「傷つきやすいアメリカの大学生たち」

24.05.16

お断り
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたい方には不向きだ。
よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。

注:本コンテンツで()とある部分は、(笑)とか(棒)とか(ホントかよ)(くだらない)とか、適切な語句を補ってお読みください。


なんだったか忘れたが、私が見たネットか読んだ本で、この本を引用していた。それは大層この本を褒めていたので素晴らしい本だろうと思い、題名を頭に刻み付けた。そして医者に行ったついでに図書館に寄って借りてきた。
先月から体調不調で、週に1回は医者に行く。家にいても歩いても、痛いのは変わりない。

書名 著者 出版社 ISBN 初版 価格
傷つきやすいアメリカの大学生たち
大学と若者をダメにする
善意と誤った信念の正体
グレッグ・キアノフ
ジョナサン・ハイト
草思社 9784794226150 22/12/05 2800円

冒頭、目次の次に「はじめに」とあり、
 ・人生は困難に挑むべきか避けるべきか、
 ・感情で動くべきか否か、
 ・世の中は善人と悪人に二分されるか否か、
この三つをどう考えるかと言う問から始まる。
おお! 面白そうだと思って読み進む。


現代は多様性(ダイバーシティ)を認めるのは良いが、行き過ぎるところもあるのではないかとある。なるほどなあ〜と思って読み進めるうちに、何だか雲行きが怪しくなってくる。
お話は論理を進めていくのではなく、水面に漂う花びらか、ブラウン運動のように進むというより彷徨い漂っていく。

ハテナ ハテナ ハテナ
ジジイ

いろいろな事例をあげて、どうだ、どうだと読者に語り掛けるのだが、私の頭の上でハテナ?マークが点滅する。
いったいどこに向かうのか?

何事かを他人に説明するとき、自分が考えた順序とか体験した順序とおりに話しては、時間ばかりかかって情報を正しく早く伝えることができない。

具体例として会社で品質問題が起きたとしよう。

こういう問題が起きた。担当である私は、不良対策としてひとつの方法を試みたがうまくいかない。それで専門家に相談して彼からアイデアをもらって試行したがそれもうまくいかない。
更に検討を重ね苦労した結果、やっと解決策が見つかった。それがこれです……

このような流れで語っては、既に聴衆は居眠りしている。
そういう流れでなく、余計なことは切り捨てて単純明快に語ろう。

こういう問題が起きた。不良対策を検討した結果、この方法が最善であることが分かった。これを実行しましょう。詳細は別紙参照のこと。

これで必要十分だ。これって当たり前だよね。
人は皆忙しい。だから結果、結論をまず言う。そうしないと嫌われるよ。

この本は前者の書き方をしている。この本はいろいろ事例を挙げて、自分が体験したとか苦労したとか、文字数ばかり多くまとまりがない。

全体が構造化されていない。それで例えばだいぶ進んでから前の方で挙げた事例を引用していると、何十ページも前に戻ってその事例を読み直す必要がある。実を言って幾度も引用する事例や図表が多々あるから、事例や図表が何ページにあるかメモしておいて、引用されるたびにメモをみて、そのページを参照しながら読んだ。そのメモはA4で1ページになった。

いや真面目に読もうとしなければ、そんな手間をかけず、すぐさま本をほうり投げればおしまいだ。


ともかく内容が難解というより、構造化されてなく更に冗長な文章を読み通すのは、かなりの忍耐が必要だ。この本に努力して読む価値があるのかといえば、前提条件というかアメリカと日本では状況が違うから、必要がなければ読むまでもない気がする。

それに正直言って80ページもある参考文献を除いても、380ページもあるのは長すぎだ。もっと書くべきことを整理して、筋道を整えて200ページにまとめれば、読みやすく分かりやすくなったと思う。それなら途中でほうり投げる人は減るはずだ。


さて、本の内容である。
まず私は正直言って、この本で議論しているアメリカの大学の現状やアメリカの家庭でのしつけなども知らない。だから大変だ!問題だ!と書かれても、異世界の出来事のようで実感がわかない。

書かれている例を上げると、スーパーの駐車場に停めてある車に11歳の女の子が一人いて大人がいない。通りがかった人が不審を感じ警官を呼んだというのがある(p.239)。そして戻ってきた母親がその後、児童虐待で呼び出されたとか…

日本でも炎天下に駐車した車の中に、乳幼児を放置して死亡したというニュースは多々見かける。しかしこの場合は炎天下ではなく、年齢も大きく、保護()した人が心配して声をかけると、窓を開けて母親が買い物しているから、戻るのを待っているのだと説明している。
日本人的感覚では、なにもおかしくない普通に見かける風景である。だが、アメリカ基準では児童虐待に当たり刑法犯になるそうだ。

著者はこれを過保護だと語る。確かにそうだろうが、日本ではありえないリアクションだから、それを妥当とか過保護だとか論じる資格がない。だって治安の情報とか、周りの人がどうしているのかも分からない。
アメリカではそうなのですか……と思うだけだ。


10代の子供が自転車で近所に行くのを親が心配する(p.234)、17歳の娘が心配で、ひとりでは地下鉄に乗せない親(p.237)。
いくつになっても子供は子供などと笑ってはいられない。親が死んだらどうするの?

食の安全の例として、ピーナッツの規制を取り上げて行きすぎだと語る(p.30)。
だが例に挙げたものを読んだ限りでは、これまた状況が分からないから判断はできない。

だけど日本も食の安全を取り違えているように思う。「こんにゃくゼリー」でのどを詰まらせた人がいるから、「こんにゃくゼリー」は危険だと言いだすのはどうだろう。「こんにゃくゼリー」より餅がより危険だし、餅よりパンをのどに詰まらせて死ぬ人は多い。

のどに詰まらせて死ぬランキングというのがある(注1)出典がはっきりしないが、これだと餅による死者は19名で全然実態に合わない。実際に餅をのどに詰まらせて亡くなる人は毎年300人程度らしい(注2)(2022-2023)。
「こんにゃくぜりー」による死者は4年間で22人(注3)とされている。
だが食物の誤嚥による死者総数は4,696人(2022)だった(注4)多くは年寄りだろう。
詰まらせた食品上位には、ごはん、パン、餅、飴玉などが並ぶが、お粥まである。主○連はお粥も禁止を叫ぶべきだ。
もう食べてよい物がない、すべてが危険だ()。

交通事故で亡くなる人は年間3,500人だから食品を詰まらせての死者4,696人は少なくはない。
のどに詰まらせたものを禁止するならば、お米も、パンも、パスタも、お肉も禁止するしかない。そうすれば、のどに詰まらせて死ぬ人は皆無になるだろうが、食べるものがなく生きていけない。

そんなことをするのでなく、食べ方を教えるのが第一ではないだろうか?
「こんにゃくゼリー」に限らず、パンだってご飯だって少しずつよく噛んで食べなさいという食育が大事ではないのか?
「こんにゃくゼリー、ハンターイ」と叫ぶ人の神経が分からない。


この本はそういった事例をいくつか挙げて、過保護は良くない自立させねばと……ああだこうだと議論が進むのだが、私はそのへんで話についていけなくなる。
なにぶんにも、語っている状況が私に身近ではない。

もちろん日本にも無関係でないこともある。似たようなものというかその前駆的なものとして、今日本ではハラスメントとかポリティカルコレクトというのが大流行である。もちろんこの考えもアメリカから入ってきたらしい。


注2:「ハラスメント」とは、いやがらせ、いじめなどを意味する。
それが権力ならパワハラ、(性差によるなら)セクハラ、客による嫌がらせ(カスタマーハラスメント)カスハラなどと使う。


注1:「ポリティカルコレクト」とは正しくは「ポリティカルコレクトネス」といい、「ポリコレ」などと略される。
元々は「政治的に正しいこと」と言う意味で、人種や性別や障害などによる差別的な表現を止めさせる運動・考え方をいう。
使っていけない言葉には、めくら、つんぼ、看護婦など多々ある。

確かに法に反するものや常軌を逸した言動・行動はアカン。私が子供の頃(1960年前後)は、小学校の先生がビンタするのは普通のことだった。今だって悪さすれば怒鳴るくらいは普通だろう。
会社で部下が大きな間違いをすれば、まずは注意、重なれば怒鳴るのもやむを得ない……と私は思う。

最近ネットで見かけたものに、納入されたものが現物違いだったので、客が大至急注文通りのものを納入すること、原因を調べて報告してほしい旨を、納入先の担当者に伝えた。もちろん怒鳴るとかでなく、ビジネスライクに平静に話したそうだ。誰が見てもまともな行為だと思う。

するとそれを受けた担当者は翌日、顧客から叱られた、カスハラを受けた、そのため精神を病んで(自己診断である)会社に行けませんと上長に電話したそうな。
商取引においてミスがあった、その処置対策と原因究明を要請されて、嫌な気分になり会社にいけないという。そりゃ単に人間として成長していないだけではないのか?
その上司は客先に、大変申し訳ないということと担当者を替えますとお詫びをしたとあった。
とはいえその担当者に、お前が悪いと言えなかったらしい。腫物には触れないのだろう。
これはカスタマーハラスメントなのか? その担当者のハラスメントなのか、グズをこねているのか?
理解できない老人は、ただ消え去るしかなさそうだ。

企業で懲戒というのは軽重いろいろあるが、これから懲戒処分はできなくなるのではないだろうか。
仕事でミスをして最も軽い訓告でも、パワハラだと言われご本人はメンタルを病んだのは労災だと訴えると思う。懲戒解雇なんてされたら、自分がしたことを棚上げして、PTSDになったとか言い出して人権弁護士の出番になりそうだ。

やはりネットにあったが、先輩が指導したら、上から目線で指導されたと上司に指導者を代えてくれと言ったそうだ。ならば先輩は後輩を名誉棄損で訴えるべきなのか?


日本でもそんなことが実際にあるのだから、日本より数年進んでいる()アメリカでは、本を読んでいる脇を通りかかった人が本の写真を目にして、気分が悪くなったからそういう本を読むなと要求したという。それが通用するのだろうか?
また講演や講義を聞いて、自分の主張に反するから感情を害した、気分が悪くなるような話をしてはいけないと大学に要求したそうだ。それが通ってしまうのだ。もはや学問はできない。

仮に「フランス革命では多くの人がギロチンで処刑された」と聞いて、気分が悪くなったと苦情を言われたら、「フランス革命では反対派はお星さまになりました」と講義するのだろうか?

そしていまアメリカでは言葉も暴力になったらしい。暴力の定義は拡大し、自分が気に入らないものすべてが該当するようだ(p.138)。
となると弁論部とかディベート部のメンバーは柔道や空手の有段者と同じく、一般人と議論してはいけないことになるのか?
大変だねえ()😮としか言いようがない。
いやいや、それは明日の日本かもしれない。


この本はアメリカの若い世代は、さまざまな危険から保護され過ぎて肉体的にも精神的にも弱体化したという。そして危険な外に出ず家の中でビデオゲームをするばかりと語る。
それを著者は「幼児化」と称している。具体的な特徴として
 ・仕事に就く
 ・車を運転する
 ・酒を飲む
 ・デートする
 ・性行為をする
そういったことがすべてが遅くなっているという(p.208)。

Z世代とか、iGenなど世代の特徴と考えるのでなく、今後はそういう時代になるのだということが問題なのだろう。


アメリカと日本は違うのかと言われると、アメリカに観光で行ったことは20年くらい前にあるだけの私は、違うかどうかまったく分からない。

ただ彼は、アメリカの10代の自殺率とうつ病率のグラフを基に、インターネット、スマホ、SNSの影響だと語っている(p.211)。
下は私が作った、アメリカの10代の自殺率と日本の自殺率を描いたグラフである。

日本・アメリカの10代の自殺率


注:下記出典を基におばQが作成。
・内閣府広報「人口推計(令和5年11月報)」
・厚生労働省「自殺の現状」
・アメリカについてはこの本のグラフから引用


著者は2012年頃から、アメリカの10代の自殺率が性別を問わず上昇していることを危惧している。私には2012年からより、2008年頃から増加しているように見える。
いやいや視野を広げて1999年から見れば、2008年頃が低かっただけと思うがどうだろう?

そして著者は、スマホが2007年に登場して、2012年頃に普及したことによると語る。
しかし日本の場合は男女ともにアメリカより自殺率が低いし、スマホ登場から増加しているとも思えない。日本の男子自殺率は、2004年以降ほんの僅か上昇しているが、アメリカよりはるかに低い。女性は2017年から急上昇しているがアメリカの女性よりまだ低い。
ともかく日米の違いを見れば、スマホの影響とも言えない。

グラフを眺めて考えると、2008年ならリーマンショックもあるし、全体的にはS$P500のカーブに似ているような気もする。
要するにSNSとかiPhoneと思うのは根拠が怪しい気がする。牽強付会と言ってはいけないか?


著者はスマホの普及、そしてSNSと画像編集機能の多機能化により、顔を美しく修正したものがネットにアップされるようになった。 スマホ その結果、顔の美醜、体のプロポーションによる差別化が心理的圧力になったという。どうもそうは思えない。
美醜の圧は日本の方が高いような気がする。いや日本ではブスと言われても、忍耐強いのか、あるいは自殺でなく引きこもりになるのか?
情報不足で何とも言えない。

本に書かれたアメリカの状況が事実か否か知らないし、アメリカの10代での自殺率上昇、うつ病の増加の因果関係も分からない。私は全く見当がつかない。
しかし既に日本でも大はやりのハラスメント、ポリティカルコレクトネスなどがアメリカ由来と思うと、遠からず日本もこんなになるのだろうか? それはうれしくない。

だが自殺率の推移でも、日本とアメリカは違う。これも本質的に何かが違うのか、それともアメリカより流行が後れているだけなのか、分かりません。



この本を読んで勉強になったことも多々ある。
PTSDという言葉は日本でも最近大流行だ。
PTSDとは明確な「心的外傷後ストレス障害」と言う病気で、「私は○○でPTSDになりました」なんて、簡単に言えないそうだ(p.46)。
それは常軌を逸した、戦争、レイプなどの体験で起きたレベルであり、死別、失恋、破産、離婚程度は対象外だそうだ。

同様にトラウマとは身体的ダメージを起こす物理作用を言うものだという(p.46)。
仕事でミスして上長に叱られた、先輩の指導するとき言葉が乱暴だ程度でトラウマとかPTSDは起きない。いや自分はなりましたというなら、それは別の病気だろう。


学校や社会が精神疾患を早期発見しようとカウンセリングなどの体制を整備すると、精神疾患があると考える人が増えるという(p.220)。
似たようなものにアレルギーもあるし、あるいは喘息も急増中だ。現在は発達障害と呼ばれるものが非常に増えている。昔は普通だとみなされていたのが、病気の名前が与えられ特別扱いされ支援が行われるから、病気が増えているように見えるだけっていう気がする。
喘息なんて対象となる基準が昔より明確に広くなっている(注5)それは喘息ではないとか我慢しろとは言わないが、現在が以前より悪化しているという認識は違うのではないのか。

著者は過保護によって、現在のアメリカのティーンエイジャーの精神的成長は遅くなっているという。
それは日本も全く同じように思える。
だが、「今の若いものは」とピラミッドに書かれていることと同じことではないかという気もするのだ。



また社会が問題を起こさないようにという圧を受けることにより、事なかれ主義となり、それは発展を抑圧すると語る。
これは納得してしまった。というのは私の住むマンションでことあるごとに安全サイドにどんどんと偏っている。中層マンションで外廊下(開放廊下)だから、飛び降りようとすれば飛び降りできる。まあ普通はしないだろうけど。
だけどそのリスクがあるから、手すりの高さを天井まで伸ばそうという声もある。それならベランダも上まで伸ばすのか?
悪いことではないが、それは必要かと疑問に思う。言っちゃまずいのか知れないけど、何事も費用対効果だ。
ちなみに日本ではマンションの窓やベランダからの落下死亡事故(自殺を除く)の件数は、年4〜5件だそうです。
まあ裁判などを考えると1戸数十万かけても……となるのでしょうか?
こんにゃくゼリーは禁止できても、マンションの外廊下は禁止できないか?😁
いずれにしても面白みのない世界になりそうだ。



本のまとめは、たくましく育てることとあり、具体的には
 可愛い子には旅をさせよ
 感情を抑えること
 善悪の境界は人間の心の中にある
 間違った考えを見抜き立ち向かう
 スマートフォンの使用時間を制限する
 奉仕活動や就労の重要性
を上げている。特段目新しいものはない



ぬれ落ち葉 本日の状況報告

もうひと月くらい帯状疱疹のせいでフィットネスクラブにもいかず、自宅でゴロゴロしている。体が神経に沿って痛むのでイライラして、同じ姿勢を長く続けることができない。それでデスクトップパソコンに向かうにも椅子に座ってもじっとしていられない。

それではと横になってChrome bookを抱えて小説を読もうしたが、ノートと言えど結構重い。いやスマホだって横になって手で持って使おうとすると手が疲れる。
最後に残ったのは紙の本である。本を手にしてゴロゴロしていると、200グラム弱のスマホより、なぜか200グラムの本が軽く感じる。居間で横になって読むには紙の本が最適だ。

病院に行ったついでに図書館から借りてきた本が三冊あるので、それを片づけようとしたのである。
とりあえずこの1冊は片付けた。今机上にあるのは「初めての人の簿記」「イチバンやさしい簿記入門」の二冊である。私は生れてから簿記など習ったこともなく、必要に迫られたこともなかった。だが死ぬまでに複式簿記なるものを理解せねばならないと、簿記の本を借りてきた。何事でも知ろうとすると入門書を5冊読めば何とかなるというのが私の経験則だ。

「傷つきやすい……」は…まあ、中身は面白かったっが、非常に回りくどい文章と構成が良くない。自分が小説でなく、報告など重要なコミュニケーションにおいては、結論を明確にして最初に伝え、苦労話などはいらないということだ。先生にそう習うより、この本「傷つきやすい…」を読むほうがためになった😛
せめてそう考えないと元が取れない。





注1
ハートページナビ のどに詰まりやすい食べ物ランキング
内容的には他のデータと異なり信頼できない。

注2
注3
注4
注5



推薦する本に戻る

アクセスカウンター