最近はISO認証に関するニュースもなければ論文もない。
そういうと「証拠は?」といわれるだろうから、一つの例を上げておく。
日本の論文データベースであるCINIIで、「ISO14001」とか「ISO9001」で検索して、ヒットした論文の数は次の通り。年はその年に登録されたことを示す。
データベースは常にアップデートされ、削除されるものもある。だから2000年に登録された数が今あるわけではない。
特に流行の過ぎたものは登録から外すようだ。だから現時点検索しても古い年のものは件数が減っていることが多い。
上図を見るとISO9001のピークは2001年、ISO14001は2000年である。ISO規格と認証の論文の流行は、2008年頃に過ぎたようだ。ISOは流行だとは言わない(笑)。ISOの論文は流行だったと言ったのだ。
あれから17年、もうどこの企業もISO認証なんてしてない・・・・・・ということはない。
ISO認証件数の推移は下図のとおりである。減ったとはいえ、まだピーク時の半分はある。
上図からISO9001の認証件数のピークが2006年、ISO14001が2008年で、2025年現在では、ISO9001は最盛期の51%、ISO14001は60%まで減った(2025.11.23時点)。
論文のピークが過ぎたときに認証件数はピークとなり、以降は双方とも20年間近く、減るばかりである。
論文と認証数のピークのタイムラグは約6年、この差は何だろう。
ところで認証件数といっても、それは雑多な業種の集まりであり、一様な性質ではない。
ISO9001も14001も当初、欧州へ輸出している企業が認証し、その後、製造業全般に広がり、それが一段落した後に非製造業に、そして建設業に広まっていった。
欧州へ輸出していた企業は必須だったが、それ以外の企業は箔をつけるためだったと思う。必要というなら、なければビジネスに支障が出るはずだ。
建設業の場合は、ある意味外部要求であった。21世紀初め東京都や国交省が入札の取引先評価でISO認証していると加算点を付けた。このために建設業の多くが加算点欲しさにISO認証に走った。
建設業とは、家やビルを建てるばかりではない。一定金額
それで商社や代理店、また製造業のほとんどは、建設業の許可を持っている。販売店も持っているところが多い。
業種ごとの認証件数の推移を見ると面白い。その業種特有の事情があって認証し、認証返上するという流れが見えてくる。
大分前に「大学のISO14001認証件数の推移」、「その2」というのを書いた。
後者を書いたのが2021年だから、その後を書いても良い時期だろう。
今回は行政機関のISO認証について考える。
考えると言っても、頭を絞ったという意味ではなく、妄想したということだ。
始める前に定義というと硬いが、言葉の意味を決めておく。
自治体のISO認証を調べようとしても、簡単ではない。自治体は、ISO認証の分類番号
それで自治体だけデータを取ろうとすると、ひとつひとつの認証主体と認証範囲を調べる必要があり、更に該非の判断に迷うものが多い。
よって、対象を分類番号36を含むものと決めた。
「含むもの」とは公共行政といっても、それ以外に、27給水(水道事業)、24再生業(ごみ処理)などの事業を認証範囲に含めて、複数の業種で登録しているからだ。
企業の場合でも、製造と販売とか修理など、複数の分類に関わることは普通だ。ISO認証の分類番号は認証範囲であるから、定款とは異なる。
次に考えなければならないのは認証件数である。
認証件数ではっきり分かるのは、現時点のJABのウェブサイトにアップされている数字しかない。JAB認定を受けていないノンジャブの認証機関や、JAB認定が要らない組織は捉えようがない。
年に一度、JABから「マネジメントシステム認証件数」という資料が公表されます。これにはノンジャブも入っているが、認証機関毎、認証規格毎の数字はあっても、業種毎の数字はない。
過去の登録件数を知りたくても、ISO認証年鑑なんてものはありません。JABも過去の登録数を公表はしていません。JABに問い合わせても教えてくれないでしょう。
古いアイソス誌をめくっても、末尾に月次の登録件数は載っていますが、分類番号毎はシエア10位までで、それ以下はその他で合計のみ。
過去の研究論文などを漁って、表の空白を埋める数字を探すしかありません。ところが研究者によってJABだけか、ノンジャブも含むのか分からないので、もう大変。
まあできるだけはしたという感じです。
そういうことを前提に、まとめたものを見て時間つぶしをしましょうということです。
そういう条件下で、なんとか行政区分のISO認証件数を集めて作ったのが下図です。
誰です、大学の研究にとか、お金になるかなとか思っている人は?
こんなことが金儲けになるなら、とうに私がしてますって。
まず上図のグラフはISO14001認証総件数、行政機関の認証数、教育機関の認証数を示します。いずれもピーク時を100%として推移を示しています。
総認証件数のピークは2008年の20,777件、行政機関は2004年で510件、教育機関は2009年で49件です。ピークの高さは同じですが、行政機関は全体の2%、教育機関は0.2%となります。それを頭に入れておいてください。
認証件数は、(総数)>>(行政機関)>(教育機関)で、少数になるほど1件の増減がグラフに及ぼす影響が大きく凸凹(ゆらぎ)がでます。教育機関のグラフの2020年以降凸凹が目立ちますが、数字の増減は3件くらいです。
反対に数が多ければ大数の法則で、グラフは滑らかになります。
全体の傾向として、どのグラフも認証が始まると急速に上昇してピークに至る、そしてピークは2〜3年横ばいして、それ以降は増加時より緩やかない傾斜で減少し、ある程度のところまで落ちると、そこからはさらに減少が緩やかになり長期間続く、そんな風に見える。
ではグラフを見て、気になること、不思議なこと、面白そうなことを考えよう。
まず認証件数の立ち上がりだが、全体の立ち上がりより行政機関が早いというのはなぜだろう?
ISO14001は1996年12月に制定された。
現実には1996年認証を
それにどんな意味があるのかといえば、ないように思う。
他より早いことが生きがいとか誇りの人だろうと、生暖かく見守ろう。
私がISO14001認証に関わったのは1997年からだった。それまでISO9001を自分のところで認証してから、関連会社の認証支援をしていた。
田舎だから情報が少なくISO9001も14001も周りの企業と認証について情報交換していたが、その中に行政機関はなかった。まあ、行政機関は総数の2%だから、近隣数社と情報交換したところで、その中に行政機関がない方が確率は高い。
当時、私は自治体がISO認証を受けると聞いて、意味が理解できなかった。それは今も同じだ。
自治体とは地方自治法という法律によって、組織の設立も組織がすべきことも定められている
どうしても認証したければ、法律で定められた既存の仕組みを見せて審査を受けるべきだ。
もし、それにいちゃもんを付けられたら、国家の法を否定するのかと・・・・・・いや、どう考えても認証を受ける意味はない。
住民は無用なISO認証は税金の無駄と、首長や議員を背任罪で告発あるいはリコールすべきではないのか。
何が悲しくてISO認証なんてするのでしょうか、それは30年前から疑問でした。
注:「何が悲しくて」とは悲しさとは無縁である。それは「なにが理由でこんなアホなことをするのか」という怒りというか不満の表現です。
なおGoogle翻訳では、「何が悲しくて」を「unfortunately(残念ながら)」と変換しました。
意味はそうかもしれないが、ニュアンスは全然違うだろう。何が悲しくて残念ながらなんだ!
ところで自治体のISO14001の認証範囲というと、初期的には建屋管理がほとんどだった。だから認証するのは、いとやすし。
建屋管理とは、文字通り建物の維持管理、省エネ、植栽の維持、廃棄物の管理である。そこで行われる議会の決議とか行政サービスの執行は認証範囲外なのである。
そんな認証は、住民の税金を使ってすることじゃないだろう・・・と思いませんか?
ISO認証しないと、市役所の、雨漏りの修繕、無駄な照明を消す、ごみの分別を守る・・・そんなことができないのか?
蛇足であるが・・・このうそ800そのものが蛇足であるが・・・20世紀に認証した非製造業や、製造業の本社の認証は、ほとんどが本業を除いた建屋管理だけだった。
本社がISO14001の認証を受けたと言っても、ビジネス・マネジメント、アドミニストレーションを含めたところはなかったと思う。それを含めるようになったのは21世紀になってからだ。
注:managementというと管理のニュアンスで、企業経営を意味するにはbusiness managementというらしい。
私は一度だけ認証範囲を、建屋管理から本業への見直しを担当したことがある。大変だったかというと、全然大変ではなかった。
企業は事業を継続するために必須な機能(業務)は決まっていて、ほとんどの企業は仕組みの中にその機能を備えている。
ISO14001の要求事項の、方針、目標展開、教育訓練、文書管理、監視測定、見直しなどはどんな組織でも必要条件だ。だからあるがままを見せれば、まず問題はない。
環境側面とか法規制の把握なんて仕組みがなければ、会社は動かない。もちろんそんな名称を使っていた企業は皆無である。
あるがまま見せても、審査員が規格と経営を理解していれば問題はない。もちろん環境側面という言葉を使っていないから不適合なんて言う審査員ではだめだ
理解できない審査員ならチェンジで良い。審査員に合わせて説明したらたまらない。こちらがお金を払っているのだ。
話がどんどんズレているようだが、心配は無用だ。
多くの自治体の認証が建屋管理だったからこそ、長続きはしなかったのだろうと思う。ほとんどの自治体は6年から9年で認証返上している(注6)。
想像だが6年(更新審査が2回)も認証していれば、建屋管理だけではオママゴトと認識したのだろう。ならば建屋管理から一歩進んで、本業を取り込もうとなるが、そこで誰でも気が付く。それは元からしていたことじゃないかと。
それなら、わざわざ認証を受けることはない。
2000年頃に認証した自治体は2006年頃から認証返上を始め、ピークの頃に認証した自治体は2016年には認証を止めた。ただそれだけのことだ。
グラフからそう読める。
そして「自治体と書いて前例踏襲と読む」くらい、前例を尊ぶところだ。ISO認証しようとする自治体は、必ず先行事例を研究する。認証件数が最高時には、認証している自治体はひとつの県内に両手ほどあった。
当然、新たに認証を考えている自治体は、先行自治体を訪ねメリット・デメリットを調べただろう。
そもそも認証の意味、すること、費用、効用、仕事量などをヒアリングすれば、認証すべきか・すべきでないかは、教えてもらえる。
2006年以降はどんどんと認証返上している時期だから、それを知りながら浪費に飛び込む自治体はなくなったのだろう。
それでも認証しようとするなら、まさにカモネギである。
以上が、自治体の認証の顛末の私の解釈である。
ひとつお断りというか注意を申し上げておく。
ISO認証して5S良くなった、節約が進んだと、したり顔で語る経営者とかISO事務局がいる。
勘違いしてはいけない。それはISO14001のおかげでなく、普通の社会人として当たり前のことだ。
省エネしましょうなんて、お金を大事にすることでしょう。ごみの分別は自治体が指導しているし、自治体のルールを守らないといけない。
要するに当たり前にすべきことを今までしておらず、ISO認証を機に注意喚起、指導の強化をしたに過ぎないじゃない。
ISO認証で物を大事に使うようになったとは、今まで悪かったということだ。
恥を知れ。
冒頭に挙げた認証件数推移の図を再掲する。これを見て考えよう。
緑の破線は認証全体、茶色い線は教育機関、青い線は行政機関である。
茶線と青線は、横幅と傾斜は違うが形が似ている。立ち上がりと立ち下がりはほぼ対称で、一定点に来ると減少傾向が緩やかになる。
緑破線は立ち上がりに比べて立下りの傾斜が非常に緩やかで、変曲する位置も非常に高い、更に違うのは変曲後の傾斜がとても緩いことだ。
私の主観であるが、立下りが立ち上がりと同じくらいの傾斜ということは、認証返上に抵抗がないということだ。柵というと変かもしれないが、認証を止めても困ることがない、あるいは認証を継続する力が小さいと言おう。
自治体の顧客は当たり前だが住民だ。住民は行政がISO認証することによってサービス向上とか、コスト低減がないなら、止めてもらった方が良いのは当然だ。
教育機関・・・具体的には大学がほとんどだが一部高校もあった・・・学校は「当学院はISO14001認証です」という宣伝が受験生募集とかブランドイメージ向上に役立つだろうか?
皆無ではないだろうが、企業ほどではない。その理由は認証による効果のフィードバックが企業より明瞭だから。というか取るべき指標が限定されている。
主たるものは入学希望者の増減と大学のブランドイメージだろう。
ISO認証によっての効果は、過去にいろいろ報告がある
大学と自治体を比較すれば、大学以上に自治体には柵はないと思える。大学では不特定多数相手に認証の効果を考えなければならないが、自治体の顧客は明確に定義でき、その効果も住民が認識し評価できる。
認証返上への抵抗あるいは容易さは、減少傾向に現れていると考えられる。
大学の認証件数の減少よりも自治体の認証件数の減少の傾斜は大きい。これは自治体においては、認証を止めることへの抵抗が小さい証拠だと言えるだろう。
グラフを見ると総認証件数はピークからの減少が緩やかであり、変曲点(ピークからの減少)が止まったのが60%と高いところで、それ以降の減少が極めて小さいという特徴がある。これはどういうことか?
それは企業の場合取引先との関係、顧客の評価が把握できない状況から、危うきに近寄らないということだろう。
次にもう一つのグラフをあげる。
前出のグラフに建設業の認証件数の推移を灰色の線で加えたものである。
建設業においてISO14001の認証が流行り出したのは、行政機関や教育機関より10年遅れている。それは認証のトリガは、東京都や国交省の入札時のメリットによるもので、2000年以降だからだろう。
そしてその認証件数の低下もピークの時期が長く下りの傾斜も緩いということは、認証はメリットになる、もしくはメリットがあると期待される状況だからではないか。
不思議だと思ったことは、これで終わりではない。
市町村の中には、域内の企業がISO認証すると補助金を出すところはいまだに多い
市町村本体が認証返上しても、税金を使ってまで域内の企業に認証しろとはなぜなのか? 不思議である。
そう言や、極め付きは環境省だ。環境省も以前はISO14001認証していたけど、既に返上した。しかし今もISO14001認証を勧めている・・・
ここで取り上げた『ISO14001認証返上に関する自治体アンケート
要するにISO14001なんてものは登場から干支の一巡で、既に寿命が尽きていたのだ。それから更に干支が一巡した今、ISO14001とか、その認証の意義を考える意味はないのだ。
私も引退して早12年、今更語ることもない。
だが絶対にやりたいことは、ISO審査でうそ800を語っていた審査員と認証機関の代表に「大変ご迷惑をおかけしました」と言わせたい。
環境目的と目標の二つのプログラムが必要、環境側面決定はスコアリング法以外不適合、方針に「枠組み」という語句がないから不適合、そう語る審査員たちと20年間戦ってきた、私の願いだ。
| 注1 |
建設業法第3条第2項 建設業法施行令第1条の2第1号 500万円以上(建築一式の場合は1500万)の工事 | |
| 注2 |
複数の市町村が共同で、水道事業を運営するために設立された法人。 ひとつの市町村では高額のため対応できないとか、水のように利害関係が絡むものなど、共同で運営することが効率的なものに自治体が共同で対応するもの。 水道だけでなく、消防組合、廃棄物処理などもある。 | |
| 注3 |
IAFの「QMS 及び EMS 認定範囲のための IAF 参考文書」で業種区分が決められている。 認証する認定機関と審査員は、審査する区分の認定を受けていなければならない。 番号は1農業・林業・漁業、2鉱業・採石業から39その他の社会的・個人的サービスまで分類されている。 | |
| 注4 |
自治体の運営を決める法律は、地方自治法だけではない。 財政に関しては、地方財政法、地方債法、公金管理法、運営についは、地方公務員法、手続きには行政手続法、個々の業務については消防法、児童福祉法、生活保護法、公職選挙法などがある。 | |
| 注5 |
ISO規格では「規格の用語を使わなくても良い」と書いてある(ISO14001:2015 Annex A.2)。 ISO用語と会社の言葉のインターフェイスとしてマニュアルがあるのだ。 | |
| 注6 |
・『都道府県EMSの推移・取組に関する研究』 | |
| 注7 |
大学がISO14001認証によっていかほど効果があったかは、いくつか報告(宣伝)事例がある。 しかし入学願書が増えたというものは見かけない。 節電、節水の効果をウェブに載せていた大学はあったが、それがISO認証効果かといえば違うだろう。認証しなくてもできるはずだ。 近隣との共生というのもあるが、具体的指標で示した証拠もない。 概ね認証の効果はない。言い換えれば認証を止めることへの抵抗がないといえる。 | |
| 注8 |
一例を示す。 ・東京都 東京都中小企業振興公社 ・高崎市 ISO等認証取得補助金制度のご案内 ・島根県 しまね産業振興財団 ・藤岡市 よく見ると各県でしているようだ。 | |
| 注9 |
・ISO14001認証返上に関する自治体アンケート | |
| 注10 |
・市町村によるISO14001取得要因の実証分析 |
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