タイムスリップISO 15.認証準備4

24.09.05

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは




3月中旬となった。予備審査までふた月半、本審査まで4か月、実施事項はひとつひとつ潰しているが、気がもめるのは事実だ。
猪越課長は、営業経由でイギリスに予備審査についての詳細をいろいろ交渉している。細かいことを詰めようとすると、相手がイギリスにあるということは面倒なことだと実感する。電話で直接できるわけではない。FAXか電子メールでないと連絡がつかない。
内容がはっきりしたら実施事項を展開して工場内の各部門に周知して、決戦開始だ。


品質保証課の規定の見直しは超順調だ。というのも計器管理室で余ったパートの菅野さんが助っ人に来てくれた。

私は元は大企業で役
員の秘書をしてたの
よ。
オフィスの仕事なら
任せなさい

パートの菅野さん
パートの菅野である
彼女は以前、大手企業で事務をしていたとかで、キーを打つ速さはとんでもなく、菅野さんとは佐川も猪越課長も手合い違いレベルが違い過ぎだ。
それよりも文書作成能力がすごく、山下さんが作った規定作成要領なるものを一読して、書式とか文章表現の決まりを理解すると、じゃんじゃんと処理していく。

それで山下さんは草案ができたものを、浜本さんや信頼性の二人の係長との内容検討をしている。桜庭さんは安心して本来の庶務業務に戻った。
隠れたプロというものはいるものだと猪越課長も感心する。

田舎は勤め先が限られている。夫が地方に転勤になると、総合職でバリバリとやっていた奥様たちも退職して田舎に来れば、単純作業のパートくらいしか仕事がない。薬剤師、看護師、歯科衛生士でもないと、転勤した地で資格・能力に見合った職を得られないのが実情である。


佐川は各部の進捗を日々フォローしている。もちろん自分の仕事もある。規定の見直しが完了したところから、内部監査を始めようと予定している。
初回は各部の説明会をそれなりに様式にまとめたものであり、二回目としては規定がISO規格要求を満たしているかの確認をする、三度目は4月末か連休明けに作成された記録の点検を行うつもりだ。
予備審のとき内部監査の記録として3回分あれば十分だろう。

内部監査で問題なければ、ISO審査はOKとなるはず、考えてみれば簡単である。
現実は規定も抜けがあるだろうし、記録の漏れとかあるのが普通だ。まっ、多少はしょうがない。


ところで先月末に施設管理課でISO認証活動を当面しなくて良いと副工場長から指示されたという問題が発覚したが、大野部長がそれを怒り、施設管理課の古田課長を叱責しISO認証に向けて活動を推進させた。
若干スタートが遅れたが、施設管理課のISO対応の活動は進行中であり、現時点元の計画通りの進捗である。

そんなことは副工場長の耳に入っているはずだが、半月の間 副工場長からお叱りもいちゃもんもなく平穏に過ぎた。 副工場長は何を企んでいるのか? あるいは何もしないのか?


*****


同じ頃、ここは本社の生産技術部の小会議室だ。
本社の當山と福島工場の尾関副工場長が話をしている。副工場長は出張でも作ってやって来たのだろうか?

副工場長本社の當山
尾関副工場長當山
福島工場の副工場長
ドラえもんのジャイアンが中年になった
ような人物で自分が一番偉いと思っている。
本社でISO認証の指導をしている。
お金に汚く、人をだますのも厭わない。
尾関副工場長の子分である。

副工場長 「おい、當山、俺に恥かかせるなよ」

本社の當山 「そんなつもりはありません」

副工場長 「俺はな、お前が一流ではなくても人並みとは思っていたんだ。
ところがどうだ、ISO認証の指導に行っている工場では総すかんだっていうじゃないか。
正直言って、お前がそれほどバカだとは思わなかった」

本社の當山 「まあ、合う合わないもありますし」

副工場長 「俺はな福島工場内で本社の指導を受けるようにとあちこちで発言していたが、もう笑いものになっているぞ。
だいたいキックオフであんな御大層なことを工場長の前で語っては心証悪くするだろう。工場長はすぐによその工場長に電話してお前のことを聞いていたぞ。
工場長自身が、他の工場からお前の行状を聞いているからもう隠しようがない。
もう福島工場は本社の指導を受けないとしている。

叱る
そして4月から審査を受ける工場が出始める。お前が指導した工場で不適合はともかく認証できないところが出たらもうダメだ。
千葉工場が指導受けるのを途中で止めて、福島工場が指導を依頼しないときて、そんなことになると信用はゼロだ。

これからISO認証しようとしている他の工場や関連会社合わせれば100事業所はあるだろう。それがパーになる。そうなりゃ、もう本社の指導を受ける工場も関連会社もないだろう。
お前の評価も下がるだろうが、本社の評判も落ちる、責任重大だぞ」

本社の當山 「私も一生懸命やっております」

請求書

副工場長 「問題は二つある。
ひとつは売り込みが強引すぎる。
先日の福島工場のキックオフで何を指導したのか分からんが30万の請求書が来て、わしは工場長から本社に頼むなと言われた。
もちろん請求されても払うなとも言われた」

本社の當山 「こちらでかかった費用は請求しないとなりません。私と山口君の人件費、出張旅費、我々が受けた外部講習会の費用などを回収しようとすると……」

副工場長 「あのな、商売は原価ではないんだ。市場価格ってのがあるだろう。お前が受けた講習会と同じものを工場の連中だって受講できる。
ならば本社の指導を受けず、そっちを受けた方が良いと思うのがいるのは当然だ。

それからいろいろ耳に入って来るのだが、千葉工場が指導を断っても毎月指導料を請求しているそうじゃないか。理屈に合わないだろう」

本社の當山 「でも我々がかかった費用は回収しないとなりません」

副工場長 「お前の考えは自分中心なんだ。工場から見たら受けてないサービスの費用を払うことが理不尽だと思わないか?」

本社の當山 「じゃあ、どうすれば良いのですか?」

副工場長 「それこそがもう一つの問題だ。良い指導をしろ。相手がお金を払った甲斐があったと納得させる指導をしろ。断られたらお金を請求するな。

当面はまず4月から審査を受ける工場が、問題なく認証されるよう、工場に常駐してでも指導することだな。
ああ、千葉工場はいかなくて良いぞ。差別化できれば非常に良い。千葉工場が不合格になって、兵庫と長野工場が合格なら、本社の指導は価値があると皆が認めるだろう」

本社の當山 「福島工場はどうしましょう?」

副工場長 「お前、佐川って奴に会っただろう?」

本社の當山 「会いました。非常に詳しい人ですね。規格も完璧に理解しているようですし、審査を見たはずないのに詳しいので驚きました」

副工場長 「お前が驚くようでは困るぞ。あいつは福島工場では落ちこぼれだ。他の工場にはもっとすごいのがいるだろう。そういう奴を感心させなくてはいかん。

とりあえず計測器管理でも設計管理でも良いから、これは絶対だと思える規定を持って行って、福島工場に現状ではダメだと認識させろ。お前を頼らなければISO審査に合格しないと思わせることだ。
そういうことを積み重ねれば自然に客は付く」

本社の當山 「はい、それじゃ我々がみて完璧と思える規定を持って行って、福島工場の規定と比較してダメ出し……いや指導して向こうに未熟を認識させると」

副工場長 「まさかそれもできないなんてことはないな。
くどい様だが京都工場と兵庫工場には、審査前は1週間くらい泊まり込んで問題がないようにしろよ」

本社の當山 「分かりました、そのように頑張ります」



*****


数日後、福島工場品質保証課である。今日は本社の山口さんが規定の打ち合わせに来るという。
猪越課長も佐川も、来るなとは言えないが、会う必要がないと断ったのだが、ISO審査で絶対に問題を起こしたくないので検討している。話だけ聞いてくれという。そして山口さんだけで當山さんは来ない、もちろん指導料など言わないという。
猪越課長は相手に押し切られた形でOKしたものの、本人は会わず佐川に対応しろという。

というわけで、今佐川は会議室で山口さんと対面で座っている。会議室なのは秘密というよりも、もめたとき周りに見られないようにという配慮だ。




佐川真一 「せっかくお見えになったのですから、こちらの状況をお話しておきましょう。
進捗は、昨年末に作った計画通り進んでいます。我ながら実施事項や負荷の見積りはよく考えたものだと自負しています」

本社の山口 「佐川さんは既にISO認証を経験されたような感じですね」

私、佐川真一 「まだ認証が始まったところですから、そんなことはあり得ないですが、そう言われるとうれしいですね」

本社の山口 「審査を体験せずに、どのような方法で学んだのですか?」

私、佐川真一 「新しいことにチャレンジするときは情報収集に努め、目的を達する方法をいろいろ考えるのですよ。
そして考えたことをWBSでも何でもいいですが書き出し、親子関係、相互関係をしっかり図にする。すると全体のフローがビジブルになります。
当たり前のことしかしていません」

本社の山口 「当たり前のことを実行できないのですよ。私は今も右往左往しています。
ええと、こちらの話をさせてもらいます。
生産技術部長がISO指導している工場から、生産技術部の指導が的外れ、役に立たない、手戻りが多いなどの苦情を聞いて、やり方を見直せという指示がありました」

私、佐川真一 「そういう声が届いているんですか?」

本社の山口 「ここだけの話ですが、當山さんも自信過剰のわりに地道に勉強していませんから」

私、佐川真一 「経緯は分かりました。ということは、今後は素晴らしい指導を期待できるということかな?」

本社の山口 「そう考えています。やり方を見直せという指示を受けて、當山さんと二人で考えた案としては、ISO規格対応の完璧な規定類のサンプルを作って提供するというものです」

私、佐川真一 「なるほど、そういう雛形があれば有用ですね。もちろん審査でOKになるという保証は欲しいですが」

本社の山口 「現時点それは無理です。まだ誰も審査を受けていませんから、要求事項ひとつとってもどこまでやればOKかというのが分かりません」

私、佐川真一 「まあ何度も審査を受けて経験を積むしかないですね。
ともかくそういう雛形を持ってきたわけですか」

本社の山口 「急な話ですので1件だけです。計測器管理規定の案を作ってみました。どこの工場でも計測器管理の規定はあると思いますが、これは従来のものの改良ではなく、ISO規格からスタートして書いてみたものです」

私、佐川真一 「ええと、本日の目的は、私がそれを読んで論評すれば良いのですか?」

本社の山口 「そうです、そうです。ぜひ忌憚のない意見をお願いします」

私、佐川真一 「初めにお断りしておくけど、これが素晴らしくとも、ウチがこれを採用はできないよ。もう走り出しているからね」


注:ひとつの規定は単独で存在するわけではない。多数の規定がジグソーパズルのように組み合わさって、組織のマネジメントシステムを構成する。だから規定の中身はもちろん、文章の書き方や項番を変えるだけでも他に影響する。

ジグソーパズル

企業で環境担当しているとなじみの深い法律に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以降、廃棄物処理法と略す)がある。廃棄物処理法を引用している法律は54本(注1)もあるから、廃棄物処理法の抜本的改正は不可能だと聞いたことがある。54本の法律はほぼ全省庁に関係するだろう。その調整をとることは不可能に近いだろう。

民法、刑法も完全に書き換えられたがそれについては知らないが、環境基本法は1993年に公害防止基本法から看板をかけ替えたものだが、その際はものすごく大変だったと思う。なにせ公害防止関係の法律はたくさんあるから。

個人的なことだが、当時私は公害防止管理者の通信教育を受けていた。ISO9001はすぐに一巡してしまう、そうなればまた社内失業してしまうと懸念した。当時、ISO14001の検討が始まったのは知っていたから、そのためにも公害防止管理者のひとつやふたつ資格を取っておかないとと思ったのだ。
最終的には全種目を取ったが、ISO認証の指導とか審査でははったりが効いた(笑)


本社の山口 「それはやむをえません。これからISO認証する工場や関連会社がありますから、そういうところで採用してもらえたらと思います」

私、佐川真一 「了解した。読むのに1時間は欲しいかな、ちょっと待ってね。あちこち歩かれると困るんで、この事務所にいてくれるかな。
猪越課長がいるかな?
ああ、いるようだ。それじゃ本社の生産技術部がハンドルを切った経緯でも説明していてよ。その間に読ませてもらう」




本社の連中の自信作のようなので、佐川も興味を持って読んだ。
だが1ページ読んだだけで、ダメだ、こりゃと感じた。

書き出しだすごい。計量法に基づきとくる。文字通り読めば、計量法を展開したということなのだろうか? だが会社の計測器管理は計量法と直接の関係はない……というか目的が全然違う。計量法は国の視点だし、主観点は『取引』に使用することだ。彼らは計測器ならすべて計量法という発想なのだろうか?

まず計測器管理を統括するものとして、計量士(注2)を置くとある。ウチの会社に一般計量士なんているのかな? 仮にいても資格マニアじゃないのか? だって実務と関係ないだろう。

これは何か元ネタがあったのだろうか?
1時間と言ったものの30分も見ると、それ以上見ても時間の無駄と思う。
課長席をみると雑談ぽいから声をかける。

私、佐川真一 「すみません。課長のお話一段落ついたところで、山口さんと話したいのですが」

猪越課長 「ああ、こちらは雑談だ。今からでもいいよ。
佐川君の論評なら、私も参加したいな」


山口さんはコピー1部を課長に渡して自分の分も持っている。じゃあ、話をしようか。

私、佐川真一 「一読してかなり大がかりなものと感じました。それが企業の計測器管理の手順書としてはどうかなと思います」

本社の山口 「どんな点がどうなのかをお聞きしたいですね」

私、佐川真一 「この規定を書くとき何かを参考とかしましたか?」

本社の山口 「ネットにISO対応規定集とかいろいろありますので、いくつか見て良さそうなものを基に書いてみました(注3)

私、佐川真一 「なるほど、まず一般論ですが、どの工場でも過去より、名前はともかく計測器管理のルールというものがあるわけです。
そのままではISO要求事項をすべて満たしていないかもしれない。でも少し加除修正すればISO規格要求を満たすとは思いませんか?」

本社の山口 「実を言って當山さんの意見でしたが、規格要求を満たすために現在の規定を修正するのは新味がない。全く新規に大局的なことから書き起こした方が、皆の注目を引くとのことでした」

私、佐川真一 「大局はいいけど、この規定案をみると実態と相当違っていると思う。
計量士をおくとなっているけど、当社で計量士って何人いるの?
法律では社内の校正作業に計量士はいらないでしょう?」

本社の山口 「正直言って計器管理なんてしたことないので、計量法を会社の中で展開したらどうなるかと考えました」

私、佐川真一 「う〜ん、気持ちは分かるけど、実態とかけ離れているなあ〜」

猪越課長 「佐川君はここに来る前に、計測器管理なんてしたことあるの?」

私、佐川真一 「い〜え、まったくありません。昨年の11月に異動になって桜庭さんから品質保証課の切羽詰まった問題を聞いて、仕事の内容とか問題を知るために、工場の規定を読んで担当者のヒアリングをしただけです」

猪越課長 「今回は計測器管理規定も見直しただろうけど、そのとき従来からの規定を一部修正なのか新規書下ろしなのか、どちらだったの?」

私、佐川真一 「もちろん具合の悪いところを小規模な修正で対応しています。実を言ってほんの数カ所の改定で間に合いました。
次になぜなのかという質問が来るでしょう。規定というのも歴史があります。過去に問題があって修正したとか、システム、システムと言ってもコンピュータと関係ない会社の組織改造とか業務の分担の変更などによって、改定を重ねてきた歴史があります。

そういう積み重ねで最適化されてきたはずです。 実際、規定の最終ページに改定欄があります。過去の改定内容と理由を読むと規定の理解が深まります。
そういうものを、捨て去って良いとは思いません」

猪越課長 「規定を読めば仕事の内容と手順だけでなく、工場の計測器管理の歴史が分かるというわけか?」

私、佐川真一 「そうです。そして歴史を学ぶことは政治や経済だけではありません。自分の仕事がいかにして今の形なのかを知らずに改善はできません。

爆弾

品質保証に来て品質保証の歴史も学びました。爆撃機に積んだ爆弾の不発をいかに少なくするか、命のかかった研究から始まったわけです」

本社の山口 「爆撃機ってなんですか?」

私、佐川真一 「割と有名な話です。勉強のためにネットをググりなさい」

猪越課長 「規定を勉強するには規定の改定欄を読む、品質保証を知るには発祥を訪ねると……なるほどなあ〜。たかが手順書されど手順書、手順書はいかにあるべきかとなるとたくさんのパラメーターがあるわけだ」

私、佐川真一 「ISO規格にも、『手順の範囲及び詳しさは、業務の複雑さ、適用される方法、業務の遂行に関係する人々に必要とされる技能及び訓練によって異なる』とありましたね」


注:実はこの文言はISO9001:1994版4.2.2bに載った文章である。ここでは佐川が過去の改定版の違いを忘れて語ったことにしよう。
そういうところがないとつまらないかと思って入れ込んでみた。

本社の山口 「あのう〜、手順書ってどういう意味ですか? 手順を書いたもの?」

私、佐川真一 「聞くは一時の恥だから何でも質問すれば良いよ、嫌みじゃないけど我々はお金を取らないから。
ISO規格で手順書というのは英語でprocedureという語を翻訳したものだ。法律を読むと『手順を定める』という記述を見るでしょう。それは同じ意味ですね」

本社の山口 「結局、手順を決めたものが手順書ということですか?」

私、佐川真一 「Procedureの語意は仕事の要領とか手順をいうけれど、法律では会社の規則を意味するようです。日本の法律でも『手順を定める』というのも同じく会社の規則を作ることを意味します」

本社の山口 「規格で『手順を定める』とあるのは規則を作れということですか?」

私、佐川真一 「そうです。もちろん会社全体の規則もあるだろうし、工場の規則とか課とか部の規則も含むでしょうね。
それと規格の言葉は辞書の一般的な意味ではなく特別な意味を持たせていることが多い。
例えば「定める(define)」はISO9001では「文書を作る」意味で、「確実にする(ensure)」は「記録を残す」意味である。


注:上記には異論があるかもしれない。だが2000年改定まで、審査の場では審査員はそう解釈し「定めるとあるのだから……」と文書を要求した。
その後、規格改定で文書を減らす方向に舵を切った。とはいえ実際に文書が減ったというわけではなく、規格は文書を要求していませんよという姿勢をとっただけのようだ。

私、佐川真一 「ただISO認証範囲の外で制定した規則は、ISO認証においては、法規制やその他の要求事項として従わなければならないものとされるだろう。だからそういうものは規格でいうprocedureには入らないと思う」


規則のハイラルキー
種類決裁者呼び名の例
会社の規則重要なものは社長/多くは担当役員会社規則/規程/規定など
矢印
工場の規則重要なものは工場長/たいていは文書担当部長工場規則/工場規程/工場規定など
矢印
部のルール部長執務要項/部規定など
矢印
課のルール課長執務要綱/要領書など

注:上位にあるものが下位に優先する。上位規則で間に合う場合、同じことについて下位規定を作らない。
親のない下位文書を作らないのが正しいが、世の企業では親なし規定は非常に多い。法律がなくて施行令があるようなものだ。もっとも自治体にも似たようなものはあり、裁量行政となりやすい。

本社の山口 「なるほど、組織の外で定めたものはそうでしょうね。組織は改定できないし」

私、佐川真一 「それらの呼び名は会社によって、規則とか規定とか呼称はいろいろだから、法律とかISO規格では、範疇語として手順あるいは手順書を使う。

ISO規格では4.11cに、establish, document and maintain calibration procedureとありますね。
ここで勘違いしてはいけないのは、establishって今改めて制定することではなく、過去から会社にあったものでもいいわけですよ。過去からあればそれでよく、今までなければ作ることになる。規格が現在形だからと認証に備えて制定しなければならないわけではない」

本社の山口 「それは従来からの規定を使うべきということですね」

私、佐川真一 「そうなんですが……使うべきというより、使わねばならないというか、使うのが当たり前だと思いますね」

本社の山口 「変なことを思ったのですが、そうなるとISO認証によって、会社が良くなることはないということになりますが」

私、佐川真一 「当たり前でしょう。タイトルにISO9001は品質保証の国際規格って書いてあります。そして本文のどこにも会社を良くするとはありません。
過去より客先から『品質保証協定を結ばないと商売しません』と言われて、受注するためにそれに対応してきたわけです。そのとき品質保証協定を結ぶことで会社が良くなりますか?」

本社の山口 「えっ、えっ、それってどういうことですか?」

私、佐川真一 「ISO認証という制度は新登場ですが、ISO規格の中身は新しい思想ではありません。
そもそも、客先によって品質保証協定が異なると売り手は面倒で困る、じゃあみんな共通の品質保証要求事項にしたら楽になるじゃないかと、国際標準を決めたのがISO9001です」

本社の山口 「ISO9001ってそういうものだったのですか?」

猪越課長 「おいおい、じゃあISO9001ってどんなものだと思っていたのかな?」

本社の山口 「認証した企業の製品品質が良いとか、品質を保証するとか」

私、佐川真一 「品質保証って何ですか?」

本社の山口 「品質保証ですか? 良い品質であることを保証することでしょうね」

私、佐川真一 「猪越課長は品質保証の意味をご存じですよね?」

猪越課長 「そう言えば去年、君にならったね、ウチはしっかり物作りをしているから安心して買えって意味だったよね」

本社の山口 「まさか〜、それって冗談ですよね」

私、佐川真一 「いえいえ、その通りです。上品に言えば、相手を安心させることかな、言い直しても意味はまったく同じですね。要するに商取引上の条件を満たすことですよ。

ちょっと考えてみて、客がお宅の会社を良くしてくださいって言うかい?
客は安くて良い品を買いたいだけだ。
会社を良くするという意味も分からないけど、客はウチの会社の株価が上がろうと福利厚生が良かろうと、関心はないよ」

本社の山口 「というとISO認証のためには最小限の労力で済ますことがベストということ?」

話し合い

猪越課長 「ベストというよりマスト(must)ということだろうね。私企業は無駄を嫌う」

本社の山口 「ということは私たちがISO認証で指導していたことは、少し方向が違ったようですね」

猪越課長 「失礼だけどISO規格や認証の意味を理解してなかったんじゃないの?」

本社の山口 「実を言って當山さんと、半日のISO9001説明会を聞いただけなんです」

猪越課長 「よくそれで大金を取って工場を指導しようって気になるね」

本社の山口 「元々は生産技術部の今年度の計画になかったのですが、當山さんが新分野を開拓しようと言い出して、ISO9001認証の指導を生産技術部がして指導料を稼ぐことを考えたのです。
部長もそれに乗ってしまって……正直言って今、部長のところに苦情が殺到しています。ご存じかもしれませんが、おたくの工場長からも半月ほど前に部長のところに電話があったそうです」

猪越課長 「あのときかな?」

本社の山口 「何かあったのですか?」

猪越課長 「君も関係しているよ。ここでキックオフしたとき、當山さんと君が来ただろう。あのとき指導も何もしてないのに1週間後に30万円の請求書が来た」

本社の山口 「やはりそうですか。ウチの部長が、お宅の工場長に何もせずに請求するとはいい商売だなとすごまれたそうです」

猪越課長 「アハハ、あの工場長らしいよ」

本社の山口 「前回、お宅を訪問したとき、佐川さんから一人一日15万は高いと言われましたが、おっしゃる通りです。ましてや半日の講習会を聞いただけの人間が、指導できるわけないですよ」

猪越課長 「この佐川君はISO認証の経験はないが、ISO規格を自家薬籠中の物としているよ」

本社の山口 「私も前回も今日も不思議に思っているのですが、佐川さんはどのようにしてISO規格とか審査についての知識を身に付けたのですか?」

私、佐川真一 「規格を読んだだけだよ。それと三段組を作った(注4)その過程で理解は深まったね」

本社の山口 「三段組とは何ですか?」

私、佐川真一 「三段組とは、元々は法律を理解するのに三列のマスを作って、法律の条文、その解説や説明、参考すべき他の条文や下位規定を書き込んだものです。勉強のためには自分で作ればよいですが、主要な法律は三段組を本にして市販されています。

それと同じく、ISO規格、解釈、対応する工場の規定や記録の名称を記載して、それを勉強するのです。
何十辺も読み返していると頭に入ってしまいます」

本社の山口 「ここではISO規格の三段組を作ったのですか?」

猪越課長 「もちろんさ、A3サイズで10数ページになる。全管理職とか担当者に配布している。
山口君はすぐにくださいというだろうけど、渡せないよ。こういうものは自分で作らないと」


猪越課長は自分のものを見せて言う。

本社の山口 「はぁ〜、これはすごい。本来なら私たちが作って工場に提供しなければなりませんね。そういうことをしていれば喜ばれたんだろうなあ〜」

猪越課長 「佐川君は作るのに何日もかかったね?」

私、佐川真一 「2週間はかかりましたね。規格をワープロ起こしするのは半日ですが、関係する工場規定を探し該当項番を探し、記録を探し、既存のもので規格を満たすかどうかの検討もしましたから。

そういう意味では本社が作って工場に提供はできない。規格本文の列とその説明の列だけ入れ込んで、工場の関連する規定や充足しているかは工場で埋めろと言ったほうが双方勉強になると思う

本社の山口 「こういうことを知っていればなあ〜、佐川さんにISO認証指導をしてほしいですよ
今回お邪魔したのは、本社が規定の雛形を作って提供しようという発想でしたが、その発想も間違いではないにしてもお門違いだったのですね」

猪越課長 「自ら新ビジネスにチャレンジしたのだからやり遂げないとならないよ
我々はISO9001認証なんて片手間仕事なんだ。品質保証もしっかりとあるし、計測管理も日々しなければならない。
君たちはISO認証の方法を指導することが仕事なんだからできるはずだし、やらねばならない」

本社の山口 「悩みはいろいろあるのですよ。
當山さんはもうやる気がありません。今まで指導した工場の予備審査が来月から始まります。もう半月しかありません。
工場からは大金を払って認証できなかったら責任問題だと脅されています」

猪越課長 「そりゃ当然だ。一人一日15万は大金だよ。当然払った方は成果を要求する」

本社の山口 「當山さんは山師なんですよ」

猪越課長 「山口君は、工場からお金なんてもらってないんだろう?」

本社の山口 「ああ、當山さんの話を聞いてますか。私はもらっていません」

猪越課長 「それがいい。あれは犯罪だぞ。若い君が人生を棒に振ってはいけない」

私、佐川真一 「山口君、老婆心ながらというと聞きたくないことと決まっているけど、一言忠告するよ。
事ここに至ったら、規定など考えている場合じゃない。何も考えずに審査を受ける工場につきっきりで要求事項の充足確認とか記録の欠落などないように点検し対策することだよ。
そういうことをしっかりと手伝わないとまずい。
審査前には泊まり込みでそうするのでしょう?」

本社の山口 「いや、考えていませんでした。もちろん審査には立ち会うつもりでしたが……」



うそ800 本日の反省

書こうとするとどんどん左右に広がっていってしまい、このままではISO審査員との対決までたどり着くかどうか心配です。 なんとか端折るというか、わき道にそれないように努めます。



<<前の話 次の話>>目次



廃棄物処理法を引用している法律の例として
健康保険法、地方自治法、児童福祉法、あんま、マッサージ、指圧師、はり師、きゅう師に関する法、食品衛生法、理容師法、墓地、埋葬に関する法、温泉法、興行場法、旅館業法、公衆浴場法、医療法、土地改良法、社会教育法、身体障碍者福祉法、図書館法、生活保護法、クリーニング業法、狂犬病予防法、社会福祉法、公営住宅法、博物館法、道路法、ここまでで23件、あと31件ある。

上記だけで関係する省庁は、厚生労働省、総務省、国交省、文科省がある。会社の規定で関係する部門が5つ6つあれば触りたくない。だって歩き回って改定案を説明し、意見を調整するなどしたくない。過去1,000本くらい会社規則を作ってきた私が言います。

計量士には一般と環境計量士(濃度)、環境計量士(騒音・振動)と三種類ある。
主たる仕事は商取引に使う測定器の校正、計量証明の測定などを行うものである。
工場で使う計測器の校正をするために必要な資格ではない。

計量士とか環境計量士の資格を試験で取ろうとするととんでもなく難しい。実際に資格を取るには試験合格後、1週間の研修を受けて合格しないとならない。だから普通、計量士合格と言っても試験に合格しただけがほとんどだ。私も40年くらい前に環境計量士の試験を受けて合格したが研修は受けてない。試験の有効期限はなかったはずだから老後のチャレンジに(ナイナイ)

天秤 ところで私の小学の同級生が環境計量士だと聞いて驚いた。が、彼は県庁の環境課職員であった。公務員の場合はいろいろなサムライに簡単になる道が開けている。市職員だと行政書士、税務署なら税理士、市役所や県庁の環境課だと……環境計量士など。田舎にいたとき、いつも秤の検査に来ていた市役所職員が定年になったので、個人で秤の検査をするつもりで是非お願いしますと言われた。

計量士は試験が難しいわりに収入が低い。これも謎だ。

なお、校正技能検定というものは、印刷物の校正を行う検定である。

種々の規定のサンプルはネットにたくさんある。
例を挙げようかと思ったが、恨まれると困るから具体的なURLは挙げない。

私は顧客からの品質保証要求があったとき、情報を整理するために自分で考えてそういうことをしていた。特に習った覚えはない。
1994年だと思う、関連会社の認証を指導したとき、それを作って空欄を埋めろと言ったらトントンと進んだ。おお、これは良い方法だと気が付いた。





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