注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
第119話から続く
佐川が、佐々木の審査方法についての理解に呆れ、茫然としていると、吉井部長が50歳より60歳に近い男性二人を連れて入ってきた。
「おお、講義中、すまん、すまん、
環境遵法監査の位置づけについて監査部長と話し合い、監査部が臨時の環境遵法監査を実施する、それに環境部が参加するという形になった。今日、監査の講習をしていると話したら、ぜひ見学したいとのことだ。」
ええと、こちらの方は監査部の北川さんと坂口さんだ。
正直言えば、監査部は我々の実力に不安を感じているのだろう。佐川よ、監査部の方々を安心させてくれよ。
じゃあ、おふたり、よろしくお願いします」
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| 北川 | 坂口 |
吉井部長はそういうと部屋を出て行った。
そして監査部の二人は、皆の後ろの席に座ってしまった。きっとふたりとも経理部長や総務部長などを歴任してきて、役職定年になり監査部に流れてきたのだろう。
監査部は出向先を探すところと言われている。出向先のない偉いさんが監査部に在籍し、関連会社を
こちらも予定があるから、気を遣わず今までの続きをしようと佐川は決めた。
「監査は、監査基準を満たしているか否かを調査することです。監査基準を満たしているかを質問するのではありません。そこを勘違いしてはいけません」
「すみません『監査基準を満たしているかを質問することではない』とはどういう意味ですか?」
「監査とは、監査基準を満たしている証拠を見つけることです。質問するのは手段の一つです」
「それは分かりますが、『質問しないで証拠を見つける』方法とはどういうものですか?」
「裁判でも同じですが、監査で適合あるいは不適合を証明する証拠を見つけるが第一義です。次善としてというか監査員が証拠を見つけられないとき、監査側は質問ではなく証拠の提示を求めます。提示されなければ質問しますが、そこで得られる証言は三善でしょう」
注:「証拠裁判主義」というように、「証拠」に一番価値がある。「証言」は裏付けが取れなければ有効ではない。仮に証言だけで有効なら「俺は無罪だ」と言えば無罪になるのかという話だ。
更に証拠が見つかる過程も重要だ。
オウム事件の坂本弁護士一家殺人事件で、警察は既に遺体を埋めた場所を把握していたらしいが、容疑者が埋めた場所まで案内したと報道された。この場合、捜査員が何らかの方法で遺体を発見したのと、容疑者が現場に案内したのでは、容疑者が真犯人であることの信頼性が違う。
監査の場合も、受査側が提示した証拠と、監査員が見つけた証拠では信頼性が違う。ISO審査では、審査を受ける側が見せる証拠を準備しているのが通例だ。
「なるほど、言われてみれば当たり前のことですな」
「それと環境監査に限りませんが、監査は三現主義(現場・現物・現実)に則りますから、常に現場を見ます。現場とは製造現場だけではありません。経理の事務所も資材倉庫も書庫も皆現場です。
現場巡回時の観察で証拠を見つけることができれば、質問するまでもありません」
「証拠を見つければ質問するまでもないとは、どういうことですか?」
「現場で掲示されている作業要領書に書き込みがあれば、文書管理に問題があることが分かります。また帳票に未記入箇所があれば、帳票をめくるまでもなく、質問するまでもなく、運用がルール通りでないことが分かります。
現場の観察で要求を満たしているか・いないかの証拠が得られれば、改めて質問する必要はありません」
「作業要領書に書き込みがあると、なぜ文書管理が問題なのですか?」
「えっ!、佐々木さんは文書への書き込みは、ISO規格の要求事項に反していると思わないのかな? もちろん当社の文書管理規則にも反していますよ」
佐々木はISO14001対訳本を取り出して、パラパラとめくる。
「項番4.4.5文書管理の要求に、文書にメモ書きしてはいけないとはありませんよ」
「オイオイ、君は監査をしたことがないのかもしれないが、そんなこと当たり前だろう」
「規格に書いてないのですから当たり前ではないでしょう。
それに私はISO14001の審査員補に登録しています。内部監査も何度もしています」
「審査員登録をしているか・・・アハハハ」
佐々木はブスッとした顔をする。きっとISO審査員補はすごい資格だと思っているのだ。
「まあまあ、確かにISO規格に、文書にメモ書きするなとは書いてありません。
というのは禁止事項を具体的に書こうとすると、メモ書きしてはダメ、破れていたらダメ、セロテープで補修していたらダメ、インクが退色していたらダメ、難しい漢字に仮名を振っていたらダメ、汚れていてはダメと、きりも限りもありません。
だから一般論として『読みやすく』と書いてあるわけです」
「メモ書きしても印刷された文章は変わりませんから、読みにくくはなりません」
「次の問題ですが、実はこの『読みやすく』は誤訳でして、英語はlegibleです。
おっと、ISO規格は英語とフランス語が正で、それ以外の言語に訳されたものは参考にすぎません。疑義ある場合は原文、つまり英語又はフランス語のISO規格によることはご存じですね。JISを読んでいて、おかしいと思ったら原文を読みなさい。いや、初めから英文を読むべきです。
話を戻すと、英語のlegibleは日本語の『読みやすい』ではなく『鮮明』という意味なのです。ですから規格要求は正しくは、文字がはっきりと読めることです。
文書に余計なことを書き込んだり、汚れたり、破けたりしては規格要求を満たしません」
「へえ〜、そう読むのですか? でも佐川さんは『読みやすい』は間違いと言いましたが、それなら文章が分かりにくいのは規格適合なのですか?」
「まず私は間違いとは言っていませんよ、誤訳であると言ったのです。言い回しも大事です、勘違いしないように。
では会社の文章が『読みやすくない』のはどうかとなりますね。
まず文章が読みやすい・読みにくいとはかなり主観的なものではあります。ですから善し悪しの判定は、その会社の考えが基準となるでしょう。
例えば、回りくどいとか二重否定など、読み間違えの恐れがあるかどうかは、会社が決めることです。
それと俗に方言と言いますが、会社内で通用する専門語とか言い回しがあっても、文書に書いても何ら悪いことはなく、それを読みにくいというのは言いがかりにすぎません」
注:もう30年も前のことだが、ISO9001審査の黎明期のこと、
審査員が予防処置をしていないから不適合だという。いろいろ話を聞くと、定期的に製造条件を測定してフィードバックをかけるなど、いろいろ予防処置をしているが、それを社内で予防処置と呼んでいないからダメだという。
そんなことを言うなら、当時のISO9001:1987では「4.14の是正処置」の中で予防処置を要求しているのだから、似たようなものだと反論したが、相手にされなかった。
| 😠 |
「二重否定があってはならないというshallはないですよ」
「確かにこれも規格では具体的に書いていません。これも具体的に書けばきりも限りもありませんからね。
『読みやすく』のある段落の前、第二段落の
そこに『文書が定期的にレビューされ、必要に応じて改訂され、かつ所定の責任者によって妥当性が承認されること』とあります。
ですから佐々木さんが心配したことは、しっかり書かれています。
文書を起案したら、しっかりレビュー(照査)されなければならない。
チェックすべきことには、書かれている業務手順が正しいか、関係する文書と矛盾や重なりあるいは隙間がないか、様式・書式、採番、誤字・脱字・
規格はそういう仕組みを作れと書いています。
佐々木さんは会社の規則や要領書などを何百書きましたか、私は二千以上、まあ腐るほど書きました。
もちろんそれを満たしているかどうか、監査で確認しなければなりません」
「佐川君の説明は、まさに規格の読み方の教科書のようだね。実際の監査のとき、お手並みを拝見したい。
もっとも文書を二千とは、サバの読みすぎだろう」
「まあ、規則・手順書・要領書は二、三千作ったのは間違いありません。
それに監査でしたら失望はさせませんよ」
北川は顔をひきつらせた。
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「ISO規格の要求事項すべてについて、そう読まなければならないのですか?」
「基本的に法律や規則は文字解釈です。文字解釈は書かれた通りのことに過ぎないと思うかもしれません。しかし文字解釈すればこそ、具体的なものが見えてくるでしょう。
それから先ほど佐々木さんは、規格の文章の末尾を疑問文にして質問すると言いましたが、それは実戦では使えません。
それ以前に、わざわざ質問するまでもないと思います」
「どうして質問するまでもないのですか?」
「『マネジメントシステムの核になる要素』とは、とりもなおさず第4章の要求事項の各項番です。マネジメントシステムの核になる要素についての要求は、それぞれの項目の中でshallで記述されています。
ですからここで『マネジメントシステムの核となる要素およびそれらの相互作用を記述していますか?』と聞かれても、回答をしようがない。
規格を理解している人なら、各項番で聞けばよいのに思いますね。そしてこのレベルの質問をする監査員を納得させるには、どう回答すべきか迷うでしょう。
先ほど、佐々木さんは、『質問してもレスポンスが悪くて、期待する回答が来ない』と言った。曖昧模糊の質問をすれば回答が期待できないのは当然です。
監査の質問は相手が理解できるように、回答しやすいように、質問は小分けして具体的というか
監査で良い回答がもらえないのは監査員の技量の問題で、監査員の責任です」
佐々木は面白くない顔をしているが、口は閉じた。
「え〜、話が長くなりました。私の話にも飽きてきたでしょう。・・・・・・おいおい、まだ休憩じゃないよ。
それでこのへんで練習問題をしましょう。
監査部の方も参加してください。
廃棄物は違法が多いことから、環境遵法監査では徹底的にチェックしなければなりません。中でも契約書とマニフェストの不備が大きな割合を占めています。
それは形式犯
ですから、法で定める通りにしているかを確認するのは非常に重要です。
ということで、練習問題を作ってきました。廃棄物も契約書も見たことがなくても大丈夫です。国語の問題と思って考えてくれて大丈夫です。国語の問題と言っても漢字の書き取りではありません。論理学の問題です。
皆さんひとりひとりに練習問題一式をお渡しします。お渡しする試験問題は、私の作った『廃棄物処理委託契約書』で処分と運搬の二つがあります。
それと善し悪しを判断するための参考資料として、国税庁の『収入印紙の手引き
これらはこれから遵法監査するときの参考書となります。監査には必ず持参してください。まあ、10回も監査をすれば頭に入ってしまいます。
それぞれ内容は毎年更新されますから、年に一度、各自がネットからプリントして、最新のものを持つようにしてください。
みなさんよろしいですか、ではスタートしてください。
ええと、大して時間はかかりません。20分あれば十分でしょう」
新人3名、山口、監査部のふたりが、あっけにとられた顔をしているが、佐川は気にせず部屋を出る。
「どれ、環境部のヒーローの実力をみてやるか」
そう言いながら北川は、隣の坂口が書き始めたのを覗き見る。
「あ〜、北川さん、ずるいですよ。自分で考えましょうや、自分で・・・」
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10分もしないで佐川は、ホットコーヒーの入った紙コップを6人分、トレイに載せて戻ってきた。それぞれの脇にコーヒーカップを置いていく。
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「佐川さん、間違いはいくつありますか?」
「それは内緒です。かなりの数あると申し上げておきます。
お配りした参考資料と見比べれば、すべて見つけられるはずです。
監査部の方は、印紙金額くらい参考資料を見るまでもないでしょうけど」
「そうとも、ワシは印紙だけで、もう3つ見つけたぞ」
「収入印紙だけで3つですか。それなら全体では10や20はありますね。しかし私はまだ4個しか見つけていません」
「山本君は廃棄物担当じゃないか、我々のエースだぞ」
「エースが打たれたんじゃピッチャー交代だ、アハハ」
和気あいあいと言うか、おふざけというか、楽し気な雰囲気で20分が過ぎた。
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| 廃棄物処理法は何度も改正されている。ここで物語の1999年時点の規制対応に書いても意味がないので、法規制については2025年現在のものとしています。 |
「それでは一人一個ずつ、間違いを指摘してください。最初の人がいくつも挙げてしまうと、次の人が回答できなくなってしまいますから、一人一個ずつですよ。
ではこちら側からいってみましょう。大谷さんどうぞ」
「処分の契約書の『最終処分に関する情報』欄に『契約書に記載の通り』とありますが、本文中に、それに当たる文章がありません。ということでNGと思います」
「廃棄物の専門家は山本さんのご意見を伺いましょう」
「最終処分とは、埋立、海洋投棄、再生のみっつです。海洋投棄は特別な場合しか許可されません
しかし書いてありませんから法規制の要求を満たしていません」
「つまり不適合ということですね。それで結構です。
次は山本さんです」
「反社会勢力についての記載がありません。法律ではありませんが、自治体の条例になっています」
「はいOKです。次は佐々木さんどうぞ」
「答える前に、今の件について質問です。反社会云々は配られた資料にありません。私は正誤の判断ができませんでした」
「企業や団体は反社会的勢力と取引してはならないと、警察庁から出ています。それは廃棄物処理委託だけでなく、企業はいかなる製品でもサービスでも、暴力団関係者と取引してはならないのです。
営業や購買部門なら、法改正などのとき教育を受けます。そうでない部門でも周知はされているはずですが・・・
ですから我々は製品販売時には客が暴力団関係者でないことを確認しなければなりません。廃棄物に限らず、法律はそうなっています。
厳しいですよ、車も売れない
指定暴力団に関係している人は、当然、廃棄物処理業の許可をもらえません。我々から見れば、誤って暴力団関係者の企業と取引しないようしっかり確認しなければなりません」
注:警察庁の主導により、各都道府県が「暴力団排除条例」を制定した。このお話しより12年後だが、冒頭に述べたように法規制は2025年時点としている。
「どうあれ私は知りませんでした」
「ええと『法の不知はこれを許さず』という
日本では官報で公告された法律は、国民は知っていることになっています。『自分は知らなかった』と言っても通用しないのです。
もちろん政府は法律の制改訂は関係する人に知らしめるよう、十分努力をしています。法の多くは企業に関係しますから、業界団体、商工会議所などを通じて周知を図っています。道交法の改正は、免許書き換えの際に周知しているのはご存じですよね。
佐々木さんはこれからいろいろな仕事に就くでしょう。仕事によっていろいろな法律に関わります。そのとき知らなかったは通用しません。
世の中はそうなっていると理解してください」
佐々木は納得できないような顔をしていたが、埒が明かないと思ったようで話を進めた。
「契約書がホチキス止めですが、製本しないとダメだと思います」
「監査部の北川さん、いかがですか?」
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ともかく、これは問題ありません。実際の監査でもOKにしてください」
「佐々木さん、よろしいですか?
それでは監査のプロ北川さん、お気づきの問題をどうぞ」
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| 消印は1か所でも良い。 契約者双方が押しても良い。 |
「収入印紙を消してないな」
注:「収入印紙を消す」とは、収入印紙に押印なりサインなりして使えなくすること。
なお、ハンコを押すのを忘れたり、少ししかハンコがかかってないものをはがして再度使うのは脱税になる⇒ホントだよ
「合格です。
ところで、仮に消印がないとどうなりますか? またどうしたら良いでしょう?」
「脱税になると思う。
処置は、後からでも消印を消せばよいのかな?」
「後から消印を押しても罰金だと思いますよ」
「坂口さんのおっしゃる通りです。印紙税法第8条の2項の違反は罰金30万です。とはいえ、あとで自分が気が付いて押す分には問題ないと思います。
消印忘れは罪になることだけは覚えておいてください」
「そうだったか、けっこう重い罰だねえ〜」
「では、次は坂口さんです」
「製造部長が契約しているが、ハンコが職印でなく個人の認印だ」
注:社外発信とか契約を結んでも良いと権限移譲された役職の人には、職印(役職印)というものが貸与されている。普通外周に会社名、その中に役職名が刻印されていて、氏名はない。契約書・行政届などに使う。
社内の書類の決裁には日付印(氏名+役職+日付)を押す。これは社外に出すものには使えない。
| 日付印 | 役職印 | 認印 | ||
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佐
川 |
||
| 社内の決裁などに用いる。 社外には使えない。 | 社外に出す文書に使う。 この絵を描くのに10分もかかったのよ。 | 個人的な用途、訂正印、社内の申請書、始末書などに用いる。 |
注:認印と実印・銀行印の違いは自治体や銀行に登録しているか否かの違いである。三文判でも立派なハンコでも実印にもなるし認印にもなる。
文字が欠けていると印鑑登録も銀行印にも使えない。周囲の枠が欠けていると、登録できないこともある。
「それはどういう罪になりますか?」
「罪にはならないが、問題が起きれば会社の問題でなく、ハンコを押した人の責任になってしまう。支払いが遅れたら製造部長個人が払うことになるかもしれない」
「おっしゃる通りです。これは法的な問題ではなく、会社の運用の問題です。ひょっとして職印を受領していなかったとすると、この人は社外契約の権限をもっていなかったのかもしれません。
いずれにせよ、会社規則違反でNGです」
「なるほど権限がなく職印を持っていないから、自分のハンコで代用した可能性もある。
とはいえ、佐川さんが脚本を書いたお話なのだから、真剣に考えることもないか、アハハハ」
「佐川君はなんでも知っているようだね」
「そりゃ問題を作るのですから調べますよ。分からないものは、東京都、税務署、法務部、資材部などに問い合わせます」
「北川さん、佐川さんはプロですよ。上から目線は失礼ですよ」
「ああ、気を付けるよ」
「それでは最初の山本さんに戻り、二順目を始めましょう」
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三巡くらいすると、もう問題を見つけられないという人が一人二人と増え、一回りが早くなる。
「佐々木さん、どうぞ」
「収集運搬と処分の契約金額が同じですが、収入印紙の額面が違います」
「廃棄物担当の山本さん、いかがですか?」
「収集運搬の契約書は別表第一の1号の4の文書で、廃棄物処理は請負になので2号文書ですから印紙税額が違うのです。
正確には覚えていませんが、契約金額が500万以下ですと、請負の契約書の印紙税は運送の契約書の3割くらいです。
500万以上になると、輸送と請負の差は小さくなります。もっとも会社の廃棄物契約で500万以上なんてまずありません」
「その通りです」
「えっ、これも『法の不知はこれを許さず』なんですか?」
「佐々木さん、廃棄物担当の山本さんも『正確に覚えていない』と言っています。そこまで覚えろとは言いません。
そういうこともあろうかと、事前にお渡しした『印紙税の手引き』の35ページに表があります。
これからの飯の種ですから、全部覚えることはありませんが、印紙のことは『印紙税の手引き』を参照することだけは覚えておきなさい」
・
・
・
・
「今気づいたのですが、処分の契約書の別表1に、五種類の廃棄物が書いてありますが、『廃酸』の予定数量が未記入です。それで契約金額が決まらないので、印紙の金額がわかりません」
| 廃棄物の種類 (廃棄物データシート番号) |
契約単価(円) | 予定数量 (日・週・月・年) |
乙の施設 | 〇〇〇 | ||
| 処分方法 | 処理能力又は 埋立容量 |
〇〇〇 | ||||
| 廃プラ (obaq001) |
10,000円 /(s・l・m3・t) |
(s・l・m3・t) |
破砕 | 30t/日 | 〇〇〇 | 〇〇〇 |
| 金属くず (obaq012) |
1500円 /(s・l・m3・t) |
10t (s・l・m3・t) |
破砕/Td> | 120t | 〇〇〇 | 〇〇〇 |
| ガラスくず (obaq024) |
2,000円 /(s・l・m3・t) |
50 (s・l・m3・t) |
破砕 | 30t | 〇〇〇 | 〇〇〇 |
( ) |
/(s・l・m3・t) |
(s・l・m3・t) |
||||
注:上表の黄色い部分に予定数量の記載がない。
「印紙税は契約金額が書いてなくても決まるぞ。
これは請負だから2号文書で、契約金額未記載の場合は200円となっている。『印紙税の手引き』を見たまえ。
佐川君、それで良いだろう」
「残念ながら、税法上は良いのですが、廃棄物処理法では別の問題があります。
廃棄物処理法の施行規則に、契約書に記載すべき事項が決めてありまして
「なるほど、そういう決まりがあるのか。勉強になった」
「私は以前から不思議に思っていたのですが、契約金額を契約書に書かないと200円で済むなら、量か単価を記入しておかなければ、印紙税が節約できますね。
もちろん廃棄物処理の契約書では法違反ですが、通常の取引の契約書の金額を未記載にして200円の印紙を貼ればどうなりますか?」
「北川さん、そうすると何か問題になるのでしょうか? 脱税ですか?
印紙税の手引きを見ると、特段注意書きはありませんね」
皆が北川の顔を見つめる。
「う〜ん、どうなるのかな?
お手上げだ。佐川先生ならご存じかな?」
「私も疑問に思いました。それで問い合わせました。
日本の税務署はそれほど甘くなく、契約書に記載がなくても見積書や支払実績があれば、それを契約金額とみなして課税するそうです。
そうなると先ほどと同じく過怠金を払わねばなりません。
しかし、この場合は金額が定まらない場合は200円と知っていて、意図的に金額を書かなかったと思われます。もし印紙金額が数千円なら、そんなことはしないでしょう。
印紙税が何十万もの取引なら、悪質とみなされて、犯罪として起訴されるかもしれません」
「なるほど、経理に聞いてみよう」
注:税務調査が入る前に印紙金額不足に気づいたときは、速やかに不足分の印紙税+過怠税を支払うようにする。過怠税は必要な印紙税の2倍である。これが優等生の対応という。この場合は、過怠税が減額されるらしい。
表に出てないなら、不足額を追加しただけで実質問題はないだろうと思うのは悪なのか?
税務調査で見つかった場合、問題となったものだけでなく、他の契約書の点検とその点検結果の報告を指示される。問題があれば同様に対処が必要となる。
200円の印紙を貼るとか隠ぺいなど悪質なものは、刑事事件になるそうだ。
2000年代初めどこかの大会社で、複数の契約書に印紙額不足が発覚して報道された。それを聞いた多くの会社が、契約書の総点検をした。実は私も必死で点検した者である(笑)。
本日の困った
解説とか話のつながりをしっかり書こうとすると、止まりません、終わりません。
ということで、ここで一旦切って次回に続く〜
ところで第120話を書いていると、いつしか13,000字になったので、第120話と第121話の二つに分けました。
二分割したとき、前半部この第120話は7,000字でした。
その後、あちこちいじっているうちに、なぜか、また10,000字を超えました。
この分では後半第121話は更に2分割にしないと間に合わないかと・・・・・・
読んでくれる方々、お疲れ様です。
会社で読んでいて、お叱りを受けませぬように
| <<前の話 | 次の話>> | 目次 |
| 注1 |
形式犯とは実質的な被害や危険をもたらすものではなく、行為を禁じる形式的な違反による犯罪である。 免許不携帯、各種行政届出漏れなどがある。 児童ポルノは所持しているだけでは犯罪にならず、形式犯ではないそうです。児童ポルノ所持罪となる要件は、「児童ポルノであるとの認識」と「故意に所持しているとの認識」そして「自己の性的好奇心を満たす目的」の三点が必要で、パソコンに画像や動画が送られてきただけなら罪にはならないとのこと。 ちなみに成人ポルノは所持することは罪でなく、陳列や頒布(不特定多数の人に渡すこと、有償・無償共に含む)することが罪になります。 なお有償とは有料だけでなくお金以外の代償を含むそうです。 | |
| 注2 |
・国税庁「印紙税の手引き」 | |
| 注3 |
・東京都環境局「契約書に添付すべき書面」 | |
| 注4 |
世界的に下水汚泥の海洋投棄は1990年代半ばまで広く行われており、1996年の「ロンドン条約(海洋投棄防止条約)」改正で原則禁止になり2007年に完全禁止となった。 これにより海洋への栄養分の補充が激減したわけだが、漁獲高の減少はないと言われている。また東京湾などでは溶存酸素が増加して魚介類の増加の報告がある。 東日本大震災のがれき類については、特別に海洋投棄が許可された。 | |
| 注5 |
このルールが完全に適用されれば、暴力団関係者は車を持てないはずだが、皆さん高級車に乗っています。最近はベンツは減って、アルファードやレクサスが多いそうです。 どうしているのかというと、他人名義の車に乗っている(名義借)、規制をあまり守らない中古車市場や個人間の売買、他人の車を借りる(レンタカーは無理)、などだそうです。 住むところも同じです。 | |
| 注6 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(第8条の4の2) |
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