ISO第3世代 91.ISOの季節5

23.07.27

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

前回のあらすじ
上西が磯原を追い払おうといろいろと裏付けを調べるのだが、調べれば調べるほど磯原が課の中心となっていることを認識する。そしてとても自分はそれに代わることはできないと理解した。
演繹されることは、自分が課長を辞めることが最善だとしか思えない。
それは他人のためばかりでなく、自分がためでもある。

他方、長野工場の廃棄物不法投棄問題の方は詳細が分からず、坂本と石川が出張した。どうなることか?


*****

仕事にやる気をなくした上西は、ここ数日、始業時すれすれに出社している。今日も始業数分前に自席に着いてパソコンを立ち上げると、人事の下山からメールが入っている。
メールを見ると、下山が朝一から話を聞きたいというので、上西は朝の挨拶をするとすぐに人事部に駆け付けた。
下山は待ち構えていて小会議室に案内する。

下山 「話を聞いてもらいたいとのことだが、考えがまとまったのか」

上西 「課の業務分担や勤務状況をいろいろ調べたよ。その結果、自分はなにもしていなかったと理解した。恥ずかしい話だが本当だ。
打合せ 問題は自分が力……才能なのか意欲なのかなんなのか、何とも言えないが全体的にどうしようもないレベルなのだろう。
以前から山内さんに注意しろとか、忘れるなとか指導というか叱責をいただいていたが、そんなことではなく、それ以前の問題だな。
いろいろ自分自身どうすべきか考えたが、いくら考えてもグルグル回るだけで前に進まない。ここはすっぱり課長を辞退申し上げたいというのが結論だ」

下山 「なるほど、君がいろいろ考えての判断ならそれを尊重する。
言いにくいが、君が言いださないと、人事部が君の職務怠慢について事情聴取を始めることになっていた。知る限り本社の課長に栄転して、仕事らしい仕事をしない人は君が初めてだ。それはよく認識してほしい」

上西 「誠に申し訳ない。それを自覚しなかったということ自体問題と認識している」

下山 「ところでそうなると上西君の今後のことになるが、どんな職を希望しているんだい?
まさか会社を辞めるわけではないでしょう」

上西 「本来なら会社を辞めて新規まき直しで頑張るべきだろうが、自分も生活があるから何かもっと責任が軽いというとおかしいが、あまり高度な判断が必要ない下位の職種で働かせてもらえないかと思っている」

下山 「まず認識してほしいことがある。俺の言うことをよく聞いてくれよ。これを勘違いしていると、とんでもないトラブルを起こす恐れがある。
君の年収は社内で上位にある。同年齢なら間違いなくトップだ。ハローワークに行ってみれば分かるが、その賃金がもらえる仕事はまずない。だから我々も君の年収を保証するためには、それなりの仕事ができる当てがなければ斡旋できない。

『あまり高度な判断がない下位の仕事』なんて言って欲しくない。世の中はそんなに甘くない。難しくない仕事なら賃金が安いのは当然だ。課長が平より、部長が課長より賃金が高いのは、それだけ高度な仕事を要求されているからだ。
仕事はいくらでもあるし、どんな仕事でもある。だが君の年収を保障しようとすると極めて限定される」

上西 「先ほどの発言を許してほしい。私は現状の年収を保証されるとは思っていない。同期で役職についていないくらいの賃金ではどうだろう?」

下山 「うーん、それでも世間相場では高望みだよね。賃金は貰うほうから見れば生活費だろうけど、払うほうは出た成果に対して払うわけだ。管理職の君に話すことじゃないけどな」

上西 「すまん、全く無知なので……どんな仕事ならあるのだろう?」

下山 「……実はこちらもいくつかの提案を考えていた。
今言ったような条件ではこの会社には、君の希望に見合った職はないので、関連会社出向か関わりのある外部団体への出向ということになる」

上西 「もったいぶらないで、手っ取り早く教えてくれ」

下山 「ひとつはISO審査員に出向だ。認証機関はたくさんあるが、当社が出資しているところに限定される。審査員は、出向してから認証機関で半年くらい教育を受けてから審査に行くそうだ。
審査員の仕事は君も見ているだろう。出張が必須だから、旅行が嫌いとか持病があると向かないかもしれない」

上西 「私の持っている資格とか経験では審査員はとても無理だと思う。怖気づいたわけではないが、またまた迷惑をかけるようになっては……
関連会社への出向はないか?」

下山 「関連会社だが……関連会社が出向者を引き取る場合、ご存じとは思うが出向する人が持っている技術力とか営業力などが、関連会社の要求と合致していなければならない。営業、機構設計、情報システムなどは引く手あまただが、君のように環境管理とか施設管理のようなものは、正直需要がない。

君の業務経験に関わるようなものでは、ISOの認証ができる人という需要も以前は多かったが、リーマンショックや東日本大震災以降は全くなくなった。ISOが一巡したのか、景気が低迷してそれどころじゃないのか……

ISOではないがそれに近いもので、○○社ではこれから医療機器の電子機器部分を製造をする予定で、そのGMP担当ができる人の要求が来ている。これが良いと思ったがどうだろう?」

上西 「GMP? なんですか、それ?」

下山 「医薬品は人の命や健康に影響するから、その材料、製造、保管などにおいて、しっかり管理しなければならないのは分かるよね。日本では医療器具についても同様の管理が法律で決められている。
GMPはグッドマニュファクチュアリングプラクティスの略だそうだが、医薬品や医療器具を製造販売する会社は、そういう仕組みを作らなければならない」

上西 「ええと……ISO9001のようなものだね?」

下山 「そうそう、ISOなんて現れる前から、薬事法でそういうシステムを要求していた。俗にISO事務局なんて呼ばれる非公式な部署があるように、薬事法の対象になる会社では、GMP対応の部署とか担当者を設けて、しっかりした管理体制を維持しているわけだ。

ISOと違うのは、不適合となると是正するのは当然だが、是正が承認されるまで生産できないこと、問題が大きければ製造許可が取り消しになり、オマンマの食い上げになるってことだ」

上西 「私はGMPなんて今始めて聞いたわけで、専門家どころか何も知らないよ」

下山 「もちろんなにもせずに出向してもらうわけではない。当社でも医療機器の製造をしている工場がいくつかあるから、そういう工場でひと月くらい学んでもらうことを考えている。またGMPやその他の医薬品の品質保証に関して社外で講習会は催されているから、そういうものに参加してもらっても良い」

上西 「それを聞いて安心した。下山君の様子を見ると、まだまだ選択肢があるようだね」

下山 「あるにはあるが、私としては今の二つを推す。こんなことを言っては何だが、今言ったISO審査員とかGMP担当とかは、高度な仕事と認知されているから外聞的にも悪くはない。そして何よりも君の今の賃金を得ることができる数少ない職種だということだ。

それに君が若いということは強みだ。
ISO審査員は、大体が企業勤めの人が50代半ばで出向とか転職してなるものだ。上西君は普通に審査員になろうとする人より10歳も若いから、仕事を覚えるのも早いだろうし、10年も審査員をしてベテランと呼ばれる頃でもまだ50代前半だ。君と一緒に審査員になった人はそのとき60代半ば、引退する時期だ。活躍できる期間が長いことはメリットだと思う。

更に重大なことだが、このふたつは勉強すれば一人前になれること、要するに暗記物だ。大学受験のようなもので過去問と回答を暗記すれば誰でもできる。
そして仕事で決断を求められるということがない。見た目は難しそうだが、やっていることは基準と比較してOK/NGを判定するだけだ。
更に、営業のようにモノを売る苦しみとか、開発のように先が見えないということがない。常に解答のある仕事だ。
失礼な言い方かもしれないが、君の得意分野だと思うぞ。

さっきも言ったが、関連会社から製造や営業の出向要求は結構あるが、みな要求水準が高い。そりゃそうだ。当社は出向しても従来の賃金は保障している。受け入れ企業は出向者の直接人件費の半分は負担するわけで、下手するとその負担額は外部から新人を採用するのと同じ程度の額になる。いかに我々の人件費が高いかを認識しないとね、
だから設計なら同業他社での経験者とか、営業なら成績が良く表彰されたとか、製造なら能率をいかほど向上させた等の成果がないと引き取ってもらえない。

ご存じのように我が社では、50過ぎると昇進はなく50代後半になれば役職定年だ。だから関連会社に出向して仕事をしたい高齢課長とか高齢部長がたくさんいるわけさ。反面、引き取るほうは、より取り見取り。
昔は年間〇億円発注するからこの人を引き取れなんてこともあったけど、今はそんな状況じゃない。出す方も取る方も費用対効果を考えて、元が取れないと思う人は引き取り手がない。昔は出向というと社内で持て余された能のない人というイメージだったかもしれないが、今は能があるから出向できたと思われている。
ということで上西君は需要と供給から商品価値が低いと認識してほしい」

上西 「商品価値か……君の思いやりに感謝するよ」

下山 「グループ企業外への出向もあるが、これはより条件が厳しい。専門技術・技能を要求される。探せばいろいろあるだろうが、私どもでは把握していない。
君があちこち歩いて、出向受け入れしてくれる企業を探してくれば、人事が入って条件を詰めることはできるだろう。単なる転職でなく出向であれば、最悪戻ってこれるという保険になる」

上西は首を横に振る。自分で探すのはできませんという意思表示だろう。

下山 「ええと、それ以外の話をする。次の提案は今までの話よりランクダウンするが、一応検討してもらいたい。賃金は仕事によっていろいろだが、君の今までの賃金の6割以下とみてほしい。それだって世間一般よりは恵まれているんだぞ。

工場とか本社そして一部の支社では、健保会館の運営とか構内の清掃や売店・ロビーなどの運営を下請けする子会社を作っている。そういったところの管理者はどうかというものだ。勤務場所は君の希望で探してみるが、希望が叶うとは限らない」

上西 「そのコースを選んだとすると退職するまでほぼ20年、そこに住み着くことになるだろうな」

下山 「そうだ、この場合は転勤がない。ただ素晴らしい経営手腕を示せば関連会社同士で、名経営者、名管理者は融通しあっている。そういう声がかかるのは誉だ。

工場や支社で、引退する部長・課長が目指すポストだ。天下り先が乏しいからね。
若い君がその職に就けば、普通は数年で交代するところ君はひょっとして20年くらい務めるだろうから、君のために出向できなくなった人たちから妬まれるだろう。君がいろいろ選べる立場であることを感謝すべきだね」

上西 「この仕事は経営の自由度はない。親会社の言う通りするだけだ。その代わり赤字になろうと親会社が面倒を見ると……」

下山 「確かに事業の改革とか採用の自由も、親の事情でできないことも多い。だが名を挙げる人は卓越したアイデアとか実行力で成果を出しているよ。
言い換えるとそれくらいの気概はほしい。環境管理課で務まらないけど、ほかの職場なら務まるなんて思っているんじゃ、数か月後また辞めることになるよ。

ともかく提供できるのはこれくらいだ。何もせずに給料がいただける仕事はない。
何度も言うが、出向先を斡旋してもらえるだけありがたいと思ってほしい」

上西 「いや、もっともだ。仕事ができず逃げた人が報奨をもらえるわけがない。
ご提示いただいたものは数日検討させてもらう」


*****

長野工場の問題は、進展があったのだろうか?
坂本は工場に入って1時間半もしたら第一報を送ると言っていたけど、第一報が来たのは昼少し前だった。
メールをプリントして山内、磯原、増子が集まった。上西は人事に行っているからいない。

山内 「わしが読んでもなかなか理解できない。何が問題なのかを分かりやすく説明してくれ」

増子 「まず長野工場に違法とされることはないそうです。
状況は、長野工場が委託契約している廃棄物処理業者、ここは収集運搬と中間処理の許可を持っています。そこが他社の廃棄物を他人の山林に不法投棄したというものです。
昨日の話では長野工場宛の伝票が付いた段ボール箱があったという話でしたが、向こうで聞くとそうではなくて、長野工場の名前が入っているフォークリフトのパレットに積まれた廃棄物が不法投棄されていたということでした。

パレット 当初はパレットが我が社のものだから、そこに載っている廃棄物が我が社から出たものだろうと心配したのですが、まったく無関係のものだったそうです。
パレットは、通常製品を載せて、工場と契約している倉庫との往復しかしないので、自然と我が社に戻ってくるのです。

しかし廃棄物をパレットに載せて出した場合は、廃棄物処理業者に返してもらうよう話しているそうですが、彼らは面倒だし業者での保管や移動に使うので、行きっぱなしということが多いそうです。
ともかくそういった業者のところにあった我が社の名入りのパレットに、廃棄物を積んでパレットごと山に捨てたということでした。
幸か不幸か、廃棄物処理業者の会社で我が社の名入りのパレットが大量に使われていて、我が社のパレットに載っていた廃棄物が、我が社から出たのではないという状況証拠になりました」

山内 「廃棄物が当社のものか否かで当社の責任が変わるのかい?」

増子 「当社の廃棄物が捨てられたなら、排出者が良く業者を監督してないという責任を負いますね。当社の廃棄物でないものを不法投棄された場合は、当社は無関係といっても良いでしょう」

山内 「だけど当社のパレットが不法投棄されたわけだろう。パレットは当社の所有物なのだから、当社にも不法投棄の責任があるのでは?」

増子 「そう言われるとそうですね。となると措置命令ですかね?」

山内 「措置命令って何だね?」

増子 「当社の廃棄物が不法投棄されると、法に反することがなくても、不法投棄された廃棄物の撤去費用の負担を求められることです。
罪ではありませんが金額が多額になることもあります」

山内 「そうか、さてどうするか?」

増子 「どうしましょうねえ〜」

磯原 「まだ状況ははっきりしませんから、今からどうするか決めようがありません。
今できることは……長野工場は、法に違反した業者の現地調査とか財務上の調査をしていたわけで、そのときなぜ問題を見つけることができなかったか、他の廃棄物処理業者のチェックはどうか、今回を踏まえて見逃しがないかの再点検くらいでしょう。

おっと、パレットですが、返さなくてもよいなら名入れをやめてしまうとか、必ず回収するのかをはっきり決めて、それを確実に運用することも必要です。
とはいえこれはロジスティクス部の所管です。ですからロジス部に情報提供と、管理方法をどうするのか決めてもらい、長野工場だけでなく、全工場と委託している倉庫会社に周知が必要ですね。
私がロジス部への依頼文の案を考えましょう。

措置命令の件は……行政が何か言ってくるまで待つしかないですね。過去に聞いた話ですが、措置命令が出るのに1年とか1年半かかります。今心配してもしかたありません。私個人は、我が社に措置命令が来るとは思えません。

ただ瑕疵がなくても措置命令が出なくても、不法投棄した廃棄物処理業者を使っている企業には、県からご協力金のお願いが来るでしょう。撤去には数千万かかるとして、委託していた排出者が数十社として委託量よって数万から数十万ですかね、その程度なら快くかどうかはともかく受け入れるしかないでしょう。拒否すれば後が怖い」

山内 「なるほど、ニュアンスはつかんだ。
じゃあ、増子さん、今磯原君が言ったことを含めて当方の考えをまとめてほしい。坂本さんと石川君が戻ったら、それを元に対応を議論しよう。
彼らは今日中に戻るんだよね?」

増子 「はい、もう知りたいことは調べたということと、行政は何事も時間がかかりますから、今日・明日に新たな指示とか通知とかはないという話でした」

山内 「よしよし、じゃあそういうことで良いかな?」

増子 「了解しました。では彼らが戻ったら短時間でも報告をしてもらいます」


*****

長野工場の打ち合わせを終えて山内が自席に戻ると、ちょうど上西が山内の席に来た。

山内 「おお、上西君、ちょうど今、長野工場に行ったメンバーからの情報で打ち合わせを終わったところだ。
詳細は増子さんから聞いてほしいが、大きな問題ではなさそうで安心したよ」

上西 「そうですか、それは良かったです。
ちょっと人事に行っておりまして、欠席してすみません。少しお話しできますか?」

山内 「いいとも、会議室のほうが良いだろう」


小会議室である。

上西 「ええと、いろいろ考えまして、課長の職を辞することとしました。本来なら会社を辞めるべきなのでしょうけど、恥ずかしながら生活もありまして人事のほうに相談したところ、出向先をいくつかご提案いただきました。本日は提案の内容を伺いまして、数日検討の時間をいただきました。

異動の日付は12月1日付けとなるそうです。環境管理課に関わる直近のイベントとしては12月なかばの本社・支社のISO審査がありますが、私は関わっていませんのでよろしくお願いします。
また来年度の予算案の検討も12月から取り掛かると思いますので、後任課長にお願いします。
短い付き合いでしたが、山内さんの薫陶に感謝申し上げます」

山内 「短い付き合いだったなあ〜。それでも君がここで何かを掴めたなら良い経験だったろう」

上西 「はい、自分がいかに無力かを認識したのが最大の成果です。人間、恵まれすぎていると、それが当たり前に勘違いしてしまいます。結果として大きな問題を起こす前に気が付いてよかったと思います」

山内 「そう割り切ったなら道は拓けるだろう。今後の活躍を祈っているよ」

上西 「後任課長は誰ですかね?」

山内 「そんなこと、まだ分からん、これからだ。わしは今、君に聞いたところだ。ひと月やふた月かかるかもしれん。時期が時期だしなあ〜」

上西 「後任課長には磯原を重用するように伝えてください」

山内 「分かった。しかし、まだ2週間あるのだから、そう気をもむこともあるまい」

上西 「いや今日を最後にもう出社せず、辞令を受けるときだけ出社するつもりです。
せめて立つ鳥跡を濁さずときれいに去ります」

山内 「本来なら課員への挨拶、生産技術部内や関係部門へ挨拶すべきだろうが……まあ、君がそう考えたならそうしたまえ」


*****

4時半、長野工場に出張していた坂本と石川が戻ってきた。
早速、増子が山内と磯原に招集をかける。上西にも声をかけたのだが用事があるのでと断られた。昨日の上西の態度から真面目になったのかと思っていた増子は違和感を覚えたが、すぐにそれは長野工場でいっぱいの頭から消えた。

山内 「お疲れさんでした。君たちの第一報以降、進展はどうだったのか?」

坂本 「特段進展はありません。市役所に行って担当者にお話を聞きましたが、我が社の長野工場に法に関わる問題はなかったと認識しているとお話がありました。公式な見解ではありませんが、市側はそう考えているようです

ただ長野工場内部からですが、パレットが行ったきりであることを取り上げて、今回のような問題が起きると、痛くもない腹を探られること、また資産管理の点からも問題だと提起されたそうです」

山内 「妥当な意見ではあるな。それはロジス部で考えてもらおう。
石川君は何かあるか?」

石川 「よその工場に行ったのは初めてでしたので、見るもの聞くもの珍しくためになりました。
私がいた高崎工場より創立が古く歴史がありますが、その分掲示板とかが法律の区分名と違ったりしていて、分かりにくいです。廃棄物集積所とかの表示は全社統一の標識を定めたいですね。今後 検討して標準化を提案するつもりです」

山内 「そういう積極的な意見はうれしいね。期待しているよ。
増子さん、じゃあ出張報告を書いてもらい、それに我々の打ち合わせメモを書式にして関係部門への報告としてほしい」

増子 「ええと措置命令についてはどうしましょう。可能性は低いけど要監視とか記載しておきますか?」

山内 「そうだなあ〜、不確定として一行書いておいてください。明日朝一に貰いたい」

増子 「課長経由ですと時間がかかりますから朝一は無理です」

山内 「いや、磯原君経由でわしにメールしてください」

増子 「承知しました」

磯原は山内が上西をパスせよとはどういうことかと首をひねるが、既に山内はいなかった。



うそ800  本日の慶事

岩手工場にしても長野工場にしても、調べたら問題ないことにしちゃってご都合主義だとおっしゃいますか?
現実には大問題だと騒がれても、真に問題であることは意外と少ない。同様に問題だと思わなかったことが、実は大問題だったとか初期に手を打たなかったために大問題になることもある。要するに、気になったことはよく調べなければならないということだ。
異常が見つかればすぐにしっかりと調べる対策すること、これが大事。そして8割は問題ではない。

ところで廃棄物の問題は多々あるが、不法投棄はそのトップだろう。
何十年経っても廃棄物の不法投棄はなくならない……そう思っていた時代もありました。
不法投棄の件数はどのように変化しているかというと、21世紀に入ってからは減少する一方です。いや、悪いことではありません。大変結構なことです。

不法投棄推移
出典:「産業廃棄物の不法投棄等の状況(令和3年度)について(2023/01/17)」

仕事で環境に関わって20年、私も勤め先も加害者になったことはありませんが、会社の駐車場に家電品を捨てられたとか被害者になったことは何度もあります。
不法投棄撲滅は賽の河原の石積みのようなもので、不可能だと思っておりました。それがこれほど改善が進むとは想像もつきませんでした。
もちろん今でも不法投棄の報道は時々聞きますが、良くなったものだと思っています。

不法投棄の20世紀からの長期推移のデータまたはグラフがないかと調べましたが、ありません。
環境白書に不法投棄が書かれたのはH5年(1993年)ですが、グラフがありません。不法投棄の数量のグラフが掲示されたのはH6年(1994)から。
S62年(1987)からの推移のグラフが掲示されたのがH8年(1996)のこと。
現在の環境白書とつながるグラフはH8年からになる。だが統計が完全でなかったためかH8年のグラフと現在の白書のグラフはH7年以前とは大きく不連続である。

古い時代のグラフを見ると1990年代は増加しているようだが、そうではないと思う。昔はもっと不法投棄があっただろうが、多くの人はそれを異常とみず、いけないことだがどこにでもある、仕方がないと思っていたのだろう。そんなことで不法投棄として苦情もなく統計上カウントされていないのではなかろうか。だから長い目で見れば不法投棄は減少してきたに違いない。

企業で種々の環境指標が1990年代から収集が始まったように、環境省も廃棄物などの数値を把握したのは20世紀末からのようだ。環境保護というものはまだ始まったばかりで発展途上なのだ。
 cf.「産業廃棄物の不法投棄等対策の現状と課題」橋詰博樹、2004

なお、不法投棄とは廃棄物業者や企業限定ではありません。一般市民もゴミ出し場に粗大ごみを出して捕まったとか、 ゴミ出し ゴミを出し忘れたからと近くのマンションのごみ出し場に置いて捕まった事例もあります。
裁判まで行ったのはそうそうないですが、不法投棄で捕まる一般市民はゼロではないのです。

「不法投棄をすると、5年以下の懲役、又は1000万円以下の罰金に処せられます」という看板をよく見かけるでしょう。あれは嘘ではありません。1000万の満額回答の判決は見たことありませんが、個人がした不法投棄でも100万程度の判決は出ています。
100万円払うなら、ゴミ出しの日と場所くらい守りましょう。

さあ皆さん、ご唱和を
「しない、させない、ゆるさない 不法投棄は犯罪です」



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