ISO第3世代 140.ISO認証とは3

24.01.29

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。


ISO 3Gとは

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注:ここにあげたグラフや数字は、すべて私がネットに公開されている各社の資料を調べたものです。仮定とか想像あるいは他所からの引用ではありません。文責と著作権は私にあります。
引用される場合は、出典を明記してください。


2020年9月になった。ISO審査日程を詰めなければならないのであるが、大日本認証も仕事があふれているようで声をかけてこない。まだスラッシュ電機まで順番が回ってこないのだろう。磯原も岡山も、これ幸いと黙っている。まだ未定であるが認証辞退する可能性は大だ。

岡山は磯原から引き継いだデータだけでなく、様々な方向からグリーン調達の要求事項を考えている。2020年現在、大手企業はほとんど環境報告書というタイトルをCSR報告書あるいはサステナビリティ報告書に架け替えている。そしてグリーン調達基準書もCSR調達基準書とかサステナビリティ調達基準書とタイトルを変えている。早い企業は2017年頃から改名していた。それらに比べると、スラッシュ電機は出遅れているようだ。


グリーン調達基準書の要求内容推移

凡例

:化学物質規制 :含有禁止と対象物質のリストのみで、その対応策の要求はないもの

:要求なし   :理念や方針のみの記載で、shall/shouldの記載なし

:調査のみ   :有無のみの調査で、必須も合否も記載なし

:EMS構築を要求:ISO認証、簡易EMS認証、システム構築、及び含有規制物質の非含有のための方法や基準を定めたもの、の4種を合わせた数字

注1:化学物質規制といってもEUのROHsやREACHだけではない。顧客によっては独自に製造工程で○○を使うなと要求するところもある。

注2:調査方法として、ネットで当該年に制定改定されたグリーン調達基準書/CSR調達基準書類を検索し、それらが要求している内容を調べた。
その年に有効なものでないことに注意


グリーン調達そのものの担当は資材部門であり、環境管理課の担当ではない。旧環境部は関わっていたが、
ハテナハテナ
岡山
それは調達基準書の中で環境マネジメントシステムとか含有禁止物質をどうするかという範囲だけであった。それも環境部が解体されて以降、現在の環境管理課は、一切タッチしていない。

だが岡山が自社が要求されるグリーン調達基準を調べていて、自社の調達基準書が世の中の動向から遅れていると気が付いたからには、放っておくわけにもいかない。さてどうしたものか。


*****

岡山は磯原に声をかける。

岡山 「客先からグリーン調達基準書を出されている事業部をどうしようかというところから始まったものの、気になることが多々ありまして、現在各社が出しているグリーン調達基準書ではどのような内容がメジャーなのか調べたわけですよ。

という経緯から我が社のグリーン調達基準書を精査したのですが、いささかアウトオブデイトに思えて気が気ではありません。そんな状況ですがどうしたものでしょう。放っておくべきか、知らせたほうが良いかと思いあぐねています」

磯原 「そうですね、職制間で話してもいいけど、まずは向こうの担当者に話してみてください。担当者が気付いて対応するという形なら、向こうも顔をつぶさずに済むでしょう」

岡山 「私の努力は報いられませんよ〜」

磯原 「誰にでも救いの手を差し伸べていると、やがて岡山さんがみんなに押されて偉くなるんです」

岡山 「磯原さんが言うと本当らしく聞こえますね。でもホントかなあ〜」


*****

岡山は資材に来た。グリーン調達基準の担当者を聞くと安藤さんだという。安藤さんを探して打ち合わせ場に引っ張り込む。
説明してもなかなか乗ってこない。今のままでいーじゃないという態度が見え見えだ。

安藤さん 「他社のグリーン調達はどんどん変化しているということ、ウチはそれに追いついていないということね。
正直言ってウチでは、グリーン調達基準なんてあまり重要視してないのよね。
例えば特殊な技術で、そこでしか作れない物なんてあるわけですよ。そうなるとこちらでグリーン調達基準に対応するように指導をしなければならないわけ。だからあまり高い水準にできないし、いずれにしてもグリーン調達を重要視しないことになる」

岡山 「基本的に資材部門が調達基準を決めて行うので、私は余計なことは言いません。ただ私のほうの仕事で調べていたら、そんなことが気になったものですからお知らせしたということで。
とりあえず調査したことをまとめたものがこれで、そのサマリーがこれです。お宅でご検討ください。結論がどうなろうとお宅の勝手です」

岡山が安藤に、1ページのサマリーと、60ページほどある力作を渡す。
相手が乗り気でないなら、これだけすれば良いだろう。後は知らない。

*****

岡山が帰ってきてから磯原への愚痴である。

岡山 「なんか向こうの担当者は、余計なことをしてくれるなって感じですね。手を差し伸べたら振り払われちゃたって感じですよ」

磯原 ホームラン 「気にしない、イチローが生涯打率3割というけど、言い換えると7割近くは打ってないわけよ」

岡山 「そりゃ大いに違いますよ。野球なら3割打てば十分どころかおつりが来ますが、我々サラリーマンはミスゼロでなくちゃダメですから」

磯原 「まあ、まあ」

岡山のポケットでスマホの着信音が鳴る。

岡山 「環境管理の岡山です。資材の安藤さん、先ほどはどうも。どうしました?」

少し話をして、岡山は電話を切った。
磯原に話しかける。

岡山 「風向きが変わったようです。課長に報告したら非常に重要だと言われた。説明会をしてほしいとのことです」

磯原 「手を差し伸べたらしっかり掴まれたという感じですか。よかったですね」

岡山 「まあ、無駄じゃなかったようです」

磯原 「向こうが課長出席なら、私も顔を出さないとまずいよね」


*****

三日後、岡山と磯原は指定された会議室に行く。
会議室に入ると、資材ばかりでなく他の部門の顔が何人も見える。

磯原 「山内さん、どうしてここにいるのですか?」

山内 「わしは環境担当役員のスタッフなんだ。だから守備範囲は環境全般に渡り、お前んとこだけではない。省エネなら生産技術部、広報なら広報部、環境報告書はCSR部、グリーン調達なら資材部、製品なら各事業部とわしが関わる部署は多数だ」

磯原 「なるほど、こちらさんは広報部とCSR部でしたね。なんだか大事になっちゃいましたね。
岡山さん、うちの代表としてかっこいいとこ見せてくださいよ」

岡山 「私はいつもかっこいいですよ。メンバーがそろっているようですから説明を始めます」


安藤さん 上野課長

CSR吉峰

広瀬課長 磯原 岡山 山内
安藤上野課長吉峰広瀬課長磯原岡山山内参与
資材部CSR部広報部環境管理課生産技術本部


岡山は資料を配布して、OHPをセットする。

岡山 「まず今現在、我が社の本社・支社はISO14001認証を受けています。ところが認証を維持するためには大金がかかっています。直接支出だけでも300から400万、その他皆さんが審査を受ける時間、会議などを考えると、年に1,000万以上いや数千万かかっていると思われます。

ではその効果はいかほどかといえば、カタログに『弊社はISO認証をしております』と書く程度です。唯一効果がビジブルなのは、顧客からグリーン調達基準を出されたとき『ISO14001を認証しています』と記載できることです。

そこで世の中のグリーン調達基準書でISO認証あるいは簡易EMS認証を求めているのは、いかほどあるかと調べました。実は年年歳歳、減少しています」


グリーン調達におけるEMS要求状況

岡山 「現在、我が社が客先からグリーン調達基準書を出されているのは3件ありますが、顧客に直接あたって認証の必要性を尋ねたところ、いずれも認証不要という回答でした。

私の仕事はそれで完了したのですが、その過程でグリーン調達基準書の中身が変化してきたことを知りました。その変化は図のようになります」


グリーン調達基準書の要求内容推移

注:この物語は今2020年ですが、グラフが2023年まで描かれているのはご愛嬌と思ってください。


岡山 「このグラフは2004年から16年間、その年に制定・改定されたグリーン調達基準書が何を要求していたかを調べたものです」

上野課長 「下の緑色はEMSとあるからISO認証のことですか?」

岡山 「ISO認証もEMSですが、そればかりではありません。EMSとは環境マネジメントシステムのことで、広い意味があります。簡易EMSもありますし、認証しなくても環境を管理する仕組みはどの会社にもあります。それもEMSです。
EUの化学物質規制が施行されましたが、あの規制を遵守するためには社内でしっかりした管理、つまり保管、表示、出荷管理などをしなければなりません。そういうのを決めたものもEMSに入ります」

上野課長 「と言いますと、仕組みと手順があればEMSがあると言ってよろしいのか?」

岡山 「もちろん相手がどんなEMSを望んでいるかということが第一義です。ISOを認証しろという客に化学物質管理のEMSを見せてもダメです。
ただ調べた限りではISO認証を要求することは独禁法違反ですし、今回調べた中にはISO認証を必要としている調達基準書はありませんでした」


注:実際にはグリーン調達基準書でISO認証を要求している会社はある。2023年分をチェックしたときも1件あった。会社内部で法的に問題ないことを確認しているのだろうとは思う。
なお公正取引委員会は、ISO認証を要求するのはダメとはいっていない。認証の必要性を説明できなければならないとある。当社製品はISO認証してないと品質が保てないとか理由があればOKだ。そういうことがあるのかどうかは知らないけど(笑)

岡山 「グラフを見てお分かりのようにEMS要求する割合は2004年から減少していますが、2016年から上昇に移っています」

安藤さん 「それは……EUの化学物質規制ですか?」

岡山 「そうだろうと思います。実際に2004年頃からグリーン調達で見かけたEMSに関する要求は、環境方針を決めろとか教育とかというISO規格にあることそのものを要求していました。
しかしここ数年はEMSの要求が、識別表示つまり現物が何か分かるように、異なるものが混ざらないように、トレーサビリティつまりいつ作られたものか後から分かるようにというように、変わってきています。化学物質規制対応であることは一目瞭然です」

山内 「ちょっと分からんのだが、先ほどは化学物質規制のEMSが要求されているのは一番下の薄い緑のEMS構築を要求に入るのだろう。水色の化学物質規制とはどういうことかな?」

岡山 「各社のグリーン調達基準書の内容はいろいろあるのです。『規制を受ける化学物質を含有させるな』とあって、 説明会 該当する化学物質のリストがあるだけのものは、グラフで水色の化学物質規制としています。

それだけでなく更に化学物質管理にあたっての表示方法、管理方法、点検方法、記録保管などを要求している基準書もあります。私はそれをマネジメントシステムとみなして、グラフで薄緑のEMS構築を要求に入れました」

安藤さん 「それって、分かりにくいのよね。グラフをISO類似のEMS要求とか、化学物質管理のEMS要求とかにわかりやすくしてくれれば良いのに」

岡山 「まあ、基本的に私どもは私どもの目的に合わせて調査しています。我々の要求はEMS要求があるか否かを知ることですから」

上野課長 「安藤さん、そういう言い方はありませんよ。これは環境管理課が調査した結果、資材に関わる問題がありそうだと連絡してくれたわけでしょう。資材のあなたとしては、これを参考により細かく調査して分析してほしいところです。
安藤さんは今まで、こういった切り口での調査をしていないのかい?」

安藤さん 「はぁ〜、しておりません。やはりこういう調査は岡山さんのような、専門家じゃないと分からないでしょう」

岡山 「化学物質規制だけのものは2020年頃が最大でそれ以降は減少しています。これは単なる排除を要求するだけでなくその管理方法を要求しなければならないと気付いた会社が、化学物質管理のマネジメントシステムを要求するようになり薄青色から薄緑色に区分が移ったからです」

物語は今2020年だから、このセリフはおかしい。まあ、あまり細かいことを言わさんな

上野課長 「すごいね、岡山さんの分析がすごい。我々も方法論を学ばねばならないね」

山内 「『要求なし』とか『調査のみ』というのも結構あるのだが、これは一体なんだ?」

岡山 「『要求なし』とは、弊社はこのような考えでグリーン調達を行いますと書いてあるだけです。こういうのはけっこうあるのです。特にここ数年で登場したCSR調達基準書などでは具体的な要求を明記せずに、新聞にあるような一般論を書いているだけです。語義的に言えば調達基準書ではないですね。解説書でしょうか。

『調査のみ』とは、問いが『人権に配慮してますか』とか、『強制労働をしてませんか』とあって、〇×を付けて返送するだけです。何のためか、意味があるのか、全く理解不能です。
世の中に公開しているのは上っ面で、実際に取引をするときにはより詳細な調査とかOK/NGレベルが書いてあるのかもしれません」


注:実際の2023年度のCSR調達基準書やサステナビリティ調達基準書なるものを10数件拝見した。そして私はそういう印象を持った。

ひとつには調達基準書といいながら、内容が基準ではなく理念とか方向を述べるにとどまっているのが半数ある。グリーン調達基準書においても初期から現在まで「要求事項なし」というものがある(グラフ参照)。種々の項目の文章が「すること(shall)」でなく、「求められている」という表現のものである。あるいは「強制労働を禁止しなければなりません」とあっても、それが調達基準となるわけがない。
商取引であるなら「この基準書では○○を強制労働とする」とか「この場合は契約を解除する」といった表現にしなければならないだろう。

そしてまた別の問題として、サステナビリティとかCSRの意味する範囲を包含していないという状況にある。2023年末時点、環境以外の事柄を記述していればCSRあるいはサスティナビリティと名乗っているようだ。


広瀬課長 「多分そんなことじゃないのですかね。でも調査だけって意味ないでしょう」

磯原 「現在のグリーン調達基準書だけでなく推移を見てほしいのですが……当初はISO14001認証することがすごいと思われる時代でした。だからまずはEMS認証をすることを求めたのでしょうね。
グラフの赤が『要求なし』、黄色が『調査のみ』です。それが時と共に増えてきていますね。これはなぜかというと……」

広瀬課長 「あれでしょう。EMSだけじゃダメって分かった。いや正しくはEMSじゃダメってわかったというべきか。
でも何を調査したらよいのか分からない。だから要求を明示できず、あるいはその会社で何をしているか調査しているということかな?」

岡山 「多分そうでしょうね。ところが2010年代になって黒船が現れた。EUの化学物質規制です。
今までのオママゴトとかお遊びのグリーン調達ではない、真に遵法そして販売に貢献するグリーン調達が必要になった。今までの頭で考えたイメージのグリーン調達から、意味あるグリーン調達に転換したのは当然です」

上野課長 「素晴らしい考察だ、納得しました」

広瀬課長 「上野課長、それは他部門から教えてもらうことじゃなく、資材部で考えなければならんでしょう」

CSR吉峰 「あのう、グリーン調達基準書からCSR調達基準書に移りつつあるようですが、そこら辺んのお考えをお聞きしたいですね」

岡山 「私はCSR調達基準書あるいはサステナビリティ調達基準書に改名すべきという意図はありません」

CSR吉峰 「でも大手は移りつつあると書いてありますね」

岡山 「タイトルはそのようです。ただ問題というか疑問は多々あります。
CSRとはグリーン調達よりはるかに対象範囲が広い。改名した他社はそこまで対象を広げたのかといえば、そうではありません。従来のグリーン調達に少し、せいぜい人権とか労働環境配慮、取引の公平性といったところを追加しただけです。
更にそれらについて明確に合否基準がなく、現時点要求なしの説明とか調査のみという状況です」

CSR吉峰 「なるほど、聞いただけでイメージが分かります」

岡山 「私は法律はもちろん、会社規則など作ったことがありません。ただ文書の作り方とか作法があるはずです。グリーン調達基準書ならグリーンつまり環境に関わる範囲を決めて、それを構造化して作るはずです。

サステナビリティというなら、対象とする範囲がどこからどこまでなのか、ISO26000などを参考に定義できるでしょう。そしてそれを基に文書の構成を決めて作り上げると思います。
現在の各社のサステナビリティ調達基準書とかCSR調達基準書というものは、その基本ができてなく、従来のグリーン調達基準書に先ほど述べた人権などを、ちょいちょいと付け加えただけの中途半端なものです。

言いたいのはウチは泡食って走り出すのではなく、じっくりと範囲、構造、要求事項を考えて、意味のある文書にすべきという意見です」

上野課長 「いや、素晴らしい。さすがドクターだよ」

岡山 「いやいや、残念ながら私は満期退学というやつで、ドクターじゃありません」

山内 「環境なんて叫ばれたのは1992年以降。あっという間にサステナビリティだ、地球温暖化だ、CSRだ、SDGsだとファッションの流行色のように移り変わっていく。
15年も前、環境先進企業に環境部はなく、CSR先進企業にCSR部はないと言われた。呼び名は聞いたこともない新鮮なものに変わっても、やるべきことは昔から変わらないってことじゃないのかな。
わしは何事も内部化ということなんだと思うねえ〜」

CSR吉峰 「内部化とはどういうことでしょう?」

山内 「おい岡山なんなんだ?」

岡山 「えっ!山内さんが言い出したんでしょう。なんですかねえ〜」

磯原 「内部化とはですね。環境とか経営で意味がいろいろです。
環境では昔々イギリスで蒸気機関車が走り出したとき、線路の近くの住民や農作物が煙で被害を受けたり、煙突からの火の粉で山火事になったりしたそうです。当時は法規制もなく皆困りました。
当時の蒸気機関車
著作権フリーの絵がなく、これを描
くのに1時間もかかってしまった。

最終的に損失や被害を負担するのは原因者だとなったのです。今考えると当たり前ですね。
その結果、蒸気機関車を走らせる人は、公害防止と出してしまった公害被害の救済費用を事業のコストにオンしなければならなくなったのです。
それが費用の内部化と呼ばれたのです。

経営学などではノウハウを企業内に取り込むこととか、企業内で市場近似の体制を作って競争力強化を図るとかいろいろですね。
単に外作を取り込むことも内部化でしょうし……山内さんの使った意味は、新しい思想を消化して既存の仕組みに浸透させることかと思います」

山内 「ほう、内部化にもいろいろあると……わしも知らずに使っておったわ。
それはともかく、上野課長これから先は、資材部の中で検討していただくということでよろしいかな?」

上野課長 「そうですね。岡山さんからの情報を参考に、調査します。
我々は最近のものに限定できますから、もう少し深堀りして当社はどうあるべきかを部内でもみたいと思います」

CSR吉峰 「私も感じたことがありました。環境報告書のタイトルをCSR報告書に変えたのはもう数年前になります。でも本当にCSRをカバーしているのかといえば、もちろんそうではなく、大いに反省するところです」

広瀬課長 「そうですね〜、同じ会社ですからCSR報告書とCSR調達基準書の範疇は合わせないとまずいでしょうねえ。
そういったことはCSR部が主導して調整をお願いしたいですね」

岡山 「他社のCSR調達基準書を読んでますと、この部分はグリーン調達基準書を引用とかあるんですよ。それじゃ文書構成がおかしいです。
更に言えば、過去より整備されている品質保証協定などは入っていないのです。これもCSR調達基準とするなら包含しなければならないでしょう」

上野課長 「岡山さん、質問ですが……品質についてはCSRというよりも、売買する品物そのものの要素だから、わざわざCSR調達基準書に載せなくても良いですか?」

岡山 「『社会的責任(CSR)に関する手引』というISO規格があります。その中に『消費者課題』という項目というか章があるのですが、その中に書かれていることが品質問題そのものと思うのです。

それとすべてを網羅すればCSRもサステナビリティもない単なる調達基準書になるでしょう。そのとき品質保証協定は別だしというのも構成としてしっくりきません。調達基準書でクローズするというのがあるべき姿と思います」

上野課長 「そうですか、勉強いたします」


注:ISO26000では品質という語がないから品質はCSRに入らないという論理は間違いだ。ISO26000の「社会的責任の中核主題」という章に「消費者課題」というものがあり、その中を見れば品質もCSRに含まれるのである。
 ex.「 6.7.2.1原則」の中の「安全の権利」や「知らされる権利」など
JIS訳ではissueを課題と訳しているが、核心とか要点と訳すべきだったのではないだろうか。
考えてみるまでもなく、良い品質の製品を、安く、望まれたときに供給することが、企業の社会的責任の基本であろう。

ついでに言えば、環境の章の文字数は、なんとISO14001の文字数より多い。ISO26000があれば、ISO14001はいらないじゃないか?

安藤さん 「あのう〜、変なことに気が付いたのですが、ISO認証って全然今回の話に出ませんでした。それって世の中では重要視していないってことでしょう。
それじゃ当社の調達基準書からは削除するとして、本社もグリーン調達基準書のためにISO認証しているなら、即止めてくださいよ」

山内 「認証しても効果もなく、評価もされないなら、グリーン調達で取り上げる意味はなしか……。
いやグリーン調達と関係ないなら認証する価値はなしか」

広瀬課長 「広報部として申し上げますが、もう品質も環境もISO認証は埃まみれで蜘蛛の巣が張っています。セキュリティでも労働安全でも目を引きません。広報部ではどの規格を認証しても広報発表をしないことにしています。

ニュースになるのは、ISO審査で嘘ついたとか、認証している工場が事故を起こしたとか、ネガティブなことばかりです。
なにかもっと新しいことにチャレンジしてくださいよ」

CSR吉峰 「今どきISO認証しましたって言っても、取材に来る人いませんもんねえ〜。事業継続であろうとセキュリティであろうとニュースバリューがありません。
SDGsバッチ
SDGsとCSRとISOって現実は全然関係なさそうです。SDGsは学校でも教えるし国民全部がSDGsバッチつけるありさまですが、ISOに関心ある人は見かけませんねえ〜

昨年まではCSR報告書にISO認証している事業所を小さな文字で羅列していましたが、今年から載せない予定です。いくら小さい文字といっても20センチ四方くらいになります。その面積をもっと目を引くことに使わないともったいない。
むしろ情報漏洩とか環境事故の発生の指標を作って、その成績を誇ったほうが目を引きますわ。虚像と実像といいますか」

山内 「うまい指標が作れればよいが」

磯原 「工場では無事故何日なんて毎日数字を書き直したりしてますけど、そういうものとは違いますよね」



うそ800 本日の思い出

私とグリーン調達の付き合いは長い。出会いは20世紀であった。勤め先が取引していた某大手メーカーから、そこに納めていた製品の製造時に有機塩素系溶剤を使っていないと誓約書を書いて出せというレターが来た。サインするのは最高経営責任者(CEO)のこととあった。当時訳が分からず聞くと工場長ではなくもっと上の意味らしい。

課長からサインをもらうには裏付けが必要だから調べろという。意図は分かるがそんなこと不可能だ。まず勤め先の会社で有機塩素系溶剤を使っていないかどうかは明白だ。使っていない。

でもさ、環境担当といっても、危険物管理とかISO認証とかをしていた私に、購入している部品メーカーで有機塩素系溶剤を使っているかどうかを調べろという発想はすごい……というかお門違いはなはだしいのではないだろうか?
あるいは藁にも縋る思いだったのか?

だが問いは製品に使われている機械部品、電子部品、その他諸々を作っている幾百もの会社の製造工程も含めている。そこで使っているかいないかなんて分かりません。下請けなら調べに行けるだろう。だが標準品やメーカー規格のものを調べに行くことは不可能だ。お手紙で問い合わせしても、向こうにとっては何百何千という顧客のひとりにすぎず、法で禁止されてもいないものを答える義理はない。

どうしたかって?
その旨を課長に伝えました。課長はオロオロするだけで二度と私に近寄ってこなかった。誓約書を書けと言ってきた大メーカーは何百社にも同じ文面でメールを出しただろうが、回答できる会社はないだろうと私は思った。

これをお読みになった中で「ああ、あの会社のことだな!」と感づいた方もいらっしゃるでしょう。そうです、あの会社です。今から27年前のことでした。

数か月経って聞いたうわさでは、結局その大メーカーが出した調査に返ってきた回答は、ほんのわずかで誓約書を集めるのは立ち消えになったらしい。
これがグリーン調達に出会った最初である。できもしないことをやろうとするなよと私は思った。意識高いのは個人でも企業でも迷惑なだけだ。いくら大会社といえど、多くのサプライヤーから拒否されたら、対応は難しい。


数年して移った会社の環境部にいたとき、資材部からグリーン調達基準書ってこんなもので良いかという相談があった。見るとEMSオンリーで意識高いことはわかるが、何かの役に立つとは思えない。個人的見解だけでもまずいので、他社のグリーン調達基準書をたくさんみた。まあ、それらを見ると似たような物なので、どうでも良いと思った。
その後、取引先に調達基準書の説明会をするから説明してと頼まれて、適当な話をしておしまい。


定年になり大学院に入ると、グリーン調達について研究するという同期がいた。彼女の頭の中では、グリーン調達が世界を救うと思っているようだ。よくいるんですよね、儲けを忘れてSRI(社会的責任投資)をしようとか、ISO14001が会社を救うとか、環境経営が未来を拓くとか。そんなことは絶対にないのにね。
彼女は、わけのわからない妄想を100ページも書き修士号をゲットした。ご同慶の至りである。今もどこかのNPOで環境への愛を叫んでいるのだろう。


2013年頃だと思う。各社のグリーン調達基準書を眺めていて欧州の化学物質規制そのままのものを見つけた。それはこれこれを含有してはいけないという文章だけのページの後ろに、A4で何ページものリストが付いているだけだ。化学物質管理の方針を作れも、管理手順を作れもない。簡単明瞭で、それまで見てきたあまたのグリーン調達基準書とは大いに異なっていた。

それを見て、私はこれこそ意味のある必要十分のグリーン調達基準書だろうと思った。私が某大手メーカーから有機塩素系溶剤を使っていない宣誓書を出せと言われた時から15年が経っていた。その間にMSDSはSDSに進化した。情報が得られる環境が整備されれば企業がそれを行うことは容易い。良い時代になったというか、時代は進歩しているのだ。
とはいえ部品メーカーで製造工程で使っている切削液、脱脂液、潤滑剤などがSDSで分かるわけではない。そこんところはどうなんだろう?


注:実は私が調査した方法には 重大なミス があるのだ。
私は調査の目的から「グリーン+調達」でググっていた。そしてヒットしたのをカウントしている。
だがEUの化学物質規制をグリーン調達の範疇ではなく、法規制だと認識している企業では、EUが忌避する物質を含有してはいけないという同じ要求を調達先に出す際に「グリーン調達基準」と名づけなかっただろうと気が付いた。
同じ文面であってもグリーン調達という文言の入っていない文書は、私のグリーン調達の集計から漏れただろう。
多くの企業は調達基準を2年ないし3年で更新しているから、今からでは過去の状況を調査できない。
検索ワードがまずくかなり漏れたであろうとは思うが、大きな流れは分かるだろうということにしておきたい。

企業の認識発信物タイトル結果
グリーン調達と考えて
いる場合

「グリーン調達」
私の調査に入っている。
グリーン調達と考えて
いない場合

「EUの化学物質規制対
 応のお願い」
グリーン調達のキーワードがない
から、調査から漏れた可能性大

欧州の化学物質規制は、大変だったが、結果としては大きな前進だったと思う。とはいえ冷静な議論で進んだというより、集団ヒステリーだったような気がする。
イギリスはいまだに水道管は鉛管がメインで、家庭の蛇口から出る水は鉛の濃度が許容限度を超えているとか。鉛はんだを心配するよりそっちを何とかするのが先だろう。

注:イギリスはEUを離脱したが、GB REACH規則という若干修正したものが運用されている。

ROHsは一部の人が自分のお金儲けにEUのトップを焚きつけたら、走り始めて止まらなかったとしか思えない。施行が難しくなれば揺れ戻しが来るかもしれない。
まあ、電気自動車だあ〜っと叫んで走り出し、しばらくしてガソリン車を振り向いたような人たちだ。

「イギリス人は歩きながら考える.フランス人は考えた後で走り出す.スペイン人は走った後で考える」というジョークがある。EUはどうなのだろう?

パターンまずはそれから最後は備考
走ってから
考える
走る矢印

考える
考えなしに突っ走る、お前は一心太助か、フリッツ・ヨーゼフか
9割方うまくいかないことが保証される
歩きながら
考える

歩く
矢印

歩く
クローズドループ制御そのもの。
サンプリング周期を短くして、処理を素早く、アクチュエータの追従性も上がれば、歩きながらでなく全力疾走でもバッチリ
考えてから
走る

考える
矢印走る オープンループ制御ですね。
外乱とかシステムの変動がなければよろしいですが



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