ISO第3世代 86.上西進化する

23.07.10

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

前回のあらすじ
横綱 上西がやっと目覚めたというべきか、後がない休場どころか引退を突き付けられた横綱というべきか。
休場できないとなれば、しなければならないのは仕事である。まず本来課長の仕事である、外部からの発信文やメールの処理を始めた。大変だと思ったが、はっきり言ってそれもできなければいよいよ課長返上である。上西も真面目に取り組んでいる。
周りの人たちは、いつまで続くかと見ているが、さてどうなりましたでしょうか?


当初は上西に仕事は何日続くかという賭けさえ行われたのだが、予想に反して半月継続している。大穴を当てたのは石川であった。

上西が今まで担当していた田中から引き継いだといっても、元々磯原がしていた仕事量の半分にもならない。というのは工場や事業本部から問い合わせとか指導依頼が来ても、問い合わせや相談に対して回答を検討とか指導を計画するわけではない。すべて各担当に転送してお任せである。
要するにしていることはメールを見てその担当者に転送するだけだ。右手とマウスだけで済む、キーボードも使わない。 上西に引き継ぎをした田中も、これでは子供の使いだなと脇で見ていて苦笑いである。


磯原の半分、田中の7掛けくらいの仕事しかしていないが、半月もしてみればいろいろ感じるところもある。疑問点とか改善点などをまとめて、田中、磯原、柳田に集まってもらう。まあ環境管理課の顔役だろうと上西は思ったのだ。

上西 「お集まりいただきありがとうございます。
今まで磯原君や田中さんがされていた環境管理課宛のメールや公文の処理をしてみて、いろいろと考えるところがありまして、そんなことを話し合いたいと思いました。
私としてはこの仕事をもっと早く処理できるようにしたいというのが目的です。

今私がしているのは、単に廃棄物とか省エネといったカテゴリー分けして、各担当に転送しているだけで処理とまで言えません。今ほんの少しコメントを付けて送っていますが、だんだんと作業の方向とか重大性とか私が思った疑問などを付記したいと思っています」

柳田ユミ 「そうすれば皆のやる気が上がると思います。メールを転送された方々が、その重要性とか期限などをより明確にしてもらいたと思っているようです。
はっきりいえば手抜きでもよいとか、回答しなくてもよいというコメントもあると思うのです。この場で議論したことを、転送に付記するコメントに反映してくれると喜ぶと思います」

上西 「そのようにしたいと考えます。
ちょっとその前に、今入ってきているメールのカテゴリーを分けて、対応レベルを変える必要があると思います。
定例報告や工場の環境課長からの公式なものと、個人レベルの問い合わせや提言を一緒くたに対応するのもおかしい」

田中 「確かになあ〜、
それと私がしていたときに思っていたことですが、分かり切ったことは工場で対応あるいは考えろという回答もありだろうと思う。廃棄物契約書で委託内容がちょっと複雑なものだったが、その収入印紙金額はいくら貼ればよいかという質問を受けたことがあります。そりゃ環境課の仕事じゃないでしょうね。
工場の経理課とか資材課に聞けばよいし、それで分からなければ本社の環境管理課に聞くより、地元の税務署に聞いたほうが間違いない」

上西 「廃棄物の契約書ではありませんが、似たようなものは最近もありましたね。あれは……そうそう、自治体によって申請書類の文章が異なるので、会社規則にあるひな形が使えないからどうしようという話でした」

注:面白いというか面白くないことだが、市や県に出す書類の文体を指定される場合がある。
例えば「このことについて」とか「○○法何条何項の定めにより」とか、「願い出ます」と「申請する」とか、自治体によってこのように書きなさいというひな形がある。文章が違うと「あっ、こういう文章にしてください」なんて笑顔で言われる。
自治体によって違うから 面白い 面白くない。何か意味があるのだろうか。標準化の行き過ぎか?

柳田ユミ 「それならいっそのこと、環境管理課では課長の承認を得たメールしか受け付けませんとしたらいいじゃないですか」

磯原 「うーん、工場にいる者は情報がありません、どこに聞いたらよいのか分からないものは多々あるわけですよ。
先ほど例に上がった収入印紙金額は環境と関係ないですから、こちらに質問するのは筋違いですし、専門の部門に聞いたほうが間違いない回答を得られるでしょう。
でも環境に関しての疑問は、やはり問い合わせるのはここしかないと思うのです。

SDGsバッジ 例えば最近はやりのSDGsバッジの着用を、どう考えているのかという質問がありました。個人的に良し悪しを問うのではなく、工場長や営業部門の人が着用するならその予算を確保しなければならない、ということからの質問でした。
そういう問い合わせを受けるのは、この部門しかないでしょうね。
本社がSDGsバッジを付けろというなら、その予算を認可することになり、無駄な費用だと考えるなら付けるにおよばずと回答すべきでしょう。
何事をするにも先立つものが必要で、リソースを確保せずにはSDGsバッジさえ付けられません。

ですから環境に関することなら誰でも個人的にできる仕組みが必要だと思うのです。そういう質問をするにも、発信者が課長でなければだめということにもしたくないです」

注:SDGsバッジは2016年頃登場したが、世の中に広まったのは2017年頃、まさにこの物語(現時点2018)ときである。出始めは環○省の息のかかったところからしか買えず、お値段は1個3,000円とか4,000円もした。
後にはセカンドパーティーが現れたせいか、だんだん値段もこなれてきたが、当初は環境部門が購入して企業幹部に配るのが、費用や入手困難などから大変だと言われた。
こんなバッジでも数十個買うと、真面目に考えると固定資産になってしまう。消耗品としても償却年数を決めて……あほらしい話だ。
SDGsがいかなる効果を上げるかは知らないが、バッジの関係者は大もうけしたことは間違いない。SDGsに効果はなくてもGDPには貢献しただろう。これからGDPバッジと呼ぼうか?


上西 「以前から変だと思っていることがあるんですが、」

柳田ユミ 「なんでしょう?」

上西 「私宛てのメールアドレスが二つありますね。上西名義と環境課長の職制名です。私は上西名義を非公式な私信とか、プライベイトなメールだけに使っています。
しかし入ってくるメールは、業務上の連絡や山内さんや部長からのメールは、個人名のメアドに来ています。同じ方でもときにより上西名義とか職制名とかバラツキます。
職制名に来るのはワークフロー、上長決済のない問い合わせとか提案などですね。ふたつの区分がしっかりされていません。

改善案ですが、上西名義は完全にプライベイトとして、職制名アドレスは業務用のみとして課長が見る、一般的な問い合わせなどを別のメールアドレスにして、それは担当が見るという風にしたほうが良いと思うのです」

田中 「それは、良いというより当然だろうねえ。言い換えるとなぜ今までそうしなかったのだろう?」

磯原 「前任の鈴木課長は個人名のメアドだけを使っていたようです。職制名のメアドを全然見ておらず、問題になったことが二度や三度ではありません。
それで私がそのメアドを毎日見るようにしました。そこには個人的なものは全くありませんでしたから、業務上の連絡や通知はそれなりに処理しましたし、問い合わせや提案などについても私は対応しなければと考えましたので、それを処理するようになったというのがいきさつです」

柳田ユミ 「さすが磯原さんですね。磯原さんが来る前は、しょっちゅう連絡漏れとかで騒いでいましたから。まさに鈴木課長の面目躍如めんもくやくじょですね、アハハハ」

注:面目躍如とは、「評判どおりにめざましい活動をすること」であるが、ここでは当然 鈴木課長の評価が最悪であり、碌な仕事をしなかったという皮肉である。

田中 「メールアドレスの使い方について、会社の規則のようなものはないのかい?」

柳田ユミ 「ルールはありません。個人名はプライベイト用というのは当たり前のようですが、役職についてない人は個人名のメアドで仕事をしています。
但し庶務の場合は、課名と庶務を結んだメアドがあり、私の場合はkankyo-shomu@となります。これを業務連絡に使うことになっています。庶務の場合、異動があったりしても引き継いだ人が過去のやりとりを知れるようにです。

しかし役職についてない人は個人名のメアドで仕事をしていて、例えば磯原さんが課長になれば今まで業務連絡をisohara名で送っていた工場や事業本部の人たちが、すぐにkankyo-kacho@宛に切り替えるかというと、それはちょっとしないです。 これまた以前のものを見る必要もあるし変えるのが面倒くさいから、磯原さんが課長になろうと部長になろうとisoharaで送信するでしょうね」

会議

田中 「なるほどなあ〜、ともかく今まで私がチェックしていたのはkankyo-kacho@宛だけだ。uenisi名のメアドは当然私は見られず課長が見ていたわけだ。
それで課長の言うように、問い合わせや相談用の環境管理課宛を、別メアドにすることは可能だろうか?」

柳田ユミ 「もちろん可能ですよ。今なぜ環境課長のメアドに来ているかというと、工場や関連会社の人たちが環境課に相談したいというとき、一度でもあって名刺交換してないとこちらの方のメールアドレスが分からないわけですよ。課長は組織表にメアドが載ってますから、とりあえずそこ宛にメールするのでしょう。

ですから情報システム部に問い合わせ用メアド作成を依頼して、それをウェブサイトとか社内報とかに掲載すれば今後はそこに送ってもらえるでしょう」

上西 「そうするとプライベイトは別として、課長宛のものは半減しますか。環境課宛のメールはどなたかに見てもらうということでよろしいですか」

田中 「新しく作る相談用メアドに5割が行くとして半減。残り5割のうち業務上の連絡で課長がタイトルとか斜め読みで済むものが半分でそれはすぐに担当者に転送してくれれば良く、課長が考えなくちゃならないものは今の四分の一になるでしょう」

上西 「環境課長宛は、私不在の日は代行者、特に決まっていないけど田中さんが見るということにしましょう。ワークフローなどの処理が遅れては大変です」

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上西 「それからカテゴリー分けですが、廃棄物は増子さんで良いと思うのですが、公害といっても大気も水質も騒音振動もある。田中さんたちが来る前は、公害担当は私だったのですが、私は公害といっても何も知らず、すべて磯原君に頼っていたわけです。
これからは坂本さんにお願いするということでよろしいのでしょうか」

田中 「よろしいかどうか、課員の担当範囲は課長が決めることでしょう。
ただ現在の課の業務は廃棄物、公害が基本です。ですから長期的に見ればこの課の担当者が2名、課長含めて3名で間に合う。課長兼務なら2名です。というのは部下2名では課長はいりません。ひょっとすると課にするまでもないかもしれない。

それと坂本さんと私たちは短期的に環境管理体制の強化を図るという趣旨だったわけです。ですから基本、課長が公害関係を理解して課長兼務で業務を回すことが望ましいでしょうね」

上西 「それは理想だろうけど、時間をかけても私にはそのレベルにはなれないな」

磯原は上西の言葉を聞いて、最近は上西課長も自分の実力を認識してきたと安心した。とはいえできないと言われるとそれまた問題である。

田中 「私は来年から嘱託なりますが、それから2年はいるでしょう。坂本さんは社員が1年、嘱託2年でしょうから、その間に長期的な視点で人員計画もあるし、担当者の見直しも必要でしょう。
磯原さんはここに来てから苦労されて公害でも廃棄物でもISOでも、もちろん本職の電気もばっちりです。そういう人を工場から定期的にローテーションさせてここに置く、というなら何名もいりませんね。

あるいは工場の環境担当者のレベルが上がれば、本社にプロフェッショナルを置く必要はない。
全体の管理をどうするかという解はひとつではありません。大きな政府と小さな政府があるように、大きな本社と小さな本社いずれもありえます」

上西 「なるほど、勉強になりました。
今の話で思い出したのですが、ISO維持審査も間もなくですね」

磯原 「今10月、維持審査の日程連絡はあったのですか? 年内に審査しなければならないですからもう来てもよいはずなのですが」

上西 「えっ、見た記憶はないなあ〜
ところで磯原君が担当なんだね?」

磯原 「昨年は佐久間さんがいて担当されたのですが、今年はどうするのでしょう? これも課長が決めることです」

上西 「えっ、私は磯原君がすべて取り仕切っていると思っていたが、そうではないのかい?」

磯原 「私の仕事もどんどん変わりまして、自分が何を担当しているのかもはっきりしません。
まあ、昨年と同じでしょうから、ここの仕事は各部門に会社規則を守っているかということ、そして審査スケジュール対応で審査を受ける部門の責任者の予定をすることでしょう。あと費用支払いですか。
田中さんは認証機関からのメールを見てませんか?」

田中 「ISO認証機関からのメールですか? うーん……記憶にないですね。
上西課長になってからそんなメールが来てますかね?」

上西 「ISO認証機関からのメール……あったかなあ〜?
どんな形で来るのですか?」

磯原 「メール本文は『維持審査の時期になったので添付のとおり実施したい、内容確認して返事されたし』くらいですか。
添付資料がA4で3ページくらい、審査スケジュール案、派遣する審査員予定者の同意書、必要とする資料の一覧くらいですか。

通例では審査予定の二月前くらいにメールが来ます。遅くてもそろそろと思います。早めに本社・支社に通知をしておいたほうが良いですね。もう一度メールボックスを確認していただいて、通知が来ていなければ、私が電話しましょう」

田中 「審査対応となると磯原さんだけでは間に合わないだろう。私は今までISO認証に関わったことがないのだよ。できるなら参加したいな」

磯原 「私一人では無理ですね。現在は大きく省力化しましたから手間は少なくなりましたが、社内のアテンドでも審査員は何人もいますから一人では対応できません。
どうせなら新しく来られた方全員に説明して、少しずつ協力してもらうというのがよさそうです」

上西 「ともかく向こうからのメールだな、調べてみるよ」


*****

30分後、上西が磯原に声をかけた。

上西 「大変だ。先週に認証機関、ええっと品質環境センターというところからメールが来ていた。
聞いたことのない名前で、いつどの銀行に支払えとかあったので、詐欺メールかと思ってペンディングのホルダーに入れて忘れていた。今磯原君に転送した。
すぐに見てくれ。返事が欲しいと書いてある」

磯原 「了解しました。誰だって何百万も支払えってあれば驚きますよ」

上西 「スマン」

やはりというか上西だからというべきかと磯原は内心納得した。まあ、大した手間でもないしロスタイム1週間なら問題ないだろう……本当に1週間なのだろうかという不安はあるが……実際に見てみると10日過ぎていたが2週間よりは1週間に近いか(笑)



うそ800  本日の疑問

長らく足手まといだった人が、一瞬で並みの人になれるのかというご質問があろうかと思います。
まあ、ここは上西さんを責めるのが本意でもなく、立派になってほしいところです。
とはいえ認証機関からのメールが放置されていたこともあり、先々楽しめそうです。


うそ800  本日の成長?

自分が毎回書いているお話の文字数はいかほどか?
この物語を始めたちょうど1年前、6,000字に抑えると宣言しました。
実際はどうだろうと、直近の10話の文字数を数えると、最長11,700文字、最短7,050字、平均8,900文字でした。
全然だめじゃねえ〜か 😅
本日は頑張って何とか6,500字に止めました。まだ道は遠い。あと1割の努力



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