有益な環境側面(2025)

25.12.11

「有益な環境側面」といっても、今の人は知らないかもしれない。というのは、ISO認証件数が減少に入ってもう17年になる。だから認証を減らすまいと、審査員は偉ぶらなくなり、余計なことを言わず、不適合を乱発しなくなった。認証機関も、上から目線で応対することもなくなった。20世紀末を思うと、まさに隔世の感である。
当然のことに、審査員が客と議論することもなくなり、規格にないことで不適合を出すのはもういない・・・・だろうと期待する。

21世紀初頭においては、有益な環境側面は猖獗(しょうけつ)を極めた。例えるなら、コロナ(COVID-12)の大流行、台風が毎週(注1)来る、異世界ものなら魔物のスタンピードのようだった。
なにしろISO14001審査で「有益な環境側面がないから不適合」とか「環境側面を有益か有害か区別していないから不適合」という根拠(shall)不明な不適合がジャンジャン出された。

💭
困った
規格要求にないこと
を言われても困る

いや、中にはまっとうな判定をした認証審査員もいた。だがそれで無事だったわけではない。
認定審査で、認証(●●)審査員が有益な環境側面がなくても指摘を出さなかったことを、認定(●●)審査員が「ダメ」としたのを、その会社の人から聞いた。
認定審査員は有益な環境側面が必要と考えていたのだ。それが認定機関の考えか、認定審査員個人の考えかは知らない。

面識があった承認(●●)審査員がいた。彼はガチガチの「有益な環境側面教」の信者だった。審査員研修機関でどんな審査をしていたのだろう?


注記
認証(●●)審査員とは、認証機関が派遣して企業の審査をする一番身近な審査員。
認定(●●)審査員とは、認定機関が派遣する認証機関を審査する審査員で、企業で審査の場に立ち会う。
承認(●●)審査員とは、審査員登録機関が派遣する審査員研修機関を審査する審査員。


「有益な環境側面」という考えは正しいのだろうか? そんなものが存在するのだろうか?
規格にない要求事項を作って、審査で不適合を出すことは正しいのか、これは素直な疑問である。

私は某企業でISO認証の指導とか審査のトラブル対策をしていた。おっと、そんな仕事で一人分の賃金はもらえない。本業は環境監査であっのだが、ISO審査の種々のトラブルの相談と対策の指導もしていた。

本務でなくても、ISO審査でトラブルが起きれば、会社のロスである。審査員に「環境側面を有益か有害かの区別していないから不適合」と言われたと工場からヘルプがあれば、早急に何とかしなければならない。そういうことがしょっちゅうあった。

当時の状況を知らない人は、そんなのどうでも良いじゃないかと思うだろう。だが認証できるか、継続できるかというとき、それは笑い話ではなく、文字通りダンビラ抜いての真剣勝負だった。

泣く子と審査員に勝てないと、審査員様の言うまましていたら、会社の雑務は増えるばかり、多大なロスになる。
ISO認証にかかる費用は、審査料金よりも社内費用が5倍から10倍かかる。それをさらに増やしたくはない。


お断り、
ここではISO14001について語っているのであって、「有益な環境側面」とは、一般語(注2)の意味ではない。
そして私は有益な環境側面があると語ることを、禁じるとか処罰せよという気はさらさらない。

私はISO規格で定義する「環境側面」には、有益な環境側面はなく、審査契約書に「ISO規格に基づいて審査する」と記載してあるから、有益な環境側面をないことに不適合を出すことは、契約違反であると主張するのである(注3)

ならば審査員と認証機関は契約不履行で、民事訴訟を起こされることは覚悟しなければならない。
それが無知の故であろうと、勘違いであろうと、確信からであろうと、規格に則らない審査は、契約に反し、依頼者の期待を裏切り、損失を与える。

私は有益な側面を信じる審査員や、その雇用者である認証機関に多年にわたり苦しめられてきたことを、引退した今も忘れていない。


「有益な環境側面」は正しいのだとおっしゃる方もいるだろう。それならその証拠を出してほしい。
私は、間違いである証拠を出そう。

注:「有益な環境側面というものは、1999年発行のISO14001解説本に載ったのが嚆矢ではなかろうか。そして2000年頃から審査の場で審査員が語りだした。
最初は「有益な環境側面を忘れないように」と語り、1年も経たない内になければ不適合になります」となり、2年後には不適合が出された。


では本日の本題に入る。
それは「有益な環境側面」という語が、いかほど使われているかという調査報告である。
私は2012年より、数年おきに調査をしている。有益な環境側面が唱えられてから四半世紀、今はどうなっていますでしょうか?

調査方法

主たる調査対象はJABからISO14001の認定を受けている全認証機関と、CEAR承認あるいはIRCA認定を受けているISO14001審査員研修機関である。
JAB(日本適合性認定協会)が認定しているISO14001認証機関すべてのウェブサイトから、「有益な環境側面」を解説しているコンテンツを抽出した。

具体的には対象機関のウェブサイトをGoogle検索を使い、サイト内をサルベージした。この方法でリンクされていないページもチェックした。


判断基準


ご注意!
「有益な環境側面」があるとウェブサイトに記している認証機関が、審査で「有益な環境側面」がないことを不適合にしているかどうかは不明である。
その逆もあるかもしれないが調査する(すべ)がない。


調査結果

  1. 認証機関
    有益な環境側面の数
    調査年2010201220142016201820212025
    有益な環境側面ある 7 3 2 2 1 2
    古いものが残っている 1 5 4 6 4 1
    有益な環境側面なし 37 33 33 31 29 30

    注:2012〜2021年は、過去の調査結果を流用している。


    調査年によって対象件数が異なるために、パーセントにしたのが下表である

    有益な環境側面の割合
    調査年2010201220142016201820212025
    有益な環境側面ある 45% 16% 6% 5% 5% 3% 6%
    古いものが残っている 2% 10% 10% 15% 12% 3%
    有益な環境側面なし 55% 82% 84% 85% 79% 85% 91%

    注:2010年はアイソス誌2010年1月号のアンケート結果を借用した。


    これをグラフにしたものが次の通り。

    認証機関比率
    認証機関%

    時が経つにつれて、有益な環境側面があるとする認証機関の数も割合も、減っていることは喜ばしい。
    そして2025年の今回は、さすがにウェブサイトに堂々と「有益な環境側面についても審査をします」と記しているところはなかった。
    もしその変化にこのウェブサイトが1%でも寄与していたなら、私は以て瞑する。


  2. 審査員研修機関

    審査員研修機関は、私は有益な環境側面について調査を開始した2012年(注5)には、10社あったが、2018年以降は3社に減った。

    有益な環境側面の数
    調査年201220142016201820212025
    有益な環境側面ある 9 4 3 2 1 2
    古いものが残っている 0 1 1 1 0 0
    有益な環境側面なし 1 2 0 0 2 1

    注:2012〜2021年は、過去の調査結果を流用している。


    これをグラフにしたものが下図の通り。
    審査員研修機関の数が大きく減少しているため、パーセントではなく絶対値のみグラフを作った。

    審査員研修機関調査結果
    審査員研修機関比率

    2025年は前回より1社とは言え、有益な環境側面があるとする審査員研修機関が増えた。
    グラフを見れば2021年を除いて、有益な環境側面があるという研修機関がはるかに多い。有益な環境側面があるという認証機関が多いのは、いかなる理由だろう?
    研修機関の講師には博識な方が多く、規格より持論を優先するのだろうか。


    ちなみに下のグラフは、JRCA承認とIRCA認定の審査員研修機関ウェブサイト調査の比較である。
    なお、JRCAとIRCA両方の認定を受けている審査員研修機関は、2021年の調査ではあったが、今回はなかった。

    審査員研修機関の調査結果

    一方は有益な環境側面が増え、他方は減っているが、この解釈はご覧になる方にお任せする。


  3. ウェブサイトで見つけた有益な環境側面

    Googleで「有益+環境側面」で検索して、上位200位まで表示されたものを、どんなことが書いてあるか調べた。
    「有益な環境側面」がなくても「有益」と「環境側面」が同じファイルにあるとGoogle検索にひっかかる。ヒットした多くはそういうものであった。

    じゃあ "有益な環境側面" で検索したら完全一致を探せるのにと思うかもしれないが、人により「有益な側面」とか言い方がいろいろあるので、初回からそうしているのです。

    最近は皆さん勉強しているようで「有益な環境影響を持つ環境側面」という表現はあっても「有益な環境側面」と書いているところは少なくなった。

    下表で「年」の意味は、ウェブサイトにアップされている、htmlやpdfファイルの作成年月日であり、アップされた時期ではない。


    件数ウェブサイト
    の開設者
    備考/要旨/タイトル
    20151ISOコンサル個人ISO14001:2015 逐条解説
    2016
    2017
    2018 1 右記参照 審査員研修機関の人が他のウェブに寄稿していたもの
    2019
    2020
    2021 1 ISOコンサル会社 経営に役立つ「プラスの環境側面」
    2022 1 ISOコンサル会社 「グリーン調達(環境側面)」による「資源の保全(環境影響)」など環境保護や環境負荷低減につながる「有益な環境側面」もあります。
    2023 1 ISOコンサル会社 ISO14001の環境側面とは?有益な環境側面と例を紹介します!
    2024
    2025

    2015年以降に作成されたコンテンツで、「有益な環境側面」を解説しているのはわずか5件である。
    現存する上記5件の内容は、いずれも「環境改善活動を有益な環境側面と誤解している」ものであった。

    2014年以前のものはかなりあったが、ウェブサイト開設者が存命か活動中か分からないので除外した。
    過去にはすべての年に「有益な環境側面」の解説やメリット解説の記事が存在したが、活動しているウェブサイトの管理者は、毎年、内容を見直しているのだろう。歯抜けになった年は削除されたようだ。



うそ800 本日の心中

どうやら有益な環境側面は撲滅まであと一歩のようだ。もちろんまだ 残渣 (残りかす)はある。特に審査員研修機関だ。

第一次大戦 話は変わるが、昔は航空戦において空域を我が物にすることを「制空権」と呼んだ。現代は制空権など実現不可能とされ、「航空優勢」を確保できれば御の字とされる(注6)

ISO規格解釈もそれと同じく、ISO14001において「正しい環境側面の理解が優勢となった」とみなされるなら十分とすべきだろう。
有益な環境側面の狂信者は、もはや手に負えない。有益な環境側面 がなくても (ないのが当然だが)不適合を出さないことを祈るしかない。

私の願いは、スコアリング法の息の根を止めること、そして有益な環境側面がを叩きのめすことだった。
まあ、大体は片付いただろうか。
誤解なきように、私はISO14001に敵対しているのではない、真っ当になるように社会貢献をしているのだ。


うそ800 本日の予言

前回の有益な環境側面(2021)から4年後になる。次回は今から4年後か?
そのときISO14001規格があるのか、認証制度があるのか、想像もつかない。
(それがし) は墓の中かもしれない。


うそ800 本日の蛇足

今日のコンテンツは5,000字しかない。短くて簡単で、時間がかからなかったと思った方がいるでしょう。
間違いです
ネットをひたすらググり、ヒットしたものを読み、集計するまで8時間、グラフを作るのに30分、作文に3時間、html書くのに2時間、それくらいかかりました。
まあ、小人(しょうじん)閑居して不善をなすといいますから、出来上がったコンテンツの価値はたいしたことないでしょう。
それでも有益な環境側面信者に一矢を報いたなら本望です。






注1 冗談抜きに2019年10月は毎週3度台風が来て、千葉の送電網は壊滅した。
週刊誌ならぬ週刊台風である。

注2 「一般語」とは日常生活で使われる、「歩く」「山」「速い」のように社会全体で語彙が共有され、普通の人に理解される言葉。 対義語として専門語がある。

注3 ISO17021:2015では証拠と根拠を明確にすることを定めている。
不適合になる根拠(要求事項)がなければ、不適合になるわけがない。だって、不適合とは規格要求に不適合のことだから、書いてないことに不適合とは意味不明だ。

注4 正しくは: 国別コードトップレベルドメイン (country code Top-Level Domain, ccTLD)と呼ぶ

注5 有益な環境側面2012

注6 昔は制空権(Air Supremacy)という言葉が使われたが、今は航空優勢という。
F15
制空権とは特定の空域において、敵の干渉を全く受けない、絶対的な支配を意味する。
しかし全く干渉されないというのは現実的ではないし、飛行機は常に飛んでいるわけでもない。現実的には特定の局面において作戦行動が取れる状況なら十分であり、それを航空優勢(air superiority)と呼ぶ。







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