ISO第3世代 98.認証の意義1

23.08.21

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

お断り: 今回の登場人物の発言は、私に代わって語ってもらっている。
そこで語られるのは、すべて私自身が経験したか自分の目で見たことである。
ここに書かれたことについて、ご異議ある方はぜひともお便りを頂きたい。
大いに議論したいと思う。


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2018年は静かに暮れた。この年どんな出来事があったか覚えているだろうか?
国内ではオウム真理教のボス松本の死刑が執行された。なんと事件から10年以上も死刑が執行されなかったということが驚きだ。
ゴーン 日産のゴーンが逮捕された。裁判が始まる前に国外逃亡して真相は分からないが、フランスでも立件されたりしたので、何かやらかしたのは間違いない。2023年レバノンで日産とその幹部を訴える裁判を起こしたが、イタチの最後っ屁ですか?

海外ではアメリカと中国の貿易摩擦が激化した。もう中国に甘い顔はできないとなったのだろう。豚は太らせてから殺せというが、豚が大きくなりすぎると飼い主を食べてしまう。

ところでもう忘れたかもしれないが、2018年は結構好景気だった。
2019年はもっと良くなると期待されたが、実際は景気が下り坂となった。秋には週刊誌ならぬ週間台風と呼ばれるように毎週のように台風🌀が来た。千葉県では多数の停電が起き長期化した。なんか先行きが芳しくない感じがした。
そして年末には中国で新しい感染症が報告された。だがそのとき日本ではまたSARSか程度の印象しかなく自分たちには無縁と思っていた。


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年が明けて2019年となった。スラッシュ電機のISO審査をどうするかは、まだペンディングである。1月末までに審査をしないと、認証は失効する。それを山内や磯原、また社内の関係者は知っているが、別に深刻とは考えていない。

それには訳がある。元々2019年は更新審査である。ならば仮に半年認証が途切れて新たに初回審査になろうと、継続した時より費用が大きく掛かるわけではない。
確かに失効した期間はISO認証の語句は使えないが、手続き上一時的に認証が切れたがISO認証を取り消されたわけではないという広報でもすれば良いだろう。名刺やカタログにはもう5年前からISO認証の表記はしていない。

むしろ慌てないでじっくりと方向を検討し、夏頃にでも審査するのが、企業活動からみて時期的に願ったりなのだ。実は今まで12月末という繁忙期に、審査していたのが不適切だったのだ。
もちろんそうなったのは訳がある。スラッシュ電機の工場のISO14001認証が一巡して、本社・支社のみが認証しておらず、他社に遅れてなるものかと、年内にという目標で認証したのがそもそもの発端だ。
その結果、年末で忙しいのに審査で更に余計な仕事が上積みという実態で、今となれば審査日程を年末、年度末、5月や8月の連休からずらすのがベターなのは言うまでもない。

認証機関である品質環境センターもそれを分かっていて、今はそのスケジュールを前提にスラッシュ電機の要求をはっきりさせた後に対応するつもりでいる。


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年が明けてすぐに品質環境センターから、認証機関内で審査の質向上検討を進めること、そしてそのためにオブザーバーとしてスラッシュ電機からの参加を求めてきた。
山内はそのメールに「興味あるなら行け、そうでないなら参加しない旨回答せよ」とコメントして磯原に転送した。

実は磯原は、関西支社のトラブルが一段落したときに、スラッシュ電機の全工場、全支社そしてグループの認証している企業に、ISO審査のトラブル、認証機関/審査員の望むこと、止めてほしいことというアンケートを送っていた。
その他に、各事業本部にはISO14001認証のメリット・デメリット、止めたときのメリット・デメリット、今までの審査の問題点、良かったこと、改善を求めることなどのアンケートを依頼した。
それらの回答がほぼ集まっている。

スラッシュ電機グループの認証のほとんどの認証機関は、品質環境センターである。理由はもちろん業界団体設立の認証機関であり、出資会社であることから本社がグループ企業に品質環境センターで認証するように指導しているからだ。
それは審査を依頼しなければ出向者を引き取ってもらえないからであり、高齢者の出向先のひとつなのだ。山内はそこまでしてたった10人の出向先を確保するまでもなかろうと思っている。


磯原はその集計を柳田に頼んだ。柳田はそれこそ喜び勇んでデータを集計するだけでなく、多様な切り口から情報を得ようと考えている。

まずは柳田の報告を環境管理課内で議論しよう、そして品質環境センターへ要望することをまとめる。
磯原はいつも決定には、五箇条の御誓文を参照する。今回は「その1 広く会議を興し万機公論に決すべし」だ。現代風に言えば、物事は多くの人の意見を聞くべしである。


柳田 柳田の仕事といえば、費用支払い、出張精算の遅い人の催促、課員から頼まれた購入依頼の手配、コピー・製本や会議の手配など、それこそAIとか自動機でもできるようなことだ。
元総合職だったわけで、本来なら今頃は課長になっていてもおかしくないわけだ。夫が転勤族で将来の幹部候補だから、妻である柳田が犠牲になって一般職になったということだ。

そんなわけで磯原から頼まれた仕事は、面白くていろいろ考える。まずは100に近い事業所からの回答を読み、データーベースに入力しながら、どんなまとめ方をするかを考える。
アンケートをみると、現状への不満は大きく3つになる。

ひとつは、審査の効果がないこと。
審査とは規格適合を見るものであって、改善を目的とするものではない。また審査においてマネジメントシステムのコンサルティングは禁止されているし(ISO17021-1)、日々限界にチャレンジしている人たちを教え導けるような発想や情報を審査員はもっていない。
ならば認証はどんな効果があるのか……認証を止めてもよいのではないか……柳田はそう思う。

ひとつは、規格の解釈も怪しいし、法規制の理解は全くと言って不十分である。そりゃ中小企業で法規制をしっかり調べていないところもあるだろう。しかし欧州の各種規制には現地に人を派遣してリアルタイムで情報収集しているし、法令で不明点あれば関係行政機関に相談している実態を踏まえれば、審査員の話は参考にならないどころか、分りもしないのにいちゃもん付けられては業務の邪魔になるだけだ。

ひとつは、マナーが問題であること。工場長や社長を相手に自慢話をする、上から目線の態度と言葉使い、まさに客が業者に対する態度である。それは経営者に対してだけでなく、若手を「坊や」「小僧」呼びはふざけている。

😮
歩き方さえスタスタ歩かず、貫録をつけてゆっくりと歩く。案内の若手が足が不自由ですかと聞いたら叱られた。解せぬ
なお、誰もいないところでは普通に歩いていたという目撃談がある。


故に希望するものはその裏返しである
ひとつ、審査で何を提供するのかはっきりしてほしい。ISO/IAF共同コミュニケ通りなら、会社を良くするとか経営に寄与するなどと言わないこと。

ひとつ、規格の理解が正しいことの証明がほしい。法規制を理解している証明が欲しい。法違反であるという不適合を出すなら行政に確認してからにすること。
審査後に法に関わる不適合が間違えていることが判明した場合は、審査報告書を書き換えること。当然不適合は削除してもらわないと困る。

ひとつ、ビジネスマナー、言葉使いについて不具合あればその場で、審査を打ち切りたい、その他数多くの実例を基にした要望が並ぶ。


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磯原は柳田からデータの集計と分析がまとまったと聞いて、サイボウズを見て直近で皆が在社している時間に「ISO認証の打ち合わせ」と2時間ばかり確保した。
今日はそのISO認証の打ち合わせである。

まずは柳田からまとめの報告だ。
例によって山内が顔を出している。

柳田 「昨年、本社支社のISO審査の際、暴行事件が起きたのはご存じの通り。それを受けて磯原さんが本社各部門、全工場、全支社そしてスラッシュ電機グループのISO認証企業に対して、ISO認証についてアンケート調査を行いました。その回答をまとめましたので、結果を報告します。

まずISO認証の必要性ですが、一部官公庁相手の営業部門からあったほうが良いという回答があった外は、不要という回答がほとんどを占めました。割合にすると必要が3%、不要が97%というところです。
官公庁向けとしても、認証していない場合にネガティブな扱いがあるのかどうかは、疑問視しています。国交省は認証企業に対して加点するというポジティブな扱いを示していますが、当社クラスになるとその加点が必要なのか否かは微妙です。加点などなくても問題ないという意見もありました。

山内参与山内 磯原磯原★★
田中田中 机 坂本坂本
増子増子 岡山岡山
石川石川 柳田柳田

柳田 「認証のメリットですが、知らない、ないという回答がほとんどで、あるというのは先ほどと同じく官公庁相手のビジネスで評価される、特に国交省では加算点がもらえるということです。
認証のデメリットとして、審査の手間が大きい、お金と時間の無駄という声が多数でした。審査料金そのものは生産高から見れば微々たるものですが、事前準備とか対応に要する時間のロスが大きいという意見が大半でした」

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20分間、ISO認証が無意味だ、無駄だという柳田節が続いた。

磯原 「柳田さんがグループ企業・工場そして本社各部門の回答を説明してくれました。ええとこれからは、これに拘らないで、みなさんの自由意見をお聞きしたと思います。
ISO認証のメリット・デメリット、現状の問題点と改善策、その他なんでも」

坂本 「ハイ、まず改善してもらいたいのは審査員の態度ですね。私は直接質問を受けたことはないのですが、後ろに控えていて、要求された書類を課長に渡したり、現場や設備の細かいことを問われた時の説明をしていました。
とにかく審査員の態度が大きい、言葉使いが上から目線、私も過去40年間、仕事で業者とかメーカーとか近隣住民と多々付き合いました。職人は乱暴な言葉を使う人もいますが、それはこちらを貶めているのではなく、単にそういう言葉使いというだけです。ISO審査員ほど失礼な人に会ったことはありません」

増子 「坂本さん、審査員といってもいろいろいますから、皆が皆そうだとは言えないと思いますけど」

坂本 「おっしゃる通り。だけどわしが会った……50人以上の審査員の9割は上から目線だったね。先生と呼ばれないと返事しないとか、自分は工場長より偉いという態度だった(注1)

田中 「尻馬に乗るわけじゃないけど、私の経験でも気位が高いのか、地位が高いと考えているのか、上から目線の人は多いね」

石川 「私も現場仕事でしたから、直接応対したのはあまりなかったですけど……自分は何でも知っていると言ってた審査員がいましたね。そう言わない人でも現場の私たちより知っているんだという態度がみえみえでした。
でもそんなことないですよ、廃棄物業者の現地調査なんて毎年行ってないと、良し悪しが分かるはずもないし」

山内 「審査員の態度は分かったが、力量のほうはどうなんだ?」

坂本 「私の経験から言えば、法律を知りませんね。いや法律の名前は知っていても、具体的なことを知らないのです。
消防法なんて長い歴史があって、改正が積み重なっています。 危険物貯蔵庫 設備などでは改正されても以前からの施設は適用外というのがけっこうあるのです。
改正が重なるとそれ以前の改正が分からなくなってしまう。現在の法律の条文を読んでも分からない。改正前の条文は探しようないのです。例えば危険物貯蔵所の避雷針の有無もあります。それを知らずに違反だと不適合を出す輩がいて困りますね」

山内 「そういうのはどうすればよいのかな? あっ、意味が二つあるけど両方とも知りたいな。
つまり、どうすれば調べられるのかと、不適合が不適切なら取り消しできるのかですね」

坂本 「調べる方法ですが、はっきり言って手順を踏めば分かるというものではないのです。昔からの人がいれば過去の通知など思い出すかもしれませんが、そういう年長者はとうに引退してます。
結論を言えば消防署に行って、法律では避雷針が動向と決まっているが、わが社の危険物貯蔵所はそれを満たしていない。これは違反かどうかと聞きました。
すると向こうは当然わが社の危険物貯蔵所の資料があるわけで、それを調べて当時の法律では適切で(当然そうでなければ設置許可が出ない)、その後法改正があったが既設のものはそのままで良いと通知が出ていると教えてくれました。
ここ10年くらいに担当になった人では分からないですね。というのは、法改正があったかも知らないし、そういう措置があるかもしれないという発想が起きませんから。

そのときは『これは違法だから不適合だ』と言われて、何も知らない課長は了承しちゃって、あとで消防署に問い合わせて例外規定があるから問題ないとなっても、不適合を削除してくれない。
彼らはいったん書いた所見報告書を修正することはないのではないですかね」

岡山 「ああ、そういうのって私も経験ありますね。我が社が認証を受けているほとんどの工場は品質環境センターだから、そこがレベルが低いという認識があるかもしれません。

しかし私が以前働いていた宇部工場は、ISO9001をジキルQAで認証したのですよ。その後何年も経ってからISO14001を認証するとき、認証機関を変えるのもなんだということでジキルで認証しました。
そこから来た審査員も法律をよく知らず、坂本さんがおっしゃったようなことで不適合を出しましたね。ええとまだ紙マニフェストを使っていましたから2010年頃でした。交付担当者という欄に氏名と印と書いてあるのに、サインだけで押印してないから不適合だといわれました(注2)

石川 「それを言う審査員は多かったですね。今、見なくなったのはまともになったわけでなく、電子マニフェストになったからですよ」

岡山 「まったく困ったもんだよね。すぐに市役所に問い合わせに行ったけど、戻ってきたときはクロージングミーティングを終えて去った後だった。
その後、認証機関に修正を要求しても、もう認定機関に報告書を出したので変更はできないと言われておしまいでした。審査報告書って認定機関に提出するものなんですかね?」

坂本 「それは災難だったねえ〜、内部で責任追及されたんだろう」

岡山 「私は工場長から、帳票もまともに書けないのかと叱られました。説明したのですが、工場長はそんな理不尽なことがあってたまるかと納得しませんでしたね。私も通り魔にあったような気持ちです」

柳田 「民事訴訟を起こせばどうなるのかしら?」

田中 「まず公開質問状を内容証明で出すとかかね?」

坂本 「そういう認証機関はチェンジだよ、チェンジ」

岡山 「今より良いところがあるかどうかですね」

磯原 「審査報告書は認定機関に送付するのですか。私も知りません。調べてみましょう(注3)

山内 「ほう、橋野の奴、ジキルの審査員の力量は他社を凌ぐと自慢していたが、現実はそんなものか。それではジキルに依頼するのも楽しみではあるな」

磯原 「確かに審査員の力量とか、日程その他の連絡でのトラブルなどについて、複数の認証機関の違いを調べる必要はありますね」

山内 「あのさ、そういう事は本社に連絡しろという通知を出せや。工場の担当者じゃ埒が明かないこともあるだろう。磯原が本社の課長って名前でカチコミしろ。
修整できないなんて論は許せないぞ💢

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磯原 「認証の必要性についてはどうですかね?」

坂本 「わしには分らんね。必要だから認証しなければならないと言われただけだ」

石川 「認証はアプリオリと認識していました」

柳田 「私のレベルではどうあるべきなんて考えても意味がありません。言われたとおりするだけです」

山内 「なるほどな、それじゃ認証して良かったということはありませんか?」

田中 「昔のこと、1994年でしたか、工場でISO9001を認証した時は、今ある名刺を全部捨てて認証機関のマークの入れた名刺を作れと言われましたね。あの頃はそれだけの価値があったのでしょうね。
1998年かな? ISO14001を認証した時は、使っている名刺が切れたら認証機関のロゴを入れた名刺を作れと言われました。
5年位前ですか、名刺に認証機関のロゴを入れないルールになりました。段々とISO認証の価値が下がってきたようです。今ではISO認証と入れるとダサいと思われるようになったのですかね」

柳田 「名刺にいれるマークなどが増えたからでしょう。今は名刺入力用QRコードも載せるし、会社のキャンペーンスローガンとか、営業の人は顔写真必須だし、重要性の低いものを載せるスペースがないのよ」

岡山 「ハハハハ、いやあ失礼、傑作ですね。ISOはファッションですか。
1990年半ばというと、私はまだ学部生でした。私は院に進むつもりで就活はしてませんでしたが、当時はCSなんて流行っていまして(注4)就職活動をしている連中は、そういうカタカナというかローマ字の言葉を覚えたり、問われたときの回答などを考えていました。 SDGsバッジ

すぐにCSは廃れ2000年になるとCSRでしたっけ? そんなのが流行りましたね(注5)
2015年からはSDGsですか(注6)ウチの幹部も皆、胸に馬鹿でかいバッジを付けてますが、何年続きますか、ハハハ」

坂本 「CIなんてのも流行ったね(注7)

田中 「あった、あった。バブルがはじけて立て直そうという意思の表れだったのだろうね。ええとあれは1994年頃かな」

増子 「そう考えるとISOもSDGsも皆 流行よね。温暖化対策も流行ならそのうち廃れるのかしらアハハハ」

柳田 「まったくだわ、暑さも廃れてくれるとうれしいんだけど」

石川 「いろいろ考えると、企業における環境活動というのは実際に意味のあるものだけでなく、流行に乗った部分もあるということですか」

山内 「意味のある事って何だい?」

石川 「法を守ること、事故を起こさないことです」

山内 「そいじゃ流行って?」

石川 ぐれたお嬢さん 「植林とか古着や家具のリサイクル活動とか、グレタお嬢さんのような活動ですね。彼女の語ることは、駄々こね以外の何物でもありません(注8)

増子 「確かにリサイクルサークルなんて流行というか気分のところが大きいわね。自治体はその地域における廃棄物処理を考慮して分別とか燃やす燃やさないを決めている。だから本に書いてあるとか、意識高い人が言っていることが最適かどうか考えないとダメよね」

石川 「使用済割りばしで木炭を作って使おうなんてのは、アホとしか言いようないですよ〜」

増子 「私の知り合いがその運動をしていたわ。あんなことを信じる人の頭を疑っちゃう。コストパフォーマンスという言葉があるけど、エネルギー効率とかリサイクル効率を考えると、パフォーマンスはとんでもなく低いわね。

怪しげというか怪しいことが多いけど、真に役に立つのか考えないといけないわ。
燃えるゴミ燃えないゴミの分け方は自治体によって異なるから、何でもリサイクルしようとするのでなく、自治体のルールを守ることが大事よね。自己流もだめだし細かく分ければ良いわけでもない」

坂本 「わしは空き缶のプルタブ集めて車いす運動が理解できないね」

増子 「プルタブ160万個で8万円の車いす1台だそうよ。
それなら募金した方が早いし、そもそも今では空き缶の回収ルートは確立していて、自治体が有価物として回収している。わざわざ個人レベルでプルタブ集めるより、自治体が回収して売却益を公共サービスに充てる流れがまっとうだと思う。
回収のための工数とか運搬エネルギーを考えると環境保護ではないわね」

山内 「自治体によって燃えるゴミ燃えないゴミの区別が違うのは、どうしてかな?」

増子 「自治体によって焼却炉とか埋立地の有無も異なるので、廃棄物処理方法が違うのですよ。焼却炉の燃焼温度も違いますし」

山内 「あ〜、なるほど。最善はなく最適を目指すか」

磯原 「石川さんがおっしゃるように、いわゆる環境活動は真に意味あるものと、流行の部分があると思う。
ISO規格の意図は『遵法と汚染の予防』であると初版から明記されているが、多くの人……審査員どころかISOTC委員も含まれるけど、ISO14001は今までの環境活動と違うと語りますね。そう言わないとISOの差別化ができないのでしょう。
企業がボランティアで植林やオフィス街美化運動などするより、違反をせず事故を起こさないことが最優先で重要であるのにね」

田中 「その論で行くなら、ISO14001の審査など全部門でなく、環境負荷の大きな部署を重点的にすれば済むはずだ」

磯原 「それが規格の要求だと私は考えています。でも認証機関はそう理解していないから、アルバイトに環境方針を知っているかなんて質問するのでしょうね」

田中 「あげくに怒鳴ったり……フフフ」

岡山 「紙ごみ電気ではダメと言い出したのはあるISO審査員だそうだけど、紙ごみ電気に血道をあげるようでは環境活動を理解していないことだ」

石川 「でもしないより、したほうが良いってことありませんか?」

増子 「しないよりしたほうが良いという論理だと、エネルギー無駄使いの割りばし木炭を推奨することになるわ。無駄なことをしないと割り切ることが大事よ」

岡山 「我が社もそうだが、どこでもルールというのはある。ごみの捨て方、照明の基準、PPCの購入基準など。
照明は節約すればよいというわけではない。省エネ法だけが法律ではない。安衛法、消防法とか建築基準法でも、照明や照度の基準がある。簡単に無駄な照明を消せなんて言えないんだ。

他社を訪問したとき、廊下が真っ暗なんだ。どうしたのか聞いたらISO審査員に人がめったに歩かないなら無駄だから節電しろと言われてしたってさ。事故やケガが起きたら審査員が責任を取ってくれるのだろうか?」

坂本 「私がいた静岡工場でも環境に配慮して薄めのPPC(コピー用紙)にした。パルプの使用量を節約して費用も節約ってね。
プリンター用紙 その結果はものすごい紙つまりの発生で、買ってしまった大量のPPCを従業員に安く売った。
わしは買わなかったけど、買ったやつらは自宅のプリンターが紙つまりしてひどい目にあった。安物買いの銭失いだ。
総務の連中は転んでもただは起きない狡賢いことは間違いない。ハハハ」

山内 「坂本さんはそういうことについて、審査員から節約とかエコ活動とか言われたことがあるのですか?」

坂本 「幸いに審査員から質疑を受けたことはほとんどなく、いつも課長が板挟みになっていました」

田中 「私はありましたね。何年も環境課長をしていたので、毎年あほらしい話をされて耳にタコができましたよ。まず誰でも思いつくことは既に実施しているか、実施してダメだったかです。新しいアイデアを聞いたことはありませんでした」

石川 「環境保護になると言われても、よく考えないといけませんね」

坂本 「昨年末に、ISO審査前の点検で工場を巡回したとき、ソーラーパネルを付けた社員寮で、近隣住民ともめているところがあった。
そこでは屋根にパネルを付けるスペースがなく壁に付けたんだよね。当然ながら太陽光が当たれば斜め下に反射して近隣の住宅の室内に日が差しこんで苦情が来たよ」

参考:「太陽光パネル+反射」で検索するとものすごい数のトラブルや訴訟がヒットする。

柳田 風力発電 「大手町のオフィスビルでもエントランス前に、直径50センチくらいの小さな風力発電を付けたところがあったのよ。
ところがビル風の影響で発電はするけどビューって音がすごくて、近隣のビルで働く人たちからクレームがきてすぐに撤去したわ。
意識高い人には心地よい音なのかしら」

増子 「台湾ではウィンドファーム周辺でのヤギや牛の大量死が報道されているわ。羽根から発生する音が悪いってあったわね。新しいことをするには事前にアセスメントをしっかりやらないとね」

田中 「工場で環境を担当している人にもいろいろあってね、個人生活でもボランティア活動で植林とか里山保全とかしている人もいる。そうでなく個人生活では自治体のルールを守る、マンションの規約を守るというだけの人もいる。
ペットボトル 私の部下はルールを守るだけだったが、いい加減な考えではなかったな。市のごみ処理場に見学に行って、廃棄物の熱量が足りないからと灯油だか重油だかを撒いているのを見て、わざわざペットボトルを燃えるゴミに混ぜて出すようにしたという。まあ、これも行き過ぎると熱量がオーバーするなんてことになるのかな?」

山内 「ええと、その話はどうつながるんだ?」

磯原 「環境問題とは複雑だから、紙ごみ電気というような三題噺では済まないということです。ですからISO審査で照明をどうこうとか、分別がどうこうとコメントするだけでも、いろいろなことの関連性を理解していないといけない。
特に安全とか非常事態を考慮して照明とか通路幅は決まっていますから、審査員は思い付きを語ってはいけませんね。

ええと本日の結論というのはないですが、今回の皆さんの話は私がまとめて後でお配りします。
今度品質環境センターで、今回の事件の再発防止の会議をするというので、今回の皆さんのご意見を踏まえて一席ぶってきます」

石川 「私がお供してもよろしいでしょうか?」

磯原 「うーん、悪いという理由はないな。あちこちに顔を売ることも大事だ。増子さんと話をして了解が得られたならOKです」

石川 「あとで増子さんに相談します」

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岡山 「磯原さん、ちょっと聞きたいんだけど」

磯原 「なんでしょう?」

岡山 「先ほど田中さんが言った、ISO14001の審査など全部門でなく、環境負荷の大きな部署を重点的にすれば済むはずだということですが、元々はそういう仕組みではないのですか?」

二人が話を始めたので立ち上がって人たちがまた座りなおした。

磯原 「私もそう考えてます。そもそも会社は環境配慮をしなければならない。まあ、それは当たり前のことでしょう。 煤煙
煙突から煙が出ている、大量の水を使っている、電気を使う、公共交通機関がなければ通勤に自家用車を使う、そういうものが環境影響ですよね。
では何をするのかとなると、環境に大きな影響のあるものをしっかり管理しようという発想になります。注意してほしいのは、環境に大きな影響があるものを減らすのじゃなく、しっかり管理するのです。
管理とはmanagementでなくcontrolです。方法を決めて基準を決めて、基準から逸脱しないように運用することです。

とまあ〜この考えにおかしなことはないのですが、大きな環境影響のない企業はどうするということになる。
もちろん金融なら投資とか貸付の際に、相手の投資先や方法を見て環境配慮を審査するというのもあるかもしれないし、持株会社ならどのような経営方針で子会社のアドミニストレーションするかもあるでしょう。
弁護士事務所なら、悩むことなく認証しないという選択が正しいでしょうね。ISO14001認証は、必要なものではないのですから。

でもそうは考えずに、環境影響が少ないにも関わらず、認証が必須だからと視野狭窄して、オフィスの紙ごみ電気しか目に入らなかったのでしょうね。
いやこれは冗談ではなく、私はISOに関する論文は目に入れば必ず読んでます。CINIIにだって、大学院の博士課程の人が、PPCが減ったことをISO14001認証の効果として書いた論文がありました。笑ってしまいますよ」

田中 「そうなってしまった原因は何だい?」

磯原 「簡単です。環境側面を理解しなかったからです。以前、ここに助っ人に来ていた千葉工場の佐久間さんからISO14001の黎明期のことを聞きました。
ゼムクリップ 彼の話ではISO14001の初期には、環境側面を調べるのに、名刺の古紙割合とか、ゼムクリップやホチキスの針の使用量、そんなものまで調べてないと環境側面の把握が不十分であるとされて、本審査まで(注9)に是正しなければならなかったという(注10)
もし審査員が真に環境側面と著しい環境側面について理解していたならば、そんなバカバカしいことはしなかっただろうと思いますね。

そんなことを思うと、スコアリング法なんて環境影響も知らない、いやそれ以前に規格を理解していないアホな人たちが考えた妄想にすぎません。
著しい環境側面とはABC管理です。パレートの法則というのは経験則ですが、8割の影響とか成果は2割の原因によって生じるということです。だから著しい環境側面を見つけることは大事なんですが、規格の順序が逆なんですよ。現実には我々は著しい環境側面をおのずと体感で認識しているわけです。そりゃ毎月払う金額とか法律の罰則から肌で感じますよ。

だからとりあえず小さなことは置いといて大きなこと大事なこと危険なことに対策する。そういうことが著しい環境側面の考えだけど、それを理解せずに、膨大な電気を使ってエクセルで出したものしか著しい環境側面と認めないというおバカなことです。
その結果、ISO14001が始まって四半世紀も経っているのに、未だに同じところをグルグル回っているだけです」

石川 「スパイラルアップじゃなくて蚊取り線香ですか」


ISO認証が始まった頃の話である。
右に挙げる図はISO14001規格の序文に載っている、PDCAを示す屁でもない絵である。
PDCA 当然無駄、無用を嫌う私は、こんなのを無視してマニュアルを書いた。
予備審査のときに審査員に言われた。
「この図は非常に大事なものです。マニュアルにこの図を盛り込まないと指摘します」
指摘とはダメということだ。
わけが分からないが、ダメと言われれば盛り込まなければならない。
その後、社内からこの絵は何の意味があるのかと何度も聞かれた。その都度、意味はないから気にしないでくれと答えた。


田中 「スパイラルアップって言葉がISO規格にないって知ってたかい?」

石川 「えっ、本当ですか?」

田中「それどころかスパイラルアップという英語もない。スパイラルとは実は蚊取り線香のようなものを言い、 蚊取線香 いくら歩いてもアップしないんだ。
螺旋階段やねじのように、進行方向に直角のベクトルがあるものをヘリカルという。
スパイラルアップも怪しげな審査員が発明した言葉じゃないかと思っている」

岡山 「確かにヘリカルギアとかヘリカルスキャンなんて言いますねえ〜」

山内 「言われてみるとスパイラルとヘリカルの違いはその通りだ。
いや〜、ためになる話だった。う〜ん、ISO認証の価値……考えるまでもないのかもしれんな」



うそ800  本日の後悔

私は1992年頃からISOに関っていたから、メリット・デメリット、効用も悪いこともいろいろとみてきた。だからISO審査の問題について言いたいことはたくさんあった。
認証機関の営業担当者とか幹部と会ったときに、そういうことを話したが、認証機関に講演に来てほしいといわれたことはない。私の話を真面目に受け取らなかったことは間違いない。
それは非常に残念なことである。私にとってではなく認証機関にとってである。私の話は認証制度に大きな貢献したと思うのだが。

もっと大きな後悔だが、本日はまたまた14,000字を軽く超えた。原稿用紙36枚である。速めに読んでも25分はかかる。我ながら呆れる。



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注1
「先生と呼ばないと返事しない審査員」というのは都市伝説と思っていた。しかし私が引退してから訳あって某社の審査を見学したときに、そのレジェンド(伝説・偉業を成し遂げた人)に会うことができた。2016年か2017年だったと思う。感激しましたよ。ちなみにその方は、アイソス誌に何度も登場した有名な方だった。

注2
廃棄物処理法では産業廃棄物管理票(通称:マニフェスト)に交付者の氏名を記載するとあるのみで、押印するとは書いてない(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則 第8条の22)。東京都に確認したところ、押印は不要と回答を受けた。
市販されているマニフェスト票は民間が作って販売しているもので、法で定める以外の記入欄もある。だからすべての欄を埋める必要はない。どこが必要かは法律を見ましょう。

しかし押印がなくても有印私文書と呼ぶとはこれいかに?
その心は、作成名義人の印章または署名のあるものが有印私文書と決まっているから。
ちょっと待て、作成名義人とはなんぞや? 作成者ではないのかという疑問があるでしょう。仮定の話ですが私「おばQ」が指名手配されているとして、「おば九」の偽名で履歴書を書いて使用したとき、作成者は「おばQ」ですが、作成名義人は「おば九」であって、その齟齬で私文書偽造同行使になるという判例がある。つまり名を偽るのではなく、私文書を偽造したという罪になるのです。
おっと芸名で色紙を書くとか、ネットでハンドルネームを使うなどは法律的に問題ありません。もっとも昔は有名な人の名で色紙を書いて、ただで日本を巡っていた人がいたらしい。それは詐欺罪です。

注3
JAB基準類を一通り読んだが認証審査報告書を認定機関に提出するというルールは見つからなかった。
認証機関であるJQAの「JQAマネジメントシステム審査登録規則」では、認証審査報告書は認証機関が保管することとコピーを審査した組織に送付するとあるだけだ。

注4
CS(顧客満足)は1980年代から言われていたが、ISO9001の意図が顧客満足であること、ISO認証が必要な企業の認証が1996年頃に一巡して、必要でない企業にも認証を広めるという意味合いから1996年頃から顧客満足が大いに叫ばれたのである。

注5
CSR(企業の社会的責任)が流行ったのは、2002年頃からだったと思う。当時はCSだけでなく社会からもっと広い要求を受け入れて対応しなければならないなんて論調だった。

注6
SDGsの起こりは、はっきりしている。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択され「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された。

注7
CI(corporate identity)とはいろいろ考えはあるのだろうが、現実には企業のイメージを表す色とかマークなどを刷新して従業員と世の中に自社の存在を知らしめたというものだった。このときに会社の名称とかシンボルマークとかイメージカラーを変えたところも多かった。その後昔に戻ったところもある。ものすごい費用をかけただろうが、果たして効果があったのか?

注8
EUの指導者たちがグレタを褒めたたえたのに対して、プーチン大統領とトランプ大統領がグレタをいさめたことを書こうかと思ったが、よく考えるとあれは2019年9月で、まだこの物語はそこまで進んでいない。
危ない危ない、しっかりと前後関係を調べなければ
15歳からの地球温暖化」問13参照のこと

注9
当時は予備審査を行い、審査できるレベルかどうかを確認したのちに本審査を行っていた。

注10
これは私の実体験である。予備審査(名称忘れた)で調べるのが浅いからもっと深くもれなく調べろと言われた。具体的品目としては、クリアホルダー、ポストイット、乾電池、通勤車両の排気量とか乗車人数もあった。
本審査までに注文書ばかりでなく、支払依頼で購入したものなど、可能な限りリストした。とはいえ、調べたという証拠を作っただけで、それを何かしたわけじゃない。だって電力とか資材のほうがはるかに環境影響が大きいのは当然だ。
それに組織が影響を与えることができなければ、そもそも対象外だ。

本審査終了後にその資料をくれといわれて、A4で数十ページの資料を渡した。今なら企業秘密ですと言って出さないだろうけど、当時は審査員は雲の上の人で泣く泣く渡した。
それをどうしたのか定かではない。どうしたんでしょうねえ〜

当時ISO9001の審査だったが、工場規則一式を要望されたこともある。これは重大問題になった。総務と技術管理で検討した結果、守秘誓約書を書いてもらい用済み後返却してもらうことにした。なにせパイプファイル2冊と膨大である。
その後半年ほどしてから、その認証機関からその審査員が退職したんでお返ししますと送られてきた。どうして退職したのかお聞きしたが、答えてはくれなかった。たぶん、なにかあったのではないかな?




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