ISO第3世代 144.存在意義4

24.02.12

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。


ISO 3Gとは

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2021年1月半ばである。
新聞やテレビの報道では、コロナの第3波が来て毎日1,000人近くの感染者が出ており大騒ぎである。後知恵でいえばこのときそんなに驚くほどではなかった。なんとなれば8月頃は第5波で日々3000人、1年後の翌年1月からの第4波では日々1万人も感染者が出るのだ。パンデミックの恐ろしさは経験してみないと分からない。

コロナウイルス
注:コロナ流行の波は下記のようにされている(注1)
第1波2020(令和2年)03/20〜2020/05/15
第2波2020(令和2年)06/21〜2020/09/08
第3波2020(令和2年)12/01〜2021/02/2
第4波2021(令和3年)3月〜6月
(多くの場合第3波か第5波に含めて独立させてないようだ)
第5波2021(令和3年)07/01〜2021/09/30
第6波2022(令和4年)01/01〜2022/03/31
第7波2022(令和4年)07/01〜2022/09/30
第8波2022(令和4年)10/12〜2023/02/28

コロナ流行により、出勤している者も集まって会議とかを避けるように、退社時の飲食を避けるようにと人事や総務から通知が出ている。驚くことに社内にもコロナ警察が湧き出ている。まあ元々とんがっていたような人たちである。


注:コロナ警察とは、コロナ対策としてマスクを着用しない人に対し、過剰に注意をしたり攻撃的な行為をする人々のこと


総務から集まって打ち合わせするのでなく、チャットで行うよう指示が出ている。最初はビデオ会議をという通知があったが、すぐにマイクに向かって話しても唾が飛ぶという指摘があり、チャットを使えとなったのである。
唾は電波で伝わらないだろうが、近隣の人に飛ぶだろうという。何を信用したらよいのか、どこまですれば良いのか分からず、皆が右往左往状態である。

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チャットではタイピングが遅い人は発言権がないと書き込んだ者もいたが、それさえも叩いているうちにチャットが進み誰にも相手にされずに終わった。新たな悲劇、差別の始まりである。

磯原は自分でも古い人間と思っているが、重要な話はメールだと考えており日中チャットアプリを立ち上げていない。そもそも常に話しかけられたら仕事にならないだろう。
そんな磯原を無視して環境管理課のメンバーは常時静かなおしゃべりをしている。唯一坂本はタイプ入力が不得手なので聞き手に徹しているが。


岡山山内さんから聞いた話ですが、磯原さんは山内さんに環境管理課の業務とか組織について、現状で問題ないといったそうですね。それはちょっとまずいんじゃないですか?


柳田 私も磯原さんに業務の分担がおかしいといったのだけど、そんなことないって言われちゃったのよ


岡山ほうほう、詳しく


柳田 官公庁だって当社の他の部門でも、関連している業務だけを担当しているわけじゃないって言うのよ


岡山ええと……?


柳田 総務部の株式課と文書管理課は関係ないだろうって例を挙げた


田中 そういえば数年前まで株式課は経営企画か何かに属していたと思う。だけど経営企画部の改革でそこの部署が分散して、株式課というのは経営レベルと関係ないということで総務に行ったと思う。

総務って守備範囲が限定されておらず他の部門がしないこととなっているから、所属がない仕事は何でも引き取るんだろうなあ

柳田 まあそういわれると、環境管理課の公害防止と廃棄物も、おかしくないのかと思ってしまったわ


石川 あのう〜、勤務中ですから雑談はどうかと思います。まじめに仕事をしましょうよ。磯原さんが見てるかもしれませんよ


岡山 画面に磯原さんの顔が表示されてないから、チャットに参加していないよ


石川 そういうことじゃないくて、履歴はあとからでも読めるでしょう


柳田 私たちの話を聞いても気にしないでしょう。こちらも気にしないわ


石川 そうじゃなくて、柳田さんが業務中におしゃべりしている記録が残るということです


柳田 おしゃべりだけどさ、遊びじゃなくてお仕事じゃない


石川 もういいです


石川さんが退席しました。


岡山 石川君は真面目ですね。お暇な人、お相手ください。
本社・支社はISO14001認証を止めちゃいましたけど、工場や関連会社の扱いについて意見あれば教えてください


坂本 わしは打つのが遅いから鬼がいないうちに打っておく。
当面はともかくあと5年後にはISO認証は全く無意味になるんじゃないかな?


田中 無意味といえば発祥のときから無意味だと思っているよ、私は


坂本 ちっ、もう鬼が表れてしまったわい。わしが1行打つ間に皆さんは何百字も打ってしまうので言いたいことが言えない。少しまとめてから貼り付けます。


田中 待ってます。


柳田 私はISO14001認証と庶務担当として関わってきたことを書きます。
ISOが現れる前から仕事ではなくても環境を大事にとか自然保護なんて言葉は聞いていたけど、会社がISO14001を認証することになって私に回ってきた仕事は、名刺の古紙配合比と枚数を調べることでした。

古紙配合比が20%でも30%でもどうでもいいと思いますが、何か影響があるのでしょうかね。ともかくそれから毎年々々、配合比と購入枚数を調べました。
そのデータを何かに使ったかというと何もありません。
そもそも配合比が多いほうが良いのか悪いのか、何パーセントにしたら良いのかも分かりません。ただ配合比と枚数を調べて終わりです。

当時のISO事務局の人に、何のためなのかと問いましたが、分からないというのです。ただISO審査員から使用している紙類の古紙配合比を調べろと言われたからしているといいます。調べないとだめなのかと聞けば、心証を悪くしたくないとのことでした。

私は部門の庶務だから自分が購入しているのは名刺程度でしたが、総務ではトイレットペーパーの配合比を調べたり、
🧻
情報システムではPPCやラインプリンタの用紙を調べたりしてました。
数年やって、ばかばかしくなりそれ以降は、各部門の庶務担当が申し合わせて、過去の数字を元に適当にばらつかせて書いてました。だって調べてもそのデータを使わないなら意味ないですね。
調べるだけでも何日もかかるのよ。人件費を考えたら馬鹿にならないわ。

審査員という人も、数字を把握していれば文句を言いませんでした。いや配合比ごとの枚数を調べていると見せるとたいそう感心していました。捏造数字を見て、アハハハハ。
バカバカしい。ISO審査ってくだらない


岡山 それって今でもしているのですか?


柳田 何年もしていましたが4年前ですか、環境部でISO担当をしていた人が転勤になりました。後任者がおらず、転勤してきた磯原さんが審査の少し前にISO担当になったのです。
彼はまったくISOなんて無縁だったのですが、一生懸命勉強したようです。そしてISO審査を受ける考え方を全く変えてしまいました。ISOのためにする仕事を全廃してしまったのです。

会社も従業員も過去から環境に配慮して仕事をしてきたはずだ。だからその状態を見てもらってISO規格要求と比較する審査をしてくれとスタンスを変えたのです。
そしてこちらは一切○○をしていますという説明をしないことにしたのです。聞かれたことだけ答えることになりました。審査員は現実を見て規格を満たしているかどうかを判定しろと言ったわけ。

まずそういう審査ができるのかどうかを認証機関に問い合わせ、できないなら認証機関を替えるといったのよ。 ゼムクリップ そしたら認証機関が問題なくできると答えたわけです。
その結果、名刺の古紙配合比とかゼムクリップの使用数など聞かれなくなりました。というか以前はこちらからデータをとっていると説明してたのです。今は説明しなくなっただけですね


田中 ほう、磯原さんはそういうことをしてきたのか。彼が本社に来た頃からだいぶ動きが良くなったと感じていたがただ者ではなかったわけだ。
工場でもPPCの使用枚数と古紙配合比は把握しろと言われて毎年調査していたね


岡山 再生紙の善悪もいろいろ変わりましたね。最初は製紙会社も再生紙は環境に良いといっていましたが、実は宣伝していたほど古紙配合比を多くすると品質がダメだとか、再生紙のほうがエネルギーを使うので環境に悪いとか言い出したり、配合比を偽ったりと大騒ぎになりましたね(注2)
ところでPPCの枚数や古紙配合比を把握して、どんなアクションを取っていたのですか?


田中 うーん、私の知る限りなにもしていなかったな。アハハハ
今は知らないが2000年頃は、行政機関によっては再生紙でないと届け出などを受け付けないというところもあった(注3)とはいえそれも意味のないスタンドプレーだったね。
最後はマスコミも消費者団体も製紙会社を批判しておしまいだ。企業を悪者にすれば環境を守れるわけでもない。悪事を働いたのではなく、周りの圧力で嘘をつくしかなかったということだろう。
そもそも環境を守るってどういうことかも定かでない。ISO審査で審査員が公害を知らず、どういう方法が環境負荷がどうなるのかも知らず、思い込みで審査をしているだけって気がしたね


岡山 そういう話はよく聞かされました。田中さんも腹立たしいっていうことあったのでしょうね?


田中 あった、あった。ありすぎて思い出すと今でもはらわたが煮えくり返る。
まずは環境側面の決定方法だね。点数方法なんて腹立たしいことこの上ない。


岡山 私は点数方式というのは本で読んだだけですが、どういう問題があったのですか?

ロープ

田中 どういう問題というか、非論理的で問題だらけとしか言いようがない。発案者を絞首刑にしたい


岡山 過激ですね。


田中 過激じゃないよ、私は穏健なほうだぜ。
あんなバカバカしい方法を提案したのはまだ許せる。だが、あんなバカバカしい方法でないと合格させなかった審査員が存在したということは 犯罪 としか言いようがない


柳田 田中さん落ち着きましょうよ

岡山 なんだか私が火をつけてしまったようですね


田中 心配するな、私はキュウリのように冷静だ。
2008年頃だったかな、私が本当に体験したことだ。PCBは有害だということで、ほぼ30数年間もの間、使用禁止でしかも廃棄禁止でPCBを含む機器を保管していたんだ。現実にはその間に紛失したり廃棄されたりしたものは多かったと思うよ。

ともかく2004年頃から長年の研究結果から無害化処理が始まった。それで2008年頃、私のところにあったトランス4台のうち2台を処理することができた。
トランス ところでPCBは有害だから、当然捨てることも触ることもできず、毎年漏洩の点検をして、その結果を行政に報告をしなければならないものだった。今でもだけど(注4)

著しい環境側面の決定方法は、点数方式でないとだめだと審査員が語っていた。だから私は保管数量に関わらず1個でもあれば著しい環境側面としていた。だって1個でもあれば有害で捨てることも触ることもできず、毎年漏洩の点検をして行政報告をしなければならないのだから当然だ。

ところが審査に来た審査員はバカだった。4個が2個に減ったなら計算で点数が半分になるのだから、著しい環境側面からはずさなければならないと言ったのだ。
私は脱力して相手をする気がなくなったね。

保管しているPCBトランスが減って著しい環境側面から外れれば、毎年の点検をせず報告をせず、それどころか廃棄できるのか?
法律に反することを推奨するのがISO審査なのか


岡山 田中さんは紳士ですから過激なことはしなかったのでしょうね


田中 私は『帰れ』っていっただけだ。怒鳴りつけないだけ私は紳士だったわけだ


岡山 十分過激だ。いやご立派です。
非常に興味があるのですが、それでどうなりました?


田中 審査員団というのかな、連中が鳩首会談をしてリーダーという審査員がとりあえずPCB機器を著しい環境側面から外さなくても適合にするという。
問題がなかったことにするというのでこちらは黙っていた。


田中
職業倫理に反するぞ!
だがそれって『許してやる』ということだろう。本来なら『審査員が間違ってました。問題ありません』というべきだろう。

それからの審査では向こうも余計なことを言わず、クロージングでは不適合はないと言ってさっさと帰ったよ。

翌年以降の審査ではPCBについて一言も言わなくなった。余計なことを言って怒らすなと引き継いだんだろう。
アホらしいとは思わないか?
本来なら認証機関が是正処置をとって、それを企業側に説明すべきじゃないのだろうか?


岡山 私も詳しくないのですが、要するに点数方式では著しい環境側面を決めるのは理屈が合わないということですね


田中 そう理解してくれてよい。その結果、私はじめ環境課の連中はISO審査には価値がないと決めつけたということだ


岡山 田中さんは著しい環境側面の該否を、どういう風に判断すればよいと思うのですか?


田中 簡単だよ。PCBは有毒で法律で管理することが義務だから著しい環境側面であるというだけだ。足し算も掛け算もすることはない。環境の仕事をしている者なら何分もかからない


柳田 質問があります。それはISO規格が問題なのか、解釈が問題なのか、審査が問題なのか、何が悪いのですか?


田中 同感だ。再生紙の割合などISO規格に書いてない。となると解釈か運用の段階の問題だ。だが規格が誤解されるような記述ではないかという懸念もある


柳田 そうです、そうです。その……著しい環境側面というのですか、それを決める方法は規格に書いてないようですが、そう読めるなら規格の問題ですよね


岡山 私はISOの駆け出しですが、規格は暗記するほど読みましたよ。書いてあることが曖昧模糊なんですよ。
そもそもISOMS規格、つまりマネジメントシステム規格のはしりはISO9001ですが、その目的は品質保証という買い手が売り手に求めることにおいて、要求事項が買い手によってバラバラだから商取引で支障がある。だから統一しようという発想だったと読みました。
一人の売り手は多数の買い手に売りますから、買い手によって要求が異なると面倒です。だから同じ要求にしようという発想ですね。まさに標準化です


柳田 聞けばもっともで良いことに聞こえますが


岡山 でも買い手によって求めるものは違うのは当然です。信頼性を必要とするなら検査員の資格を求めるし、検査も厳しくしてほしい。信頼性がどうでもよければうるさいことは言わないし、そもそも品質保証要求なんてしません。

ともあれ結果として『品質保証モデルの国際規格(ISO9001初版のタイトル)』は細かいことを書かずに項目と仕組みだけ決めたんです。その結果、運用するために必要な詳細は規格制定前と同じく買い手と売り手の交渉で決めることになった(注5)


柳田 標準化しようとして国際規格を作ったけれど具体的でないから、そのままでは使えないということね。
それも問題でしょうけど、双方が協議して決めるなら齟齬は起きないわね


岡山 しかしそうはいかなかった


柳田 それでもダメだったわけ?


岡山 そういうわけではないんです。
ISO9001認証は商取引の品質保証協定のためよりも、己の会社を良くするものだと思われた、そしてそのための認証が流行したからです


柳田 ええと、ISO9001は曖昧模糊だといいましたよね、そして具体的なところは商取引の際に売り手と買い手で詰めると言いましたよね。
自分のための使うとなると、細かい具体的なところはどうするのですか?


田中 さすが柳田さん、よくぞ見切ったなんてね。
そうなんだよ。自分を良くするために使うといえば聞こえはよいが、基準がない。自分が基準ならどうして良くなるのかね


岡山 ISO9001が流行した後に、すぐにISO14001が登場したんだけど、こちらは更に輪をかけてわけわからんものになった。規格の序文に『同様な活動をしていても異なるパフォーマンスを示すこともあり、それであってもそれぞれが要求事項を満たしている場合もある(注6)と記述しているくらいだ。


柳田 ええと、それって標準化とは正反対ではないですか? つまり標準化されていない?
どうでも良いってことじゃないですかwww


磯原さんがチャットルームに参加しました。

磯原 おおーい、建設的な雑談は結構だけど、いったん終わりにして仕事をしなさい。
その前に少し運動したほうが良い。ここは13階だから1階まで階段で往復してきなさい。

岡山 はい、行って参ります

柳田 私は女性だからエレベーターで1階のコンビニに行ってまいります

田中 私は高齢者なので

岡山 田中さん、退職したら山登りするんでしょう。一緒に行きましょう

磯原 そこまで口を動かしたくないのかね?
話したほうが早いと思うけど



うそ800 本日の公開質問状

ISO規格が悪いのか、ISO規格の読み方(解釈)が悪いのか、審査員の力量が足らないのか、あるいはそれ以外の問題があったのか、私は知らない。
だが何かが悪くなければ審査で多くのトラブルを出し、企業に違反が見つかると騙されたとか裏切られたということはなかったはずだ。

ISO規格が悪かったなら、どこがどう悪かったのだろうか? 規格改定の際にはアンケートをとるはずだが、悪いならそのとき審査員も、企業側も意見を出さなかったのか?
ISO規格の読み方(解釈)が悪かったなら、教えた審査員研修機関が悪かったのか、認証機関を承認した審査員登録機関が悪かったのか?
私は悪を許すことができない 審査員の力量が足らなかったなら、修了試験が甘かったのか、それを見逃して登録した審査員登録機関が悪かったのか?

それが判明しない限り、私はISO認証の問題を問うことを止めないことを誓う。
ISO認証制度の人たちは私に回答を示してほしい。



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注1
注2
注3
2000年代、官公庁は、グリーン購入法で使用・購入する紙は再生紙100%でなければならないとしていた。
とはいえ業者が提出する資料が再生紙でなければならないという法規制はなかったはずだ。忖度、そんたく、ソンタク……
そういえば、環境省に行くときは上着、ネクタイをしてはいけないというのは、何の規則に決まっていたのだろう?

注4
PCB処理は2004年から開始され、現在も継続中で、2027年処理完了予定である。

注5
1987年版を読めばわかる。「修整(tailoring)」という語がくどいほど出てくる。要するに買い手と売り手で決めなさいということだ。それをしなければ規格文言だけでは用をなさないのだ。
現在は……もちろんない!

注6
この文章は1996年版の文言を抜粋したものだが、同様の文言は2015年版においても序文にある。これは規格適合でも問題があると言われることへの予防処置ではないかと思われる(笑)




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