ISOサーベイ2023

24.10.10

9月21日に「ISOサーベイ2023」が発表された。以前は9月の月初めだったから今年はだいぶ遅い。何かあったのだろうか?
いや本当のことを言えば毎年少しずつ発表日は遅くなっている気がする。2020年頃は9月上旬だったが、2022年頃から9月中旬、下旬と下がってきている。

なお「ISOサーベイ2023」とは、発表は2024年であるが2023年のデータである。
元データは下記にあります。
 The ISO Survey


surveyとは調査であるが、調査と言っても簡単なものでなく、例えば複数の質問をする世論調査とか、建物を購入するためにいろいろ調べることとか、あるいはあるテーマに関する包括的なレポート(例:現代日本文学の概観とか)のイメージである。
 Cf:Longman dictionary, Dictionry.com

ならばタイトル「ISOサーベイ」から思い浮かべるのは、ISOつまり国際標準化機構の、一年間の活動成果とか新規制定・改定した規格の紹介とか思うかもしれない。いやそう思うだろう。

だが実際の「ISOサーベイ」は、そんな大それた統計とか調査報告ではない。
リンクを開いてみてもらうと分かるように、ISOMS規格、つまりマネジメントシステム規格の国別の認証件数を取りまとめたものに過ぎない。

もし県別の男女の人口を表にまとめただけのものを「日本サーベイ」とか言ったら笑われるね。
「日本サーベイ」と言ったら、人口だけでなく、寿命、人口構成、国土、気候、行政区分、産業構造、経済、国際収支、観光、社会福祉、保健衛生、国防など包括的にまとめた「日本国勢図会ずえ」あるいは新聞社の出す年鑑のイメージだろう。


つまり日本ではISO9001認証が22,459件でISO50001はゼロ件などの数字を、全世界収集してエクセルにぶち込んだだけで、成果物はエクセルのファイルふたつに過ぎない。それもファイルサイズが162kBと295kBに過ぎない。

注:ISO5001の日本の認証件数はJABのウェブサイトではゼロだが、ISOサーベイでは40数件となっている。
JAB認定以外のISO50001の認証があるのかもしれない。
なお、資源エネルギー庁びウェブページ「ISO50001導入事例紹介」ではISO50001に取り組んでいる企業を列記していますが、認証しているかどうか不明だ。

それはともかくISO情勢がどう変わったのかと見ると……気が抜けた。エクセルファイルを開いて昨年との比較をする。 すぐに異常に気が付いた。
まず中国の登録件数が激減だ。 おかしいと思い添付のpdfの英文を読むと「中国の認定機関が参加しなかったため」とある。


Results highlights
This year, results were impacted by the missing participation of the accreditation body of China, who was not able to share its data for the ISO Survey. The impact is significant due to the large amount of data reported by it in past ISO Surveys.


今年は、中国の認定機関が参加しなかったため、ISO 調査のデータを利用できず、結果に影響が出た。過去の ISO 調査で中国の認定機関が報告したデータ量が多いため、ISOサーベイに与えた影響は大きい。(おばQ訳)

Pdfファイル(リンク)を見ていただけると分かるが、中国(中華人民共和国)が抜けてますよ。いや正確に言うと中国の一部しか載っていない。だけどその範囲も分からないから、中国全体が分からないことに変わりはない。

前回の「ISOサーベイ2022」をみると、2022年の世界全体に占める中国のISO認証件数は実にISO9001で47%、ISO14001では57%を占めていたわけで、中国が数分の1になった時点で、もう比較検討する意味がない。とりあえず今年のデータは塩漬けするしかなさそうです。来年があるかどうかも分かりません。


となると全世界から中国を抜いた分ではどうだろうとなるが、これがまったく興味が持てないのだ。まず中国以外も調査範囲が過去と異なり、比較しようとする気が失せたのが本当のところだ。

同じく添付のpdfより、


Results highlights
For ISO 9001, UK, Germany, India, USA, Australia and Czech Republic show a decrease that is mainly due to non-participation of certification bodies or a decrease of data reported by providers that took part in the previous Survey.
Italy, Korea, USA, Romania and Poland show growth for the number of certificates for ISO 9001, due to the increase in the data reported by some providers and by some certification bodies that did not participate the year before.


ISO 9001については、英国、ドイツ、インド、米国、オーストラリア、チェコ共和国では減少が見られるが、これは主に認証機関の不参加、または前回の調査に参加したプロバイダーによって報告されたデータの減少による。
イタリア、韓国、米国、ルーマニア、ポーランドでは、一部のプロバイダーおよび前年に参加しなかった一部の認証機関によって報告されたデータの増加により、ISO 9001の認証件数が増加している。(おばQ訳)

既に中国の認証件数がQMS/EMSで過半数を占めており、「中国の中国による中国のためのISO認証」とか「中国の中国による中国のためのISOサーベイ」と揶揄したが、その中国のデータがないなら増減を考えることができない。

ISOサーベイが参考にならないことはこれでおしまいにして、2024年発表の「ISOサーベイ2023」は無視して2025年発表を待つと言いたいが、情報がないというのも立派な情報であるから、それを考えてみた。


まず中国の認証件数報告がないことについて
中国が認証件数を報告しなかったのは、どうしてなのだろうか?
理由を考える(勘ぐる)と、いろいろ思いつくことはある。


それ以外に想定されることはないだろうか?

ISOという組織がISO規格による認証システムへの関心が薄れた
中国でなく、ISO機関がもうこの調査に意義はないと考えたのかもしれない。
というのは中国以外の国々でも真面目に調査していないようだ。そのことは前掲したpdfのページでエクスキューズを書いている。

ISOがISO認証ビジネスを見放したとすると、その理由は何か?
やはり規格の乱立と規格が増えてもカニバリズムでビジネスは拡大しない。ISOMS規格が増えても、日本の認証件数は減少している。新しいMS規格が登場しても新しい価値、メリットがなければ認証する意味がない。他社に差別化するために認証するとしても、従来認証していたものを返上して、新しい規格のみ認証を受けるという動きがみられる。

そもそもISO認証は商取引において意味があったわけだが、商取引で必要なくても認証する企業にISO認証ビジネスは支えられていた。だがISOMS規格に基づくマネジメントシステムを構築しても認証を受けることは必須ではない。
ならば、自社の仕組みがISO規格を満たしているかの確認のために、外部の認証機関に審査してもらうことは確認の意味があるが、以降継続して審査してもらうかは費用対効果があると思えない。


下衆の勘繰りであるが……ISOにとって何か不具合なことがあったのか?
実はISOサーベイの数字の連続性というか一貫性は保証されていない。
2018年に、それまでと統計の取り方を替えたという広報があり、実際に数字が大きく変わった。広報によると審査登録証の数と場所の数の相違があったとやらで、それを正しく分けて表したとかあった。
だがそういう前提でもなんかつじつまが合わないように思うのだ。


下図はISOサーベイ2022を基におばQが作成したもの。
2018年からデータの取り方を変えたそうで、不連続になっている。

中国と世界のISO9001 中国と世界のISO14001

2018年の変更は理由が元にグラフを見ると何とか納得できるが、今回の数字はもはやグラフを作る意味もなさそうだ。
ただいやしくもISOたるものが、他成る認証登録件数さえ把握できなかったとは思えない。なにかありそうだ。

過去にも数字に一貫性がないことから、今回、何か大人の事情(?)があったのかもしれない。
いずれにしても数字とか増減を真面目に考えることがないように思えてた。


二番煎じは美味しくない
二番煎じでも美味くないのに、
三番煎じかよ
昨年(2023)の「ISOサーベイ2022」によると、全世界でQMS/EMAが認証件数の80%を占めている。日本では実にQMS/EMAが95%である(注2)
これはQMS/EMSは大成功だったが、三番煎じ以降は出がらしだったということだ。

となるとビジネスモデルの見直しとか、認証ビジネスからの撤退あるいは認証制度の大幅な見直しを図るのか? うまく行けば更なる発展が望める。
それはパフォーマンス向上の効果があるかどうかが分かれ目だろう。

IAF/ISO共同コミュニケ(2010)ではISO9001に対する認定された認証が意味するものとして「認定された認証プロセスは、組織がISO9001の適用される要求事項に適合した品質マネジメントシステムをもっている、という信頼を提供することを期待されている」としている。

語っていることは分かるし、現状の認証制度ではそれしか保証していないのも間違いない。だがそれでは高い金を出して認証を受けるにはメリットがない。
購入者や消費者は、せめて「製品/サービスの品質が担保されていることを確認した」くらいは言ってほしい。
そういう第三者認証制度なら市場は大歓迎するだろう。
現状は供給者も顧客も認証疲れで認証の意義を見失っている。あるいは元々認証の価値はなかったのかもしれない。



うそ800 本日の予言

本日は秋雨前線が関東南部を横切っており、空は全面雨模様で遠くが見通せません。そんなわけでISOの預言者を自任しておる私ですが、全く見当がつきません。
中国がISO認証に熱を失ったら失速でしょうし、ISOが第三者認証を失敗と思ったら、IAFが頑張ってもISOはあまり力を入れないでしょう。

いずれにしてもISO認証の統計さえ信頼できるデータが公表されなければ、予測できません。

少し前に私のブログに書いたのですが、ブログなんてどんどん流れちゃいますから、少し加筆して自分のウェブサイトに残します。
今年は新しい情報がありませんでしたが、とりあえず毎年書いていたから今年も書くだけは書こうかと思った次第です。
少なくとも「ISO survey 2023」は分析する価値がなかったということを、書き残したいと思い、この小文を書きました。

過去にISOサーベイについて書いたものもご参考までに
ISOサーベイ2021
ISOサーベイ2020
ISOサーベイ2019
ISOサーベイ2018




Guo jia Biao zhunの略で、中国国家標準規格のこと
「ISOサーベイ2022」のデータによる。




わずー様からお便りを頂きました(24.10.10)
初めてサーベイを見ました
ISOはこのサイトの小説で愉しませてもらう以外ほとんど意識の外にある門外漢です。ただ今回の読み物からサーベイページへ飛んで初めて数値を目で見ました。さらに注意書きのPDFにも目を通し、気づいたことをお送りさせていただきます。

最初に気になったのは、イタリアが突出して認証数が増えていることです。次に、減少比率(一定数以上の中で)が一番大きいのは韓国だと読めることです。ところがイタリアも韓国も注意書きの中では一緒くたに増えている分類となっており理解が及びません。面白かったのは37001ですね。イタリアが突出かと思いきやペルーがそれを凌いでおりました。

ISOの現状はともかく、今回のお話を楽しみにサイトを訪問しています。千葉工場、目を覚ませ!:)

わずー様、毎度ありがとうございます。
とは言いましても、前回お便りをいただいてから17年経っているようです。17年と言いますと、オギャーと生まれた赤ちゃんが、高校2年生になる時間です。ともかく「うそ800」を覚えていただき感謝申し上げます。
おっしゃるように、中国以外のことについてもどうもつじつまが合いません。あまり真面目に受け取ること自体が間違いなのかもしれません。

私は10年ほど前、アイソス誌でISOサーベイなるものがあることを知りました。とはいえ特段気にしたこともありませんでしたが、ISOコンサルや認証機関が「日本では認証件数は停滞気味だが、世界では大きく伸びている」と盛んに宣伝していました。今もでしょう。

何事も裏を取るのが趣味というか性格なもので、ISOサーベイを思い出して数字を当たったのが始まりでした。結果はなんのことはない、10年前は世界の認証件数の半ばは日本でしたし、世界では伸びていると言えど先進工業国ではなく途上国が伸びているだけという状況でした。うっかり騙されるところでした。

わずー様がISOサーベイを、お調べになられたことは素晴らしい。世の中にはマスコミや政府広報などで「うそ」あるいは「事実と異なること」を交えているのが多いです。騙されないようにしましょう。
 例:高齢運転者の事故は多い。普天間基地と学校はどちらが古い、
マスコミ、特にワイドショーや池上彰などの報道番組は眉唾です。

あっ、千葉工場は……どうしましょうねえ〜




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