ISO第3世代 137.パンデミック5

24.01.18

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは


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コロナウイルスによる第1回の緊急事態は、2020年4月7日からだった。何分にも最初のことだから、企業も一般国民もどうなることかと思っていた。政府もそうだったに違いない。
コロナウイルス 緊急事態宣言の出た2020年4月は日本では日々20人前後亡くなっていた。そしてその頃を第1波などと大騒ぎしていたのだ。表現が悪いが、コロナの恐ろしさを知らず初心ウブだったという外ない。
第1波は5月になって収まった。しかしそれで終わりになったわけではなく、その後のピークでは日々の死者が100人、200人と増加し、2023年1月14日には503人を記録した。

まあ何事にもはじめてはある。成功体験や失敗体験を対策に反映していくなら、フィードバック機構としては合格だろう。


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2020年6月になった。
県によって緊急事態の解除時期は多少前後したが、5月末までに全県解除された。
人事の下山から磯原に、緊急事態の手順書の反省会をしようと提案があった。どこまで呼ぶのか、どういう位置づけなのかと磯原が聞くと、まったく非公式な意見交換をしたいという。磯原は了解と応えた。
山内に声をかけると参加するという。磯原は田中、坂本、岡山に声をかけた。

当日である。
行ってみると人事は下山のほかに桃田参与がいた。総務部からは総務課長とお局キヨちゃんがいた。メンバーとして悪くはない、みな言いたい放題の、いや積極的な人たちだからで、活発な意見交換が期待できる。

下山 「私の方から声を掛けましたので私が司会をします。主催者として桃田さん、挨拶をお願いします」

桃田 「新型コロナによる緊急事態宣言も先月末に解除された。私個人の推測だが、またすぐに第2回の緊急事態宣言が出されるんじゃないかという気がします。
ということで、まず我が社の事前の検討と対応策について、実際の緊急事態においての問題や効果、そして第2回の緊急事態に備えての対策などについて意見交換したいと思います。

ここで結論的なものを出すつもりはなく、所属とか気にせずに自由な意見交換をしたい。出された意見を参考に、例の指針の見直しと次の緊急事態があったときの社内への指示などに反映したい。皆さんもここの議論をそういう活用をしてほしいと思う。
総務課長と山内さんから希望とか意見がございましたら」

山内 「特にない。しかしそういうことなら、工場の意見を取っておくんだったなあ〜」

岡山 「私の方で例の指針のレビューを依頼した工場と関連会社に、緊急事態に入ってからの問題とか指針への意見についてアンケートを取っております」

下山 「ほう、それはさすがだ。コピーありますか?」

岡山 「お配りします。ただ、この場でそこに書かれたものを論じては時間がかかります。この場では参考ということにしてください」

下山 「了解、では書記と司会は私が進めますので始めましょう」

岡山 「私がホワイトボードに書きますので…」

キヨちゃん 「それでは私の方から、まずマスクですが事前に工場や支社に手配を指示しておいて良かったです。指示を受けた支社や工場は時期的にかなり備蓄できましたので、みなさんからほめられました。ただ個数が大きく読み違いました。不織布のマスクは毎日使い捨てで1人1枚で月22日と計算して備蓄していましたが、とても足りませんでした。
各人が洗って使ったりしていましたが、洗うと不織布はボソボソになってしまいます。

体温測定

それと非接触体温計は考えていなかったのでまずかったです。
アルコール消毒の器具も入門時だけでなく、食堂とか各事務所の出入り口に置くようになり、全然足りませんでした」

吉田総務課長 「消毒用のアルコールとか器具、それに従業員に配るマスクは総務で一括購買したのですが、大量に使う部門もあり大事に使う部門もあり、予算の見積もりは大きく狂いましたね、上方に」

キヨちゃん 「課長〜、早めに手を打って良かったと思わなくちゃ、もし手を打ってなければ物がなく大変でしたよ」

吉田総務課長 「ああ〜、そうだね」

田中 「工場でもそのことを書いたところがいくつもあります」

吉田総務課長 「お客さんと会う職務では汚れたマスクは使えないでしょうから、汚れると交換はいたしかなない。それを考えると膨大になってしまいます。1人1日1個として、それ一定以上は個人で手配することもあるのではないでしょうか」

下山 「本社には診療所はありませんが、工場の診療所では患者一人にマスク一つ使うといってます」

坂本 「えっ! すみません、ええと診察を受ける人に渡すということですか?」

下山 「いえ、看護師なり医師なりが患者一人に接したら、自分のマスクを交換するということです」

坂本 「うわー、それは大変だ。いくつあっても足りないよ」

キヨちゃん 「厚労省の回答では1日1枚と言ってますね。よほど人に合わないとか汚れ仕事をしない人でないと、1日1枚では間に合いませんね」

坂本 「工場の回答には、マスクが品不足で買えず、不織布マスクも洗って何度も使わざるを得ないと言われました」

キヨちゃん 「そうなのようねえ〜。これからも緊急事態宣言が出されるだろうと思います。今の時期は落ち着いているから、資材部門に頼んで大量に購入したいと思います」

田中 「マスクをしろという規制は分かったけど、具体的にどういうマスクが良いのか悪いのかも分からない。家内が病院に安倍マスクをして行ったら、不織布マスクでない人は入場お断りといわれた。
それからマスクの付け方もあるよね。鼻マスク、顎マスクはダメという。不織布マスクも顔に沿ってつけるべきなんだろうけど、話をすればずれてしまう。どこまではOKなのかも分からない」

下山 アルコール消毒 「手洗いも洗剤を付けてどう洗うのか、洗った後に蛇口やドアノブに触っても良いのかどうかもありますね。
完璧なんてできませんよ。会社でホチキスとか定規なんて貸し借りが普通だし」

桃田 「政府は不要不急の外出は規制すると語っている。外出しても良い/悪いをはっきり示すべきだろうな。総務部でそういうのを出してほしい」

吉田総務課長 「難しい課題ですな。おっしゃる通り総務部マターですから、検討して社内に通知するよういたしましょう。
施設の利用規制というのもありましたが、キヨちゃん、ウチで関係することがあるかい?」

キヨちゃん 「業務上関係するのは図書館とか市役所などでしょうか?」

吉田総務課長 「公用では仕方ないな」

田中 「私は図書館をよく利用しますが、今は書架に入れません。ネット予約すると図書館の人が探して、そろえばメールで通知がありますから、棚に置いてある予約本を引き取るだけです。図書館の人と話すことも手渡すこともありません。あげくに用済みの人はすぐに退館するように言われ長居できません。
ということは仕事で図書館を利用することは、実際問題できないですね。まあ行くとしても一般的な図書館でなく、通産省図書館とかでしょう。あそこは貸し出しはありません、閲覧だけです。

市役所とか法務局は従来通りでしょう。いずれにしても業務上の用件ではしかたないでしょう」

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山内 「環境管理課が出した緊急時の指針は役に立ったのか?」

岡山 「そのまま使えたかという意味なら、そういった効果はあまりありません。実際に発生したケースが書いてないという意見は多々ありました。まあ、発生する事象は無限ですから、いくつかのケースについてサンプルを示したつもりというのもあります。それは特に間違いだとは思っていません。

おっと、前振りが長くなりました。
指針の事例をみて、その工場で想定したケースへの対応を考え文書化するのに、参考として役に立ったという声が多いです」

山内 「おお、それは良かったな。
人事が旗を振った方の指針はどうだったのでしょう?」

桃田 「悪くないですよ。岡山君が言ったように、発生した問題と同じ事例がないという声は多々ありました。でもそれを参考に、自分たちの職場で考えられる問題の対応策を考えたと言います」

下山 「今回は環境管理課の作った指針は環境管理宛に発信していますし、人事と総務で作った指針は工場や支社の総務宛に出しています。
いろいろな部門からいろいろな指針が出るのはどうかと思います。今後は統一したものにしたほうが良いかと考えます」

山内 「部門によって担当する仕事が違うから、同一とはいかないだろう。本社が出す指針も機能別になるのではないか?」

下山 「まあ、そうですね。コンフリクトのないように、そしてできたら様式を合わせるとかはしたいと思います」

坂本 「それはありますね。環境の方ですが工場によって書き方とか様式が全然違う。どうしたもんかね」

田中 「書き方や様式が違うのをあるべき姿とは言えないが、我々が最初に作ったものが最善とも言い難い。皆の意見を聞いて統一すべきかどうか? あるいは些事はそれぞれに任せても良いのかもしれない」

山内 「それぞれが使いやすいなら独自でもよいが、我々が言わずともお互いに他工場のものを見てリファインするだろう。その過程で統一されるならそれでも良いのではないか」

吉田総務課長 「記載する項目が多岐にわたります。書き漏れが出たりするかもしれません。そういうことにガイドラインを出すほうが良いと思いますね。
例えば災害が起きたとき、会社で操業をどうするか、従業員がどのように帰宅するとかは考えているでしょう。

しかしその後どういう状況なら出勤するのか、しないのかとか会社も基準を設けるべきですし、個々人も考えておくべきです。
そして会社側としては誰が出勤できなくなるのか、誰には出勤してもらわなければならないかとか、想定しておかねばなりません。それによって操業を開始するのか、社内体制を変えて、例えば事務系を生産に回して操業するとか考えることはあります」

下山 「おっしゃる通りです。それこそ緊急事態対応ですね」


電車電車電車 東日本大震災が起きた2011年3月11日は金曜日でした。その日はJR総武線も地下鉄も動きません。
私はリノリウムの床にコートを敷いて寝ました。翌日昼頃地下鉄が動いたと聞いて東西線で西船橋まで行きました。それから先は電車が動かず10キロほど歩きました。
総武線は翌日12日(土)から動きましたが、私の最寄り駅からそこまでの路線が不通です。運転再開まで数日と報道されましたが、その間朝晩10キロ近く歩く気はありません。
週明け会社は休みになるだろうと思い、上司に今日は休みですかと電話をすると、みんな会社に来ているぞとのこと。 驚き! 驚きましたね。皆さん、それほど働き者とは知りませんでした。私は支線が動くまで休ませてもらいました。
お住まいが会社近くとか、運転している路線の駅まで徒歩30分以内なら出勤、それ以上なら出勤するなとか会社が決めるべきでしょう。


山内 「環境管理課の面々は電車が止まれば出勤できないのか?」

坂本 「私は社員寮に住んでいますので自転車でも来れますが、静岡から新幹線通勤している増子さんは電車が止まれば物理的に来られません。
東日本大震災のとき本社にいた方から聞いた話ですが、電車が止まったと聞いてすぐに近くの自転車屋で自転車を買い、それで三鷹の家まで帰ったそうです」

田中 「私も自転車なら来れますね。もっとも丸の内や大手町では自転車の路駐は禁止ですよ。まあ災害時で電車が止まれば、そうも言ってられないでしょうけど」

自転車

磯原 「私の場合、総武線が止まれば稲毛からは出勤は無理です。40キロ以上ありますから自転車でも無理です」

山内 「磯原と増子が不在の時の、役割分担を決めておく必要があるな」

磯原 「環境管理課の緊急事態対応を作ってありませんでした。それも含めて考えます」

山内 「紺屋の白袴だな、アハハハ」

キヨちゃん 「総務も出勤できる人を、確認しておかなければなりませんね。
単に交通機関の状況だけでなく、家族の介護とかお子さんが小さい人は保育所とかに預けられないときの対応もあります」

桃田 「下山君、庶務などは全員の通勤と家庭の事情をヒアリングして、出勤できる人を再配置するとかも要検討だな」

下山 「そうですね。総合職は簡単に部門を変えても使えないでしょうけど、庶務担当は出て来れる人を最適配置を考えるようにしませんと…
そしてまた、庶務の業務の一層の標準化を進めないといけません。机に何をどこに置くとかまで決めておかないとすぐに仕事が進まないんじゃないかな」

磯原 「広報などは緊急事態になっても出社されるのでしょう?」

下山 「役員や広報などは社有車で送迎することになっているが……災害時は車も走れないだろうから難しいね。歩いて来れるところに住むことを義務付けて家賃補助するか」

坂本 「災害の大きさによって対応を変えるが必要ですね。非常持ち出しとかスイッチOFFも、 地震の場合揺れが大きいとできません。設備なども止めるべきか動いていても放置して避難すべきかの判断基準を決めておくべきです」

田中
避難せよ
「最近は『地震だ、火を消せ』ではなく、『安全確保してから火を消せ』と言っている。なによりも人命優先だよ。それも他人の命だけでなく、自分の命も大切。安全が確保できなければ、ひたすら逃げることだ。
命懸けで火を消すより、まず身の安全。名誉の戦死でなく不名誉の焼死になってしまう」

磯原 「そういう基準は個々の機械や設備について考えないとならないだろうな。あるいは余計なことを考えず、工場全体をおとしてしまうか」

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下山 「意見が出尽くしましたか静かになってしまいました。磯原さんからあまり発言がありませんでしたが、包括的なご意見ありませんか?」

磯原 「私はルールの枠組み作りをまずするべきだと思います。今は緊急事態対応の会社規則があっても、その下位規定がありません。規則を展開して子供である細則を作り、各部門は緊急事態における対応を決めよとする必要があります」

下山 「今回作ったようなものを細則にするわけですね?」

磯原 「いえ、今回作ったようなものはルールではなく具体的な要領ですから一般名としては要領書となります。
総務では火災の際の避難などを、どんな文書で決めているのですか?」

キヨちゃん 「会社の消防規則の細則の子供の避難要領という文書にしています。ええと文書管理規則では会社の文書は『規則』、『細則』、そして細則の下位文書は『要領』という名称で文書に登録することになっています」

磯原 「さすが総務ですね。ええとそうしますと、それぞれの部門が決めるのは『緊急事態の対応手順』とかにして登録することになります。
そこに普段から対応すること、つまり器具備品食糧などの備蓄、緊急事態になった場合の対応、避難とか帰宅困難になった時どうするか、怪我人などの処置、消防や救急がこないときとか、まあそういうことでしょう」

下山 「なるほど、まずは枠組みを作るということか、勉強になります」

磯原 「それから整合性を取るために、先ほど下山さんがおっしゃったことですが……ええと、キヨちゃん、緊急事態対応規則の担当部署はどこですか?」

キヨちゃん 「社長室の中に緊急事態対応担当が、担当といっても部長級ですけどその方というかその職が担当になります」

磯原 「そうしますと、そこで現行の緊急事態対応規則を改定してもらう必要がありますね。というのは環境管理では以前より事故とか違反が起きたときの手順を定めていました。ただ親なしだったのです。

規則や手順書はすべからく、まず理念を決めた親があり、それを展開するヒエラルキーになっていないとおかしい。環境に限らず緊急事態対応の文書は緊急事態対応規則との親子関係を明確にしっかりしておくべきでしょう」

岡山 「形式的ですねえ〜」

磯原 「形式的といえばそうなのだが、そういう骨というか理屈が通っていないと、すぐに風化してしまうのですよ」

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山内 「いやあ、非常に価値ある打ち合わせだった。もちろん完成形ははるか遠いだろうが、もっと情報を集めてこういったことをすれば、環境管理課や人事部で作った指針は少しずつ改善されていくだろう。

こう言っちゃなんだが、緊急事態が解除されたところだが、外国のコロナ感染者発生状況を見ると収まる気配はない。我が国でもまた感染者が増加して、二度目三度目の緊急事態となる恐れはある」



うそ800 本日の教訓

文書管理というとあまりピンとこない人が多いだろう。文書管理なんてありてあるもの、空気みたいなものと思っている人も多いだろうし、面倒くさいとしか思っていない人もいるだろうし、あれは目指すところで現実とは違うと考えている人もいるだろう。

昔々(40年前なら十分昔だ)、私が現場でいろいろな作業の手順などを標準化、つまりもっとも良い方法を決め、それを文書化し、皆に指導していた。
そのとき真っ先に考えたのは、決めた方法を、いかにしてそれを権威付けオーソライズし永続させるかということであった。

注:権威付けなんていうと、反感を持つ人がいるかもしれない。権威付けとは、しかるべき人あるいは手順に基づいて、これに従うべしと決めることだ。

まずは文書を作る、制定する仕組みから、決裁を受けて正式なものとしなければならない。次に必要な文書を書き、その仕組みによって会社の正式な文書にしなければならない。
まあ、そんなところから出発しました。
おっと対象の作業の最適な方法を、検討しなければならないのはもちろんのこと。

その後1992年頃にISO9001を見て、な〜んだ自分はこんなことを一人で考えて実践したと思ったものです。劇団ひとりでなく、マネジメントシステムひとり、私はマネジメントシステムの権化である。



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