ISO第3世代 151.研究会5

24.03.11

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。


ISO 3Gとは

*****

○○大学のISO研究会の2回目のウェブ討論会をしてから数日後、ISO研究会の幹事である西山から磯原にまたメールが来た。
お仕事中 要旨は一度直接お会いしてお話したいということだ。
もう勘弁してよという気持ちもあるが、いろいろあったから一度会っておくのもいいかなと思って、岡山に声をかける。
すると岡山は少し考えて、一度は会っておきましょうと言う。

メールだけで事前打ち合わせして、講演はウェブ会議方式で会わずに終わると言うのは、コロナ以前は想像もつかない付き合いだ。通常ならリアルというかオフラインで会って、相手を値踏みするものだろう。オフラインですべて済んでしまうのは緊急事態だからなのか、あるいは今後はこうなるのか、磯原は分からない。

その場ですぐに西山にメールを返す。要旨は、こちらは岡山と磯原が対応する、希望日時を連絡してほしい、来社するのは何名か?


*****

1週間後の15時過ぎ、約束通り西山氏一行がスラッシュ電機本社に現れた。
御一行様は西山氏、清野氏、中田氏、大山氏の社会人ばかりである。
岡山は4人を予約していた小会議室に案内し、コーヒーを出すと磯原に連絡する。
磯原が来て名刺交換となる。今までモニター越しには何度も激論していたが、今初めて会って名刺交換とはいささか不思議な気もする。


大山 中田 清野 西山 磯原 岡山
D印刷 P電気 H電気 M商事 スラッシュ電機
大山 中田 清野 西山 磯原 岡山

磯原 「いろいろ質問があるでしょうし、時間がもったいないからどうぞ質問をしてください」

西山 「私どもからお聞きしたいことについて箇条書きしておきましたので、よろしければ各項目についてお考えをお聞かせください」

西山はA4サイズの1枚物を磯原と岡山に配る。
二人はそれぞれ受け取って眺める。

磯原 「私ばかり話してもなんだから、岡山さんと交代で考えを述べると言うことにしましょう。もちろんお互いに異論あれば皆で討論しましょう」

岡山 「それじゃ1番目は私が回答しましょう。ええと環境側面とは何ですか?
皆さんはISO事務局をされていたり、何年も仕事でISOに関わっていたりと素人じゃないですから、なんで今更という気もしますが、基礎から答えますね。

環境側面は定義されてますが、定義を読んでもわけわかりません。私が初めてISO規格と付き合ったとき、まずは規格本文をひたすら読みました。ISO14001の4項以降の要求事項のところでは17回環境側面という言葉が登場します。内1回は6.1.2のタイトルですから実質的には16回ですが、
ではそこではどんなことを記述しているのかを見てみましょう」

  1. 『6.1.1環境側面を決定しなければならない』
    動詞はdetermineですから決定すると言うよりも『明確にしておかなければならない』ですね。
  2. 『6.1.2組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面(中略)を決定しなければならない』
    これは前述の『6.1.1の一般』の個別論ですから、言っている内容としては同じです。そして詳細はこれ以降の各論で記述しています。
  3. 『6.1.2環境側面を決定するとき、組織は、次の事項を考慮に入れる』
    次の事項を考慮ですから、この項目独自の要求はない。
  4. 『6.1.2組織は、設定した基準を用いて、著しい環境影響を与える又は与える可能性のある側面(すなわち著しい環境側面)を決定しなければならない』
    設定した基準を基に該否を決めろということですから、裁量で決定することでないことは明白です。
  5. 『6.1.2著しい環境側面を伝達する。
    また、環境側面の環境影響、著しい環境側面とした基準、著しい環境側面のリストを維持すること』
  6. 『6.1.2著しい環境側面は、有害な環境影響(脅威)又は有益な環境影響(機会)に関連するリスク及び機会をもたらし得る』
    著しい環境側面は有益あるいは有害な環境影響もたらす可能性があるということでしょう。
  7. 『6.1.3環境側面に関する順守義務を決定する』
    この決定もdetermineですから『明確にする』ですね。
  8. 『6.1.4著しい環境側面に取り組む計画』を作ること。
    計画とありますが、これは環境実施計画とは違います。環境側面をいかに管理するかのaction(行動)を計画(plan)することです。
    ええと私も英語が弱いので英英辞典を見たレベルですが、planとは何かを達成するための計画ですから、改善策を立てることばかりでなく、文書の作成とか教育訓練の体系を決めたりすることもplanです。要するに環境側面に関して何をするかを決めて文書にしなさいと理解して間違いないです。おっと、もちろん環境目標とかその実施計画になるものもあるかもしれないし、ならないかもしれない。
  9. 『6.2.1著しい環境側面及び関連する順守義務を考慮に入れ、かつ、リスク及び機会を考慮し、関連する機能及び階層において、環境目標を確立』
    ここでは環境側面に関わる法規制を考慮して環境目標を立てなさいということですね。ここで考慮に入れてですから、環境側面に関わる法規制が制定とか改正があればアクションを取らなければならないこともあるということです。もちろんアクションをとる必要がないこともある。
  10. 『7.2環境側面(中略)に関する教育訓練のニーズを決定』
    環境側面に関する教育訓練の要否を決めるということです。必要でないこともあるでしょう。危険物取扱者免許を持っているなら、普通危険物取り扱いの教育は不要でしょう。必要なら国家資格の意味がないですからね。ただ危険物取扱者の育成という観点では教育計画が必要かもしれないし、危険物取扱者の免許を持たず有資格者の指揮の下で動く人には教育が必要でしょう。
    ただ原語はtrainingなので知識というより、取扱や操作ができるようにすることですね。
  11. 『7.3(作業従事者には)著しい環境側面及びそれに伴う顕在する又は潜在的な環境影響への認識を持たせること』
    関係者には著しい環境側面の危険性とか環境汚染などの性質を教えろということです。
  12. 『9.3マネジメントレビューでは著しい環境側面を考慮すること』
    著しい環境側面が変わったり、法規制に変化があったり、他社で似たような環境側面で事故や違反があれば報告しなさいということでしょう。

岡山 「ここまでいいですか、ここからが本題です」


岡山は壁際に置いてあったホワイトボードを自分の席の後ろに転がしてくる。そしてそこに書き出す。

岡山 「今規格から環境側面に関わる記述を抜き出したわけですが、それをまとめると、環境側面についての要求は

  1. 著しい環境側面とする基準をはっきりさせる。
  2. 環境側面を定めた基準で著しいか否かを決める。
  3. 著しい環境側面の評価と決めたもののリストを記録に残す。
  4. 著しい環境側面に関わる法規制を把握する。
  5. 著しい環境側面の管理・手順を文書に定める。
  6. 著しい環境側面に関わる作業従事者への教育訓練を決める。
  7. 著しい環境側面に関わる作業従事者への教育訓練を決めて実施する。
  8. 著しい環境側面に関わる作業従事者に認識を持たせる。
  9. マネジメントレビューの際には著しい環境側面が変わったり、法規制に変化があったり、他社で似たような環境側面で事故や違反があれば情報を伝えること。

説明する まあ、こうなるわけです。
これを逆にみると、良く分かります。
つまり著しい環境側面にする基準とは、法規制があるもの、著しい環境影響のあるもの、手順を決めなければならないもの、教育訓練をしなければならないもの、認識を持たせる必要のあるもの、経営者に報告しなければならないもの、これが環境側面というわけです」

清野 「あのう〜、大変良く分かりましたというか……環境側面という言葉一つを理解するにもそれだけ考える必要があると言うことですか?」

岡山 「普通の仕事で小学校や中学校の教科書のように、テキストの文章を読めば間に合うというものはありませんね。
みなさんISO事務局とおっしゃいましたから、内部監査の事務局もされていると思います。実は私は監査部監査の環境についての監査の事務局なんですよ。誤解ないように、ISO対応の内部監査ではなく監査部の業務監査の環境管理の担当です。

監査方法とか監査基準とかを決めて・教えて・計画を立てて・やらせることになるわけですが、何か教科書を1冊読めば間に合うわけじゃありません。
業務監査の本は多々ありますので、基本的にはそういう参考書を読むのがよろしいでしょう。ISOの内部監査のテキストとは違い、遵法や社会通念などの遵守の重要性などが強く書かれていますから、ISOボケには役に立つでしょう。
それからISO19011ですか、これはISOMS規格の監査・審査について語ったものです。業務監査関連の本は経理とか遵法が主に書かれていますので、監査そのものとしてはこちらの方が分かりやすいです。それを自家薬籠とするのがまず第一歩ですね。

おっと、今申しましたのは監査の方法論です。監査対応の法規制となると法律、施行令、施行規則、条例となりますが、廃棄物や安全衛生になると通知がたくさんあります。そういうのを全部読んでおかないと監査はできません。
ISO14001規格にしても、要求事項のパートは9000文字しかありませんが、それを理解してまた社内に展開するには序文、附属書はもちろん、ISO14004、ISO17021、ISO19011、その他IAF基準類、JAB基準類、そうそう認証機関との審査契約書は紙がぼろになるくらい読みこなさないといけません」

清野 「はあ〜、御社ではそれほど真剣にとりくんでいるのですね」

岡山 「仕事ですから当然でしょう。廃棄物契約書というと自治体や業界や産廃連が作成したものなど、ひな形がいろいろありますが、本当にそれで良いのか、過不足はないのか、必要なら弁護士とかに相談することも必要でしょう」

中田 「私どもでは東京都のひながたをそのまま使用していますが、それでは何か問題がありますか?」

岡山 「ひな形には、締日、支払方法、振込銀行、訴訟になったとき使う裁判所などは記載してありません。そういうことで問題が起きたらどうしますかね?
弊社では通常の契約書に書いていることで、ひな形にないことは追加しております。もちろん廃棄物処理委託契約書だけでなく、別途そういったことを決めた取引基本契約書を取り交わしていればよろしいでしょう」

中田 「あ〜、なるほど、確かに支払いの締め日がなくてもめたことがないのが不思議です。普通なら何日締めで翌月何日に振込とか書いてますね」

岡山 「支払口座だって書いてないとおかしいでしょう」

磯原 「あのう私も話してよろしいですか?」

みんな磯原を注視する。

磯原 「私は『前回環境側面を決めろ』という訳文がおかしいという話をしましたが、もっと本質的なことを理解してほしいと思います。
環境管理という規格で最初に来るのが組織の状況という項目で、そこでは規格では何を求めているかということのサマリーが書いてあります。トップの項目は4.1で組織及びその状況の理解となっています。そして環境側面が最初に来るわけです。この意味を分かってないとISO規格は分かりません。
難しいことではないです。環境管理とは問題が起きたら、それを素早く収拾しようとか是正をしっかりすることではないということです。
なにしろISO14001の意図は『遵法と汚染の予防』であって、『違法と事故の後始末』ではありません。

事業活動や製品サービスは、良きにつけ悪しきにつけ環境に影響を与える、これは必然です。そのとき管理するのは汚染とか資源の枯渇という結果としての環境影響ではなく、当たり前ですが原因となるものであるのは自明です。そういう観点で考えれば環境側面とはネーミングセンスはダメだと思いますが、その原因を認識せよ語っていることはまっとうです。
とにかく環境側面をしっかり把握すること、これがISO14001の最大のポイントです。

さて環境側面が原因であれば、良い原因とか悪い原因という分け方はありません。
弊社の技報には『有益な環境側面などない』と書いていましたが、前回、前々回でご質問がなかったようですね。それは皆さんが良く理解されているからかと思っていましたが、どうでしょうか?」

清野 「私はそれを質問したかったのですが、そこまでいかずに紛糾してしまい質問する機会をなくしてしまいました」

磯原 「そうですか。巷で有益な環境側面を語る怪しげなコンサルや審査員は数多あまたいます。しかしISOTC委員でそう語っている人はいません。そんなものないと分かっているからです。ちなみに外国のウェブサイトをググってごらんなさい。Positive aspectとかgood aspectなんてヒットしません。

🧻
トイレットペーパーの買
いあさりが始まったのは
オイルショック以降だと
思う。
水洗便所が普及したせい
か、品不足のシンボルが
トイレットペーパーだっ
たのか?
それから私は廃棄物の仕事も公害防止の仕事も、担当したことはありません。私が本社に来る前にいた工場での仕事は、電気主任技術者と省エネ担当でした。
省エネは最近では環境の分野に入るとみなされていますが、元々はドルショックや石油ショックで、石油が買えない石油が高いということから、経済問題として省エネをしろという国策であったわけです。省エネ法ってのはそういう成り立ちです。

ともかく私は入社以来10数年、省エネを担当していたわけですが、実際はそればかりではありません。廃棄物担当が不在のとき廃棄物業者が来れば代理でマニフェスト票を切るとか、夏季連休に環境施設の清掃となると、作業に駆り出されました。

だから否が応でも廃棄物の流れや問題を肌で感じたし、問題が起きれば、例えば業者が廃業するとかあれば、新しい業者を探すのに私も歩き回ったりしました。
公害関係も同じです。煙突のバグフィルターが破けて漏れた煤塵で付近の洗濯物が汚れたりすると、分担して謝罪行脚もしました。

環境管理の実務をしたことのない人は環境側面を理解できないとは申しませんが、そういったこと経験から体で問題の原因と結果を知り、どう対応すべきか常々考えている人でなければならないと思います。
そんなことをしていると有益な環境側面なんてものは妄想だとしか言いようがない。だって常に良い環境影響をもたらす環境側面などありません。平常は公害防止に役立つ設備も事故や条件によると汚染を広めるものです。
あるいは酸やアルカリの使用は有害な環境側面とおっしゃる方々がいるが、その用途は社会に役立つ製品やサービスのためであり、害と益を合わせると益が多いから、使われている。考えれば、そんなこと当たり前です。


白熱電球
白熱電球
矢印 電球型蛍光灯
電球型蛍光灯
矢印 LED電球
LED電球
俺は最初から、
最後まで悪者か
以前は褒められたけど
今は悪者、悲しい
俺もすぐに悪者さ
ISO14001規格はそんないいかげんなものじゃない!

磯原 笑ってしまうのは、洞爺湖サミットのときだから2008年かな、ちょうどそのとき審査に来た審査員は、電球型蛍光灯を有益な環境側面がとほめたたえ、白熱電球は悪い環境側面といったのですよ。
あれっ、これで笑わない人は環境ISOやってますなんて言ってはいけません。
その審査員は環境影響とか環境側面なんて全然理解しいていないんですね。
多分今頃は、LED電球は有益な環境側面で電球型蛍光灯は悪い環境側面なんてふかしこいてるでしょうね」

「有益な環境側面なんて唱えている人は物事の表面しか知らず、本当のことを何も知らない。
そしてまた環境側面を点数で決めましょうなんて発想する人は無知ですね。私はスコアリング法をしている人には、いつもエネルギーの量と廃棄物の量の環境影響の換算式を聞いてます。
スコアリング法を支持する清野さんなら換算式をどう決めていますか」

清野 「えっ!私ですか? 存じませんよ」

磯原 「だって廃棄物の影響とエネルギー使用の影響を比較しているでしょう? だったら電力量kWhと廃棄物トンとの換算表がなくちゃならんでしょう」

清野 「配点表は書店で見つけた環境側面の本に書いてあった配点表を使っています」

水力発電所

磯原 「そうですか。はっきり言って数字の遊びですね。
電気を作る方法には、水力、火力、原子力、太陽光、風力その他ありますが、どれで作っている電気か分かりませんから環境影響を算出できません。
FIT電気なんて言っても、実際に給電されている電気が何で作られているかは分かるわけありません」


注:FIT(Feed In Tariff)電気とは、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギー電源を用いて発電され、固定価格買取制度(FIT)によって電気事業者に買い取られた電気を指す。

送電線 環境意識の高い企業や家庭は、高くてもCO2を出さない…と思っている…発電所で作られたFIT電気を、高い金を出して買う契約をしている。

しかしすべての発電所の電気は送電網では一緒になるから、再生可能エネルギー契約した事業所の電気が再生可能発電による電気であるわけではない。
政府の広報などを見ると『こまけえことはいいんだよ、そういう意識が高まれば環境保護が推進される』としている。
気は心である……


磯原 「火力と言っても石炭か石油かガスか、石炭と言っても産地によって硫黄分などは異なるわけです。温暖化の換算といってもそんな細かいことまでは分けてません。分けようもないです。廃棄物を特管産廃と一般産廃に分けても、特管にもいろいろあり、廃酸と感染性とを比較できませんよね。
要するに理屈から言ってスコアリング法は完璧な間違いなんです。

もちろん定量化して比較する方法が悪いわけではありません。しかしその場合は左辺と右辺のデメンションがあってなくちゃだめですよ。左辺がkWhなら右辺もkWh、左辺がkgなら右辺もkgとかね。

例を挙げると予防接種の効果と副反応の被害を、ワクチンの有無による感染割合の差、ワクチンによる死亡率と感染した死亡率などを基に比較するなら科学的です。
まあまっとうな人なら適当に点数をつけるスコアリング法など考えませんよ」

清野 「ひどい言いようですね……考えます」

  ・
  ・
  ・
  ・

磯原 「それでは私が次の質問に回答する番です。
ええと第2問は環境法規制の調査方法ですか……まず岡山さんと私はスラッシュ電機グループを指導する立場です。ですから法律の構成とか読み方を教える講座の講師をしています。
皆さんのお勤め先も本社でしょうから、工場や支社などに法律の読み方を教えているのではないですか。

法律を理解しようとする人には二つのタイプがあります。ひとつは○○法の説明会に行って習う方法です。もうひとつは法律の読み方を学ぶことです。
前者は分かりやすいですが法改正になったときは、また説明会に行かねばなりません。後者は改正があろうと困らず、また他の法律を読んでも理解できます。

とはいえほとんどの法律は制定されたり改正されると、行政が説明会を開きます。その説明会に行けば改正点をしっかりと教えてもらえます。そして今まで不明だったことも、その場で質問すれば教えてもらえます。
ということでどちらに転んでも、環境法の本など買う必要はありませんし、日本法〇なんて会社のサービス契約などすることもないです。
それで環境法規制の調査方法はおしまい」

西山 「現実にはISO審査でどんな方法で該当法規制を調べたのかと問われますね。環境法の本を買っておけば、それを見せると一発OKです。磯原さんの方法では、どう説明したら納得してもらえますか?」

磯原 「今まで実際にしていたことを説明すればよいのではないですか。
私たちは今までしてきた方法をそのまま説明しています。それで審査員がまずいと言ったことはありません。
だって認証するからと、改めてどんな法律があるかを調べる会社があったら、まず間違いなく法規制に反しているはずです。
現時点、法を守っているなら、今までしていた法律の調べ方で良いということでしょう。もちろん論理学的には違いますが、じゃあ過去の方法を否定できるのかとなると実際問題否定する意味もないです」

西山 「では法改正をどのようにウオッチしているのかと聞かれたら?」

磯原 「実際にしていることを説明しています。
御社の場合、法改正になったとき、改正があったことをどのようにして知りますか?」

西山 「ウチでは日本〇令と契約していますので、定期的に法制定改正情報というのが送られてきます。それを読んで関わる法令が変わると知れば対応します」

磯原 「本当ですか? ちょっと信じられませんね。
私どもではまず業界団体に部会がいろいろあります。私たちは環境関連のところに参加しています。そこでは政府というか各省庁が改正を予定している法令の情報が入ってきます。そうすると現行法の問題点、改正すべき理由と改正点などを調査します。そして業界団体として改正に対して意見をまとめるわけです。
パブリックコメント前に、法改正が関係する業界団体には省庁から情報が入ってきます。そこで現状の問題については改正してもらいたいこと、改正については業界の希望を述べるわけです。
ロビー活動というと怪しく取られますが、そういうことはありません。現実に合わせて規制方法とか規制基準などに意見を出すわけです。

西山さんは商社でしたね。商社の業界団体もありますよね。どの業界団体でも同様のことはしているんじゃないですか。商社の活動に関する法令、例えば下請法とか外為法が改正されると予測されれば、どの業界団体でも公になる前に検討をしているはずですよ」

西山 「はあ〜、そうなんですか。ISO事務局は業界団体とあまり関りがありませんので……」

中田 「私はISOというよりも公害関係の職務が長かったので、磯原さんのおっしゃった業界団体の動きは良く知っています。ISO認証が流行した時もけっこう認証方法の研究会を設けたりして活動してましたね。
そこでもISO認証のための法規制の調べ方とか検討したんですけど、2000年以前では審査員が硬直な考えで、規格に書いてある通りの方法を示さないとアウトでしたわ、アハハハ

今はだいぶ柔軟というか現実を知る審査員が多くなりましたね。それでも旧来の考えの人はまだ多数派ですよ」

大山 「私もそう思います。ISO規格では環境側面を調べて著しい環境側面を決めて、それに関わる法規制を調べてとなります。それに合わせて仕事をするように手順を決めないと、納得してもらえそうありません」

岡山 「そりゃ現実を説明して理解してもらうしかないでしょう。ISO説明用の手順と実際の手順があっては、要するに嘘ついていることになる。
それこそ審査員は指摘することじゃないのかな?」

磯原 「審査員が手順書と現実の差を指摘しないなら、私は早速その認証機関に異議申し立てをしますね」

清野 「なぜISO規格は現実の法規制の把握方法を書いてないのかしら?」

磯原 「本当のところは知りませんが、いろいろ理由は考えられます。
ひとつは規格を作った人たちが、企業がしている法規制の把握方法を知らないという可能性、もうひとつは、この規格は会社設立時にすることから書き始めているのではないかということ。

従来から活動している企業であれば、前半の法規制を調べて該当する法規制の社内展開は終わっているのです。そういうことが終わっている企業がISO認証するには、規格の後半からで良いと考えられます。
つまり『組織は、環境目標に関する文書化した情報を維持』するだけで良いのではないかな」

西山 「磯原さん、この件についてはご説明に納得しました。できるできないはともかく、おっしゃることは分かりました。
次に行きましょう」

  ・
  ・
  ・
  ・

岡山 「次は力量のことですか、力量の決定方法、力量を備えている決定方法……なるほど、確かにこういうことは、いわく言い難いことではありますね。
しかし何事も素直に現実がどうかを見て、それを説明することで良いのではないですか」

中田 「そう言われてもアイデアはありませんよ、現実は見た目良く納得してもらえるように、外部の講習会参加とか資格取得とかすれば力量があると認めるとかしているのが実態です」

岡山 「実態がそれで間に合っているなら、それでいいじゃないですか」

中田 「いえいえ、公害防止管理者だって試験合格すればすぐに届出してやっていけるかとなると、そりゃ少しの期間は前任者の指導は必要ですよ」

岡山 「じゃあ、試験合格した者を次期届出者とするには、現在の届出者の監督下で1年なり半年なり仕事をして、現在の届出者と上長が業務状況を見て単独で執務ができると判断したら……とかすればどうですか?」

中田 「判断できたらというのは判断する項目とかその基準とかどうしますかね?」

岡山 「私は公害防止管理者をしたことがないので何とも言えませんが、実際はそういう相談で任せるか否かを決めているはずです。そのとき何を相談しているのかをヒアリングしたら良いでしょう。それをあるがまま文章にするだけです」


注:公害防止管理者とは、公害防止管理者試験に合格した者のことではなく、試験に合格して会社が公害防止管理者として届けた者をいう。(公害防止組織法 第4条第1項)
岡山が試験合格しているかどうか知らないが、合格しても名前を届出したことがないなら「公害防止管理者をしたことがない」という表現は正しい。

中田 「なるほど、そこんところは美辞麗句で審査員を納得させると……」

  ・
  ・
  ・
  ・

磯原 「次の質問はと……」

清野 「あのう〜、ちょっと提案ですが……」

西山 「清野さん、なんでしょうか?」

清野 「私たちの質問をみると、どんどんと基本に基本にと戻っているように思えます。
つまり私たちは基本をおろそかにして、形だけのISOってのをしてたんじゃないでしょうか?」

西山 「確かに今回だけでなく前回と前々回の質問を思い返すと、どんどん基本というか初歩に戻っているようですね。
するとなんですか、私たちは基本からやり直したほうが良いということですか?」

大山 「基本というと、何ですか?」

清野 「ISO規格を読み直してその意味を再確認するというか、規格の本当の意味をつかむところからだと思います」

中田 「私もそう思います。それもJIS訳でなく英文を読まないと正しくは理解できない。磯原さんがおっしゃったawarenessとかlegibleとか、誤解していたことって多いです。それを防ぐには和訳でなく原文を読む。もちろん英英辞典を座右に置かないといけませんね。私たちは単語の意味を知っているつもりですが、ほとんどひとつの単語にひとつの意味しか知らず、上っ面のことが多いですから」

岡山 「規格の用語はそんなにたくさんあるわけじゃないです。のべ語数はたった3,659語(英文のとき)しかないですし、異なり語数は100語もないですよ」


注:英語の単語の数え方は二通りある。
のべ語数(token frequency):単語の総数で同じ語が何度登場しても数える方法。
異なり語数(type frequency):複数回出てくる語はひとつと数える方法。

文章は「のべ語数」で数え、辞書の語数は「異なり語数」で数える。
言語学の定義ではもっと複雑であるが、普通のときは上記でもよい。
 参考:語の数え方


清野 「私自身、大いに反省しています。審査員が語ることは神の声、真理と思っていました。それと決定する権限が審査員にあると思っていたのです。
磯原さんが講演した時から、いろいろ調べました。審査員が認証の可否を決定するのではなく、彼らの権限は所見報告の作成だけということが分かりました。そして認証するかどうかは、認証機関の判定委員会が決定すること。
また審査の結果に異議があれば、企業側は苦情や異議をのべて回答を求めることができること。

それに磯原さんは認証機関と意見が対立したとき、別の認証機関に相談に行ったとか。そういうことをやろうなんて思いもしませんでした。
普通の商取引なら今の取引先がQCDに問題があるとか、愛想が悪いだけでもほかの業者を読んで打合せするなんて当たり前のことなのに。それさえしなかったってことは職務怠慢だわ。
それはひとえに私がISO審査とはいかなるものか知らなかったからです。

JIS訳でdetermineを決定すると訳しているのを不思議とも思わなかったということは、真剣に仕事をしていなかったからです。
大いに反省し、ISO認証について基礎から学びなおします。磯原さんたちにこまごましたことを質問する前に、しなければならないことがあると気づきました

中田 「清野さんにそう言われると、私こそ立つ瀬がありません。
大いに反省しなければならないのは私ですよ」

西山 「大山さん、清野さんと中田さんがそう言ってますが、大山さんはいかがですか?」

大山 「西山さんこそ、どうなんですか?」

西山 「私も清野さんの言葉を聞いて反省しております」

大山 「じゃあ、決まりですね。本日はお相手していただいたことに感謝してお開きにしましょう。
私たち研究会も基礎から出直しましょう。足元をしっかりしないで議論しても空虚なだけです」

清野 「実は私は川田先生のところの修士課程の社会人院生なんですよ。
修論をどうしようと思ってましたが、これをテーマにすると決めました。
タイトルはともかく、なぜISO認証企業の多くは形式的なシステムで認証したのか、規格の意図を理解しなかったのかを調べたいです」

磯原 「清野さん、ご存じと思いますが、既にISO14001認証はピーク時の6割くらいに減少しています。もうそういう研究をしても関心を引かないのではないですかね?」


注:このお話の時点は2021年5月である。この時点ではISO14001の認証件数はピーク時の64%であった。このお話を書いている2024年3月時点では61%となった。

清野 SDGsバッチ 「確かにそうですが、今の流行はSDGsとか騒がれています。政治家も学者も経営者もSDGsバッチを付ければ、SDGsを体現したと思っているようです。
でも真のSDGsを実現するためには、形ばかりだったISO14001の轍を踏んではいけないという、教訓というか警鐘になると思うのです」

磯原 「なるほど、分かりました。清田さんの論文を期待しております」

清野 「論文では、私を動かしたスラッシュ電機の技報を参考文献として引用させてもらいます」

磯原 「清野さんの社内の影響力を知りませんが、清野さんの勤め先にも多数の事業所があるでしょうし、関連会社も100社や200社はあるでしょう。そういうところの現実をヒアリングすれば素晴らしい情報が得られます。マスターで留まらずドクターまでいって日本の第三者認証に活を入れてほしいですね」

清野 「頑張ります」



うそ800 本日のほっと一息

研究会の巻は、余話というか埋め草のような印象でしたが、なんとか収拾できたようです。

いよいよ第4コーナーを回って残るはゴールのみ……のつもりです。
なんだかんだ言いながら本日も1万字オーバーと……これは反省が足りないのか、努力が足りないのか、そもそも能がないのか


<<前の話 次の話>>目次





うそ800の目次に戻る
ISO 3G目次に戻る

アクセスカウンター