ISO第3世代 111.大日本認証1

23.10.09

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは


2019年4月中旬
ここは国内大手認証機関である大日本認証である。どの認証機関にも、顧客との打ち合わせ用の5・6人入れば満員の小さな会議室がいくつもある。おっと小さな認証機関は個室でなく大きな部屋を衝立で区切っただけのこともある。
そんな一室で、2人の偉そうな人が話している。審査部長の吉野と営業部長の水谷である。

大日本認証吉野部長大日本認証水谷部長
吉野審査部長水谷営業部長

大日本認証水谷部長 「まだどうなるか不明ですが、スラッシュ電機がウチに鞍替えするかもしれません」

大日本認証吉野部長 「スラッシュ電機が ! それはすごい。あそこは基本的に業界系の品質環境センターでしたね。25年も前にISO認証が必要だとなったとき、ウチに依頼してきた二、三の工場だけが、義理堅くウチとの契約を続けてくれている。それ以外はみな品質環境センターです」

大日本認証水谷部長 「今まではそうだった。だけど吉野さんもご存じだろうけど、昨年末に品質環境センターの審査中に、審査員が暴行を働いた事件がありましたね」

大日本認証吉野部長 「ああ、ウチとあそこ両方の契約審査員をしている方から聞きました。それで本社のISO14001は鞍替えするという話も聞きました。でもジキルに鞍替えするという噂ですが」

大日本認証水谷部長 「未確認情報だが、ジキルと詰めている中で、過去にジキルが起こしたトラブルに再発防止策をとっていないことが判明し、白紙になったようだ」

大日本認証吉野部長 「それで当社ですか。あそこの本社・支社には数千人いるでしょうね。とれたら大きいですね」

大日本認証水谷部長 「このところウチの登録件数も減る一方だ。ぜひとも取りたいと考えている。審査部も協力してほしい」

大日本認証吉野部長 「そりゃもちろんですよ。でも協力ってどんな?」

大日本認証水谷部長 「共同して売り込みをしたい。それと最高の審査員をアサインしてほしい。暴行事件はともかく、審査での不要なトラブルは避けたい。
なんでもジキルを止めた理由の一つは、スラッシュ電機が忌避した審査員を何度も次回の審査に提案したことにいたく怒っていたという」

大日本認証吉野部長 「忌避なんてめったにないのだから、もしあればどんな理由なのかを問い合わせて対策しておかないといけませんね」

大日本認証水谷部長 「それについてだが、ウチだってスラッシュ電機で忌避されたことはあるだろう。その対応は審査部だ」

大日本認証吉野部長 「いえ顧客企業との窓口は営業部でして、私まで回ってきたことはありませんよ」

大日本認証水谷部長 「そうだったか? それでは過去のトラブルを調べておかないとならないな。
それからスラッシュ電機では規格解釈が独特で、その考えで審査を要求していると聞く」

大日本認証吉野部長 「そういえばスラッシュ電機が取引のある認証機関を集めて、しっかり規格を読めと檄を飛ばしたことがありました(第7話)。もう3年くらい前になりますか。
多くのお客さんは審査員の言うことをおとなしく受け入れます。それに反して審査でミスをすると苦情を言うスラッシュ電機を傲慢とか独特と思うかもしれませんが、語っていることはおかしくないですよ」

大日本認証水谷部長 「そうなのですか? その3年前の要求はどんなことでしたか?」

大日本認証吉野部長 「品質環境センターがスラッシュ電機の審査で、不適合を見逃したことがあったのです。それをスラッシュ電機が問題として、それを不適合にしなければ審査の価値がないと、スラッシュ電機の工場を認証している認証機関4社か5社を集めて要求したのです。実はウチもミスってたのです」

大日本認証水谷部長 「ほう、不適合にしたのが悪いのでなく、不適合にしなかったのが悪いということ、そして不適合にするように要求したと……」

大日本認証吉野部長 「ちょっと不思議に思うかもしれませんが、事実です。それはきわめて真っ当だと思いますよ。
こちらはお金をもらって審査しているのですから、ミスすれば責任問題です」

大日本認証水谷部長 「ということは並みの審査員では無理だということか?」

大日本認証吉野部長 「そう言ってしまうと、並みの審査員が未熟ととられます。審査員なら誰でもできなくちゃならないんでしょうけど。
ともかく審査契約する前に、相手の考えを一度確認するステップが必要ですね」

大日本認証水谷部長 「まだジキルに依頼するのを止めたのかどうか分からない。スラッシュ電機も認証がないとビジネスはともかく外聞悪いだろうから、どこかの認証機関に依頼するのは間違いない」

大日本認証吉野部長 「どちらにしても相手が相談に来ることを予想して、社内の見解を統一しておく必要がありますね」

大日本認証水谷部長 「審査部ではウチの切り札といえるような審査員で、メンバーを考えておいてください」

大日本認証吉野部長 「分かりました。候補者を考えておきます。営業部長も情報収集お願いします」



*****

数日後、同じような会議室で前回の2名の他に今日は2名いる。

加藤審査員 安藤審査員 吉野部長 水谷部長
加藤審査員 安藤審査員 吉野審査部長 水谷営業部長

水谷部長 「ええと、そちらはスラッシュ電機の審査員候補ですか?」

吉野部長 「さようです。先発エースの安藤と、守護神の加藤です。ターゲットは対象人員も多く多拠点ですから、あとふたりか三人必要ですが、これから状況がはっきりしてくれば候補者を選びます。
本日はこのふたりにも状況を知っておいてもらいたく出席させました」

水谷部長 「では全員協力してこの案件をとろう。既にウチから営業はかけている。
まず状況だが、昨日ウチの営業がスラッシュ電機の本社を訪問して、向こうのISO事務局と会うことができた。
あの会社はISO事務局と呼ばないんだね。専任者はおらず、ISOは片手間仕事のような口ぶりだった。まあそれはどうでもいい。

ジキルへの移転を止めたのは事実だと語った。しかし認証は継続したいので、現在 認証機関を検討中という。はっきり言っていたが、第一候補は当社だという。9割方はとれそうだ」

安藤審査員 「それは良かったですね。工数は16人工くらいになるでしょう。大きいですね」

水谷部長 「それで、既に向こうからスラッシュ電機のISO規格の解釈を説明するから、それに対応できるなら依頼するという話になりました」

安藤審査員 「対応できるなら依頼するとは上から目線で御大層ですな。どちらが上なのか分らない、アハハハ」

加藤審査員 「ちょっと、安藤さん、その言い方はまずいですよ」

水谷部長 「お二人ともよく聞いてほしいのです。これは向こうの人が言ったのですが、ジキルがスラッシュ電機を訪問したときもスラッシュの担当者は同じことを言ったそうです。そしたらジキルの審査員も加藤さんと同じことを言ったそうだ。

それでジキルの審査員がISO規格を理解しているのかどうか、いろいろ聞いたが理解していないようなので依頼するのを止めたと言う。
嘘ではないと思う。彼らはISO規格を十二分に理解しているのは間違いない。そして審査員の技量がないと思えばバッサリだ。

だからこれから向こうとの打ち合わせがあるだろうが、そこではうかつなことを言わないでほしい。審査員の方が規格に詳しいなんてこともだが、審査員が目上なんて態度を取らないこと」

安藤審査員 「でも本当に向こうが規格を理解しているのですかね。とんちんかんなことを言い出して、その理解で審査をしろなんて通用しませんよ」

吉野部長 「まずは彼らが何を言うかを聞いてからだろう。
私の経験だが、3年前に私が出た会議で、当社の審査の判定を間違いだといわれた。それはまさしく正論で私は反論できなかった。
相手の言うことを飲めとは言わないが、決して馬鹿にしてはいけないし、正しいことなら受け入れるのは当然だ」

安藤審査員 「ぜひとも向こうのお説をお聞きしたいものですなあ〜アハハ」

水谷部長 「安藤さん、そういう態度を相手の前では取らないでくださいよ。この買い手市場の認証ビジネスで太客を逃がしたくありません」

安藤は首をすくめた。



*****

二日後、同じメンバーが集まる。

水谷部長 「まず我が社の審査員が忌避されたかどうかについて調べた結果です。過去3年間に3度ありました。同じ人でなく皆別の審査員です。
そしてスラッシュ電機の工場あるいはその関連会社でトラブルを起こした審査員は、それ以降、スラッシュ電機グループのどの組織であっても忌避されていることを発見しました。要するに一度ミスると二度と行けないということです」

吉野部長 「へえ ! ということは、まずウチでも忌避されている審査員がいるんだ。そして一度問題を起こすと、それ以降 審査に行けないとは……」

安藤審査員 「ふざけている。だいたい忌避なんて、企業側が指摘を逃れたいとき取る手だ。それで審査員がダメと言われるのは冗談じゃない」

吉野部長 「ちょっと待って、水谷部長、忌避された審査員は、審査で何か問題を起こしたのですか?」

水谷部長 「営業担当に聞いたところ、いずれの場合でも審査を受けたところから審査後に苦情を受けた記録があった。苦情といってもISO17021に定める苦情ではなく、企業から口頭で態度が無礼だとか、不適合の根拠の記述が不明確でISO17021を満たしていないとか言われたそうです」

安藤審査員 「まったくトーシロのくせにISO17021とか聞いた風なことを抜かす」


注:ふざけたり仲間内の隠語として、音節や語の順序を逆にしたものを倒語とうごと呼ぶ。
倒語には別の意味もあり、前から読むのと後ろから読むのとは意味の異なる文章になるものも倒語と言う。前から読んでも後ろからでも同じ文章になるのを回文かいぶん(さかさことば)という。
倒語の例には、「素人」を「トーシロ」、「種」を「ネタ」、「ねえちゃん」を「ちゃんねえ(ちと古い)」、「さがす」が「がさいれ」という風な言い方。

タモリ
この絵を描くのに30分
もかかってしまった。

倒語の起源は終戦後の「ズージャ語」という説もあり、「田森」が「タモリ」はズバリ、ズージャ語らしい。

しかし実際は平安時代から存在していた。隠語というより、言いにくさかららしいが、「あらたしい」が「あたらしい」、「山茶花さんざか」が「さざんか」、「しだらない」が「だらしない」と本家が消えて倒語が残ったものもある。


吉野部長 「安藤さん、そういうことはしっかり確認してから発言してほしいですね。自重してくれなければ、この審査から外します。
ジキルとの打ち合わせで、打ち合わせに出ていた審査員が上から目線で発言したから依頼するのを止めたとか言われているのですよ」

安藤審査員 「そんな企業は客じゃありません」

吉野部長 「安藤さん、そもそも審査側と審査を受ける側は平等です。審査員が上位だと思うのは間違いです。また審査員が審査を受ける人より知識があると考えるのも間違いです」

安藤審査員 「部長は審査を受ける方が、我々より知識があるとお思いですか?」

吉野部長 「そうじゃありません。審査員の方が知識があると考えることが間違いなのです」

安藤審査員 「納得いきませんね」

吉野部長 「それはまた別途話し合いましょう。
水谷部長、その審査での問題ですが、実際には向こうが間違っていたのか、こちらが間違っていたのかどうなのでしょう。
本来なら私が把握していなければならないのでしょうけど、そもそもそういう情報が私のところまで来ていませんし、営業が情報を持っているわけで」

水谷部長 「営業担当は苦情を受けた審査員と話し合っています。ただトラブルのあった審査員はいずれも自分の判断は間違いなかったというだけで、具体的な証拠と根拠は明確でなかったそうです。
報告書を見ると、後からその判断が正しかったのかトレースできないのです。まさしくスラッシュ電機側の言う通りでした」

吉野部長 「少なくても書類上は不適合にできなかったということですか」

水谷部長 「今になって確認したのはおかしいのですが、ほかの審査員にその審査報告書を見てもらったのですが、その記述では要件を満たしていないから不適合にはできないだろうとのことでした。
吉野部長、これは判定委員会の在り方が問われますよ」

吉野部長 「今は判定委員会を開くのは初回審査くらいで、あとは複数の主任審査員による報告書の書面審査で合否を判断しているのですよ。昔は社外に判定委員を委嘱したりしていましたが……
ともかく審査のミスを見逃しているなら、報告書を判断できる資格でも設けないとだめかな」

安藤審査員 「一人前でない審査員もいるということか」

水谷部長 「実はスラッシュ電機の本社はトラブル情報を共有化していて、問題があった審査員はそれ以降グループ全体で忌避されるそうです。

実際には大事にしたくないと考えた工場は当社に苦情を言ってきても、スラッシュの本社にトラブルが起きたことを報告していないようです。
そのせいか営業担当の話では、トラブルを起こしたと苦情があった審査員でも忌避されていない審査員が7名いることが分かりました。その氏名をあげてもらいました。その中に安藤さんのお名前もありました」

安藤審査員 「なんだって ! いったいどこの会社です?
私がスラッシュ電機グループに行ったのは直近では昨年の秋でしたね」

水谷部長 「そうそこです。従業員150名ほどの会社でしたが、社長インタビューや社員へのヒアリングでマナーを欠き態度が大きく失礼だとありました。また不適合ですが、根拠が不明確で受け入れられないとのことでした。

営業担当から言われましたが、次回スラッシュ電機グループに忌避されるからでなく、トラブルを起こした審査員は、こちらが自主的に問題の組織と関連する組織には派遣しないでほしいとのことでした。これは今後社内で検討が必要ですね。
安藤さんの名前がありましたので、今日はそれを話そうと思っておりました」

安藤審査員 「はあ 態度が大きいといわれると主観的な問題で何とも言えませんが、根拠が不明確なんて不適合をもみ消そうとしているだけですよ」

水谷部長 「ISO17021-1:2015では『不適合の根拠となった客観的証拠を詳細に特定する、不適合の明確な記述を含めなければならない。不適合については、証拠が正確で、その不適合が理解できるものであることを確実にするために、依頼者と協議しなければならない(9.4.5.3)』とあります。

安藤さんの審査報告書を私が古手の審査員に見てもらいましたが、記述があいまいで不適合にできないとのことでした」

安藤審査員 「そんな……審査員みんなが17021を杓子定規に守っているわけではないだろう。完璧でなくてもいいんだよ。どうせ奴らは内心では自分が悪いって分かっているんだから」

加藤審査員 「私はISO17021を満たすよう記述しているつもりですよ」

安藤は加藤の言葉を聞いて肩をすくめた。

水谷部長 「皆がしているかどうかはともかく、スラッシュ電機グループ相手には通用しないようです」

加藤審査員 「証拠・根拠を明確にしなければならないことはわかりました。
それ以外にも先方の要求はいろいろあるのでしょう。ともかく向こうの要求というか規格解釈を知る必要があります。それがまっとうなら採用すべきですし、おかしな解釈なら相手と議論しなければなりません。
営業部員が訪問したとき、参考情報を入手されませんでしたか?」

水谷部長 「営業部員が訪問したとき、口頭の話だけで紙の資料はいただいておりません」

吉野部長 「どうしてなの? 向こうも文書化していないとかですか?」

水谷部長 「いや営業マンがウチに依頼が来ると知り目的は果たしたと考えて、そこまで気が回らなかったのです。
今となると、あまり人を介したやり取りでなく、こちらも真剣だと見せるために審査部長と審査員予定者が訪問して、そこでしっかりと決めてしまいたい」

安藤審査員 「そいじゃ私は不要ですな」……心の中「本当は恥ずかしい😰

そう言って安藤審査員は部屋を出てしまう。

吉野部長 「まあ、彼が打ち合わせに顔を出しても、先方が気を悪くするだけか。
話が決まれば加藤さんと私でメンバーを決めたい」

加藤審査員 「了解しました」

水谷部長 「吉野さん、提案する前に候補者の身体検査をお願いしますよ。加藤さんも含めて」


注:身体検査とは議員候補や閣僚候補に対して、女性スキャンダル、違法業者からの献金、刑事・民事のトラブル、過去の問題発言など、マスコミや敵対政党から攻撃されるような問題がないかをチェックすること。
ここでは過去のトラブルだろう。


加藤審査員 「私は過去スラッシュ電機グループの審査をしたことがありません。ですから私の力量はともかく、スラッシュ電機グループで問題を起こしたことはありません」

水谷部長 「へえ、審査員になってから一度も?」

吉野部長 「ウチのISO14001の認証件数が1500件、スラッシュ電機グループの認証事業所は100件くらいだから、引退するまでスラッシュに行かない審査員は結構いますよ」

水谷部長 「先ほどのスラッシュ電機の考える解釈に戻ります。
断片的ですが、営業担当が聞いた話では、審査で規格用語を使わないこと、プロセスアプローチで審査できることだそうです」

加藤審査員 「我々の仕事は質問することですが、規格の用語を使うなというと、例えば『方針』も使っていけないのでしょうか?」

水谷部長 「いやいや、方針くらいは企業では通用するんじゃないですかね。品質方針とか環境方針という言葉を知らない人はいないでしょう」

吉野部長 「スラッシュ電機ではISO規格で環境方針に当たるものを環境方針と呼んでいないかもしれませんね」

水谷部長 「確かにそういうことはあるな」

加藤審査員 「後々もめないように、問題となりそうな用語のリストを作って先方に確認しましょう」

吉野部長 「それは良い考えだ。私の想像だが環境側面とか認識なんてのは、無条件では使えないだろうなあ〜」

加藤審査員 「確かに認識については、いろいろな解釈がありましからね。実を言って私も自信がありません」

吉野部長 「オイオイ、自信がなくちゃ困るよ。ところで認識のいろいろな解釈って何よ?」

加藤審査員 「私も先輩の審査員からお話を聞きましたが、訓練する必要のないものという説、一般的な環境教育が該当するという説とかですね」

吉野部長 「私は仕事の目的を理解することと思っていたけど、違うのだろうか」

水谷部長 「そうそう環境側面で思い出しましたが、スラッシュ電機では環境側面のリストはないそうです。更に言えば法規制のリストもないとのこと」

吉野部長 「えっ、法規制とか環境側面は決定しなければならないのだから、リストがなくちゃ不適合だろうなあ〜」

加藤審査員 「いや、リストというか一覧できるものを作れという規格要求はありません」

吉野部長 「リストがなくても良かったか? となると審査できるのだろうか?」

水谷部長 「吉野部長がそんなこと言われると困りますよ。ウチでは該当法規制と著しい環境側面については一覧表を出してもらうことになっています。ですから仮に先方が作成していなくても、一覧表を作って提出してもらいますから大丈夫です」

加藤審査員 「もしISO14001の要求にないと言われたらどうしますか?」

水谷部長 「ISO17021では認証機関は申請組織に対して『次の事項を確定させるために必要な情報の提供を求めなければならない(ISO17021-1:2015 9.1.1)』とあって、『プロセス及び運用の重要な側面、並びに法的義務』などを挙げている。
これを受けて審査契約では、環境マニュアルの提出あるいはとして、法規制一覧表、著しい環境側面一覧表などの提出を求めているから大丈夫だ」

吉野部長 「さすが水谷さんですね」

加藤審査員 「ならば審査では、従業員が用語を理解できるように願いますという要求もありじゃないですか?」

水谷部長 「契約書に書くのは可能だけど、契約が成立するかどうかは別だ。なにせ民民の契約なのだから、自分の条件に合うところと取引するのは当然の経済活動だ。他の認証機関に行ってしまうかもしれない」

加藤審査員 「なるほど、」

吉野部長 「もし著しい環境側面一覧表も法規制リストも作らないと言われたら、加藤さん審査できるか?」

加藤審査員 「別にリストがなくても設備とか工程ごとの規制などの情報があれば可能です。現実問題として企業は法規制の一覧表なんて作っても使い道がないでしょう。リストは審査員の手間を省くために存在すると考えてます。
要するにできるけど、手間がかかるということです」

吉野部長 「そうだな、スラッシュ電機との打ち合わせでは、それを明らかにしなければならんな」

加藤審査員は、リストがなくても審査はできると答えているが、多くの審査員は法規制一覧表、著しい環境側面のリストがなければお手上げだろう。
そもそも企業で設備管理する立場なら、○○法に関わる設備は何かということではなく、この設備はどんな法律の規制を受けるかを知る必要がある。当然、手順書はその順序で作成され運用される。

仮に認証機関にたくさんの設備の作業手順書が送られてきたら、それぞれの設備の中に該当する法規制や必要資格などが記述されていて、審査をしようとしたらあちこち参照するばかりで手間がかかる。結局、審査員がリストを作るだろう。
単に情報があれば良いのではなく、審査用に情報が整理してあるのが欲しいのだ。だが企業からしたら余計な仕事である。

法規制一覧表、著しい環境側面のリストは、ISO審員査のためのものなのだ。
言い換えると、会社の中では法規制一覧表などがあっても使い道はない。企業は個々の特定施設などが、どんな規制を受けるのか、運用はどうか、必要資格者はどうなのか、ということを知ることが重要で、文書はそういう形になっている。

ISO審査で見せている法規制一覧表とか著しい環境側面のリストを、社内で活用する姿は想像つかない。
もっともそれをいうなら品質マニュアルも環境マニュアルも審査のための提出文書である。そんなもので仕事をしている会社があれば、よほど手順書/規則を整備していない会社だろう。議論を吹っかけてくる人を待っている。

ミルク 紙コップ
紙コップ
ミルク ミルク

打ち合わせが終わったときは、会議室のテーブルにはものすごい数の紙コップが積み重なっていた。
20世紀なら、灰皿には吸い殻の山ができ、スーツはニコチンを吸着し、室内は有毒ガスが危険水域だったろう。



うそ800  本日の注記

著しい環境側面や関係する法規制を事前に知っていなければ、審査ができないだろうか?
私が現役のときは、まったく何も事前情報がなくて関連会社に監査に行った。更には監査を受けるほうも、環境監査とは何をするのかさえ分からない。しかも業種は製造業、販売業、運送、人材派遣多岐にわたり、もちろんISO14001など無縁だ。
これこそ、やりがいでなくて何であろうか !

そういうところに行って環境監査をして、違法や事故の恐れがないかを点検して、おマンマを食べていた。
もちろん前提として施設や設備、使用・保管している原材料、廃棄物を、隠すことなく見せてもらうことは必要だ。

大小に関わりなく騒音発生施設があれば法規制を受けるのかを考え、関係する届とか資格者とか測定がどうなっているか、化学物質や燃料があれば法に関わるのかどうか、管理者、届、管理状況を調べる、使用電力量から省エネ関係がどうなっているかを調べることになる。
故に、著しい環境側面リストとか法規制リストなどなくても審査は可能である。それは必然的にプロセスアプローチでなければならない。

しかしISO審査はビジネスだから、事前に情報がなければ審査工数は決まらず、見積もりも出せない。だから著しい環境側面リストはともかく、どのような設備、工程、電力量、廃棄物の状況などの情報は必要だ。
いずれにしても「著しい環境側面」なる言葉を知らないところに「著しい環境側面のリスト」を出せというのはナンセンスである。
ましてや、「著しい環境側面」にいかなる意味があるのかと規格を読めば、そんな語句を作るまでもなかったのだ。覚えることもなく、教える必要もない。




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