連載している小説もどきに、認証返上のことを書いている。そのために最近、認証返上のことを調べたりした。そんなことを書く。
正直言って、私は自分自身が認証活動のメインになったことは4度、メインでなくメンバーであったことは数度、無償のコンサル(茶々ともいう)なら50回は関わった。
では認証返上はどうかと言うと、自分自身が認証機関にメールを出したのは3度だけだ。
最初の認証返上は1995年頃ISO9001で、顧客要求があって認証したが取引が終わったとき。当時はISO認証とは機種対応のことがほとんどだった。例えば工場でA製品とB製品とC製品を作っていたとすると、A製品だけ認証するという形だった。
工場の中で製品に関わらず、文書も記録も検査もなにもかも同じルールで管理をしていても、認証範囲の人が増えれば審査工数が増えて審査料金が嵩むから、その製品だけ認証を受けた。無駄にお金をかけることはないからね。
認証が、2機種、3機種と増えると、工場全体を認証しようという流れだった。
ISO認証を要求しているお客さんとの取引が終わってしまったなら、認証している必要はない。一刻も早く止めないとお金がかかると思った。実際は次回審査までに契約を解除すれば良いわけだが、当時はなにも知らない。もっとも当時は審査のインターバルが半年だから、のんびりしていられない。
初めてだったから認証を止める方法が分からない。それで認証機関に電話して「認証を止めたいのですが、どういう手続きをしたら良いでしょう?」と聞いた。
1995年頃は、まだ社員はメールアドレスもパソコンも与えられていない。そして紙のメールでは返事が来るのは10日後だろう。というわけで電話だ。
ちなみに認証機関は英国系であった。最初に来た審査員はイギリス人だったが、二度目以降は日本人、電話を受けた方も日本人だった。
すると先方は
「この電話で認証辞退を承りました。それではロゴマークの清刷りを返却してください。
それから審査契約と一緒にお渡ししているロゴマークの取り扱いの説明通りに、マークを付けて看板とか印刷物を撤去してください」
と言って終わりだった。
昔はよくこんな看板を見かけたものです 認証返上したら撤去しなければならない 若しくはペンキで塗りつぶすか | |||||||||
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他の認証機関に移るのですかとか、継続しませんか、なんて引き留められえるかと思っていたが、そのようなことは一言もなく拍子抜けした。
しかし企業間の契約解除を、担当者の電話一本で了解して良いものか?
その後何年かして認証を止めたり認証機関を替えたりした同業者に聞くと、日系の認証機関は即OKしないで、しつこく引き留めると聞いた。今は知りません。20世紀のことです。
二度目はやはりISO9001だったが、これは日系の認証機関だった。これも製品対応で認証していたが、その製品から撤退することになり認証を止めた。事業を撤退するというと引き止めはなかった。
このときは認証機関の様式に記入して出した記憶がある。企業間の契約解除だから当然と思った。
少し時間が経ってから気になり審査契約書を読むと、次回更新時に継続する意思を伝えないと契約解除になると書いてあった。今どきの審査契約書の文言はどうだろう?
三度目はISO14001で、これも日系の認証機関だった。工場全体で認証していたが、工場そのものがなくなってしまった。ということで認証を続けましょうとは言われなかった。
私が関わった3度とも、認証を返上したという広報はしていない。いやその前に、認証した広報もしていない。
1990年代は、イギリスの認証機関は審査登録企業のリストを本にして発行していた。
ULのイエローブックのようなものだ。それが認証したという正式な証拠であった。ネットもなかったからね。
認証するとそのリスト(本)に掲載することができた。もちろん認証したという証拠になるし、宣伝のためである。
しかし顧客から認証を要求された場合、審査登録証のコピーを客先に渡せば用は足りるから、リストに載せる必要がない。
私が上司にリストアップ必要ですかと尋ねたら、上司はイランイランという。それで本に掲載しなかった。正直言うとリストには社名、製品カテゴリー、連絡先の他、会社の説明などを掲載するので、その文章を作成して送らねばならなかった。英語が不得手な私は上司がそう言ってくれてホッとした。
広報しなかったのは、ISO9001の2件は、B2Bでかつ客先が限定していたこと。客先とは取引終了なのだから、認証を止めた広報も必要なかった。
また名刺にも書かなかったし、看板も書かなかったし、カタログにも書かなかった。
ISO14001のときも認証返上の広報はしていない。これも外部に広報していないから、認証辞退のときも広報していない。
この規格の利害関係者は、客だけでなく近隣住民も一般市民も利害関係者だと言われるかもしれない。しかし工場がなくなったのだから関係ないよね。
昔話は終わって、ISO返上した企業は、どんな広報をしているかを調べた話をする。
私は一市民でお金もない。だから調べものをするときに、「聞蔵」とか「ヨミダス」などで過去の新聞記事を検索するとか、国会図書館に行って……なんてことはできません。できるのはGoogle叔父さんに頼るとか、「裁判所」を検索することくらいです。
注:聞蔵…………朝日新聞の記事検索(有料である)
ヨミダス……読売新聞の記事検索(有料である)
裁判所………判例検索(無料である)
調査対象としてISO9001とISO14001に限定した。
理由として、このふたつの規格で日本のISOMS認証件数の95%(2023年末)を占めている。他のMS規格を除外しても大勢に影響はないと考えた。
Google叔父さんで検索した。残念ながら「ISO∩(返上∪辞退)∩(挨拶∪お知らせ)」というような論理式は叔父さんの頭では理解できないことが分かった。それで1回で検索とはいかず、平易な組み合わせで複数回検索した。
そしてヒットしたものを、返上年月、返上理由などをまとめた。
あまり古いデータではまずいと考えて、2014年から2023年まで10年間として、検索した結果113件のデータを得た。
検索作業中に気が付いたのだが、この二つ以外のMSでも相当の認証返上があった。それらの認証件数が1,000程度と小さいのにいくつも見つかったということは、他の認証規格でもじっくり調べるとそうとうの認証返上がありそうだ。
ISO50001なんて2011年に認証が始まり、2016年のピークには39件となったが2023年にゼロとなったのだから返上率100%である。
それを言えばISO9001だって返上率は48%、ISO14001は39%である。
ところで2014年から2023年までにISO9001は下表のように減少している。
認証規格 | ピーク時 | 2014年末 | 2023年末 | 減少数 |
ISO9001 | 43,564(2006年) | 34,840 | 22,696 | 12,144 |
ISO14001 | 20,799(2009年) | 18,857 | 12,664 | 6,193 |
合計 | 53,697 | 35,368 | 18,337 |
注:両規格とも2014年には認証件数のピークを過ぎているので、全期間の減少数より少ない。
2014年末のQMS/EMSの合計から2023年末までの減少率は34.1%である。しかし単純に2014年に登録されていた認証組織の34.1%が認証を返上したわけではない。今でも(というと失礼だが)新たに認証している企業もあるわけです。
底に穴のある缶に水道から水を注いで缶の水面が上がるか下がるか一定かは、入る量と出る量で決まります。
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動的平衡といいます |
入る水の量、つまり新規の認証件数が不明ですから、真の返上率は分かりません。
前述したピーク時からの返上率はISO9001で48%、ISO14001で39%と書きましたが、それは見かけ上であって真の返上率は不明です。まあISO50001はゼロに戻ってしまいましたから間違いなく返上率100%ですけど。
ともかくISO9001もISO14001も毎年減少しているんだから、新規認証件数より返上認証件数が多いことは間違いない。
2014年から2023年までの間の合計減少数は18,337件だから、検索してヒットした認証返上のお知らせの件数113件はわずか見かけ上0.62%にすぎない。真の返上件数はもっと多いことになる。あまりにもサンプル数が少なく、どうかと思うがない袖は振れぬ。
認証を止めた企業の多くは返上を広報するだろうが、そのお知らせは一時的のものが多く、数年以上掲示しているのは少ないようだ。そうでなければ返上の0.62%しかないはずはない。とはいえ仮に半年ウェブサイトに掲載したとしても、QMS/EMSの合計減少数は18,337件だから、それが10年間で更に半年しか掲載しないとしても900件あるはずだ。現実に113件しかないのだから、広報するのを半数としても1.5か月くらいしか掲示しない計算になる。そんなものなのだろうか?
あるいは広報する企業は1割もないのか?
もちろん倒産などではお知らせなどしないだろうけど、それにしても少なすぎだ。
返上理由として「コロナ流行で事業が混乱していて、リモート審査なども検討したが対応できる状況でなく、認証を辞退した」というのもあった。この会社はしっかりと告知をウェブサイトにしていたが、そうする手間もなかった企業も多々あったかもしれない。
では、認証返上の理由はどんなふうだろうか?
「お知らせ」での理由表記は各社様々だが、その内容により大別してまとめたものが下図である。
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注:当時、認証機関の幹部と話をしたとき、彼はセクハラも粉飾決算も皆ISO認証取り消しに当たると語っていた。
ISO9001や14001の認証は、社内モラルの評価とか財務の遵法も関係するのだろうか?
審査に行ってはお土産を要求し、接待を当然としている認証機関がよく言うよと思った。おっと、お土産や接待は2002年頃に社会問題になり、その後改善された。
本日のまとめ
認証返上の真の理由は分からないけど、各組織が真剣に考えて決めたことは間違いない。であれば表に出した理由の真偽はともかく、その組織において認証返上は適切だ。
一言付け加えるならば、認証しようと決断するとき過去に認証を止めた企業の調査をすべきだったろう。
私が過去の認証辞退を調べるのに費やしたのは10時間程度だ。それで多額のお金、そして労力を節約できるなら安いもんだ。
だって認証返上しても大丈夫なら、そもそも認証が必要でなかったということだしね。
自治体の場合、住民からリコール請求なんて受けたら恥だし
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