ミュージカル劇より

 ヤスミン植月千春とアラブ音楽との関係

それは、知り合いのトルコ人の方を通じてトルコの音楽に興味を持ったのが 最初であったといいます。

ピアノでトルコの歌を歌っているうちに、青山のおいしいトルコ料理店に置いてあった カーヌーンという楽器の美しさに魅せられ、 カヌーンとウードを譲ってもらったのがアラブ楽器との最初の出会いでした。(2001.1)

Tahir AydogduとYasemin
Jamel Abid

独学でカーヌーンの奏法を研究を始め、それからトルコのカーヌーン奏者ターヒル・アイドーデュに師事し トルコのカーヌーンの奏法を学びました。(2001.7)

2002年、カーヌーンでのアラブ音楽のマカームを習得するため、チュニジアのチュニス国立音楽院のジャメル・アビド教授に師事し、以降、アラブ音楽のマカーム理論の研究とカーヌーンの演奏を続けています。


左:サズ 中:ウード 右:ガットギター

ところで、アラブ音楽と西洋音楽との大きな違いについて、次のようにヤスミンは説明しています。

「アラブ音楽はマカーム(日本語で言えば旋法に近い)というものが無数にあって、いわゆる西洋の12音階ではないのです。一音は西洋音階では普通半音までにしか区切られませんが、いくつにも微分音に分けて、例えば、シのフラットより少し高めの音といった音を使います。そういった無数にある音を組み合わせた非常に多くの旋法(マカーム)を使うのです。

カーヌーンという楽器はこの微分音を調整可能にした楽器です。
ギターには演奏を簡単にするために指盤に音階を刻むためのフレットというものがありますが、バイオリンや上の写真のウードなどはそれがありません。それゆえ、段階的にではなく、連続的に音程を変えて行くことができます。

普段、学校の音楽の授業で、例えばミのフラットよりすこし高めで、でもミよりは低い音・・などという音を聞くことはないと思います。そういう音程で歌う人はいますけれど、普通は音痴といわれたりします。
ところが、アラブ音楽には、そういう音があるのです。
微妙にずれたシの音とか、ミの音とかがいたるところで使われます。
そして、これは西洋が音楽理論を確立するずっと前から使われていたのです。

西洋文明という合理主義は、微分音というこの今私たちの耳に慣れていない音をすべて排除してしまいました。
そうして1オクターブをドレミファソラシドに分けたのです。
これが音の基本なんて私たちは思っていますけれども、実際にはもっとたくさんの音があるわけです。 その方が和音を作るのに便利なので、そう分けられたのです。
注意深く見れば、実際、無理やり分けた平均率の和音は純正律の和音と比べると澄んでいませんし、また、いわゆる絶対音感ということが言われますが、最近はピアノやオーケストラの調律も高めが好まれる傾向にあって、本当は絶対音感というものも存在しないのです。
しかしながら、私たちの価値観は、西洋文明の中にあっていつしか型にはめられ、合理主義を再優先して作り上げられてしまったように思います。

私はイスラームになり、カーヌーンを弾くようになって、もう一度人間らしく生きることを自分に問い直すようになりました。
私はカーヌーンを通して、合理化された今の私たちの価値観に、もっと私たちが人間的な心をたくさん持っていた頃の感覚を呼び起こしたいと思うようになったのです。
そして、アラブの伝統的な楽器であるカーヌーンを演奏することで、日々の食べ物や水さえなく、正義という大義名分と西洋社会が決めた民主主義という名で、未来を奪い取られている女性や子どもたちの届くことのない声を届けたいと思っています。
私にとってカーヌーンは、イラクやパレスチナやアフガニスタン、チェチェン・・あげればきりがないのですが、理不尽に差別され、殺され続けている兄弟姉妹たちの声なのです。
正義のための戦争などというものは、絶対にありえません。」


このように、音楽の違いは京都芸大とザルツブルグで西洋音楽を学び、平均律の12音階や「絶対音感」の概念にどっぷりつかってきたヤスミン植月千春にとっては、大変なカルチャーショックでした。音楽の概念を根底から覆すものだったのです。

イスラームはそれまでヤスミンが信じて実践してきた価値観を、そしてこのカーヌーンという楽器は彼女の持っていた音楽の理論をものの見事にうちくだいてしまったのです。

こうして新しい音を手に入れたヤスミンは、カーヌーン演奏を通して平和への想いを日本に広めていきたいと考えています。

sample play: Nihavend By Taqsim : Played by Yasemin(790KB:mp3)


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