ISO第3世代 109.会社規則を読もう1

23.10.02

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは


2019年3月下旬

人事部と総務部の共同で、次年度は会社規則制定100周年行事として、会社規則の認識を高めるキャンペーンをすること、 eメール そのための推進委員会を設けるという通知が来た。
そして環境管理課には委員の派遣が要請された。派遣者は柳田と指名されている。

磯原は一読して、確かにこの仕事には柳田しかいないと思う。メールに課代表として頑張ってほしいとコメントをつけて柳田に転送する。
数分後、柳田から返信が来て「お任せあれ」とある。
そもそも提唱者は柳田さんだから間違いない。あとは放っておいても大丈夫。



*****


スラッシュ電機本社 某会議室
本日は「会社規則の認識を高めるキャンペーン」推進委員会の第1回打ち合わせである。
柳田は手ぶらで、いやボールペンだけ持って指定された会議室に来た。
案内状によると、主催は総務部と人事部、推進委員を出すのは 経理部、法務部、営業本部、関連会社部、監査部、その他普通の部署がいくつか、総勢10名くらい。

下山さん 「定刻になりましたので、始めさせていただきます。
まず主催者を代表して人事部の桃田参与に挨拶をお願いします」

桃田 「昨年は我が社が創立されて100周年でした。長いようですが、私が入社して33年になりますから、せいぜい3代くらい前でしかないとも言えます。

会社は法人ですから生物である私たちと違い、寿命というものはありません。倒産とか解散などなければ永遠に続くわけです。
しかし日本で創業100年を超えるのは4,500社、日本の法人数は360万社ですから、その0.1%に過ぎません。また創業からの平均年数は34年だそうですから、創業100周年を迎えたということはものすごいことです。

じゃあ会社を続けていくためにどうするかとなるといろいろありますが、ひとつには成文化したルールが必要です。法律で罪刑法定主義という原則があります。罪とするには、法律でそれをすると罰すると決めていなければならないことです。企業においては、仕事が文書で定められていなければならない。

会議室机 ところで法律は禁止とか義務などしか決めていません。しかし会社規則は手順です。手順とは5W1Hですね。誰が・いつ・どこで・何を・なぜ・どのようにするかを決めているということです。ですから法律とは若干性格が異なります。
法律と違い、会社規則に書いてある通りに行動すれば、職務が達成できることになっている。もちろん営業などは相手次第ということもありますが、

じゃあ従業員は皆会社規則を読んで仕事をしているかといえば、皆さん、そうは思っていないでしょう。入社したときに、休暇の手続き、遅刻したとき、月給の振り込みなどを教えられるけど、それが会社規則に決めてあるとは知らない人が多いのではないかな。分からないことがあれば庶務担当に聞いてというのがせいぜいでしょう。

さてその仕事の基本である会社規則はいつ制定されたのだろうとなりますと、創立2年目だったそうです。ですから今年というか次年度は、会社規則制定100周年になります。
もちろん今の会社規則がそのときに作られたわけではありません。仕事の方法を文書化したのがそのときということです。
仕事の基準や手順は時代とともに、法規制も社会通念も世の中の需要も取り巻く環境がどんどん変わっていますから、会社規則はその変化に合わせて見直さなければなりませんし、見直されてきました。
そういうことで、会社規則を知りそれに従って仕事をすることは必須です。

会社規則は仕事のルールであり手順でありますから、仕事をするにはそれを理解していなければならない。しかし会社規則をよく知っている人は少ないというわけで、会社規則制定100周年を機として会社規則をしっかり身に付けてもらおうと、この「会社規則の認識を高めるキャンペーン」をやろうということになりました。

何をどうするのかと疑問があると思いますが、人事部と総務部が活動計画案を作りましたので、今日はそれを叩き台に議論をしていただきたいと思います。言い出しっぺの下山君の話を聞くと、いろいろアイデアがあるようです。
このキャンペーンは来月4月から来年の3月まで1年間の長丁場です。皆さんのご協力をお願いします。もちろんこれも仕事ですから真剣に進めてほしいですが、あまり深刻にならす、皆さん自身が楽しみながら活動してほしいと思います」

下山さん 「ありがとうございました。
桃田参与の話にありましたように、会社規則制定100周年記念行事として行います。対象範囲は本社と支社とし、社員ばかりでなくその敷地内で働くパート・契約社員・派遣社員及び関連会社の従業員とします。

みなさんがどうして選ばれたのかといいますと、仕事で会社規則と密接に関わっていること、従業員に会社規則を守らせる職務であること、また船頭を多くしても生産性が落ちますから、そういった中から会社規則に詳しいとか過去に会社規則に起因する問題に係った人を一本釣りしたと申しましょう。

ではなぜこのキャンペーンをするのかという説明です。
残念でありますが、毎年規則違反はかなりの数発生していますし、それにより懲戒される人も絶えません。
懲戒というのは罰を与えることですが、先ほど桃田参与が申しましたように、日本が罪刑法定主義であると同じく、我が社ももちろん罪刑法定主義です。単に上長が処罰したいと思っても、社会常識やマナーに反するとかでは懲戒にはできません。ですから懲戒処分を受けるとは会社規則に反した行動をしたからです

昔はセクハラ禁止なんて会社規則にありませんでした。セクハラとかパラハラが言われるようになって、そういうものが会社規則に追加されてきました。そういう流れは法律と一緒です」


注1:会社規則に反することで懲戒処分できる根拠として「規則の定めるところにより懲戒処分をなし得る」という最高裁判例がある。判例はそれ以降の判決の根拠となり、判例法と呼ぶ。

言い換えると就業規則などに定めてない事由、例えば会社と関係ない犯罪を犯したときは無条件に懲戒処分はできない。

社外における違法行為については、有罪判決がでなければ懲戒にはできない。被告人として長期の身柄拘束などされる場合に備えて、予めそういった場合の処置を決めておく必要がある。

下山さん 「懲戒といっても懲戒解雇ばかりでなく、軽いものは注意を受ける訓告とか、戒告になると始末書を出します。中程度なら出勤停止とか減俸とかもあります。
会社規則を知っていて違反したなら悪意と言えますが、交際費で落とせると思ったとか、文書を保管期間前に捨ててしまったとか、期日までに出張旅費精算をしなかったとか、無断欠勤したとか、会社規則を知らないために違反してしまうこともあります。

また本社支社ではISO14001を認証しています。以前はISO審査のために、方針を覚えろとか、この文書は作成保管をしっかりしろという指示でありました。
しかし3年前ですか、そういう方法でなく会社規則を守っていれば審査は問題ない、小難しいISO用語など知る必要がないという方法に舵を切りました。わざわざISO審査の準備はいらないということです。
その代わり会社規則をしっかり守っていないとダメということです。案外、その方が難しいのではないかと思います。

さて、ではこの委員会は何をするのかというと、キャンペーンとして何をするのかを考えること、そしてそれを社内に広報することです。
とはいえそれでもピンとこないでしょうから、言い出しっぺである私が考えているのは、ポスター、毎日のメール、失敗事例報告、成功事例報告、改善提案などの広報です。

今日は活動の方法について一応方向付けをしたい。そして実行計画の分担まで分けるほうがいいのか、みんなでワイガヤで行ったほうが良いのか、最低でもその辺を決めたいと思います。
何か質問があれば」

浜津 「営業本部の浜津です。支社からの参加者がいませんが、私が支社の代表を兼ねるのですか?」

下山さん 「そうお願いしたいと考えています。もちろんあなたの活動や意見に、支社の意向を取り込まねばならないということはありません。
でも支社の事例を探すとか、委員会が支社に説明する際に、支社に説明する窓口になってほしいです。とはいえ、業務多忙とか交渉が不得手とかであれば、私のほうから職制ルートで支社の人事や総務に依頼するようにします」

浜津 「いえいえ、確認しただけです」

山寺 「監査の山寺です。会社規則を守らない事例となると、掃いて捨てるほどあります。でも公にしてはいけないようなものもありますので、そのへんはどうお考えですかね」

下山さん 「目的は仕事をする上で会社規則を知ろう・守ろうという意識付けです。会社規則を網羅的に教えようとしてはいません。
掃いて捨てるほどあるなら取捨選択して社内の人なら知られても良いものだけにしましょう。とはいえ事例を監査結果からばかり出してもらうつもりではありません。あるいは発生していなくても具体例を考えてもらってもよく、会社規則を知らないと困るとか知ってますかという切り出しでもよいと思います」

千葉 「法務の千葉です。あのう、確認ですが事例をポスターに書くわけですか?」

下山さん 「ああ、説明不足で済みません。ポスターはキャンペーンをすることの周知と、会社規則を読もうというスローガンだけを表示するつもりです。事例は基本的に毎日本社支社に所属する人全員にメールを送るつもりです」

千葉 「ほう、メールで?」

下山さん 「細かいことはこれから議論するわけですが、イメージとしてメールは2・3分で読めるもの、実際に確認するのに5・6分というものを想定しています」

千葉 「すると何ですか、毎朝出勤してメールを見るとこの委員会からメールが来ていて、それを読んで何か行動するということですか?」

下山さん 「そうそう、例えば書類の押印欄には定められた職階の人が押印していますか?という問いであるなら、読むのに10秒、インボックスの書類を取って確認するのに30秒というイメージですね」

柳田 「発言します」

下山さん 「どうぞ」

柳田 「環境管理課の柳田です。ええと司会進行についての注文です。
まずはじめにメンバーを紹介すること、それから委員会の体制やメンバーの役割説明、幹事役から活動の全体イメージ、可能なら各活動を議論の前に説明してほしい。
今までの話をお聞きすると委員の議論で決めていくと理解しましたが、既に幹事側で活動案を策定されているならその説明をするような順序で進めていったらと思います」

キヨちゃん 「柳田さんの発言に賛成です。そもそも下山さんは説明を私がするっておっしゃってましたよね。私の出番はまだですか?」

下山さん 「ああ、すみません。ええと、ちょっと司会の不手際で議事進行がまずかったです。
では、これから総務部の猪越さんにお願いします」

出席者がざわついて緊張感が抜けた雰囲気になる。
猪越がプロジェクターをオンにして表示が正しく見えるかを確認して、手元に置かれていた資料をメンバーに配る。

キヨちゃん 「お騒がせしました。総務の猪越です。本名よりも、ふたつ名のお局キヨちゃんで知られています(第26話)。
まず委員会の体制ですが、人事部の下山さんと総務部の私、猪越が幹事役となります。メンバーの皆さんは資料にありますとおりです。
委員会はあくまでも仕掛け人です。ですから会社規則を知らないために起きた事故事例などを、自らが集めるのではなく各部署に作成をお願いする役目になります。
下山さんから委員会の概要説明がありましたが、これから私が具体的にイメージしているものを説明します。

ええと細かく入る前に活動項目として考えているのは、まずポスターです。ポスターは具体的な事例などを伝えるつもりはありません。今年度はこういうキャンペーンをしますよと伝えることが目的です。
あっ、本社支社内に掲示するものですから、広告会社に頼むつもりはなく、私たちがデザインしてコピー配布するつもりです。

それからメインに考えているのはメールです。基本、毎日一件会社規則を守って良かったとか、守らずに失敗したという事例を、本社支社で働く全員にメールで送ります。
資料にサンプルをひとつ上げています。ご覧ください」


本社・支社で働く皆様へ

こちらは「会社規則を読もうキャンペーン事務局」です
本日のテーマは決裁印です。

会社では、報告、通知、命令、記録などたくさんの文書があります。当然その文書に効力を与えるには定められた人の決裁が必要です。決裁は紙なり電子データなりに決裁印を押印することによって行われます。
すべての書類には決裁者が決まっています。購買や契約などの決裁者は金額によって異なることもあります。

皆さんの見ている書類の決裁者は定められた人が押印しているでしょうか?
決裁者不在の時は、代理者が決められています。
ちょっと手近な書類が正しい決裁者が押印しているか確認してみましょう。


係長課長部長

東山



第3係長
23.09.21

藤 島
営業部長
23.09.22

喜多川
×
×
・代印の表示がない
・係長がいるなら係長欄が代印はおかしい
・代理決裁者は定められた人か?

決裁者はその用紙を定めた規則で定めています。
紙の社内文書の代印の方法は「文書管理規則」(B-XXXX)に定められています。
ワークフローの場合は、定められた代理者でないと決裁できません。

以上


キヨちゃん 「具体例としては先ほど下山さんが説明したもの、書類の押印欄には定められた職階の人が押印していますか?という問いであるなら、読むのに10秒、インボックスの書類を取って確認するのに30秒くらいでしょう。
実際には季節や年中行事などを反映して、担当部門に依頼することを想定しています」

千葉 「季節とか年中行事とはなんですか?」

下山さん 「4月は人事異動もありますし、新入社員が入社する時期です。ですから社宅や寮の入退去の方法とか、歓迎会で無理やり飲ませるのはパワハラだからしないようにというようなものですね。
あなたの直属上長は誰ですかというのもありますね。

年中行事としては連休などで支払いで翌月にずれた場合などが考えられます。
誰にでも分かりやすい事例を周知すれば、それを参考にして皆さんが会社規則を読んだり、自分の行動に反映するのではないかと思います」

五十嵐 「まさか、自分の直属上長を知らない人はいないでしょう」

柳田 「そうでもないですよ。例えば入社して配属されたとき、新入社員に課長が指示したり報告を聞くということはまずありません。たいていは二三年先輩の人を教育係にして、その人が指示し報告を受けるはずです。となるとその新入社員の直属上長は、その先輩になるわけです。

ところで会社の正式な組織表は課長止まりです。ですから課内の指示命令系統は課の規則で決めているはずです。そうでなければ問題です。表記は、指導者とかチューターかもしれません」

下山さん 「確かに柳田さんの言うとおりですね。多くの部署ではあいまいなままで動いているでしょうけど、これを機会にその部署も新入社員を含めて、体制表というか指示命令系統を文書化すべきでしょう」

千葉 「なるほど、いやぁ〜、それはボクの場合は参考になりますね。なぜ今までこういう活動をしなかったのかと疑問に思います」

浜津 「すごくためになると思いますが、毎日1件作成するのも大変でしょうね」

キヨちゃん 「先ほども話に出ましたが、メール文の作成は各部門にしてもらいます。それを計画し依頼しフォローすることは皆さんに期待しています。
4月の新入社員に関わることは人事部ですから、既に下山さんが考えていると思います。

事前に作成を依頼する部門に、その部署で起きた違反事例あるいは会社規則を知っていたから回避できた事例などを何件頼みますというような依頼をしてほしいわけです。

もちろん提出されたものを、内容や広報して問題ないかなどの審査……そのチェック内容も皆さんで決めてほしいのですが……審査してOKならば毎日発信時刻を指定してメーリングリストで発信してもらうわけです」

千葉 「いやあ、よく分かりました。わくわくしますね」

吉田 「それにしても365日、まあ出勤日は250日でしょうけど、それをするのは大変な労力だね」

神山 「いやいや、吉田さん、だからこそ甲斐はあるんじゃないですかね。なによりも面白そうですし」

浜津 「そう思います。100周年記念じゃなくてずっと教育してほしいですわ」

キヨちゃん 「アハハ、教育ですか。まあさわりだけ、詳しくは皆さん会社規則を読んでねという流れです。

ええと、次に考えているのは、メールでは右から左で忘れてしまうと思います。それで失敗事例集と成功事例集をまとめたいと思います。
元ネタはメールの文章ですが、それだけでなく広く一般の方から失敗事例や成功事例を出してもらうことも考えています。
成功はともかく失敗は言いたくないでしょうけど、そこは皆さんが考えて募集してほしいのです。

もちろん出してもらったものをそのまま並べるのでなく、関係する会社規則の番号とか項番などを記して、どうすればよいのかを分かるように、それをもっと深く知りたい人が規則をたどれるようにしたいです。
もちろん皆さんに活用してもらうために、データベースにしていろいろなキーワードで検索できるようにしたい。
おっとhtmlにするとかcgiとかは情報システム部で対応しますけど、検索ワードとか分類などは皆さんが決めてほしいわけです」

浜津 「成功事例と失敗事例って本質は同じでしょう。二つにするまでもないように思いますけど」

キヨちゃん 「そういう検討も皆さんにお願いしたいです」

浜津 「分かったわ」

キヨちゃん 「それからこのキャンペーンをすれば現行の会社規則に過不足があるとか、手順を見直すべきとか、情報システムに乗せるべきとか、いろいろ改善提案が湧き出てくると思います。その結果、会社規則が改定されることも数多くあると思います」


注:規則に過不足があるのかと疑問に思うかもしれない。
会社規則とは会社の業務をジグソーパズルのように切り分けているわけだが、ピースとピースの間に隙間があることはよくあることだ。
また規則Aと規則Bで同じことを定めていることもあるし、規則Aと規則Bで違うことを定めていることもある。
文書管理部門は過去の規則との関係をチェックするのが仕事だが、見逃すこともある。

ジグソーパズル

キヨちゃん 「ええとそれと、関連会社では会社規則を遵守するのはもちろんですけど、廃棄物の処理などは関連会社の手順書で仕事をしていますし、私たちも空調やエレベーターの利用などはビル管理会社の基準を守ることになっています。そういう文書についても改善提案などがあるでしょう。

そういった改善のために会社規則やその他の文書を改定しましたという報告も多々あると期待しています。そういうものについてもデータベースにして他部門に参考にしてもらうような方法も考えてほしいです」

五十嵐 「これはとてもエキサイティングなプロジェクトですね。お呼びがかかってうれしいです。すぐにも取り掛かりたい」

柳田 「でも大変な仕事量になるでしょう。対象者は全部で6,000人はいるでしょう。
そこからも改善事例とか失敗事例の報告もあるでしょう。仮に5%の人が1件提案しても300件、日割りで毎日1件以上処理しなければならない計算になる。
また会社規則は600本くらいあります。支社の規則もありますし、ビル管理などの文書もあります。合計3,000や4,000本くらいになるでしょう。仮に5%が改定されたとして200件になります。
それをデータベースにしてとなると……」

キヨちゃん 「まあまあ、柳田さん、それはそのときですよ。あまり先のことを考えても仕方ないです。
それにこのキャンペーンはデータベースを作ることでなく、従業員に会社規則に関心を持たせることですから、全部しなくちゃならないわけでもありません」

下山さん 「まず今日は、やることの概要を決めてほしい。
今月中にあと1回か2回打ち合わせをしたい。場合によっては社内チャットでもよいと思う。チャットではそこにいないとならないから、メッセンジャーアプリのほうが便利かな。まあ、そんな方法で進みたい。
なお4月のスタートの数回は新入社員対策をテーマに人事部で、つまり私が作るつもりです。隗より始めよと言いますからね」



*****


会議を終えて下山は人事部の自席に座る。その瞬間電話が鳴る。今は内線もスマホだから席に戻らなくてもどこでも電話を取れるのだが、なぜか座った瞬間に電話が鳴ったのだ。

下山さん 「ハイ、人事の下山です」

柳田 「環境管理の柳田と申します」

下山さん 「おや、奥さん、どうしたの?」

柳田 「ウチの夫セイがあれほど会議の仕切りが下手くそとは思ってなかったわ。恥ずかしいったらありゃしない」

下山さん 「まあまあ、あのあと皆さん緊張がほぐれて良かったんじゃない」

柳田 「もう、それを狙ってやったなんて下手な嘘をつく。もうちょい真剣に仕事してほしいものですわ」
 以下延々と……

下山がふと視線を感じて振り向くと、五つ六つ後方の席に奥方が座ってスマホで話している。糸電話の距離じゃないか。顔も目も怒っている。これはやばい。



うそ800  本日の思い出

私は会社規則や工場規則なるものはたくさん作った。ISOMS規格が現れてからはもう粗製乱造ではないつもりだけど、とにかくジャンジャン作った。私の上司があまりにも早く作るので驚いていた。もちろんブラインドタッチは必須技能だ。
ISO認証が広まるにつれて、私は社内どころか関連会社まで行って文書を作るのを手伝い、更には海外まで行って関連会社の社内規則を作ったこともある。

ということで会社規則はどうあるべきかということは結構勉強した。もっともそういう書籍の存在は知らない。「規格票の様式及び作成方法(JISZ8301)」とか「法令読解」などの書籍も、会社規則とはちょっと違うのだ。悠々自適
文書管理を長年していた人にイチから教えてもらった。今その方は九十九里浜のリゾートマンションで悠々自適らしい。
仕事を通じて浄土に至る、いやその前に楽園で過ごしたい。




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