ISO第3世代 95.ISO審査3

23.08.10

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

*****

本社/支社のISO14001の維持審査が始まった。大柴審査員は関西地区担当で、初日は姫路営業所の審査をしたが、姫路営業所の審査の前に関西支社長が挨拶と事業説明をすべきだと文句を言う。

プン  プン


大柴審査員
審査員を何と心得る
第2日目は関西支社の審査である。ここでもオープニングから支社長が出席しないことに文句をつける。
大柴審査員は、スラッシュ電機は審査員を下に見て粗末に扱っているとご機嫌斜めである。彼は審査員とは下にも置かない扱いがされて当然と思っている。

午後は関西支社の倉庫の審査である。倉庫といっても製品保管とか物流拠点ではない。重要文書の保管とかオフィス什器の一時保管の施設である。
今そこでは近々催される展示会にむけて、女子高生のアルバイトがノベルティグッズの用意をしていた。
大柴審査員が、アルバイトの女子高生に環境方針を聞くと、皆知らないと答えた。その回答が問題だったのか態度が気に入らなかったのか定かでないが何かが気に触れたようで、アルバイトの女子高生の前で切れてしまった。大声で怒鳴り机の上の品物を薙ぎ払う。

そこにいた唯一の男性である倉庫の管理人 山口が、大柴の後ろから声をかけた。

山口 「大柴さん。落ち着きましょう。ちょっと冷静に……」

大柴審査員 「この子たちを採用したのは君か、なぜ環境方針を説明しないんだ?」

山口 「誰が採用したにしろ、数日間のアルバイトに環境方針なんて教えませんよ」

大柴審査員 「そんなことで良いと思っているのか」

🗣
大柴は山口のすぐそばで大声を出し、つばが山口の顔面に飛んだ。
山口が大柴から離れてハンカチで顔を拭き、後ずさって部屋を出ていく。
「汚ったねえ〜」という大声が遠ざかる。

大柴審査員を案内してきた横山は、女子高生たちの前に立ち両手を広げている。それに意味があるのかないのか分からないけど、そうするしかできない。



それからの展開は速かった。
数分もせずに、山口は下で仕事をしていた大工たちを連れてきた。大工たちは、あっという間に大柴を拘束してしまう。

大工4 大工1 大工2 大工3 大工5

その際に大柴の振り回した手が大工の顔に当たり、血を流す羽目になり救急車で運ばれた。

それからすぐに近くの交番から警官が来て、大柴と山口を交番に連れていく。
警官警官
警官は横山と女子高生たちに、山口たちの聴取が終わったら話を聞くから残ってほしいこと、また現場は触らずにそのままにしておくよう言われた。
その後に大工たちも事情を聴くから、勤務時間が過ぎても待っていてほしいことを言われた。
時計を見るとまだ3時だ。


*****

ペットボトル

皆が去り、横山と高校生だけ残されると、横山は皆を連れて下の階に降りて、事務所の打合せ場のパイプ椅子に座らせた。
そして通路にある自販機からペットボトルのお茶を人数分買ってきて皆に配る。
皆が座りペットボトルを飲むのを見て、話しかける。

横山 「大変な目に合わせてごめんなさいね。
ケガはない? 大丈夫?
おまわりさんがお話を聞きたいというので、すぐに帰れないね。それでご自宅に事件に巻き込まれて遅くなるって伝えておいてくれないかな? ケガしていないと思うけど、ケガの有無も伝えてね。

迎えに来ると言うかもしれないけど、たぶんこれからひとりずつ話を聞かれるから、すぐには帰れないと思う。ご家族にはそう伝えてね。
会社で皆さんを送るようにしますから、迎えに来ないほうが良いと思う。
スマホ持ってない人いる? いたらそこの電話をゼロ発信……ご自宅の番号の前にゼロをつけて電話してちょうだい。 気分が悪かったりしたら私に言ってね、私は横山文恵、ふみちゃんて呼んでね」

一人の女子高生が近づいて横山の顔をハンカチで拭く。

女子高生4 「ふみちゃんこそ、泣いてるし〜」

言われて横山は自分が涙を流しているのに気付いた。

横山 「ありがとう、ありがとう」

女子高生4 「ふみちゃん、元気出してね」

横山 「うん、ありがとね」

横山は気分を落ち着かせると支社に電話する。

横山 「宮本課長ですか? 大変なことが起きました。
審査員の大柴さんがアルバイトの女子高生に質問していて、なぜか急に興奮しちゃって大声で怒鳴ったり机から品物を落としたりして、女の子は泣くし、作業している小間物が壊れたり、
……
工事に来ている人たちが大柴さんを取り押さえてくれたのですが、そのとき大柴さんが手を振り回してひとりがケガして救急車で運ばれました。
倉庫の山口さんが警察を呼んで、大柴さんと山口さんは今交番に行ってます。
……
警官から私たちもここで待っているように言われました。これから事情聴取するそうで、まだ時間が読めないのですがアルバイトの方を自宅まで送る手はずを頼みます」


*****

支社にて
電話を受けた宮本課長はすぐに吉岡部長に報告する。

吉岡部長ェー、大事件発生だ。俺もこんなことは初めてだよ。
オイ、宮本君、あのアルバイトは特別だって分かってるか?」

宮本課長 「存じてます。ISO審査の対応は我々総務ですが、彼女たちを雇用したのは営業ですから、営業からご家族に連絡してもらいましょう。
それからお嬢様方を自宅に送る手配と……」

吉岡部長 「俺が営業に電話したほうが良さそうだ。それと工事に来ていた大工がどこの人か聞いてみるわ。そっちのケガも問題だ。
営業だけでなく人事もからむな、大工のケガもあるし……人事と看護師に行ってもらおう」


*****

吉岡から連絡を受けた営業は電話をかけまくる。

営業部員 「中村様のお宅ですか? 私スラッシュ電機営業の竹下と申します。お嬢様にお手伝いに来ていただいております。
……
あっ、とんでもありません。実はご報告せねばならないことが発生しまして。
はい、お嬢様に私どものところで仕事をして頂いているとき、第三者が参入して暴行を働き……いえ、ケガとかはありません。これから警察の事情聴取とかありまして、ちょっとご帰宅が遅くなるかと、
……
いえ、一段落しましたら、私どもがご自宅までお送りしますので、ハイ。
状況が分かり次第またご連絡いたします」

彼は同じことをあと数回電話しなければならない。中には心配してここまでやって来る人もいるだろう。文句を言う人もいるだろう。まあ、それが仕事だ。


*****

お嬢の父

大阪市西区にある中堅ゼネコンの重役室
電話が鳴る。この音は秘書から回された音だ。
40代の貫禄ある男が電話をとる。

お嬢の父 「吉井です。おう裕子か、仕事中はあまり電話してほしくないんだが、なんだろう?
えっ! 女子高生1W優花が、それでケガは?
事情聴取だと、うーーん、俺が迎えに行って良いかなあ〜、行ってはまずいのかな?
ああ、スラッシュ電機で送るって……そうか、向こうもいろいろ事情があるだろうしなあ〜
オヤジには俺から話しておくわ。オヤジにも考えがあるだろう。
とりあえず仕事を片付けて家に帰るよ。1時間もあれば家に着く」

同じビルの最上階、70前くらいの男性の電話が鳴る。

お嬢の祖父 「わしや、なんやワレか
えっ、優花が……無事か?……ケガは?
無事なのやな。友達も一緒に行っていると聞いとってんけど……全員無事か
……まだ取り調べ中……
場所はスラッシュ電機の倉庫、知っとる、堺だか和泉だったか。そこにおるんか?
スラッシュ電機で送り届けるって? どないする……迎えに行くか、待つべきか
いや、また聞きではいかんな。スラッシュ電機に電話して最新状況を聞いてくれ。その結果で迎えに行くか家で待つか決めよう。
おお、頼むわ。
まて、弁護士の佐藤先生にも話しとき。現地に行ってもろたほうがええな」
大阪弁変換サイトを利用しました。正否は知りません)


*****

交番にて
応援を頼み、今は2つに分かれて、大柴と山口の事情聴取をしている。

警官1 「大柴さん。見知らぬ高校生に大声で怒鳴ったりするのはいけませんよ。女の子、泣いてましたよ」

大柴審査員 「私の仕事は会社で働いている人にいろいろ質問することなんです。答えをいただかなければ仕事になりません」

警官2 「でも大声で怒鳴ることないでしょう」

大柴審査員 「怒鳴っていません」

警官2 「じゃあ机も蹴っていないの? あの部屋見ると大暴れしたように思えるけど」

大柴審査員 「……」


*****

警官3 「まず初めから話してください。どんな経緯だったのですか?」

山口 「ISO審査ってご存じですか?」

警官3 「知りません」

山口 「会社の仕組みを調べて良し悪しを判定する商売があるのです。それをISO審査といいます。
大柴さんはその調査に来ました。彼を案内してきたのは、あそこにいた若い女性で横山さんといいます。午後1時半頃でした。
私が倉庫の中を案内して、アルバイトの女子高生が仕事している部屋に来ました。実を言って、そこに来るまで倉庫で会社の人に会っていないのです。あの大工さんたちは工事で来ています。

そして大柴さんは女子高生一人一人に会社の方針を聞いたのですが、誰も知らないと回答したもので、急に怒りだしたのです。みな良いところのお嬢さんですから、子供たちがからかうとか反発した風はなかったんですが、何かスイッチが入ってしまったんですかね。
質問に答えられないといっても、そりゃ私たち社員が会社の方針とかルールを知らなければダメでしょうけど、二日三日アルバイトに来た高校生が知らなくてもしょうがないでしょう」

警官3 「監視カメラで撮影してませんか?」

山口 「出入り口と通路と事務所にはあるのですが、あの部屋にはありません。
あっ、実は途中から彼が興奮してきたので、もしかして大騒ぎになるかとスマホで録音していたのです。途中からですが……
無断で録音するのは犯罪だなんて言わないでくださいよ」

警官は山口が取り出したスマホの音声を聞く。

警官3 「確かにだいぶ興奮していますね。彼の声だけでなく、机を蹴る音も物が落ちる音も入っています」

山口 「私が止めようとしたら、顔に唾をかけられました。とても私ひとりでは無理と思い、工事に来ている大工さんに手伝ってもらって彼を抑え、それから交番に駆けこみました。
あっ、拘束するのはダメと叱られるかもしれませんが、今にも子供たちにとびかかるような勢いでしたから」

警官3 「唾ですか……唾を吐きかけると暴行罪ですね。証言できますか?」

山口 「します。女子高生も私が唾をかけられたことを証言してくれると思います。唾を吐かれてハンカチを取り出して顔を拭きましたから見ていると思います。
でも暴行というなら、暴れているのを抑えてくれた大工がケガして救急車で運ばれましたね」

警官3 「ああ、そうだった。すると暴行じゃなくて傷害だな」


*****

スラッシュ電機本社 生産技術本部

山内 「はい、山内です。関西支社の総務部長さんですか?
はあ! 本当ですか? 大手取引先のお嬢さんがアルバイトに来ていて、審査員に怒鳴られて……
取り押さえようとした倉庫の人と、工事に来ていた人がケガしたって!
何てことを!
状況はわかりました。とりあえずISO審査は中止しましょう。それは私のほうで手を打ちます。
そのアルバイトの女子高生のケアをよろしくお願いします。あっ大工にもお見舞いですね。
本社人事部にも連絡されたのですか。そいじゃ私は人事部と連携して行動します」


山内はすぐに磯原の席に急ぐ。

山内 「磯原君、審査員の大柴という人を知ってるか?」

磯原 「会ったことはありませんが、今回の審査員の一人です」

山内 「関西支社で審査中に、暴言を吐いたり暴行したというんだ。
しかも相手は社員じゃなくてアルバイトの女子高生だ」

磯原 「状況は理解しました。私の任務は?」

山内 「今回の審査を中止する。認証機関に連絡を取ってくれ。
今後どうするかは警察の取り調べが終わり、決着がついてから考える」

磯原 「了解しました。山内さんはこれから?」

山内 「人事部に行く。こういうトラブルは総務課と思ったら、アルバイトが被害者なので人事部が担当という。本社人事部が中心となって動くそうだ」

磯原 「では私のほうの処置が済んだら、山内さんに電話で報告しましょう」

山内 「頼む、ああいや、電話でなく人事部に来てくれ」


*****

磯原は審査リーダーの三木に電話する。三木は水戸営業所の審査を終えて水戸駅で電車を待っているところだった。 すぐ三木に連絡取れてラッキーと思いながら、トラブル発生と状況を報告する。

スラッシュ電機の判断で今回の審査は中止すること。たぶん大柴さんは拘束されて認証機関に連絡できないだろうから、三木さんから認証機関ともうひとりの審査員にその旨連絡してもらうことをお願いする。
現時点では取り調べ中なので、それ以上は不明だ。

電話を介してだが、三木は茫然自失のようだ。


*****

本社人事部である。
山内が駆け込むと、人事部の桃田と下山が小会議室で待っていた。

桃田 「いやはや、ISO審査でこんな問題が起きるとは……」

山内 「まず情報の整理と、これからどういう風に進めるか相談せねば」

桃田 「女子高生がいたわけだが……学校でアルバイトの経験を発表することになったそうだが、いいとこのお嬢様はアルバイトなんてしたことない。また親御さんも危ないことはさせたくない。ということで取引先のお嬢さんとその取り巻き数人を、我が社で危なくない仕事をさせてほしいと頼まれたと。

イベントで配る粗品を包装するお仕事をしているところに審査員が来て、質問すると女子高生たちがまったくISOを知らないので頭に血が上ったらしい」

下山 「アルバイトの女子高生は、とんだとばっちりですね。取引先のお嬢さんというところが、気を遣うところです」

山内 「倉庫の管理人と工事に来ていた人も暴行されたというじゃないか」

下山 「暴行といってももみ合いになった結果で、ひどいケガではないようです」

山内 「弁護士とかは頼んだのですか?」

下山 「関西支社の顧問弁護士がいます。通常は契約とか取引上の事故の処理が仕事です。刑事事件が不得手なら、こんな事件が得意な弁護士を紹介してもらいましょう」

桃田 「当社は加害者とだけでなく、アルバイトの女子高生のご家族や大工さんとも対応しなければならない。
これからの応対で言葉でも文書でもミスのないようにしたい。アドバイスをもらう他、交渉には陪席してもらうそうだ」

山内 「最終的には示談になるのでしょうけど、被害者が社員、アルバイトの女子高生、そして居合わせた大工となると複雑ですね」

桃田 「それも弁護士が考えてくれるだろう」


会議室がノックされ、人事部の女性がドアを開けて顔だけ入れた。

女子事務員 「山内さん、環境管理課の磯原さんがお見えです」

山内 「ああ、入ってくれ
審査のほうは止めてくれたか?」

磯原 「はい、認証機関に状況を通知しました。向こうはご当人が拘束されているので連絡はなく、初耳だったようです。また社内の明日と明後日の審査を受ける事業所にも連絡済です。
再開はどうなるか全くわかりません。まあ、それはどうにでもなりますからお気にすることはありません」

桃田 「磯原君だったね。審査に来る審査員は、こちらで受け入れるか否かを決定するのだろう。今回はどうしたのかな?」

磯原 「はい、審査の二月ほど前に、認証機関から審査員の諾否伺いというのがきます。書いてあるのは認証機関が派遣したい審査員の、姓名と年齢、経歴、保有資格程度です。身長体重もありますが、これは審査で工場巡回する際に保護具が必要な場合に備えてです。

私のほうでは当社グループの工場や関連会社の審査に来た審査員の姓名と、起きたトラブルや誤った判断などのデータベースを整備しております。
向こうが派遣を予定している審査員が、過去に我が社グループでトラブルを起こしたり、間違った判断をしていれば、次回から受け入れを拒否します。こちらが拒否すれば、先方は派遣する審査員を変更します。

今回も当初提案された3名のうち1名は、過去の審査で、審査後にマナーが悪い・無礼だと苦情がありましたので拒否しました。
そして代わりに提案されたのが、今回問題を起こした大柴さんでした。彼は今まで当社グループで審査をしたことがなく、情報がありませんでした。特段拒否する理由もなく、私がOKと判断して受け入れることにしました。

当社グループを審査したことがない人の受諾可否の判断基準ですが、競合他社に勤務している人はお断りしますが、何の情報もない時は原則OKとしています」

下山 「勤務しているとは? 他社から出向している人を拒否すること?」

磯原 「審査員は認証機関のプロパーもいますし、出向もいます。
その他に企業に勤めながら審査員を兼業している人もいるのです。そういう人から情報が漏れるのは避けたいのです」

下山 「なるほど、会社によっては副業を認めているからなあ〜」

山内 「これからは受け入れる判断基準をはっきりとしなければならんな」

磯原 「おっしゃる通りです。面接して諾否を決めるとか考えます」

桃田 「まあ、こちらが悪いというより、悪い人を送り込んだ向こうが問題だ。暴力をふるうとはマナーどころではない。

ともかく我々がしなければならないことは、まずは女子高生たちのケアが第一だ。それから関西支社のアテンドが今年入社の女子社員というから、そちらもケアが必要だ。ケガをした大工のフォローもあるな。
あとは?」

下山 「アルバイトの親御さんであるお取引先の対応ですか」

桃田 「それは関西支社の支社長に頑張ってもらおう」

磯原のポケットでスマホが唸る。磯原が立ち上がり、部屋から出ながら電話を受ける。

磯原 「はい、磯原です。ああ、三木さん、お世話になっております
……
ご報告にこちらに来ると…ちょっとお待ちください」

磯原は電話を保留にして会議室に戻る。

磯原 「認証機関の品質環境センターからですが、これからこちらに来て、向こうが収集した情報とのすり合わせと今後の対応を相談したいとのことです」

山内 「どうしましょうかね、もう少しこちらが情報収集して方向を決めてからにしますか、それとも分かることだけでも情報交換をするか」

下山 「品質環境センターはISO審査では当社の委託先ですが、同時に当社は1割株主であり取締役や出向者を10名ほど出していますから、あまり敵対的な態度はとれません」

桃田 「株主とか出向とか関係ない。これは刑事事件だろう、問題をはっきりさせて責任はしっかりとってもらわないとだめだよ」

下山 「まあ不起訴になるとは思いますが」

桃田 「安易に考えてはいけない。アルバイトの親御さんからウチが頼りにならないと思われて発注先を変えられたら、出向者10名分どころか年商何十億か吹き飛んでしまう。
穏便に済ますとか簡単に示談などできない。しっかり筋を通さないと。
ともかく、今後はどうあれ一度向こうの会社とお会いして話をするのは良いのではないですかね」

下山 「示談とは被害者と加害者の間のことで、我々がその当事者ではないでしょう」

桃田 「前半はそうだが、後半は違うぞ。当社も部屋を荒らされたり品物を壊されているから当事者だ。直接的な損害が大した金額でないかもしれないが、展示会に間に合わなければ機会損失はとんでもない額になる。
ともかく株主だからと言って、我々が認証機関側寄りの発言をしてはいかん」

桃田さん以前 人事部長と話していたとき(第70話)と大きく違い、まともなことを語っています。
「地位は人を作る」と言いますが、その場にいる中で自分がトップであると責任を感じて、安易な発言はしないのでしょうか?

山内 「よし、磯原君、定時後になってもいいから受付で人事部に……」

磯原 「いやロビーにしましょう。話し合いは時間外までかかるでしょうし、ここは入室の制限もありますので」

桃田 「よし、その線でいこう。ロビー階にある会議室を取ってくれ。それから定時後になるとサービス終了だ。コーヒーをポットで確保しておいてくれ」

磯原 「承知しました。
 (磯原は保留にしていたスマホを解除する)
ええと三木さん、それでは弊社の終業後になってもよろしいですから、弊社受付においでになられたら私に電話ください。定時後ですと受付がいなくなってしまいますので。もちろんガードマンはいますが、要領を得ないと思います。
ハイ、電話いただいたら私が受付にお迎えに上がります」

山内 「それでは今までの情報と、我々の考えをまとめておくか」

桃田 「認証機関からここまで来るのにいかほどの時間かかりますか?」

磯原 「地下鉄の乗り換えを見ても30分あれば十分と思います」

桃田 「よし、下山君、ホワイトボード頼む。
まずは事件の経過を書いてくれ。それから検討することだな」



うそ800  本日の教訓

何事も経験である。事故や事件にあうのは御免被りたいけど、めったにないことを経験することは貴重な体験だ。
私は結婚した月の給料日直後に泥棒に入られて、当時は今ほど振込とか広まっておらず、家に置いてあった夫婦の月給全額盗まれた。半年後に犯人は捕まったが、もちろんお金は戻ってこなかった。何度も警察に呼ばれたりいろいろあった。警官も刑事も親切で優しい人だと思った。テレビドラマのようにハンサムとかヤーサンのような人はいなかった。

交通事故では数回被害者になったことがある。私はないが家内が加害者になったこともある。弁護士を入れるような事故は悪い思い出だが良い経験になる。

遺産相続でもめたこともある。誤解なきよう、遺産を取り合ったのではなく、負債を譲りあったのだ。最後はみんなで放棄した。
殺人事件発生 30年も前だが、面識のある人が殺されて、刑事が聞き取りに来たこともある。容疑者でもなく参考人でもないよ。犯人は捕まらなかったようだ。

もっとさかのぼって、子供時代はいじめられっ子だった。1950年代でも幼稚園はあり、小学校に入るときには仮名を読める子が大半だった。私は幼稚園に行くどころか幼稚園という言葉を聞いたこともなく、仮名も読めなかった。勉強も運動も苦手な小柄な子供はいじめの対象。学校はもちろん通学路もいじめの時間。思い出したくない黒歴史だが、いじめられっ子の心情はよくわかる。
ネット詐欺の被害も経験した。電話詐欺は……まだ電話がかかってこない。
幸い殺人事件の被害者になったことはない。



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