ISO第3世代 126.管理体制の見直し1

23.12.04

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは


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2019年9月になった。今年は台風の多い年だ。既に日本近くに来た台風が7個もある。特に今月に房総半島に上陸した台風15号は、ものすごい被害を出した。
死傷者も出し、また千葉県の南半分に大規模な停電を引き起こした。送電線への倒壊などにより、停電は長期化して復旧には東京電力だけでなく、他の電力会社からも応援を受けて行われた。

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豪雨豪雨豪雨豪雨豪雨
送電線鉄塔 豪雨豪雨豪雨豪雨
送電線鉄塔
豪雨豪雨豪雨
送電線鉄塔

2019年9月9日に千葉市付近に上陸した台風15号は、記録的な暴風で、熱中症も含めて12人が死亡した。これによる千葉県内の多数の建物の損壊、そして送電線に被害が出て停電の復旧に19日かかり、エアコン、風呂がつかえないなど甚大な被害があった。
ところで気象庁は「令和元年房総半島台風」と命名したが、内閣府は「令和元年台風15号」とも称しており、どっちが正式名なのだろう?


台風が去って数日後、山内は磯原を呼んで話をする。

山内 「今回の台風の影響は、農作物の被害がとんでもなかったが、更に停電と交通途絶で住民の暮らしは大変だ。

他山の石というが、この惨事を自分の身に置き換えて参考にしなければならない。
ISO審査のとき加藤氏が大災害時における本社機能と事業拠点の機能の考え方を指摘した。ウチの体制やルールに問題があるのか、いかようにすればよいのか、その辺を考えて提言をまとめてくれ。

もちろん環境目線でだが、気づくことがあればそれ以外の、例えば人事とか安全衛生とかも併記してくれて良い」

磯原 「分かりました。私も報道を聞いて我が社の危機管理の見直しが必要と考えていました。
ひとつは最近なんでも電子化、情報化と言って情報をリアルタイムで本社に集めるという仕組みになっています。平時においては非常に有効で効率的ですが、情報通信途絶とか実際の移動ができないと、工場と本社が分断され、そのとき工場は単独で動けるか、本社は情報が得られない場合何もできなくなるのかが懸念されます」

山内 「今回は台風が気になるが、東日本大震災も遠い昔じゃない。それどころか近い将来、関東地方に大地震が起きると予想されている。それに自然災害ばかりでなく、今はテロもある。それも物理的なことだけでなく、インターネットを使ったテロもある。
まずはどんなリスクが発生するか、我々はどこまで対処するかというところから定義しなければならないな」

磯原 「本社にいると視座が本社になりますが、工場単体が災害の際に孤立することの発生確率は大きいですね」

視野と視座

注:視点、視座、視野という言葉がよく使われる。視点とは注目する点、視野とは眺められる範囲、視座とは観察者のいるところ。
視座と視点を混同している人が結構いる。正しくは右図のようになる。視点を変えろとは別なところも見ろということで、別方向から見ろと言いたいなら視座を変えろと言わねばならない。

山内 「実は今語ったことは、ISO審査終了日に君に頼んでいたことなのだが、検討はしているのか?(第124話)」

磯原 「もちろん検討しております。我が社とグループ企業で、過去5年間に発生した環境事故や違反を調べて、その顛末をまとめているところです。

正直言って事故が起きた時の対応が、ルールに基づいていたとは言い難いですね。ある場合は事業部と環境管理課がタッグを組んで現地に赴き指揮を執った、例えば熊本工場の漏洩事故のようなものもありますし、工場が単独で対処して毎月の定期環境報告でサラッと単なる一項目として記述していたりと、さまざまです。

今は岡山さんともう少し過去の事例を調べあげ、会社の非常時のルールの運用状況をまとめようとしているところです」

山内 「なにもしていなかったわけでないのだな。それにしては進捗がないじゃないか」

磯原 「山内さん、そう要求水準を上げないでくださいよ。ISO審査からまだ1か月半ですよ。あの時の納期は今年一杯だったはずです。期限までまだ3カ月半あります」

山内 「そうではあるが、今回の台風被害を見ると気になるのは当然だ」

磯原 「おっしゃる通りです。可能性があるなら必ず起きますからね」

山内 「頼むぞ」

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その日の午後、磯原と岡山が話し合う。

磯原 「岡山さん、環境事故や違反の調査とまとめですが、山内さんからもっと急げと言われましたよ」

岡山 「山内さんは研究所時代から、急げ!、急げ!って人でしたからね。まあご自身はそういう生き方で研究もしたし実用化に励んでいた方です。ご存じでしょう、研究所長の時は所長室に寝袋を置いて家に帰らなかったという伝説もあります。
我々はそこまでできません。半値八掛けくらいで聞いてればいいんですよ」

磯原 「そうは言っても今年も結構災害が起きている。熊本や北海道胆振地方など地震も定期的に起きているし、台風は今年6月から今月まで数回来ている。
山内さんとしては心配なのだろう。特に平常時に緊急事態が起きた場合はともかく、災害時に緊急事態が起き時の対応、また災害そのものへの対応策をしっかりしておけという意味合いだ」

岡山 「確かに今回の台風15号にはまいりましたね。家内のお友達が君津市にお住まいなのですが、電気も水道も止まって大変だそうです。もう10日くらい風呂に入っていないと聞きました」

磯原 「いやいや、私自身、千葉市稲毛に住んでいて、台風後は停電でしたよ」

岡山 「おやおや、それはご愁傷さまで」

磯原 「幸い私のところは2日で復旧したけど、君津市以南は未だに停電は解消していないからね(注1)
ええと、それはともかく異常時の対応についてどのようにするか、過去どのような事例があったか、その対応の評価、現行の会社規則が適正かと、体制とルールの見直しの提言をまとめてくれということだ」

岡山 「過去の事例については3年前まで見ましたが、もっと遡って調べたほうがいいですかね?」

磯原 「災害の大小よりも、その対応がどうであったかが知りたいことです。
とはいえやはり東日本大震災、そして阪神淡路大震災における工場や支社あるいは関連会社の対応をおさらいしておくことは必要でしょう。もっと言えば熊本の地震とかもありますか。
とはいえ数が多ければ良いわけではなく、工場や支社の対応状況が分かればよいかと」

岡山 「磯原さん、こういう進め方でいかがでしょう、
まず東日本大震災と阪神淡路大震災の被災地近隣の工場の対応を調べます。
それから過去10年前まで遡り、大きな地震、台風、近隣の火災などの際の対応を調べて顛末をまとめる。可能なら問題点と改善案を簡単にまとめる。
課内のメンバーを集めてそれらを説明して、問題点や改善策の意見を聞く
そんな方法でまずは初期案を作るということで」

磯原 「いいんじゃないか。ただ課内の打ち合わせ資料は事前に配布しておけば、あらかじめ読んだ上で意見を出すと思う。みんな集めてから説明したのでは時間がもったいない」

岡山 「追加で調べるのに2日、まとめに2日、配って読むのに2日、来週に集まってもらいましょう」

磯原 「予定の案内は早めにしておいて
ではみんなのアイデアを期待と……」

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翌週、課内ミーティングを開く。柳田を含めて全員参加である。柳田は庶務担当というだけでなく、環境管理課一の環境事故の知識があり、知恵もある。
岡山はまず初めに、過去の事故事例について自由意見交換をしてくれという。

石川リカルド 増子 坂本勇人 岡山一成 磯原 田中幹也 柳田ユミ
石川
廃棄物
増子
廃棄物
坂本
公害
岡山
修行中
磯原
省エネ
田中
公害
柳田
影の部長

石川 「熊本の漏洩事故(第65話)は聞いていました。あれはどのように処理すればよかったのでしょうか?」

磯原 「あの事故は問題が三段重ねになっていた。
第一は工事車両が防油堤にぶつかったとき、その場にいた部長が安易に問題ないと判断するのでなく、担当者に点検させて判断しなければならない。
第二に漏洩事故が起きたとき、防油堤が破損していたことを隠していたこと。
第三に法で定める行政への報告とか、本社報告を故意にしていなかったこと。

上が事故を隠そうとか対応を決めかねてうろうろする中で、漏れた油を懸命に汲み取っていた作業者が哀れだよ」

石川 「となると、どうすれば良かったのですか?」

坂本 「磯原君が言ったことそのままだよ。まずは小さな事故であっても担当者が点検し判断すること。担当者でなくその上長が判断するのは越権行為だろう」


注:越権行為とは「職務上の権限を越えてことを行うこと」、権限とは「規則で定められた権能」とある。
となると理屈から部下の仕事を上長が行うことは規則に反しないと解される。
しかしそうではないだろう。検査員の代わりを、上司といえど品管課長とか品質部長が務まるわけがない。設備の稼働がOKか否かを判断するのは担当者であり、それを上長であろうと代わって判断するのは越権行為だろう。

権限は上長が委譲したものという見方もあるが、技術的な判断は移譲されたものではなく技術・技能に付属するものではないのだろうか。
もちろん法令で有資格者が行うと定められている業務を、上長であろうと資格のない人が行うことは違法である。上長が有資格者であっても、指名業務ならルール違反だし届け出業務なら違法だ。


石川 「となるとルールとして、事故や違反はまずは担当者が詳細を調べて、正否あるいは合法/違法を判断すること……ということを定めることになりますか?」

岡山 「そういうルールってありますかね?」

坂本 「知る限りそこまで細かく定めてはいない。会社規則では『原因を調査して云々』だけだ。問題はそこまで細かく書くべきかどうかというのがあるよね。誰が考えても常識だろう」

田中 「漏洩事故が起きたとして普通はどう動くかね。私の想像だけど、現場で漏洩が見つかったなら、

そんなところでしょう。
現在の会社規則はそんなふうに細かくは書いてない。じゃあ細かく書けばよいのかとなると、定型的なことじゃないからそうもいかないでしょうね」

磯原 「異常時とは非定型で、同じ条件の事故というのはないですからね。
漏洩事故といっても、タンクの種類も違い、設置場所も違い、容量も違い、液体の種類も違い、構外に流れ出ても水路が農地を流れているか・いないか、工場で対応できる設備技術があるかどうかとか、もちろん時刻も天候も判断に影響を及ぼすわけで」

タンクの違いの例
オイルタンク灯油タンク

k仕様k 容  積:20,000L
内 容 物:重油
防 液 提:コンクリート製
防 液 提:防蝕ライニング
設置場所:屋外
容  積:400L
内 容 物:灯油
防 液 提:鉄板製
設置場所:屋外

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石川 「事故とか緊急時とありますが、対象となる異常時ってどこまでを対象と考えているのですか?」

岡山 「これは説明が漏れていましたね。我々が対応しなければならないすべてと考えています。自分の工場が原因の緊急事態だけでなく、自然災害とか犯罪なども含めるつもりです。
具体的には地震、台風、近隣の大火災など、犯罪はテロも考慮して毒ガスとか人質事件までも考えておくべきでしょうね」

石川 「えー、そこまで範囲を広げれば、もはや環境の範疇じゃありませんよ」

岡山 「もちろんそういう事態を想定するけど、対応を考えるのは環境の範疇としたい。地震で工場が損壊しても従業員の帰宅とか怪我の治療は対象外で、危険物の漏洩とか化学物質の反応などに対する策というイメージでお願いしたい。
とはいえ帰宅困難者の避難場所とかトイレの確保は環境部門の仕事だろう」

坂本 「最初に本社と連絡がつかないときとか話にあったようだが……」

岡山 「そうそう、会社規則で本社の指示を仰ぐような手順があったとしても、本社との通信が途絶えている場合、従業員の安全確保の役割は工場の環境課にあります」

田中 「それは東日本大震災とか、今回の房総半島に上陸した台風のような場合だね?」

岡山 「そうです。火災が起きても消防署へ連絡もつかないこともあるでしょうし、もっと言えば連絡がついても工場に来れないこともあるでしょうね」

石川 「それは火災が起きて消防署に連絡しても、橋の崩壊とか土砂崩れで来れないときの対応も考えるということですか?」

岡山 「そうです。今回の台風では倒木などで通行止めになったところは多いですね」

石川 「そこまで考えたら、一企業の環境担当者としては打つ手がないじゃないですか。従業員の安全確保の役割は工場の環境課にあると言うのはかっこいいけど、できるかどうか分かりません」

岡山 「そう熱くならないでよ。従業員が帰宅できない、寒い夜になった、そのときそのために働くのは環境課とか施設課に決まっている。もちろん達成する責任はないだろうけど、少なくてもやろうとする責任はあるだろうね」

石川 「気持ちは分かりますけど、実行できるかどうか……」

岡山 「だからこそルールを決める必要があると考えるんだ。
例えば火災が起きたとき、定めた基準を超えたときは現場を放置して避難するというルールを決めておけば、環境担当とか自衛消防隊は後の責任を心配せずに避難できるだろう。もし消火に努めるというルールなら、避難せずに消火を続けなければならない」

坂本 「そこらになれば常識というのがあるかもしれないが、確かにルール化しておけば後で責任問題になったときとか、そうでなくても個人的な気持ちのつけようがあるだろうね」

田中 「『生きて虜囚の辱めを受けず(注2)じゃないけど、消火に努めよとか、被害拡大防止を図れだけではいけないよ。最善を尽くしたら撤退してよしとしなければ」

柳田ユミ 「そういうのは必要だわ。庶務担当は職場防衛組織に入っているわけだけど、役割は速やかに避難すればよいとなっています。私たちだけでなく、消火に役に立たない人は早急に避難したほうが、消火活動にも邪魔にならないと思うのね。グズグズしていると、救助のために余計な仕事を増やしてしまうし。
いまどき非常持ち出しなんて該当するものはないわ。昔なら図面とか書類がたくさんあったでしょうけど、今はバックアップがデータセンターにあるし、」

田中 号令をする 「指揮者が誰かということも大事だよね。工場の防火管理者は総務部長だが、実際に緊急事態になったら指揮は取れないだろう。
火災以外の地震による家屋の倒壊とか従業員全員が避難するときなどを指揮できる人は誰なんだろう。
あるいは総務部長に施設管理課とかの参謀をつけるのか、そもそも総務部長との連絡がつかない場合はどうするのか、それもはっきりしておきたい」

増子 「災害時には工場内でさえ連絡がつかないこともありますよ。本人が負傷しているかもしれません。出張のときの代行者といっても、書類の決裁と消火の指揮者は役割が違いますしね」

田中 「私も現場の課長だったとき隣の会社が火災になってね、職場防衛隊が勢ぞろいしたものの延焼を待つのもないと、隣の建物の消火に努めたよ。
そういうときの判断は誰がするのかというのも、独断専行もいかんし、その場で決めることでもないよね」

石川 「そう考えると、職場の壁に貼ってある自衛消防隊とか緊急時の組織表なんて、お遊びで役に立ちませんね」

お酒
お酒
お酒
高校の先輩から聞いた話である。
勤め先が火事になり、社員総出で必死に消火作業や貴重品の運び出しをしている最中に、複数の取引先から続々と火事場に届けられたのがたくさんの日本酒。
あれは飲んで消火を頑張れというのか、なんだったのだろうと、首をひねっていた。間違っても祝い酒ではない。1970年頃の話である。

坂本 「だんだんと目指すものが分かってきたよ。最初に話を聞いたときは過去の事故の対応を再吟味しようということかと思った。そうではなく通常想定しているよりも、大きな災害が起きたときや、災害時に緊急事態が発生した時の対応ルールを作ろうということだね」

岡山 「そうです、そうです。その他、混乱度合いが大きなとき、外部との連絡が取れない時など、極限状態を考えたいのです」

磯原 「現実に阪神淡路大震災や東日本大震災では工場を消火しようという発想ではなく、まず自分の命を守るということが最優先でした。今回房総半島に上陸した台風では、自宅に被害がなくても、電力も途絶え水道も来ないという状況になりました。

そういうとき環境部門としては、最低限、自分のところから悪影響を出さないことは必要です。
なかなか消えないわ
消火作業 スプレー負けるものか
火災発生

そうそう、東日本大震災ではかなりの数のPCB機器が行方不明になりました。PCBは現在ではほとんど処理されたでしょうけど、そういうものの紛失や漏洩を防ぐなどできることはしなければなりません。

そういうことも想定して、消防や市役所が機能していない場合、あるいは本社と連絡がつかない場合、様々な状況で対応策を考えてほしい」

坂本 「分かった。そういう説明を初めにしっかりとしてくれれば分かりやすかったと思うよ」

田中 「いやいや、既にいろいろなケースで議論してきたけど、それが今の条件を付けた場合はどうなるかと考えれば良く、今までの議論は無駄ではないよ」

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岡山 「異常時の対応を決めるにしても、まずどういう構成にするかについての意見を聞かせてください」

柳田ユミ 「まず災害の大きさとか、周囲の条件によってカテゴリー分けすべきよ」

田中 「それじゃ、
・工場外は平常状態の場合
・工場周辺が同じ災害に見舞われている場合
・大規模な範囲で災害が起きて行政の力があてにならない場合
・大規模な災害で通信途絶、電気も水道も停止した場合
・更に人命の危機にある場合、
このくらいかな」

坂本 「そうですね、とりあえずそのような区分で良いかと思います」

増子 「それだけじゃなくて、工場内でも連絡がつかない状況もあるし、責任者が行方不明とか怪我で指揮をとれないこともあるわ」

田中 「なんだか軍隊の指揮権継承の話のようだ」

石川 「昔アメリカ海軍で、司令官をはじめとする幹部が通信できない状況だったので、海軍中尉が艦隊の指揮を執ったという話を読んだことがあります。
もちろん通信が復活したときは指揮権を返したわけですが」

坂本 「新入社員が工場全体の消火の指揮をとったようなものだね」

田中 「そういうことが可能なのは、あらかじめ指揮権継承を定めていること、そしていかなる状況においても対応策を決めいるからだろうね。そしてまた士官なら若くても大部隊の指揮を執る力量があるということだ。

軍隊なら指揮官が戦死した場合は、指揮権継承順は法で決まっているけど(注3)会社の場合、部長が行方不明なら先任課長が代行するって一律には決められないだろう。平時に優秀な人と、非常時に優秀な人は違うからね。
旧軍では軍医とか技術士官は指揮権がなかった(注4)会社でも課長・部長なら指揮できるわけでもない」


注:先任課長とは、複数の課長の中で最も早く(古く)課長になった人のこと。


一般企業では指揮権継承なんて決めているものだろうか?
私の勤めていた会社では、決めていなかった。決めていたのは業務代行順位だけだった。
それによると、課長が不在時の決裁は直属上司である部長、部長不在の時は部内の先任課長、いない場合は順次在席の課長、それもいない場合は他部門の部長だった。
まあ、そこまで行く前に私ならサッサと仕事を進めちゃう。

おっと、当たり前だが代行順位が上位の人がいる限り、他の人の代行、代印は不可である。いかなる時点でも決裁権限者は一人しか存在しない。

岡山 「そういったことを我々は決めようとしているわけですよ」

坂本田中 「その必要性と意義は理解した」

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岡山 「本社と工場の機能についてはいかがですか?」

田中 「役割分担は現状で問題ないんじゃないか。というか本来工場がすべき判断ができず、本社に伺いというよりも頼り切っている傾向がある気がする」

坂本 「同感だね、伺いといえば聞こえが良いが、自分で決定できないとは無責任だ」

増子 「私も同感。もっと自主権を主張すべきよ。工場長になれば一国一城の主、もっと自分の主張を出してよいと思うの。それが出荷が遅れたりするだけで、自分がというか工場の営業が手を打たずに事業本部とか営業本部に声をかけて調整してもらうとか、恥を知れってところよね」

坂本 「事故とか緊急事態が起きた時も、工場が主体的に対応すべきだね」

田中 「とはいえ工場はいつも本社を頼っているかというと、変なところで内緒でいろいろしているからね」

磯原 「私が来てからも宮城工場とか岩手工場など、認許された投資計画と違ったことをしていたり、工場の裁量といっても限界があるのを認識していない。背任に近いことをしてたりする」

柳田ユミ 「やるべきことをせず、してはいけないことをすると……」

坂本 「ともかく緊急事態とか異常発生時は、工場が自主的に対応するのが第一だ」

柳田ユミ 「自動制御ならまずは小さなループのフィードバックを回すのが第一ですよね」

田中 「おお、柳田さんは自動制御できたか」

坂本 「ええと……なんだっけ、自動制御で外乱を受けても影響を受けないことをなんて言ったかなあ〜? ロバロバとか馬🐎とか言ったよね」

岡山 「ロバストですか?」

坂本 「それそれ、馬でなくロバだったか……そのロバストを目指せば良いのかい?」

増子 「ロバストというよりもレジリエンスじゃないのかしら」

坂本 「レジリ何とかってのはロバより頑丈なのかい?」

増子 「意味が違うのですよ。ロバストとは外乱を受けてもシステムの安定を維持できること。それに対してレジリエンスとは、状況が変化したり異常が起きたとき、それに対応して乗り越えることです。

つまりロバスト(Robustness)は予め予測していた問題に対する堅牢性で、レジリエンス(resilience)は外乱に対応する能力ですね。もちろん自動制御に限ったことでなく、人間も含めたお話です」

坂本 「なるほど、予知できることならロバストで、予知できないことにはそれへの対応する能力ってことか」

岡山 「もう疲れ果てたでしょう。本日はこれにてお開きとしましょう。
本日の議事録とみなさんの提案を関連図か何かにまとめて送ります。来週また集まってくださいね」



うそ800 本日の言い訳

なんだ、何も進展してない無駄な会合だ……とお怒りのあなた
会社でも町内会でも卓球クラブでも、世の中の会議で毎度・毎度、しっかりと討議して結果を出していく会議なんて……ありません。

会議の8割は、根回し、たらい回し、掻き回しでおしまい。
1割は成果があったと勘違いして、残った1割が意味のある会議でしょうか。
本日の会議は8割の方です。



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注1
千葉大学「台風15号による停電被害の概要と災害間比較」
65ページもある報告書だが、読むと災害への備えに役立つ。一読を勧める。

注2
「戦陣訓」
正直読んで面白いものではないけれど、読んでおくべきものだろう。

注3
自衛隊の指揮権継承順は次のように決まっている。
(1) 政府が発行した幹部名簿の記載順
(2) 記載名簿が異なる場合は階級の高い順(種ごとに名簿がある)
(3) 同一階級の中では現在の階級へ進級した年月日の早い順
(4) 上記も同じ場合は一つ前の階級へ進級した年月日の早い順
(5) 上記も同日付の場合は生年月日の順

注4
旧軍では軍医、技術士官、主計士官は指揮権を継承できなかった。
自衛隊では医官でも指揮権を継承できる。(平成12年6月27日防衛庁訓令第80号)
会社の場合、製造部門とか施設管理部門の部課長でなければ、工場の施設、危険物の取り扱いなど分からないのではないだろうか。



外資社員様からお便りを頂きました(2023.12.05)
おばQさま
いつも定期更新有難うございます。

>2019年9月の台風
ちょうど長野に居たときで、倒木で停電3日間
冷蔵庫のものは廃棄、風呂に入れず(ガスはあるが給湯器の電源無し)
携帯電話の基地局も1日で予備電源ダウンで携帯も使えないという貴重な被災者体験をしました。

>災害等で孤立した組織の問題
これは非常に大きな問題ですね。
というのも、状況に応じた柔軟な対応が必要な一方で、規則は守る必要がある。管理者としての本当の力量が問われるのだと思います。

これに関連して、私も工場監査で規則違反を見つけたことがあります。
工場内部は、過ぎたことで責任者は定年退職済み、「事を荒立てても誰を幸せにならない」と現地の工場からは強く言われました。
でもコンプライアンスの為に監査しているから、見逃すことも出来ないので本社の上長には報告。
遡って退職者の処分が行われ、工場の人には恨まれただろうと思います。

でもねぇ、不祥事が発生する組織って、結局 内輪の庇い合い。
特に「規則違反かもしれないが、この違反で個人の利益は得ていない、組織の為だ」と言う理屈が多かった気がします。
杓子定規だ、非情だといわれても、監査で、こういう理屈を認めたらコンプライアンスなんて成り立たないと個人的には思います。 監査は見つけたものを報告、それへの判断や処分はさらに上が行う。
だからこそ、監査の人間が、勝手に報告不要だと判断するのは違反なのです。

今回の記事も、そういう根本に触れた大事な内容だと感じました。

外資社員様 いつもご指導ありがとうございます。
いや正直なことを言いますと、書いていることは自分の経験を脚色したものですが、実際に解決したわけではありません。せめて罪滅ぼしに磯原君に頑張ってほしいなという願いです。

定年退職者の処分というのはありえるのでしょうか?
考えられるのは民事訴訟でしょうか。よく過去の役員に対する損害賠償請求などありますが、一般社員では横領なら良く報道されますが、職務怠慢とかでしたらどうなのでしょうか?
「事を荒立てても誰を幸せにならない」よく聞きますが、結局、後々自分の罪が見つかったとき免罪してもらおうということじゃないのでしょかねえ?

あまり大きな声では言えませんが、学校の退職した先生が囲碁クラブで語っていましたが、学校火災が起きてその先生も検証チームに入り調査に行ったら(昔のことですから)宿直の先生の不始末だと判明した。だけど彼のこれからのことを考えて、原因不明として処理したそうです。
ご本人は俺は大物だ、清濁併せ呑むと言いたかったのでしょうけど、そりゃないよと思いました。そういう先生は引退してからも学校の人事に口をはさんでいたようで、碁会所ではあいつは田舎で何年務めたから市部に戻してやろうなんて話し合いしていました。まさに悪代官って感じです。

外資社員様からお便りを頂きました(2023.12.06)
おばQさま
質問有難うございます。省略した部分だったので質問頂いて補足の名目が出来ました。

>退職後の処分 下記2つの条件は可能です。
1)退職後2週間以内は可能
「雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」(民法627条1項)
2)退職金、企業年金等で規定があれば減額または賠償との相殺が可能

今回のケースでは2)で損害賠償と相殺。(処分は無関係なので推定)

企業不祥事の防止という意味では、退職金や企業年金は、退職後も含めて抑止効果があると思います。
役員や管理職などの競業への転職禁止も、2)で抑止というのが多いですね。
そのためには社内規定で競業への転職の禁止と年金や退職金の減額規定、賠償との相殺等を定めておくことは必要です。

外資社員様 いつもご指導ありがとうございます。
民法拝読しました。そういう決まりがあるのですね。
無知の知を自覚しました。


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