ISO第3世代 122.移転後の審査4

23.11.20

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは


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半藤審査員の今回の審査は、仙台、秋田、青森の北東北コースである。初日は東京でオープニングミーティングをした後、仙台の東北支社で審査をして仙台泊り。
二日目は秋田新幹線で秋田市に移動して午前午後と審査、夕方から青森へ移動して青森泊りである。

半藤は大日本認証に勤める前は、外資系ノンジャブの某認証機関で働いていた。
半藤です
半藤
東北は初めてです
そこはゾーン・デフェンスを徹底していて、各地方住まいの者がその地方の審査を担当していた。
各審査員が自宅から近いところを担当することにより、交通費や宿泊費を低減し審査費用を安くする一助としたわけだ。

だから半藤は関東以外の地域で審査をしたことがなかった。大日本認証に移ってから全国区となったが、実際は関東地方がメインだった。
大日本は大会社だから大阪支社、福岡支社があり、ノンジャブほど徹底はしていないが、少しは出張旅費削減を図っていた。


そんなわけで半藤が東北地方に審査に来るのも初めて、秋田新幹線に乗るのは初めてだ。
仙台市から秋田市まで310キロで2時間20分、東京から仙台が351キロで2時間5分である。東京から博多まで1175キロ、新幹線で5時間だから、それを考えると東北地方は時間距離が遠い。それにしても東北新幹線は遅すぎないか?
他方、飛行機の便は悪く、新幹線ができてからはますます便数が少なくなっている。

東北新幹線東北新幹線

移動にこれほど時間がかかっていては、客に請求する出張旅費もかさむし、審査員も疲れるばかりだ。
ノンジャブの経営努力を、大日本認証をはじめとするエスタブリッシュメントも真似なければ明日はないと思うが、そういう気配は見えない。
まして丸の内とか大手町の立派なビルにオフィスを構えているようじゃ……

経営と無縁の半藤でも、エスタブリッシュメントはなによりも意識改革が必要だと感じている。とはいえ社内ではそんなことを考える平審査員などいない。まあ過去がそうであったように、これからもこのままいくのだろう。どうなるのかは知らないが。



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2日目、秋田営業所の審査を終えると半藤は秋田駅から青森駅へ移動する。
特急を使っても185キロを2時間50分、えらい距離だ。いやいや時速60キロとは遅すぎだよ。
今日は青森に着いたらホテルにチェックインしておしまいだ。



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3日目の今日は、朝イチから青森営業所の審査をして、昼飯後クロージングミーティングをしたら新幹線「はやぶさ」で帰京しておしまい。夜7時には久しぶりに我が家に帰れる。
おっと、まだ一仕事残っている、頑張らねば

午前9時 青森営業所である。
小さな会議室に男性一人と女性ふたりがいる。例によって名刺交換の儀式をする。

工藤社長 山口さん 佐々木課長 半藤
工藤社長 山口さん 佐々木課長 半藤審査員
スラッシュ電機
青森販売(株)
スラッシュ電機
青森営業所
ISO審査員

半藤 「それではISO14001の審査をさせていただきます。
毎年、所長の方針を出されると思いますが、今年の方針はどんなだったのでしょう?」

工藤社長 「やはりあれだね、2015年から中国の経済成長が鈍化したのが回復したかと思ったら、2018年はまた息切れしたようだ(このお話は今2019年)。地方は公共投資頼みだからね。日本全体が好況にならないと田舎は大変だよ」

半藤 「周りの環境は分かりましたが、所長さんの方針はどうなのでしょう?」

工藤社長 「青森販売の目標は、当面は地を固めて耐えることだな。買い手がいないのに売れるわけがない」

半藤 「あのう、お宅はスラッシュ電機の東北支社の青森営業所ですよね? 今回、お聞きしたかったのはスラッシュ電機の環境方針をお宅はどのように展開しているかということなのですが」

佐々木課長 「あっ、勘違いされているかもしれません。工藤さんは所長ではなく社長なのです」

半藤 「社長……さん?」

工藤社長 「ここはスラッシュ電機青森営業所じゃないんだ。看板を見ただろうけどスラッシュ電機青森販売という会社だ」

半藤 「まさか私が訪問先を間違えたのでしょうか?」

佐々木課長 「いえ、間違ってはいません。あのうですね、スラッシュ電機の営業所がISO14001認証するときに、スラッシュ電機青森販売さんが一緒に認証を受けたいとお願いされまして、組織の一部に入ってもらったのです」

半藤 「あ〜、確かに法人と認証範囲は無関係ですから、別会社も併せて認証することはおかしくないですね。
でもね、ちょっと待ってください。組織表では審査するとことはスラッシュ電機東北支社の青森営業所となっていますよ」

佐々木課長 「あのう、ちょっと複雑なのですよ、私はスラッシュ電機の青森営業所に所属しているスラッシュ電機の社員なのです」

半藤は先ほど名刺交換した工藤と佐々木の名刺をしげしげと眺める。

半藤 「あ〜、工藤さんはスラッシュ電機青森販売(株)の社長さん、佐々木さんはスラッシュ電機青森営業所の課長さんですね。
なるほど、分かりました。なかなか複雑ですね」

佐々木課長 「実を言いまして青森営業所というのは私一人しかおりません。それで事務所も青森販売さんの事務所に間借りしております。
青森県内で営業活動をしているのは青森販売さんです。青森県は売上規模はともかく、状況はお分かりと思いますがお客様に官公庁とか電力会社さんがあります。何かトラブルがあったとき、仙台の支社から来るのでは遠すぎて即応できません。
それで私一名がスラッシュ電機代表として駐在しているわけです」


注:官公庁や大手企業は、商社や代理店を通さず、直接メーカーと取引することを望む。また交渉窓口には役職に就いたものが担当することを望む。
佐々木が課長の名刺を持っていても、実際の組織図では平社員かもしれない。形式を整えるのが大事な世界もあるのだ。


半藤 「ああ、そうしますと認証組織名としてはスラッシュ電機青森営業所であって、ISO認証範囲には青森販売株さんも含まれるということですね」

佐々木課長 「そうそう、そういうことです。ご理解いただけましたか。
ええと先ほどの半藤さんのご質問への説明ですが、ISO的には本社の方針を支社に展開し、支社の方針を青森営業所も推進するわけです。それに青森販売さんもご協力いただくという形ですね」

半藤 「なるほど、なるほど。それでは青森販売の方針展開をお聞かせいただけますか」

佐々木課長 「説明を追加しますが、まず弊社では環境方針とかISOの目的目標というものを想定しておりません。会社として年度目標は何項目かありますが、環境のための目標とか品質のための目標という考えはありません。経営上達成しなければならないことを目標としているわけです。

それでISO審査では、品質のISOなら品質に関わるものを見せ、環境のISOなら環境に関わるものを見せるという感じですね」

半藤 「その考え方で問題ありません。状況を理解するまで時間がかかりましたが、いったん理解すればおかしなところはないですね」

佐々木課長 「ご理解ありがとうございます。
それで環境に関する年度目標としては、ひとつは省エネ機器、省エネ支援機器の販売拡大ですね。これはビジネスそのものです」

半藤 「方針として掲げられたひとつは省エネ関係の製品拡販ということですね。というと目標の達成具合は売上金額ということになるのですか?」

佐々木課長 「そうです。申しましたように、経営上の課題ですから、売り上げ達成は必達目標です。
幸い上期はほぼ予定通り推移しています。当地の弊社の代理店は青森販売しかありませんから、テーマも数字も一緒です」

半藤 「これを見ると順調であると……活動目標はそれ以外にもありましたね。事業活動に伴う省エネですね。
お宅で一番環境影響があるのは営業用車両ですかね?」

山口さん 「はい、事業活動の省エネで、具体的には営業車のガソリン削減を上げています」

工藤社長 「今は夏ですからまだいいですが、冬になると燃費は2割増になります」

半藤 「寒くなると走行距離が2割減るのですか?」

工藤社長 「雪による速度制限や道路渋滞もありますし、凍結すればスタッドレスタイヤでもスピードは落としますし、停車していても暖房のためにエンジンは切れません」

半藤 「燃費をよくするとはどういう方法なんでしょう」

工藤社長 「車を変えることもならず、巡回コースを変えることもできず、安全運転に徹することが第一ですね。
それから関東地方ならいざ知らず、寒冷地では暖機運転は必須、そのとき車体の雪下ろしとかホイールハウスの中に雪や泥が付いてればきれいにするとかですね。
余計なものを積まないというのも鉄則ですが、冬季は満タンにするのも鉄則です」

半藤 「雪が降れば、事故などもありますか?」

工藤社長 「ありますね。私も二年前、雪道でスリップしてちょうど半回転して道路わきの雪かきして積み上げた雪の壁に後ろからぶつかりました。他の車がいなくてよかったです。
事故など起こせば少々の省エネなど吹き飛んでしまいます」

半藤 「それで省エネ運転は成果が出ているのでしょうか?」

山口さん 「ガソリン削減目標は実は改善ではなく、現状維持なのです」

半藤 「ISO14001の目標というのは改善であって、現状維持は目標にならないと思いますが」

佐々木課長 「そこんところは疑問がありまして……御社のCSR報告書を拝見していますが、御社ではエネルギー使用量削減を環境目標としていますね?」

半藤 「はい、原油換算で目標値を決めています」

佐々木課長 「CSR報告書を見ますと、数値は前年と……いや過去数年同じです。ですから御社はそういうものもISO14001の環境目標としてヨシとしているはずです。
確かに前年と同じ数値を環境目標とするのは変なのですが、それをダメとすると御社の環境目標もダメ、CSR報告書はおかしいということになります」

半藤っ」


半藤は言葉が出ない。
大日本認証がCSR報告書を出しているのはもちろん知っている。自分もプリントアウトして毎年読んでいる。CSR報告書の中の目標がそうだという佐々木課長の言葉に、嘘はないだろう。インターネットを見ればすぐ確認できることだ。
なぜ大日本認証ではそれを是としているのだろうか?
規格解釈は、別途社内で検討するとして、ここでいちゃもん付けちゃダメだ。


注:大日本認証のモデルとした某認証機関のCSR報告書では、環境目標で前年と同じ目標値(要するに改善になっていない)のものも多々ある。自らそういう環境目標を設定していることから、きっとその認証機関はそれで問題ないと考えているものと思う。
正直言って私は納得いかないのだが??


半藤 「左様でしたか。規格の考えについては検討させていただきます。
とりあえず御社の省エネ計画は前年同期比であり、目標は達成する見込みということで了解しました。

話を変えます。この営業所の手順書というかルールを決めた文書は制定しているのですか?」

佐々木課長 「この営業所では、営業所規則という文書体系は設けておりません。といいますのは、あまりにも規模が小さく独立した文書体系を作るほどのことはないと考えたからです。
それで営業所内のルールを文書化するときは、東北支社規則体系の中に、支社規則で該当する規則の子供として、この営業所にのみ適用する細則として制定しています。

この営業所は私一人ですが、ひとりだからルールを定めなくてよいということはありません。青森営業所固有の業務については、客観視できるように、またいつでも引継ぎができるよう、文書化して支社の細則として制定しています。
無駄や重複はしたくありませんので、青森販売さんと話をして帳票のインプットなどのルールは、私のほうで制定した青森営業所の細則に基づいてお仕事してもらうようにしています」

半藤 「なるほど、具体的にはどんなものがありますか?」

佐々木課長 「受注の際の信用調査とか金額による決裁ルートなど営業活動のメインは、手順も判断基準も支社内は共通ですし、決裁も営業所内で処理できるのは継続のものだけですから、支社規則で間に合い営業所規則を作る必要はありません。

それでこの営業所の顧客の連絡窓口とか顧客対応の技術的営業的な項目と手順がメインですね。職務分掌も決めなくてはなりませんが、現状私一人ですから作っていません。
借りている建屋の管理とかゴミ処理は都市によって異なりますから、そんなところですね」

半藤 「それは大家さんである青森販売の役割なんでしょう?」

山口さん 「おっしゃるようにゴミ処理とか建屋の管理などは、大家である弊社が制定するものでしょうけど、過去からスラッシュ電機さんがルールを文書化していましたので、ISO認証以降は弊社がそれを借用する形で運用しています」

半藤 「産廃の処理についての手順が、青森販売さんとスラッシュ電機が同じということはないでしょう」

山口さん 「弊社は量的なことから電子マニフェストでなく、紙マニフェストを使っています。その運用において特に変わることはありません。確かに社名だけは違いますけど」

半藤 「了解しました。
ここから出るごみというか廃棄物はどんなものがありますか? 一般廃棄物なら大家さんがまとめて処理でもよいでしょうけど、産業廃棄物になると排出者が処理しなければなりません」

山口さん 「法規制は存じています。純粋な事務所ですからまず産廃に当たるものはめったに出ません。
クリップマウス
ホチキス
それにスラッシュ電機さんは一人だけですし、仕事から発生する産廃というとまずありません。
確かに壊れたマウスとか文房具でも金属やプラスチックなら産廃でしょうけど、弊社と併せて処理しても問題ないと考えています。
現実問題としてパソコンなど固定資産ならともかく、マウスなどの消耗品はどちらが廃棄したかなど厳密に把握してません。出先で不調ならその場で捨てて、新しく購入するのも普通のことですし」

半藤 「それじゃその営業所規則を拝見したいです」

佐々木課長 「営業所の細則は支社規則と一緒に、弊社のイントラネットにアップしてあるものが正ですが、日常仕事をする際にモニターを見るのは不便なので、ここでは皆にこの営業所に関わる細則一式を……と言っても10数件しかないんですが……プリントアウトしてファイルしたものを配布しています」

山口さん 「ルールではプリントアウトしたものは参考用で仕事に使わないことになっていますが、自己責任で使っています。
これは私のファイルです。半藤さん、イントラネットと一致しているかどうか確認してください」

半藤 「拝見いたします」


半藤は山口が持っていたファイルとモニターで表示したものを見比べて、バージョンが一致しているのを確認した。プリントアウトした方を見ると、いろいろ注書きがしてある。

「市のごみ区分は毎年5月に見直しがある。5月以降に、必ず市のウェブサイトを見て変更を確認すること。変更あるときは細則を改定し全員分を差し替えること」

「○○を入力するときは英文字モードにしてからすること。次回システム見直し時には情報システム部と相談のこと」

「第2章第3項の漢字が誤字 決済⇒決裁、因子⇒印紙
決済……取引で支払いをすること
決裁……権限のある人が判断すること」

などなど
半藤はしげしげと眺めてから口を開く。

半藤 「自己責任で使用するとおっしゃいましたが、書き込みはいけませんね。ご存じないかもしれませが、ISO規格では文書化した情報が十分保護されなければならないとしております。使用者が自分勝手に修整できるなら、それはルールではありません」

佐々木課長 「文書には書き込みをしてはいけないとはスラッシュ電機の支社規則でも定めています。
しかし私たちが使っているものは正式な文書ではなく、プリントアウトしたものであり、文書ではなく個人のメモとみなしております。

それと定期的に皆と、業務手順やルールについて話し合いをしています。そのときに各自のファイルへの注記や付箋を見せてもらい、意見や希望を聞いています。
ファイルにメモされたものについて、ルールを見直すか、純粋に個人的な覚書かを話し合い改定が必要なものは改定しています。なにせ決裁者が私ですから、改定するハードルは低いです」

山口がファイルに綴じられた細則の改定欄を開いて見せる。どの細則もほぼ毎年、改定があり、問題点や誤記などが修正されていて、担当者の意見がフィードバックされていることが分かる。

半藤 「なるほど……そうしますとこの山口さんのメモはどうなりますか?」

山口さん 「ゴミの分類を毎年定期的に市のウェブサイトをチェックすることは細則に盛り込むべきでしょうね。
フォームの入力を強制的に英文字モードにするのはちょっと微妙なんですよ」

半藤 「CSS3で廃止されたんでしたっけ?」

山口さん 「半藤さんは詳しいですね。HTMLやCSSの改定もいろいろあるようで、次回システム改定の際に情報システムと話したいなと思ってます」

工藤社長 「私は理解できませんが、半藤さんは理解できたのですか?」

半藤 「解決策は分かりませんが、山口さんが問題にしていることは理解しました。これは今後の検討事項ですね」

山口さん 「そうです。一応ここに書いておかないと忘れてしまいますから」

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書面を見てから現場を回るが、本当に何もない。製品を販売した場合の納品は、工場直送で営業所も販売会社もものを扱わない。官公庁や電力会社向けは、支社どころか工場から直接技術者が来て打ち合わせて、設置工事などにも立ち会うことが多い。これも販社も営業所も陪席するくらいしか仕事がない。
建設工事は請け負わない。
外に出れば結構広い駐車場の片隅に10台ほど停めてある。冬季は雪かきするので、その分の広さが必要なのだそうだ。

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昼飯を終えて、半藤、工藤社長、佐々木課長が集まる。

半藤 「半日お付き合いいただきありがとうございました。青森営業所の審査の結果を報告します。
結論はISO審査の結果、不適合はありません。規格要求を満たして環境改善活動を進めていることを確認しました。

特に文書を各自が携帯して仕事をしているのは良いことだと思います。余計なことですが、みなさんに配布されている営業所規則のファイルの件は、全員にハードコピーを配布することを細則の中に記述しておいたほうが問題ないかなと思います。コメントなども打ち合わせて対処することまで、今現実にしていることを書ききったほうが第三者が見たとき疑義がないと思います。

まあ、それで終わりなのですが、一つお聞きしたいことがあります。
青森営業所の環境負荷も非常に小さく、またISO認証以前からしっかりとルール通りの仕事をされていること、しかも仕事のルールはきめ細かく見直しがされていることが分かりました。
ということは青森営業所と青森販売は、ISO認証などしなくてもよいとも言えます。私が認証を止めたらどうですかなんて言っちゃうとルール違反ですし、ウチの商売も減ってしまいますが、どうなんでしょうね?」

佐々木課長 「私にとって上位組織が認証を決定したことは所与の条件ですから、自分は粛々とそれを実現するだけです」

半藤 「なるほど、組織人の模範ですね。青森販売さんはどうですかね?」

工藤社長 「青森販売はISO認証が不要であるということですか?」

半藤 「もちろんお宅がビジネスをするうえでISO認証していることがプラスに働くなら認証した方が良いでしょうけど、効果が見えないなら認証は不要かと思います。

ISO規格要求というのは、本来どの会社もすべきことをまとめたものです。教育とか文書管理とかいろいろ要求事項がありますが、ひとつひとつ見ていけば、どんな会社でもしなければならないことです。
ただそれをしっかりとやっている会社は少ない。だから定期的に審査員が来て、チェックすることに意味があると思います。

だけどISO規格が作られる前から、会社のルールに定めてそれを実行しているなら、自主的にPDCAが回っているわけで、ISO認証は不要かなと思いました」

工藤社長 「正直言って私どもの販売会社ではISO認証していると対外的に公言していません。看板にも名刺にも書いていません。
審査登録書というのですか、そのコピーは支社から来ていますが、ここでは掲示していません。認証してもしなくても関係ないといえばないですね」

山口さん 「この営業所かと販売会社を認証範囲から外すことはできるのですか?」

半藤 「できます。ここはわずか数時間の審査ですが、旅費とか宿泊とかかかりますからね。
おっと、私が認証を返上するように言ったなんて知られたら、私が会社から叱られてしまいますので内緒ですよ」

工藤社長 「確かに4時間そこそこの審査のために、仙台から片道2時間半かけてくるのは馬鹿らしいですね。
とはいえ認証費用の負担は、員数比で負担してますから、私どもは10人そこそこ、スラッシュ電機本社・支社の組織全体では4,000人か5,000人だったと思います。
審査費用が400万としてその0.3%だから1万くらいの話だな……メリットがなくても負担もないか……
審査を受けると言っても、この組織が認証を受けてから10数年経つけど、今回が二度目のはずだから、審査を受ける負担もほぼゼロだな。
たまには半藤さんが遊びに来てくれても良いじゃないか」

佐々木課長 「青森販売さんが認証を返上したとしても、私の青森営業所が認証を返上できないなら、審査に来なければならないでしょうねえ〜。
となると、弊社としては審査料金削減になりません」

半藤 「駐在1名だけなら、審査に来ないという選択もあるかもしれませんが……
認証を止めたらどうかという話はなかったことにしてください。
そちらからなにかございますか?」

佐々木課長 「あのう〜、正直言って私はISO審査は初めてで、質問されてもどんな意味なのか分からなかったのですよ」

半藤 「と言いますと?」

佐々木課長 「本社からの指示というか指導書によると、通常通り業務をしていればよい。
聞かれたことに真摯に答えること、とあるだけです。
先ほど環境方針とか目標と言われましたが、そういう意味合いが分かりませんでした。
どんな仕事をしているのかという聞き方をしてもらうか、ご質問を専門語でなく質問の意味合いを普通の言葉で話してほしいです」

半藤 「おっしゃることは良く分かります。もう少し分かりやすい聞き方、言葉使いをするようにいたします」



うそ800 本日のエクスキューズ

移動時間がどうこう、駅から歩いて○分とか、無関係な記述が多いとおっしゃらないで。
監査で見知らぬ街に行くと重要なのは、泊るところ、乗り物の時刻、移動手段です。
そりゃ出かける前にこまごました情報が知りたいですが、そうもいかないのが世の常。

例を挙げると、
某所に監査に行ったとき、まず初めに帰ることに備えて電車の時間を聞いたら「毎時10分」という。都会の感覚で10分おきと思っていたら、何時でも丁度10分に電車があるという意味で、1時間近く無人駅で待っていたことがある。

長靴 道路を温水で融雪している街を訪問したとき、雪がシャーベットになって冠水状態で靴の中に水が浸み込み、えらい目にあいました。

真冬に札幌の町はずれに監査に行ったときのこと、除雪した雪を歩道に積み上げ歩道を歩けません。車道を歩くと表面がツルツルで転んでしまい、あまりの痛さでしばらく起き上がれませんでした。
帰るとき千歳空港の売店で、革靴にとりつける滑り止めを売っていました。それに気が付いていれば……

もちろん泊まる宿の確保も大変です。
かなり田舎の工場へ監査に行ったとき、工場の人がなんとか探してくれたのが、民宿でさえないようなところ。
外観も部屋も普通の農家で、風呂は家族用の五右衛門風呂、母屋から風呂まで、擦り減った下駄をはいて歩いていくとか、風流を通り越してとんでもないところに来てしまったなあ〜と思いました。夕飯も朝飯も普通の家庭のメニューでした。あれはなんだったのでしょうか?
夜中にお化けが出なかっただけ、運がよかったのでしょうか?



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外資社員様からお便りを頂きました(2023.11.22)
おばQさま 寒さにも負けず更新ありがとうございます。

「あの頃」の出張、いろいろと大変でしたね。
特に寒い場合は、今のように良い防寒着もなかったから、辛かった。
お書きの通り他社訪問は革靴がデフォですが、北の冬だと長靴か防寒シューズは必須。
宿泊手配も、電話かFAXで予約。もちろんどんな宿舎かも判らないし、遅いと入口が閉まっていたりもしました。
泊める方も、支払い面とか安全面で信頼できるか、全く不明だからお互い様だったかもしれません。

私も生産や開発委託をしている工場の訪問があったので、結構 出張しました。
当時は地方の工場は、その土地でも力があって、会議が長引いて最終の飛行機にギリギリになった時に、なんと空港へ電話して、少し待ってもらった体験あり、今だと信じられないような地方空港の運営でした。

今では、スマホで宿泊も鉄道も飛行機も即時約できます。 現地の天候や服装もオンタイムで分かります。
加えて言えば、ISO審査こそ、オンラインでできますよね。
この記事にあるような地方の小さな支店ならば、オンラインで十分な気がします。
そういう点では、もっと審査料は削減できるのか?
そのうち、AI使って審査が当たり前になれば、審査員は最終確認して審査結果を発行して終わりなんてなるかも。

便利になるということは、統一した判定基準が行き渡ることが前提だから、そういう点では不思議解釈や、無礼な審査員も消滅して、よいかもしれません。
ただし、簡単にできることは、有難みもないから、そういう所へ認証の価値は落ち着くのでしょうか?

外資社員様 いつもご指導ありがとうございます。
昔を思い返すと笑い話です。初めて冬の北海道に行ったとき、革靴では歩けないということを知りませんでした。よくケガもせずに済んだと思います。
名前は知りませんが、路面を地下水(温水)で温める道路では靴が水浸しでパーになり、出先で買いました。
しかし外資社員様の飛行機を止めるというのはすごいですね。昔、山形の中小企業を訪問して接待されて飲んだときのこと、社長が東京に帰る飛行機の時間に遅れそうだと周りが心配しましたら、社長が俺が電話すれば大丈夫だと語っていました。私は冗談だと思いましたが、本当だったのかもしれません。
山形新幹線ができて山形空港と羽田の便はなくなったのかとおもっていましたら、今も東京〜山形は日に二便あるのに驚きました。

オンライン審査はもとからありましたが、コロナ流行から急増したようです。ネタばらしになりますが、物語は今2019年、中国でコロナが発見されたのが2019年末、そこに引っ掛けて(以下略)

審査員は「ウチの統一見解では」と語りますが、以前アイソス誌が「統一見解があるのか否か?」というアンケート調査をしたとき、いずれの認証機関も「ない」という回答でした。ISO七不思議のひとつです。


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