変形メカというのは、実用的にはおそらく殆ど意味がないと思う。万能の汎用性を持たせることは不可能だし、汎用目的でデザインされたものは、特定の用途においては専用にデザインされたものに敵わない。まして、その汎用性の持たせ方に無理があるとなれば、これは使い物にならないと言ってもいい。
だが、ゲームであれば話は別だ。汎用性は直接、どの場面でどの形態を用いるか、という戦略性につながるし、なによりいろいろな形態のメカを操っているだけでもそれなりに楽しい。そもそも、楽しさで言えば変形メカは非変形メカの比ではないのだ。
『ブレイクスルー』は、その変形メカを自機に据えた、大胆な横スクロールシューティングゲームだった。横スクロールシューティングは、マップをデータとして持たなければならない。PC-6001の少ないメモリでは、しっかりしたシューティングゲームは難しいと思われていた。それをこのゲームは、曲がりなりにも3面構成で、その上自機の三段階変形システムを搭載、という形で実現していた。
自機“トリゾイド”の変形は、はっきりアニメ『超時空要塞マクロス』を意識していた。二足歩行(バトル・スーツ)←→中間型(ホバークラフト)←→戦闘機型(インターセプト)、即ちそれぞれバトロイド、ガウォーク、ファイターだ。もっとも、メカの形そのものはそれほど似ているわけではなかったが。
ゲーム上の各形態(フォーム)の能力は、
となっていた。率直なところ、ひとつがやたら強くてひとつがやたら弱いのが一目瞭然だが、ともあれ好きなタイミングで好きな形態に変形できるのはそれだけで楽しかった。
変形操作もよくできていた。シフトキーでバトル・スーツとホバークラフトの切り替え、そしてホバークラフト時にZキーでインターセプトに変形、インターセプトからはやはりシフトでホバークラフトに戻る、となっていた。繁雑そうだが、ひとつあまり使わないフォームがあるとなると、これで充分だった。アニメパターンも凝っていて、くにゃりくにゃりと滑らかに自機の形が変わるのが素敵だった。
敵の個性が豊かだったことも、このゲームの面白さに一役買っていた。如何にも雑魚然とした二足歩行メカ、ジグザグに飛んでくるだけの戦闘機、空中を自在に飛んで射ちまくってくる二足メカ、2面以降に登場する厄介な海老型マシン。種類は決して多くなかったが、はっきり特徴付けられた敵と、各所の地形とが豊富な展開を生み出していた。バトル・スーツは基本的には強かったが、ジャンプでは届かない高さの地形や、明らかに地上を進む方が辛い場面などもあり、ホバークラフトにもそれなりに使い途があった。
1面が、結構難しかったのを憶えている。前半は簡単なのだが、後半の狭いところでやられてしまうことが多かった。確かコンティニュー・プレイができたのだが、なにしろ面の頭に戻されてしまうため、なんとしても1面はクリアしないことには先へ進めない。そこさえ抜ければ2面クリアはそれほど難しくもなく、最後の山場3面に突入する。この面は出だしの洞窟が難しく、中盤を抜けると最後は様々な敵の総攻撃になるのだが、広い空間があるぶん案外楽に抜けられることが多かった。
全3面をクリアすると、戦いは終焉を迎える。巨大メカの登場する、あっけなくどこか切ないエンディング。32KB を目一杯使った、ボリュームたっぷりのゲームだった。
このゲームで印象に残っているのは、敵機が時々自爆することだ。二足歩行型や海老型に多かったと思うのだが、こちらが何もしなくても壁に当たって爆発してしまうことがあるのだ。不思議なルーチンを搭載していたものだと思う。通常とは異なり、音もなく砕け散る敵機の様が、どういうわけか今もはっきり頭に焼き付いている。