*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
2021年5月、いつもなら風薫るといわれる快適な季節のはずだが、昨年以降コロナ大流行でジョギングする人も散歩する人もいない。 ブラブラ歩いていると、警察や消防車が巡回していて、無用な外出は止めて自宅にいろと指導される。街を歩く人は皆マスクをして話し声も聞こえない。なんとか早く収まって欲しいものだ。
○○大学のISO14001研究会から講演を依頼された日となった。とはいえ外出するわけでなく、スラッシュ電機の中に設置されたたくさんの臨時のテレビ会議用小間の一つに入るだけだ。岡山も一緒に来て隣の小間に入った。
彼が同席するとは聞いてなかったので前打ち合わせもしてない。でもまあ彼が何を発言しようと好きにすればよいと磯原は思った。どうせ個人参加の建前だし、そもそも重要なイベントじゃない。
指定された会議室にログインすると、既にログインしている人が数人いる。30歳くらいの男性が磯原に声をかけてきた。もちろん画面を通してのことだ。
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同じ画面に映っていても、同 じ場所にいるわけではない。 |
磯原さんですか? 西山と申します。今日はご講演を引き受けていただきありがとうございます
初めまして、よろしくお願いします。
磯原さんのお話を皆が期待しております。
ええと、定刻になりましたら私が開会の挨拶、次に研究会の会長である川田先生のお話がありますので、その次に磯原さんに講演をお願いします。
磯原さんから頂いたパワーポイントを見るとお話は30分程度で、あとは討論といいますか質疑応答ということでしたね
はい、話を聞くだけでも面白くないでしょう。普段考えていることとか疑問を語り合ったほうが興味を持てると思いました
さようですか、期待しております。
おっ、定刻になりましたのでそれでは……
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みなさんこんにちは、ISO研究会の幹事の西山です。
3月は新型コロナの感染者が非常に少なく、これで流行は収まったかと思いましたが、4月になるとまたもや増加しております。新型コロナウイルス感染症対策本部は第4波に入ったと発表しました。
まだまだ流行は収まる気配がありません。皆さん感染予防に努めましょう。
4月の例会でスラッシュ電機技報4月号に掲載されていた『ISO14001認証の問題』を読んで、研究会メンバーから、ぜひスラッシュ電機の人のお話を聞きたいという要望がありました。
スラッシュ電機さんにお願いしたところ、環境管理課の磯原課長じきじきに講演をしていただけることになりました。
申し上げたように時期が時期でありまして、フェイストゥフェイスの講演は差しさわりがありまして、このようなテレビ会議形式となりました。熱気は伝わらないかもしれませんが、その代わり居ながらにしてという便利さもあります。今回の結果をみて次回からの開催方法に反映していきたいと思います。
では最初に会長である川田教授からお話をいただきます。
川田先生お願いします
やあ皆さんお元気ですか。コロナ流行により各大学でも、オンライン授業が多くなっております。○○大学では2021年度は4月から通常の講義をと考えておりましたが、状況が改善せず、全部ではありませんが多くの学科がオンライン授業となっております。
西山さんからもお話がありましたが、これから第4波がくるとのことで今後ともオンライン講義や会議が続くと予想されます。皆さん十分にコロナ感染予防に努めてください。
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本日はスラッシュ電機の磯原課長さんに、ぜひ現場の実態をお聞かせいただきます。どうぞよろしくお願いします
西山がスピーカービューに切り替えた。磯原の顔が画面一杯に映る。
磯原はじゃあ始めますかと、気持ちを引き締める。
スラッシュ電機の磯原と申します。よろしくお願いいたします。
ISO14001研究会のメンバーの皆さんは、ISOの組織、ISO規格、ISO認証のことについては十分ご存じと思います。とはいえこれからお話しする上で誤解のないようにISOMS規格の歴史について簡単におさらいしましょう。
20世紀初め万国規格統一協会(ISA)が作られ国際標準を作ろうとしましたが、戦争で10年ほどで活動が停止しました。第二次大戦後に国連が新たに世界標準を作る国際機関を提案して国際標準化機構(ISO)が設立されました。
ここで標準とは、よりどころとなる見本とか方法を言います。標準化とは標準が定まっていないときは基本となるものを制定するとか、いくつも標準がある場合はひとつに決めることです。目的は何かとなれば、単位、部品の形や寸法、表現方法などを統一して、科学技術の発展や商取引の不便をなくすためです。
インターネットでアメリカのCNNなどのニュースを見ていると、アメリカの天気予報で気温は華氏(°F)表示です。日本の気温と比較するためには、頭の中で摂氏(℃)に換算しなければなりません。不便ですよね
ISOは初めは機械要素
統一すれば便利だと思いつくのは長さ重さの単位でしょう。ヤードポンド法、尺貫法、メートル法、その他いろいろありました。それぞれ材料の大きさもねじの寸法も違うわけで輸出入するにも困る、壊れた部品交換にも困るということになる。それで長さも重さもメートル法に統一しようというのが標準化です。
日本でメートル法を基本とすると決めたのは今からちょうど100年前の1921年4月11日でした。今でも4月11日は『メートル法公布記念日』となっています。祝日じゃありませんけどね。
注:このお話は2021年5月である。
とはいえそのときからすぐにメートル法になったわけではありません。1951年に計量法が交付されて、1959年から完全実施されました。メートル法になってまだ100年経ってないのです。
私の生まれる前、自動車でもミリねじを使うもの、インチねじを使うものが併存している時代が本当にあったのです。不便ですよね。
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誰の目? |
ところで機械が複雑になり、完成してからの検査では良品か不良品か判定できないものが現れてきました。半田付けの良し悪しは、長期間経過するとか温度が激しく変化しないと欠陥が出てきません。
そういうものの品質を確保するには、作業方法、作業者の技能、作業環境など製造条件を定めて、それを維持するように管理するのが品質保証というしくみです。品質保証は第二次大戦で英国やアメリカで考えられ、戦後は軍事から民生品に適用されるようになり世界中に広まりました。
おっと、品質保証とは品質を保証することではなく、製品の品質を維持し顧客に安心・信頼を持たせるための体系的なプロセスを言います。
モデルとはファッションモデルでも分かるように、何かの例として示すモノや形のことです
大事なことですから言っておきますが、モデルとは、こうでなくちゃダメというものではないのです。この衣装を着るとこんな風になりますよという見本がモデルであって、こういう美人でないとダメという意味はないのです。
つまりISO9001の当初の姿は、客が製造者に品質保証を要求するときにはISO9001を基に多少は調整しなさいというものであったわけです。規格の中にも修整(tailoring)をしなければなりませんとしっかりと書いてありました。出来合いじゃなくて、お客さんの体に合わせて仕立てなければならないのです。
ところですぐに、客に代わって製造者に赴いて、ISO9001に適合しているかを調べるというビジネスが起こりました。まあ、ここまでは大きな変化はありません。
しかし更に客がISO9001に適合しろと言っていないのに、会社がISO9001に適合しているかどうかを調べるというビジネスに発展しました。
金儲けとしては悪くないアイデアだったかもしれませんが、大きな変革がありました。それはお客でなく審査員が要求するわけで、製造者と客が交渉して決める余地はなく、規格にあることはモデルから要求事項になりました。『こんなふうにしてほしい』から『こうでないとダメ』になったのです。
更に大きな環境の変化として、丁度そのころ1993年のEU統合がありました。
名称 | 発足年 | 初期の加盟国 | 目的 | |||
EEC |
西ドイツ、ベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダの6ヵ国 | アメリカ、ソ連に対抗できる経済圏の確立をめざして関税の統一、資本・労働力移動の自由化、農業政策の共通化などを目指した | ||||
EC 欧州共同体 |
1967年 | 西ドイツ、ベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、英国、アイルランド、デンマーク、ギリシャ、スペイン、ポルトガルの12ヵ国 | 国境のない単一市場をつくることを目的とし、商品取引の自由化のほか労働力取引の自由化を図った。 | |||
EU 欧州連合 |
1993年 | ECに同じ。但し西ドイツから統一ドイツに変わった。 | マーストリヒト条約発効。国境のない単一市場をつくることを目的とし、商品取引の自由化だけでなく労働力取引の自由化を図った。 | |||
通貨統合 |
1999年 | 英国、デンマーク、 スウェーデンなどを除く | 通貨の統一を図った。 ということは国家の主権を取り上げたということね |
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そして | 2019年 |
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ユーロ危機、移民増加、選挙で選ばれたわけではないEU政府など欧州本来のアイデンティティからの逸脱、グローバリゼーションの暴走への反発か? |
EU統合とは、国境をなくし人やモノの動きを一つの国のように、自由にできるようにすることです。ところが欧州といっても均質ではなく、ドイツや英国のように工業化されたところもあり、スペインなど農業国もある。賃金の高い安いもある。そのために国家間の競争力が違う。それで工業製品はISO認証した企業の生産したもののみが、EU圏内で自由に売買できることになった。ISO認証していない工場の製品はダメなのです。
もちろんEU域外からの製品にもその規制がかかることになった。1990年初頭、日本は工業製品を世界中に輸出していて、今の中国のような立ち位置でした。それで日本では1992年頃にISO9001認証ブームが起きたのです。
さて話は変わりますが、1992年にリオデジャネイロで『環境と開発に関する国連会議』が開かれたのをご存じでしょうか? 地球サミットとかリオ会議とも呼ばれています。
180か国が参加したといわれる環境に関する大イベントでした。まあ各国が地球保全に努めましょうって会議ですね。今学部生や院生の方々はまだ産まれていませんね。
ともかくこの会議で環境保護というか持続可能な社会を作るための、ルールを作ろうとなったのです。そして1996年に制定されたのがISO14001です。
さてISO9001が売り手と買い手の契約であったのが、いつの間にか無関係な人、つまり第三者による認証に変化したのと同じく、ISO14001も第三者による認証がメインの使い方になりました。
ところでISO9001の初めのタイトルは『品質保証モデル』でした。このような品質保証の仕組みを作ってくださいという意味ですからおかしくとも何ともない当たり前です。
ISO9001規格の現在の名称は『品質マネジメントシステム−要求事項』といいます。規格の使い方が、初期の『買い手が売り手にこういう品質保証の仕組むを作ってください』から、認証のためのものとなりまして『客の意向ではなく、審査のための基準を示すもの』となり、審査員がイチゼロ判定できなければならないから、そのタイトルはおかしくありません。
ISO14001の正式名称は『環境マネジメントシステム−要求事項及び利用の手引き』です。ISO14001規格には付属書Aというのがあって、その名称が『この規格の利用の手引き』というのです。日本語で『及び』と訳された原語は『and』じゃなくて『with』です。ですから本文と合わせて『要求事項及び利用の手引き』というタイトルなのはおかしくありません。
さてそうしますと規格の本文のタイトルは『環境マネジメントシステム−要求事項』となりますが、環境について誰が要求するのでしょう?
私の知る限り二者間の取引において買い手が売り手に対して『ISO14001認証しなさい』という契約をしたものを見たことがありません。
なぜかって、それは存在しちゃいけない文章だからです。日本においては買い手がISO規格の認証を要求するのは公正取引委員会が禁止しています。ですからそれは存在しないはずです。
では認証機関がISO14001を守れと要求するのでしょうか? 認証機関が守れと要求するなら、企業は認証機関のために守るのでしょうか?
考えると不思議です。
ダジャレか揚げ足取りと思うかもしれません。しかしこれは重大な問題です。
仮に環境保全のための方法がISO規格要求と矛盾した場合、それをしないほうがよさげです。しかし規格要求は絶対に守れとなるとどうでしょうかね?
今までが簡単な、ISOMS規格の歴史です。ISOMS規格とはISOマネジメントシステム規格のことです。その歴史もう3分の1世紀にもなりました。
では過去30年間にどのような成果があったのか、それを語るのが本題です……が、今までのところまでで、疑問、反論、追加説明の要求などをお受けいたします。
どなたかご発声をお願いします
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市役所職員をしている川島です。
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ないことを証明するのは悪魔の証明で、それは無理です。私は今まで認証が有効だという証拠を見たことがありません。
こちらからの質問ですが、川島さんはISO14001認証した効果というものをご覧になったことがおありでしょうか?
ISO認証の準備段階で今まで知らなかった法規制に気付いたとか、有資格者の届出が漏れていたなど、ミスを見つけた事例があります
なるほど、そういった場合、発覚した未届けとか法違反などを、厳しく取り締まるわけですか?
ISO認証の作業中に自らのミスに気付いたと、ある意味自首してきたわけですから、注意程度ですね。ほとんどが形式犯ですし
注:形式犯とは利益の侵害とか、人命への危険などを伴わず、形式的な違反による犯罪。
例として役員交代の未届け、免許不携帯など。
理屈から言えば官報に載った時点で、国民は法規制を認識したという見解になるわけですが、行政は民間を指導するというお仕事ですから、違反を処罰するよりも規制を守ってもらうことが大事ですね。
ところで会社の防火とか防災のISO認証はありません。では防火体制では企業が法を守っていないことが多発しているのでしょうか?
遵法が徹底されていないところはあるでしょうが、公害などより消防法関係が多いとは認識していません
そうしますと環境だけを、わざわざ大金をかけてISO規格適合とか認証とかしなければならないという違いがありますか?
うーん、あるとは言えませんね
そうしますと例えば消防なら、消防署の立ち入りの際に企業を指導していると同じく、廃棄物や公害防止でもISO規格制定前から行政が指導をしていたわけですが、それだけで間に合うのではありませんか?
もちろんISO認証活動をしていて気が付いたようなことも、今まで消防の立ち入りで指摘されたケースもあるでしょうし、今まで気づかなくても今後指摘され是正したとは思えませんか?
うーん、そう言われるとなぜ環境だけが銭金と労力を投じてISO認証をしなければならないのでしょうか?
今までも行政は法改正とか水質事故が起きたりすると、商工会議所や工業団地組合などを通じて管内の企業に案内を出し、報道された事故の経過の説明と予防策、あるいは法改正のときは改正の要点などを解説をして相談に応じていますよね。
そういう指導がなくなれば今より遵法や汚染が増えると思います。それが行政の活動成果だと思います。
さて、もしISO認証がなかったときは、今より遵法と汚染の予防
それはないでしょう。もしそうなら行政が仕事していないことになる。それに現実に私の管内でISO認証している企業なんて1割もありませんよ
ではISO認証せずに行政の指導をよく聞きそれを実践している企業と、ISO認証した企業に差はあるでしょうか?
発生する違反や事故を見る限り差はないように思います。いずれも非常に低い割合です
ということは川島さんのご質問であった、ISO14001認証の効果がない根拠はあるのかという質問とは噛み合いませんが、過去より行政機関が指導監督をしているのでISO認証を必要としていないと言えませんか
アハハハ、これはおっしゃる通りですね。私も心の中でそう思ってはいたのです。ISO認証は良いことと思いますが、認証が必要とか行政サービスでは不足とは思っていません。そうであれば我々のレーゾンデートルが問われてしまいます。
川島さん、私は思うのですよ。日本の行政はすごくよく働いている。それは残業をしているとか愛想が良いということではないです。
消防なら火事を消すだけでなく、火災を出さないように指導する、災害時の対応を教育している。環境ならごみの分別を市民に知らせるべくパンフレットを配ったり、廃棄物処理場の見学会を開催したり……そういう行動の結果が防災になり、また環境保護につながっているわけです。
川島さんたちは堂々と言うべきですよ。ISO認証とか簡易EMSなど不要である。行政の指導を守り法改正情報を聞いていれば間違いないと自信を持って語るべきです
磯原さんの言葉を聞いて涙がこぼれます。
そうですね、意味があるのかないのか分からないものに
訳のわからない環境側面とか、コンサルタントの銭稼ぎでしかない法規制の調査など無意味です。
ありがとうございました。明日から、いや今から自信をもって仕事をしていけます
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ほかにご質問ありますか?
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M2(修士2年)の古谷と申します。
私はISO審査員になるのが希望でしたが、磯原さんは認証制度の将来をどうお考えですか?
それについてはISO認証のメリットデメリットの話をしてからと考えていましたが、別に話の順序があるわけではないので……これは全く個人的見解ですから、それはご承知おきくださいね。
ISO14001規格は1996年制定されました。制定直後から認証が始まりました。
それから倍々ゲームで認証件数は増加しました。ピークは認証開始後13年後の2009年の20,799件でした。それから単純減少に移り2021年には13,279件まで減少しました。
注:このお話は今、2021年5月である。
ピークを越えてからの12年間に増加したことはたった1度で、それは2019年の第3四半期に8件増加しただけです。
過去25年間の認証件数推移を見れば、今後増加に移ることはないでしょう。あるとすれば法規制で認証を義務化するとか、輸出の相手国が認証を条件にするとかがあればですか。現時点そういう動きはありません。
実を言って外国だって先進国ではISO14001の認証は増えていません。減少している国も日本だけではありません。
世界のISO認証は増えていると語っている人もいますが、中身を見れば中国が増えているだけです。中国は世界のISO9001認証件数の47%、ISO14001の認証件数のなんと57%を占めているのです。ISO認証は中国のためにあるといっても間違いではないです
聴講者から、「へえ〜」とか「えっー」というざわめきが起きる。
しかし10年ほど前から、欧州の化学物質規制が始まりました。最初は欧州へ輸出している企業が対応を始めましたが、すぐにそれは日本国内でも同等の規制が施行され、SDSなどの作成なども枠組みが作られました。
ISO9001のときもそうですが、日本は外圧によって動かされますね。
ともかくISO認証と違い、これは法規制で問題が起きると損害あるいは賠償が極めて巨額になるおそれがあり、遵守が極めて重要なのは明白ですね。
実際に某社のゲーム機のケーブルに、カドミウムが含まれているとされて回収騒ぎがおきたことがあります。
既に日本の製造業はISO認証よりも化学物質規制で問題を起こさないことが重要な位置づけになっています。
環境マネジメントシステムといえば、本来の語義からは多様なものがある
しかし最近のグリーン調達においては、化学物質管理のマネジメントシステムを作れという要求をしています。要するに必要な管理対象範囲に合わせたマネジメントシステムこそ必要十分であるということでしょう
化学物質管理のマネジメントシステムとはどういうものですか?
含有禁止物質を含まないようにどのような管理をするかを決めたものですね。
インターネットで『グリーン調達基準書』でググってください。たくさんヒットします。それを見ると企業はグリーン調達として何を要求しているか分かります。
私は商売柄関心がありますから、毎年どんな要求なのかを調べています。
年と共に要求することが変わってきています。2016年頃にはほとんど極相に至ったようで、ここ数年はほとんど変化がありません。
先生! じゃなかった磯原さん、私はグリーン調達を卒論に書いているんです。どんなふうに変わっているんですか?
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ええと、今古谷さんからの質問中ですから、少々お待ちください
グリーン調達というのは20世紀末に流行りだしました。ここにも企業の方が多いと聞いていますからグリーン調達の関係者もいらっしゃるかと思います。
まあ私は言いたい放題ですから、多少気に障ってもごめんなさいね。
20世紀末から今世紀初めの数年間は、頭の中で考えたグリーン調達基準でした。
ISO14001を認証していることなんてのがありましたね。2003年に公正取引委員会から必要性が説明できなければ認証を要求することはダメという通知が出て、トタンにその要求はなくなりましたね。
まあ今でもときどきそういうグリーン調達基準書を見ることがありますが、不勉強なのか、確固たる理由があるのかどうなんでしょうね?
グリーン調達基準に大変動が起きたのは、まずはROHsでした。お花畑の環境保護から法遵守のものに一変した。そしてダメ押しでREACHです。まさにグリーン調達基準とはいかなるものかを、欧州に教えられたわけです。
いい加減なグリーン調達基準を作っていた人たちは勉強になったことでしょう。
先ほど言いましたように2015年か2016年以降は要求内容がほとんど変わっていません。そこで要求しているのは購入先からしっかりした材料証明を取ること、しっかりしたものの管理をすること、トレーサビリティを確保することなど当たり前のことが具体的に示されている。
ISOの曖昧模糊の気分だけ、形だけのものじゃありません。守る意味が明確で、守らなかったら問題が起きることが明らかな、方法に疑問の余地がない、そういうことが明記されています。
なんと素晴らしいマネジメントシステムじゃないですか。
ISO規格もそのようなものであったなら、現在のように認証件数が減るのが止まらないなんてことにはならなかったでしょうね。
ということで先ほどの女性のご質問にはなりましたか?
グリーン調達基準の移り変わりを調べるのは現物をあたるしかありません。ところがネットにあるのは現在有効なグリーン調達基準なのです。
どの会社も2〜3年で改定してしまうので、以前のものを見るのはその会社に問い合わせるしかありません。私のように20年も前から調査を続けている人も各企業にいると思いますが、データの提供を求めても対応してくれないでしょう。
さて古谷さんの問でしたが、今の話でご理解されたと思います。
要するに必要な理由があって要求事項が書かれるのは当然です。
必要な理由があり、納得されるならそれは状況が変わらぬ限り真剣に対応するでしょう。
今グリーン調達のためのマネジメントシステムの話ですが、ISO14001は曖昧模糊だから認証してもあまりごりやくがない。それが事実だということです
ISO14001認証は先がないのでしょうか?
そのご質問にはうかつなことは言えませんね。私が思うことを正直に言えば、登録件数か過去12年間に半減したこと、今も毎年2〜3%程度の減少を続けていることを踏まえればもう拡大することはないでしょうね
私の場合、審査員になれる見込みはないということでしょうか
まずあなたが審査員になるときまで、現行の認証制度が存続するかどうか分かりません。
それと、あなたが審査員の仕事をどのようにご理解されているのか……誤解を恐れずに言いますが、これからマスターになりドクターになる人が就く仕事ではありません。
古谷さんはこれから研究者として、あるいは企業で開発や営業のお仕事に就かれて、企画とか開発のようなアグレッシブな仕事で活躍すべきです。
審査員は研究開発ではなく、保守的な仕事であり、高齢になって第一線を退いた人が就く仕事なのです。新卒者が目指す仕事じゃない
はあ、そうなんですか
ISO規格ではSDGs実現のためにはISO14001が重要な役割をするように書いてますが、そういう観点から認証が伸びるということはないですか?
おっしゃるように2015年版のISO14001序文に『環境、社会及び経済のバランスを実現することが不可欠である』とあります。遡ると1987年のブルントラント報告書に『持続可能な開発は、これら3つの柱すべてを含む統合された政策枠組みにより達成可能であると論じた』とあります。
しかし文言をいくらブルントラント報告書を読んでも『3本柱で実現できる』と書いてありません。
持続可能な社会というものが実現できるのかということは、誰も断定していない。SDGsでは17項目を掲げていますが、それは実行可能なのか、各項目を実現すれば持続可能な社会ができるのかを語ってはいないのです。
根拠のないことをいくら積み重ねても意味がありません。嘘を100辺語っても真実にはならないのです
手厳しいですね
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ええと、前半の部の半分しか進んでおりませんが、いったん休憩しましょう。10分後再開したいと思います。
後半は20分ほど、ISO認証の問題点、何が問題なのか、対策についてをお話しして、また質疑応答というか討論をしたいと思います
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ではただいまから10分間の休憩に入ります
……次回に続く
本日の疑問
2010年以前、ISO認証するとこんな改善になった、認証して費用改善ができたなんて講演会とか発表会がたくさんあった。
2010年以降、そんなお花畑の発表会はパタッとなくなった。そして認証しても効果がないという声はいたるところで聞かれた。しかしISO認証しても全然良くならないとか、認証してこんな問題があったなんて言う講演会や発表会をみたことがない。
どうしてなんだろう?
ということで、今回はそういう場があったらどうだろうというのを想像して書きました。
前回、最終コーナーを回って最近は6,000文字に収めることができるようになったと書いた。
ところが今回はなんと 11,000字を超えた!
全然進歩していません。
<<前の話 | 次の話>> | 目次 |
注1 |
摂氏と華氏の換算は、℃を2倍して1割引いて32を足すと°Fになる。逆は°Fから32を引いて1割足したものを半分にする。私は暗算が苦手だから°Fから32を引いて半分にして1割足している。差は1℃程度だ。 ネットが使えるならこちら ⇒ 温度の換算 | |
注2 |
機械要素とは機械を作るときの基本的となる汎用部品のこと。具体的には、ボルト・ナット、歯車、リベット、ベアリングなどがある。新しい機械を設計するにしても、市販されているこういった部品でほとんどが間に合う。 電子回路ならLCR(コイル、コンデンサー、抵抗)と同じようなものだ。 | |
注3 |
英英辞典によるとmodelとは「a system or thing used as an example to follow or imitate.」である。 | |
注4 |
ISO14001はその序文で「(ISO14001の意図は)遵法と汚染の予防である」と記述している。 汚染の予防とは漏洩とか大気汚染ばかりでなく、資源の消費とか廃棄物の発生も含む。法を守れば汚染が発生するなんてツッコんじゃいけません。 私は困りませんが、ISOが困るでしょう。 | |
注5 |
ISO14001:1996の序文では環境マネジメントシステムはいろいろあること、ISO14001はその一つであることを記している。 ただISO14001が国際規格として存在することから、これ以外の環境マネジメントシステム規格を国家規格として制定することは禁止されている。個々の企業が自分の考えでISO14001と異なるマネジメントシステムを考える構築することは自由である。 |