タイムスリップ191 マネジメントシステム認証の未来(最終回の予定)

26.08.27

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。



翌日、佐川は内閣官房に挨拶に行く。
佐川は管理職扱いだから時間外はつかない。その代わり私用で外出するのは自由だ。
いや、待てよ。内閣官房は仕事先、客先だ。新任の挨拶に行くのは業務ではないか。


佐川真一 「二日ぶりです。出戻ってまいりました」

山田危機管理監 「実を言って私は君の人事異動の内容を知っていた。君が出向から戻りたいという話を聞いたとき、吉宗機械さんを訪ねて・・・ええと下山取締役兼人事部長と言ったな・・・にお会いして君が戻っても、ウチの仕事を支援してもらえるようにしてほしいとお願いした。
彼がその提案を受けてくれて、それじゃと今の方式を提案してきた。これ幸いだったね」

佐川 「やれやれ、私は山田さんと下山の (てのひら) の上でしたか。ともかく今後ともよろしくお願いします。
当面の仕事はどうしましょう。2006年のイベントについては、メンバーに周知していますが、経済も事件も、大きな出来事はありません。
検討すべきはやはり2年後のリーマンショック、3年後の民衆党政権と5年後の東日本大震災ですか?」

山田危機管理監 「こちらは日々いろいろな些事があってね、実は、これから経産省の西田氏と打ち合わせがあるんだ。例の経産省が進めているBCMマネジメントシステムのことだ。
次につながることだから、今日来たついでに、その話に参加してもらいたい」

佐川 「承知しました。本日の会議で決定することがありますか?」

山田危機管理監 「決めなければならないことはない。経産省では独自にBCMを検討していて、ゆくゆくは行政機関に普及させたいらしい。今日は彼らの試案を見ての意見交換だ。
伊藤君も参加する。彼には書記をしてもらっている」




ほどなく西田氏と伊藤氏が登場。何度も集まっているようで、皆、好きなところに座り、さあ始めますかと議論が始まった。


西田氏山田危機管理監伊藤事務官佐川
西田
経産省
山田
危機管理監
伊藤
山田の部下
佐川

西田氏 「前回、前々回と、皆さんが実行されている、未来予知を活用した災害の被害を抑え込む活動状況のお話がありました。
ただ、どうしてもその活動は危機管理に限定されていて、速やかに事業継続するという観点が漏れているように思いました。
今回は、そこをどうするか、どのような補強をすればよいのか、そのあたりの意見交換をしたいです」

山田危機管理監 「まず私の職務である危機管理監は、『地震・風水害などの自然災害、重大な事故、テロや武力攻撃など、国民の命や財産に大きな被害が出るおそれがある事態の対応を指揮する』となっていて、そのために『関係省庁(警察庁、消防庁、防衛省など)の動きを調整する』、『状況をまとめて総理大臣や官房長官に報告し、政府全体の初動対応を支える』となっています。
危機が去った以降の、平常への復帰活動についての記述はないようです。

同様に自衛隊の災害派遣についての規定は、自衛隊法第83条です。そこには『天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため』とあります。復興あるいは事業継続についての支援はありません。

危機管理にあたらない自治体の復興や地方自治法で定める事務の執行の支援が、我々の職務に当たるのかどうか」

西田氏 「事業継続の定義ってどうでしたっけ?」

伊藤事務官 「不思議なことですが、今までに策定された外国の規格や案では定義されていません(注1)

西田氏 「そうだっけ?、事業継続と危機管理はどういう関係なのだろう?」

山田危機管理監 「以前、西田君が説明したのはこんな感じだったね。おっと、西田君はBCMの定義も知らずにこの図を描いたのか?」


山田管理監は今年の初夏に西田氏が配った説明資料(第182話)から、図を探してパソコンからプロジェクターで壁に映し出す。


防 災 の 段 階 の 関 係
MリスクマネジメントM
(リスク管理)
クライシスマネジメント
(危機管理)
l事業継続マネジメントl
(BCM)
起きる可能性の特定
対応策の検討・準備
事故発生時、拡大防止、
被害拡大抑制、収束、
是正策
事故による事業停止防止
事業が中断したら、速
やかな復旧を図る

西田氏 「そうそう、これです、これです。
BCMとは『事故による事業停止防止事業が中断したら、速やかな復旧を図る』とある。
危機管理はその前段階で、『被害の拡大防止、収束、是正策を検討する』とありますね」

伊藤事務官 「私は以前から疑問でしたが、企業のBCMと自治体のBCMは性質が違うと思うのですよ。
企業の場合、災害が大きければ被災地の工場を廃止するとか、特定の事業や製品から撤退することも経営的にあります。
あるいは、いよいよとなれば廃業して、企業を清算する手段もあります。それは事業継続じゃありませんが、現実には多々あります。
行政の場合、この町は大きな被害を受けたから担当する自治体を変えようとか、あるいは町役場がサービス業務から撤退するなどできません(注2)

佐川 「自治体には消滅とか解散という逃げはありません。せいぜい近隣自治体との合併ですね。引き取りたくなくても県とか国が仲人をしてくれるでしょう。
なぜなら、どうあっても住民サービスはしなければならないものだから」

西田氏 「ええと具体的には自治体のBCMとはどういうイメージだろう?」

伊藤事務官 「うーん、具体的にと言われると・・・」

佐川 「いろいろ考えられますよ。最近の話題を取り上げると、ダイオキシン(注3)の規制が厳しくなって高額な焼却炉に更新しなければならなくなりました。
小さな自治体では導入できません。でも自治体はゴミ回収を止めまることはできません。

結局、複数の自治体が組合を作って焼却炉を購入して廃棄物処理事業を継続するか、お金を出して他の自治体あるいは廃棄物処理業者に委託するしかありません。それが現実です」

伊藤事務官 「そうそう、それを感じていたのですよ。企業なら目的は営利です。まあ社是は社会貢献かもしれませんが、赤字企業は継続できません」

山田危機管理監 「じゃあ、自治体のBCMとは何だろう?」

佐川 「今言ったこと、そのものじゃないですか。
つまり災害が起きてもごみ処理を止めないとか、役場の建物が崩壊しても、出生届を受け取り住民票を交付するとか」

山田危機管理監 「なるほど、企業の事業継続と、自治体の事業継続は違うのか?」

佐川 「双方の事業が違うから当然です。でも己の事業を継続することは共通です。
ただ自治体の場合は自由にふるまえないという制約があるのです」

伊藤事務官 「なるほどなあ~、IBMの変遷を思い出しました。
IBMはタイムレコーダーなどの事務機からスタートしましたが、科学技術の進歩と環境変化に合わせて、第二次大戦で通信機、データ処理の請負、ライフル製造、戦後はメインフレーム、パソコン、ソフトウェア、ソリューションビジネス、クラウド、AIと変身してきました。

他方、自治体は、環境が変わろうと、道路、消防、出生届の受理は変わりません」

山田危機管理監 「伊藤君はIBMに詳しいね」

伊藤事務官 「昔、IBMのビジネスをしていましたから」
 (伊藤氏は商社から内閣官房への出向者である)

西田氏 「ええと、そうしますと自治体では、BCMといっても企業とは違うということでしょうか?」

佐川 「そもそもBCMが対象とする特定のものがあるとは思いません。事業をしているとイケイケドンドンのときもあり、環境が変化したので対応しないとならないこともあり、災害など環境状況によって事業のリソースが不足することもあります。

いかなる事業でも継続するには、次々に現れるハードルを乗り越えていかねばなりません。たまたまある人がその一部を危機管理とかBCMと呼んだにすぎません。
自治体のBCMは何だろうと、考えること自体意味があるのかも疑問です。素直に考えて、やらねばならないことをするということに尽きるでしょう。
どこまでが危機管理、どこからBCMと分ける意味もありません」

山田危機管理監 「となると自治体BCMでは、『自治体という組織を存続させる』でなく『住民サービスを止めない』ことなのだな」

佐川 「そう思います。そもそもBCMとは組織継続じゃなくて事業継続です」

西田氏 「佐川さんのおっしゃることは分かりますが、やはり自治体BCMは『従来の防災・災害対策を広めた行政機能の継続という観点から体系的に整理したもの』とみなすべきではないですか」

佐川 「そこはお好きなように。ただBCMを、新しい概念だと認識することはないと思います」

山田危機管理監 「先ほどの西田さんから頂いたBCMの絵図通りだろう。昔から自治体は、災害を受けても復興してきたわけだし、経験から災害のとき何をするか、そして平時のときそれに備えてきたわけだ」

西田氏 「そう言われるとそうですが、そういう発想ではBCMの新規性がなくなってしまうなあ~」

山田危機管理監 「別にBCMという言葉を使わなくても、防災そして災害から復旧をすりゃ良いんだろう」


佐川は考える。
BCMとは新しい概念でなく、今まで多くの人たちが考え・実行していたことをまとめて、きれいな言葉で表しただけではないのか?
何も今までしていたことに追加するまでもないのかもしれない。いや組織によっては今までしていたことで、十分満たしているかもしれない。

そもそも規格要求は、今までの仕組みに何か新しいものを追加せよということではないでしょう。組織の仕組みにはこういうことが必要だというだけで、以前からしていればそれを継続すれば良いだけだ。


そのとき佐川は、そういえばと思い出す。
そもそもISO認証のとき、新しいことをしなければならないという発想が主となったのは、ISO14001からだった。ISO9001のときはそんなことはなかった。

欧州向けに輸出しているメーカーは、ISO9001の認証が必要だとなったとき、どうしたか?
ひたすらISO規格を読んだ。そして規格の要求の本質は何かを考えた。そしてそれが会社の仕組みに備わっていたのかどうかを探した。そして今までの仕組みと実行していたことが、ISOの規格要求を満たしているか・否かを考えた。
現状では不足なときは、必要最低限の仕組みを追加して審査をパスしたのだ。もちろん従来からの方法で充足していれば何もしなかった。

1994年までにISO9000sを自力で認証した工場は、皆同じ方法を取ったはずだ。なぜならまだISOコンサルなるものは発祥していなかった。だからどこでも過去からの仕組みにパッチを当てたり、あるいは創意工夫で認証に挑んだのだ。

だがISO14001の頃になると、ISOコンサルを自称するものがわらわらと登場した。彼らは”標準化された文書、記録“を顧客に提供し、その通りすれば認証できると言った。
だが規格要求は標準化できても、組織の仕組みを標準化できるわけはない。

そしてさらに輪をかけたのは審査員研修機関が教える規格解釈もお仕着せで、受講した者たちも現実の会社の仕組みを知らず、単純というか乱暴極まりない規格解釈をして、審査を行った。
ちょっと考えれば規格を満たしているのに、規格の文言が書いてないとか、用語が違うという摩訶不思議な不適合を大量に出すことになった。

そういう審査によりISO認証の質はとても悪いものになり、ISO9001認証しても良くなったのは文書管理だけ、ISO14001認証しても良くなったのは環境意識だけと言われることになったのだ。

そして、企業不祥事が起きると、認証制度側は「嘘をつかれた」と言った。
笑うしかない。ISO審査とはそれほどくだらないものなのか? それではISO認証の価値をだせるはずがない。

佐川は生まれ変わっても、一人の力ではISO認証の劣化の流れを変えることはできなかったのだと実感した。
それを変えるには認証制度の中心となる人たちが、そういう方向はおかしいと気づき、自ら正さなければならないのだ。




佐川が再び内閣官房で働くようになってひと月が過ぎ、年が明けて2006年も1月下旬になった。
朝、パソコンのメールをチェックしていると、ISO認証誌の押田編集長からメールが入っている。押田さんに最後に会ったのは、もう2年も前だったろうか?(第182話)

押田編集長のメールを開くと『ISO認証10周年、その未来』という特集をするので、ヒアリングしたいという。
メールには、ISO9001が欧州への輸出企業だけでなく一般の企業に広まったのが1996年頃、そしてISO14001が制定されたのが1996年なので、ISO認証10周年というタイトルで特集を組むとある。

今、社内では山口がISO認証を仕切っているわけで、対応は山口がメインになってもらった方が良いだろう。
社内取りまとめて押田編集長に回答してほしいと書いて、山口にメールを送る。あとは山口が広報など関連部門と調整を取って先方と話を付けてくれるだろう。

その日の夕方、広報の石川さんからメールが来ていた。
いろいろと書いているが要約すると、彼女は2年前に結婚し、子供を産んで産休と育休を取っていて、出社したのは昨年暮れとのこと。
職場は広報部で変わらないが、今は仕事に慣れるようリハビリ中であるという。

佐川もいろいろあったが、皆、それぞれの人生でいろいろあるのだろう。
そう言えば、佐川が未来プロジェクトに移った頃に、山口も結婚したと聞いた。田舎なら結婚式とか披露宴とか同僚を大勢招待するが、都会では小さくやるようで、佐川はお祝いを出しただけだった。




2月 ISO認証誌の押田編集長と増子記者がやってきた。こちらは広報の石川と山口、佐川である。


増子 押田 石川さやか 山口 佐川
増子記者 押田編集長 広報部 石川 山口課長 佐川

押田 「ISO9001が欧州向けで認証が必要な企業が一巡し、認証が必要ない一般企業が自らのレベルアップのために認証を始めたのは1996年頃からでした。当時は受動的認証から能動的認証なんて言われたものです。
またISO14001が制定されたのは1996年、ということで2006年4月号をISO10周年記念号とする予定です」


サッチャー

注:イギリスにおいてはBS5750が1979年に制定されて、品質保証の認証審査が行われていた。
もっともこれは民間の制度というより、サッチャーが唱えたイギリス産業の再興という国策だった。認定機関はDTI(イギリス産業省)だったしね、


石川さやか 「認証件数が伸びて前途洋々ですね」

押田 「一見そう見えますが、先行きは不透明です。認証件数は増えてはいますが、毎月の増加件数が減少しているのです」

山口 「加速度がマイナス減少している状況ですね。それでは、いつかは頂点に至り、それ以降は減少を始める」

押田 「おっしゃる通り。私も認証制度が長続きしてほしい立場ですから、どうしたものかと考えております。
このままでは10周年バンザイなんてやっても、次の20周年には喪服を着るようになってしまうのではと懸念します」

石川さやか 「そういう事情を初めてお聞きましたが、加速度がマイナスになったのはいつからですか?」

押田 「認証件数は関数ではなく離散値で、かつバラツキも揺らぎもありますので、いつからと指し示すのは困難です。まあ大まかなところですが、ISO9001の認証件数の変曲点は2003年から2004年頃で既に過ぎ、ピークはズバリ今年かと思います(注4)

石川さやか 「まさに現在進行形なのね」

山口 「認証件数というのは従属変数だと思います。独立変数にはいろいろなものがあるでしょう。
そもそも第三者認証件数は、どこまでも増えていくものという発想がおかしいでしょう。

電子レンジエアコン
洗濯機冷蔵庫

高度成長期、テレビも洗濯機も冷蔵庫も、どんどん生産量が増えていきました。でも日本の市場は有限です。
耐久消費財には耐用年数がありますから、日本国内に行き渡れば、それ以降の生産量は必要数割る耐用年数で決まります。

ISO認証に耐用年数はありませんが、必要数は有限です。日本にある個人事業主を除いた会社数は400万と言われます。その内、大企業は12,000社、上場している会社数は4,000弱と言われます。
何社が認証するかですが、認証費用と認証効果を考えると、数万でしょうね」

押田 「というと増加が止まるのは必然ということですか?」

山口 「当然です。限界なく成長するなんてありえないのです。成長の限界は人口や経済ばかりではありません。 それと中小企業向けという簡易EMSというのが登場しました。KES、エコアクション、エコステージ(注5)その他、地域々々には、自治体主導の認証制度があります。

また運輸業界ではグリーン経営認証制度があります。これは2003年にトラック事業からスタートして、タクシー、バス、船、倉庫などに拡大しています。認証件数は種別がいろいろありますが、3,600と称していますね」

増子 「グリーン経営認証は輸送関連業種では大きく伸びていると聞いてます。2005年の省エネ法改正(注6)との関わりもあるのでしょう」

山口 「他にもグリーンキー(注7)という宿泊施設やホテルの環境認証制度、これは日本だけでなく国際的なものですね。
日本独自の宿泊施設対象としてはサクラクオリティグリーン(注8)という環境認証制度があります。
建築・不動産業向けとしてはグリーンビルディング認証(注9)というものもあります。これも種類が複数ありますが400件ほどといわれます。

そんなことを考えると環境認証といってもISO14001ばかりではありません。そしてまたISO14001でなければならないということもありません。そもそもISO14001の序文には、自己宣言でも良いし、規格をすべて満たさなくても組織に合わせて活動するのもある(注10)と明記されています。


押田は山口が語るのに圧倒されている。


増子 「山口課長さん、要約すると、環境保護活動にしても認証制度にしても多種あるから、ISO14001に拘ることはないということですか?」

山口 「そうです、おっしゃる通りです。
それとISO14001には欠点も多いのです。
まず審査費用が高い。そのわりに他の認証制度に対して差別化できていない。認証した企業に不祥事があると認証停止とか取消をする、規格解釈がトッピな認証機関や審査員がいる。審査員によって規格解釈がおかしい。

まあ、上げるときりがありません。だから認証件数が減っているのですよ。
押田編集長が自然現象のように減っているとおっしゃるのを聞くと違和感しかありません。企業で多数の審査と審査結果を見ていると、これではISO14001の認証は伸びないなと思いますね

押田 「でも山口課長さん、多くの経営者が、ISO14001は儲かる、経営に役立つ、環境意識が高まったと言っていますよ」

山口 「そりゃ、そう語る人たちは、現実を知らないか、外交辞令、お愛想ですよ。
儲かるというなら認証によって、いかほど売り上げが増えたのか、費用が減ったのか知りたいものです。
私が知る限り、ISO認証によって儲かったという論文は一つだけです」

押田 「ほう、ISO認証で儲かったという論文があるのですか?」

山口 「ありましたが・・・その内容はPPCを数千枚減らしたことを提示していました。認証費用だけで100万や200万かかるのに、PPC数千枚、1枚1円前後でしょうか?
笑い話ですよね」


私はISO認証に関する論文でネットにあるものは、ほとんど読んだ。数百件は見たと思う。特にCINIIからリンクして原文が読めるものは徹底的に調べた。
某大学院で博士課程の人が認証の効果を書いた調査報告があったので読んだ。

なんと認証したどこかの会社を取り上げて、認証前、認証後のPPC(コピー用紙)の枚数を調べ、枚数が減ったことを認証の効果としていた。
アホか、バカか。呆れた。

何年か後それをもう一度探したが、その調査報告は、CINIIに収録されていなかった。CINIIは収録されたものを見直しするので、時代遅れになって削除されたのかもしれない。あるいは見直しで価値がないとみなされたのかもしれない。


増子 「経営に役立つというのは?」

山口 「経営に役立つという論文は見たことないですね。私が経営に役立っていないと思う理屈を述べましょう。
ISO認証するためには、内部監査が必須です。多くの、いやほとんどの認証企業ではISO14001のための内部監査をしています。それにISO9001用の内部監査もしていますね。

そういう監査報告が、経営層に行っているのでしょうか?
いや、そこまで行かずとも、監査部が内容を見ているのでしょうか?
いやいや、監査部の業務監査の一環としてなぜ行わないのでしょうか?」

佐川 「もう何年も前になりますが、弊社では環境部が環境監査を監査部監査の下請けとして行うことになりました(第120話)。
そのとき監査部の方が生半可な監査など許せん、しっかり監査できるのかチェックすると言われました。
まあずいぶんと鍛えられました。
世間で行われているISO審査員研修なるものは、オママゴトですね」

増子 「オママゴト・・・」

山口 「ISO認証のための内部監査が経営に貢献するために、どんなことをしているのでしょう?
文書の日付を見たり、ハンコの有無を見るだけでなく、どんな情報を経営者に報告しているのでしょうか?
経営に寄与するというと、売上を増やす、株価を上げる、好感度とか大学生の希望など何かのランキングを上げる、労働安全の三指標を改善する、何でも良いですが認証によって向上したという実例を知りたいですね。

次は環境意識ですか?
石川さん、石川さんにとって環境意識とは何ですか?」

石川さやか 「えっ、私!
うーん、ISO認証したとき言われたのは、無駄な照明を消せ、物は大事に使う、廃棄物は分別表を見て・・・そんなこと言われましたね。
しかしそういうルールは、15年も前に入社時の研修で、ビル管理会社の方に教えられたわ。
私は広報の仕事ですけど、環境が特別大事という意識はないですね」

押田 「環境が大事ではない?

石川さやか 「会社で、いえ、人として生きていく上で、守らねばならないことは多々あります。そこに優先順序はないと思うのですよ。
よく、ISO審査員が審査に来ると『環境が一番重要です』と話します。あれは間違いですよね」

増子 「それは、間違いなのですか?」
消印を押した収入印紙

石川さやか 「会社で一日仕事をしていると、法律に関わることはたくさんあります。
契約の収入印紙の金額と消印も法規制は厳しいですよ。
増子さん、印紙を貼らないのはもちろん、印紙に消印を押さないと脱税だって知ってましたか?」

増子 「えっ、そうなのですか?」

石川さやか 「そればかりじゃないわ。法で定める届出の日数を守る、余ったポスターやノベルティの廃棄処分、印刷屋や広告社などとの交渉や支払い、すべて法律が関わります。

そのとき『環境が一番』なんて発想するのは頭おかしいです。収入印紙の金額だって消印を忘れないことだって極めて重要なのです。
数年前、某大企業で印紙金額に不足が見つかり、三大紙で全国報道されたことがありました。ブランドイメージは相当下がったでしょうね」

山口 「私もそう思います。すべてを守らなければなりませんね。
その一事(いちじ)だけでオママゴトということが分かります」

石川さやか 「ISO9001の審査では品質第一と言われました。ISO14001では環境が大事と言われました。これからは情報管理が最重要というのでしょう。アハハハ
審査員はそれほど知能が低いのでしょうか?」


押田編集長と増子記者は苦虫をかみつぶした顔で黙っていた。


佐川 「少し私にも話をさせてください。
本音を言いまして私はISO認証誌にいろいろ期待していました。でも期待に応えてくれませんでした。

こする指
問題だなあ~
某認証機関のT取締役が『環境目的と環境目標の環境実施計画が必要』と審査員登録機関の季刊誌『CEAR』に書きました。 当時、それは間違いだと他の認証機関の幹部やJABまで入って大騒ぎになりました。結局、その論は間違と結論が出て収まりました。

あのときお宅のISO認証誌は、その騒動を伝えませんでした。その件は審査で不適合が多々出されていて問題だったのに。

その騒ぎも結論も報道されなかったから、T取締役に教えられた審査員たちは、その後も環境目的用プログラムと環境目標用プログラムのふたつがないと不適合を出し続けました。
私は仮定の話をしていません。多数の、それこそ何十件もの事例を知っています。

同様なものはいくつもあります。
最近は、有益な環境側面というおかしな説もあります。ISO14001の権威である寺田博さんが、はっきり否定しています。
そういう情報を審査員や企業に知らしめる、重要な役割がISO認証誌にあると思いませんか?

そういうことをせずにいて、ISO認証件数が減っている、どうしようかと悩むのはおかしくありませんか?
もしお宅がそれらの問題の是非を明らかにすることに努めたらどうでしょう?
企業側のISO審査を受ける人たちから大歓声で迎えられるでしょう。その代わりISO認証ビジネス側からは蛇蝎のごとく嫌われるかもしれない。
だけどISO認証の信頼性を向上させることは間違いない。その結果、ISO認証件数が増加するかもしれない。

ニクソン大統領
誰だって?
ニクソンだ

ウォーターゲートを暴露したボブ・ウッドワードになるか、エスタブリッシュメントの太鼓持ちになるか、究極の選択です」


押田編集長と増子は口を閉じ、しばらく斜め上方を見上げていた。


佐川は考える。押田編集長はISO認証の将来を心配している。だがそれはおかしいのではないか?
ISO第三者認証制度とは古くからあったものではない。押田編集長が言うように、日本ではたかだか10年の歴史しかない。
それはISO規格ができて、それを使ったビジネス(金もうけ)を考えた人たちが始めたものだ。


注:SO14001:1996の序文では、規格の使い方を5種類上げている。認証はその一つに過ぎない。
またISO9001はそもそも二者監査に使うことを前提としていた。
なぜか21世紀の今は、MS規格は認証ビジネスのためにあるようだ。もっとも現在は認証件数の半分は中国だから、中国のために存在しているともいえる。


その認証件数が伸び悩んでも、減ったとしても、社会問題になるようなことじゃない。認証制度を作った人が考えれば良いことだ。だって困るのはその人たちだけ(●●)だから。

バッター

佐川は野村監督の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉を思い出した。物事がうまくいくとき理由が分からないこともある。だが失敗とかダメになるときは、ちゃんと理由があるのだ。
ISO認証の件数が減るのに不思議はない。




山口が語ったことすべてを、佐川が語っても良かったのですが、弟子である山口が一人前になったということを示したかったのです。




以下は作者(おばQ)が考えたことである。

不祥事といえば、ISO9001が広まった頃から似たようなことはあった。カフェテリア認証だ。工場の中のカフェテリア(食堂)だけISO9001の認証を受けて、あたかも工場全体がISO認証したように広報したというお話を聞いた。
私がISO9001に関わった1993年頃には、契約書に広報するときとか名刺、看板、車両などへの記載について、して良いこと・悪いことが書いてあった。カフェテリア認証はそういうのが決める前だったのか、決めてからなのか分からない。

だが当時はそんなことをしてはいけませんという程度のことだった。
20世紀末頃から企業不祥事が起きると、騙されたと大声を出し、認証停止・取消が行うようになったのはどうしてなのか?

客観的に見ればカフェテリア認証よりも、不祥事問題は認証機関の責任が大きい。
そもそも要求事項に関わることなら審査員のミスであることをはっきりしている。見逃しなら第一に審査能力を疑うべきだろう。

ISO17021に書いてあるように確率的なものなら、審査も適正であり企業が騙したとも言えないだろう。もし、それでだめなら、審査工数を増やすとか、審査方法を変えるなど、根本的な審査の設計の問題になる。

騙すとは過失ではなく故意だから、「騙された」というなら、刑事事件としてそれを立証しなければならない。もちろん騙された証拠があるのだろう。


それと品質問題を起こすと、その会社に14001の臨時審査を行い、その結果必ず(●●)不適合が見つかるというのも不思議なことだ。
それはとりもなおさずISO14001の審査には、見逃しが多いということなのだろうか?

押田編集長自身も、ISO認証制度の一端を担っていると考えているようだ。実際問題としてそうだろう。ならば認証制度に問題や欠陥があるなら、それを是正してより良い状態にするよう努力すべきではないのか?

例えば環境目的・目標の環境実施計画について規格解釈が揉めているなら、その事実を公にして真実を求めるのがジャーナリズムではないのか?
ISO審査において企業からの饗応、企業への物品や饗応の要求などが一般紙で問題にする前に、自浄作用があってしかるべきではないか。審査における暴言や物を投げるなどの暴行行為、誰が問題にしたのか?
本来なら認定審査で見つけるものだろう。

新聞報道された饗応要求のケースでは、某認証機関の取締役だった。
自浄作用どころか、トップからダメではないか。

ジャーナリズムの大好きな手法、「報道しない自由」の権利は、偏向報道新聞だけでなく、ISO業界雑誌もちゃっかり活用しているようだ。

審査体制の問題を見ぬふりをして企業を叩くのは、「他人の目からチリを取れといって、自分の目の中の(はり)に気づかないのか(新約「マタイによる福音書」第7章3節)」とキリストが語ったのと同じだ。




うそ800 千秋楽のご挨拶

えー、今回を持ちまして、タイムスリップISOは完結でございます。
物語が終わったのに、気付かなかったですって!
人生の終わりも、たぶん終わったことに気付かないですよね。

お終いがパッとしないですって?
スタートは寝ぼけた佐川でしたからパッとしてません。途中もグダグダでパッとしてません。ならば終わりもパッとしなくても釣合が取れているでしょう。


この物語を書くとき、書きたいことはいくつかありました。

そういうことを言いたかった。
実を言ってISO認証で、取り上げたい問題はもっとたくさんあるのですが、書けばきりも限りもない。この辺で許してやろう。


文句ある方がいちゃもん付けてくるのを楽しみにしております。
まあ、現実を見ていた方なら、私の書いたものは事実だと認識されるでしょう。


最後に、私はISO第三者認証の仕組みを憎んでいるわけではありません。40歳にして社内で能無しと思われていました。
ところが、ISO認証に関わって突如能力を発揮して人気者、そのおかげで何とか家族を養ってきました。ISO第三者認証制度に感謝して足を向けて寝られません。

ただその仕事は意義があったかといえば、認証の運用において多々問題があった、審査に間違いがあり苦労した、出鱈目なことが多く、それを正すべきなのに制度に自浄作用がないのに呆れた。

企業不祥事が起きるたびに「企業がウソをついた」と合唱する認証制度を見ると「お前の頭は腐っているのか?」と言いたい。 認証制度の不祥事の方が多いのではないだろうか? だって事実でないことを騙ることは誣告罪だ。

そもそも不祥事といっても、セクハラ、談合、贈収賄、そんなことを良いとは言わないが、ISO認証と関係ないだろう。
某認証機関の取締役が「セクハラがあった企業の認証は取り消さなければならない」と古代ローマの大カトーのようなことを騙ったのを傍で聞いていた。

認証機関の団体が、(ISO認証に関わらなくても)「重大な法令違反があれば認証を取り消す」と語っているのは知っている。
しかし医師が犯罪を犯すと医師免許取り消しは、命に係わる職業だから倫理観が問題だからという理屈らしい。ISO認証なんてそんな高度な倫理観のものじゃないだろう。
そういう理屈で裁判で勝てるのだろうか? ISO認証は倫理とかデミング賞ではないのだ(注11)


仮に不祥事があってもISO17021(注12)では、審査は抜取であって全数良品であることを保証しないとある。それは認証制度側の逃げであるだけでなく、企業にも適用されるはずだ。
裁判で証人には偽証罪があるが、被告人は嘘をついても良いというのを知らんのか?
まあ、知らないからそういうことを騙るのだろう(誤字にあらず)。


さて、この物語を書き終えて、これからどうするかな?
小人閑居してというので・・・何かしてないと悪さしそうだし



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文末脚注
  1. 不思議なことだが現行の『セキュリティ及びレジリエンス-事業継続マネジメントシステム-要求事項(ISO22301:2019)』でも定義を定めた『社会セキュリティ-用語(ISO22300:2012)』でも、事業継続マネジメントシステムの定義はない。
    とはいえ環境基本法は制定以来、極めて重要な重要なワードである「環境」の定義がない。重要な言葉こそ定義しないものなのかもしれない。


  2. 地方自治法第2条
    第2項 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。
    第3項 市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。


  3. 所沢市のダイオキシン問題は1999年であった。このお話の5年前になる。


  4. ISO9001の認証件数のピークは2006年第3四半期、ISO14001は2009年の第1四半期であった。


  5. KES、エコアクション、エコステージはいずれも2000年頃スタートしている。
    この物語の2006年頃には簡易EMSの認証件数の合計は2,700件ほどになっていた。これは当時のISO14001認証件数18,000の15%である。
    その後、簡易EMSの認証件数は合計14,000ほどで飽和したが、あまり減少せず2026年でも11,000件である。
    ISO14001は2009年ピーク時の2009年20,800件であったが、2026年現在12,000まで減っている。簡易EMSの数はISO認証件数の9割を超えているのだ。


  6. 省エネ法改正は過去10回ほどおおきなものがあった。
    2005年改正では、一定規模以上の貨物・旅客輸送事業者(特定輸送事業者)および貨物輸送を発注する荷主(特定荷主)に対して、省エネ計画の策定や、エネルギー使用量・貨物輸送量(トンキロなど)の定期報告が義務付けられた。
    省エネルギー法 改正の歴史


  7. グリーンキー認証
    日本の認証件数は33と少ないが、全世界では1万近い。


  8. サクラクオリティグリーン認証(正式名称:Sakura Quality An ESG Practice)


  9. グリーンビルディング認証


  10. ISO14001:1996の序文の第4段落。
    「要求事項の多くは、同時に着手されてもよいし、いつ再検討されてもよいことに留意するとよい」
    但しこの場合には認証を受けられないとしている。認証を受けるには、すべてのshallを満たさないとならないことは当然だ。


  11. 日本でデミング賞が創設された初期に、デミング賞を受賞した企業が倒産したことがあった。それ以降、企業の財務会計をチェックしてアブナイ会社には賞を与えないことになった。
    Cf.「日本的経営の興亡」徳丸壮也、ダイヤモンド社、1999


  12. これはISO17021:2006/ ISO17021:2011/ISO17021-1:2015など、旧版から現時点まで下記の文言が記載されている。
    注記 いかなる審査も、組織のマネジメントシステムからのサンプリングに基づいているため、要求事項に100%適合していることを保証するものではない。





外資社員様からお便りを頂きました(26.09.02)
タイムスリップ 完結おめでとうございます、長期にわたり興味深いお話を有難うございました。
311をどう扱うか気になっていましたが、その前で終って良かった気がします。
今更、こうすれば、ああすればと考えても、現実は起きてしまったから。

結びがMS認証システムの未来というのは、このサイトに相応しい結びで良かったです。
(認証機関の)TOPの不祥事というのは、未だに無くなりませんね。
大阪検察庁のセクハラ問題も、未だにトップ同士の不祥事隠しで、結局 被害者が退職しました。
言い換えればTOPがしっかりしていれば、大きな問題は回避できる。
そういう意味ではISO認証に問題があったとすれば、TOPに問題があり、末端の審査員にも問題があったという二重構造だから、認証を受ける企業側が大変だったのでしょうね。
だからこそ、こうして記録すべきだと思います。

重ねて、今までの連載に感謝いたします。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
言いたいことはたくさんあるのですが、表現力がなく忸怩たる思いです。
ISO認証制度の問題は現実世界でも大声で語っていたので、その関係からは嫌われていたと思います。しかしパワハラやセクハラも今は堂々と言える時代になりました。第三者認証の問題をもっと露わにして是正してほしいなと思います。
とはいえ、ISO認証制度も今では残照、残り火でしょうからもうどうでも良いのかもしれません。以て瞑すべしですか・・・まだ死にませんけど





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