タイムスリップISO35 転勤話

24.11.21

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは




長野工場の予備審査の翌日から、ゴールデンウイークだ。佐川は本社に寄らず、長野工場から直接自宅に帰った。
福島工場のゴールデンウイークは、組合と会社の協議で4月29日から5月9日までの11日連休だ。

設備搬入

連休となると、新設備導入があればその搬入・設置と、導入部門と設備管理部門は大忙しになる。新設備導入がなくても、設備の点検、建屋の修理や清掃などを行うこともある。

連休に組合員を出勤させるには、組合と特別協定を結ばなければならず、話し合いは毎度すんなりと行かず、最終的に管理職が出ることになるのが常だった。昨年まで佐川は管理職だったので、佐川も漏れずに連休は工事の立合をしたものだ。
でももうヒラの身ですから休ませてもらいますよ、娘たちと遊ばないとならないし、と佐川は思う。



*****


連休は休むと言いながら、初日の29日は祝日出勤して、長野の予備審の首尾を報告書にまとめると、本社の野上課長と福島工場の猪越課長に、CCを山口氏に送る。

庶務の福井さん
佐川さん、休ま
ないで来てね💓

ついでにメールチェックすると、本社生産技術部の庶務の福井さんからメールが入っている。彼女とは挨拶以外、話したことがない。何か不吉な予感がする。

開けてみると、予感通り不幸のメールだった。
なんと本社は暦通りの勤務だから、4月30日、5月6日と7日は出勤せよとの通知。佐川は応援だから本社の勤務日を知らないだろうと、ご親切にもお知らせしてくれたのだ。

まだ兼務発令もされていないのにと佐川は思う。休出にはなるのだろうか? 本社が休みのとき工場で働かせ、工場が休みのとき本社出勤では割に合わない。
とにかくメールボックスとリアルのINBOXを片付ける。


猪越課長からは、今週のISO認証準備活動の進捗報告が入っている。
それを見ると順調としか言いようがない。もう福島工場では佐川が要らないようだ。もちろん佐川がいれば指導もフォローもメッシュが細かくなるから、全体的に質が向上し、ミスが減るのは間違いない。とはいえ認証するだけなら、そこまで徹底することはないだろう。




そんなことをしていて、午後3時頃、そろそろ帰ろうと思ったときに、猪越課長が出社してきた。来なくて良いのに……

猪越課長 「今日は休もうかなと思ったけど、佐川君からメールがあったので来てみたよ」

佐川真一 「気を使わなくても良かったですよ」
(意訳)出てくるなよ

猪越課長 「先週の兵庫に続いて、今週の長野工場の予備審も順調だったようだね?」

佐川真一 「不適合が二つありました。製造では現場事務所の文書の原本に、誰でもアクセスできるからまずいこと、営業では顧客との電話の記録が5W1Hを網羅してないことでした。
反論すれば、取り消しにできたでしょうけど、正直、どうでも良いかなと思って黙っていました」

猪越課長他人事ひとごとだから? 自分の工場なら反論するわけ?」

佐川真一 「そういうわけじゃないです。指摘が要求事項からはみ出していても、意味のあることなら会社がレベルアップするのは良いことですし、手もかかりませんしね。
それに予備審で不適合が2件なら上出来ですよ」

猪越課長 「次はウチだ。佐川君のスケジュール通りに進んでいるつもりだ。
君から見てどうだろう?」



青

注:月の行で水色に染めたところは日時の経過を示す。


佐川真一 「基本的に三段組を満たしていれば大丈夫ですよ。三段組は、認証計画であり、要求事項充足のチェックリストであり、審査のときのあんちょこです。

自分のところだけでは分かりませんが、私は三つの工場を見てきました。三段組を作ってから作業を始めたここは、一番理屈が通ったアプローチであることは間違いありません。

兵庫工場は具体的に展開するのに要求事項の漏れや重複を考えずに、カットアンドトライで完成度を上げてきました。ですから無駄な作業が多かった。
長野工場は途中から三段組を作りました。ここも兵庫と同じく、何をどこまでしたか、分からない状況でしたから、過不足の点検に有効でした。

でも、それはISOだからということじゃないですね。當山さんが、進捗管理だけでも教えれば感謝されたのにね」

猪越課長 「私は何も考えずに、君が立てた計画をなぞっただけだ」

佐川真一 「マニュアルは提出しましたか? 英文ですよね?」

猪越課長 「うん、英訳は専門業者に頼んだ。イギリスに駐在していて英文の契約書も詳しい二木さんがいるけど、50ページもあるマニュアルの翻訳はしたくないだろう。
1ページ5,000円だよ、総額25万。君から言われて予算は取っていたけど、高いね、


調べてみると、内容によって値段が異なるが、現在では1ページ(1,000字換算)最低で1万円くらいするようだ。30年で倍増している。
消費者物価指数は過去30年で2割アップだから、翻訳料はそれよりはるかに高い。もっとも車の購入価格は同時期に2.3倍に上がっている。まあ、いろいろだ。
cf.新社会人のための経済学コラム50年にわたる乗用車価格の変遷

それから内部監査は既に二巡している。監査員も最初は初心者だけど、攻守ところを変えて数やれば上手くなった。何事も練習だと認識したよ。

内部監査

規定は、期限切れと規格対応の改定をした後、ほぼすべての規定が二回は改定したね。細かい齟齬が判明したり、文言を見直したりいろいろだ。君が改定が発生すると予想した通りだ。
とりあえずスケジュール通りだから本審査時には、実績3か月分はばっちりだ」

佐川真一 「正直言って私はもう必要ないですか?」

猪越課長 「要らないわけではないけど……実は今日、その話をしようとして、会社に来たんだ。
最初、君に会ったとき、大口を叩く男と思ったが、君と一緒に仕事をしてきて4カ月、既に計測器管理とか品質保証とか、ISO認証で成果を出している。
君が優秀なのは良く分かった。だからここにいてほしいと思う気持ちはある。
だけど副工場長との軋轢は、意地を張ることもない。逃げるが勝ちだ。

ざっくばらんな話、本社の野上課長から、佐川君が欲しいと話が来ている。君は本社応援に行って、ひと月で十分成果を出している。
本社で本格的にISO認証の指導をする仕事の方が、君自身にとってやりがいがあるのではないのかな」

佐川真一 「本社の方にも評価されているとは有り難い限りです。この仕事をするなら、いっときの応援より本社所属の方が仕事はしやすいですね。工場の対応から違います。
ただ自分の勤め先がまだ認証していないのに、そういうことがありますかね?」

猪越課長 「福島工場が長野や兵庫より、劣っているとは思わないだろう?」

佐川真一 「正直、ここが今までで一番レベルが高いと思いますよ。
ところでその転勤話の確度はどうなのでしょう?」

猪越課長 「ええと今週の月曜日だった。野上課長から電話で、君を転勤させてもらえないかと話があった。こちらが問題なく君が了解すれば、すぐに動くような話だった。
想像だけど、辞令は早くて6月15日付けくらいかな? いくら急いでも6月異動がせいぜいだろう。もしくは7月16日か?」

佐川真一 「時期としては中途半端ですね?」

猪越課長 「最近は、年度とか四半期に合わせる風潮は少なくなっている。私の異動も元旦の1月1日付けだよ。暦に合わせていたら、世の中に追いついていけないからね。
辞令が6月でも7月でも、夏休み中に引っ越して、二学期から転校なら丁度だろう。
もっとも引っ越さず、新幹線通勤もできるよ。本社は9時始業だから、6時半発に乗れば十分だ。今は朝何時に自宅を出ているの?」

佐川真一 「7時少し前です。となると今より1時間早く起きないとなりません。新幹線通勤は厳しいですね」

猪越課長 「それならフレックスを利用して、勤務時間を1時間後ろにずらすか?」


注:フレックスタイムは日本でも1987年の労働基準法改正で始まった。この物語の1993年には大手企業には広まっていた。


佐川真一 「ご存じのように私は高卒ですが、本社は高学歴社会なんでしょうね?」

猪越課長 「私も本社勤務したことはないけど、気にすることはないさ。会社なら成果第一だ。学歴は関係ない。
當山さんがT大のマスターだと言っていたけど、あれではね。そう言えば當山さんの弟子も、T大のマスターじゃないか?
能力が学歴に比例しないのは立証済だよ、アハハハ」

佐川真一 「なるほど、そう考えると、気にしないでよろしいですか」

猪越課長 「君の顔色を見ていると、もう本社に行くと決めたようだね」

佐川真一 「そうですね、今日帰りましたら家内と相談して、明日にでも課長にメールで返事をします。よろしくお取り計らいください」

猪越課長 「承知した」




佐川は考える。前世とだんだんとずれが大きくなってきている。今のところそれは望ましい方向だ。ダメと分かっていて前世と同じ道を歩むより、結果は分からずとも、常にその時点で最善を選択できることが二度目の人生の価値だ。

こぶし
どうしたものか

ええと前の人生はいろいろあって、会社を辞めて都会に出たはずだ。それは今から6年後だったはず。
尾関副工場長との軋轢は解消せず、どのみちこの会社では先が見えていたからだ。いくらバブル崩壊で外の世界が厳しくても、夢のない飼い殺しはいやだ。
本社に行っても、尾関副工場長の影響はあるだろうけど、毎日顔を合わせるよりは良いだろう。



*****


夕食後、妻の洋子に転勤の話をする。

妻 36歳の洋子 「もう前回の人生とは変わってきたようね。去年、しんちゃんが生まれ変わったと聞いたときは、2000年頃に会社を辞めて転職するような話だったね。
東京に行くのは同じだけど、会社を辞める代わりに転勤で、時期が7年早いところが違う」

佐川真一 「少しずつ人生が前世から変わってきた感じはあった。だけど、ここで大きく変化が起きたようだ。というか自分の言動・行動が変化を引き起こしたのかな?」

妻 36歳の洋子 「しんちゃんの決断で人生が変わるのは分かったけど、その結果、鬼が出るか仏が出るか、どうなるのかなあ〜」

佐川真一 「転勤しても今以上悪くならないように思う。ここにいて上役に嫌われたままでは、早々に関連会社に飛ばされるのが関の山でしょう。また前世と同じく会社を替わるほうが、本社転勤よりリスクは大きい」

妻 36歳の洋子 「しんちゃんは転勤すると決めたのね」

佐川真一 「うん、副工場長のいじめは以前から変わらないから、正直、職場が変わるのは嬉しいね。
しかも、こちらから頼んだわけじゃなくて、向こうから話が来たんだ、ありがたく受けたい」

妻 36歳の洋子 「子どもの学校があるけど」

佐川真一 「まだはっきりしていないけど、課長の話では自分がOKしたら、6月に異動の辞令じゃないかという。するとひと月半は東京通勤で、夏休みに引っ越しという流れかな。
実を言って、今だって家にいるのは週末だけだ。正直言って、今のパターンが今後1年半か2年続くと思ってよ。
前世のように今から7年後に引っ越すより、進学の関係は良くないか?」

妻 36歳の洋子 「そう言われるとそうだねえ〜、じゃあ当面は転勤しても生活は何も変わらないということ?」

佐川真一 「東京近郊が生活拠点になれば、今より出張は楽になる。その分、家にいる時間は伸びる。その分、家庭的には良いと思う」

妻 36歳の洋子 「分かりました。家のこと、子供のことは私に任せなさい。
しんちゃんは仕事をしっかりやってね。
きっとうまく行くわ」

佐川真一 「頼むよ」



*****


1993年のカレンダー

4月5月
29
30
1
2
3
4
5
6
7
8
9

ゴールデンウイークは11日連休と思っていたのが、5連休になってしまった。とはいえ、渡世の義理、仕方なく本社に出勤する。

4月30日の朝、新幹線で東京駅に着く。
段々慣れてきて、まっすぐ本社に行かず、皇居の大手門あたりを散歩する。今日は多くの会社はお休みで、出勤するらしき人はいつもの3分の1もいない。代わりに朝早くジョギングする人たちが見える。
東京のど真ん中にもいいところはあるものだ。家族が引っ越して来たら、月に一回は家族で東京見物をしよう。公園、博物館、名所旧跡、1年は楽しめるだろう。




始業10分前にオフィスに入る。
福井さんに挨拶して、工場の連休分はどうなるのと聞く。彼女のたまわく、工場の連休は有休を三日当てている。だから休まない分、遊休が残りますとさ、

えっ、そうだったの!
じゃ〜、しょうがないのか。
とはいえ、有休休暇なんて毎年数日しかとらず、流すばかりだよ。




始業すぐに野上課長から招集があって、山口さんと長野の出張報告だ。

野上課長 「すると佐川君の指導方法は正攻法だと確認されたわけだ」

佐川真一 「認証機関によって審査方法の違い、規格解釈の違いなども想定されます。まだ英国系と日系の二社しか審査を受けていませんから、経験を蓄積していくことが必要と思います」

本社の山口 「認証機関によって差が出るのでしょうか? 基本的に国際規格ですよね?」

佐川真一 「兵庫と長野の認証機関でも違いがありました。認証機関でなく審査員のバラツキかもしれませんが、規格を日本語で読む審査員と英語で読む審査員がいましたね」

野上課長 「英文と和訳では規格要求が違うのかね?」

佐川真一 「本来は同じはずですが、微妙なところを翻訳しきっていないのです。最終的には英文で判断されます。日本語訳は参考でしかないのです。

例えばISO規格に『legible』という単語があります。英語の意味は『明瞭』とか『判読可能』です。JIS規格では『読みやすく』と訳しています。
審査員は『読みやすく』を『分かりやすく』と解釈していました。それで文章が分かりにくいという不適合を出そうとしました」

野上課長 「『読みやすい文章』と言われると、確かに『文字が明瞭』というイメージはないね。普通は分かりやすい文章を思い浮かべるだろうなあ〜」


注:ChatGTPとCopilotで「読みやすいとはどういう意味でしょうか?」と聞いてみた。
回答は
Copilot
・明瞭な表現・適切なレイアウト・論理的な構成・簡潔な表現
ChatGTP
・「視覚的な要素」文字の大きさ・フォント/行間、段落/色調
・「言語的な要素」簡潔さ・平易な言葉・文法や文章の構造
・「内容的な要素」論理の一貫性・見出し/段落の適切さ・図表や箇条書き
・「読み手の視点」
実用日本語表現辞典
「すらすらと読める、容易に読み進めることができる、といった意味」

どこにも「文字が判読できない」という意味が出てこない。

これって「読みやすさ」とは本来、文章が読みやすいことのようだ。
「legible」を「読みやすく」としたJIS訳そのものが間違いだったことになる。
JIS訳、破れたり

★ISO9001/14001の2015年版も「読みやすく」ですけど、どうしましょ?


本社の山口 「審査員は文章が分かりにくいから、規格の読みやすいに反すると言ったのでしたね」

佐川真一 「そうです。
また英文がdestinationとあるのをJIS規格で『引き渡しまで』と訳したのは間違いで、『目的地まで』が正しいと言われました。確かにDestinationは目的地で、引き渡しではありませんね。
審査員がしっかりと英文準拠で理解しているかも重要です」

野上課長 「そういうのは時が経てば正しい解釈に収斂するとは思うけどね」

本社の山口 「収斂というか解釈が確立するまで、年単位で時間がかかるのではないですか」

佐川真一 「審査を受ける側が是正を要求しないと、間違った解釈が定着してしまう恐れも多分にありますね」

野上課長 「なるほど、佐川君や山口君は、誤った解釈で、当社に余計な負担や費用が掛からないように注意してもらわないといけないね」

佐川真一 「そのように考えております」


山口は何度もうなづいている。

そこに江本部長が登場。
野上課長が、部長と佐川と打ち合わせるからと言われて、山口は席を外す。

江本部長 「福島工場には話をしているのだが、聞いたかね?」

佐川真一 「転勤の話ならお聞きしました」

江本部長 「當山君が問題を起こして辞職して、君がISO認証の指導ができると聞いて、応援を頼んだわけだが……ひと月で局面を動かしてしまったな。君に実力があることは立証された。
それで是非とも本社に来てほしいと考えている。どうかね?」

佐川真一 「はい、喜んでお受けしたいと思います」

江本部長 「おお、それは良かった。
君の了解を得られたら、すぐにも辞令を出したいと考えているんだが、引っ越しとかどう考えているのかね?」

佐川真一 「福島からですと新幹線通勤は可能ですが、腰を据えて仕事をするには、やはり通勤1時間程度のところに住んで働きたいと考えています。
子どもが中2と小5なので、夏休みに引っ越しを考えています。あっ、私は今でも家に帰るのは週末1日か2日ですから、辞令を受けても今と同じ暮らしを夏休みまでするつもりです」

江本部長 「よし、Welcome to headquarters.
福島の予備審が今月、来月は兵庫と長野の本審査だ。仕事はこれで終わりじゃない。認証したい工場や関連会社が列をなしている。頼むぞ」

佐川真一 「頑張ります」



*****


本社は出勤日だけど、ほとんどどころかすべての工場が、4月30日、5月6日と7日の飛び石をつないで連休にしている。
だから出勤しても内線の電話は鳴らず、社外、官公庁と顧客とのやりとりしかない。しかし多くの企業も飛び石をつないでしまっているから、注文が入るわけでもなく本社の空気は緩い。

山口も手持ち無沙汰のようで、佐川が暇している様子を見て話しかけてきた。

本社の山口 「佐川さん、もしよろしかったら話しできませんか?」

佐川真一 「どうぞ、どうぞ、休憩所に行こうか?」


湯気
紙コップ

二人は給茶機で紙コップにコーヒーを注いで、休憩所のスツールに座る。


本社の山口 「佐川さんに会った時から不思議に思っているのですが、佐川さんはISO認証についてどのように学んだのですか?」

佐川真一 「学ぶというか、ひたすら読むことで気付いたとか、理解したことが多いね」

本社の山口 「読むと言ってもISO規格しかないですよね?」

佐川真一 「それだけではないよ。ISO9001の元ネタはイギリスのBS5750と言われている。イギリスでは産業発展のために品質保証規格を作って、それを製造業に限らず非製造業にも認証させたというじゃない」

本社の山口 「はあ、そう言われますね」

佐川真一 「そしたらイギリスの品質保証規格のBS5750は、どんなものだったのだろうと思わないですか?」

本社の山口 「まさか佐川さんはそれを読んだのですか?」

佐川真一 「読みましたよ。
私は高校しか出てませんから大して勉強していません。英語だって詳しくない。高校時代の英和辞典を引っ張り出して読みました。
分からない単語がたくさんあります。出てくるたびに引くわけで、大して数はないと気づきます。それで頻出単語をノートに書き写すと、分からないのは、せいぜい50語くらいでしょうか。

その50語のうち定義のある言葉は、規格の定義を代入する。それ以外の単語は辞書の和訳を代入する、辞書にある言葉といっても、過去に覚えた意味と決めつけるのは危険です。Shallが未来ではなく命令とかありますからね。
最初にそういうISO9001用辞書を作ると読むのが速くなりますね。

そして気づくんですよ。ISO9001のJIS訳は英語原文と違うんじゃないかってね。そう気づくと、ISO9001は英文を読まないとならないと思うわけです。

それから対訳本の後ろに監査の規格があります。あれもしっかりと読むのが大事です。もちろん英文で、
そんなことをしていると、英語の文章を読むのが苦にならなくなります。もちろん話すとか聞くのは全然ですが……
まあ、そういうことをしてISO9001を理解したのかな」

本社の山口 「三段組を編み出したのは佐川さんですか?」

佐川真一 「三段組は、法律を勉強するための一般的な方法です。法律の文章、法文と言いますが、素人はそれを何度読んでも分かりません。
法令読解とか法文の読み方なんていうタイトルの本を読むと、法律の専門用語とか、どのように読むのかの方法、作法とかが載っています」

本社の山口 「ええと、佐川さんはISO規格を読むために、法律を勉強したわけですか?」

佐川真一 「いや、そんなことはありません。元々、私は現場上がりです。現場の人が上昇志向というか、少しでもコーポレートラダーを登りたければ、小さめでも少しずつ資格を取ることです。まずは危険物取扱者、公害防止管理者、電気工事士、そういうものは仕事で即効果を発揮しますからね。

もう少し歯ごたえがあるものとしては作業環境測定士、環境計量士となれば難関資格と言えるでしょう。これからはエネルギー管理士ですかね。
文系なら、行政書士からですか。

国家資格というのは、必ず法規の勉強がつきものです。法律を読もうとすると、学校で習った国語では歯が立ちません。専門語、専門の言い回し、接続詞の意味を知る必要があります。
だから資格試験を受けようとすると、まず法律が読めなくちゃなりません」

本社の山口 「はあ〜、すごいですね。大学を出てからも安穏としてはいられませんね」

佐川真一 「いえいえ、高卒が頑張るのは、大卒のところまで這い上がるためですよ。山口さんはもうそれをクリアしているのです。
ともかくそういうことをしていると、ISO規格を読むのに役に立ちます」

本社の山口 「いずれにしても幅広い知識がないと、裏の裏まで理解することはできないのですね」

佐川真一 「裏なんてありませんよ」



*****


本社人事部である。
下山は、連休の中に二日出勤があるので正直ほっとする。
人事部門は癒着防止とか、従業員から 恨まれる 疎まれることから、短期間で転勤する宿命がある。下山は入社してから26年になるが、今までに勤務地は10回替わった。前々回、たまたま関東支社勤務だったので、これを機会と埼玉に一戸建てを買ったが、2年しか住まなかった。

今年、4月本社勤務になり、もうこれで終わりと予想した。出世すれば取締役人事部長だが、競争相手は20人はいるから、まあ無理だろう。ダメなときは工場勤務はもうなく、関連会社に出向そして転籍というのが、人事すごろくの上りというわけだ。

そんなわけで借り上げ社宅にしていた我が家に、6年ぶりに戻ってきた。
買った当時は、家から高校に通っていた娘は既に社会人で独り暮らし。中学生だった息子も大学生になり、これも一人暮らしだ。だから4人暮らしを想定した家も使わない部屋ばかりだ。

連休は、奥方が部屋のレイアウトを替えようとか、新しいカーテンはどうかしらとか、いろいろ下山を動かすのだ。
そんなわけで会社に来るとほっとする。


懲戒処分を受けた人物
を、わざわざ本社に呼
ぶことはあるまい。
これは要調査だ。
下山さん
人事の下山

連休中に来ているメールを見ていると、本社生産技術部から人事異動の伺いが出ている。人事異動とは人を受け入れるほうが手続きする。出す方はもう知らないってわけだ。

今の時期は珍しい。目を凝らしてみると、なになに……福島工場の佐川真一を生産技術部に呼びたいと、
えーと、佐川、佐川、最近よく聞く名前だ。
そうだ、昨年末に懲戒処分を受けた佐川に違いない。なんでそんな者を生産技術課は引き取るのだ?
これは要調査だな。



うそ800 本日のアドバイス

佐川が言う「現場の人がコーポレートラダーを登るには、手ごろな資格取得から始まる」というのは、私の実体験である。

私は危険物乙4から始まった。資格としては取得者が多くてあまり価値がないが、法律を読む方法を知るには手ごろだ。
試験に合格するだけなら過去問の暗記で済む。しかしまっとうに理解しようとすると消防法を読む必要があり、読んでいけば消防法だけでは足りず、上下左右をたどらねばならない。左右は関連する法律、上はないが下は施行令、省令、条例と広がっていく。

技能士は資格ではないが、現場の人にとって第一歩である。しかしこの試験は法律とは無縁で、法律の勉強にはならない。
文系で行くなら行政書士は手ごろだろう。私は受験したことはないが、周りに受験者・合格者が何人もいた。試験科目に基礎法学というのがあり、法律の読み方について勉強になる。受験しなくてもこの科目のテキストを読むと良い。

いずれにしても、資格そのものが役に立つよりも、資格の勉強の過程で法律の読み方とか、解釈、また行政との関わりなどを知ることができる。
もちろん、その上に何を積み重ねていくかが重要だ。




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わずー様からお便りを頂きました(2024.11.21)
11月21日の赤文字部分のlegibleがregibleになっています。


わずー様 ご指摘、ありがとうございます。
早速訂正しました。
私の英語の実力、バレバレですね。
70にして一層勉学に励みます ← ボケがそれより速いかも?




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