*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
本日の午後、磯原は石川を連れて、スラッシュ電機がISO14001の認証を受けている認証機関、品質環境センターに訪問した。用件は昨年末に本社・支社のISO14001審査で審査員が起こした暴行事件の是正措置の打ち合わせである。より正確に言えば、認証機関の検討結果の説明を聞きに来たのである。
認証機関、品質環境センターの会議室である。
出席者は、技術部長の朱鷺取締役、営業部長の潮田取締役、審査部長の鈴木取締役、三木氏、そして社外は磯原と石川だ。
石川を除いて皆面識はあり、簡単な挨拶をして議事に入る。
品質環境センター | スラッシュ電機 | ||||
鈴木取締役 | 潮田取締役 | 朱鷺取締役 | 三木審査員 | 磯原 | 石川 |
「私が司会進行を務めさせていただきます。会議の生産性を高めるためにご協力願います。
この問題については依頼者であるスラッシュ電機さんのご了解を得ないと前に進めませんので、対策についてご確認いただきたいということです」
「当社が取るべき是正処置に、顧客であろうと社外の了解を得るというのはどうしてなんだね?」
「もちろん社内のルールや基準について了解を得ることはありません。本日のテーマは当社がスラッシュ電機グループから今後とも審査依頼を受けるためにという枕詞かかりますので、そのためにはスラッシュ電機さんの了解が必要だということです」
「我々が良かれと考えただけでは納得できないということか」
「審査で不適合があった場合、御社でも是正処置を提出させてOK/NGを判定しますよね」
「でも、ということは今回は御社が我々を審査するということかね」
「重大な問題が起きたのですから、今後お宅に依頼するか否かを判定するわけですから当然でしょう」
「ではまず、弊社で審査の質向上の検討をした試案を朱鷺取締役から説明願います」
「今回の問題は、ビジネスマナーの欠如と質疑応答がオーバーヒートしたためと考えております。その対策として、マナー教育は従来から行っていたが、頻度を高め習熟の試験などを行うことを考えたい。
また客先で癇癪を起こすなど不届き千万、質疑が思うようにいかないときも沈着冷静に対応できるように、受け流しというか対応策を示してロールプレイなどで教育することを検討したい。
具体的な方法や日程は別として大筋はそう考えている」
「私は対策案を今初めて聞いたのですが、マナー教室だけで大丈夫ですかね。以前から航空会社の子会社でしたっけ、そこが派遣する元客室乗務員を先生にマナー講座を受けていましたね。それが有効でなかったなら、もっと別の方法を考えないとダメなんじゃないですか」
「沈着冷静を教えるなんてできないと思いますが」
「まあ、大柴さんの場合はちょっと異常ですから、普通の人なら教えればわかりますよ」
「大柴さんが特別とも思えないですけど。採用時にあまり俺様な人は除かないと」
「朱鷺取締役がおっしゃったマナーと対応策ですが、それでは深掘りが足りないと思います」
「深掘りが足りない?」
「なぜなぜ分析ですよ。一見、原因と思えたものが、より深い原因の結果のことがあり、真の原因を追究しないといけません。
朱鷺さんはマナーの欠如とオーバーヒートが原因とおっしゃいましたが、それは原因ではないと思います」
「では三木さんは何が原因と思います?」
「皆さんも審査の録音をお聞きになられたと思いますが、大柴さんが切れる前に執拗に環境方針を知っているかとアルバイトを問い詰めてました。アルバイトが知らないと答えた時点でNGにしても良いわけですが、そうしなかった理由は何でしょう? そこに引っ掛かりませんか?
そこに原因あるいはトリガーがあるように思います。
それから私は一日二日のアルバイトが、環境方針を知らないなら不適合という考えに疑問を持ちます。大柴さんがアルバイトも環境方針を知らないと不適合と考えた理由は何だったのでしょうか?
そう考えると、そこに至るお考えがあったのだろうと思います。それを考えないと真の原因は分かりません」
「そうだ! 僕もそれが変だと思っていた。アルバイトといっても大学生などが半年とか1年とか長期間 勤務することもあるよね。それとほんの数日勤務のケースは違うだろう」
「ええと、マナーの向上、沈着冷静であってもこの問題は解決しないということですか?」
「癇癪を起すことはなかったかもしれませんが、環境方針にこだわることは変わらないんじゃないですか」
「朱鷺さん、短期のアルバイトが環境方針を知る必要はありますか?」
「確かに一日二日のアルバイトが環境方針を知らなくても規格不適合ではないでしょうね。私も録音を聞きました。大柴さんは執拗に問い詰めてましたね。アルバイトでなく普通の社員でも知らないというなら、それで質問を終えてもよいはずです」
「アテンドの女子社員の『不適合にしてください』という声が入っていたね。不適合にすることに納得しなかったのは、何かあったのかな?」
「ちょっと気になることがあります。
この審査の少し前に契約審査員が集められて、社長の講話がありました。大柴さんも私も聴講しました。
社長の話は認証ビジネスが競争激化しており、当社 品質環境センターは経営に寄与する審査をするのだということ。そのためには従業員全員が社長方針を理解して仕事で実践しているかを確認しなければならないと語りました。それだけでなく審査員にして欲しいことをいろいろあげてましたね。
この社長方針を聞いて、短期アルバイトでも環境方針を理解していなければならないと考えたのかもしれません」
「ああ、社長の講話ありましたね。実はあの文章は私が書いたのですよ。経営に寄与するというのはこのところ社長の大好きな言葉で入れて欲しいといわれました。どういう意味か私には理解できませんが、方針を徹底することはISO規格の意図かと思いまして」
「確かに方針の周知をしなければならないが、短期アルバイトも含まれるのだろうか?」
「まあ数日のアルバイトなら重要な仕事をさせることはないですよね。多くは掃除とか荷物運びとか、一時的な負荷対策の単純作業でしょう。会社方針を理解するまでもないでしょう」
「今回の女子高生たちは、展示会の来客へのお土産の袋詰めだったそうです」
「袋詰めか……注意点は、現品違い・欠品のないこと、汚れ破損のないことくらいか。
環境に関わると言えば、ごみ捨て、照明、空調あたりだろうけど、そういうことは皆用意された上での仕事だろうね」
「となるとこの場合の問題の原因とはなんだろうね、三木さん?」
「社長講和が間違っているということではないと思います。いえ、正しいと思います。いくつか考えなければならないことがあります。
まず環境方針の周知をどう理解するかというところが問題だったのではないでしょうか。方針を暗記することが周知されたことなのか、結果として方針を実践していれば周知されているとみなすのか、
今ここでのお話をお聞きすると、短期アルバイトが環境方針を知ることが必要なのか否かも、当認証機関では確固たる判断基準がないようです。
それと質問を追求というか確認するにも、全員に質問し、期待する回答がなくても問い詰めることもないでしょう。何人あるいは何回質問しても回答が得られないときは、理解していないと判断するとか基準を決めたらいかがでしょう。犯罪者を尋問しているのではないですから、回答者が知らないという己に不利な返答をするなら、それでよしとしてよろしいのではないですか。
もし知っていると回答して、方針の内容を説明できないなら問い詰める意味がありますが、そうじゃないですからね」
「なるほどなあ〜、さすが三木さんですね。いろいろ問題が起きると三木さんに尋ねるというのはここのデフォになってます」
「確かに短期アルバイトのケースなどは、ガイドライン的なものを決めておいたほうが良いね。類似のケースはあるだろう。
それと質問も大柴さんはかなりきつめだね。相手は女の子だし。警察の取り調べじゃないからね〜、そういうことを教えるのはマナー教室でもなさそうだ」
「大柴さんの経歴を知らないのですが、普通の会社員の経験があれば、社外の人と交渉することもあるだろうから、経験から肌で覚えるはずですがね〜」
「知らないなら教えるしかないね。名刺を片手で出しちゃいけないと知らない人もいるし」
「三木さんが言われたなぜなぜ分析だが、問題の原因は、審査時の態度というか姿勢が強圧的、審査での判断基準を定めて周知する、といったところで良いですかね?」
「あの日、大柴さんに悩み事があったのかもしれません。精神的に不安定な状況なら審査員を交代するなどの対策をしたほうが良いのか……。重要なお仕事なら始業前に、体調や精神状況をチェックするとか聞いたことがあります」
「もう少し深掘りが必要だね」
「社長が常日頃語る『経営に寄与する審査』というのも具体的に説明してほしいです。取締役である私が言うのもおかしいですが、経営に寄与する審査とは一体何ですかね?」
「社長に聞くしかないな。逆に社長から問われたりして、アハハハ」
「契約審査員を集めて『経営に寄与する審査をしろ』というだけでは途方にくれます」
「発言してよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「先ほどまでのお話を伺いますと、まだ原因究明はしっかりされていないようにお見受けしました。三木さんがおっしゃったように、なぜなぜ分析でもう少し因果を検討してほしい。その上で対策案を提示願います。
それから私どもが御社に改善をお願いしているのは、暴行事件だけではありません。
現状どんなことで困っているのか、御社から認証を受けている工場や関連会社にアンケートをしました。御社の審査での問題、困ったことなどを出してもらい、それをまとめたものです」
石川はA4をホチキス止めした資料を出席者に配る。
「説明します。まず弊社内でどのようなことが問題になっているかということを説明します。
三つも観点で問題をまとめております。まず1ページ目をご覧ください。
ひとつはマナーといいましょうか、態度と言葉使いに対するお願いです。
まず基本的なこととして、審査側と受査側は対等であると認識願いたい。別に審査員に敬語を使えというわけではありません。
『女の子』と呼ぶとか『女性だから』という言い方は、21世紀の現在では完全にセクハラです。同様に、若手社員を『小僧』とか『坊主』と呼ぶのも問題です。実際にそのような呼び方をされる審査員は複数おられます。
審査員にとってはすぐ忘れてしまうかもしれませんが、言われた方は忘れません。不満を持つ人をなだめすかすのが審査後の管理職の定例行事になっています。
今までは御社にまで苦情を申し立てていませんが、今回のこともあり改善を求めます」
「ほう、そうなんだ」
「朱鷺さん、まさか朱鷺さんは審査のとき、そんなこと語っていませんよね?」
「ああ……大丈夫だよ」
「私どもではスラッシュ電機グループでそういった言葉使いをした審査員はデータベースに入れておいて、それ以降他の工場や関連会社の審査のときは忌避することにしております」
「おいおい、磯原さん、それはやりすぎじゃないの?」
「そうでしょうか。資材とか営業において取引先の方がそのような言葉使いの場合、弊社では取引先の人事部とかコンプライアンス部門に、派遣者を変えてもらうようお手紙を出しております。御社に対してお手紙を出したほうが効果があるなら、今後はそのようにいたします」
「いや、そうして欲しいわけじゃないが……ちょっと厳しいんじゃないかな。そして審査員本人にそのことを注意喚起しないと反省も是正もしないよね」
「まあ、それは御社内部のことでしょうし……私どもは派遣されなければ不満はありません」
「御社から注意喚起がなければ、当社から提案しても忌避されるばかりとなる」
「まさか、御社の審査員がそれほどレベルが低いはずはありません」
「今回の審査で寒河江さんを忌避したのはそれですか?」
「左様です。次回から大柴さんも加わります」
「大柴さんはもう引退だろうけど、」
「他の認証機関に移って、そこで認証している弊社グループの企業の審査に来るかもしれません」
「はあ、なるほど」
「名刺の出し方、話を聞くとき足を組むなんてのはよく見かけますね。
先ほどは女性とか若手相手の対応でしたが、企業幹部にヒアリングする場合は、一応それなりの礼をもって対してほしいですね。
みなさんは取締役であられますが、仮に弊社に審査にお見えになったとき、弊社の平社員にも丁寧語を使う必要がありますね。それは私が御社に来れば丁寧語を使うのと同じです。
まして弊社の取締役にインタビューするとき尊敬語は不要でしょうけど、丁寧語は必須でしょう。他社の人というだけで、礼儀は必要です。
今 官公庁、例えば保健所とか消防署の立ち入りとか市役所に相談に行く場合ですが、双方丁寧語で話します。先輩によると1990年頃までは県の環境課とか市役所に行くと、向こうは上から目線でぞんざいな言葉を使い、こちらが尊敬語だったといいます。まあ良くなってきたということでしょう。
認証機関も一般の企業と同じく対応していただきたいと思います」
「おっしゃることは良く分かりました。それはマナー向上するしかありませんね」
「おいおい、簡単に約束して良いのか?」
「10年ほど、いや数年前でしたか、訪問先でタバコを吸わないというルールにしたとき、社内で反論ごうごうでしたね。でも今は文句を言う人もなく、守らない人もいません。世の中が変わったんですよ」
「まあ……そうだけど、丁寧語を使わずに忌避されたら審査員がいなくなっちゃうぞ」
「それは弊社でも同じですよ。口臭がする、無精髭がみっともない、そんな理由で担当者チェンジは普通にあります」
「そうか〜」
「ええと弊社グループの苦情二番目でございますが、件数としては二番目ですが重要性では一番と思います。私どもはISO14001の要求事項の充足か否かを見てほしいと考えております。
ところで昨今、認証機関がいろいろなことを語っております。先ほども出ましたが、御社は『経営に寄与する審査』をすると社長がいろいろなところに書いています。この意味を教えてほしいのです。おっと口頭ではなく公文でご説明願います。もし御社の審査がISO14001の要求事項以外を含むのであれば他の認証機関への転注を考える予定です」
「ちょっと、ちょっと待ってください」
「磯原さん、2年前のこと、御社ではISO14001のAnnexも要求事項とみなせと要求してきた(第7話)。それとこれは矛盾するのではないかね」
「朱鷺さんがおっしゃることは一理あります。しかしながら弊社グループの環境計画は公表されており、あの時の工場のISO向けの環境実施計画はそれと異なっていました。すると審査員はその違いを問題にしなければならなかったはずです。もし弊社がマスコミに発表している数字とISOの資料の数字が異なれば、それは異常です。
つまりAnnexがあろうとなかろうと審査で検出しなければならないのです」
「うーん、そうなるのか」
「朱鷺さん、社長の語る経営に寄与する審査って、どういうものをイメージしてますか?」
「わしが聞きたいよ。あの人も流行に乗りやすいからなあ〜」
「これは内部で検討することにいたしましょう」
「お願いします。ええと、もちろんこれは経営に寄与する審査だけでなく、資料に記しておりますが『御社のために』とか『老婆心ながら』という枕詞に続くアドバイスも含みます」
「要するにあれですな、余計なことを言うなということでしょう」
「ええと三番目は不適合には、証拠と根拠を明確にしてほしということです。これは従来からお願いしているところです」
「なかなかそう簡単にはいかない場合もあるからねえ〜」
「これは以前からISO17021にある認証機関への要求事項でした」
「法に関わるものも当然、証拠・根拠を明確にだね」
「もちろんです」
「審査員が法律をうろ覚えでは、問題提起できないということかな?」
「理屈から言えば、審査側が証拠と根拠を明示できないなら不適合にできません。ですから記述としては『○○が法規制を満たしていることの証拠が提示されなかった』という書き方ならどうでしょう。法に反しているとは書いてませんが、法規制について十分調査していなかったという不適合にできるのではないですか。
というか適法か違法かは、裁判所もしくは行政以外判定できません。ISO審査で違法であると断定することは危険です。極論すれば審査員が訴えられる危険があります。審査員は合法であることの説明がないとしか言いようがありません」
注:通常の消防施設が適正か否かは消防署が決定するし、カテゴリーにより税務署とか保健所などが決定する。弁護士だって断定できない。異議あれば裁判になる。
「なるほど、違法だといえば責任問題になる。表現は十分注意しなければならないね。朱鷺さん、所見報告書の文章の例文集を作らなければならないね。それで良いね?」
「報告書作成のエクセルのマクロを見直せばよいかな」
「それから、以前から審査を受けた企業で問題にしていたことですが、審査で不適合となったものが、その後行政などに相談した結果問題ないとなったものは、報告書から指摘事項を削除して欲しいということです」
「具体的にはどういうケースですか?」
「実際の例ですが、審査員が危険物貯蔵所に避雷針がなく法に反しているとして不適合にした。その後、消防署に相談に言ったら、法改正前の施設なので避雷針不要ということだったというものがありました」
「それは避雷針があったほうが安全だとは言えないのかね?」
「そういう見方であればより安全サイドになると思います。当然ながら不適合ではないですね。
報告書の記載は『違法である』となっていました」
「しかし、よく考えると、それは今の話で証拠・根拠がしっかりしていれば、発生しないのではないかな? つまり双方ともしっかりした根拠を知らない。だから合法であることを確認していないという記述ならどうだろう?」
「そこが問題なのですが、消防法の改正が重なっており、現時点の法律、施行令、施行規則を読んだだけでは合法であることがわからないのです。つまり法改正時の既存施設についての通知を辿ことができません。ですから審査員が法令(法律/施行令/施行規則を合わせた呼称)の最新版を見ただけなら判断は正しいのです。
そして企業の方は、担当者が代替わりしてしまっていて、設備はそのまま、消防署の立ち入りでもいつも問題なく、現行法令に合っていないことに気づいていないのです。
審査員の指摘はもっともであり、担当者に気づかせたという効果は立派です。しかし調べた結果法に違反していない、よって指摘事項となる根拠がないと判明したわけです。ですから企業側としては審査報告書から不適合を消して欲しいわけです」
「話を聞けば報告書を修正するのはもっとものように思うが、朱鷺さん、どうですかね?」
「報告書をそのままにしておいた方が、間違いないということはないかね?」
「今申しました事例以外にも、法違反として指摘されたものが、審査終了後に問題ないと判明したものはたくさんあります。
今はほとんど電子マニフェストになりましたが、まだ数パーセントは紙マニフェストを使っています。全国産廃連の紙マニフェストには『交付担当者』欄には『氏名』と『印』の記載があります。御社の審査で『氏名』のところにサインはあったけど、『印』のところに押印がないという理由で不適合になりました。法令で署名とあるので押印は不要と反論しましたが、審査員は帳票に押印欄がある限り押印がないものは違法だとされました。
以前、東京都環境局に確認していたものでしたが、審査中に再度環境局に問い合わせ中に審査終了してしまい、翌日環境局に再度確認したが押印は不要と回答を得たと連絡しても報告書は直せないということで押し切られました。
そういうルールになっているのかどうかどうなんでしょう?」
「知らないな〜、調べておきましょう」
「このようなケースも多々あり、良いほうになるのだからという考えでは困ります」
「要するに審査時にもめたことを審査後に確認した結果問題ないことが判明したら不適合から削除しろということだね」
「左様です」
「よし、そうすることにしましょう。但し弊方でも処理をしなければならないから翌日とかに期限を切りたい」
「そういうケースで、偶々後日問題でないことを知ったというケースはありません」
「えっと、どういうこと?」
「すべて審査時に審査側・企業側で議論になり、最終的に押し切られたというのが実態です。
よってそういうケースは報告書に同意しない、当然サインしないという運用でいかがですか?」
「ええ、それじゃ審査がクローズしないよ」
「でも双方の意見が一致していないのですから、そもそもクローズしていないじゃないですか。
あのですね、こういう事例を見て、改善が必要だと思いませんか? それとも当然だとお考えですか?
私どもは客です。お客様は神様とは言いませんが、対等ではあるでしょう。お互いの意見が相違するなら、行政とか弁護士に相談してはっきりさせてから、報告書をまとめるというのはおかしくありません」
「弁護士!それはちょっと大げさではありませんか」
「お互いに良い仕事をしようと命を張っているわけで、意見の相違があればしっかりと調べなければならないでしょう」
「審査時に議論になるというケースはいかほどあるのですかね?」
「弊社グループで御社以外も含めて認証組織は約140です。そこで毎年5ないし8件くらい発生しています」
「4〜6%か、少なくはないな。審査の評価を、弊社の評価を上げるには対応するしかないでしょうね」
「よろしくお願いします」
5時を若干過ぎて、磯原と石川は認証機関の所在しているビルを出た。
「いやあ、大変勉強になりました。磯原さんは上げ足を取られないように話しますね」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。私は素直に話しているだけだ。
多くの人は余計なことを話したり、話さなければならないことを話さなかったりする。今日 最後に議論になった報告書を修正する件なんか、もう時間も時間だから切り捨てようと考える人もいるんじゃないかな。でもそれによっていかほどの人が困っているかを考えると、切り捨てなんてできない。
石川さんもこれから対外的あるいは内部での話し合いというもので、面倒くさくなることも多いだろうけど、譲れないところは今回は提案せず次回に……なんて思っちゃいけないよ。私たちは多くの人の期待を背負っているのだから」
「承知しました」
本日の説明
審査で問題があれば、他の認証機関に問い合わせしたりするのかというご質問があろうかと思います。
当然です。
問題となったわけですから他社と比較検証するのは当然です。規格解釈はまっとうなのか、態度、言葉使いは世間並なのか、特に自社が審査を受けている認証機関が1社の場合は他社と比較ができませんから。
この物語は認証機関が業界設立で、転注が簡単でないという制約があります。そういうしがらみがなければ、即転注なんでしょうけどね。
ISOの窓口だって役務の発注担当者であるわけです。
今回は絵が少ないって?
時間に追われておりまして……
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おばQさま >審査時に審査側・企業側で議論になり、最終的に押し切られたというのが実態です これは審査アルアルですね。私が担当していた時は納得するまでサインしませんでしたが、今の担当は、言われるがままに不適合を認めてサインしてしまいます。 議論とか論争はいけないと思っているのか、人によるとか言えない気がします。 >それじゃ審査がクローズしないよ 審査員は決まった時間で終わろうとするので当然ですが、受験側でも「とにかく終わらせたい」と思うのでしょうね。 お互いに見解が一致しなければClose出来ないのは当然だと思いますが、双方が終わらせたいのなら曖昧なままにCloseしてしまうでしょうね。 条件付きという事ならば理解できますが。 本旨と関係ない事ですが、勉強になりました。 >転注 漢文学の用語だと思ったのですが、ビジネス用語であるのですね。 知りませんでした。 >名刺を両手で、足は組んだらいけない 私は知りませんでした、というより外資では要求されないですね。 マナーも、業界や時代により変わるとご容赦を。 ジェンダーや人種問題については外資の方が厳しいかもしれません。 「ガイジン」も「女の子」もアウトです。 |
外資社員様 いつもご指導ありがとうございます。励みになります。 その1 <記載箇所が見つからなかったのですが>ISO17021では、審査側、受査側が同意しない場合、審査リーダーが報告書をまとめて提出できることになっていたはずです。 そのルールがまっとうかどうかは議論の余地がありますが、報告書そのものは認証機関の内部文書であるわけでそれもありかと思います。 ただ法に反しているから不適合というとき、監督官庁に確認して問題ない場合、不適合を削除してほしいというのはまっとうな要求と思います。 その2 審査でなく契約と考えると、買い手が100万、売り手が120万で折り合わなければ決裂ですよね。 契約成立が目的かといえば、そうではないと思います。利益のあるビジネスが目的だと思いますが? 時代劇など読むと、お店に侍が来てこれを買うといって商人が〇両ですというと、わしは〇両で買うといってもっていってしまうなんて場面がありますが、審査はあれと同じような気がします。 その3 転注が六書とは知りませんでした。どこでも使われていて、私は注文先を転じる略とばかり思っていました。 その4 名刺を両手で渡す・受け取るは、一般的なマナー本には載っています。卒業証書を片手で渡さない・受け取らないと同じ発想でしょう。 足を組むのは悪いという考えは、昔正座していたことかららしいです。片膝立は失礼から、足を組むのが失礼となったようです。 実際問題として、足を間に机があれば気にならないと思いますが、低いテーブルとか間になにもないときはいささかみっともないと思います。端的に言えばズボンのすそが上がって脛が見えるのを嫌うようです。 まあマナーとは時代によって変化しますから何とも言えません。 |