ISO第3世代 99.認証の意義2

23.08.28

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

*****

磯原石川
昼過ぎ、磯原は石川を連れて港区で地下鉄を降りた。この付近にはISO認証機関が結構ある。今日は品質環境センターから、審査の質向上のための検討会をするので参加してほしいという連絡があったのだ。
石川が同行するのは、石川が希望して増子がOKしたからだ。本社にいるなら、同業者とか認証機関とか廃棄物業者と顔をつなぐのは良いことだ。というか仕事上お互い必要なことだ。

打ち合わせは3時からとあったが、まだ2時少し前だ。というのは理由がある。スラッシュ電機の審査に来た三木審査員から、事前に打ち合わせをしたいという依頼があった。
何か魂胆があるのか、台本を作ったからそれに合わせてほしいとか?
磯原は毎度なにごとも気負わずあるがままに、レットイットビーである。もっとも磯原にとってビートルズは歴史に過ぎない。


今時ほとんどの会社で受け付けは、無人で電話があるだけだ。磯原は受付の受話器を取り上げて三木氏を訪問したことを告げる。すぐに三木氏が出てきた。
4人も入れば満杯になりそうな狭い会議室に入る。お客様との打ち合わせ用なのだろう。同じ形の部屋が五つ六つ並んでいる。
シエアハウスの居室の面積は都条例(注1)で7平米以上とあるが、こういった打ち合わせ場についての規制はないようだ。とはいえ、万が一の時に避難する上で問題ないのか、磯原はいささか疑問を感じた。ドアが一か所で奥に座った人が地震の時、机と椅子の隙間を通って避難するのは慌てるだろう。

磯原と石川が着席すると、三木は部屋を出て、コーヒーの紙コップを3個持って入ってきた。

三木 「いつも大変お世話になっております。また先だっては、大変ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ありません」

紙コップ
紙コップ紙コップ

磯原 「三木さん、あの件はもう落着していますし、三木さんに責任があるわけでもありません。
それよりも三木さんからのメールでは、打ち合わせ前にお話があるとか、それを進めてください」

三木 「承知しました。今回の問題の原因ですが、数え上げればいろいろあります。いずれも小手先の是正処置ではどうにもならないと考えております。
それと私も今年70になりますので、実は昨年末に契約審査員をやめる予定ではありました。ただ昨年末はあの問題でいろいろありまして、来月にでも契約を終えるつもりです。
ということで、私はこれからの会議で言いたい放題対策を提案するつもりですので、まずはそれをご理解してほしいと思います」

磯原 「左様ですか。三木さん個人のプランはともかく、私どもとしては根本的な是正策が提案されなければ、御社に継続して審査を依頼することはできないと考えております」

三木 「私の説明が悪く誤解されたかもしれません。私はもう関りがなくなると言いたいのではありません。組織の中にいては、なかなか言えないような抜本策を語るつもりなので、そのバックアップをしてもらいたいというお願いです」

磯原 「ああ、そういうことですか。確かに抜本的な手を打たないと、改善にはならないでしょうね。とはいえ問題はいろいろあると考えています。
私どもで改善を求めたいことについて検討してまいりました。本日はそれを御社に提案したいと考えてまいりました」

三木 「おお、そうでしたか。多面的なものなのでしょうか?」

磯原 「そうですね。事前に説明資料をお渡ししておきましょう」

磯原は三木にA4で数枚つづった資料を渡す。
三木は一目見てギョッとした顔をする。

三木 「いやはや、包括的なものですね。私もこれほど多面的に見て、改善策を考えておりませんでした」

磯原 「当然ながら、弊社から見た問題に対するものですから、御社が顧客各社から審査後に得ているアンケート回答や、御社内部でのことを反映すればもっと幅広いでしょうし私どもが気付かない問題もあろうと思います」

三木 「一般の企業さんは、御社ほど審査を真剣に考えていません。審査が終わればISOなど忘れてしまいます。
ですから認証機関に物申すなんてところはまずありません。それだけ真剣じゃないのか、あるいは認証機関を一人前にみなしていないのか……

御社の提案を一瞥した限りでは私の意見と重なるところが多いです。では打ち合わせのためにここで意見調整を要することはないでしょう。私が提起することについてバックアップしてほしいということはありませんが、私へのあからさまな否定論が出たときは何か発言してほしいなと思います」

磯原 「私も口から先に生まれてきたような人間ですから、異議あれば発言させてもらいます。必ずしも三木さん側とは限りませんけど。
ではもう特段、前打ち合わせは不要でしょうか?」

三木 「そうですね、せっかくですから弊社の現状とか審査の状況について、雑談というか情報交換をしたいと思いますがよろしいですか?」

磯原 「三木さんからお話があるなら伺います」

三木 「では時間をお借りして……まず現状、ISO認証件数は減るばかりです。JAB認定の認証件数の推移のグラフはこんな感じです」


認証件数推移 このお話は2019年時点なので、左に2019年までを示す。
右図は現時点(2023)まで示すが、大して変化はない。
認証件数推移

石川 「うわー、もう10年以上、減る一方だったのですか?」

三木 「そうなのです。ISO9001は13年連続、ISO14001は10年連続で減少してます。
当然ですが売上も減り損益も悪化してきています。磯原さんは認証機関の人件費など費用構造については十分ご存じでしょうけど、業界設立の認証機関は出向者の派遣元からの人件費補助がなければ成り立たちません。

それだけでなく審査工数のかなりの部分を契約審査員、つまり私のような人に依存して薄めているわけです。
そんなわけで今年の大柴さんとか3年前の寒河江審査のような方を使わないとならないわけです。
契約審査員に限らず、規格の知識やマナーの要求レベルを上げれば、人件費は上がるでしょうね」

磯原 「三木さんのおっしゃるのは分かりますが、それは売り手の論理ですよね。買い手は高い品質とは言いませんが、基準を満たす品質を要求します。審査単価が安くても、規格の理解も怪しいサービスは買いません。
言い換えれば、審査の品質を維持できないならビジネスから撤退してほしい」

三木 「確かにそうですが……」

磯原 「先ほどお配りした資料のトップに記しておりますが、御社の社長は理解不能なこと、具体的には『経営に寄与する審査をする』とウェブサイトで語っています。経営に寄与する審査とは何でしょうか?
認証審査とはなんなのか? 審査が提供するものは何か? 社長はそれを理解されているのでしょうか」

三木 「どうでしょう、私にも分かりません」

磯原 「『ISO/IAF共同コミュニケ』というのをご存じと思いますが、あれに記してある以上のこと、以外のことを提供するのでしょうか?」

三木 「あまり虐めないでくださいよ。私も社長方針をおかしいと思いました」

磯原 「ここでは三木さんが御社代表に思えてしまいまして……御社に限らず審査員の中には『御社のためを思って』と前置きして、規格以上の要求とか、規格と無縁の要求をされる方がいます。御社の社長方針に沿った審査をしようとしているのかと推察します。
だから社長はISO規格に準拠した審査をすると言って欲しい。


注:「準」の意味は「似たもの」「近い扱い」の意味であるが、「準拠」とは「よりどころ通り」「全く同じ」の意味である。
なお、「准教授」「准尉」の「准」は「身分や扱いが次のもの」の意味で上下関係の「下」である。

磯原 私は審査など簡単なほうが良いとか、不適合を出さないでほしいという気はないです。弊社では監査部が工場や関連会社の環境監査をしておりますし日常管理もしっかりしているつもりです。しかしチェックが漏れることもあるでしょうし、マネジメントシステムの一層の向上になる気付きをいただければ幸いと思っています。
それには御社の審査がISO規格通りであることを求めます」

三木 「現状がそうでないのは審査員の力量の問題ですか?」

磯原 「いえ、そうではありません。それは認証機関の経営者が規格の意図を理解していないからだと考えています」

三木 「なるほど、審査の問題を解決し、審査の質を向上させるには認証機関の経営者の力量向上が必要ということですか」

磯原 「類似の例ですが、有益な環境側面という考えがあります。某認証機関の社長が、講演とか本で有益な環境側面を把握して改善を進めようと語っていますね。弊社は、ああいった認証機関に審査を依頼する気はありません。我々の望むのはISO14001の審査です。

ISO規格と異なるオリジナルな規格解釈を唱える人には依頼する意味がありません。不良品とわかっている部品・材料を買う企業はありません。

また審査員の中に、全員参加なんて騙る人がいますが、規格にはそんなこと一言もありません。
そもそもISO規格の理屈は日本流じゃありません。ISO規格の原則は使用者側が手順、基準を決めて、従業員にその実施を命じるという考えです。

まず経営者がISO規格を理解して、どんなサービスを提供するのかを旗幟鮮明にする。そして隷下の審査員にその趣旨を徹底し、それに則った審査をさせることでしょう。もちろんばらつきは一定範囲内であること」

三木 「まず経営者はしっかり規格を理解して、それに沿った方針を立て、審査員に徹底することですか」

磯原 「こんなこと言っちゃ失礼なのは分かりますが、審査で提供するサービスとは、そういうものではないのですか。規格とはstandardの訳で、standardとは基準という意味です。
提供する製品・サービスは基準通りで、それより上でもなく下でもない。付加価値とか認証機関独自なんて全く要らないんです」

三木 「そうなんでしょうなあ。しかしそうなると認証機関による独自性がなくなること。その結果、認証ビジネスは完全なコスト競争になる。認証ビジネスは袋小路ということですか?」

磯原 「そうでしょうか? 現実にはそれができない認証機関が多いのではないですか。
独自性を出そうと、ありもしない要求事項をひねり出した認証機関。経営に寄与するなど意味不明なことを語る認証機関、ビジネスマナーや社会通念も教えらえずトラブル起こす認証機関、そういう中でマナー良く、規格通りの審査をするなら十分差別化ができ競争優位を取れるでしょう」

三木 「言い訳は無用、基本通りしっかりやれということですな」

磯原 「認証機関と審査を受ける企業の関係は時と共にいろいろ変わってきました。
1987年にISO9000シリーズが制定されたとき、審査会社はISO規格が制定されて売り手と買い手の契約によって審査を行う代行者まさに『顧客の代理人』だったわけです。
監査員(審査員ではない)は顧客の要求事項から逸脱することなく、顧客の代行をしたにすぎませんから。

その後、契約と無関係に供給者から依頼を受けて審査をするという第三者認証においても、『顧客の代理人』を自称したのは妥当なのでしょう。だって当時の審査員(監査員ではない)が独自の審査基準の加除などしたとは思えません。

その後2000年に、ISO9001が品質保証の規格から品質マネジメントシステムの規格に変わったとき、審査及び認証は顧客から見たものから、供給者から見たものに変わったようです。
でもそれもおかしい。そういうスタンスで作られた規格適合なら、認証は誰にご利益を与えるのか、そこんところが分からない。

別の観点で考えると、ISO認証が顧客要求の管理方法を満たしたとして、それは供給先の材料調達から、開発・設計と製造プロセスそしてロジスまで信頼できるということにすぎない。供給者にしても顧客にしても、なぜ企業が良くなるのか分かりません」

三木 「ISO9001が品質保証から品質マネジメントシステムの規格になっても、それが測る企業の良し悪しは財務とかではなく品質マネジメントシステムの良し悪しなんですよ。
会社を良くするといっても、環境マネジメントシステムの範疇で良くするということでしょう」

磯原 「ならば形容詞なしで、企業を良くするとか経営に寄与するというのはどうつながるのか?」

三木 「そこんところは単なる宣伝文句なのか……私には分かりませんね」

石川 「発言してよろしいですか?」

三木 「ああ、もちろんです」

石川 「ISO認証する理由って何ですか?」

三木 「一番は顧客からの要請らしいね」

石川 「私もそう聞いています。となると外部要求によって認証するのは、会社を良くしようなんてことじゃなく、とりあえず注文をもらうためということになります。
私は好奇心があるのでISO認証の古い雑誌とかを読むのです。その中に初期にISO9001認証した企業は欧州へ輸出のためだったが、1996年頃から要求されなくても会社を良くするために認証する企業が増えてきたというのがありました。
とはいえISO9001に会社を良くすることなんて要求事項はありません。三木さんがおっしゃったようにISO14001なら環境マネジメントシステムの範疇でしょうし、当時のISO9001なら品質システムの中での改善なはずです」

磯原 「うん、それで?」

石川 「1996年頃から義務ではなく会社を良くするために認証する企業が増えてきたと言ったのは、実は建前であって本音はISO認証が一巡して客が来なくなったから、認証を求められていない企業も認証してほしいのが本音だったということです。
そして今、ISO14001で認証すると会社が良くなる、会社を良くするために認証するということの本音は、認証機関の仕事がないから認証してよということじゃないですか」

三木 「ああそういうことか。経営に寄与するというのは、認証を受ける企業の経営ではなく、認証機関の経営に寄与するから認証してほしいと」

磯原 「なるほど、それなら認証機関の社長が『我が社の審査は経営に寄与する』というのもありなのか。
そうすると経営に寄与するというのはおかしいというのは、野暮というものですね」

石川 「そしてISO14001認証を求める企業は減っていますよね」

磯原 「そうなの?」

石川 「だいぶ前に公正取引委員会が出した通達で、ISO9001認証が必要である理由がなければ、認証を要求してはならないとあったと思います(注1)
そしてグリーン調達で調達先にISO認証を要求する企業はほんの少数を除いてありません。その少数の企業は、なにか正当な理由があるのかどうか、私にはわかりませんが皆無ではないです。
過去から環境マネジメントシステムの認証を要求する企業は多々ありましたが、ISO14001と限定せず、他の簡易EMSなどを含めていました。この場合は独占禁止法違反にはならないようです。

しかし時とともに、EMS認証の要求は減少しています。そして2010年以降はEMS構築要求というものも減っています。
その代わり欧州の含有化学物質規制の対応のために含有化学物質管理を要求しています。これは書面上はほぼ100%です。だってEUの法的な規制ですから顧客企業からすれば必須、当然供給者に対してねずみ講的に要求するのも当然です。公正取引委員会もケチつけようがありません」

グリーン調達におけるEMS認証要求割合推移

磯原 「うん、それで?」

石川 「現在は、ISO14001認証を要求するところもなく、認証する人は自分の意志でしているだけ、そして認証の価値は認証した自分が評価するというだけ、多くの企業はどこが認証しようとやめようと気にもしないという状況ではないでしょうか。
ならば経営に寄与すると言われればそうだと思い、ISO14001は儲かる規格と言われるとそれを信じているということです。
ISO14001は儲かる規格って言ったのは、どこの認証機関の偉いさんだったか忘れましたけど」

三木 「そうすると石川さんは、認証なんてどうでもいいというのかね?」

石川 「認証が有用だから価値があるのではなく、認証そのものが自分たちの誇りになるなら、認証を受ける人が好きなものを提供するというのもありなのかと」

三木 「だけどISO規格の中身は所与のものだし、国際的にIAFが審査の手順や基準を細かく決めているから、客が求めるからとアレンジできるわけではない」

石川 「分かります。でも既に規格の解釈に基づいて行われているのが実態なら、ある程度の裁量範囲を認めるってのもありますよね」

磯原 「でもそもそもはISO認証している企業なら、同レベルだろう、互換性があるだろうという期待はあったわけだよ」

石川 「認証する企業の多くが自分のためならば、他社と同じレベルであることを望みますか? 他社と比較する気にもならないでしょう」

磯原 「うーん、どうでもいいということか
いや、待てよ、序文にもあったな、ええと『組織によって順守義務、環境方針のコミットメント、環境技術及びパフォーマンスの到達点が異なる場合であっても、共にこの規格の要求事項に適合することもある』だっけか」

三木 「お見事ですな。よく覚えていますね。
石川さんは、ISO認証がそういう風になるべきだとお考えですか?」

石川 「いえいえ、そんなだいそれたことを唱えませんよ。認証することがビジネスというなら、そういう割り切りもあると言いたかっただけです」

三木 「ええと……それでは」

石川 「三木さんがおっしゃったじゃないですか。認証件数の減少、コストの問題、人件費と審査員の質、そういったことを改善するのに、手順や基準を所与だというのではなく、自由に設定すると仮定して打破できるかどうかですよ」

三木 「ああ……言い換えると、そういうことを考えなければならないところまで来ているということか?」

石川 「自由奔放に考えると、審査員が権威者のような態度をとったほうがステキという依頼者もあるかも知れません。まあ暴力をふるうのは困りますけど。
皆が皆、営業マンのように礼儀正しく、失礼なことを言わないのが良いのか、俺についてこいって強引な審査員のほうが好まれるのかどうかもありますね」

磯原 「まあ当社の場合の調査結果では、マナーアップの要求が9割だったけどね」

石川 「自由奔放にも限度がありますよ。私の言いたいことは、固定観念にとらわれずに打破してはどうかということです」

三木 「石川さんの自由奔放なご意見は拝聴に値すると思いますよ。しかし今、目の前の問題対策においては、マナーアップ、規格通りの審査ができること、そのために規格の正しい理解が必須であり、それをどうしようかというもとが眼前の課題ですね」

磯原 「眼前の課題はそれとして、長期の課題はもう見通しが付きませんか?」

三木 「長期ですか〜、長期といっても5年程度はこのままでしょうね。
今でもQMSとEMSだけでなくISMSやエネルギーマネージメントとか片手以上あります。でもMS認証全体の数は最盛期のQMSとEMSの合計より少ないのです」

注:QMSの認証のピークは2006年の43,564件、EMSは2009年の20,799件である。QMS/EMSの合計の最大値は2007年の63,238件である。
だが現時点、2023/08/26のJAB認定のMS規格9種類の認証件数合計は37,486件である。そしてQMS/EMSはその95%を占める。ISO5001の認証件数はゼロだ。期待できるのがISO22000(食品安全)の1,272件くらい。

磯原 「ほう〜、QMSとEMSに続くヒットはなしですか」

三木 「これからもMS規格の種類は更に増えていくでしょう。
ただそのときトータルの認証件数が増加していくかというと、どうでしょう」

石川 「規格が増えても総認証件数が増えないのはなぜですか?」

三木 「それが分かれば苦労はないと言いたいですが、新しい手法とか管理技術が表れてそれを取り込んで改善できるかと思うところは多いでしょうね。取り込む方法の最善は認証を受けることです。

でも、いったん認証を受けて、その長所を理解したなら顧客から認証の要請がなければ認証を続ける意味はない。他方、認証の効果を見いだせなかったとき、これまた顧客からの要請がなければ認証を続ける意味はない」

石川 「論理的な推察ですね」

三木 「アハハハ、論理的か非論理的か……ともかく長期的に認証を続けるところはないでしょう。顧客や官公庁からの認証要求がなければ」

磯原 「ちょっと待ってください。今の話は国内限定ですよね。世界中のISO認証件数は、年と共に増加していると聞きましたが」

石川 「私はISO認証に興味があって、毎年のISO surveyを見ています。それによると年々認証件数は増加しています」

三木 「日本は例外だということですか?」

石川 「日本は例外じゃありません。先進国はみなわずかに減少傾向か、ほとんど増減がない」

磯原 「じゃあ世界全体で増加しているとは……ああ、中国か」

石川 「正解です。中国を除いた世界全体はわずかに減少です。今年(2019年)の全世界の認証件数のうち、QMSの35%、EMSでは48%を中国が占めているのです」


ISO9001 世界全体と中国の推移ISO14001 世界全体と中国の推移

注:上図はこのお話のときの2019年までのグラフであるが、2021年までのグラフでは中国を除いた世界全体でも若干増加している。
但し2019年以降数字の取り方を変えており、過去との連続性は分からない。
*参照

大安売り

三木 「もう世間では流行遅れになったものを、中国で売っているということか。在庫一掃のクリアランスセールか」

磯原 「これからは名目でなく実質が伴う、EUの含有化学物質の第三者検証とかが伸びるでしょうね」

石川 「日本も同じく含有化学物質の管理の義務が始まりましたからね。そういうものが求められるでしょう」

三木 「EUが含有化学物質規制を始めたから日本も右倣えだ。今の世の中、国によって規制が異なれば、その差額で儲ける人が出る。皆横並びにならないと商売は公平ではない」

磯原 「ならば化学物質管理の第三者認証があれば売れるでしょう」

三木 「そういうのを始めた認証機関もあったが、意味がなければ客が付かない」

石川 「意味とは何ですか?」

三木 「含有化学物質の認証を得れば欧州に書類を出さなくてもよいとか、あるいは万が一不具合な物質を含有していても許容されるとか、要するにご利益がなければ認証を受ける企業はない」

磯原 「それは当たり前ですよ。今のISO14001だって同じジレンマです。違反や事故があったとき、認証機関は企業が嘘をついたといい、社会からも認証機関からも責められるのは企業だけです。
審査した認証機関に責任はないのでしょうか?」

三木 「それはしかたないなんだよ。認証機関はそれほど時間をかけていないし、そもそも遵法もリスクも見ていない」

磯原 「でも認証機関も世の中と一緒になって違反した企業を責めてますね。認証取消もするし認証停止もする。認証を受けた企業から見れば踏んだり蹴ったりです」

三木 「すみません。もう時間となりました。会議室に行きましょう」



うそ800  本日の振り返り

物語を変えても、いつもたどり着くのは認証の意義への疑問だ。
私は認証の矛盾というより、制度設計を間違えたのではないのかという気がする。 こりゃ参ったねえ〜
ISO認証と会社の格付けと比較して考えたらどうだろう? 格付けをBBにした会社が倒産したら、倒産した会社を格付けがBBでありながら倒産するとはなにごとだと責める投資家はいない。
投資家は倒産する企業をBBに格付けした格付け会社を責めるだろう。それは理屈的におかしくない。

もしISO認証している企業で違反があれば、一般社会は認証機関を責めてもおかしくない。だがマスコミも主婦連も一般人も、認証機関を責めないし、認証制度に疑問を持たない。
そこを出発点にして、みんなで考えないと本質的な是正にはならない。

私が納得できないのは、自分が審査して認証した企業を、うそつき呼ばわりする認証機関は、誇りも恥もないのだろうか?
嘘をついた企業の認証停止をする前に、審査した認証機関の認定停止をすべきだと思うのは私だけか?



<<前の話 次の話>>目次



注1
東京都建築安全条例19条

注2



うそ800の目次に戻る
ISO 3G目次に戻る

アクセスカウンター