。グラフは左側を4,457円、右側を446円に表示しようとしたはずです。
しかしどう見ても、右側のオレンジ部分は左側の白熱電球の電気代の高さの10%には見えない。明らかに10%以下だ。

そう見えませんか
この図のどこかに仕掛けがあるに違いありません。


下図は表示されている図をダウンロードして、ペイントソフトでピクセル数を数えたものです。図中の数字は元絵のピクセル数を示します。
左側と中央の図を広告に合わせています。右側は私が正しいと考えた図です。

比較図検証

注:「ピクセル」とはデジタル画像の最小単位です。画像は拡大縮小できますから、表示する大きさに関わらず絵のサイズを表現するとき「○ピクセル」といいます。
モニターのピクセル数はパソコンやタブレットによって違います。2023年のパソコンでは、次のような割合です。今はほとんどが縦横比が16:9のワイドです。
 1920×1080  26%
 1366×768  14%
 1536×864  11%
 1280×720   5%
私のモニターは1920×1080です。


この図を眺めると、すぐにおかしなところが分かります。この図を描いた人はいろいろ工夫●●したのでしょうね。

  1. まず中央の破線の四角は左側のオレンジの四角より大きいです。破線の中心線が左側の四角形と同じなのかもしれません。しかし目につくのは黒い太線です。そもそもこの破線は左の白熱電球の電力のわけです。中央の図で白熱電球とLED電球の比較を示すべきなのに、ここにフェイクを仕込んでいる

  2. 更に問題があります。
    中央のLED電球の電気代を表すオレンジの四角形は破線の高さの10%ですから、85ピクセルなければなりませんが、測ると79ピクセルと9%しかありません。
    たった1%かと思ってはいけない。10%を9%にしているのですから、比率から言えば1割も小さくしているのです。

  3. 目を凝らしてよく見てください。
    中央のLED電球の電気代を表すオレンジのグラフは、驚くことにグラフの下に書いてある太い黒線に重なっているではありませんか。なんと太線の幅9ピクセルのうち半分も重なっていることが分かりますか?

    充電式LED電球 拡大図
    左図の「白熱電球の1/8以下」と書いてある下の部分です。
    左図にマウスを載せて確認ください。
    446円のグラフが下線に重なっているのが分かる。
    大した影響がないと思うかもしれないが、このズレだけでグラフ高さの5%に当たる。

    これは二つの効果があると考えられる。
    ひとつは黒線より上に出ているオレンジ部分は本来85ピクセルあるべきところが、前記のように79ピクセルに小さくしていて、更に重なりで5ピクセルマイナス方向にずらして74ピクセルしかありません。つまり破線で示した高さの8.6%しかないのです。本当は10%でなければなりません。
    それは1.4%小さいのではなく、比率で言えば14%も小さいのです。

    もうひとつの効果はグラフの縦方向を855ピクセルでなく、オレンジの部分が下にずれた分だけ縦方向が長くなり859ピクセルに見える。その分、オレンジ部の割合、つまり白熱電球の使用電気代に比するLED電球の電気代の割合が小さく見える。
    ただ、こちらは859÷855=0.5%だから、この効果はほとんどないと思われる。

    いずれにしても、池上彰と同じく高等なテクニックのフェイクグラフです(注1)
    すばらしい、いやかんばしくないテクです

    右側は正しい寸法関係で私が書いた改良(?)案です。
    棒グラフが10%に見えるでしょう。実を言ってこれも正しくなく、本当は10%でなく12.5%でなければならないのですが……それは図のフェイクでなく前出の別の問題です。

では、次に進みましょう。
さて、この充電池付LED電球は使い方が多様だそうです。
停電になったとき白熱電球も普通のLED電球も光を出しません。当たり前ですね。

しかしお立会い、この充電電球は充電池を備えているので、ソケットから取り外して手に持てば、懐中電灯のように使うこともできますし、口金のところにS字形のプラスチック部品を取付けると、紐や鴨居にひっかけてランタンとして使えるそうです。
素晴らしいですね。

でも停電になったとき、わざわざ電球をソケットから取り外して懐中電灯に使う状況が考えられるでしょうか?
LED電球も点灯中は結構熱くなります。この電球の正確な消費電力は書いてある分かりませんがが信用できない、書かれている中で小さいほうの5Wにしても、点灯時間が長ければ器具はけっこう熱くなります。下手すると火傷します。
停電で真っ暗なとき、椅子の上に立ってこのLED電球を取り外すなんて、ちょっと難しそうですね。


🔦

普通の家では懐中電灯くらいは用意しているでしょう。100均ショップなら税込110円で手に入ります。この充電電球が懐中電灯に使えても、ありがたみはなさそうです。

懐中電灯は歩くとき前を照らすとか、何かを探すときでしょう。では広くお部屋を照らすランタンはどうか?
停電になったとき、ランタンがなくても、半透明なポリ袋で懐中電灯の電球部を包みをテーブルの上に立てて置けば緊急時対応になります。これって自治体が出している防災の冊子には必ず載ってます。(ex.東京都なら「東京防災」
2019年千葉県に台風が来たとき、我が家では停電が回復するまでそうして過ごしました。

おっと、お値段はいかほどでしょうか?
1個売りはしていないようで、2個セットで9,360円、3個セットで14,040円、1個ですと、2個セットで1個4,680円、3個セットで1個4,680円……あっ、同じだ
安くはありません。

アマゾンで白熱電球50W相当のLED電球を見ると、
対象となる白熱電球販売単位セット価格1個価格
60W相当6個セット2,399円400円
50W相当4個セット1,920円480円
40〜50W相当6個セット1,655円276円
50W相当4個セット2,399円600円
60W相当6個セット2,599円433円

もちろんこのLED電球は充電池付、懐中電灯兼用、ランタン兼用、など多機能ですから、電球にしか使えないものより高価なのは当然です。

充電池付きの専用ランタンは1,500円くらいからあります。立派なもので3,000円でしょう。そういったものになると、連続点灯時間は最低でも50時間、なかには連続200時間以上なんてのもあります。
ええと、この製品の連続点灯時間は たった 6時間でした。まあ1個4,680円の充電電球のコンペティター競争相手は3,000円のランタンではなく100円の懐中電灯でしょう。

注:懐中電灯の連続点灯時間は電池とLED次第だ。100均店のカタログでは単1のもので15時間、単三でも明るさは落ちるけど10時間くらいらしい。


おっと、言いたいことはこの電球を買うなら、普通のLED電球とLED懐中電灯を買い、万全を期すなら更にLEDランタンを買うのが安くすみ、そして実用的で安心・安全でしょう。


ダメ押しです。
白熱電球を使うよりこのLED電球にすると年4,011円の節約になるそうです。それを正としましょう。

注:「せいとする」とは、「正しいとする」とか「基準とする」という意味です。


白熱電球 ええと白熱電球は2008年洞爺湖サミットのときに、経済産業省はメーカーに対して、白熱電球の生産・販売を自主的に止めるよう要請した。それが事実上の禁止だと受け取られたので、経産省は慌てて「禁止ではありません。省エネ推進のためにトップランナー制度で省エネ基準を達成するように促すだけです」と広報した。
だけど既に作るほうも使うほうも、もう白熱電球は終わりだと認識して走り出しました。

その結果、洞爺湖サミット以降、白熱電球は主舞台から追いはらわれ店頭から消えた。そして蛍光灯電球が照明の王者となった。
電球型蛍光灯 しかし2015年頃になるとLEDが幅ってきて、今度は蛍光灯電球が土俵際に追い込まれ、2016年のミナマタ条約(注2)でとどめを刺された。
ああ無常
蛍光灯電球の命は短くて、苦しきことのみ多かれり(林芙美子)


注:ビクトル・ユーゴーは「ああ無情」、アン・ルイスも「あゝ無情」ですが、ここでは「無常」です。だって「盛者必衰」とか「諸行無常」の意味ですから。


ということで図では白熱電球と比較しているが、まったく意味がない。市場において蛍光灯電球が白熱電球と競合した時期は特殊なもの以外ないはずだ。
2024年現在、電器屋で白熱電球を買おうとしても売っておらず、通販などで買うしかない。

LED電球 2008年洞爺湖サミット以降に建てられた住宅なら、入居時に白熱電球が付いているはずはない。デフォルトが蛍光灯電球だろう。
そしてミナマタ条約以降は蛍光灯電球も店頭から去りつつある。

注:蛍光灯電球の寿命は13,000時間と言われるが、そんなに長持ちするわけはない。私の経験では1年か1年半だ。それでも白熱電球よりはるかに長い。
仮に13,000時間、毎日5時間で7年持つとして、2017年以前の蛍光灯電球は交換されているはず。

比較する以前に、そもそも家庭で今現在、白熱電球を使っているとは思えない。だから比較するなら現在主流であるLED電球と比較しなければ意味がない。
もちろん現行LED電球よりも安くてメリットがなければ、採用とはならないだろう。


比較広告という手法がある。それは自社が提供する商品と、競争関係にある特定の商品の仕様や性能などを比較して、自社製品が優秀であることを示す広告のこと。
自分勝手に良いことだけを言うことのないように、比較広告にはいろいろと規制がある。

今回の事例は比較対象が特定の会社のものではなく、定義から比較広告ではない。
しかし実際には入手できないものと比較して、優れていますと言っても意味がない。現在製造している自社の車と50年前の車を比較して、自社の車が素晴らしいと言っても笑われるだけだ。
正しく比較広告をするなら、市場において選択でき入手できる製品同士を比較しなければならない。
スラムダンク だが値段が10倍も高くては、比較するまでもなくその時点で終了です(安西先生)

と考えるとこの製品の広告で「替えるとこんなにお得」という、コピーの意味するところはいったいなんだろう?
考えられるのは、世の中の進歩に疎い高齢者に買わせるだますためなら、使えるかなというテクニックである。それにしてもいささか時代遅れの感はある。

マスコミではグラフを自由自在にいじって、小さなものを大きく見せたり、すごいものになると大小関係を逆に見えるようにしますから注意が必要です。
そういう手法の派生形というか二番煎じなのだろうか


最後まで来てアマゾンで取り扱っているのかとググりましたら、ちゃんと載っていました。
ところが値段が通販会社よりかなり安い。そして広告に書いていることが通販サイトとはかなり違う。
宣伝広告は販売会社によって違うのか
怪しい宣伝を考えたのはいったい誰だ



うそ800 本日の反省

通販の広告メールでは、売らんがために図を工夫したり、誉めすぎてつじつまが合わないのもあるようです。広告を考えた方々、お疲れ様です。
世の中には私のような疑い深い人も多いのです。
といいつつ、私もネット詐欺に2度あいました。家内に言わせるとぼけ老人だそうです。
一層気を引き締めねば……

good 私が小さなことに拘る偏執的だと思われるかもしれない。
その可能性もあるが、純粋に冒頭の広告のグラフを見て、こりゃおかしいと感じ、なぜだろうと考えたのは事実である。
その結果、いろいろと細工していることが分かった。
いや、宣伝メールも読めば楽しめる。だから直ぐにごみ箱に捨てるわけにもいかないよ。




注1
池上彰のフェイクテクニック
フジテレビ「池上彰特番」が犯した、残念すぎるレベルの3つのミス
某番組で用いられた格差に関する「日本の深刻データ」を再検証してみる
・なんと小学4年生がおかしなグラフを見てどう考えたかという論文が書かれている。
 折れ線グラフを批判的に考察する小4の児童の様相
いやいや、マスコミがフェイクグラフを使うことの研究がたくさんある。
マスコミ グラフ 印象操作

もちろん池上彰ばかりじゃない
日本人を印象操作するヤバいグラフを見抜く方法
え、待って、それ詐欺グラフかも!?
詐欺グラフのテクニック:6選+実例を紹介
騙されないようにしないとね

注2
「ミナマタ条約」とは水銀及び水銀化合物の人為的排出から人の健康及び環境を保護することを目的としており、採掘から流通、使用、廃棄に至る水銀のライフサイクルにわたる適正な管理と排出の削減を定めるもので2013年に提案され、2016年に締結された。
これにより蛍光灯は実質的に使えなくなった。




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