タイムスリップISO44 次なるもの

24.12.23

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは




前回から半年経っています。
   ・ ・ ・
1994年も4月になった。
既に年内で社内のすべての工場の認証はめどが立ったが、ISO9001認証は広まり認証を希望する関連会社も増えている。また佐川の指導の評判が良いことから、認証の相談や具体的な支援要請に来る人は引きも切らない。
そんなわけで佐川と山口の予定表が、白っぽくなることはなかった。


ISOグループ 今週の行動予定
月日101112
佐川 終日
南工場
AM移動
北東電子
終日
東工業
AM移動
西製造
PM
本社打合
AM都内
北工業
PM
福岡移動
山口秋田工場
PM移動
終日
山形機械
山形機械
PM移動
岩手総業
PM移動
AM半休
PM
本社打合
大阪前泊

だが佐川と山口にとって、ISO認証指導は今やルーティン業務である。作業標準ならぬ、指導標準に基づいて、現状調査の後に、三段組を作らせ、ステップを踏んで進むことにより、行ったり来たりも発生せず、途方に暮れることもなく、認証まで一直線に進む単純作業になった。
第1ロットの長野工場(第17話)のように、漂流することは今はない。

もちろん、その組織によって様々な事情はある。事業上の事情、取り巻く環境の違い、経営者・管理者の好み、環境変化による変化、そうしたものは常にあるが、その対応も経験を積むことによりルーティン化した。

変わらないこともある。審査員が未熟なために、問題でないものが不適合にされるとか、その逆もある。そういう場合は、審査を受けた企業担当者と、認証機関に苦情というか指導に行くのである。


ルーティン作業になったとはいえ、その負荷量は大きい。まず並行して認証活動をしている工場の数が違う。それと今は北は北海道から南は九州まであり、移動する時間も大変だ。
佐川と山口は週に4日は出張、出社すれば出張報告、問題発生状況、今後の予定確認、旅費清算、そして既に認証した事業所からの種々の問い合わせへの対応で日が暮れた。
とはいえ当初のような夜討ち朝駆けはなく、せいぜいが土曜出勤止まりで日曜出勤はほとんどなくなり、佐川は家庭サービスできるようになった。



*****


本社の小会議室、佐川と山口が話し合っている。

本社の山口 「認証活動ももう標準化されてしまいましたね。もう悩むこともありません。社内の工場の認証が完了すれば、一人で間に合うかもしれません」

佐川真一 「どんな仕事でも標準化し手順を定めるのは基本だから、ISO認証指導方法は標準化が完了したと言えますね。
山口さんは、その次をどう考えていますか?」

本社の山口 「その次とおっしゃいますと?」

打ち合わせ

佐川真一 「これからはISO認証指導が標準化されたから誰でも指導できるどころか、指導手順を見れば指導もいらなくなるはずです。いやもうなりつつあるでしょう」

本社の山口 「でも、書店では『ISO9001マニュアル事例集』とか『ISO認証のテキスト』とか題する本が並んでいて、けっこう売れているようです。
認証指導はまだまだ需要はあります」

佐川真一 「巷ではそうかもしれないけど、社内の工場は今年いっぱいか、遅くとも今年度中には終わりでしょう。関連会社の認証も1995年中に完了してしまうと思います。そうなると、もう当社グループではISO認証指導という業務はおわりです。

となると私たちの仕事は、一人で間に合うどころかゼロになってしまいます。私は工場に戻るのもありかもしれませんが、山口さんは新しい仕事を見つけなければなりません」

本社の山口 「えっ、そうなりますか? 来年一杯は今の仕事がひとり分あると思っていました」

佐川真一 「グループ企業だけが相手ではいずれは終わりですね。とはいえグループ企業以外を相手にコンサルをするのは、当社本来の業務ではない。だから次なる仕事を考える必要があります」

本社の山口 「そういう佐川さんは既に考えがあるのですか?」

佐川真一 「あるとも。環境マネジメントのISO規格というのを聞いたことありませんか?」

本社の山口 「いえ、存じません」

佐川真一 「一昨年1992年にブラジルのリオデジャネイロで、国連環境開発会議というのが開催された。覚えていないかな?
私の記憶にあるのは、日系カナダ人のセヴァン・スズキ(注1)という12歳の女の子が、地球を救おうって演説した。私は英語が不得手だけど、それでも分かる平易な英語の渾身のスピーチだった。

おっと、まあ、それはどうでもいいけど、そのリオ会議で決定されたことの一つに、企業など組織の環境マネジメントについてのISO規格を作るというのがある」

本社の山口 「環境マネジメント? 環境管理ですか?」

佐川真一 「数年前まで英語で『Environmental management』という語は『公害防止』と訳されていた。公害が騒がれていた時代は、ばい煙対策とか排水処理がメインだったからね。最近では省エネとか廃棄物削減など範囲が広まったからか、『環境マネジメント』とか『環境経営』なんて訳している。まだ定訳は決まっていないようだ。

どうも私の話はそれる一方だ。ともかく趣旨としては、企業なり団体なりが事業を進める上で環境に十分配慮しなければならない、そのために会社が具備すべき仕組みというか機能を定めた規格らしい」

本社の山口 「ええと……それはどういう関係が?」

佐川真一 「その規格を来年1995年までに作る活動が進められている。日本からもその規格を作るための委員が出ている。ISO9001を作るとき、日本は『我が国の品質は世界一』と驕っていて参加しなかった反省から、一生懸命らしい。
となると、もうその先は見えたろう?」

本社の山口 「分かったような気がします。ええとISO9001は品質保証の標準化を図ったもので、元々は認証を考えていなかった。だけど、お金儲けを考えた人たちが、それを使った認証制度を作り、EU統合の際に国境を超える条件に採用され、その結果、世界的に大流行したと……
そこから考えられるのは、環境管理の規格ができれば、その規格を使った認証が始まる……となればその認証指導ですか?」

佐川真一 「そうそう、そして日本ではISO9001では欧州統合で認証が必要になってアタフタしたから、その反動で次は規格制定・即スタートダッシュだろう。

ISO9001が欧州への輸出などで必須な企業が認証するのは当然だが、今は認証すると優良企業と誤認されていることを見れば、環境ISOもそういう扱いになるだろう。
そして規格の対象が環境だから、製造業だけでなく非製造業や行政機関、更には学校やNPOまで認証するだろう。
そんなことを言えば予言者と思われるかもしれないけど、間違いないよ。

ええと、規格制定が1995年目標というけど、これに限らず計画は予定通りできないことになっている。だから実際には1996年だろう。
まだ時間があると思うかもしれないが、2年後だ。今から環境マネジメントを勉強しておけば、そのとき即座に社内の認証を請け負いますと言えるよ」

本社の山口 「でもISO9001の指導にあたっては、最初は右も左も分からず右往左往しましたが、規格を理解すれば、必要になる知識はそんなになかったですよね。計測器管理にしても統計的手法にしても、その中身を知らなくても認証の指導はできました。
せいぜい規格の記述を、個々の仕事に当てはめるにはどのように解釈するかくらいでしたでしょう。それも知識がなくても知恵で対応できたと思います」


注:知識と知恵は違う。知識は体験による事実、見聞から得た情報、訓練や才能で身に着けたスキルなどをいう。知恵は知識を判断や行動に反映できる能力をいう。
クイズは知識を問い、パズルは知恵を問う。常識とは知識ではなく知恵を言う。


佐川真一 「品質保証と環境管理の違いは大きい。品質保証は管理技術だから、製品の違いを気にしない。提供する製品やサービスに関する固有技術は別概念だ」


品質マネジメント
固有技術管理技術職業倫理
製品・サービス対応品質保証
プロジェクト管理など
環境マネジメント
固有技術管理技術職業倫理
排水・排ガス・環境設計などISO9001を内包

注:ISO9001の守備範囲と環境マネジメント規格の守備範囲を赤い背景で示す。図のように、ISO9001とISO14001の守備範囲は全然違う。

上図は当たり前のことでしかない。過去よりISO9001の序文には「この規格で規定する品質マネジメントシステム要求事項は、製品及びサービスに関する要求事項を補完するものである(ISO9001:2015 序文0.1一般)」と記載されている。

多くの人はそれを理解せず「ISO9001は固有技術を含む」と考えている。そういう発想だとISO9001で品質を良くする効果を求める。品質を良くするのは固有技術である。品質保証は管理技術のひとつにすぎず、固有技術の適用を効果的にする意味しかない。

ISO9001も2000年版以降は「品質保証」から「品質マネジメント」に進化したという人もいる。しかし固有技術は全く含まないし、職業倫理についてもリーダーシップ、コミットメントの項でも実のあることは書いてない。


佐川真一 「図に書いたように、環境マネジメントは品質保証を含めた大きな範囲を対象にしている。だから環境マネジメントでは製品や工場の環境負荷の実態とか、工場の公害防止や廃棄物に関する法律を理解してないと指導ができない」

本社の山口 「そうなりますと、私は環境問題とか法規制なんて知りませんよ」

佐川真一 「それは言い換えると、公害防止とか廃棄物処理あるいは省エネ設計をしていた人たちが環境マネジメントを認証しようとしても、同じことになる。
ならばISO9001認証の指導経験があれば、環境ISOの認証指導できると売り込めるわけだ。
そして我々には、固有技術や法規制を勉強する時間が2年あるということさ」

本社の山口 「おっしゃることは分かりました。でもまだ規格ができてないなら、何を勉強したら良いのか分かりませんよね? 規格が制定されてからスタートでは、そういった人たちと同時です」

佐川真一 「だができることもある。私が考えているのは、まずは環境について勉強すること。手っ取り早いのは、環境関係の資格を取ることだ。
具体的には、危険物取扱者、毒物劇物取扱者、公害防止管理者、特別管理産業廃棄物管理責任者、環境計量士、作業環境測定士、エネルギー管理士、技術士(環境)などが考えられる。
おっと今言った最後の4つは、何年も勉強しないとならないから、目指すことはないよ。
ともかくそういう資格を二つ三つ取っておくと固有技術に関する知識が付く」

本社の山口 「正直、今まで資格を取ろうなんて思ったことありませんでした。環境マネジメントの認証指導をするにはそういう資格が必要なのですか?」

佐川真一 「必要かと言われると必須ではない。だけど環境管理となるとある程度、公害防止とか廃棄物処理あるいは製品に関する法規制などを知らないと、そもそも指導ができない」

本社の山口 「分かりました。」



*****


5月になった。本社 生産技術部の小会議室である。
今日は佐川と山口が、ISO認証事業の今後についての計画を立てたからと、野上課長へ説明している。

佐川真一 「現在、山口さんと私でISO9001認証支援を行っておりますが、当社の工場はあと半年、当社グループの認証指導もあと1年半、来年度末には終了する見込みです」

野上課長 「認証事業はそれでおしまいということか?」

佐川真一 「お待ちください。本日のテーマは、それからどうするのかということです。
ISO9001が一巡したからと、認証支援の仕事を店仕舞いすることはありません。というか既に新たな仕事が控えています。

ISOの規格検討状況(注2)を見ますと、環境マネジメントの規格を策定中です。一方、世の中の動向を見ますと、世界的なフロン規制(注3)もあり、国内的にも化学物質規制がいろいろ検討されています(注4)

このような状況ですから、今後環境マネジメントのISO規格が制定されれば、当然その認証が企業に求められると考えられます。
ということで今からその対応を検討し、ISO規格制定時から即認証活動に入れるよう準備することが必要です」

野上課長 「なるほど、世の中の動きはそのようだな」

佐川真一 「それで山口さんと検討したものですが、その計画を説明いたします」


佐川は、環境ISO認証のための計画を説明する。
現在ISOが検討中の環境のISO規格は、ISO9001がBS5750を基に作られたと同じ流れで、イギリスの国家規格(JISに相当)である環境管理規格BS7750を基に、ISO規格を策定中で、制定は多分1966年頃であること。

環境のISOの中身は不明だが、今手に入るBS7750を研究すること、またイギリスの現地工場がBS7750を認証していればその情報を収集すること。

今後、業界団体の環境部会で環境ISO対応の検討が始まるだろうから、そこにも積極的に関わり情報収集と対応策をまとめていくことが必要である。


野上課長は、さすがに佐川はいろいろ考えるものだと感心した。佐川たちは既に自分たちの失業対策というか、食い扶持を確保する手段を考えている。
この話は、江本部長に話しておかねばならない。部長の持つ情報と関与できることは課長より大きいから、そこに今の話を反映してもらうべきだろう。



*****


数日後の生産技術部の会議室。
野上課長は江本部長に、佐川から説明と共に受けた企画書を江本部長に説明した。

江本部長 「なるほど、佐川と山口は既にポスト9001を考えているか。流石だな。
とはいえ、それと環境部設立と、どう組み合わせれば良いものか?」

野上課長 「環境部とおっしゃるのは?」

江本部長 「昨今の環境重視の社会情勢を鑑みて、当社でも環境部を作ることになった。それは決定事項で下期発足の予定だ。
環境問題というと私の頭に浮かぶのは、公害防止と廃棄物処理くらいだが、現代の環境活動には、工場省エネ、省資源、製品省エネ、更には環境に良いものを買うということも含むそうだ。

当然、いろいろな専門家が必要になる。生産技術部では、公害対策の担当者1名がそちらに異動になる。
工場省エネも該当すると思うが、そこは決まっておらん。オイルショックのときから生産技術が改善を進めてきたから、環境部としてはタッチしたくないのかもしれない。

廃棄物やリサイクルについては、工場の環境担当者をもってくるという。研究所も人を出したいそうだ。新しくできた部署に人を出せることは、ある意味利権だからな。関連会社に出向先を持つのと同じ、行政の天下りと変わらんよ。
設立時は少数でも、ゆくゆく環境報告書とか環境配慮設計などの仕事を包含する大きな部門にするようだ。

おお、その環境ISO担当には工場から来たものを充てるという話だった」

野上課長 「となると佐川と山口が、環境ISO認証支援の仕事に就くのは難しいですか。それでは環境ISO対応の検討をしても、無駄ですね。
ISO9001が一巡したら、彼らを生産技術部内で別の仕事を担当してもらうか、あるいは彼らに新しい職場を見繕わないといけませんな」

江本部長 「来年一杯はISO9001の指導があるなら、今すぐ決めることはないだろう。
話し合い 本社に転勤するのは、また戻るのが前提だが、最低でも2年、普通は5年以上いるからね。彼を1年で戻したら彼のご家族も大変だし、我々の人事政策が間違っていると叱られそうだ。

まあ〜、ちょっと待ってくれ。環境部の部長も決まらず、まだ流動的だから、そのへん話をしてみるよ。
確認しておくが、野上課長は佐川と山口のペアを、環境部に異動させても良いのか?」

野上課長 「佐川が優秀でも、ここで飼い殺しにはできません。新しい仕事で頑張ってもらえたら本人にとっても、会社にとってもハッピーでしょう。
もちろんISO9001の認証が終わるまでは、生産技術に置く必要がありますが。

山口は佐川についてあと1年学べば一皮むけると思います。そのとき生産技術部で別の仕事をしても良し、佐川と共に環境部に異動しても良いと思います」

江本部長 「分かった。今は5月、環境部のメンバーを決めるのは8月か9月だろう。それまでになんとかしよう」



*****


ISO認証の方は粛々と進んでいる。 認証活動中の工場や関連会社には、佐川か山口が月3〜4回のインターバルで巡回指導をしている。既に認証した件数は30を超え、その成功談、失敗談をまとめて共有化を図り、後続しているところは同じミスをしないように努めている。
ときどき審査員の勘違いとか思い込みによるトラブルはあるが、都度、認証機関と交渉して対応している。

ISO審査が始まった当初、審査員は認証機関が決めていたが、認証が始まって1年ほどすると、認証機関は審査前に審査員の予定者とその経歴を示して、受諾確認をするようになった。

OKNG

それで佐川は今までの審査でトラブルを起こした審査員のリストを作成し、すべての工場と情報を共有化した。
まさか灰皿事件が再発するとは思えないが、規格の誤理解とか高圧的な審査員は、断るように佐川は通知している。

まだ審査契約をしていない工場や関連会社には、認証機関による傾向と対策の周知をするほか、問題のある認証機関、選んではいけない認証機関を通知している。

こちらは買い手だ。高い金を出して悪いサービスを買うことはない。誰が、へたくそな床屋とか、愛想の悪い居酒屋に行くものか。

私はこういったことを実際にしていた。年々、データベースが充実していくのは恐ろしいことだった。
あるとき知り合った審査員にその話をしたら「冗談ではない。そのような失礼なことをしてはいけない」旨のことを言われた。
何が失礼なんだろうねえ〜
ISO9001:2015の「8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理」で「調達するものの品質を要求事項に適合していることを確実にしなければならない」と要求している。この要求はISO9001の1987年版から変わらず一貫して要求されている。
それは認証を受ける組織の顧客への責任であり、顧客満足を実現するための必須要件である。



*****


6/27 松本サリン事件が発生した。
当時日本中の人は大変なことが起きたとは思ったが、それがオウム事件のような大事件になるとは思わなかった。
当初犯人と疑われた河野義行氏は、後にオウム事件最大の被害者と言われる。
職場でも休憩時の話題にはなったがすぐに忘れられた。



*****


7月某日
打ち合わせ場で

本社の山口 「以前、佐川さんから言われていましたが、私は公害防止管理者試験の願書を出しましたよ。
試験日は10月末です。年に1回しか試験をしないのですね」

佐川真一 「種類がいろいろありますが、何を受けるのですか?」

本社の山口 「水質1種を受けます。2種以下を受けることはないと思います。今年合格すれば来年は大気1種を考えています」

佐川真一 「1つだけというのは堅いね。水質1種は3ケ月3時間と言われるから、今から頑張ればちょうどだよ」

本社の山口 「それほど勉強しなくちゃならないんですか?」

佐川真一 「だってさ出張の電車や飛行機の中で勉強すれば十分でしょう」

本社の山口 「そう言われるとそうですね。佐川さんはどうなのですか?」

佐川真一 「私は現場上がりだから、実は作業主任者、危険物取扱者、公害防止管理者も水質は持っているんだ」

本社の山口 「え、それじゃ勉強することがないじゃないですか」

佐川真一 「BS7750を手に入れたので今読んでいる(注5)


BS7750

注:Environmental management systems and the smaller enterpriseより引用


本社の山口 「それはすごい。内容が分かりましたか?」

佐川真一 「まず最初に現状把握というのがあることが、目を引いた。当たり前だが自分の働いている会社や工場が、どんな設備がありどんな法規制が関わるのか、それを調べることから始まる」

本社の山口 「そんなあ〜、そんなこと当然知っているでしょう」

佐川真一 「そうでもないようだよ。昔メッキしていた工場で戸棚にシアン化カリがあったり、設置したプレスの届をしていなかったりというのはあるあるじゃないのかな」

本社の山口 「そんなことあるんですか?」

佐川真一 「ISO9001の認証準備のとき点検していたら、関連会社で作業主任者とか危険物取扱者の届や掲示板の記載が退職者のままのところがあったよ」

本社の山口 「そういえば私の指導したところでは、統括安全衛生管理者が2代前の総務部長だったところがありました。ISO9001に関係ないかもしれませんが、確かに管理が悪いですね」

佐川真一 「環境ISOもハードルは高そうだ、アハハハ」



*****


7月某日
人事部の小会議室、江本部長と下山氏が話している。

江本部長 「環境部を作る話はどこまで進んでいるのかね?」

下山 「環境部を作るのは人事じゃありません。経営企画室ですよ」

江本部長 「そう言うな、一番詳しいのは君だろう」

下山 「まあ、そうですね。
10月1日発足は決定しているのですが……もうひと月半しかないな……まだ職掌の範囲なども決まっていないのですよ。

経団連の環境自主行動計画の発表は、1年半後の1996年予定です。それまでに当社も環境部門の設置と環境報告書を出そうとしています。これは関係部門の了解を取りましたが、具体的なことになると、総論賛成各論反対なのです。
東証一部企業はほとんど環境部を作って活動しているのに、ウチは出遅れていますね」

江本部長 「率直に言うが、ウチの佐川と山口はISO9001認証支援をしているが、すぐに当社グループの認証は完了しそうだ。彼らを環境ISOの認証指導に使えないだろうか?」

下山 「現状ではそういう議論ができる状況じゃないですね。環境部の仕事の範囲も決まっていない。
言い換えると生産技術部が環境ISOの認証指導をすると提案することも可能でしょう。佐川の力量は、どこの工場でも認識しているから、工場サイドの反対はないでしょう。
でも事業本部はどこでも人を出したいでしょうから、賛同するか…どうですかね。
いずれにしても、もう少し煮詰まってからでないとなんとも……」



うそ800 本日の蛇足

複数の部門にまたがることをしようとすると、なかなか進まないというのは、老人クラブでも、マンションでも、政府でも国会でも同じです。
「お互い目標は理解してから、三方一両損で行こうぜ」なんてい言っても、首を縦に振らないのがオヤクソク……のようです。
佐川君の勤める会社もなかなか抵抗勢力が……

そう言えば103万円の壁(注6)はどうなったのでしょう?



<<前の話 次の話>>目次



セヴァン・カリス=スズキは、1979年生まれのカナダ人。2024年の今でも、環境活動家として頑張っている。活動スタイルはグレタ・トーンベリの先輩である。グレタは闇落ちしたようだが、セヴァンはそんな話を聞かない。
オードリー・ヘプバーン
ところでセヴァン(Severn)は男性の名前だがこの人は女性である。女性ならセヴァンの女性形のサブリナ(Sabrina)とするはず。どうしてなんでしょう?
ところで、サブリナってあの「麗しのサブリナ」ですよ。

なお、カリスはミドルネームではなく、カリス=スズキが姓。カリスは母親の旧姓でスズキが父の旧姓の複合姓である。
カナダでは婚姻後の姓は、1.夫婦とも婚姻前の姓、2.どちらか一方の姓、3.夫婦二人の姓を合わせた複合姓、4.全く新しい姓を作る、4つの方法が認められている。男女別姓で驚いてはいけない。

セヴァンは2008年に結婚しているが、姓は変わっていないようだ。
カリス=スズキとは聞いたことのない姓だと思ったことから、どんどん深みにはまった。私はつまらないことに拘る人間である。

日本規格協会のウェブサイトにはISOでどんな規格を検討しているか、その進捗状況がどうかが定期的に掲載されている。

フロンによるオゾン層破壊についての歴史は長い。
1974年にフロンを構成する塩素原子が成層圏に登ると、活性化(他の物質と反応しやすくなる)してオゾン層を分解することが判明した。
1985年に実際に季節によりオゾンが減少することが測定された。
1987年にモントリオール議定書が採択され、全世界でフロン規制が始まる。
1988年「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(オゾン層保護法)」が制定された。
2002年からフロン回収始まり、HCFC全廃は2020年完了
オゾン層減少は1997年が底で、それ以降回復傾向にあると言われている。

MSDS(化学物質等安全データシート)は1991年から義務になった。化学物質の排出量は悪と報告を定めた化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)は1999年制定。
また元々予定されていなかったダイオキシン問題が起きて1999年「ダイオキシン類対策特別措置法」が制定された。
2001年「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」制定
このように1990年代は化学物質規制が盛んになった年代であった。

2024年時点、ネット上にはBS7750初版は見当たらなかった。既にBS7750はISO14001と同じものになっている。
このお話を書くに当たって読んだもの。
イギリスのウイキペディア
BSIウェブサイト

2024年に大きな話題になったのが「103万円の壁」問題。
夫(妻)が働いて妻(夫)が扶養家族になっている場合、扶養されるほうが働いて賃金を得ても、103万円までは扶養家族として税金がかからない制度になっている。パートなどで忙しいからと余分に働くと、扶養家族からはずれて税金を払わなければならず、103万円の壁と呼ばれました。

同じく扶養に入っている学生の子供も、アルバイトで103万を超えると扶養をはずれてしまう。

この駄文を書いているのは2024年12月で、国会で大騒ぎしているから誰でも知っているでしょうけど、5年も経ったら忘れられるでしょうから「103万円の壁」と聞いても「?」となるでしょう。
それで、注を付けておきます。
えっ、5年後もこのコンテンツが存在しているのかって、そういぢめないでくださいよ。



外資社員様からお便りを頂きました(24.12.23)
佐川、山口の二名は、ISOの環境の波がやってくる前から備えているのですね。なるほど。

ところで、本旨と違いますが103万円の壁 よくぞ取り上げてくれました。
ご指摘の通りで、成人学生、勤労学生の場合こそ重要です。
未だに学費無償化などと無茶を言う政治家もおりますが、意欲の無い人間の分までタダにする意味なし。むしろ給付奨学金を増やす、勤労学生の控除金額引き上げ、可能ならば授業料の所得控除も配慮すべきと思います。
今までは親掛りで大学へ行くのが当たり前ですが、もう大学、場合により高校も働きながら行かざるを得ない時代になりつつあります。
103万円の壁は、社会保険の値上がりで手取りが減って専業主婦でいられないから奥さんもパートで働くしかなくて出てきた話。
悲しい事ながら、子供も扶養だと言ってられず、高等教育は働きながら行く時代になりつつあります。米国なんて、社会人が当たり前に大学や大学院に行っております。
日本の場合は、ポスドクも問題になっていますが、なぜなら勤労学生控除は一年目だけだからです。
それ以降は収入があれば一気に税金や社会保障費で持って行かれ、さらに授業料や研究にお金が掛かるが控除はされない。
勤労学生控除の引き上げは、ポスドク問題にも効果ありと思いますが、如何でしょうか?

外資社員様 毎度コメントありがとうございます。
会社によって大違いでしょうけど、私の最後の勤め先では、本社は必要な人だけは徹底していました。
必要な人だけがいるとは、必要でなくなった仕事の従事者は要らないわけで、他の手不足の仕事ができることを示さないと、どこか必要とされる工場とか関連会社に異動ということになります。誰からも欲しがられないと悲劇です。
私の場合はISO14001の認証指導から、遵法点検とか事故の是正処置などに仕事を広げたというか、そういう仕事に変わっていきました。

103万円の壁、私は現行の法案に賛成できないです。
私の経験では、パートの人も全員社会保険に入ってもらうという条件で雇用するところが多いです。初めから壁を越えるわけです。
それとも違いますが、私は、根本的に扶養家族というのを止めてしまって、働く人すべてに、社会保険にも入ってもらうというのが筋だと思うのです。そして働いた人は皆申告して所得税を払うのはどうでしょうか。そのほうが公明正大ではないかと思います。
当然、すべての人が確定申告をする制度でも良いと思うのです。そのとき所得が一定金額以下は課税ゼロとすれば良いだけかなと思います。103万を130万にしよと200万にしようと問題は変わりません。




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