ISO第3世代 129.管理体制の見直し4

23.12.14

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは


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9月も下旬になった。
山内からの指示で磯原と岡山は、過去の事故事例を時と所をぼかして研修の資料を作っている。山内はそれを書籍にして市販しようなんて語る。

確かに環境事故や違反事例とその対応処置のテキストはめったにない。磯原は数年前に産環協の講習会を受けたとき、水質事故の事例の冊子をもらったことがある。載っていた事例は10件もなかったと思う。だがそれを見てこれはすごい、参考になると思った。
事例は水質事故だけで、大気汚染とか振動騒音その他の環境問題はなかった。最近は太陽光パネルによる光害や風車の騒音問題も多いのだが。

法律の解説とか公害防止施設の運転というのは書籍も講習会も多々あるが、違反したときどうするか、事故が起きたときどう対応するかを書いた書籍も講習会も聞いたことがない。現実にはそれこそが必要とされているのではなかろうか?
そういうのは企業秘密で広まらないのかもしれない。貴重だからか恥だからか?
市販はともかく編纂した事例集はスラッシュ電機グループに配る価値はあるだろう。


まあそんなことで、調査したことのとりまとめを急いでいる。山内の強引で過重な命令には参るが、その重要性と必要性は十分に認識している磯原と岡山である。
お仕事 多少の愚痴は出るが、数多くの失敗事例を眺めていると、とても勉強になるのは事実である。そして新任の環境担当者あるいは環境管理者が参考にしたら、緊急事態の対応に役立つこと間違いない。

本当に市販するのかどうかは定かでないが、広く環境担当者が手に取れるようになるなら、日本の事故の対応はレベルアップするんじゃないかと岡本と磯原は思う。
そう思うと編集にも力が入る。

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ドラフトを作ると課員全員配って読んでもらう。
一番コメントが多いのは柳田である。文書の書き方、送り仮名、漢字の使い方など細かいダメ出しを受ける。もっともなことで、岡本も磯原もありがたく受け取る。

田中、坂本、増子からは法的な観点や、運用上の観点でのチェックが入る。これもありがたい。
石川は廃棄物関係にはコメントするが、それ以外の問題には遠慮しているようだ。知らないなりに言いたいこと気が付いたことを書けというのだが……

コメントを盛り込みレビジョン5まで進んでまあ良かろうとなって、山内にバージョン1として提出した。

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山内がいろいろと講評(いちゃもん)してくるだろうが、磯原と岡山は次の段階の検討に入る。それは研修会をどのようにするかである。

打合せ

岡山 「どうせやるなら、あっと驚くようなものにしたいですね」

磯原 「アッと驚くねえ〜、ロールプレイングをさせるのでしょう」

岡山 「ロールプレイングといっても多種多様です。今回は参加者に工場長から部長、課長、担当者、行政、近隣住民などを割り振って……」

磯原 「それも普通じゃないですか」

岡山 「事故現場はプロジェクターで映像を映し、複数の場所にそれぞれを配して電話でやり取りさせる」

磯原 「なるほど、そういうのはあまりないか」

岡山 「課長クラスなら、たまには工場長の役をしてみたいでしょうしね。いつも怒鳴られているから、お芝居なら怒鳴る役もしたいでしょうし」

磯原 「シナリオは作らないの?」

岡山 「設定と発生する事故だけ決めて、誰がどうするのかは演者に一任しましょう。いや、それが役者の実務の実力ですよ。演技力じゃなくて」

磯原 「イメージは分かりますが、お話が進みますかね? みんな顔を見合わせてダンマリとか」

岡山 「そのときは外部からじゃんじゃんと薪をくべるとか」

磯原 「事前に課内でトライアルをしておく必要がありますね」

岡山 「いえいえ、磯原さんと柳田さんがいつもしていることですよ。
熊本の漏洩事故のときは上西課長のスマホでバスケットボールをしたとかお聞きしましたよ(第65話)」

右手 曲線 スマホ 曲線 右手

磯原 「柳田さんとか私がいつもしている……ああ、なるほど、ある日突然電話が鳴ってという……
それじゃ近隣住民とか市役所の役は柳田さんに決まりだ」

岡山 「いつもの風景ですね、アハハ」

磯原 「課長級が30名集まるわけですから、お芝居は三本くらいになりますか」

岡山 「そうですねえ、課長1名、担当者が3名、庶務1名、そして外部は近隣住民、総務部、工場長、市役所で1チーム10名ですか」

磯原 「お芝居が進まないかもしれませんから、外部の人、市役所とか近隣住民は我々が担当しましょう。山内さんも登場したいでしょうから工場長かな?」

岡山 「山内さんかあ〜、あの人はケチをつけたり煽るのが上手だから工場長でなく近隣住民ですか」

山内 「わしはケチをつけたり煽るのが得意か?」

岡山 「はっ、これはこれは山内さん、聞き違いでしょう」

湯気
紙コップ

山内 「何をしているんだ?」

山内はパントリーに行ってコーヒーを注いでから二人のそばに座る。

磯原 「お読みになってらっしゃると思いますが、先日まとめた事例集を基に、工場の環境課長を集めたときにロールプレイをしてもらおうかと考えています。その検討会です」

山内 「工場の課長を集める通知はまだ出してないだろう。早めに出せ。年末が近づけば皆忙しい」

岡山 「山内さん、また例によってスケジュールを早めるのですか?
先日は11月とおっしゃいましたが」

山内 「テキストが完成したならすぐやろう。まだ9月下旬だ。10月中には開催できる」

磯原 「分かりました。それでは研修会の内容ですが……」

山内 「まあ開会の挨拶くらいはわしがしよう。それからアイスブレーキングをしたら、今聞こえたロールプレイをやってみよう」

岡山 「アイスブレーキングなら、グループを決めて、役割を決めてもらうことでいかがですか。どの役をしたいかで人間性が分かりますよ」

磯原 「私はロールプレイは種々事故の対応を説明したのちに、最後にちょっとやってみたらと考えていたのですが」

山内 「何事も訓練が必要だ。座学は座学に過ぎない。わしが立ち聞きして思ったが、研修会はロールプレイだけにしよう。
もちろんお芝居がひとつ終わるごとに反省会をする」

磯原 「全く見知らぬ人を集めて設定を渡してお芝居になりますか?」

山内 「岡山によると、わしはケチをつけたり煽ったりするのが得意らしいから、わしが近隣住民で苦情を言えば動かざるを得ないだろう」

磯原 「分かりました、分かりました。
そうしますとロールプレイひとつで40分くらい、反省会が1時間というところですかね。30名参加として3回に分けて……」

山内 「ロールプレイがシャンシャンと行くはずがない。だから同じ設定でメンバーは同じでも変えても、2回くらいやらせる必要がある。
もちろん1回やったら反省会、問題があったらどうすればよいのか考えさせる。そしてもう一度……そんなふうにさせてみよう」

岡山 「そうしますと、ひとチームで半日というところですか。研修会は参加者の移動を考えると午後イチ開始で初日は挨拶とか予定の説明とかありますから、2時ロールプレイスタートでひとチームで終わりですね」

山内 「そうだなあ〜、夜は形だけ参加費を取って親睦会だ。
翌日は朝から別のチームだ。2回やって2チームで3時終演か。そこで少し自由討議をさせて、4時解散というところで良いだろう」

磯原 「分かりました。そういう条件で詳細立案します。
お話変わりますが、まとめた事例集はご覧になりましたか?」

山内 工場 「ああ、見ているよ。文字が多いな。文章だけではなく、現場周辺の地図、その工場の組織図、工場のレイアウト図、環境負荷……環境側面というのか、そうものを載せたら良い。
環境課のあるところから事故現場まで、歩いて1分と5分じゃ状況は大違いだ」

岡山 「なるほど、そうするとビジブルでわかりやすいですね。ただあまり具体的に記載すると発生場所が分かってしまうのではないですか」

山内 「構わんだろう。みんなに役立つようなものが一番だ。
それから盛り上がらない時を心配していたが、そのときは一旦ロールプレイを止めてどうあるべきかを考えさせたらどうだ」

岡山 「そうですね、そのときは設定に近い事例を取り上げて、実際の事故ではどうしたかという解説をしましょうか」

磯原 「そういうことを考えると、開会の挨拶の後、事例集を渡して説明したほうが良さげですね」

岡山 「上西課長のようなタイプだと動けないかもしれませんね」

山内 「考えてみろよ、磯原とか柳田は突発事件が起きても、いつもすぐさま状況判断して動ける。そういうことは何度もあったな。まあ役目として動かざるを得ないわけだ。本社の環境管理課なら日常していることだろう、違うか?
上西タイプが何人もいるようじゃ我が社の未来はない。ロールプレイをすれば、そのふるい分けもできるじゃないか」

岡山 「そういうことなら過去の事故事例集はいらなかったのでは?」

山内 「あれは研修会が終わり解散するときに、お土産として渡したらどうかと思っていたのだが」

磯原 「確かになくてもロールプレイはできますし、緊急事態への心構えとか手順を知っているかの確認はできますね。
でもそれだけでなく、あの事例集を読めば役に立つかどうかを検証したいですね。

その意味で初日の1チームは事例集を見ずにロールプレイをしてもらい、その日の終わりに配布して二日目の2チームは読んでからロールプレイをしてもらうというのはいかがですか?」

山内 「それはよさそうだな。読むといかほど役に立つかが分かるか……そうしよう」

岡山 「会議室は大きめなのを借りて衝立でいくつかに仕切り、環境管理課、事故現場、総務とかを分けます。そうすれば現場からの連絡と隔靴掻痒で臨場感があるでしょう」

山内 「臨場感か……電話で相手の顔が見えず会話するほうが本番らしいな。
それはいいね👍

磯原 「それではそういった趣旨で進めさせていただきます」

山内 「宛先は課長や部長でなく工場長にしろよ。発信者は生産技術本部長の大川常務のハンコをもらおうか。格調高い研修会であることを示そう」

磯原 「いくらなんでも役員から工場長に発信するのは……生産技術部長のハンコでよろしいのでは?」

山内 「いいからいいから、宛発の下案を作ってわしに送れ。本部長に説明をして、その場でハンコはもらう。
開催日はいつにするんだ?」

岡山 「今、10月中とおっしゃいましたが、いろいろ行事が重なっておりまして、平日は難しいですね。
今、スケジュールを当たりましたが、10月18日金曜日から翌日の19日土曜日ということでいかがでしょう。

それでですね、場所的にもいろいろありまして本社ビルではなく三鷹の研修所なら空いています。あそこですと朝昼晩と食事も用意できますし、夜も大丈夫です。
先ほど大きめの会議室を衝立で仕切るといいましたが、研修所なら部屋は多数あります。それぞれの部屋を別の場所に設定すれば状況が見えませんから、電話だけがコミュニケーション手段で実際に近く臨場感は増し増しです」

山内 「なるほど、そのほうがいいか。
環境管理課は何名出すんだ?」

磯原 「当初はオールキャストと考えてましたが、休日ですと必要最小限ですね。
設定と片付けの仕事もありますし、人が足りないときはエキストラが必要です」

山内 「一日は休日出勤になるから、その旨 話をして出られる者を全員連れていけ。仕事はいろいろあるだろう。30人も来るんだ、相手するにも人手が必要だろう。

早く集まれ
1.通路西
走る 走る
2.通路北
消火作業火災発生
3.第4工場
考える 電話
4.環境課
こんな絵描いてもしょうがないよね
そうだ、ロールプレイを撮影しろ。場所が何か所もあるなら、全部を撮影したほうがいいな。
できれば……画面を分割すれば4カ所くらいひとつの画面にまとまるだろう」

岡山 「撮影はスマホでもできますが、スタンドとかいろいろ工夫が必要ですから、各部屋にパソコンを置いて動画を撮って撮影と同時に演技者以外が見られるようにしましょう。
ところでNGだったらどうしますかね、撮り直しするのかそのままか」

山内 「NGって言っても普通の映画のNGじゃなくて、緊急事態ならよくあることじゃないの。泡食うと電話番号も忘れるし、書類がどこにあるかも思い出せない。そういう状況で頑張らないとならないという良い見本じゃないか」

岡山 「それはそうですね。承知しました」

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山内は人を動かすのもさってばさであるが、自分も腰が軽い。
翌日には常務のハンコをもらって各工場に発信した。

正確に言えば発信はワークフローである。上長に説明するとき、モニターを見ながら解説するのは分かりにくいので、A4でプリントアウトして決裁者に説明し、了解が得られたらワークフローで発信する。

注:「さってばさ」という言い方が方言だと初めて知った。福島県中通りでは「すぐに実行する」という意味で使われる。
「中通り」といってもストリートの意味ではない。福島県には東西に縦方向に山脈があり、中央の阿武隈川流域を中通りと呼ぶ。



2019/09/25
工場長各位
CC.各事業本部

生産技術本部 本部長 大川
担当 磯原課長代行/岡山


環境緊急事態研修会開催通知

いつも当社の環境活動にご協力いただき感謝申し上げます。
さて昨今、当社におきまして複数の環境事故が発生しました。また特に今年は台風が多いと予想されており、防災にも注意が必要です。
ついては緊急事態の対応について研鑽を深めるため、下記にて研修会を開催いたします。
急な日程で申し訳ありませんが、よろしく該当管理者の派遣をお願いします。




実施事項
テーマ
 実践的な緊急事態対応について
内 容
 1.過去数年間に発生した緊急事態の事例解説
 2.事例研究
 3.工場での展開について討議

対象者
 環境管理担当課長または緊急時に指揮を執る者
  緊急時の指揮権を持たない担当者は不可
日時
 10月18日(金)13:00〜19日(土)16:00
場所
 スラッシュ電機 三鷹研修所(研修及び宿泊)
 住所 東京都三鷹市***
弊方
 問合先 環境管理課 柳田(phone ****)

以上


おって、
18日定時後に親睦会を行います。ご参加ください。






うそ800 本日のトピック

本日は空前絶後の文章であります。
何か
たったの5,000字しかありません。

日頃からネット小説を読み漁るおばQ爺であります。ちょっと気になりネット小説の連載物は文字数がいかほどあるのかと数えました。
週に1回更新しているものの多くは、短いものは2,500字、長いものでも4,000字程度しかないのです。
間違っても1万字を超えるものは見かけません。そういうものは月1回更新とか更新がふた月おきとかのものしかありません。いやいや、毎月1回更新でも5,000字より短くても普通なのです。週2回更新で1万字も書いているのは異常らしい。
ちなみに新聞小説は1回千文字といわれます。

注:「異常」とは、間違いとか正常ではないという意味ではありません。「普通でないこと」「例外」「少数派」を意味します。

私の場合、週に2回更新しています。そして短くて7,000字、長ければ1万字を超えてます。会社が始まる前にちょこちょこっと読むには今までのものは長すぎると認識し、反省するところです。

ウィスキー

やりすぎは酒を飲むとかストレッチばかりでなく、ネット小説もいけないと気付いたわけです。何事も過ぎたるは猶及ばざるが如しであります。

という反省から、とりあえず本日は5,000字で止めてみました。(改めて数えたら6,200字ありました)
えっ、これでも長すぎるって



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