注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
第124話から続く
千葉工場の遵法監査トライアル第二日目である。
当初の案では現場巡回、書面審査と行い、監査側がまとめてから不適合の確認に進む予定であった。
しかし工場側は現場巡回して時間が経つと忘れてしまうから、書面の前に現場だけの確認を行うことにしたいと言い出した。監査責任者の北川はそれをOKした。
初日(昨日)まだ終業時間まで1時間はあったが、工場側が疲れてしまったから打ち合わせは明日にしようという。
ということで監査側は会議室を借りて問題点だけをリストアップした。
その後、宿泊するビジネスホテル近くの居酒屋で懇親会を持った。監査員だけで自腹で飲む分には問題はない。
第二日目である。
朝から前日の問題点指摘と説明、工場側との審議となる。
出席者は昨日工場巡回したときの監査側、工場側のメンバーの他に大木部長が出席した。
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| 松本 | ||||||||||||
| 諏訪 | ||||||||||||
| 箕輪 | 山口 | |||||||||||
| 伊那 | 山本 | |||||||||||
| 飯田 | 佐々木 | 大谷 | ||||||||||
「そいじゃ、佐川課長、巡回した順に問題点を挙げてくれ」
「承知しました。一個一個説明していくと大変ですので、昨日、監査側が昨日打ち合わせたものをお配りします。
もし漏れとか昨日話していなかったことがあれば、弊方の説明が終わったのちに追加願います。
まずはボイラー室関係で気づいたことを説明します」
山口がA4を数枚綴じたものを皆に配る。
大谷が立ち上がる。
「いやあ〜、ものすごい数の問題点だなあ〜」
「部長、これは気づいたことで、すべて悪いわけではありません」
「分かった,じっくり説明を聞かせてもらおう」
「ボイラー室の高いところにあるガラス窓が割れています。元々暑い職場で冷房もありませんから、
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| この絵を描くのに時間がかかりました。難しいのでなく、描き方が多数あり、どれが一番簡単かを考え過ぎました。 | |||||
床に油が零れたときのピットがあり溜枡に集まるようになっています。実際に流れた後もありました。溜枡に検知器がありません。法的に要求はありませんが検知器が欲しいと思います。
最後ですが一番大きなこととして、ボイラーの見直しが必要です。
現在の問題は必要蒸気に対して、過剰な10トンボイラーであることです。元々は蒸気を使う用途が多々あったそうですが、工場の製品も変わり、室内暖房は電気となったため、今は能力の2割というところでしょう。
効率向上、固定費削減などから小型ボイラーへの変更、あるいは乾燥炉を電気にすることを推奨します。
ボイラーを小型にすれば煙突の小型化、電化なら不要となります。
ボイラー関係は以上です」
「では工場側のご意見をお願いします」
「実は昨日、大木部長とも話したが、ボイラーから電気乾燥に切り替える方向で検討することになった」
「了解しました。工場側は監査を粗探しでなく、意見や要望を言う場と理解ください。特に今回はトライアルですから。
昨今、企業不祥事も数多く報道されていますが、大地震も多々起きておりまして、トップからも地震の際のリスクを点検するよう指示を頂いております。
そんなわけで煙突を気にしておりました」
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普通はサービスタンクからボイラーまで の配管からの漏洩に備え、ピットに漏洩 検知器を付ける。 |
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「ボイラー室内のサービスタンクには、法で定める防油堤と検知器が付いています。
ご指摘のピットと溜枡ですが、あれは法で定めるものではありません。更なる安全のためです」
「伊那さん、それは存じております。ただ巡回で見たら、ピットと溜桝に重油が流れた形跡がありましたので申し上げました」
「さっきの話で、来年にはボイラー回りは大幅に変わるだろうから、そのとき考えることにしよう。当面は日常点検で確認しよう。」
「承知しました」
「ボイラー室で事務処理をしているのか?」
「まずボイラーマンの責任として、ボイラー稼働中はボイラー室で監視すると法で定められています。小型のものはその限りではありませんが。
現実には、時間的に余裕があるので、環境管理課の帳票の整理とか機械設備の点検票のチェックなどをしてもらっています。そのための事務机なのです。
事務机の部分だけ仕切っても監視業務はできますが、お金をかけて工事をするかですね」
「分かった。じゃあこれもボイラーの更新後に検討だ。
ガラス窓は直してください。工場管理部門があばら家じゃ、紺屋の白袴だ」
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その後も討議は続く。
「長野課長、オゾンの許容濃度を知ってるか?」
「ハイ、浄化装置導入時に勉強しました。ええと0.1ppmだと思います
注:許容濃度はシアン化水素(青酸ガス)が0.5ppm、塩素が0.5ppmである。オゾンの0.1ppmとはとんでもなく厳しい。ただオゾンは数時間で消滅(分解)するという性質がある。
「人命にかかわるんだから、オゾン検知の動作点検とかしっかりさせてよ。
伊那君、この配布資料には機器の接続が外れていたとある。これはどういうことなのか?」
「井戸に水が溜まったのを感知して、ポンプと連動して浄化装置の運転はon/offしますが、検知器は24時間稼働しています。
施設管理係の係長にヒアリングしましたが、小屋は常に施錠しているそうです。検知器を触ったことはなく、ましてやコードの接続を外したことはないそうです。
監査のときも入室するときに開錠しました。
何者かが関係者がいないとき侵入して、機器をいじったとしか思えません」
「そんな幽霊話のようなことがあってたまるか。もしそうだと言い切るなら、警察に侵入者があり重要かつ危険な機器をいじられたと被害届を出すぞ。
今日の問題の中では最重要だと認識してくれよ。
長野課長、安衛の担当者に報告はしたのか? 安衛に報告しないと不味い。
人身事故になれば、工場長も私も長野課長もそろって首だぞ。
そうそう、警備会社にも通報せにゃならん。警備会社の責任問題になるから、裏付けを持ってこい」
「安衛には報告していませんでした。すぐに報告し対策検討します」
「すぐに証拠を調べます」
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「このさ、次亜塩素酸のタンクだけど、定期点検とかしないの?」
「消防法とか毒劇物法に関わらないのです
「長野課長、そういう
それから危険物倉庫だけどさ、大河内さんって長野課長の前任者だった方ですよね。私がここに転勤してきたときはまだいたな。
あれから6年、今も名前が残っていたとはすごいね」
「いえ、5年です」
「5年も6年も違いはないよ。法律では届け出るまでの緊急性が記述してあるでしょう。その届け出は、直ちになのか、速やかにか、遅滞なくか、どれなの?」
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「・・・・・・?」
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| 直ちに immediately | 速やかに as soon as possible | 遅滞なく within reasonable time |
法律では急いでしなければならないものに「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」等を用いる。
いずれも早い行動を求めるが、「直ちに」は遅れを許されない即時性を求め、「速やかに」はできる限り早く、「遅滞なく」は、合理的な理由があれば遅れが許容される。
「佐川さん、どれですか?」
「法律の文言は『危険物保安監督者を定めたときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする(消防法13条第2項)』と『遅滞なく』とあります。
『遅滞なく』はそんなに急がなくても良いと思われるかもしれませんが、いくら遅くとも10日とかでしょう。
松本さんが部下に『急がなくて良い』と言って頼んだとき、何日くらいを想定してますか?」
「まあ、1週間だろうなあ〜。間違っても6年ということはない」
「配布資料には、消防署に届け出さないと罰則があると書いてあるぞ。処分には、危険物貯蔵庫の使用禁止、6か月の懲役、罰金50万とは大変だ。
顛末書、前任者の解任届、後任者の選任届を早急に作成してください。後任者は誰にするの?」
「実を言いまして、危険物倉庫には第4類だけでなく第2類と第5類が置いてあるのです。第2類は信頼性評価などの試薬で、微量ですから実験室に保管すれば問題ないと思います。
第5類は製造ラインで使っています。これは現場に資格保有者がいますので、その者の了解を得て届けるつもりです」
「おい佐川君、微量の場合は有資格者がいなくても良いのか?」
「ちょっと込み入った話になります。
危険物・・・法律では危険な物という意味でなく燃えるものを言いますが、その危険性に応じて指定数量というものが決めてあり、指定数量をこえて保管とか使用するときに有資格者が必要となります。
実際には市町村条例で上乗せ規制が決めてあり、指定数量の2割を超えると規制を受けます。(但し危険物取扱者の資格は要求されない)
いずれにしろ実験室なら指定数量の2割は使いませんから法規制は受けません。
しかし会社規則の「化学物質取扱規則」では、実験室や評価試験などで危険物を取り扱うときは、量に関わらず使用する類の危険物取扱者を置くと定めています。
我々にとって会社規則は守るのが必然です」
「それじゃ、元々実験室でも必要だったのを知らなかったわけだ」
「ちょっと待てよ、6年間もあの危険物貯蔵所を利用していたわけだろう。
塗料などを出し入れしていた人や長野課長も、書かれている名前は既に退職していると知っていたなら同罪じゃないか」
「分かった。それじゃ長野課長、早急に顛末書と行政届を用意してください。
届けには課長自ら説明に行かないとならないだろう。お詫びがてら処罰について確認してください。
それから評価室の人に第2類の試験を受けるよう話を付けてください」
「受験させることは手を打ちます。
顛末書とはどういうものでしょうか?」
「問題が起きた顛末、つまり原因、経緯、対策、再発防止などを書いたものです。
謝罪とか反省文じゃないからね。
なぜ届を忘れたか、何年も気が付かなかったのか、今、発覚した経緯、どのように対策するのか、二度と起きないようにどうするか、疑問の余地のないように頼むよ」
「大木部長、大河内さんが名義貸しを疑われるのではないかと懸念しているのだがね」
「名義貸しか・・・ありえますね。
金銭の授受がなければ良いけど・・・長野課長、そのようなことはないね?」
「ありません」
「顛末書には、退職した大河内さんは無関係だと明記しておいて」
・
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・
「廃棄物管理については、関係者すべてがルールを守ることが必要です。
まず廃棄物引き渡しの現場に会社の人が立ち会っていません。担当者はマニフェスト票・・・引き渡す廃棄物の内容を記載した伝票ですね・・・それを事務所で業者に渡しておしまい、伝票を受け取った業者は誰の立ち合いもなくトラックに積込み外に持ち出す。
出門するときに、ガードマンは荷物を確認しません」
「積込場所は業者ごとに指定していて、そこから持ち出すので問題ありません」
「しかし例えば全部積まずに行ったとして、積み込んだ重量がマニフェスト票より少なくても会社は分からないでしょう。そのときは過払いになります。
あるいは逆に金目の物を積んでいっても誰も分からない」
「そんな悪人はいません。立ち合いを付けても立合者がグルだったら同じです」
「性善説が通るなら良いですね」
誰かが噴出した。
「ガードマンが車を止めて出入門証を確認しないのも問題です。
廃棄物の車両は敷地から出るとき、一時停止もしませんでした。それは道交法違反です。ガードマンは注意もしませんでした」
「それは弊方の担当外です」
「会社規則では、従業員であろうと来客であろうと、持ち出しするとき、引き渡した部門から出門する際に守衛所に、それを立証する書類を見せることになっています。会社規則で決めています。
製品や工具を持ち込む場合は入門時にそれを見せて、ガードマンは外部から持込んだ証明書を書いて渡すことになっています。出門のときはそれをガードマンに返します」
「初耳です」
「『法の不知はこれを許さず』です」
「おお、佐川先生の教えを忘れなかったか(第120話)、ハハハ」
「なんですかそれ?」
「覚えたのはそのセリフだけなんだ、佐々木君、説明してくれよ」
「法律は公布日
なお、就業規則は入社時に教えられていますから、知らなかったとは言えません」
「監査員にはそういうことも教育するのか、すごいね」
「大木部長、今回の環境監査実施に当たり、環境部から協力を提案されたのです。
我々としても下手な応援はありがたくない。どんな奴が来るのかと佐川君の講義を見学しましたが、立派なものです」
「佐川さんならISO9001のときから存じ上げていますよ」
「あのとき、この千葉工場は準備遅れで審査を受けられるか危ぶまれたが、佐川さんのおかげで予定よりひと月遅れで認証できた」
「しかしなあ〜、考えてみるにつけ、ISO9001もISO14001も効果はないね。認証の労力は大変だったが、その効果というか改善されたかと言えばまったくない。
今回、現場巡回で簡単に見つけた、退職者の名前が書いてあるとか、廃棄物引き渡しに立合ってないとか、何で見つけないの?
ISO審査は3回受けたし、内部監査なんて5〜6回してるだろう」
「ISO審査はそういう細かいことまで見ません。会社の仕組みができていて、運用されているかを見るのです。
それに内部監査は、審査で問題がないようにする事前点検で、審査で見ないことは点検しません」
「会社の仕組みができていて、運用されているかだって!
諏訪君、退職者の名前が残っているのは運用されていることになるのか」
「元々ISO認証は会社を良くするものではなく、取引するとき相手を安心させるためのものです」
「そういっちゃそうですが、その意味でもあまり効果はないですね。
例えば、ISO認証してない大企業と、認証した中小企業が張り合ったら、認証など意味がないでしょう」
「欧州統合も昔のこととなった今、認証はつまらない賞のようなものかね。
それにしちゃ高額だな」
「あのう〜、廃棄物問題はどうするのですか?」
「おお、すまん、すまん、」
「先ほど山本が、廃棄物の引渡しと出入門での問題を説明しました。
私は納入品の検収でも問題があると思います。昨日、塗料屋が納品に来ましたが、検収場では現品を確認せず納品書を受け取り、受領書に押印してお終いでした」
「オイオイ、本当か?」

「その後、塗料屋は危険物倉庫まで車で行って、自分でシャッターを開け、台車で中に塗料と思しきものを運び込んでいました」
「私も見ていた。あれは資産管理上まったく拙い。
産業スパイなんかやりたい放題だ。窃盗、放火を心配にしないのか」
「個々の問題を取り上げても発散してしまいます。まず、工場全体にルールを守れということから始めないとなりませんね。
そしてルールがないなら、法律と会社規則を基に工場のルールを作り、周知徹底する、それしかありません」
「ルールを守っていないということか」
「基本に戻れというだけでなく、正常と異常の違いを認識できることが必要と思います。過去からこんなもので良いのだという認識になっていないか、そういう反省が必要です。
塀に穴が開いていても速やかな対策しないとか問題です」
「あれは下期予算が使えるようになったら、修理しようとしていました」
「それは恒久的な対策でしょう。暫定であっても効果のある対策をしなければならない。
一斗缶を積んでおいたと言いましたが、一斗缶ではなく厚い鉄板でも塀に沿わせて鉄パイプでも打ち込んで動かないようにするとか、金をかけずに、できることはあると思います。
テニスコートのネットも何もしてなかったようですし」
「それは環境部門だけの話ではないね。検収は資材管理だし、出入門は総務とガードマン会社も関わる」
「今回の監査は千葉工場が環境に関わる法違反がないか事故の恐れはないかの点検です。しかし監査において環境以外の法規制や会社規則に反することを見つけた場合、無視できません。監査員は監査部長に報告する義務があります。
工場サイドから見れば、問題の担当はいくつもの部門に渡るでしょう。
皆さんは千葉工場代表として監査結果を受けてもらい、内部で展開していただくことになります。
「それについては昨日朝、工場長にお願いしたつもりだからよろしく」
「気を付けて欲しいのは、周りから見られているということです。塀に穴が開いたまま、あるいはテニスコートのネットが破れたまま、放置されている、塀の外の駐車場には冷蔵庫が置いてある。
そういう物を見た人は、当社がだらしない印象を持つでしょう。あるいは経営不振と取られるかもしれません。
社外の人が当社の駐車場にものを捨てるというのは、珍しくありません。家電品、家具、盗難バイク、そんな物を捨てられた工場は多々あります。
特に昨年1998年12月
困ったことに、不法投棄か紛失か判明しないので、拾得物の法律で半年経過しないと処分できないそうです。
だからと言って半年も捨てられた冷蔵庫を駐車場に置いておくのは、あまりにもまずい。それを見た人が次の晩に洗濯機を捨てていくかもしれない。
放置冷蔵庫について市に相談したら、半年保管してくれと頼まれたそうです。それは仕方ないとして、捨てられたまま現場に置いておくのはまずいと感じて欲しいと思います。
恒久対策はともかく、当面処置をどうするか考えて欲しいと思います」
「まさしく佐川君の言う通りだと思う。
ひとりひとりが自分の仕事は何かをよく考えて、誠実に職務を遂行する。これしかないよ」
「言葉では簡単ですが、業務は多忙、休日は工事立合い、大変なのです」
「あのう、監査の話とだいぶズレています。とはいえ、止めるつもりはないです。
私の話を聞いてほしい。
私は二月ほど前、工場から本社に転勤になりました。それまでISO14001の認証をしていたので、それが認められたのかなとうれしかったです。
本社に来ると環境監査に参加しろと言われまして、更にやる気が出ました。
しかし講習を受けると、思っていたのと180度違いました。ISO規格なんて無意味、マネジメントシステムより結果、監査では規格の言葉を使うな、相手が分かるように話せ。もうわけ分かりませんでした。
しかし上司や周りの人のお話を聞くと現実が良く分かりました。ISO認証すれば会社が良くなることもなく、無駄な文書や記録を作っているだけです。
そもそもISO14001の序文には会社を良くするとは書いてありませんし、マネジメントシステムが必須とも言っていません
じゃあ、遵法と汚染の予防のために何が必要かと言えば、「監査と評価」だと書いている
目の前の課題をどう処理するかといろいろ考えました。個人的にはルールを知りそれに則り仕事をする。それも効率的に良いパフォーマンスを出すことだと認識しました。
箕輪さんが多忙だ、休日も出勤だというのは良く分かります。でもできることもあります。
まず自分のレベルをもっと上げる、そして幅を広げることです。排水処理の専門家ですと限定せず、廃棄物も排水も省エネも分かる、そういう力を付ける。物事の判断・決断・行動を早くできるようになる、そういうことだと思います」
「そりゃ、言うのは簡単だけど、どうすれば仕事ができるようになるの?」
「私は自分がISOについて一番詳しいと思っていました。でも本社に来て驚きました。佐川課長は審査員どころか認証機関の取締役を指導しているのです。この人と対等に話せないと詳しいと言えないと感じました。
本社にいると、日々、いろいろな問題や相談事が来ます。それを受けてどうしようと迷うようでは、休日なく仕事するようになります。問題をその場で答えられるなら残業無用です」
「私たちのレベルが低いということね」
「そうは言いません。もっと努力する余地があるということです」
「そうすれば、今日見つかったような問題は起きないということですか?」
「私たちのしている仕事は、発明・発見が必要なことではありません。ある程度の知識、考える力、判断力があれば遂行できるものです。
工場緑地を変更したとき、届出が必要か不要か法律を読めば分かります。分からなければ県に問い合わせる、敷居が高ければ市の担当部署に相談する。
危険物保管庫の危険物保安監督者の変更は、市か消防署に問い合わせれば教えてもらえます。恥をかいても、違反するよりマシです」
「私たちの努力が足りないというわけね」
「私は2か月で変わったと思います。皆さんも今回の問題を、解決する過程で成長します」
「解決する過程とは?」
「まず目の前に現実の問題があります。でもその解法は一つではありません。千葉工場に最適な経済的な方法、そして継続できる方法を考えるのです」
「実は私は二月前に本社に転勤するまで廃棄物の担当で、公害防止も省エネも分かりませんでした。
しかし異動してから佐川課長から勉強しろと言われて、この秋には公害防止管理者水質1種と騒音を受ける予定です。今、家で勉強しています。
会社では、当社及び報道された社外の環境法違反と環境事故の、データベースを作成しています。
現実を知ることにより、異常発生時のシミュレーションができます」
「研修のとき佐川さんから
『朝出勤すると、工場から事故発生の電話があった。まわりに誰もいない。どう対応するか』と質問されました(第118話)。
そのときは単なる口頭試問と思いましたが、それから2か月の間に実際に1回ありました」
「そのとき、どうしたのですか?」
「実は佐川さんから質問されたとき、三名とも正解が分かりませんでした。それで会社のルールと手順を調べました。そして三人で何度もシミュレーションしていたので慌てませんでした。
トラブルはいくつかのパターンがあり、パターンごとに会社規則でフローが決まっています。もちろん手順の詳細は覚えられません。しかしどの会社規則で決めているかは覚えられます。
そのときも会社規則を引っ張り出して、それに従い実施手順を説明しました。
でも、おかしいですよね。会社規則は工場にもありますし、イントラネットにもあります。
なぜ工場の人は知らないのでしょうか?」
「勉強が足りないのでしょう」
「私もそう思います。
おっと、気を悪くしないでください。私たち三人は二月前に本社に異動してきたのです。それまで工場で環境部門にいましたが、誰も会社規則など読む気もありませんでした。
私は廃棄物担当でしたが廃棄物処理法を読んだことはなかったです。マニフェスト票の書き方は講習会で習っただけ、業者の評価など見よう見真似、要するに不勉強でした。
本社に行かないと勉強できないのかとなると、本社は関係ないですね。上司や先輩の指導もあるでしょうし、同僚との切磋琢磨もあります。自己啓発というか向上心があるかないかだと思う。
ただおべっかではないですが佐川課長に会わなければ、私たちはふた月でこれほど進歩はなかったです。いや、まったく進歩しなかったでしょう。
佐々木君はなんでも仕組みが大事だという。それも一理あります。その伝で言うなら、環境職務の人を教える仕組みがないのが問題なのかもしれません。
それが今回の多様な問題の一般解なのかもしれない」
「いや〜、すばらしい。佐川君が言わずとも、教え子が答えるところが良い。
イギリス海軍では艦長はいかなる戦果を上げたかではなく、艦長を何名育てたかで評価されるという。ドラッカーは『組織の目的は存続すること』と語った。その目的のためなら有能な人より、後進を育てる人が望まれるだろう」
「いや、勉強になりました。佐川さんのところでふた月で一人前にするなら、我々も負けずに努力しなければなりません。それによって残業が多いということもなくなるのだろう」
注:仕事を前にして途方に暮れるとか、あちこち聞き歩いている時間がゼロになれば、事務系の稼働率は5割アップすると私は考える。それがスキルというものだ。
もちろん標準時間以下でやれとか、過重な時間外をさせるのは論外だ。
その後、改めて現場で見つけた不適合の原因、対策を議論した。
それ以降、なぜか主観的でゴネるような主張もなく、建設的な意見が飛び交った。
終了して解散する前に、佐川は山口ら4名を集める。
「今日はお疲れさまでした。明日は書類の監査だ。
何を見るのか、チェック項目は何か、判断基準などは頭に入っていると思う。
講習で配布した資料を忘れないように。分からないことを調べるのは恥ではない。良く調べずに判断することこそ恥ずべきことだ。
それから忘れるなよ。ポストイット、定規、虫眼鏡、指サック、
腕カバーなど過去のものと思う人は多いだろう。私が社会人になった1960年代は事務作業はすべて手書きだった。衣類と書いたものを汚さないように、腕カバーを使用したのだろう。
当時でも和文タイプライタはあったが、よほどの文書でなければ使うことはなかった。会社規則くらいは皆手書きだった。だから当時は事務用のペン習字とか経理用の数字の書き方などを教える夜学もあった。習字のような書き方ではなく、いわゆるペン習字で個性のない実用的な美しい文字であった。
1980年を過ぎるとパソコンの一部機能に特化したワープロが登場した。すると社外に出す文書はすべてワープロとなった。
その頃から腕カバーは姿を消した。
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私は2000年過ぎに監査に従事したが、することと言えば、ものすごい数のマニフェスト票や契約書をめくってチェックすることであった。当時はまだ電子マニフェストとか届け出を電子データですることはなかった。省エネ計画も紙だった。
マニフェスト票などは汚れあり臭い付き、シャツが汚れると気にしては仕事にならない。
だから腕カバーをした。
最初は指で伝票をめくっていた。しかし50代半ばを過ぎると指先の脂分がなくなってくる。お札も数えられない。それで指サックを使うようになった。最初は紙の扱いががうまくなった気がした。ところが毎日伝票をめくっていると指サックの凸凹がどんどんすり減っていく。ひと月半くらいで指サックの先は丸坊主になった。
今はすべてが電子化されたから、電子マニフェストならチェックすることさえなくなったのだろうな。
北川と松本は、佐川が語るのを聞いてニヤリと顔を見合わせる。
「あいつを最初見たとき、意思が弱いように見えたが、全く違った。骨がある」
「6年前、この千葉工場がISO9001を認証するとき問題ばかりでスケジュールは遅れるばかり。そのとき彼は工場の連中を叱咤激励して駆り立てました。
そしてひと月半で審査を受けたのだからすごい奴ですよ」
本日の反省
監査論から人生論に滑ってしまいました。
ただ私は、ISOだ、マネジメントシステムだと語る人はあまり信用しません。それが本当なら認証企業はパフォーマンスを大きく上げているはずです。
それと島耕作のように社内政治がお好きなのも嫌いです。
ネットで「お医者さんは何科が一番儲かるか?」という質問を受けた医師が、医者を止めて投資家になった人が一番儲けていると答えていた。
私は、真面目に基本を学び、頭が汗をかくほど考え、愚直に動く、そうあるべきと信じている。
更なる反省
少しも文字数が減りません。
今回も1,100文字を超えました。真面目に読むと30分くらいかかるでしょう。
ちなみに前回第124話は13,000文字です。救いようがありません。
| <<前の話 | 次の話>> | 目次 |
| 注1 |
オゾンの作業環境における許容濃度は、日本産業衛生学会が定めた0.1ppm以下である。 但しこれは1日8時間週40時間以内の条件である。 家庭用オゾン発生器も0.1ppmとしているものが多い。しかしアメリカ食品医薬品局(FDA)が定める室内環境基準で最大0.05 ppm(24時間)である。常時オゾンを発生する家庭用では、0.1ppmでは高いのではないか? | |
| 注2 |
家庭用漂白剤や消毒用などの次亜塩素酸は、低濃度であるため劇物指定されていない。 知らなかったがフィットネスクラブのプール用は、工業用を使うのだそうだ。 | |
| 注3 |
参議院法制局 法律の公布・施行に関する事件 | |
| 注4 |
家電リサイクル法は1998年6月公布、1998年12月から一部施行、2001年から本格施行された。 | |
| 注5 |
序文第二段落「将来も満たし続けることを確実にするには体系化されたマネジメントシステムが必要」とある。 言い換えると、スーパーマンがいればシステムはいらないのだ。 | |
| 注6 |
序文第二段落「reviews and audits」とある。 単純にPDCAを回すことが必須なのであり、その仕組みさえあれば、ISO規格要求全部が必要ではないということと理解する。 |
いつも楽しく読ませていただいております。月曜日と木曜日が待ち遠しい。 今日のお話も充実した気持ちになることができました。ありがとうございます。 内緒ですが、松本さんの発言で退職が”退色”となっているところがありました。掛け言葉と取れるのかな、とも思いましたが一応お知らせまで。急に寒くなってきましたのでどうかご自愛くださいませ。 |
わずー様、ご指摘ありがとうございます。 しゃれとかかけ言葉ではござりませぬ。単なる間違い、チョンボ、ミス、誤りで、謝るしかありませぬ。 寒さ厳しくなりましたね。今朝、出掛けるとき手袋をしていきました。寒いのは嫌いです。 |
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