ISO第3世代 139.ISO認証とは2

24.01.25

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

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2020年7月である。大日本認証から審査日程について何も通知がなく、こちらも放っていて8月末になった。
磯原は岡山に丸投げである。偉ぶるつもりはないが、この程度の仕事を担当者一人で解決できなくちゃしょうがない。そして岡山なら問題なくやってくれると確信している。

岡山は、粛々と製造部門を持たない事業部の過去の経緯についてヒアリングを行っている。
岡山 まずグリーン調達基準書(あるいはイクイバレント)でISO認証を要求しているものはない。これは要求すると独占禁止法にひっかかるらしい。昔そういう通知が公正取引委員会から出ているらしい。特定の認証制度でなく不特定多数のEMS認証要求なら違反にならないそうだ。簡易EMSでも良いといわれても、ISOだけでなく簡易EMSも認証したくない。

事業部の営業担当者に聞くと、実際に顧客が何を求めているのか分からないという。ただ先方からグリーン調達基準書が来たからフォームを埋めた。そのとき本社がISO14001認証しているから、何も考えず〇を付けて回答したという。
それだけでなくISO審査登録証のコピーを付けて提出したという。審査登録証をコピーしたり配付したりできると初めて聞いた。

それらの扱いは何に決めてあるのか、ISO認証機関から配布された「審査登録ガイド」なるものがあったのを思い出し、引っ張り出して読んだ。
なるほど認証したというのを立証するには、審査登録証のコピーを出すのが適正な方法らしい。サラ金だって免許証とか健康保険証のコピーを取る。
社内の昇格試験を受けるとき、資格要件の一つにTOEIC試験〇点以上とあり、その証明として公式認定証「OFFICIAL SCORE CERTIFICATE」なるものを添付とあった。岡本はわざわざTOEIC試験を受けて試験後送られてきたものを提出した。コピーでなく原本指定なのは偽造される恐れがあるからか? あるいはサラ金などではコピーをもらうのではなく、自らがコピーするから信頼性があるのか? 岡山はそのあたりは良く分からない。

しかし……認証機関と登録番号をグリーン調達基準書の調査票に記載すれば、原本にしてもコピーにしても送付不要ではなかろうか?
だって認証返上とか認証取り消しは昨今多々あるわけで、ひと月前の登録証といっても、現時点認証されているか否かは分からない。それなら認証機関と登録番号を記載しておけば、いつでも認証機関のウェブサイトで最新状態が分かる。岡本は、添付する理由の理解に苦しむ。要するにグリーン調達の調査も、形式だけの証拠作りなのだろう。


岡山は茶目っ気がある。顧客企業3社の本社は、いずれも丸の内とか大手町にある。外は暑いといっても地下道もあるし、散歩がてらお邪魔するのもありだろう。

例の3事業部の担当者から各社のグリーン調達基準書を借り、先方のグリーン調達担当者の所属氏名を教えてもらう。担当者に「あまりごり押ししないでよ」と言われて「大丈夫、紳士だから」と返す。


*****

A社である。本社は丸の内といっても名前だけで、先方のグリーン調達担当は新宿の雑居ビルの中だった。会社が登記されている場所には幹部だけ勤務しており、本社の実働部隊は都内の別の場所にいるというのは結構あるようだ。本社所在が丸の内、大手町、赤坂、は一流企業の証なんだろうが、何百人ものオフィスを借りるには高いということなのだろう。岡山には理解できない論理だ。


著名なISOコンサルの事務所が港区青山だったので、さぞかし儲かっていると思っていたら、レンタルオフィスだった。まあかっこ良くないと客がつかないのかもしれない。
そういえば認証機関の所在地を調べたこともあった。見目より心ともいうが、馬子にも衣裳ともいう。いろいろだ


ともかく新宿のオフィスを約束の時間に伺うと、岡山と同じく30代後半の男性が現れた。
名刺交換すると「片桐課長」とある。

片桐岡山
A社スラッシュ電機
片桐課長岡山

岡山 「いつもお世話になっております。スラッシュ電機本社の環境管理課の岡山と申します」

片桐 「製品外注を担当しております片桐です」

岡山 「早速本題に入りますが、弊社は今まで工場も本社も支社も、ISO14001の認証を受けておりました。しかしながら認証の効果といいますかメリットが具体的に評価できず、非製造部門である本社と支社は認証を返上しようかと検討中です」

片桐 「ほう!、それはすごいですね。弊社も認証の効果というものを認識できません。ご存じのように弊社は皆さんのように製造部門を持っておりません。客先の仕様をもとに市販品や一部改造品を発注してセットアップして、行政機関や特殊法人関係に納めるというのがほとんどです。

弊社もISO14001を認証しているのですが、客先から明確に要求されているわけでもなく、なくて良いのかダメなのかもはっきりせず、継続している状態です。
岡山さんのところは客先から要求されているところは他にはないのですか?」

岡山 「まずISO14001認証を要求している顧客はありません。知らなかったのですが10年ほど前に、公正取引委員会がISO認証を求めるなら明確に必要性を説明できなければダメという通知が出ています。今も生きているみたいです(注1)

片桐 「そういう話は聞いたことがあります。ウチのグリーン調達基準書は大丈夫だったはずだが……」

岡山 「はい、お宅さんのグリーン調達には『ISO14001またはエコアクション21などのEMS認証をすること』となっていますから、その通知に抵触しません」

片桐 「それは良かった」

岡山 「お宅のような大会社で間違いはないでしょう」

片桐 「いえいえ、グリーン調達なんて真面目にやってませんよ、っと、オフレコでお願いします。どこでもしているからそれに合わせているだけで、あの調査でダメとか採否を決めるなんてありません」

岡山 「そうでしょうねえ〜、私どもでも同じですよ」

片桐 「でしょ、でしょ。単なるEMSなんてよりREACHをしっかりやってくれれば良いのです」


注:ご存じと思いますが、リーチとは麻雀ではありません。EUの「化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則」です。まあ黒船と思ってください。

岡山 「私どもでは買うほうも売るほうもありまして、他社さんの要求内容を毎年調査しています。前任者から引き継いでいるのですが、2000年代はEMS認証してほしいというのが多かったですが、それは減る一方ですね。そうではなくしっかり公害防止をしてほしいというようなことが多くなってきました。
ところが2015年頃から再びEMS構築を要求するグリーン調達基準書が増えてきています」

片桐 「ほう!、そのデータお持ちですか?」

岡山 「そう聞かれるかと思い、まとめたものを持ってきました。
これが要求の変化です。EMS認証要求は時間とともに減ってきていますが、EMS構築要求は2015年までは減少していましたが、そこから増加に転じました。しかしその内容は2000年台初めのISO14001のような要求事項ではなく、材料の識別管理とか、トレーサビリティなどREACH対応に移っていますね」


グリーン調達におけるEMS要求状況

片桐 「ええと縦軸はその年に有効なグリーン調達基準書なのですか?」

岡山 「いえ、そうではなくその年に制定・改定されたグリーン調達基準書です。生きていても何年も前に制定された基準書は制定当時の考えとみなして、制定・改定されたものの内容を見ています」

片桐 「ということは現時点では、過去の要求事項を調らべることはできないわけですか」

岡山 「そうなります。各社にお宅の何年版の調達基準書がほしいと言わないとダメですね」

片桐 「というと御社のこのグラフは貴重ですね」

岡山 「私も前任者がどういう考えで始めたのか存じませんが、今となるとありがたい資料だと思います。
あっ、これは置いていきますよ。もし必要ならエクセルの元データを差し上げますよ。複数のデータを取っていますから、いろいろな角度から検討できます」

片桐 「ぜひ」

岡山 「我田引水じゃありませんが、ISOのようなEMS要求はとにかく減っています。昨今の要求はEMSといっても方針とか経営者の責任なんてありません。識別管理、トレーサビリティとか教育訓練、文書とかですね」

片桐 「岡山さんはUL認定なんてご存じですか?」

岡山 「知ってます、知ってます。グリーン調達基準書で要求しているEMSはULと同じイメージですよ。今のISO9001は高尚なものになってしまいましたが、昔のISO9001なんて即物的でした。あれと同じです」

片桐 「ISO9001か〜、私がまだ子供の時ですね。大学の管理工学かなあ〜、習った覚えがありますねえ。中身は知りません」

岡山 「まあ花より実を取るということなんでしょう。ISO9001なんて改定・改定で高尚なものになってしまいましたが、内容が漠然となるだけで実効性がなくちゃねえ」

片桐 「おっしゃる通り。私は調達品の品質保証もやってますが、ISO9001なんて使いようがないです。もっと具体的でビジブルでなくっちゃ」

岡山 「おっと、本題なのですが弊社がISO認証を止めたとき御社の判断はいかがですか?
正直言って製造部門は弊社内でなく調達先にあるわけで、ウチの本社がISO認証を止めようと納める物との関係は限りなくゼロですね」

片桐 「アハハハ、おっしゃる通りですね。とはいえ御社内に企画とか検証とか調達とか出荷などの機能があるわけでゼロではないですよ」

岡山 「そういう見方もあるでしょう。そこで御社としてはどこまでの要求でよろしいかを教えてほしいのですわ。 打合せ
正直なこと言いまして、お宅向けのビジネスに関わっている人間は30名弱です。とはいえその部門だけISO14001認証するとして審査費用が50万はかかるでしょう」

片桐 「なりますね」

岡山 「今本社支社で5,000名くらいですが、審査費用としては300万くらいですね。30人でその6分の1です。これは割にあいません」

片桐 「おっしゃる意味は良く分かります。正直言ってISO14001があれば問題ないなんてことはないわけで、単なる飾りですよ。
ただですね、弊社の基準書をよく見てほしいのですが、ISO、エコアクション21その他なんちゃらと……同等のEMSを構築することを要請しますとありますよね」

岡山 「ハイハイ」

片桐 「弊社は認証を要求していません。同等のEMSがあれば良いのですから、御社があるということを立証していただければ……
我々が受入検査の際とかに、そのビジネスユニットですか、そこの環境管理についての仕組みを見せてもらうということでよろしいと思うのです」

岡山 「なるほど、ただそのとき見せたものがISO14001の要求事項とどう紐付けされるかは簡単ではないのです」

片桐 「とおっしゃいますと?」

岡山 「弊社では項番順審査を止めて、完全にプロセスアプローチで審査をしてもらうことにしております。ですから審査員が現場を観察して、それがISO規格を満たしているか否かを判断してもらっているのです」

片桐 「あ〜、おっしゃるのはわかります。難しい注文を認証機関は了解したのですか」

岡山 「了解したというか、できるという会社に依頼したということです」

片桐 「それは興味深いですね。それについてもお話をお聞かせしてほしいところですが……それはともかく、弊社の検査員が訪問してEMSの監査をするときもプロセスアプローチでなければならないということになりますか?」

岡山 「まあお金を払うかもらうかの大きな違いがありますから、ISO要求事項と弊社内の規則の対照表くらいは作るのは吝かではありませんが」

片桐 「私も受入検査とかに行きますんで……ああ、まあお互いに相手の手の内を知っていると思いますが、こういった製品は規模が小さいですから、設計して評価して受入検査して納入に立ち会うなんて普通ですので……御社のようなところに行って環境マネジメントシステムをヒアリングするのは野暮ですよ。いやどこに行って調べるのも野暮、物の置き方とか識別を見ることに意味があります」


*****

B社である。財閥系で丸の内に本社がある。この会社は調達部門も本社の中に所在していた。スラッシュ電機から歩いて10分少々、散歩にちょうどだ。これも約束の時間に訪ねる。
現れたのは40代の男性と20代の女性の二人だ。ヒマなのかなと岡山は思う。名刺交換する。

野沢堂山岡山
B社スラッシュ電機
野沢堂山課長岡山

岡山はスラッシュ電機のISO認証返上を目指しているなどの状況説明をする。

堂山 「ご説明を伺い、御社の状況を理解いたしました。実を言って弊社も同じようなことを検討しております。ご存じと思いますがお尋ねのケースは御社がサプライヤーで弊社がカスタマーですが、別の製品では立場が逆、つまり御社のグリーン調達基準書を受けているわけで、アハハハ
まあ正直言いまして、岡本さんからのお話を聞いて、ざっくばらんに意見交換したいと思いました。
ええと私は弊社を代表する立場ではありませんので、この場で良し悪しを言えるわけではないということはご理解ください。
野沢も勉強になるだろうと出てもらいましたが、彼女個人の発言とご理解ください」

岡山 「いやあ結構です。ありがとうございます。私も公表されている各社の調達基準書とかガイドラインなどいろいろなとか見ていますが、作成している人の言葉を聞くのは初めてです。よろしくお願いします。
私が聞くばかりでは失礼ですので、私が調査した物をまずお見せします。
ええと、これはグリーン調達基準書におけるEMS要求について調べたものです」


グリーン調達におけるEMS要求状況

野沢 「これは20年にも及ぶ調査結果ですか」

岡山 「実を言って先代の担当者が毎年調べていたのを引き継いだのです。EMS認証の要求もEMS構築の要求も、最初の10年間は低下する一方でしたが、EMS構築の要求は2015年から反転しているように見えます」

野沢 「2015年と言いますと、それは欧州の化学物質規制の影響ではないのですか?」

岡山 「さすがですね、おっしゃる通りと思います。EMS要求といっても2000年頃のEMS認証とか、ISOに基づくシステム構築というものとは変化しています。もっぱら欧州の規制に対応した、部品材料の表示とか識別管理、トレーサビリティの確保などでして、マネジメントシステムといえばそうなのですが、環境マネジメントシステムというよりも、工場の工程管理というニュアンスに移ってきています」


注:工程管理というと日本では「生産計画を立て、納期を遵守するために各工程の進捗や実績を管理すること」という解釈が一般的だ。原語のprocess controlは「品質に影響する製造、据え付け及び付帯サービスの工程を明確にし、計画すること(ISO9001:1987 4.9)」であって、品質計画的な意味である。
なんでここで大きな誤解が起きたのかは非常に興味がある。ISO規格を翻訳した人は、工場の実態とか使われている言葉を知らないのかもしれない。

野沢 「なるほど、ISO認証とかマネジメントシステムなんて綺麗ごとではなく、実質がないとだめと気が付いてグリーン調達基準書を即物的なことに舵を切ったということね」

岡山 「そう思います。
でもねえ〜環境省のグリーン購入ガイドライン(注2)でしたっけ、『環境に関わるものだけでなく、雇用とか児童労働など社会的側面を盛り込んでいくべき』とありましたね。そういう発想が遅れているという感じです」

野沢 「遅れているとはどういう意味でしょう? 進んでいると思いますけど」

岡山 「そういうことを考慮することに異議ありません。でも実現方法がねえ〜。
20世紀末にCSRなんて言われるようになりましたが、企業の社会的責任は多様です。環境が真っ先に気が付いたのかどうか、取り上げられて持続可能性とか温暖化防止とかで脚光を浴びたわけですが、確かに環境も大事なんだけど、いろいろ考えると人権も貧困も……SDGsになってしまいますね。

そういったことに対応するのに、従来のものにパッチを当てるだけで良いと思いますか?、フレームワークを見直すべきと思いませんか?
環境省のガイドラインの文言では調達基準として環境配慮を追加したのがグリーン調達であり、社会的要求は多様であるから環境に止まらず人権や働き甲斐もというのはおかしいでしょう。

ここは一旦立ち止まりあるべき姿を考え、それを実現するフレームワークを考えるべきでしょう。ご存じと思いますがISO26000(注3)を包含するようなものを考えて、その中に環境があり、人権があり、気候変動があると認識して構造化しなければならないと思うのです」

堂山 「ISO26000とは……ええと社会的責任でしたっけ?」

岡山 「そうです、そうです。更に言えばそういうものを作るのではなく、そもそもの成り立ちから考えてみましょう。
企業間の取引は江戸時代とかもっと古くからあるわけですが、契約したのは初期には売買の金額と納期くらいだったのでしょう。当然トラブルが起きるから、訴訟の方法とか保証人とか保証金とか追記されてきた。

製品が複雑になって見ただけでは善し悪しが分からないから、品質保証協定を結ぶようになる。
環境問題が起きたからグリーン調達を始めるようになり、その条件を調達基準とした。
更に人権だとかジェンダーとか言い出した。

でもね、どの会社でも取引先の調査をして、取引基本契約を結ぶはずです。なんで更に品質保証協定、グリーン調達基準、あげくに人権とか追加しなければならないという発想がおかしいと思いませんか?」

野沢 「岡山さんは熱いですね。その思いというかファイトが伝わってきます」

岡山 「アハハハ。毎日、修造ですよ。

札幌雪まつりで見た松岡修造 それはさておき、グリーン調達基準なるものはいっときのもの一過性であるはず。環境報告書がいっときのもので、既に今ではCSR報告書と改名したところが多くなってきました。でもそれもまたすぐに会社内容説明書などに置き換えられるはずです。

ああ2000年頃は環境会計なんて流行しましたが、今は外だしでなく、しっかりと貸借対照表とかに負の遺産を盛り込まないとだめでしょう。金額表示でない場合もあるけど。

要するに環境は特別とか外だしでなく、すべて内部化しなければならない時代になった。となるとそれは従来からの決算とか事業の中に織り込まれるのは当然です。
そもそも企業に環境を冠した部署が存在するのは論理的じゃありません。20世紀でも環境先進企業に環境部はなく、CSR先進企業にCSR部はないと言われました。

私は筋が通らないのはおかしいと、どして坊やのようなことを思うのですよ。だいぶ前にマテリアルフロー会計なんてのもありましたが、ああいう発想は昔から当たり前にあったと思うのです。ISO規格だと騒いでいるのを見て不思議でならなかったです。そんな発想は当たり前で名前を付けるまでもない。そう思いませんか?」

野沢 「岡山さんの熱意はよく分かりましたが、グリーン調達の話でしたよね」

岡山 「論点ははずれていません。今までの説明は、グリーン調達というものは、独立した存在ではないということです。
では本題です、御社はグリーン調達基準値でEMS構築を要求していますが、認証を返上した時はどういう対応が必要かを伺いに来たのでした」

堂山 「どういう対応とおっしゃると、いくつかの対策案をお持ちということですよね?」

岡山 「もう全部説明しちゃいますからね。 ひとつは御社関係のビジネスユニットのみでISO14001の認証を受ける。この場合、審査工数日は人数にリニアじゃなくて対数のようになりますから、弊社としては非常に高くつく。よって採用したくない。
簡易EMSにしても手間についてはISO同様とみておりまして、内部費用は変わらないと考えます。

ひとつは御社指定の簡易EMSとの対応表を作って提出して認めてもらう。
ひとつは自己宣言をして御社に認めてもらう。精度の高い内部監査を行い信頼性を担保します。
ひとつはご存じと思いますが、弊社で製造しているわけではなく、調査した結果、調達先ではエコアクション21の認証を受けていることを確認しましたので、それをもってOKとしてもらう。現実問題として弊社はシステムアップ、検証、メンテナンス、御社への保証をしているだけなので、それで良いというか、その方が実態に合っていると考えるということです。

手の内を見せるとそんなところです」


野沢が堂山課長を向いて言う。

野沢 「内輪話ですが、課長、その方がISO認証よりも信頼できるのではないですか?

堂山 「まあ現実問題としてはそうだろうなあ。
正直言って、環境事故とか違反があった場合、ISO認証していてもなんのメリットもないけど、御社と取引しているということは、製造元で何事かあったら御社が責任……それは品質だけでなく納期とか当社の顧客対応のことまで責任を負うということだから。まあ、だからこそ直接製造者から買うより高くても、スラッシュ電機さんにまとめてもらっているわけで」

岡山 「できればなるべく手間も金もかからない方法を期待しております。
おっと、とりあえずここでは方向付けをご指導いただければと思います。正式には弊社から認証を返上するにあたってこういう方法で対応したいという文を出させていただきたいということです」

堂山 「承知しました。お互い面倒なことをしたくないと思いますので、先ほどの何番目かな、弊社指定の簡易EMSがありますというところにチェックを入れてもらい、要求事項と御社の体制を略記したものを提出していただくという方向で行きたいですね」

岡山 「さようですか。それはありがとうございます。それではそういう書面を作ってお伺いするということで……事前に堂山課長の確認はいりますか?」

堂山 「いやいや、不要です。要旨は分かりましたので、内部には話しておきますよ。特段なにもないと思います」

野沢 「お話が付いたなら、御社のグリーン調達について教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか?

岡山 「私の知る限りなら……実を言いまして弊社のグリーン調達は、調達部門である本社資材部が作成しています。先ほども話に出ました欧州の化学物質規制などいろいろ盛り込んだものになっておりまして、私の所属する本社環境管理課はその中の環境管理の部分を依頼されて、案を作成するだけなのです。
正直言って、弊社も先ほどの話のように行き当たり場当たりで、来ております。どこかの時点で、調達基準書の体系をしっかり作って、品質や環境だけでなく、人権もジェンダーも入れ込んだものとしなければ時代に遅れますね」


他社の人と、そんなにざっくばらんに内輪話ができるのかという疑問があるかもしれない。
ビジネスでしのぎを削っている戦いの最前線では違うだろうが、まだビジネスにならない獏とした状況では担当者レベルではそんな話は普通にしている。
環境もエコプロ展が始まった2000年頃は和気藹々にやっていたが、環境性能を競うようになると手の内を見せるなんてなくなり、殺伐とした状況になった。

第一次大戦の飛行機

第一次大戦で初めて戦場の空で双方の飛行機がすれ違ったときは、互いに手を振りあったそうだ。
だがのどかな日々はすぐに過ぎ去った。

たちまちの内にピストルを撃ちレンガを投げ合い、機関銃を取り付けて撃ちあうようになった。
歴史は繰り返す。



うそ800 本日の暴露話

私の文章で「ですます調」と「である調」が混在していることや、「い抜き言葉」が多いことが気になる方いますか? 確かに文章を書くとき、文体を統一するように学校で習います。

私はプロの小説家じゃないので物語を考えると、配役をかっての同僚とか面識のあった方に割り当て、その人の口調を思い浮かべて語ってもらいます。いつも「い抜き」言葉を話していたらそのまま、「ですます調」と「である調」を混ぜて使っている人はそのままに語ってもらっています。

実際の口語では、「ですます調」と「である調」は混ぜて使っている人が大多数でしょう。また今時ら抜き、い抜きはマジョリティーではないかと思います。正調小説ではありませんし、現実を反映していると思ってくださいな。

もちろん役柄はご本人とは別です。良い人に悪役(私の物語にはめったにいない)をしてもらうこともあり、気に入らない人にかっこいい役(ナイナイ)をしてもらうとか、決して恨みを晴らそうなんてはしていません。



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注1
注2
環境省 グリーン調達のページ

注3
・ISO26000/JISZ26000「社会的責任に関する手引」




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