*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
2021年3月になった。
日本は政府も自治体も学校も、1月からでなく4月から始まる年度で動いている。政府の会計年度は財政法第11条で、地方公共団体(都道府県や市町村)の会計年度は地方自治法第208条で4月から3月と決められている。
学校の新学期が4月からなのは法律でなく、その孫の施行規則(学校教育法施行規則 第59条)で定めている。法律は国会(立法)が決め、施行規則は大臣(行政)が決めるから、学校が始まる時期は、国家予算ほど重要ではないのだろう
そんなことを覚えても役に立たないけど、知っておくと何かのとき
年度はひとつではなく始りも呼び方もいろいろだ。
日本では2024年4月始まる年度を2024年度(令和6年度)と始まりの年で呼ぶが、アメリカの会計年度(Fiscal Year)は、2024年10月から始まる年度を2025FYと終わりの年で呼ぶ。
季節商品では商品名に年度をつけて、開発・販売を計画したり統計を取ることもある。例えば進学や入社で必要となる品物の統計を4月の年度で統計を取っても分析できないから1月初めで統計を取ればよく、冬の商品を1月から統計をとればワンシーズンが2年度に分かれてしまうから4月年度で統計を取るのは妥当だろう。
そういうものは多々あり、自販機にお汁粉が置かれる10月から3月をお汁粉年度と言う。昔はエアコンが売れる時期から冷凍年度(10〜9月)というのがあったが、エアコンが通年商品となって2003年に廃止された。
企業の会計年度は法律で決められていないから、1月でもその他の月からスタートしても良い。実際には政府の会計年度に合わせて、4月始まり3月決算が多い。そして決算だけでなく組織変更や人事異動も、また種々の計画も4月開始が多い。子供の転校や引越しの関係だろう。賃貸住宅の契約数は2月3月が他の月より6割も多い。少ない月は希望する出物も少ない。
もちろん世の中の動きは激しいから4月だけではなく、必要に応じて組織改正や人事異動が発生するのは当然だ。
環境管理課でも3月になると予定されていた人事異動があった。田中の退職(嘱託契約終了)、増子の静岡転勤(御赦免)、坂本が定年になり嘱託に、そして岡山工場の
もちろん内示だけで、退職は3月末付けで異動は4月1日付けである。環境管理課で人事異動があるのは2年半ぶりだ。柳田はまとめて歓送迎会を3月末に開催した。
2021年2月から4月頭までは、なぜかコロナ感染者数は極めて少なく、これでコロナ流行は終わったかと勘違いしたほどであった。
だから送別会、歓迎会をしても後ろ指さされることがない時期であった。
実際のところ余部は既に本社で前任者(田中)から仕事の引継ぎをしているところで、増子はリモートワークを止めて出勤しており、3月末は対象者全員が本社で働いているわけだ。
田中 | 余部 | 増子 | ||||||||||||
山内 |
| 岡山 | ||||||||||||
柳田 | 磯原 | |||||||||||||
坂本 | 石川 |
会場は神田駅から数百メートル西にある、流行ってなさそうな居酒屋である。柳田の感性はちょっと分からない。
乾杯をして着任者・離任者の挨拶の後は、式次第も花束贈呈もなく、好き勝手に話をして飲むだけだ。
最初は引退後の夢とかいつから海外旅行に行けるかとか、真面目なほうでは来年度の目標とかが話題だったが、すぐに最近の仕事のことになり、ISO14001認証返上の関連のことになる。
「岡山君はISO担当と聞きました。本社・支社が認証返上しましたが、工場や関連会社については、今後どのように指導していくのですか?」
「工場や関連会社は、それぞれ固有の事情があると思うんですよ。ですからご自由にということです」
「そんな無責任なことを言われても工場は困りますよ。方向を示してくれないと」
「工場が認証する始まりというきっかけは、1997年に当時の環境担当役員が工場に対してISO14001を認証するようにという指示をしたからです。関連会社には2000年に同様の要請をしています。それ以降、その工場に必要性があろうとなかろうと、認証しなさいというのが本社の指導であったわけです。
あれから23年が経過して、認証しろという指示を取り消したということです。無責任ということではありません」
「でも世の中では認証するのがデフォという見方もあるでしょう? 日本は横並びの国だから、ウチだけが認証を止めたらビジネスでマイナス評価にならないの?」
「現実には年々認証を止める会社が増えているわけで、もう認証するのがデフォという状況ではありません」
「個々のビジネスにおいてはいろいろあるかもしれません。ただ表立って認証しないとダメとは言われないでしょうね。なにしろ法的に認証を要求することは違法ですから。もちろん認証を要求する理由があるなら別ですが。
だから単に認証を止めますというのでなく、弊社はこういう方法で遵法と汚染の予防に努めていると広報すればよいと思います。おっと、ISOの自己宣言するつもりはありませんよ」
「ええと遵法と汚染の予防とはどういうことだね?」
「企業の環境責任とは突き詰めると遵法と汚染の予防と言えます。そしてまたISO14001の意図は遵法と汚染の予防とされています」
「遵法とは法を守ることでしょうけど、汚染の予防とは事故を起こさないことですか?」
「『汚染の予防』とは文字通りの意味でなく、ISO規格では環境負荷を下げることであり、環境事故だけでなく廃棄物の削減、省エネ、資源の効率的使用、リサイクルなどを含むと定義されています(ISO14001:2015 3.2.7)」
「私は公害防止担当と言われましたが、遵法と汚染の予防としてどんなことをするのですか?」
「現在は1960年代や1970年代とは違います。当時は発生している公害を減らそう、そのためにどうしようかという時代でした。
現在は騒音や振動問題は建設工事とか市民生活での発生がほとんどとなり、工場から公害は出ないのがデフォになりました
余部さんの立場では、環境施設の保守管理をしっかりする、万が一故障などが起きたときは適切に対応すること、いや自分がするのではなく、そうするように工場や関連会社を指導をすることになります」
「鉄鋼とか化学工業では、排水や大気の測定データの改ざんが時々報道されますが」
「そりゃ遵法そのものでしょう。測定データを書き換えるのは法違反です
「幸い社内では難しい排水処理なんてないよ。せいぜい生物処理の汚泥くらいだね。排水データの改ざんなどするほど、許容範囲すれすれのものはないよ」
「大気ならボイラーの煙突くらいですか」
「今は動力も暖房もボイラーから電気への転換が進んでいるし、ボイラーも小型化して公害防止管理者も不要なところが多くなっている。考えられるのは乾燥炉くらいかね」
「ISO認証する・しないに関わらず、遵法と汚染の予防に努めることは変わりないということか。ということでISO認証は無用であると」
「正確に言えば公害防止だけが環境問題ではありません。公害防止組織法は典型7公害を出さないように組織体制を作れというものです。1970年頃の公害列島ではそれが最優先だったでしょうが、1993年公害対策から環境基本法に衣替えして、公害だけでなく廃棄物や省エネ、また工場だけでなくオフィスや市民生活においても環境配慮を望むようになりました。
その結果、環境に関わる仕事は設計も営業も購買その他すべてとなり、製造現場だけを対象にした公害防止組織法だけでは守備範囲をカバーしきれなくなった。その点ISO14001は全部門が対象としています。とはいえ私ども環境管理課の守備範囲は、公害防止と廃棄物です」
「私がISO担当で本社支社の認証の窓口、工場や関連会社の認証の指導とかトラブルの相談を受けていますが、本当を言えば公害防止と廃棄物以外は環境管理課マターでないのですよ。筋が違うし困っています」
「おいおいISO担当の仕事は、環境管理課の業務範囲だけではないよ。ISO担当者が環境管理課に所属していても、職掌では『当社及び関連会社のISO14001認証に関わる事項の指導監督』となっている」
「おお、磯原もだんだん課長の風格が出てきたんじゃないか」
「地位は人を作るですか……ハハハハ。代行はいつまで経っても代行ですよ。
私の場合は山内さんの叱咤激励でしごかれてますよ」
「ええとISO認証が法規制とか社会の要請でないとなると……わざわざ高い金を払って審査してもらう意味はなさそうですな」
「義務でなくても効用があれば認証することもあるでしょうけど」
「ISO認証の効用ってなんですか?」
「なんなんだろうねえ?」
「磯原大先生、なんなのですか?」
「オイオイ、ISOの第一人者である岡山さんがご存じでないのは困りますよ。
私が山内さんからしごかれるように、岡山さんを鍛えるのが私の役目」
「そりゃ、とばっちりというもの。
私はISO担当ではありますが、第一人者どころか駆け出しです」
「金をもらえばプロ、駆け出しでもプロと言います。頼りにしてますよ。
ISO認証の効果とはIAFが2009年7月に出した共同コミュニケと呼ばれる『認定されたISO14001認証に対して期待される効果』に書いてあることです」
ISO14001への認定された認証に対して期待される成果
定められた認証範囲について、認証を受けた環境マネジメントシステムがある組織は、環境との相互作用を管理しており、以下の事項に対するコミットメントを実証している。
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「なるほど、汚染の予防と遵法のコミットメントを実証していることを証することね」
「いやそうは言ってない」
「ええと……文章を読むと『○○すること』を『実証している』と読めるが……」
「『○○すること』を『実証している』ことが『期待される』ということですよ。保証しているわけじゃない
本文が「実証していること」でタイトルが「期待される」となっていて誤解しやすいのです。ともかく主文の動詞がExpectedでして、その意味は可能性が高いとか、信じている、予想されるです。保証するとか間違いないというニュアンスはなさそうです。
そもそもISO14001では序文で『この規格の採用そのものが、最適な環境上の成果を保証するわけではない(ISO14001:2015 序文)』とあり、また認証の規格であるISO17021では『いかなる審査も、組織のマネジメントシステムからのサンプリングに基づいているため、要求事項に100%適合していることを保証するものではない(ISO17021-1:2015 4.4.2 注記)』とある。
それらを考えあわせれば、認証が何かを保証するなんてありえません」
「ということは……ISO認証とはいったいなんなのよ?」
「なんなんでしょうかね、
「無意味なものにお金を払うの?
というか、なんでそういうものに多くの企業がお金を払っているわけ?」
「そこんところは第一人者である岡山さんから説明してほしいですね」
「磯原さん、またまたそんな……とはいえお金をもらっているプロですから頑張ります。
うーん、私の想像ですがバブルだと思いますね」
「バブルって株が急に値下がりすることか?」
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「チューリップだって!バブルって株価と関係ないの?」
「バブルとは風船が大きく膨らんでいる状態でして、膨らんでいるだけだとバレて風船が破裂するのがバブル崩壊です。
1990年代の株価急落もバブル崩壊ですし、昔学校で習った1929年アメリカの大恐慌も株式バブルの崩壊です。
2008年のリーマンショックは、リスクの高い債権(サブプライムローン)を価値あるものとして売ったものの、それがジャンク債とばれて急落したのもバブル崩壊です。
韓国では不動産不敗神話と信じられていましたが、今年はその土地バブルが弾けるでしょう。日本の不動産バブル崩壊は1990年だったから、韓国は30年遅れで後をついているようです。
株式に限らず、そういったことはたびたび起きたわけです」
「岡山教授、ISO認証はバブルであるということを説明してもらえますかね」
「教授か、いい響きだなあ〜
そもそもISO規格は第三者認証ともお金儲けとも関係ありませんでした。ISOという組織は機械部品や公差などの国際標準化を図っていましたが、現在は国際電気標準会議(IEC)と連携しています。電気と機械を分けることができなくなったこともありますね。
ええとネジとか寸法公差などの標準化(統一)は重要です。しかし取引するものが複雑になると、それだけでは商取引では不十分になってきました。製造の際の管理とか保管や運搬での配慮も必要です。それで商取引に当たって顧客が製造者にどんな管理をするかを要求するようになってきました。
第二次大戦で爆弾などの信頼性向上のために行った品質保証という手法が、一般化したわけです。
それは当初、買い手と売り手の取引の際に契約(品質保証協定など)されました。そして部品を検査するように、契約したことが実行されているかを、製造工程を点検することになります。売り手が約束通り物を作っているかを確認することを、二者品質監査といいます。
それは簡単じゃありません。例えば船を作るには長期間かかりますし、
その製造時にどんな人がどんな方法で作っているかを見てないと、完成してからでは調べようがない。そして保険会社は製造時の検査をしっかり行っていないと保険を引き受けません。
それを船級検査といい、船会社が行うのは大変なので検査を代行する商売が発生した」
注:老舗認証機関の多くは船級検査の会社が多い。ビューローベリタス社、ロイドレジスター社など
「すみません、それがISO14001とどう関係するのですか?」
「しばしお待ちください。
ISO9001は品質保証要求の標準化を目的に作られた。決して第三者認証のためのものではなかった。
しかしすぐに買い手と売り手の品質保証契約がなくても、売り手の製造状況をISO9001を基にチェックしますという新たな商売が考えられた。認証ビジネスの始まりです」
「買い手が監査をする代行であれば、約束を守っているか否かを点検するのは分かるし、それに意味があるのも分かる。
だけど品質保証契約をしていないのに、買い手と無関係な第三者が点検することにどういう意味があるんだい?」
「本当にそれは大きな謎ですね。そればかりでなく謎はいくつもあります。
先ほど磯原さんが言ったように、規格通りしていることを保証するのが本来の目的でしょう。でも抜取りだから100%は保証できない。
抜取検査とは統計に基づいて設計されます。ロットの不良が何個以下なら合格する割合が何%、不良とされる割合が何%にすると売り手と買い手が同意して、抜取検査が決まるわけです。
抜取検査は統計的手法ですから、不良品の混入をゼロにはできません。ですから契約時にミスする確率、つまり消費者危険と生産者危険について双方が同意しなければ採用できません。
ところがISO審査では、消費者危険とか生産者危険など決めていない。それを決めていないとは抜取検査に携わっている人なら笑ってしまいます」
★ ISO9001では「データを分析する方法には、統計的手法が含まれ得る(ISO9001:2015 9.1.3)」とある。悪い冗談かしら?
注1:消費者危険とは不合格になるべきものが合格になることで、生産者危険とは合格になるべきものが不合格になること。抜取検査では理屈から消費者危険も生産者危険もゼロにはできない。だから契約で何パーセントの危険率にするかを決めておく。
だが、ISO審査で消費者危険(受査側危険)も生産者危険(審査側危険)も決めない。それって統計的以前だよね
注2:抜取検査には統計的抜取検査でないものもある。
ラインで正常かどうか1個取って調べるのも抜取検査である。だが理論的根拠のない抜取検査では、理論的展開ができないから統計的手法に変わったのである。
統計的抜取検査はアメリカで1920年代頃考えられた。当初は国勢調査などに用いられたが、工業に展開されたのは第二次世界大戦頃から。とはいえ日本ではまだチェック検査レベルだったから相当進んでいたことになる。
日本では戦後、デミング賞のデミングが来て指導したことから始まった。
第二次世界大戦の勝敗は良く論じられるが、機械工業だけとらえても、日本とアメリカの格差は極めて大きく、戦う前から話にならない。ノギス、マイクロメーター、ゲージブロック、校正方法、検査方法、統計的方法、考えると絶望だ。
そういう格差を知りながら戦争に入ったのは蛮勇とか無知ではなく、そうでない選択肢がなかったという悲劇なのだろう。
太平洋戦争当時、漫画家わちさんぺい(1926 - 1999)は陸軍の飛行実験部の整備兵だった。
彼の書いた「空のよもやま物語
「それとISO9001を基に審査しても、審査の基準である要求事項がそもそも買い手が望むものと違うわけだから、審査結果が買い手の参考にならない。
そしてまた購入した後に不具合が発覚したときに審査した人に責任を負わせることはできない。つまり審査は無意味だ」
注:ISO9001の1987年版からだが「トレーサビリティが要求事項になっている場合には……」という項番がある。それはまっとうなことではあるが、果たしてそれだけで良いのかという疑問を私は30年も感じている。
世の中には様々な製品があり、材質や処理あるいは構造などによりそれぞれユニークな要求事項があるはずだ。もちろん取扱とか保管という項目はあるが「要求事項となっている場合」と枕詞が付いているのはトレーサビリティのみである。
トレーサビリティ以外の顧客からの要求事項はトレーサビリティほど重要でないのだろうか? 不思議でならない。
言いたいのは、現行のISO9001はユニークな顧客要求事項を考慮していないということだ。
「ちょっと待てよ、認証機関は買い手の代理として点検するのだろう。だったら点検でミスがあったら買い手に責任を負うのは当たり前だ」
「認証機関は審査の依頼者、つまり製造者としか契約していない。買い手とは契約していない。だから買い手に責任を負いません。それに元々買い手が考えた要求事項と審査基準が違うのだから話にならない」
注:第三者認証制度で、審査員は誰から依頼されて審査するのかは初めから謎だった。
ISO第三者認証が始まった1990年頃、認証機関は「顧客の代理人」を自称した。だが不特定多数の顧客が依頼者であるという説明がつかない。それで審査の依頼者は「認証機関の経営者」であると見解が変わった。第三者認証は第三者認証機関に依頼されて行うというのも再帰代名詞のようだ。どうもおかしい?
現在は審査の依頼者は「審査を受ける企業の経営者」となっている。こうなると完全に会社を良くするために審査するようであり、買い手からみて認証の意味はなさそうだ。
「じゃあ契約した製造者には責任を負うのだろうか? 審査して適合と判断したものの、あとで問題が判明したら、審査した工場に審査料金を返却するとかしないのかい?」
「坂本さん、そんなまっとうなことするわけないじゃないか。現実に認証を受けている会社で不祥事が発覚したなんて報道を見れば、認証機関・審査員は企業に騙されたと企業の責任を追及するだけだ。
どういう論理なんだろうね。
窃盗犯から盗品を盗めば、盗んだ者は窃盗犯になる。悪人から取り戻したといっても罪から逃れられない。
企業が嘘をついたとしても、不適合を見つけていない認証機関・審査員は、力量がなかった責任を逃れられない。しかしそれが問題になったのを見たことがない。
依頼した企業から見れば、まっとうな審査ができなかったという契約不履行で損害賠償請求をしてもおかしくない話だ」
注:容疑者や被告人が取り調べで嘘をついて、それが発覚すれば心証を悪くするだろう。しかしそれが直接罪になるわけではない。嘘をついたことが罪(偽証罪)になるのは、宣誓した証人だけだ。騙された検察や判事は能がないとみられるだけだ。
言い換えると捜査や裁判では容疑者・被告人はうそをつくことを前提に臨まなければならないということだ。方法としては証言によらず証拠裁判主義であることだ。審査においても証拠裁判主義で行わなければならない。
審査で嘘をつかれたとは口が裂けても語るな!己の未熟・無力を恥じよ。
「どうも天秤が釣り合わないように思いますね。企業はお金を払って審査してもらうけど、その見返りとして何の意味もない紙(審査登録証)をもらうだけではないですか」
メリットとデメリットが釣り合うと思うか? インバランスではないですか? |
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注:上図は模式図であり、実際には多様な費用が掛かる。
システムを構築し運用する手間暇(文書化、教育、記録などの費用)は、ISO認証の有無に関わらない必要経費である。
それを行わない(費用をかけない)会社も存在するが、それは論外だ。
「考えると認証ビジネスとは摩訶不思議です。
保険会社というのは生命保険でも火災保険でも、保険会社が発生確率から掛け金を決めて、一般人とか会社は実際に起きたときのリスクを天秤にかけて掛け金を払い、万一事故が起きたら保険金をもらうという仕組みです。
ISO審査は掛け金ではないですがお金を払うけど、問題が起きても払い戻しはありません。どうしてこれがビジネスになるのでしょうか費用に対する見返りがないじゃないですか。私には分かりません」
被保険者から見た保険のメリット・デメリット |
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「もちろん保険の場合は保険会社が寺銭
ISO認証の場合は、そういった説明もなく、情報は非対称性だ」
「ISO認証は不思議なんてことはないよ。認証の実態よりその評価が大きくて、釣り合わないからこそバブルなんじゃないの」
「ああ、そうか……掛け金と保険金に発生確率をかけたものが釣り合うならバブルじゃない。掛け金が大きすぎればバブルだ」
「バブルなのは分かりましたが、それならバブルだ!と叫べば良いではないですか」
「1990年に戻って投資家や社会にバブルだ叫んだらどうなると思う?」
「皆、正気に戻ったんじゃないですかね?」
「なことない。チューリップバブルに始まって、世界ではたびたびバブルが発生したけれど、欲に目がくらんだ人は正気に戻らないよ」
「では今、ISO認証はバブルだと叫んだらどうなります?」
「認証制度に袋叩きにあうのは間違いない。私は叫ばないよ。桑原々々」
「とはいえ過去10年間認証件数は継続して減っていますから、皆だんだんと正気になってきたということですか」
「本音で発言できるようになったと言うべきかな」
「ちょっとごめんなさい、その過大評価したというのはどういうことですか?
つまりメリットとして何か大きなものがあると思ったのでしょう?」
「磯原先生、ご教授お願い致します」
「いろいろあるでしょう。良い企業だと社会からみなされる。いや実際に会社が良くなると語った人は多い。その結果、売り上げが増える、求人に効果がある、そう思ったということでしょう。
ラノベなら根拠のない自信というのでしょうか。『俺はやればできる子だ』というのが定番ですから」
「なるほど、幽霊の正体見たり枯れ尾花……いや認証の正体見たり枯れ尾花か」
「じゃあ認証返上の一択しかないというのが答えなの?」
「建設工事などでは少しはご利益があるから、まったくメリットがないわけではない。ただ費用対効果が釣り合っているかという観点では釣り合っていないでしょうね」
「その考えはISO14001以外のMS規格にも一般化できるのかな?」
「ちょっと違いますね。というのは品質でも情報セキュリティでも、認証は顧客のメリットと密接に関係している。
例えばQMSで考えると、調達先で品質問題が起きれば、それを調達している企業でも品質問題になる。情報セキュリティも同じでしょう。客に関係するなら客は重要視します。認証効果が少なくても、ないよりはあったほうが良いと思うかもしれません。
それに対して環境保護は顧客とのつながりが弱い。調達先が公害を出しても、買い手はそこから調達していることによるデメリットは少ない。あるとしてもブランドイメージだけでしょう。もちろん調達先が廃業すれば調達が問題になるかもしれない」
「磯原教授の講演を聞いていたく感動した。
先生、それでは我々が今ISO認証についてなすべきことはなんでしょうか?」
「それは簡単明瞭です。認証返上をいかに差しさわりなく世間に納得してもらうかということです。世間には認証機関も認定機関も入ります」
「それは難題とも言えるし、考慮する必要もないとも言えるな。
まあ検討はしよう。
余部さん、いかがでしょう、圧倒的じゃないか、我が環境管理課は」
「勇者たちの末席に名を連ねることを光栄に思います」
「磯原教授、次の質問だがISO14001規格の価値をどうお考えですか?」
「規格そのものは間違ってはいないと思います。しかし記述があいまいであり作成者の意図がじゅうぶん現わされていないのではないかと思います。翻訳の問題かもしれませんが……
しかし言い換えると、書かれていることはあまりにも当たり前のことです。デミング賞を受けたレベルの企業なら、はるか昔から対応していることばかりです。文書管理、教育、内部監査など名称はともかく、そういった機能を組織は備えています。そういった企業はISO審査を受けるまでもなく、ISO規格に適合しているはず。
しかし多くは審査員の言うままに余分なことをしている。無駄そのもの。
他方、そのレベルに至っていない企業は、ISO認証を受ける受けないに関わらず、システムの見直しをしなければならない。ただそのためにISO審査を受けるのも無駄でしょう。せいぜいが経営コンサルに頼んで点検してもらう程度の話でしょう。そうすれば点検のみならず指導もしてもらえる。
いずれにしてもISO規格は、1回だけはチェックリストとして使えるものと思います」
「それだけか?」
「それ以上のものとは思えませんね」
「さあ、さあ〜、辛気臭い話はおしまいよ。締めはビンゴ大会で〜す。
一等は田中さんご提供のワイヤレスイヤホン。二等は秘書室からがめてきた東京ドームの内野席だけど、コロナでプロ野球観戦がどうなるかは不明ね。その他商品多数。最下位は駅前でもらったポケットティッシュで〜す」
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環境管理課の主は柳田であることは間違いない。
影の環境部長いまだ健在なり。
本日の危険
ISO認証制度批判で、いよいよ○○から刺客が送られそうだ。
あるいはガーシーと同じく暴力行為等処罰法違反で訴えられるかもしれん。
これはアブナイ
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注1 | ||||||
注2 | ||||||
注3 |
水質汚濁防止法に関わる記録の改ざんは水質汚濁防止法第33条4号で罰金30万以下となっている。 他の公害防止の法律でも同様に、記録漏れ、記録の改ざんをした場合の罰則が定められている。 | |||||
注4 |
Communiqu? Expected Outcomes for Accredited Certification to ISO 14001 Expected Outcomes for Accredited Certification to ISO 14001 (from the perspective of interested parties) "For the defined certification scope, an organization with a certified environmental management system is managing its interactions with the environment and is demonstrating its commitment to: A. Preventing pollution. B. Meeting applicable legal and other requirements. C. Continually enhancing its environmental management system in order to achieve improvements in its overall environmental performance." | |||||
注5 |
その後数回にわたりチューリップバブルが起きたが、1636年からチューリップ市場において価格の急上昇がおき、そして1637年にペスト流行などによりバブルは崩壊した。 これが記録に残る最初の投機バブルといわれる。 | |||||
注6 |
「空のよもやま物語」、わちさんぺい、光人社文庫、2008 | |||||
注7 |
その仕組みは博打ばかりでなく、宝くじ、生命保険、皆同じである。 ルーレットの0と00のマスは胴元の取り分です。国によって円周が37等分(欧州)、38等分(アメリカ)、39等分(メキシコ)などがある。配当はどこも36コマだから区分数が多いほうが寺銭の割合が多い。
0.75^12=0.044 差の95.6%は胴元に入る。もちろんJRAが総取りではなく、競馬の賞金、運営費、種々公共団体への納付金(競馬の目的はこれ)となる。それでも純利益が700億だっていうから超一流企業だ。 もちろん賭ける人が少ないなら、固定費である賞金、運営費を賄えない。賭場を開く胴元だって豪華なカジノの維持、客の安全のための警備など濡れ手に粟ではない。人生は厳しい。 だから博打はやってはいけないよ 私が宝くじを買うのは儲けようとしてではなく、社会事業に寄付しようとの思いからです……負け惜しみ |