タイムスリップISO 14.認証準備3

24.09.02

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:文中「私」とは、作者である私、おばQのことではなく、このお話の主人公である「佐川真一」であります。お間違えの無いようお願いします。




2月も末になった。
各部門はISO認証のために何をするかの説明を受けて、第一段階として各部門が担当している規定の見直しをしている。


「見直し」とは何ぞや? と疑問を持たない人はおかしい。「お前を見直した」もあるし、「態度を見直せ」もあるし、「景気を見直す」もある。要するに多義である。

更に「見直し」を国語辞典で調べた語義と、原語である「review」を英英辞典で引いた語義はかすっているが、合致してはいない。ISO規格の「review」をJIS訳で「見直し」としたのは間違いとは言わないが不適切と思う。


 review見直し

私のような意見が多々あったのだろう。ISO9001は2000年版から、ISO14001は2004年版から「review」は「レビュー」と訳されるようになった。とはいえ「英語のままで訳していない」とも言う。
物語は1993年であり、このとき有効な規格は1987年版で「見直し」である。


規格でいう「見直し」とは何をしているのかと言えば、難しいことではない。
ひとつは規定に定めてある手順が、実際の運用と同じか否かの確認である。言行一致(発言と行動)ではだめで、文行一致(書面と行動)でなければならない。

もちろん文書化されていなくてはスターラインに立てない。ISOMS規格は形式知とする仕組みなのだ。


注:「形式知」とは、マニュアルなどに明文化され、温度や時間などで記述された客観視できる知識をいう。
対して「暗黙知」とは、文章や数式などにされていない、勘やコツのような客観視できない知識をいう。
産業社会ではあらゆる面において暗黙知を形式知とするのは必須、必然である。


企業では往々にして、定められた(書かれた)手順と実際の手順が違うというか、運用が手抜きされている。国の法律においても死文と化しているものもある。もちろん定められた通り運用するか現実に合わせて規定を変えるかは、考えるところだ。

過去より何か問題が起きたり、監査などで指摘されると、手順の変更と記録が追加されるのが常であり、そして月日が経つと元に戻るのも常である。
だが面倒くさいだけではそうなることはめったにない。上長が重要視しない記録がまっさきに廃れていく。人員が減らされたりすると、いなくなった人がしていた仕事は消えるのも世の常だ。

もうひとつは、手順がISO規格要求を満たしているか否かである。とはいえこれもよく考えなければならない。
ISO規格の記述は一般論で漠然としているから、読みようでどうとでも解釈できる。

「認定された工程、設備、作業者については、適宜、記録を維持する(ISO9001:1987 4.9最終段落)」
これを読んでも、その記録を現場の壁に貼ってある「日常点検チェックリスト」を記録と見るか、それをまとめた月次の報告と見るか、あるいは毎月の業務報告の中の記述と考えるか、人により組織により、いろいろあるだろう。できるだけ今までしていたもので、手間暇かからないもので、誰もが納得できるものにしなければならない。


おっと、忘れてはならないことがある。それはJIS訳を基に仕事をしてはいけないということだ。「review」の例もある、常にISO規格を英文で参照しなければならない。
JIS訳しか見てないと「手順は手段と順序のこと」と珍説を語るISOコンサルもいた。

 手順 ≠ 段 +
間違ってもそんなことはない!

手順とは日本語ではない。原語は「procedure」で英英辞典を引かないと本来の意味を理解できない。
ISO規格の「procedure」も日本の法律での「手順」も、「会社の規則」を意味する。それは「(一般語の)手順」のこともあるだろうが、そうでない場合もある。

ところで「review」を「レビュー」にしたなら、「procedure」を「プロシージャ」に、「aware」を「自覚」や「認識」でなく「哀れ」にしないのはなぜだろう?
笑ってくれないと哀しいです



*****


毎日、品質保証課には、どこかの部門から誰かが相談に来る。もちろん1日1人ではなく、少ないときで3人から4人、多いときは十人以上だ。相談者が並ぶことさえある。もちろん電話での問い合わせも多い。

今日は始業後すぐに設備保全の若者、千原君がやってきた。

私、佐川真一 「やあ、久しぶりだね。俺が製造にいたときは、機械の故障とかメンテナンスでしょっちゅうお世話になっていたけど、職場が変わると縁が切れちゃったね」

施設管理課 千原 「(声を潜めて)佐川さんが課長解任されて驚きましたよ。噂では副工場長の恨みを買ったって」

私、佐川真一 神棚 「そのようだね、いやそれが事実というわけでなくて噂ではね、
まあ役職手当がなくなって賃金は安くなったけど気楽なものさ。一番良いのは毎朝、今日も怪我人が出ませんようにと、神棚にお祈りしなくなったよ、アハハハ」


注:毎朝無事を祈る気持ちは、製造現場とか建設現場の管理者・監督者をした人は分かってくれるだろう。
もちろん事務所にも神棚を置いて毎日水を上げていた。榊の交換は1日15日と言われるが、今はプラスチックやドライフラワーもあり、メンテナンスフリーである。

施設管理課 千原 「佐川さんがそう割り切れたなら良かったです。
とはいえ副工場長との確執は今もなんでしょう。私の仕事は全国区ですからあちこちの職場に行きますが、どこでもそんな話を聞きますよ」

私、佐川真一 「俺も聞いている。だがそんな噂は副工場長を刺激するから、あまり広めないでください」

施設管理課 千原 「分かりました。
おっと、今日は噂話ではなくISOの話です」

私、佐川真一 「設備管理のことでしょう」

施設管理課 千原 「さすがと言いたいですが、私の仕事はそれしかありませんね、アハハ
ハッキリ言って私の職場では、何をするのか見当もつきません。初歩から教えてください」

私、佐川真一 「いいけど時間はいかほどある? マッサージと同じで、30分コース、60分コース、90分コースとあって、料金も違うよ」

施設管理課 千原 「それじゃ60分コースでお願いします。それで分からなければ、改めて疑問点をまとめてまた伺います」

私、佐川真一 「OK、三段組を持ってるかい?」

施設管理課 千原 「三段組? 三段腹なら持ってますが、三段組とは何ですか?」

私、佐川真一 「オイオイ、ISO規格と工場の規定との対照表でさ、各部の説明会で配布したものだよ。A3サイズで10数枚を綴じたもの、知らないかな?
お宅の課長も持っているはずだが?」

施設管理課 千原 「聞いたことありませんね」

私、佐川真一 「しょうがねえなあ〜(机上をガサゴソと探して)これだよ。君にあげるよ。これがなくては始まらない」

施設管理課 千原 「ええと、つまりこれは……ISO規格があって、それがどんな要求をしているかの解説、対応する工場の規定、規定ではどんなことを決めているか、作成される記録と……」

私、佐川真一 「一目見てそれだけ理解できたなら、もう教えるまでもないね。
規格の要求事項を縦方向に見ていって、機械設備とか施設、建物などの言葉が出てきたら、そこをしっかり読んで、しなければならないことが自分のところが関係あるかを考えて、関係あるなら何をすべきかを見るという流れになる。

おっと機械設備という名前で出てくるとは限らない。規格は一般的に書いているから設備だけでなく、施設、検査装置なんて書かれているかもしれない。

同様に『検査・測定及び試験の装置』とあっても、この工場で計測器でなく設備として資産登録していると管理部門はお宅になる。呼び名に騙されないようにね」

施設管理課 千原 「なるほど、フンフン……なんでウチの課長は私たちのところに回覧してくれなかったのかなあ〜」

私、佐川真一 「自分一人で処理しようとしているのかもしれないよ」

施設管理課 千原 「そんな気が利く人じゃありませんよ。しかしここに来なければ知らないままでいて、ISO審査で施設管理が大問題を起こして不合格だなんてなると大変でしたよ。
すぐに仲間と対策を考えます」

私、佐川真一 「まだ先が長いから大丈夫さ。それに今後定期的にフォローもするから。
そういえば施設管理は製造部だけど、この前の製造部の説明会には出てこなかったな。製造部のISO対応のまとめ役は野田課長だったな。彼に聞いてみよう」


電話機

私(佐川)は昨年11月まで製造部の課長だったから、野田課長とは同僚だった。
直ぐに野田課長に電話をする。

私、佐川真一 「品質保証の佐川です。野田さんですね、ちょっとお聞きしたいのですが、先日の製造部での説明会のことです。
施設管理の課長がいなかったことに気付いたのですが、説明したことは伝えてあるのでしょうか?」


この物語は端折っているので、前回(第13話)では製造部での説明会は記していません。

野田製造2課長 「佐川君の説明会に出てくれと声はかけたのだが、自分のところは問題ないと言って出てこなかったな」

私、佐川真一 「私が3段組と呼んでいた規格と実施事項の対照表を製造部の各課の分をお渡ししましたが、施設管理課に渡してくれましたか?」

野田製造2課長 「ああ、その日のうちに、古田課長に渡したよ」

私、佐川真一 「もう一週間以上経ってますね。実は今、施設管理の人がISOについて相談に来られたのですが、ISO認証の活動について全然聞いてないようです。
まだ日にちはありますが、早いところ問題の洗い出しと対策を進めてもらわないとまずいです。
野田さんもISO審査で製造部に問題があって、認証できなかったなんてなるとまずいでしょ、あ〜、もちろん例えばの話ですよ」

野田製造2課長 「佐川君も製造から品証に行ったら、冷たくなったねえ〜」

私、佐川真一 「アハハ、製造部で問題を出してほしくないからです」

野田製造2課長 「そのうち俺の課では、係長とか主要な現場のものを集めるから説明をしてくれよ」

私、佐川真一 「了解です。そいじゃ施設管理の方に一言注意をお願いします」

野田製造2課長 「もちろんだ、一言じゃなくしっかり問い詰めてやらせるよ。わしは道連れになりたくない、アハハ」


私、佐川真一 「千原君、野田課長は施設管理の古田課長に資料を渡し、打ち合わせの内容も伝えているという。
古田課長が自分のところで止めていて、課内に知らせていないようだ。製造部のとりまとめの野田課長から話してもらうことにした。野田課長も製造部の問題でISO認証がダメになれば責任重大だからしっかりやってくれるだろう」

施設管理課 千原 「あの、佐川さん、ちょっと気になることがあるのですが」

私、佐川真一 「なんですか?」

施設管理課 千原 「ウチの古田課長はゴルフが好きで、よく副工場長と行くらしいですよ。それで副工場長から、なにか吹き込まれたか、あるいは頼まれたか」

私、佐川真一 「証拠なく人を疑ってはいけないよ、と言うべきところだけど、そうかもしれないね。
でも施設管理課でISO対応の準備をしないと、古田課長が悪者になってしまう。自分が悪者になっても他人を貶めるものかな」

施設管理課 千原 「責任は指導しなかった佐川さんにあると言うかもしれません。どうせご本人はあと数年で定年退職ですし」

私、佐川真一 「古田課長は違うと思うけど、サボタージュする人がいるかもしれないね。注意しよう。
ところで1時間コースは終わりだけど、千原君の目的は果たしたのかな?」

施設管理課 千原 「ハイ、これを頂いたら良く分かりました。
細かいことですが、設備に温度計や圧力計が付いているのもありますが、そういうのはどうなりますかね?」

私、佐川真一 「まず校正しなければならないかどうかを、該否を考えなければならない。計量法で校正が義務付けられているのは商取引のもので、ISOとは関係ない。
ISO規格で校正が要求されているのは、製品が規定要求事項に適合していることを実証するために使うものに限られる。

検査とか信頼性評価に使うものは校正対象だけど、ラインの調整用とか設計の実験などに使うものは対象外になる。対外的に出すデータは品質保証課の信頼性試験で行うことになっているからね。もちろん当社では皆校正することになっている。
だから設備や施設に付いている各種計器も、製品の合否や信頼性評価に関わるなら校正対象だけど、それ以外なら校正しなくて良い」

施設管理課 千原 「ええと、具体的には?」

私、佐川真一 「焼却炉の温度計の校正は燃焼を適正にコントロールするために必要だろうけど、ISO9001では要求していない。
また廃棄物を引き渡すときウチには台貫だいかんはないけど、台秤はあったよね。それで目方を測って支払金額を決定しているなら校正しなければならないことになる。実際に毎年市に頼んでいる。
そうでなく料金決定に使っていないなら、校正しなくても良いとなる」


注1:1996年所沢市の産業廃棄物焼却炉からダイオキシンが検出されいっとき社会問題となるが、決定的になったのは1999年2月にテレビ朝日が、所沢の野菜のダイオキシン濃度が高いとの報道を行ったからだ。
それでバタバタと法規制が行われ、ダイオキシン発生の少ない焼却炉以外は使用禁止となり、ビルや家庭での償却は実質禁止となった。
この物語の1993年頃は工場でもビルでも学校でも家庭でも、可燃ごみは自家焼却が当たり前だった。

注2:「台貫」とは車両や積載物の重量を測る大型の秤。積載量は、初めトラックごと載せて重量を図り、その後、荷物を下ろして再測定して差額をとる。測定料金は重要によるが10トンくらいで千数百円になる。

施設管理課 千原 「ああ、言っている意味が分かりました。要するに製品品質に関わらないものは対象外ということですね。ボイラー配管の温度計はどうでもいいと」

私、佐川真一 「おっと、製品品質に関わるかどうかは、一応、製造課と品質管理課と話をしていたほうが良い。ボイラー配管の蒸気温度と言っても、古い建屋は蒸気暖房だけど暖かければ苦情はないだろう。

温度計 だけど例えば強制乾燥炉などで温度管理が重要かどうかは施設管理課では分からない。検査工程で合否が分かれば良いだろうけど、製造後では合否が分からないものは特殊工程扱いになる。
蒸気温度でなく、乾燥炉内の温度で管理しているなら無関係だ。そのときは乾燥炉の温度計が校正対象になる。

それから付属計器を独立した計測器として計測器管理室が管理しているなら、計測器管理室がしてるから対応不要でしょう。
そうでなければ、設備の定期点検のときに精度確認をしないとならない。しているならその記録が重要だ。点検結果OK程度ではISOではダメだ。しっかりした数値の記録と、国家標準までのトレーサビリティが必要になる。

メーカーに点検を依頼しているなら点検結果報告書を見てほしい。計測器の点検もして、トレーサビリティも添付されているならOKだけど……それは調べないとならない。していないなら今からでもルールを作って実行しないとダメだ。
まずはそういう条件に該当する設備を確認すること、そしてどういう管理をしているかを調べてほしい」

施設管理課 千原 「了解しました。それじゃ状況を調べたらまた相談に来ますよ」

私、佐川真一 「頼みます。
それから君が黙ってISO対応を進めると課長ともめるかもしれないから、課長と話をしたほうが良い。
ISO対応の仕事をするなというなら、そのときは製造部のとりまとめは野田課長だから、そちらに相談してもらったほうが良い」

施設管理課 千原 「分かりました。おっしゃるように進めます」



*****


千原君が帰ると浜本さんが来る。また何かトラブルか?

浜本さん 「計測器の校正記録は外部に頼んでいる物に合わせて様式を作った。現物の検査成績書、校正に使った基準器の校正証明、トレーサビリティ証明と今年に入ってから校正したのは付けるようにしている。
だから今年になってから校正したものはばっちりだ」

私、佐川真一 「なるほど、それなら新しく作った様式を、それぞれの計測器の校正要領書の付表にしなければならないね。規定の見直しが終わったら、校正要領書の見直しにかからないと。桜庭さんと山下君とその分担を決めて取り掛かってほしい」

浜本さん 「了解した」

私、佐川真一 「校正期限切れの対策状況はどうですか?」

浜本さん 「現時点で期限切れは5%、佐川さんが来たときの三分の一になったよ」

いつしか浜本さんが私を呼ぶのが、佐川君から佐川さんに変わった。私が信頼されるようになったということだろう。

私、佐川真一 「それは良かった。いつまでにゼロになりますか?」

浜本さん 「3月末を目指している。
紛失してどうしようもないものも数十個あり、期末には一括して廃棄処分しようと思う。そうすると2%になる」

私、佐川真一 「2%というと30台か、まだ多いな。廃棄処理してゼロにならないの?」

浜本さん 「一度に全部廃棄処理しないのは、高額のものとか購入後間がないものがあるんだよ。
本来なら使用部門が対策しないとならないのですが、放っておくと何もしないので、遊休品倉庫とか探したし、経理にも相談した。まだ償却が済んでないのは簡単に廃棄出来ないから、少し時期が経ってからというのです。経理もいろいろ事情がありそうです」

私、佐川真一 「益体もないなあ〜。ともかく分かりました。
現時点、手を打つ必要のある問題はないということでよろしいですか?」

浜本さん 「いや、人が余りそうだ」

私、佐川真一 「そりゃまたどうして?」

浜本さん 「校正作業が計画的になったので、計測器の梱包とか出荷手配などが突発的に発生しなくなった。また以前のように日中遊んでいて、時間外に仕事することもなくなった。
ということで4月にはパート1人を減らさないとまずい」

私、佐川真一 「その方はパソコンを使えますか?」

浜本さん 「当社に来る前は、別の会社でパソコンでデータの入力作業をしていたというから、キーボードは慣れていると思う。
そういう仕事があるのかい?」

パソコン作業

私、佐川真一 「あそこで山下さんがしているのが、規定の入力とか修正作業だ。桜庭さんも毎日2時間くらいは応援しているんだ。
ああいう作業ができるならISO認証活動中はここで欲しいな」

浜本さん 「それじゃ午後からでも連れてくるよ。本人と話してみてほしい。ダメならパートの人に桜庭さんの庶務を代わってもらって、桜庭さんがパソコン作業をするとか」



*****


電話機 電話が鳴る。

私、佐川真一 「はい、品質保証課です」

野田製造2課長 「野田で〜す。佐川君か?
あのさ、施設管理課の古田課長に会って話をした。
ご本人の言葉だが、副工場長からISO9001認証は急ぐ必要はないと言われたそうだ。
ISOは3月半ばに考えれば良いと言われたという。副工場長が何を考えているのか分からない」

私、佐川真一 「なるほどそうですか。副工場長がISO活動を遅らそうとしているのでしょう。
我々が悩んでいてもしょうがないですから、お宅の大野部長に相談してもらえませんか。
もしかして大野部長にも副工場長から指示があったのかもしれません。
別のプロジェクトがISO認証より優先しているのかもしれません。そういうことなら上で優先順を決めてもらうしかありません」

野田製造2課長 「君の言う通りだ。直ぐに動く。結果は報告する」



*****


終業時刻の10分前、品質保証課に製造の野田課長が現れた。

野田製造2課長 「ちょっといいかな?」

桜庭さんが立ち上がり会議室の中を確認してくる。

桜庭さん 「会議室が空いてます。入室したら内鍵をかけてください」

野田課長と私が会議室に入る。


わしはISO認証の準
備をしないとは言っ
てない。
まだ先が長いから大
丈夫だ

古田課長
古田課長である

野田製造2課長 「大野部長に聞いてみたけど、ISO認証の準備を遅らせても良いなんて、何も聞いていないという。そしてすぐに部長から古田課長に早急に品質保証課のスケジュールに従って活動を開始せよと指示されていた。
古田課長も部長から指示されたらやるしかない。

ちょっと分からないのだけど、まったくしないのではなく遅らせることに何か意味があるのか?」

私、佐川真一 「露骨に言っちゃうと嫌がらせですかね。あまり遅らせると期限までに認証できなくなってしまう。そうすると工場としての問題となり副工場長の責任も問われる。
しかしひとつの部門がひと月分くらい遅れても挽回できると考えたのかな」

野田製造2課長 「そうすることの効果というかメリットがあるのかい?」

私、佐川真一 「実は今、ISO認証を工場だけでするか、本社の指導を受けるかというせめぎあいをしているのですよ。
工場長も猪越課長も私も、本社を頼らず工場独自でやろうという考えなのですが、副工場長は本社の指導を受けるべしという考えなのです」

野田製造2課長 「それはまた……どういう違いがあるのかな?」

私、佐川真一 「工場独自で進めて上手くいったら、本社の生産技術部の面目丸つぶれです。工場独自で進めてだめなら工場の責任問題になります」

野田製造2課長 「じゃあ、本社の指導を頼むのが一番だろう。
工場の面目よりも、本社に指導してもらって上手く行ったほうが全体として良いだろう」

私、佐川真一 「ところが本社の力というか、ISO認証に関する知識も乏しくて、本社が指導する力がないのです。既に認証活動を進めている工場は三つありますが、どこも本社にお金を払って指導を受けてもぜんぜん役に立たないという苦情を言っています。
それと本社に払う指導料が月60万にもなるのです。
結局お金だけ取られて、結果が上手くいけば本社の功績、上手くいかなかったら工場の責任となるのは見えているのです」

野田製造2課長 「分かった。副工場長は本社生産技術出だから、本社を担ぎ出さないとまずいわけだ」

私、佐川真一 「今までの話は実際のことなのですが、これからは想像ですよ。副工場長は施設管理課の活動を止めて置いて、間に合わなくなる寸前に本社の支援を頼むという筋書きかもしれません」

野田製造2課長 「あまり遅くなってしまうと、支援しても間に合わないということか」

私、佐川真一 「たぶんですけど」

野田製造2課長 「となると大野部長が施設管理課の古田課長に動けと指示したから、今度は副工場長が大野部長に止めろと言ってくるかもしれないな」

私、佐川真一 「どうなりますかね、想像もつきません。
ただ指導もせずにお金だけむしり取られるのは決定事項で、上手くいったら本社の功績、ダメだったら工場のミスというオチは嫌ですね」

野田製造2課長 「工場サイドが本社の支援はいらない、自分たちでやるよと言っているなら、佐川君たちに任せたらいいのではないのか。
副工場長としてはここが速やかにISO認証して、ビジネスが伸びたほうが、そうでないより出世も速いだろうし……」

私、佐川真一 「まともな人ならそう考えると思います。余計な邪魔が入らなければシャンシャンと進むのになあ〜」


太平洋戦争のとき、アメリカ軍に勝つよりも同僚との出世競争に勝とうと頑張った軍人が多数いたそうです。
昇進しても、戦争に負けたんじゃしょうがない。

倒産企業の役員と好調企業の管理職とどっちが良いか、考えるまでもなさそうです。



うそ800 本日の気持ち

過去、私が過去に書いた小説では、根っからの悪人と言う人は出てきません。ジャイアンのように我儘で横暴だったり、間違った方法を正しいと信じていてそれを強要したり、仕事より他を優先して仕事にミスする人はいましたが、欲のため横領をする、人に罪をかぶせるという人はいませんでした。

でも私の人生では、我欲から横領するとか、昇進したいからライバルの仕事を妨害した人たちも間違いなくいました。
今回はそんな人たちにも活躍(?)の機会を与えようと思います。



<<前の話 次の話>>目次





うそ800の目次に戻る
タイムスリップISOの目次に戻る

アクセスカウンター