タイムスリップ130 監査実施7

25.12.04

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




129話から続く。
9月中旬、監査部が遵法監査を開始してひと月半、実施した事業所は工場が5カ所、研究所が1か所、支社が2カ所、都合9事業所である。
ここは吉宗機械の定例の取締役会で、本日は監査部から遵法監査の第1回報告をする。


取締役会

監査部長の報告を聞いて、社長のコメントである。

奥田社長 「まだ途中だが、この監査結果から類推すれば、
奥田社長
奥田社長
どこの事業所も似たようなものだろう。
そして一言で言えば、当社はかなり違反しているということだな」


星山 「まだ、これから監査する事業所が30以上ありますから、何とも言えません」

奥田社長 「オイオイ、ということは今までの業務監査が頼りないということだぞ。今までの監査とはどういう方法だったの?」

星山 「会計監査につきましては、公認会計士が見ると同等の精緻さで行っていたつもりです。
星山
初登場
星山監査部長
もちろんすべて抜取りです。今回のようにしらみつぶしにチェックしたのは初めてです。

会計以外の業務監査ですと、監査員には事業所の部長クラスに依頼しておりまして、まあ監査の専門家でもなく、調査する業務の専門家どころか経験者でもありませんね。
部長クラスに他事業所を見せて学ばせる意味もありますし・・・」

中山経営企画室長 「確かに危険物貯蔵所の施錠が必要なんて、細かいことまで知っている管理者は少ないでしょうな。
とはいえ、それで業務監査になるのかどうか」

奥田社長 「監査の目的から、法の遵守、会社規則の遵守、目標管理、業務の効率化、そういうことをチェックしないと監査とは言えないのではないか」

某取締役 「ちょっと質問ですが、未来プロジェクトからの報告では、どのような不祥事が問題になったのでしょうか?
危険物庫のカギくらいで不祥事騒ぎになるとは思えませんが」

中山経営企画室長
おなじみの
中山取締役
経営企画室長

中山経営企画室長 「今まで報道された企業不祥事では、車が事故を起こしその原因を究明したら社内でその問題を知っていて、本来なら通産省に報告しリコールしなければならないものであったが、隠していた。

そして立ち入り調査でそれ以外の違反などが見つかったというとき、そういった違反・・・つまり化学物質の管理がなってことも取り上げられていますね」

某取締役 「なるほど、何かあれば大して重要でないと思われるものも問題になるということですか?」

中山経営企画室長 「そりゃ、程度が軽いと言っても法違反ですからね。
しかし今回の監査で見つかったものと同じで、全国報道されたものもあります。

半年ほど前に新聞で報道されたものに、税務署の立入りを受けた某社では、契約書の印紙税の不足が発見され、過怠税を納めるよう言われた。その企業は全事業所の契約書や受領書すべてのチェックをしたところ、かなりの数の印紙税不足があり、その過怠税を払ったと新聞に載っていました。
過怠税といっても大金になったでしょうし、会社のイメージダウンもあります」

某取締役 「それ私も新聞で見ましたね。全国紙に脱税と書かれましたから、イメージダウンは大きいでしょう。
しかし印紙税が足りないくらいで脱税とは大げさです」

奥田社長 「脱税に変わりはないよ。大きな取引契約なら、印紙税は1件で30万とか40万になるんだよ(注1)脱税以外の何物でもない」

星山 「印紙税不足は今回の監査で、既に何件も報告されています。
特に廃棄物業者との取引契約書で多発しており、大金ではありませんが、不足額の合計は20万くらいになります」

中山経営企画室長 「大金ではないかもしれないが、違反であることに間違いない。報道されるかどうかに関わらず対策は重要だな」

星山 「当社の場合は税務署に自己申告させます。ならば過怠税だけで、報道まではされないかと思います。
全事業所の監査が終わってから申告しようと考えていますが、それ以前に税務署が入ると不味いですね」

奥田社長 「印紙税不足なんて、元々会計監査の対象でしょう。監査で見てないの?」

星山 「もちろん見ています。ただすべて抜取で全数はチェックしておりません。
それと廃棄物の契約書は工場の施設管理部門が契約していて、一元管理していないのです。設計で業務を外注しているのもそうですね。
部門で完結している契約は存在そのものに気付かず、会計監査で漏れる恐れがあります」

奥田社長 「仕組み上、監査から漏れるようでは困るよ。これを機会に監査範囲と方法を検討してください。

それからさ、抜取って言ったでしょう。抜取検査ならまず危険率を設定し、JISの表から抜取数を求めるのだよ。もちろんランダムサンプリングでないといけない。
監査の点検漏れが何パーセントまで許容できるのかをまず考えて、その危険率に収めるには何件抜き取ったらそれが保証されるか、品質保証部にでも行って教えを乞うと良い」

星山 「そういう統計的なことは存じませんでした」

奥田社長 「しかしさ、もっと大事なことがある。
そもそも異常を許容しないなら抜取検査は採用できないのだが、そこはどう考えているの?
抜取検査なら当然設定した割合まで不具合が混入しても良いわけだ。法に関わるものでも一定割合まで許容するのを、どう考えているのかね。
抜取方式なら、監査部は設定した割合まで違反があって良いとした説明責任があるぞ」


注:ISO審査は抜取で行う。だから『いかなる審査も、組織のマネジメントシステムからのサンプリングに基づいているため、要求事項に100%適合していることを保証するものではない』と、しっかりISO17021に明記している。
しかし! 認証組織で問題が起きたとき、これを説明をした認証機関を見たことがない。認証組織に問題が発覚すれば、全て組織の責任であり、審査の責任ではないらしい。

え〜へえ〜、不思議ねえ

星山 「今回の監査終了後に検討したします」

奥田社長 「監査員の見直しも必要だな。今回の監査では、経理は経理、購買は購買とそれぞれの業務をしている人を監査員に当てていると聞いた。
そもそも、部長とか役職に就いているなら監査できると考えるのは間違いだ。それに管理職の教育に監査を使うとはおかしいだろう」

星山 「はっ、それも含めまして」

星山監査部長は水飲み鳥(平和鳥)のように、頭をペコペコと下げ続けた。




取締役会の翌日の監査部である。
監査部長から、取締役会で社長や他の取締役の反応が厳しかったと、状況を伝えられた北川と坂口は下を向いている。


坂口 「見逃しのないようチェックしようと頑張ると、不具合がたくさん見つかったのは効果がありましたが、今までしっかり見てなかったのかと言われると辛いですね」

星山 「そりゃ当たり前だろう。今までしていた監査が否定されたと理解してくれ。
そもそも発端は、環境部から遵法監査をしようと持ち掛けられたそうじゃないか。なぜ3月に取締役会から不祥事発生を防止せよと指示があったとき、臨時監査を計画しなかったのか?」

北川 「実は、4月末に環境部から環境遵法監査をするのだろうと話がきたとき、初めてそういう通知があったと知り驚きました。

ええと監査部の担当取締役は財務部と経理部も所管しています。そして財務部と経理部に問い合わせたら、双方の部長は、3月初めには不祥事多発が予想されるから各事業所に点検をせよと取締役の指示が書かれた、取締役会の資料のコピーを渡されていたと言います(第121話)。
ところが私は監査部長からその指示を受けていません」

話合い

星山 「えっ、そう言えばワシも取締役から指示を受けた覚えはないな。実を言ってワシも環境部から遵法監査を提案されたと聞いて驚いた。
あの爺さんボケたか?
後で取締役と話をする」

北川 「ともかく始まりは、環境部長が監査部で環境遵法監査をするのだろうが、そのとき協力させてくれと言ってきたことです。

そのとき話し合いの結果、環境部が環境監査できるレベルなのか確認しようとなりまして、環境部内で監査員を養成する研修を坂口君と二人で聴講しました。

見学して驚きましたが、環境部で教えている監査の方法論は、まさに愚直と言えるものでした。いや、貶しているのでなく誉め言葉です。
一般論で質問をすることはなく、質疑は常に具体的であり、そして証言に価値はなく徹底した証拠主義です。
そして不適合となる根拠をしっかり確認します。どの法律の何条かまではっきりさせ、根拠と証拠を明確にして逃げられないようにします

星山 「逃げられないとはどういうことかね?」

北川 「仮に契約書に必要項目を記載していないとします・・・実際そういうものもありました・・・当然それは不適合でありますが、その監査報告書の記述がすごいのです。
『〇〇社との何日付のなんという契約書の、何ページのどこの記入カ所が空白である』と記述するのです。
ですから後で証拠を確認するには容易にたどり着けます。もし追記したとすればインクの色が変わりますからね。

それは文書だけでなく、現場の問題も同じです。例えば表示板が退色して内容が読めないものがあれば、『〇〇工場の柱No.A14にかけてある看板に記された責任者名が退色して読めない』と書いていました」

星山 「なるほどな・・・奴らはどこでそういうテクニックを習ったのだろう。
今までの業務監査報告書を見ると、部長であっても、一般論を聞いて『しっかりやってますね』なんて〆るようでは監査ではないな。

監査技能もそうだが、専門知識がなければ監査員はダメだ。
これからの業務監査は地位などより、実務家、日々仕事をしている人に依頼するのが一番だ」

坂口 「工場の部長ばかりではありません。監査部の人たちも、ここに来るまでは監査などしていません。
私は30年営業にいて部長になり役職定年で監査部に来ました。取引契約に関わる法規制は知っていますが、それ以外は全く知りません。印紙税額も知りませんよ。
北川さんはどうですか?」

北川 「私はずっと経理担当だったので、趣味で税理士を受けて社内の経験を認めてもらい税理士の資格を取った。
とはいえお金のことは分かるつもりだが、それ以外は書類でも現場でも善し悪しは分からんね」

坂口 「恐れ入りました。環境部の連中はよく印紙税額の重要性を知っていましたね」

北川 「講習のとき坂口君も見学していただろう。あの佐川が契約書の必須要件とか印紙金額などを説明したとき、私はあいつに聞いた。
印紙金額まで調べるのかと・・・・・・するとあいつは印紙金額が足りないと問題になったことがある。それで問題がないように見なければならないという」

星山 「マスコミ報道があったから覚えていたのだろう」

北川 「そういう感じではなかったですね。自分自身が失敗や間違いを経験しているから、それを踏まえて語っているように思えました」

坂口 「ということは経験を積まないと、良い監査員になれないってことですか?」

北川 「経験のない人を育てるのが、あの講習なんじゃないか。
環境部の若手への講習と、工場から集めた人への講習を見て、佐川の話を聞けば監査を追体験ができると思ったね」

星山 「生まれつき、そういうのが得意なのかもしれんな」

北川 「部長、感心するだけでなく、我々もそうできなければなりません」

星山 「監査部に来る人達は皆50過ぎで、出世の見込みはなく、関連会社からも引き取り手がない人たちということは知られている。
だが皆、長年仕事をしてきてその仕事の専門家だ。その経験をいかして経験してない業務も監査できるよう養成すること、それを個人のスキルでなく、組織のノウハウとしなければならない」

北川 「彼からそのノウハウを盗もうとしていますが、なかなか難しい」

星山 「ならば、その佐川に教えて欲しいと頼みなさい」




環境部である。
現在実施中の監査には山本と大谷が参加しているので、今日は佐川、山口、佐々木だけがいる。


佐川真一 「佐々木さんは公害防止管理者水質1種受験予定だけど、進捗はどうですかね?
試験は今月末だよね」

佐々木 「課長に言われたのは5月でしたね。あれからすぐに過去問の本を買いました。一読して独学ではダメと判断して、産環協の通信教育を受けることにしました。
それから練習問題は必ずやってレポートを出しています。大丈夫と思います」


電話が鳴り、佐々木がとる。📞

佐々木 「はあ、法律の読み方ですか、ちょっと電話を代わりますね。
山口さん、宇都宮工場からですが、法律の読み方を勉強するにはどうしたら良いのかという問い合わせです」

山口 「山口と申します。お電話代わりました。
ああ、法律を読んでも理解できない・・・そうですね、基本的なことを知らないと法律の文章を読んでもなかなか理解できませんよね。
お話はよく分かりました。参考図書とか後でご連絡します。ハイ・・・」

佐川真一 「山口さん、何かありましたか?」

山口 「いえ、問題ではないのですが・・・工場の人が法律を読むのは大変なので、法律を読む参考書がないかというのです。
後で連絡するって言いましたけど、どうしたもんですかね?」

佐々木 「そういうのって、弁護士とか司法書士が勉強するのと同じ本を読まなければならないのですか?」

佐川真一 「行政書士の試験科目に基礎法学というのがあって、そのテキストは多々出版されている。読めば参考になるが・・・」

山口 「その様子ではあまり訳に立たないようですね」

佐川真一 「そうだね、我々が知りたいことは法の精神なんて高尚なもんじゃなくて、『第2条の2』と『第2条第2項』の違いとか、改正された法律の改正前の条文を調べる方法とか、即物的で細かい実践的なことだからね」

山口 猛毒 「私は以前、毒劇物法で、毒物についての表示とかを決めた条文はあるのですが、劇物については書いてないのですよ。
ところが劇物についても同様にしないとならないと聞いて、一体どうしてなのかと毒劇物法を何度も読みました」

佐々木 「それで分かりましたか?」

山口 「艱難辛苦の末、その記述にたどり着きました」

佐川真一 「あれでしょう。最初に毒物の規制が書いてあって、ずっと後ろに『何条の規定は劇物にも適用する』って書いてあったんじゃないの?」

山口 「それならまだ良いですよ。劇物で検索すればヒットしますから。
実際には『第何条何項の規定は第何条何項にも適用する』とあったのです。
そういうのって良くある記述なのですね」

佐川真一 「法律は一か所変更したら済むように文章を書くようですね。だから1回書いたことは、他の項目で同じことを書かずに、それを適用するっていう構成にするのでしょう。
ただ後ろの方では引用元の条項しか書かないから探すときは大変です。

それと法律は一部改定方式(改め文方式)だから、改正法を読み取るのは難しい。行政の説明会を聞くのが一番だ」

山口 「一部改定方式って、あれでしょう。ISO9001のとき文書管理で悩んだやつ(第23話)」

佐川真一 「そうだそうだ。山口さんから病欠していた私に問い合わせが来たね、アハハ」

佐々木 「なんですか、面白そうな話ですか?」

山口 「佐々木さんはISO9001に関わりましたか? ISO9001の初版には『相当回数の変更が行われた後には、文書を再発行する』という文句があったんだ」

佐々木 「なんですかそれ?」

山口 「コピー機のある時代では知る必要ない、古い時代のお話です」

佐々木 「山口さんと私は何歳も違いませんよ」

佐川真一 「この問い合わせについては、山口さんか佐々木さんが、法律の読み方というテキストを作ってください。A4で10ページか15ページくらいの、簡単でいいよ。 マニュアル
完成したらウェブにアップして、工場の人はそれをプリントすれば良い」

山口 「そう言われても、右も左も分かりません」

佐川真一 「さっき言った基礎法学の本はそういう、実際に仕事をしていて法律を読んでも分からないとか困ったというケースにはまず役に立たない。だからその逆のアプローチが良いと思う。
つまり君たちが今まで法律を読んで、分けわからなかったことを、羅列しただけでも良いのかなと。

具体的には、先ほど山口さんが言った、『何条の規定は劇物にも適用する』という意味はこうで、該当することは何かを探す方法はこうですよとか、
そうだ、「第何条の2」と「第何条第2項」の違いとか、思いつくだけで10や20はあるでしょう。自分が困ったことを、どのように対処したかをまとめたQ&Aでも良いね。

細かいことだが、及び/並びに、表と付表の違い、枝番の取り方・読み方なんても良いね、いや必要だ。
格調高くするなら、テキストの最初の数ページに基礎法学で解説している法体系とかを載せても良い」

佐々木 「佐川さんがまとめた方が早いんじゃないですか」

山口 「そう言っちぁいけないよ。それをすること自体が勉強なんだから」




工場

10月初旬になった。ここは福岡工場で、ただいま監査の真っ最中である。
環境の監査員として工場から派遣されてきたのは、長野工場の 池神さんと兵庫工場の 小林さんである。
この二人は、ISO9001認証のときからお互いに相談してきた間柄だ(第18話)。

ISO9001の認証に関わった人たちは、どこの会社でもISO9001が一段落するとISO14001の担当をすることが多かった。
ISO9001を担当してISO規格を読むのに慣れても環境法も公害も知らない連中は、スコアリング法なんてものを見て面白いおもちゃと飛びついたのではないかと思う。
泥臭く公害防止とか省エネをして来たならば、スコアリング法のうさん臭さ、デタラメさを感じて受け付けなかったことだろう。

実体験だが、1997年だと思う、某講演会で、公害防止一筋で来た人が「ISO規格なんて公害防止の延長だ」と語った。
それを聞いたISOTC委員が「ISO規格は公害防止とは一線を画したものであり、同列なんてとんでもない」と怒っていた。

今になって見れば、公害防止で苦労してきた人の価値が分かり、そのISOTC委員が上っ面だけというのも分かる。
おっと、小林氏も池神氏もまっとうで、そんなバカなことは語らない・・・だろうと期待する。


現場監査後、二人はコーヒーを飲みながら今日の監査を振り返る。
実を言って、昨日も今日も、沢山の違反を見つけたし、事故が起きる一歩手前というのもいくつも見つけた。
そんなものを見つけてもうれしくもないし、優越感もわかない。困ったということだけだ。


小林
小林
ミルク
湯気
紙コップ
湯気
紙コップ

池神
池神

ミルク

池神 「ルールを作るのは難しいね」

小林 「ルールを作るより、守らせるのが難しいのではないですか?」

池神 「それは守れないようなルールを作るのが間違っている」

小林 「でも守るべきことがあるわけですよ。それを守れないだろうと、幅を広げたらルールになりません」

池神 「だけどさ、ルールを作る方は、守れるような条件というか環境を作る責任もあると思う。
例えば図のように倉庫に入荷・出荷のために車を一方通行にしたとする。車は混雑なしに進行できても人が大回りするのは面倒だ。必ず近道をするようになる。
中央の緑地帯に入るなと看板立てても、まず守らない」


倉庫
コーナー トラック トラック コーナー
トラック
人 トラック
コーナー トラック トラック コーナー
トラック トラック 🏠守衛所
こういうとき、必ず近道が自然発生する。

小林 「確かにそうかもしれませんね。でもそんなことはめったにないでしょう」

池神 「これはたとえ話だ。言いたいことは、無理せずに守れるように条件を整えないと、守ってくれないということだ。
書類の書き方、提出ルート、すべてに渡って面倒くさいとか分かりにくいのはダメだ」

小林 「おっしゃることは分かりました。
で、それがどうしたと?」

池神 「ルールを作るなら、守れるようなものでないと不味いということだ。
いろいろなフォーム(様式)は、説明を聞かなくても分かるような構成にすべきだ。文字記入でなく選択するとか」

小林 「池神さんの言いたいことは何でしょう?
まさか法律を直せってことじゃないでしょう」

池神 「ええー、俺が10分もかけて説明しているのを理解できないの?
俺は、監査で見つけた不具合は、ルールを見直せばそんなに違反は起きないと思っている。

この大分工場でも印紙税の間違いが見つかっている。印紙税額を間違えるなら、契約書作成の手順書を分かりやすくすることだ。
今ある契約書作成の手順書の印紙税の表は、何号文書ならいくらと書いてある。
でも我々は自分が作っている契約書が何号文書か分からないだろう。

印紙税法とか印紙税の手引きを読んで、初めて〇号文書の〇号とは印紙税法の表の分類の番号と分かるわけだ。まあ、それは簡単だ。
それから自分の手にしている契約書が何号かを知るのも難しい。2号文書は『請負に関する契約書』とある。廃棄物処理委託はこれか? 廃棄物処理委託でも処理と運搬は違うと思いつくか?
正直言って俺は講習会で聞くまで、わけが分からなかった。

日本語の読み書きできる人なら、手順書を見れば契約書が作れなくちゃいけない。
工場で作成する契約書の種類は限定されているだろうから、具体的な契約書の名前を書いて置けば間違えはないでしょう。
そういうものを作れってことだ」

小林 「ああ、おっしゃること分かりました。
しかし、そういう手順書は作るのも面倒だし、法改正があるたびに手順書を改定しなければなりませんね」

池神 「オイオイ、手順書は作りやすいことが重要でなく、使いやすいことが重要だろう。そう思わないか?」

小林 「手順書を作る身になれば、手抜きしたいですよ」

池神 「お前はジコチュー(注2)すぎる。ISO9001の顧客満足忘れたのか?」



うそ800 本日の感想

こんな文章なら、何も見ずに書けるだろうとお思いでしょうか?
そんなことはありません(キリッ
「印紙税の手引き(注3)」、毒劇物法(注4)「法律を読む技術学ぶ技術(注5)」、「法令読解の基礎知識(注6)」、「法学の基礎がわかる本(注7)など読みましたよ。斜め読みですがね。

何事も、利用者第一です。作りやすいものより使ってもらえるものでなくちゃいけません。そうでないものをたくさん見てきましたから申し上げます。
ISO9001では顧客満足と言いました。もう忘れちゃったかな?


古い思い出である。
私は現場の要領書を書く仕事をしていた。一生懸命に図を書き文章を考えて作るのだが、私の考えが通じず、部品を付ける位置とか方向を間違えたり、寸法を誤読されたりした。
いかに間違えられない要領書を書くべきかと、認知心理学とか文章作法なども勉強した。

そんな中で一番参考になったのは「マニュアルバイブル(注8)という本である。今も流通しているかとアマゾンを見ると、40年前2,800円の本の古本が7,000円の値段が付いている。
原本はアメリカの本だが、使う単語は13歳までに習った単語に限るとか、もう初歩というか基本から書いてあるすごい本だ。
とても勉強になった。



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注1 2014年の印紙税法改正で、5000万以下の契約はほぼ半分に、1億以上は80%に減額された。だからこの物語の1999年頃は、現在の倍ほど、ちょっとした契約で2000円くらいの印紙税がかかっていた。

注2 乃木坂46の「ジコチューで行こう!」が流行したのは2018年の夏ですが、言葉としての「ジコチュー」が広く使われたのは1990年代末から2000年頃がピークでした。まさにこの物語の時期です。
今使われなくなったのは、全員がジコチューになったからでしょうか?

注3 ・国税庁 印紙税の手引き

注4 ・電子政府 毒物及び劇物取締法

注5 ・法律を読む技術・学ぶ技術、吉田利宏、ダイヤモンド社、2007

注6 ・法令読解の基礎知識、長野秀幸、学陽書房、2009

注7 ・法学の基礎が分かる本、TAC法学研究会、TAC(株)出版部、2014

注8 「マニュアルバイブル」エドモンド・H・ワイス、啓学出版、1987





外資社員様からお便りを頂きました(25.12.04)
おばQさま 今回もご経験に基づいた実践的な監査の内容でしたね。
大手でも、これだけ企業でしっかりやれるところは少ないのだと思います。
どこかポロポロと漏れがあったり、報告されない問題があったり。
一つ気づいたのは、あえてお書きになっていないと思いますが、労務管理の問題。
思い起こせば、あの頃は残業未払いなんて当たり前、代休のはずなのに働いている社員が「俺は今日は幽霊だから」と嘯いて事務所にいたり....有給消化なんて建前だけ。
労務管理の監査まで書き出したら、キリがない
思い起こせば、あの頃は大手でも無法状態の労務が当たり前でしたね。
私が昔居た某大手なんて、端末で月末に勤務記録を入れるのですが、デフォが定時勤務。
忙しい人間は実勤務時間なんていれないから、勤務記録上では残業なんて殆ど無い。
それなのに深夜や休日でも勤務している人間が多かった。
深夜や休日出勤は割増賃金対象の法的要求、総務所属の警備が見回るから、総務が実態と記録の乖離を知らない訳がない。
シランプリが当たり前という事は、総務にすらコンプライアンスなんて概念が無かったのだと思います。
あの頃は懐かしいけれど、あんな労働環境は二度と御免

外資社員様 毎度ありがとうございます。
サポーズ、21世紀の今、嫌煙権なんてのも立派に権利になっています。1980年以前は会社でも電車でもスパスパと紫煙漂っていました。
新幹線が完全記念になったのが1999年で、飲食店も分煙から完全禁煙になりました。

何を言いたいのかというと、パラダイムが変わったのですよ。私も1980年代は家が近く(4キロ程)だったこともあり、一晩働いてシャワーだけに帰宅するようなときもありました。確かに労基法それおいしいのという時代でした。
ただこれは輸出だ、国家のためという使命感は1970年半ばで終わったように思います。それ以降は何かそういう意気込みは感じなくなりました。社会が豊かになったからでしょうか? 出世しなかったからかもしれません。
でも、あんな時代があったから、今振り返ると自分は頑張ったと言えるかと思います。過ぎてしまえば皆美しい思い出(?)

もっとも1970年代初め、出荷に間に合わないと、深夜大勢で現場で仕事をしていたら、エライサン(当時50過ぎ)が語るのは、戦争末期、学徒動員でヒロポンを打って眠らず仕事していたとの仰せ。それまではできませんよ。でもそこまでして頑張った方々に感謝し尊敬します。

ちなみに坂井三郎なんかの本を読むと、上官に集中力が高まると勧められてヒロポンを打ったパイロットは、空中戦で皆死んでしまったと言います。地上勤務だったオヤジは、夜中麻雀を打っていたパイロットは寝不足で空中戦以前まともに飛べなかったと言います。こちらは尊敬できませんね。





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