昔、ファミコンのディスクシステムで『きね子』というゲームが発売されていた。正方形の絵の欠片をつなぎ合わせて、大きな一枚の絵を作るゲームだった。もちろんそれだけでは子供のおもちゃ以下でしかない。そのゲームの肝は、その絵が動いていることだった。一見ふざけた名前も、実は「キネティック・コネクション」の略だった。『きね子』は比較的売れたらしく、続編の『きね子2』も発売された。
『オリビアのミステリー』は、メーカーこそ異なるが、パズル部分についてはその流れを正当に継いでいる。4×4ピースから8×8ピースまでの正方形パズルで、絵は単純な繰り返しのアニメーション。本物そっくりのダミーパーツが混じっていて、折角正しい場所に運んでも置いた途端にぽん!と爆発、というフィーチャーもあった。わりと難しく根気が要るが、好きな人には楽しいパズルだった。
それだけでは『きね子』と変わらないが、『オリビアのミステリー』は単なるパズルではなく、ストーリー仕立てになっていた。文章量は絵本に毛が生えた程度で、一定量の文章が進んだところでパズル部分が挿入される。プレイヤーはパズルを完成させて、文章にいわば挿絵を添えることになる。説明書には「文章から情景を想像して、パズルを完成させましょう」という記述があった。洒落た趣向だ。と言ってもいい。んじゃないか。と思う。
歯切れが悪いのは、この物語がよくも悪くも奇天烈そのものだからだ。説明書のプロローグには
皇帝の娘を助けなければならない。そう思い込んだ男が、冒険の旅に出る。
とだけある。実際の物語は水道局の給水塔の爆発事件から始まり、給水塔によじ登るが修理できず→周辺の水不足→帝国の姫君が水を口にせず→主人公水を求めて人間大砲の弾に志願→飛びすぎて宇宙へ→月世界で水を汲む→なんとか帰還→姫君病気に→薬を求めて東方へ→……と、荒唐無稽なストーリーが展開される。文章から情景を想像するのは、ちょっと無理だ。
そして、使われているイラストの出来。いろいろなところで語られているから、御存知の方も多いことだろうが、絵を組み上げるゲームなのに、このゲームで使われている絵の質は「お世辞にも高いとは言えない」――多分、これでもほめすぎだろう。見たことのない方は、是非見て欲しい。
→『オリビアのミステリー』パッケージイラスト
すっかりクソゲーの評価が定着してしまったこのゲーム。だけど、悪い面ばかり強調されて遊んでいれば、ほんとにひどいゲームに見えてくるのも事実だ。先入観無しにこのゲームで遊んだ人が、どれほど居たんだろう。
確かに奇天烈だけど、破綻はしていないし、決して先を読ませない物語。
大仰な音と微妙に外れてるリコーダーが耳に残るタイトル画面、綺麗なメロディとヘンテコなベースラインが病みつきになる1面など、好い曲揃いの BGM。
イラストだけは弁解のしようがないと思うが、前述したようにゲームも楽しかった。ここまで酷い扱いを受けるべきゲームだとは、おれには思えない。
もちろん、手放しでほめる心算もない。ちらちら動いて判りづらいイラスト、ストーリーに分岐がない、面数が少なくてすぐ終わってしまう、など、不満点もいくつもあった。ただ、それを加味しても、おれはこのゲームが好きだった。同じように感じた人も、特に当時は、結構居たんじゃないかと思っている。
最後に、気になっていることをひとつ。
『オリビアのミステリー』は、実は「ウゴクエver.1.1」と題した PC-9801 版が発売されている。パッケージイラストは見事に差し替えられ、綺麗な洋服をお召しになった可愛いお姫様が描かれていた。「これがあれか?!」見た時は驚愕したものだったが、98 も持っていなかったし、まさかそれだけで買うこともなかった。しかし、あのパッケージイラストだとすると、ベタ移植ではおそらくあり得ない。最低でもイラストは変えられていたことだろう。一体どんな風に変わっていたのか。検索をかけても、殆ど情報は見つからない。
このゲームについては、おれはほぼ“消化”してしまった。もうあまり遊びたいとも思わないし、少しくすぶってたもやもやした思いも、大体この文章を書くことで吐き出してしまったと思う。だけど、ただひとつそれだけが気になることが、未だにほんの時々ある。