ISO第3世代 125.打ち上げ

23.11.30

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは


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2019年8月中旬
石川はISO審査の打ち上げと暑気払いを兼ねて、飲み会を計画しろと言われた。実際にメンバーの都合を聞けば出張もあり、家族持ちは混雑を避けて月遅れ盆の前に帰省するとかいろいろ都合があり、開催はいささか遅くなりお盆明けになった。

暑気払いとは夏至から処暑の間にするのが正調らしい。少し遅いけどまだ範囲内でセーフだ。もっとも二十四節気というのも実際の気候に合わず、現実に合わせるなら後ろにひと月ずれた方が良さそうだ。


注:二十四節気にじゅうしせっきとは、立春や春分などで季節を24に細かくに分けたものである。
夏至とか春分は日付と言葉の意味は一致しているが、2月初めの立春にはまだ春が来ないし、4月中旬の穀雨こくうには梅雨にならない。梅雨入りの最早記録は沖縄の4月20日(1980)だ。本州なら5月末だろう。


石川はスラッシュビル地下の居酒屋でどうかと柳田に相談したところ、本社にも健保会館があるという。都会の真ん中の本社にも健保会館があるとは驚きだ。
場所はどこかと聞くと、スラッシュビルではなく、本社ビルから神田駅まで歩いていく途中の雑居ビルの地下だという。

居酒屋 健保会館といっても一般の方も入れる居酒屋で、社員証を見せると社員割引になるという。欠点は会社の人の利用が多く、見知った人に会うのが嫌な人は利用しないという。確かにそんなところじゃ上司の悪口も言えない。

実際に過去、環境管理課にいた方々は好まなかったらしく、課内の飲み会では健保会館を使ったことはないそうだ。現在の環境管理課の人たちはどうだろうと聞くと、現在のメンバーなら問題ないという。

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ということで少し遅めであるが、課員プラス山内参与の8名で暑気払いとなった。
上下関係など気にしない職場だから、着いた順に好きなところに座り、幹事の石川が乾杯と発声して開宴である、後はただ飲んでだべるだけだ。山内さんも心得ていて余計なことは語らない。

初めは隣り合った人と最近の話題などで始まったものの、すぐに席の移動が始まり話題は仕事から映画から景気から、収拾がつかない状況になる。いや、それが期待される飲み会だろう。

話相手が二度くらいローテーションした頃、突然、個室の戸が開けられて女性二人が乗り込んできた。
皆がギョッとして入り口を注視する。

来てやったぞ
お局キヨである
キヨちゃん美咲お邪魔します
古田美咲です

柳田ユミ 「誰かと思ったらキヨちゃんじゃないの。それからあなたは今年入った方?」

キヨちゃん 「二人で飲もうとしたら、聞き覚えのある声が聞こえたからお邪魔したの」

柳田ユミ 「よくオシャレとかけ離れた健保で若い女性が飲む気になったものね〜」

キヨちゃん 「私たち総務でしょ、顔を売るために、他部門の人と会えるところを若手に教えているわけよ」

岡山 「こんなところでイケメンに会えるわけないだろう」

柳田ユミ 「本音は只酒を飲みに来たんでしょ」

石川 「まあまあ、どうぞどうぞ、酒と料理は、お二人分追加します」

柳田ユミ 「美咲ちゃん、石川さんは新婚だからね、手出さないように」

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お局キヨちゃんが乱入してからも、どんどんと話のグループが変わっていく。
お局おキヨは、田中、岡山と話をしている。

田中キヨちゃん岡山
田中お局おキヨ岡山

岡山 「今回の審査で総務課では何も問題がなくて良かったですね」

キヨちゃん 「そうでもないわ、審査員がサッと通り過ぎたけど、いちゃもんを付けようとしたらいろいろありましたよ」

岡山 「へえ、いちゃもんが付くようなことがありましたか?
私もいたけど、気づかなかったなあ〜」

田中 「どんなことがあったの?」

キヨちゃん 「廃棄物の処理手順はスラッシュビル管理(株)の作業要領書で決めているのですけど、電子マニフェストのインプット方法を書いてなかったのよ。
審査の少し前にそれに気づいて行政のパンフレットを使って仕事をしているので、そのまま行政のパンフレットを使うこと、年に一度パンフレットの最新版をダウンロードしておくことって追記したの」

岡山 「ああ、それなら覚えていますよ。それを猪越さんが説明してましたね。事前に手を打っていて良かったじゃないですか」

キヨちゃん 「そうなんですけど、電子マニフェスト使うようになって10年ですよ、10年。その間それに気づかなかったことに愕然としましたよ。もちろん誰も気にもしなかったし、問題もなかったです。今までのISO審査でも問題にならなかったし」

田中 「そんなもん気にするまでもない」

キヨちゃん 「そう言えばそれまでですけど、事前点検は一生懸命したつもりだったのよ。そんな大きなことを見逃していたとは……」

田中 「仕事っていくらやっても完璧はないよ。ただ長年仕事をしているとミスというか手抜かりは少なくなっていく。そんなもんだと思えばいいのさ」

岡山 「前任者のときは総務とスラッシュビル管理の仕事はボロボロだったそうですね。猪越さんになってものすごくレベルアップしたと聞いてますよ」

キヨちゃん 「いやいや、自分自身、文書を点検する技量も未熟だと反省するばかりです」

田中 「まあ、目標が高いことは良いことだ、がんばりなはれ」

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美咲 「坂本さんは環境のベテランですよね。何でも知っているって聞いてます」

坂本美咲
ウィスキーハイボール
坂本美咲

坂本 「環境ってとても広くて、工場の仕事だけでも排水処理、ばい煙対策、省エネ、廃棄物、植栽、冬になれば雪かきといろいろあって、一人の人が全部できるわけじゃない。
本社なら、全社の環境計画を考えるとか環境報告書もある。
私なんて、そのほんの一部の排水処理しか知らないよ」

美咲 「でも海外で工場を作ったときは、坂本さんが工場のインフラを立ち上げたって聞きしましたよ」

坂本 「ハハハ、なつかしいなあ〜。あれは20年以上も昔、私はまだ40前だった。当時はバブル真っ盛りで海外工場作ろうなんて、スーパーに買い物に行くような軽い感じだったねえ〜。

あんな体験ができたのは、あの時代に生きたからこそって思うね。運が良かった。もちろん楽だったわけじゃない。私は学がないから言葉も不自由だったので、仕事の打ち合わせも手足使ってのコミュニケーションだったよ。
でもまあ自分でも頑張ったと思いますよ」

美咲 「私もそんな時代に仕事したかったわ」

坂本 「海外で仕事するのがかっこいいと思ったら勘違いですよ。どこでもすることは一緒だ。環境なんて泥臭い、特に排水処理なんて文字通り鼻が曲がるような臭いところでの仕事だからね」

美咲 「本で読んだんですけど〜、海外に進出した企業はISO認証すると、海外の人と価値観が通じるとかありましたけど、やはり認証すると会社の仕組みができて管理がやり易くなるのですか?」

坂本 「私は管理者じゃなく担当者だったし、担当したのが設備管理だけだったけど、ISO認証したからどうこうということはないと言い切れるね。ISO認証すると管理が容易になるなんてありえないよ。そもそも無関係だろう」

美咲「その本にはISO認証は、会社の仕組みやルールが明文化されビジブルになるから、 外国人にも会社の動きが理解されやすいってありましたよ」 焼き鳥

坂本 「あのね、まずISO規格とISO認証は別物だ。それとISO認証すると会社のルールが明文化されることもない」

美咲 「おっしゃることが分かりません」

坂本 「その本がどんなことを書いているか知らないが、あまり信用しないほうがいい。というか……世の中にはそういう会社もあるかもしれない。だがウチの会社はそうじゃない。
『会社規則を読もう』キャンペーンには美咲さんも加わっているんだろう」

美咲 「ハイ、私もメルマガを何度か書かせてもらいました」

坂本 「じゃあ、知っているはずだよね。当社は創立101周年で、会社規則は100年前に制定されたこと」

美咲 「ハイ、今年は会社規則制定100周年だから記念キャンペーンだそうです」

坂本 「つまりこの会社ではISO規格ができるはるか昔に会社規則が制定されて、会社規則で職制も仕事の分担も手順も決められていたわけだ。
美咲さんは、システムって何のことか知っているかい?」

美咲 「インプットをアウトプットに変える仕組みですか?」

坂本 「自動制御とかプログラムだとそういう理解もあるのかな?
システムって古い辞書を引くと支配体制とか社会制度ってでてくる。元々のシステムの意味は、王政とか民主主義とかってことだよ」

美咲 「そうだったのですか?」

坂本 「そうなんですよ。
じゃあシステムにはどんな要素があるかといえば、組織、機能、手順と言われる。組織とはトップに社長と取締役会があり、その下に事業本部や工場があるとかそういうこと。
枝豆 そして機能とは社長なら経営方針を決めるとか、経営上の決定をするとかになる。
手順とは何か仕事をするときのキプリングの5W1Hのことだ。実際には手順だけでなく基準も必要だ」

美咲 「手順と基準とはどう違うのですか?」

坂本 「組織論もそうだが、ビジネスで使われる言葉はすべて英語の翻訳だ。だから広辞苑などで手順とか基準を引いても正しい理解はできない。
手順とはprocedureの訳で『決められた順序と方法で実行される一連の作業』のことで、基準とはcriteriaの訳で『判断または決定するための原則または基準』の意味だ」


注:Oxford dictionaryによる。
【procedure】a series of actions conducted in a certain order or manner.
【criteria】 a principle or standard by which something may be judged or decided.


美咲 「坂本さんは詳しいですね。やはり海外でお仕事していたから?」

坂本 「こんなこと企業で働く人の常識だよ。
論点を戻すと、ちゃんとしたルールを定めている会社ならISO認証を受けるためにすることは少ないということだ。極論すれば何もしないでもよいかもしれない」

美咲 「そうなんですか?」

坂本 「するとISO認証するために会社は何もしないのだから、認証しても何も変わらないことになる。
ISO認証しても、会社の仕組みができて管理がやり易くなるとか、外国人に分かりやすくなるというご利益はない。分かるかい?
美咲さんが読んだ本に書いてあることとは大いに違う」

美咲 「そうなりますね」

坂本 「美咲さんがどんな本を読んだか知らないが、役に立たない本だね」

山内 ビール 「面白い話をしているじゃないか。私にも聞かせてほしい」

そこに山内がビールのジョッキを持って登場。

坂本 「アハハ、山内さんの前では恥ずかしくて、こんな話はできませんよ」

山内 「実は坂本さんの話を脇で聞いていて、深く考えているものだと感動しましたよ。そういう理解は環境部門の人は皆持っているのでしょうか?」

坂本 「実を言いまして、そういう考えをする人は稀有なことですね。私がへそ曲がりだからでしょう」

山内 「冗談抜きに坂本さんがそう考えたわけでもあるのですか?」

坂本 「それは明確にあります。ご存じのように私が海外にいたとき……1990年代初頭に、ISO認証が始まったのです。そのおかげで、私は日本人の審査員と外国人の審査員に審査を受けたという幸運に恵まれました。

外国人といってもタイ人、フランス人、インドネシア人だけですが、彼らは規格に書いてあることは絶対であり、その反面 書いてないことは語りません。彼らは英語の規格に書いてあるの通りの審査をしました。
他方、日本人の審査員は訳の分からないことを語りました」

山内 「なるほど……」

坂本 「タイに6年くらいいまして、当時ISO9001審査は半年ごとでしたから、10辺くらい審査を受けました。
帰ってきて環境課に戻ると、こちらでもISO審査を受けました。タイで日本人審査員が話すこと・質問することと同じで、日本の審査員が語ることは禅問答ですね。笑ってしまいます。

タイやインドネシアで受けたのは、shallへの対応を徹底的に確認する審査でしたが、日本では審査員が妄想した要求を審査しているのです」

山内 「で、どうしたのですか?」 茶碗蒸し

坂本 「本来なら従来からしていた仕事の中から規格要求を満たしている証拠を見つけてほしいのですが、それができる審査員はいないようです。

私は余計な仕事をしたくありません。それでなくても忙しい。だから審査員に言われたことをしましたよ、徹底的に形だけ。それが最善だと考えました」

山内 「なるほど、それは分かる。
ところで磯原は本社のISOを坂本さんの言うように、あるがまま見せてOKさせたよ」

坂本 「その話は聞いています。すばらしいことです。しかし国内の工場では彼でもできないでしょう。なぜなら部長級は審査員に気持ちよく帰ってもらいたいのです。そのためには不適合の一つや二つハイハイと受け入れても構わないのですよ。
この会社の部長級は部下が抗議するのを止めますよ。審査員に反論するのは権利ですが、上長に反論はできません。
部長級は、審査員の意見を取り入れて仕事が悪くなっても気にしない。私のように、仕事を人生修行と考えていませんからね。

磯原さんができたのは、上長が山内さんだったからです」

山内 「仕事は道、仕事を通じて悟りに至るか」

美咲 「難しいお話ですね」

坂本 「美咲さん、爺さんから少しアドバイスさせてくれ。いわれた仕事を一生懸命するだけでなく、勉強してほしい」

美咲 「勉強ってどんなことをするのですか?」

坂本 「日々の仕事をより深く考え、少しでも品質の良い仕事をすることだ」

美咲 「仕事の品質ってどういうことでしょう?」

坂本 「品質は形あるものでも形ないサービスでも、どんなものでも具備している性質だ。書類を作るなら、間違いのない、見た目がきれいで、顧客つまり美咲さんに指示した人の希望に応えている、そういうことだね。
それは目の前の仕事を一生懸命頑張るだけではできない。品質の良い仕事をするための勉強をしなければならない」

美咲 「どんな勉強でしょう?」

坂本 「まずはオフィスソフトを使いこなせる、正しい漢字を使いこなせる、適切な文章を書けること。
それから法律の読み方は絶対身に着けるべきだろう。私は初めて法律を読んだとき第2条の2と第2条2項の違いが分からなかった。

美咲さんは総務だよね。だったら自分の仕事で困りごとが起きたり、相談されて分からなかったら調べて回答するとか、毎日知らないことを調べていけばものすごい進歩をするだろう。それが勉強だ。私生活でも役に立つよ」

山内 「そういうことを勉強しているとすぐにキヨちゃんを超えるよ。だけど9割以上の人は、知らないこと分からないこと困ったことを放置しておくから、10年経っても進歩しない。

坂本さんは高卒で入社して、40年、ずっと勉強し創意工夫を凝らしてやってきたんだ。我が社で環境管理のプロをあげれば、間違いなくトップスリーに入る。だから本社に来てもらった。
美咲さんも10年間坂本さんの教えるよう努めれば、周りから知恵袋と尊敬されるはずだ。もちろん家庭でも夫や子供たちから尊敬されるだろう」

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石川と磯原が話している。

石川 「磯原さん、私は工場では廃棄物を担当していました。廃棄物だけというと狭いようですが事務処理も現場の仕事もしていました。 ターレ 廃棄物をフォークリフトで廃棄物業者のトラックに載せたり、工場各所のごみ集積所からターレで集めるとかしてましたし、業者の現地調査もしました。トラブルが起きれば市と相談したり、一応のことはしていました。

だから廃棄物の実務なら何でもできると思ってます。でもここでは省エネの問い合わせの電話が来るし、PRTRの相談、公害なんでもですよ。
そういうのってどういうふうに覚えていけばよいのでしょう?」

磯原 「何事にも好奇心を持つことだ。そして分からないことがあれば、分かるようにすること。
私もここに来る前は福島工場で電気主任技術者とエネルギー管理員しかしていなかった。廃棄物も知らないし、ISOっておいしいのって状態だった。

でもここにいると、石川さんが言ったようにじゃんじゃんと電話が来る。公害防止の届け出について教えてくださいとか、ISO審査で審査員からいちゃもんが付いたのだけどどうしたら良いのかとか。
公害防止なら公害防止の担当に回せばよいわけだけど、3年前は、ここでは電話を回せる人もいないし、質問できる人もいない」

石川 「人がいないとは担当者が決まっていないということですか?」

磯原 「いやいや、いつも皆 出払っているんだ。どこで何をしていたのだろうね」

柳田ユミ 「磯原さんもそんな奥歯にものが挟まったようなこと言わないで、皆遊び歩いていたって言えばいいのよ♪」

磯原 「おお、花魁はできあがっていますね」

柳田ユミ 「石川さん、3年前まで環境管理課は動物園というか幼稚園というか、無管理で混乱の極みよ。課長は朝挨拶するとどこかに消えるの、幽霊か忍者よあれは」

石川 「幽霊か忍者ですか……ハハハ」

柳田ユミ 「名前は忘れたけど廃棄物担当は業界団体に直行直帰よ。会社にはめったに来ない」


注:直行直帰ちょっこうちょっきとは「会社に行かず、自宅から直接仕事現場に行き、そのまま自宅に帰ること」


石川 「奥井さんでしょう、もう忘れたんですか?」

唐揚げ

柳田ユミ 「まだボケてないわよ、あの名前を言いたくないだけよ。
ともかく仕事をしない人だったわねえ〜。仕事しないで首にならないから、社長のご落胤じゃないかって言われてたわ」

石川 「確かに奥井さんに問い合わせしても、返事が返ってきたためしはないですね。
しかし業界団体の活動が重要なら、私も業界団体に顔くらい出したほうが良いでしょうか?」

磯原 「まあ、顔と名前を売っておくのも悪くはないよ。業界団体から大学に派遣されて講演に行くこともあるし、大学の先生と伝手ができれば定期的に講座に呼ばれるようになり、非常勤講師くらいになれるかもしれない」

柳田ユミ 「でもさ、環境関連で講演とか非常勤講師って2000年までじゃない。今は環境を冠した学部も研究科も減る一方……というかもう消滅したんじゃない。流行は過ぎたわよ」

磯原 「そうだったのですか、私の認識は20世紀で止まっていたようです」

石川 「つまり、業界団体で活動してもあまり意味がないということですね」

柳田ユミ 「そんなところよ。あの奥井さんが転勤を命じられたとき『業界団体ではボクがいなくては困るはず』なんて言ってたけど、彼がいなくなって困ったという話も聞かないし、そもそも元からなにもしていなかったわけで……」

そこに山内が焼酎の瓶とポットを持ってやってくる。

焼酎

山内 「なんだ石川君は業界団体で活躍したいのか?」

石川 「本社に来ると業界団体に参加していろいろ活動すると聞いていました。柳田さんから聞くと、それほど実のない行動らしいです」

山内 「そもそも業界団体で一緒に何かするという発想がどうなのだろうかねえ〜
廃棄物の処理などビッグプロジェクトじゃない、一人でまとめることができるレベルだろう。PCBなどの処理については業界としてロビー活動もしたそうだが、そういう圧力団体的な意味がなければワイワイやる意味はなさそうだ」

石川 「今までのお話を聞くとそんな感じですね」

山内 「それよりも石川君としては、これから自分がどういう方向に進むのかを考えておくべきだ」

石川 「と言いますと?」

山内 「当初の計画では、環境管理課で集めたメンバーは二通りあって、ひとつは田中さん、坂本さんのように、社内で権威とみなされている定年間近な人で、社内の指導や点検をする役割、もうひとつは石川君のように初心者を抜け出して中堅手前の人を、数年間本社で鍛えて一人前にして工場に戻すというイメージだ。岡山君もこのカテゴリーに入るだろう。
増子さんは前任者が異動したことによる補充だ。

石川君が何も考えずにいれば、2年くらいで増子さんの指導と、本社でもまれて少しはましになって工場に戻るコースだ。
それともここでひと頑張りして実力をつければ、増子さんの後継としてここに残るか、あるいはどこかの工場に係長とかになって行くとか、選択肢はいろいろと広がる」

ビール 磯原石川 ビール ハイボール山内柳田ユミハイボール
磯原石川山内柳田

石川 「工場から私を送り出すとき、工場長も部長もしっかり勉強して戻ってこいと激励されましたので、それは既定のコースなのかと思っていました」

山内 「人生で決まっていることなどないよ。自分がなりたいものになるよう努力すれば願いは叶うんだ」

磯原 「廃棄物にこだわらず、担当とは別にエネルギー管理士とか環境計量士の資格を取れば進路は広がるね」

柳田ユミ 「磯原さん、そりゃ簡単じゃありませんよ。公害防止管理者にしてもけっこう大変ですし、エネルギー管理士は受験勉強に5年くらいかかるでしょう」

山内 「まあ、それくらい歯ごたえのあるものでなければ抜きんでることはできないということだ。難しい試験でなければ差別化できないからね。
そういや、この前の審査で加藤審査員がほめていた力量のある人とは誰だ?」

柳田ユミ 「そりゃ磯原さんしかいないでしょ」

山内 「加藤氏は優秀な人がいるのは問題でもあると言っていたな」

柳田ユミ 「それはその人に頼ってしまうということでしょう。それとも管理がしっかりしていなくてもボトムアップで仕事が進んでいくということかしら」

山内 「まさに上西がいたときの環境管理課の状況だな。
では現状を強くするにはどうすればいいのか」

柳田ユミ 「強い人を弱くするのではなく、周りをみんな強くするしかありません。それができるかどうかは別として」

山内 「至言だな。柳田さんはこの中で一番管理能力があるようだ」

柳田ユミ 「門前の乙女習わぬ経を読むですよ、アハハハ」

山内 「いや、まさしくその通りだ。
ところで加藤審査員が言った通り、個人の力量に依存しているのはまずい。磯原の思考過程、行動基準を暗黙知から形式知として共有せねばならない」


増子さんが登場しませんでしたが忘れたわけではありません。登場人物が多すぎるから顔が出ないだけでちゃんと出席していました。
ご安心ください。



うそ800 本日の思い出

ISO認証して打ち上げだなんてのは今の時代ないだろう。私の場合、1993年の3月だったと思う。イギリスから赤い顔したオジサンが来て審査を受けたのが始まりであった。
その後、めでたく認証して打ち上げをしたとき、みんなが語っていたのが「このような仕組みがいつまでも続くはずがない」「21世紀になったら、なんであんな制度があったのかと疑問に思うだろう」というようなことばかりだった。

残念ながらそのときの予想はことごとく外れて、あれから30年経った今も、強かに生き残っている。まあ、よく見ればボロボロで、いつ倒れてもおかしくない状況だろうけど。
認証制度が消滅したときは、生き残っているメンバーを探し集めてまた一献傾けたい。そのときみんな何を語るだろう。もっともみんな脛に傷を持つ身、己の失敗で改修をしたり、出荷台数を一桁間違えたなんてことをしていたわけで、認証制度になにも思うことなどないかもしれない。今もこだわっているのは私だけか?



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