注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
第125話から続く
千葉工場で環境遵法監査のトライアル中だ。
三日目は書類監査である。
環境遵法監査で見る書類となると、公害防止関係では法で定められた測定記録、点検記録、異常時の報告や処置の報告書など。煙突からのばい煙の測定、ボイラーの自主点検記録、燃料の使用量の評価などである。
排水は使用している物質や工程、そして排水処理施設があればその測定値、維持管理状況、異常の有無である。
廃棄物では処理委託契約書、マニフェスト票、現地調査記録、業者の評価記録、特管の報告書
化学物質関係では、毒劇物なら入庫・出庫・使用などの在庫管理すること
注:危険物取扱業務をしている危険物取扱者は、3年ごとに定期講習を受けなければならない。受講しないと危険物取扱者免状取消しだ。
実を言って私は10数年、危険物保安監督者を拝命していたが、定期講習は一度しか受けたことがない。というのは講習会を受けようと申し込んでも満杯で、次回・次回と言われているうちに申請を忘れた。30年も前の話だから時効だ。
もっとも今取消になっても、これからガソリンスタンドでアルバイトする予定はないから、どうということもない。運転免許も70歳で返納したし
会議室のテーブルで三つの島を作って分かれて、業務ごとに分かれて書類監査をする。
| 業務 | 受査側 | 監査側 |
| 公害関係 | 諏訪 | 大谷 |
| 廃棄物関係 | 箕輪 | 山本 |
| 化学物質・エネルギー | 伊那 | 佐々木・山口 |
注:環境と言っても公害、廃棄物、化学物質だけじゃなく、環境設計、グリーン調達、植栽その他もろもろあるとおっしゃるな。全部書いたらきりがない。要点だけにとどめる必要がある。
テレビドラマで、トイレに行く場面がないのと同じだ。
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公害関係のテーブルでは大谷と諏訪が話を、いや監査をしている。
| 監査側 | 机だよ | 被監査側 |
![]() | 諏訪 |
|
「お宅の排水処理施設からの放流先は、公共河川それとも下水ですか?」
「この工業団地では、雨水も含めてすべて下水に流しています」
「排水のpHのばらつきがなく、5.2から6.2の範囲を推移していますね。
酸性雨の影響はないのですか?」
注:日本の酸性雨のピークは2000年頃にあり、当時はpH4というのは珍しくなかった。その後、中国の排ガス規制の効果により2016年にはほぼ半減し、pH4.8を下回ることは少なくなった
だから2025年時点の状況が続くなら、酸性雨対応を考えることはなさそうだ。
なお、知ってる人は知ってるだろうが、酸性雨も光化学スモッグも
中国の影響が大きく、日本で改善できるものではない。できるのは対症療法だけだ。ついでに言えば黄砂も人災だ。
「雨が降っても日平均ですから」
「施行令では日平均だったか・・・しかしpH異常の監視も必要だから、ピークや異常を把握するために最高値、最低値も記録しているでしょう?
見せていただけますか。どのみち自動記録でしょうし」
「これだけでは不足ですか。なぜ見たいのですか?」
「正直なことを言いますと、雨のときもpHが変わらないのが変なのですよ。普通の工場では雨天のときは排水のpHが下がります。ここ最近の雨は酸性が強くpH4.3くらい、pH4を下回るときもあります
ここの工場排水は1日に100tはないでしょう。事前資料では工場敷地面積しかありませんが1.5haですから、建物面積0.9haとして1時間10oの雨が降ったとして、1時間100トン。工場排水と雨水を合併しても排水のpHは雨水と変わらないと思います
「大谷さんの言いたいことは何ですか?」
「このデータが正しいか確認するために、自記記録計の記録紙を見たいですね。
正直言って、この記録は信用できません」
「間違いありません」
「排水が水濁法や下水道法に、違反していると言っているのではありません。酸性雨が降ったときも、pHが下がっていないからおかしいのです。
生データがあれば信用します」
諏訪と大谷二人とも立ち上がり、かなり険悪な雰囲気となった。
声が大きくなったので大木部長と北川それに佐川が集まってきた。
「話が聞こえたけど、自記記録計の記録紙は保管しているの、捨てちゃうの?」
「保管しています。倉庫なので持って来るのに時間がかかります」
「それじゃ飯田さんにでも持ってきてもらってよ。その間にばい煙の記録とか見てもらいなさい」
「ええと、実は測定値のpHはかなり調整して記録にしているのです」
「おいおい、そりゃ問題だぞ」
諏訪は脱力したようにドカッと座り込んだ。
「経緯がいろいろあるのです。処罰されるかもしれませんが、言い逃れはしません。
元々、自記記録計が記録したものから最高、最低、日平均を毎日の記録にして月ごとまとめていました。
当然ですが酸性雨のときはpH4なんてこともあります。下水道法では5〜9pHですが、この工業団地の場合は上積みがあり5.8〜8.6となっています。
ただ酸性雨の影響が大きく、雨水に混ざる前にその基準内であればOKということで工業団地と市で申し合わせがあります。
しかし2年前の初回ISO審査のとき、酸性雨であってもそれはNGではないのかと言われました。中和するとか薄めろとか言われました。
工業用水でも水道水でも10倍薄めてもpHで0.3くらいしか動きません。
ということでISO認証以前からの変動程度であれば、記録する数字を工業団地の規制値内に修正しているのです」
「呆れたな。佐川さん、他の工場はどうなのですか?」
「私も最近は工場の指導をしてないのです。
おーい、山口さん、ヘルプ」
山口は佐川の呼び声でトコトコやって来る。
佐川が他の工場で酸性雨のときの排水のデータはどうしているのか聞く。
「そこは微妙なんですよ。法令で酸性雨排出を明記したものはなかったはずです。条例で酸性雨対応を定めている自治体はあります。
水質の特定施設がなければ排水基準の規制は受けないので、雨水だけ排出するなら問題ないのです。
特定施設があれば工場排水が基準を超えれば問題ですから、雨水と工場排水を完全に分離して別個にpHを測定するようにしたところもあります。
それで良いとする自治体と、そうでないところもあるでしょう。
工場としては、自治体次第です。まずは話し合いをすべきだと思います。
しかし測定値をいじっては問題です。あるがまま残すべきです。問題が起きたとき、今までの測定記録が捏造では別の問題になります
「山口さん、ISO審査員から、酸性雨でも基準を超えたらまずいと言われたことはないの?」
「そう言われた工場はあります。でも初回審査で問題になると、どこでも行政と話し合い、処置を決めています。行政と話し合っていると言えば、文句をつける審査員はいませんね。
それで今は落ち着いています」
注:私が現役時代は工場起因であればともかく、工場内に降った酸性雨を中和せよと言った行政はなかった。審査員は半分くらい中和せよと言った。
今でも法律上、明文でそれを指示した法令(法律・施行令・省規則)は見当たらない。条例にはあるらしい。(聞いただけで見たことはない)
ただ法文からは、工場の排水は雨水も含むと読めるので、それを根拠に中和を求めることは可能らしい。実施可能かはともかく。
工場敷地が数ヘクタールで雨量が1時間20oもあれば、中和する水量は毎時千トンを超える。毎時千トンを中和する設備となると壮観だろう。
「諏訪君、近隣の工場に同業者の知り合いはいるだろう。ISO審査でどう対処しているか、電話して聞いてみてよ。
何人かに聞いた方が良いな。
ISO審査のために捏造しているなんてバカな話だ。次回審査で審査員とはっきり決めなさい」
「了解しました。これからすぐ聞いてみます」
ここは廃棄物の島である。
廃棄物担当の山本と箕輪が角付き合っている。
箕輪の後ろには数人の男が座っている。バックアップ要員だろう。
| 監査側 | 被監査側 |
後藤 |
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山本 ![]() |
| 岡崎総務課長 |
|
向井ガードマン |
「まず廃棄物を業者に引き渡すときの方法は、何に決めていますか?」
「千葉工場規則の廃棄物処理規定にあります。
その『3章 廃棄物引渡手順』を見てください」
山本は渡された千葉工場規定のパイプファイルを受け取って眺める。
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千葉規定1117★
第3章 廃棄物引渡手順廃棄物処理規定 (1)******** ********************* (2)マニフェストの発行 *****************************
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「箕輪さんも他の方も、昨日、業者が廃棄物を積んでいるときに立ち会っていませんでした。業者の方に聞きましたらいつも立ち会っていないと答えました。
それは事実ですか?」
「ハイ、事実です」
「工場規定を読んだことはありますか?」
「その規定を書いたのは私です」
「では箕輪さんはルールにお詳しいですね。
なぜ昨日はルールで定めていることをしなかったのですか?」
「昨日は監査だから皆さんに付き合っていたのよ」
「業者の方は、いつも立ち会っていないと言ってました。どちらかがウソをついていることになります」
「ハイハイ、私が悪うございました」
「なぜ立ち会わなかったのですか?」
「正直言って立ち会う意義を感じないのよ。取られて困るものもないし、積み残しがあったこともない。今までトラブルもなく信用してました」
「ええと、それではガードマンの方、前に来てください。
お聞きすることに正直に答えてくださいね。
一昨日、廃棄物業者が構内から出るとき、そのとき守衛所にいたガードマンは会釈しただけで通しました。
トラックは一時停止せず守衛所前を通過して、車道に出ていきました。
そういうのは普通のことですか?」
「ガードマンのチーフをしている向井と申します。
ご質問されたことは、いつもしていることです」
「お宅は警備業務を当社と契約していますが、契約書ではそれについてどのように定めてあるのでしょう?」
「あのう、請負契約は購買部が取りまとめておりまして、その契約書はここにあります」
「今、私は向井さんに質問しています。
後藤さんには後でお聞きしますから、ちょっとお待ちください」
「先ほどあなたが言った通りに、車の停止、廃棄物中身の確認、サインをすることが盛り込まれていることは存じています」
「なぜそうしなかったのですか?」
「入出場が込み合う時間もありまして、停止させて積荷を点検するのは、他の通行に邪魔なのです。他の業者さんたちから苦情が多くありました。
それで混雑時は素通りを認めるかどうか、総務の方と工場管理の方とで話し合った結果、そのまま通すことになりました。
その打合せ議事録はあります。その後、正式に契約の見直しはしていません。
更にその後、混雑時がOKなら混雑していない時もOKと御社より口頭ですが指示がありました」
「その打ち合わせには私も出たわ。岡崎さんも出ていたわね。まだ課長になっていなかったと思うけど」
「話を変えます。
車両が工場から外に出るときは、一時停止しますよね?」
「門の所に停止線が引いてありますし、左右に一時停止の標識を付けています」
「それを無視してもOKなのですか?」
「以前はコンクリートの万年塀でしたが、1年ほど前フェンスに変わったのです。それで左右の見通しが良くなり、トラックの運転席は高いので車が来るかどうか見えるのです。
それで車が来ないのが分かると、停まらず門を出る車が多くなりました。これは契約書にもなく工場内の交通ルールにもないので、苦情を言うことではないと思いました」
| 万年塀 | フェンス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「道交法では、横断歩道を横切るときは、一時停止することになっています。
それに車だけでなく、歩行者にも注意が必要でしょう」
「そうなのですか。岡崎課長さん今後どうしましょうね?」
「一時停止させましょう。事故が起きてからではまずい」
「多少出入りで混むかもしれませんね」
「安全第一でいきましょう」
岡崎の構内PHSが鳴った。♪♪♪
「はい、岡崎です。
えっ!、分かったすぐ行く。
向井さんも一緒に来てください。正門前で事故があったそうです」
岡崎と向井が立ち上がり、走って出ていく。
「嘘から出た
「嘘から出たまこと」の「まこと」の漢字は何だろうと辞書を調べました。
辞書により、「誠」、「真」などいろいろありましたが、時代と変遷があり最近は「誠」が多く、古い書き物には「実」が多いそうです。
いつの間にか空いている椅子に監査部の北川さんが座っている。
「嘘とはひどいですよ。気になったのは間違いではなかったようです」
「岡崎課長は総務課が黙認していたような雰囲気ですね。後藤さんもこれで出世の目はなくなったか」
「勤務している工場の門前で交通事故が起きても、総務課長が責任を問われることはないでしょう」
「そうでもないですよ。元々彼は人事屋で、たまたま総務の椅子が空いたので総務課長になったのです。秋の定例の人事異動で総務課長が赴任すれば、人事課に戻り人事課長になる予定でした。
人事というところは加点主義でなく減点主義ですから、彼が工場正門の出入りでの一時停止無視を知りながら止めなかったとすると、人事屋としては終わりですよ」
「そうなんですか、それは大変ですね」
「自業自得ですよ。皆さんが短時間の工場巡回で気づくことを、気づかなかったはずはない。
なのに、それを止めさせなかったのは、鈍感か、怠慢か、気が弱いか、いずれにしても人事屋としては欠格でしょう」
箕輪は不安そうな顔をしている。
箕輪は今まで総務やガードマンと、この件の打合せに参加してきた身、無関係と言えるかどうか・・・
化学物質関係やエネルギーの島である。
伊那に対して、佐々木と山口が向かい合っている。
| 監査側 | 被監査側 | |
山口 |
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|
佐々木
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「危険物屋内貯蔵所の責任者が退職したのに、交代の届を出さなかったのはどしてだか分かりましたか?」
「どうしてなんでしょうねえ〜。
正直言って、あまりシステマティックな職場じゃないですから、単に気づかなかったのでしょうね。いや、正確に言えば考えもしなかったのだと思います」
「伊那さんは、二度と発生させないためには、どうしたら良いと思いますか?」
「人事異動があったとき、実施することの一覧表でも作っておけばよいかもしれませんね」
「それは良い考えですね。とはいえ新しい資格ができたり、規定が改定されたりしたら、それがメンテナンスされないといけませんね」
「まさしく、それが弱いのですね、ウチの職場は」
「危険物倉庫の看板だけでなく、似たような問題は多いですね。塀の破損もしっかりした仕事をしない、駐車場の放置冷蔵庫も放りっぱなし、ボイラー室の窓ガラスの割れ・・・」
「悪い人間はいないのですが、仕事が仕事でしょう、何か壊れたとか、すぐに電源を引いてくれなんて突発の仕事が多いのです。
そのためにやっつけ仕事が多くなり、長期的な視点がないのですよ」
「仕事の特性はあるでしょうけど、そうであっても気づく仕組みが欲しいですね。
話は変わりますが、PRTR法が今月成立しましたね
注:PRTR法とは、化学物質・・・といってもペンキやガソリンも対象・・・を使っている企業は、塗料なら成分毎に大気中、公共水域、廃棄物、重合など放出先を把握して、それぞれの重量を行政に届けなければならないという法律。
法律ができたとき、市民団体がそれを根拠に化学物質削減を要求するだろうと言われたけど、そんなめんどくさいことをする人はいなかったようだ。
「該当する塗料や接着剤の種類は・・・・・・120種くらいですかね。一度調べてみたんですよ。まあウレタン塗料なら、顔料(色)が違うのもひとくくりにすれば、40種類くらいですか。
エクセルに組んでおけば発注量をインプットして排出量が精度1割くらいにはできるでしょう」
「うーん、今のお話を聞いても、仮の仕事、でっち上げに聞こえますね」
「じゃ、どうしたら良いと思いますか?」
「今本社で考えているのは、全社の購買データから該当品目を拾って工場ごとのPRTR報告を作るというものです」
「それはいい、もっとも各物質の成分は、工場で入力しなければならないのでしょうけど」
「そりゃそうですよ。でも120種あろうと二日三日で入力できるでしょう。そうすれば毎年、年度明けには報告書ができているという寸法です」
「そういう仕組みを考えているなら、工場に通知を知らせてくださいよ。私は余計な仕事をしちゃったようです」
「伊那さん、それは昨年に各工場宛に通知が出ていますよ」
「ええっ!、そんな〜」
「どうもコミュニケーションが悪いようですね」
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「ここは第2種エネルギー管理指定工場ですね。省エネ計画は出していますか?」
「はい、これが計画書です」
「これって目標値が、本社に出ている値と違いますよ」
「ウチには省エネ計画が三つあるのですよ。本社報告用、通産局提出用、ISO審査用です。
本社報告用は本社から指値で言われた数字で、通産局に出す省エネ計画より0.7%高いです。
省エネ計画は省エネ法で定める数値ズバリです。ISO用は本社報告用と省エネ計画の間です」
注:通産省が経産省に変わったのは2001年だから、この物語のときは、経産局(経済産業局)でなく通産局(通商産業局)だった。
「それは・・・良くあるパターンですね」
「そうなんですか、ここでは本社計画が基本にあって、経産局に出す方は絶対に目標を下回らないように法規制の最低限にしています。
ISO審査では目標未達を避け、法規制より少し色を付けろという審査員様の要求です」
「それはお宅の工場長がOKしているのね?」
「いえ、そこまではいきません。大木部長はOKしています」
島みっつと自分の席を渡り歩いている北川が数分前に来て、後ろから話を聞いていた。
黙っていられなくなったようで声を出した。
「おいおい、そういうイカサマ、二重帳簿はいかんだろう。いや、三重帳簿じゃないか」
「まずいですか?」
「そんなことをするヒマがあるなら、省エネを頑張ってもらうのが筋だろうな。
昨日、あの女性が時間がないなんて語っていたが、そういう無駄というか無意味な仕事をしているから忙しいのではないか」
「北川さんはこれをどう判断するのでしょう?」
「簡単だ、『千葉工場には省エネ計画で本社提出以外のものがあり、数値の異なる経過うしょの存在は問題である。よって計画の数字の整合を図り活動を一本化しなければならない』・・・だな。
工場に対しては会社規則に基づいた仕事をせよと言うしかない。
根拠を問われれば、就業規則だ」
「どうしたら良いと思いますか?」
「目的は一本化することですが、方法は原因をじっくり考えなければならないでしょう」
「その通りだ。
佐々木君はYesかNoのクローズドクエスチョンでなく、どうなのかというオープンクエスチョンで質問するのが上手い。
それと、気づいたことをバラバラと質問して終わるのではなく、疑問があれば真実を究めようと切り口を変えて質問していくのが上手だ。
とはいえ遵法監査では一対一の質問が目的を果たす。ということは今回の遵法監査では不適切なアプローチであるな。
まあ、ケースバイケースだ。
ところで今回のトライアルはとても役に立ったが、結論は遵法監査はできないというのが私の結論だ。
もうこれ以上するトライアルをする必要はない」
「私の力不足ですか?」
「いや、工場が監査を受けられる状況じゃないのだ。工場自身が自主点検をして、彼ら自身が問題を認識し是正した後でないとね」
翌日、午前中、監査員がそれぞれ意見交換し、それを山口がホワイトボードに書いていく。
それを皆が論評し、問題として取り上げるか否かを決めた。
そして各担当が分担して、午前中いっぱいかけて報告書案をまとめる。
昼前の30分間で、北川と大木部長で意見交換した結果、報告書案を大木部長は了承した。
午後一に、千葉工場の環境遵法監査の報告を行う。
出席はオープニングミーティングと同じメンバーで、工場長以下全員が揃った。
「四日間、環境遵法監査に御協力頂きありがとうございます。
良い点、悪い点、いろいろありました。
・
・
以上から現状では遵法及び会社規則遵守が不十分であると結論報告します。
言葉を補いますと、法規制が周知徹底されていない、会社のルールが認識されていない、ルールを知っていても守られていない、その状況を向上させようとする動きが見られない。
残念ですが以上です」
「大変厳しい結果と受け止めます。現実に監査中に正門前で交通事故が起き、その危険性を初日に指摘されていたという、ひどい状況であることを認識しました。
日本国内で昨今の企業不祥事多発を見ますと、千葉工場からは今後不祥事を出さないように、そのために明日から、いや今日から一歩一歩対策を進めていきたいと考えます。
ついては本社監査部や環境部、そして事業本部のご支援を要請するかもしれませんがよろしくお願いします。
しかしながら、あれほど鳴り物入りで登場した、ISO14001の効果は全くないようです。
高い金を払い、毎年、審査員の先生がいろいろ不具合を見つけているわけですが、今回ご指摘いただいたことも、審査時に隠したことはありません。効果がなくて毎年、社外流出で200万、内部費用は2,000万はかかっていると思う。これでは千葉工場では認証辞退したいと考えます。
それについては事業本部、環境部に相談に上がりたいと考えますのでよろしく対応願います」
本日、思うこと
日本の典型七公害は大きく減ってきている
今騒がれている公害は、歓楽街や住宅地の騒音問題の増加、太陽光発電や風力発電などが起こす騒音や反射光などの新しい公害である。
公害は過去になったわけではないが、ものすごく改善されてきたのは事実だ。
そのために公害防止を忘れてしまうのではないかと心配する。それどころか環境も忘れられそうだ。
2000年前後は、ISO14001が流行し、どの会社でも環境を冠した部門が作られ、大学でも環境を冠した学部や学科が雨後の筍であった。だが、2020年代の今は環境よりもサスティナビリティとかCSRを冠した部門が流行のようだ。更にはSDGsに代わったかもしれない。
名前が変わっても公害防止をしっかりすれば良いが、私の知っている企業では公害防止部門をなくし、公害担当者を減らした。それで良いのかと言いたい。
環境の流行は過ぎたかもしれない、不要となった業務ではない。保守は大事な仕事だ。
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| 注1 |
昔は紙マニフェストがほとんどだったので年の報告は企業が取りまとめて報告書を作らなければならなかった。現在、電子マニフェストのみならその報告は不要である。 | |
| 注2 |
1990年PCB特別措置法が制定され、義務となった。 | |
| 注3 |
厚労省通知「毒物及び劇物の盗難又は紛失防止に係る留意事項について(2018/7/24)」 | |
| 注4 |
「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法・PRTR法)」が制定されたのは1999年だが、報告義務は2002年(2001年度のデータ報告)からである。 但し先行して報告を要求した道県があったはず。北海道、神奈川県(結局報告を求めなかったと聞いた)、福島県とどこか? | |
| 注5 |
参考資料「日本の酸性雨は改善傾向にある」 | |
| 注6 |
参考資料 「千葉県北部における酸性雨の地域的特性について (9)」 「第6次酸性雨全国調査報告書2021(令和3)年度」 「第6次酸性雨全国調査報告書2022(令和4)年度」 | |
| 注7 |
仮定すべきことが多々ある。 敷地1.5ha建屋0.9haのとき、建物の上と舗装道路と合わせて1haに降った水は下水に入るとする。 仮に時間雨量10mm程度の雨が操業中の4時間で降ったとして400t、その間の工場排水は50t(半日分)、建屋と+αの雨水が合わせて450tになる。 上記なら、pH5.8の工場排水が50tとpH4.3の雨水400t合わせると、計算するまでもなくほぼpH4.3じゃないかな。 製鉄業は最も水を使う業種で、平均的な製鉄所では90%をリサイクルしているが、10%でも1日20万トンくらいになる。その面積は約1000万平米(3キロ四方)くらいになり、仮に総雨量20oの雨が降ったとすると、構内に降った雨の総量は20万トンになる。 こういう水を多く使う事業でも雨水が大きな割合を占める。 20万トンの雨水を中和するなんて、苛性ソーダをいくら使えば良いのか見当がつかない。川の水と言っても雨が降れば酸性だしね。 | |
| 注8 |
PRTR法(正式名:特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律、通称:PRTR法あるいは化管法) ・1999年7月:PRTR法成立 ・2000年度:試行期間(自主届出) ・2001年度:届出義務化(初回報告は2001年度のデータを2002年に提出) | |
| 注9 |
・「典型七公害の種類別公害苦情受付件数の推移」 ・「オゾン濃度推移」 ・「環境省光化学スモッグ関連情報 各都道府県における光化学スモッグオキシダント注意報など発令日数の推移」 |
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