本格的にゲームセンターに通い始めたのは、1987 年の春だった。当時はファミコンの全盛期で、アーケードゲームと家庭用ゲーム機の間には歴然とした性能差があった。操作系も、サウンドも、グラフィックも。ゲーセンのゲームは凄かった。ファミコンとは、わけが違った。
ちょうどその頃、『R-TYPE』は発売された。
発売元のアイレムはそれまではどちらかと言えば地味なメーカーで、『ロードランナー』シリーズなど、アクションゲームを得意とする印象があったが、『R-TYPE』は横スクロールのシューティングゲームだった。
初めて見た時の衝撃は忘れられない。学校の近くのゲーセンで、見知らぬ上級生が座ってプレイしているところを、筐体の反対側から(そう、まだ当時はテーブル筐体も少なくなかった)見たのだが、細部まできっちりと描かれた背景の美しさは、他のゲームとはひとまわり違った。ちょうど1面の後半、二足飛行メカが出てくる直前だったのだが、おれは自機の上下にあるアームが動き出すんじゃないかと心配でならなかった。ご存知の方も多いだろうが、それは単に地形の狭くなっているところであって、決して動きはしない。おそらく当時、ただの壁をそこまで細かく描写したゲームは、他にひとつもなかった。
パワーアップも衝撃的だった。基本的に、自機「R-9」本体はスピードが上がるだけで、それ以外の能力は上がらない。その代わり波動砲による「溜め撃ち」が可能で、R-9 単体でも強力な攻撃ができる。
それとは別に、「フォース」(=「共生体」)というものがある。これはパワーアップ・アイテムを取ると出現する、最初は自機の半分程度の大きさの橙色の玉で、アイテムを取るごとに三段階で大きくなっていく。
フォースは自機の前部または後部に装着することができ、二段階以上の大きさの場合には装着している方向にレーザーを発射できる。これは最後に取ったアイテムの色によって、「対空」「反射」「対地」の三種類に変わる。
また、フォースは切り離しボタンで分離ができて、その間は通常弾を発射する。これは大きさによって1方向、2方向、4方向、と増えていく。それと、フォースそのものにも攻撃力と防御力がある。耐久力のない敵は触れただけで倒せるし、通常弾を防ぐこともできる。
複雑だが感覚的に理解しやすく、それでいて前後の着け替え・レーザーの種類の選択・要所で使う切り離しのタイミング、などゲームとしての面白さを増すことに直結していた。いいアイデアであり、洗練されたシステムだった。
各面の個性もはっきりしていて、それだけで先を見たいという気を起こさせた。1面は比較的大人しい要塞内部だが、2面は得体の知れない甲殻類の住み着いた洞窟で、3面には早くも巨大戦艦との対決が待ち受けていた。正味の大きさだけでまるまる2画面分ほどある戦艦との対決に、1面全部を使ってしまう大胆な手法と、戦艦そのものにつけられた様々な攻撃を仕掛けてくる細かい装備とは、『R−TYPE』そのものを象徴していると言ってもいいだろう。その後も、荒廃した都市、きのこの森、コンテナ・パイプライン、要塞廃墟、……と魅力的な面が続いていく。
難易度はそれなりに高いゲームだったが、並の腕でも頑張れば8面まではクリアする、つまりエンディングを見ることができた。こつはただひとつ、「対空レーザー」を使い続けることだ。ほんのわずかの例外を除いて、対空レーザーこそが明らかに最強の武器だった。
8面までクリアすると、ゲームは1面に戻るのだが、敵のスピードは飛躍的に上がり、また固い敵の耐久力が圧倒的に高くなる。当時の腕のいいゲーマーにとっても、充分歯応えのある難しさだった。この「二周目」をクリアすることで、戦いは真の終焉を迎えるのだが、それを拝めるゲーマーは流石に多くはなかった。
おれは今でも、このゲームを見ると、時間さえ許せばついコインを入れてしまう。全盛期には二周目の5面まで辿り着いているが、それより先は今からではとても無理だし、やろうとも思わない。一方で一周はしているから、もうエンディングは何度か見てしまった。達成のモティヴェイションは、もはや皆無といっていい。なのに、台の前に座ってしまう。R-9 を動かしたくなる。
おれにそうさせるのは、絶妙なバランスが――システムとデザインの、あるいは斬新さと手堅さの、難しさとやり応えの、そして大胆さと緻密さの――生んだ、このゲームだけが持つ輝きだ。発売当時のおれには、そこまではわからなかった。だけど放たれていた何かは着実におれの内に届き、今でも確かな光を発し続けている。