注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
注2:タイムスリップISOとは
このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
前回より赤い部分が少し伸びています。
西暦 | 世の中の出来事 | このお話の出来事 | 話数 | ||||
1992 | 新幹線のぞみ登場 | 主人公佐川が若返る 課長解任され平となり、品質保証に異動 | 第1話 〜 第8話 | ||||
1993 | EU統合 日本でインターネット始まる | ISO9001認証にチャレンジ 佐川の成果から本社応援、後に本社転勤 | 第9話 〜第43話 | ||||
1994 | 関西国際空港開業 松本サリン事件 | ISO9001認証も一段落 | 第44話〜第47話 | ||||
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阪神淡路大震災 オウム真理教地下鉄テロ |
| 第48話〜第○話 | ||||
1996 | 北海道豊浜トンネルで岩盤崩落 | ISO14001制定前からドラフト(草稿)で仮認証始まる 年末にISO14001制定される | |||||
1997 | ロシア船ナホトカ号沈没油流出 ペルー日本大使館事件 | ISO14001認証始まる |
ISO認証なんて一度やってみれば分かるが、非常に簡単だ……本当だよ。
現実に多くの企業では、ISO規格要求の大半は過去より会社のルール(規定とか規則など)となっている。
考えてみればまともなルールがなくて、一つの組織が何十年も支障なく活動を続けることはできない。
それは品質や環境だけではない。情報セキュリティだって労働安全だって会社設立のときから、ルールあるいは約束事はあったはずだ。もちろん仕事内容も現代とは違い、情報と言っても紙、通信は手紙と電話くらいしかなかったかもしれないが、会社の重要な情報をいかに扱うかは決めていたはずだ。
問題は、それが明文化(文書化)されているか、遵守が徹底しているかという二点である。
だからISO認証のためにすることは、全社については暗黙知(頭の中)であれば形式知(文書)とすること、後者については、ルールは守るという習慣付け、守れないルールなら現実的なものにすることである。
ISOのハウツウ本とかISOコンサルが、しばしば「マネジメントシステムの構築」という大仰な言い方を見かけるが、その意味は、「過去からあるルールを文書化・明文化すること」ということらしい。羊頭狗肉である。
私なら恥ずかしくて「構築」なんて言えない。まあ、それで金儲けをしようとする人は、大げさに言わないと頼む人もおらず
マネジメントシステムが存在しない組織があれば教えてほしいものだ。
もっともその前に、ISO9000の3.5.3マネジメントシステムの定義を読んでくださいね
よってISOコンサルがすることは、
![]() | 仕事の流れを調べ、その手順が文書化されているか、否かを調べる。 ないなら文書を作る。あるなら中身の確認だ。 |
|
![]() | 従来からあった文書化されたルールも、今、文書化したルールも守らせること | |
![]() | ルールで定めた(当然規格要求対応の)記録を作成し蓄積すること |
でしかない。
言ってみればこの通り簡単極まりない。
もちろん、ISO規格の理解が必要だ。それも規格を読んだだけではなく、現実の会社の仕組みが規格要求を満たすか、審査員がOKとみなすかという判断ができないとならない。
だが一番手間がかかるのは、やる気のない人を動かすことだ。それは認証を受ける組織の仕事であり責任であると言いたいが、コンサルを頼む社長はそういう自分がしなければならないこともコンサルに求める。
まあ、金をもらう立場では仕方がない。いや、それも金になる。
私は金をもらってコンサルしたことはないが、ボランティアコンサルは何度もした。支援先でトップはやる気があっても担当者がやる気がないと、こちらもやる気をなくす。
おっと、トップが持つやる気は、金儲けに はやる気持ちであり、人のために何かしてやる気持ちではない。
トップが真っ先に動かないなら、ISO規格のコミットメントを満たさないじゃないか。
佐川は工場に指導に行かないときは、片岡、佐々木を集め、山口がいれば彼も参加して、座学である。
1月も末まで7回くらい座学をして、認証制度、規格解説、ISOコンサルの仕事、認証までの手順などを教えると、現場の指導に連れていくことにした。
阪神淡路大震災の被害を受けたところはISO認証どころではないが、そこをはずれたところはいつもと変わらない。被災地を除いて今現在ISO認証を進めている工場は5カ所、関連会社は2社である。
今日は佐川以下、山口、片岡、佐々木の4名で熊谷市に来ている。ここに府中工場の分工場がある。分工場と言っても従業員は400名もいる。
この時代は、工場全体をまるごとISO認証することは、めったになかった。認証は客先とか輸出先から求められるからするのであり、認証範囲は認証を要求した顧客に売っている機種対応とか製品対応であった。
当然、ISO認証を求められた製品の生産が終われば認証は返上する。お金は大事だ、無駄なことはしない。
親工場である府中工場はメインの標準品を作り、熊谷分工場では少量の客先対応の製品を作るという分担である。
分工場には分工場長がいるが、この人の責任・権限は行政機関や近隣との対外折衝と工場施設の管理であり、生産品の納期や品質の責任を持たない。
社外の市当局、商工会議所や近隣住民からは、分工場のトップとみられているが、実質は分工場の建屋管理をしているに過ぎない。
ISO認証機関には、経営者を府中工場長としている。常駐していないが問題はない。
注:ピンクに染めた枠が認証範囲である。
分工場には課はなく係が複数あるが、いずれも分工場長の下ではなく、府中工場の課の下に所属している。
品質管理係や品質保証係は府中工場の品質管理課、品質保証課に属しており、出荷や生産計画を立てる業務係は府中工場の業務課長の下になる。
端的に言えば、分工場長は分工場内の他の管理者と同列なのだ。
1995年だと思う。田舎の囲碁クラブで知り合った方から、勤め先の工場でISO認証を計画しているから指導してくれと言われた。
当時の勤め先はダブルワーク禁止だが、無給のボランティアなら問題ないだろうと上長の確認を取りノコノコ出かけた。
行った先でまず挨拶をした。工場長と名乗った方がトップと思ったら、製造部長が品質や生産の最高責任者で、工場長は建屋管理だったのに驚いた。聞くと人事処遇のためと聞いた。工場全体をまとめる人はいなかったようだ。いなくても問題ないらしい。
その代わり、部下のない係長とか課がない課長とかたくさんいた。中小企業アルアルである。おっとその会社は中堅企業だった。
謝礼はなく、飲ませてもらってお終いだった。腐れ縁にならずによかった。
ISO認証するとき、熊谷分工場の組織体制をどうしようかと悩んだようだが、認証のキックオフのとき呼ばれた佐川は、「府中工場で生産する機種という認証範囲」と考えれば良いと即答した。
大きな工場で一部の製品のみの認証を受けるのと同じく、関連する部署のみの審査を受ければ良い。所在地を気にせず、対象となる製品の設計、製造、販売に関わるところを認証範囲とすることでおかしくない。
認証範囲は、分工場の各係の上位機関である府中工場の各課、その上の各部が審査対象となる。品質保証部に属しても、府中工場の仕事をしている課や係は対象外だ。
分工場長は工場管理、つまり設備管理、福利厚生などの責任があるだけとする、現実そのままである。
逆に府中工場も審査範囲に含まれることから、設計があることになり、ISO9002の認証はできず、ISO9001の認証となる。(当時は9002の認証は普通にあった)
そんなことで設計、営業、購買、教育訓練、工程管理、内部監査などは府中工場が審査を受けることになる。認証の指導もそれに合わせた。
そんなことで認証準備を進めてきたが、佐川にとっては東京駅から直角方向に結構距離が離れた両方に指導に行かねばならず、手間は倍かかっているのが実情だ。
ISO認証とは決まりがあって、その通り実行すれば良いのであり、全員参加とかやる気とかとは無縁だ。
ところが決めたことを周知徹底することも、しっかり守らせることもなかなかできないのが常である。府中工場で課長に説明しても、それが即座に熊谷分工場に伝わり展開されるわけでもなく、まだるっこしい。
佐川は粛々と今までの指導が実践されているかの確認をする。
そして逸脱とか不徹底があれば、それを指摘してルール通りの実施を説明する。対応する管理者たちはそれを聞いて、言われた通りはできないという顔をするのも常のこと。
ルールの運用が難しいならルールを変えれば良いことだが、その動きも鈍い。各段階において悩みはある。
今回もそうなるだろう。
訪問して、まずは毎度の工場巡回をする。
巡回が終わると事務所に戻り、巡回した結果の意見交換となる。
分工場側はISO認証に関係する管理者が出る。
熊谷分工場の面々 | 本社からの指導 | |||||||||||||||||||
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「当社ではISO9001認証もいくつもの工場が認証しまして、実施事項も標準化されてきました。それでこれからの認証指導は、関連会社の柳田企画(株)さんに移管する予定です。
柳田企画では業務委託委託ではなく、独自事業としてISOコンサルを推進いたします。
ご了解と、今後ともよろしくお願いいたします」
「片岡さんは関連会社に出向したの?」
「そうなんだよ。昨年の春からだ。そういう歳になったということさ。今までは情報システムのコンサルをしていたが、これからはISO認証が流行るというので、ウチも業務拡大だ。
君と一緒に仕事していたのは、もう20年も前になるかな。工場長になっていたとは知らなかった」
「名ばかり工場長さ。私もここで会社人生は終わりだな」
「そうおっしゃる副工場長は、府中工場からの天下りで、熊谷採用の我々とは身分が違いますよ」
「すみません、話を戻します。議事に入りたいです。
山口さん進めてください」
「ええと、お宅の認証活動もほぼ完了に使づきました。しかしながらまだ期待レベルには至りません。
本日拝見したところでは、やはりルールの不徹底が目立ちました。
特に現場の記録忘れというか、記載漏れにはどうなのでしょう?」
「大変申し訳ありません。現場の温湿度記録が歯抜けでしたね。
忘れるのも悪いけど、現場では温湿度を記録しても何にも使わないのよ。仕事に関係ないことだから忘れちゃうのよ」
「温湿度を記録しても、その結果を使わないのですか?」
「あれは製品に関わることじゃなくて、安衛法上のことだと聞いたわ」
「それなら工場長から、ガードマンの現場巡回時に記帳させるとかできないの?」
「確か空調を入れる判断に使っているはずだ。とはいえ、それを生産係に頼んでいるわけだから、頼まれたことはしてもらわないと困る」
「ともかく必要な仕事を漏れなく実行する仕組みを考えてください。
生産係が使わないデータだとしても、仕事という認識が必要です」
注:メモリー付きのデジタル温度計があるじゃないか、と言ってはいけない。1990年代半ばに、そんなものはない。
まだカセット全盛の時代、身近なデジタル機器と言えば電卓くらいだ。
「誰がするかを、佐川さんが決めてくれたらいいのに」
「そういう方法を決めるのはみなさんですよ。皆さんがやりやすい方法を決めないでどうするのです」
「品質に関係する検査や試験では、その場所で温湿度を記録しています。
不要なら止めたらどうですか」
「いやいや、空調のオンオフの基準ですから止めるわけには……」
「次に行きます。議事録が鉛筆書きで押印していますが、ボールペンで書いてください」
「現場の安全衛生委員会などは、現場の人が書くから、パソコンを使えないわ」
注:これも同じであるが、社内の文書すべてがワープロ書きとなったのは2000年以降ではないだろうか。
「品質に関係ない、具体的にはマニュアルで引用していない議事録は、鉛筆で良いのでしょう?」
「そうですが、今日拝見した不良対策会議の議事録にも鉛筆書きがありましたね。それに先ほどの温湿度の記録にも、ボールぺンと鉛筆書きが混在していました。
該当しない記録は鉛筆でも良いですが、現実はISOに関わる記録も鉛筆が散見されます。間違いをなくすには、すべてボールペンにしてください」
「佐治さん、そんなことも徹底できないようじゃまずいんじゃない。
他の工場に指導に行って、見たことないよ」
「これにつきましては……先ほどの温度計の件も合わせて内部で検討します」
「検討するほどのことじゃないよ、すぐに実行しなくちゃ」
「ええと、次ですが……
熊谷分工場の面々はもう疲れ切った顔をしている。
それを見て、疲れたのこっちだよと佐川は思う。
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夕方、終業時刻少し前に佐川以下は、お暇することにした。
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三人は湘南新宿ライン(間違いです)に乗って帰る。
時刻が退社時より少し早く、また方向が逆だから空いている。3人は並んで座れた。
それでも大宮から先は混んでいるだろう。
この時代、スマホがないから車内で時間つぶしとなると新聞、文庫本を読むか、カセットのウォークマンで音楽を聴くかしかない。
山口は読みかけの西村京太郎を引っ張り出して読み始める。
佐川と佐々木はすることもなく、そんな山口を見ながらたわいない話をする。
「佐川さん、ちょっと気になったことがあります」
「なんでしょう?」
「片岡さんですが、かっての同僚と言っても向うは客ですから、態度が馴れ馴れしすぎますね」
「私も以前からそれを思っていました。片岡さんのキャラクターは客商売に適していると思います。でも、これから仕事で工場とか関連会社に行くことが多くなります。
元同僚でも、今は役員一歩手前とか社長もいらっしゃるでしょう。人によっては気分を害するかもしれません。もう少し気を使って欲しいところです。
そのうち私から話をしようかと思っていましたが、佐々木さんの方が角が立たないなら佐々木さんからマイルドに話してくれませんか」
「実は今までも、そんなニュアンスで話はしているのです。
彼は笑って取り合ってくれませんでした」
「分かりました。それじゃ、機会を作ってお話してみます」
佐々木は黙ってうなずいた。
翌日、佐川以下、4名は府中工場に行く。
今日は熊谷分工場の上位組織である、府中工場の進捗状況の確認である。
品証課長、品管課長、製造課長、業務課長が並んでいる。
府中工場の面々 | 本社からの指導 | |||
青山品証課長 | ![]() | ![]() | 佐々木 | |
加山品質管理課長 | ![]() | ![]() | 片岡 | |
佐山製造課長 | ![]() | ![]() | 佐川 | |
高山業務課長 | ![]() | ![]() | 山口 |
注:苗字を「あかさたな」と「山」で揃えてみました
「昨日は熊谷分工場にお邪魔して、認証の準備状況を拝見してきました。
ISO要求事項は規定に反映されているのですが、その運用が徹底していません。その原因として、係長クラスも含めて現場レベルは、やらされ感が強いようです。
ガンバレというようなことでなく、ルールを守る、決められたことをするというような気持の醸成ができませんかね?」
「分工場長が本気じゃないんじゃないか」
「彼は分工場の
「そう言えばそうだな」
「今の職制ではまずいのかな」
「いや、分工場長が生産や品質に責任を持たないのは、別にISO認証の支障にはなりません。それにそれはお宅が決めた職制のわけです。
ISOでは飾ることはなく、あるがままに見せることが大事です。ならば、お宅が決めた職制、権限や責任の体制がしっかりと機能することを見せてほしいものです。
つまり品質管理係の監督は加山課長さんですし、製造係は佐山課長さんですよ」
「そう言われても、我々もそう簡単に熊谷分工場に行けません。片道1時間半、行けば一日かかりですから」
「職掌では、分工場長が大家機能で、生産は府中の製造部、品質関係は府中の品質部門が管理するという仕組みなのですから、ISOにおいても、ここにいらっしゃる業務、品管、品証、製造の課長さん方が職制通り管理を徹底してほしいのです」
「具体的にはどんなことですか?」
「単純なことで、ルール通り仕事をすることです。
昨日見つけたことは、温度湿度の記録に記載漏れが多いとか、事務所では品質や生産関係で定められた議事録を作っていないとか、そういうことが散見されました。
ISO以前に府中工場の規定に反しています。正しく言えば就業規則違反です」
「あの工場は地元採用が多いからレベルが低いんですよね。
そして係長は現地の人を登用するように決めているのです」
「今日この工場を巡回して気づいたのですが、工場に掲示されていた温度湿度表に、歯抜けがあちこちありましたね。
府中工場だって、ルール遵守が徹底できてないんじゃないの」
「それは大変申し訳ない。こちらもしっかり管理というか指導せんといかんな。
府中工場と共に分工場にも指導をいたします」
「そうしてください。
府中工場の人が、分工場のレベルが低いなんて言うことは、管理責任がある府中工場のレベルが低いことです」
「確かに議事録なりなんなりが規則通りしていないなら、それを是正させるのは上位組織である我々だ」
「そういえば府中でも議事録が鉛筆書きだったのがありましたね。ああいったことは、分工場にも知らせて同じことが起きないようにしてください」
「そういうのを水平展開とかおっしゃいましたね」
「ぜひISO認証を機会にそういう雰囲気を作り、ルール違反の現状の意識を打破してほしいですね」
「本社の人は楽天的で前向きで、気楽ですな、アハハハ」
「うーん、真面目な話、なぜ今、認証活動をしているかを、再確認してほしい。
府中工場の事業上、ISO9001の認証が必要となったという事実があります。製品を欧州に輸出しているところはもちろん、製造販売している部品やユニットが使われた製品が欧州に輸出されているところは、ISO認証が必須であるという状況になっています。
本社はその役目として、工場や関連会社がISO認証するにあたり支援をしているわけです。
本社の成すべきことは、基本的な工場のモラルとか、一般的な教育訓練をすることではありません。それは元から工場の仕事なのです。まさかそういうことも本社に期待されますか?」
「そうは言ってませんよ。でも日常管理は分工場がするわけで……」
「あのさ、高山課長は、もっと柔軟な考えができる人だと思っていたけどね」
「ほう、高山君は片岡さんとお知り合いでしたか?」
「実はお顔を見たとき、ギョッとしましたよ。頭は私の方が白いですが、年は私が5つ下でして、片岡さんは私が入社した時のチューターでした」
「30年前、仕事は積極的に、そして自分の仕事範囲より少し広めに他と連携して、漏れをなくすようにやれと教えたつもりだけどね」
「もちろん先輩の教えはしっかりと覚えていますし、実践しているつもりです」
「それなら府中工場の課長たちは、交代で分工場の指導を頼みますよ。
規則を守らないなら、守らせる、守れない規則ならそもそもおかしいのだから見直す。
審査まであと3月あるから、この4名の課長が毎週交代で行けば、ひとり3回行けばよい。そうすれば完璧だよ。
元々自分の職場なのだから、月一度くらい行かなくちゃダメだろう。問題があるのは、皆さんの今までの管理が悪いということだ」
「はい、ISOと関わりなく、これからは月に一度は分工場に行くようにします」
「課内会議は毎週しているんだろう。月に一度くらい、君と他の係長が分工場で会議をしてもバチは当たらないぞ。
行ったついでに工場巡回して、改善や安全の点検や指導をするのも良いね」
「片岡君の口が悪いのは昔から変わらんな」
「青山さんは片岡さんと同期ですか?」
「そうなんだ。片岡君は部長になったから役職定年が54歳と早く、私は課長止まりだから58歳まで役職にいられるんだ」
「結果としてどちらが勝ち組か分からないね」
「そりゃ片岡君が勝ち組さ。関連会社に行けば、65くらいまでは勤められる。そつなく勤めれば役員にもなれるだろう。
私は60で定年、その後は嘱託だが62までだよ」
注:定年延長が騒がれる20年前のことです。
「でも私の場合は使い物にならないと即解雇だよ、アハハ」
「そんなことないだろう。佐川さんが正論を語っても古だぬきの高山君は動かなかったけど、片岡君が先輩風を吹かせると言うことを聞いたからね」
「いえ、そんなことは」
帰りの京王線は通勤と逆方向で空いていた。4人は離れ離れではあったが、皆座れた。佐川は佐々木と並んで座っている。
「佐々木さん、片岡さんはあのキャラクターで良しとしましょう。これから佐々木さんとご一緒ですから、こりゃいかんとなったら止めてください」
「承知しました。私は先輩風を吹かそうとしても、そういうタイプじゃなくて……」
「佐々木さんは佐々木さんのキャラクターで、頑張るしかありませんよ」
「頑張ります、アハハハ」
笑い声を聞いて通路の向かい側に座っていた片岡が、なんだという顔をして二人の方を向いた。
片岡さんのようなタイプは多い。
こじれた問題があるとき、先方と昔付き合いがあったとか同窓だとかいうコネクションで、問題解決というか有耶無耶にしてしまう人は結構もてはやされる。
ありがたいときもあるが、何事もないとき、大学が同じとかで話が弾んで、大学のそばの雀荘の話などされても困りますよ。
現役時代、私は二者監査の元締めみたいな役割だった。派遣した監査員についての苦情は多々受けた。
判定が間違っているというのはあまりなかった。私の場合はISO規格じゃなくて遵法監査だから、主観で変わることはない。監査側と被監査側で見解が異なれば、その場で行政(市役所、消防署、県庁)に問い合わせれば白黒つくから曖昧なことはない。
苦情の多くは礼儀作法である。礼儀作法と言っても大仰なことではない。ISO審査員の如く、「先生と呼ばれないと返事をしない(注2)」なんて傲慢不遜な人は、私は監査員にはしなかったが、それでもいろいろある。
偉い人の前で脚を組んだ、言葉使いがタメ口だ、そんなことが多かった。
もちろん私にも苦情があったのだろうが、それは私にではなく私の上司に行った。
言葉つかいにも東京と関西あるいは九州では方言ではないが、言葉のニュアンスが違うから、軽い気持ちで行ったことがトラブルになることもある。
まあ、いろいろあらあな
お話に山谷がなくて、つまらないですって。
世の中って9割はそんなものですよ。大事件はめったに起きない。細かい不具合は何度言っても直らないから、いつも見つかる。
それを指摘しても、次回に行けば指摘した半分も是正していない。
また同じことを話して聞かせてやらせてと、山本五十六を10回くらい繰り返すのが大半でございます。
バカバカしいと言ってはいけません。そんなことをして私は家族を養っておりました。
本日の反省
だいぶ前に私のブログに、書いたことがある。
私が、平日はほぼ毎日、フィットネスクラブのプールで泳いでいる。
プールの初心者コースでひたすら歩いては、ときどき平泳ぎの体勢でふたかきくらいすると、また歩く年配者がいる。年配者と言っても私より若く70前だと思う。
顔見知りの泳ぎの上手い人がその人を見て、
「あんなことを繰り返していても泳げるようにならないよ。無料レッスンコースに参加すればひと月で泳げるのに」という。
確かに私もそう思った。
たまたま
風呂の中で雑談をしていて、その方は元海上自衛隊に勤務していたという。現役時代は毎年、海で何キロも泳がせられたとのこと。
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若くない。 |
私は「無料レッスンでも受けたらどうですか」と言わないで良かったと胸をなでおろした。
見ただけでは分からないことはたくさんある。
片岡氏は、ちょっとひょうきんかおちゃらけに見えるが、中身はそうではないかもしれないし、今のしぐさも計算づくかもしれない。
人は見た目ではない。
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注1 |
マネジメントシステムとは「ISO9000:2015 方針及び目標、並びにその目標を達成するためのプロセスを確立するための、相互に関連する又は相互に作用する、組織の一連の要素」 目標とは「同3.7.1達成すべき結果」 プロセスとは「同3.4.1インプットを使用して意図した結果を生み出す、相互に関連するまたは相互に作用する一連の活動」 組織とは「同3.2.1自らの目標を達成するため、責任、権限及び相互関係を伴う独自の機能をもつ、個人又はグループ」 ![]() 以上をマネジメントシステムの定義に代入する(ISO規格では引用する語句の定義を代入しても意味は一切変わらないと保証されている……というか意味が変わったら定義じゃないよね) ![]() 代入した結果 「マネジメントシステムとは方針及び『達成すべき結果』、並びにその『達成すべき結果』を達成するための『インプットを使用して意図した結果を生み出す、相互に関連するまたは相互に作用する一連の活動』を確立するための、相互に関連する又は相互に作用する、『自らの目標を達成するため、責任、権限及び相互関係を伴う独自の機能をもつ、個人又はグループ』の一連の要素」となる。 非常に回りくどいけど、上記を読むと、この一連の仕組みを持たない組織が存在しないと言い切れる。 ![]() ![]() 公民館の卓球クラブを考えても、規約をつくらないと設立できない。 規約には達成する結果(親睦・卓球のスキル向上・健康増進など)を達成するための、活動スケジュール・手順・会計及び監査などを決めるし、役職を決めその任務を決め手順を決める……それってシステムの定義だ。 ![]() 組織にはマネジメントシステムが必然的に具備されるのである。もちろん手順不足(ルールを決めてないことがあること)とか非常時対応が決めてないとか不完全なマネジメントシステムもあるだろう。だがマネジメントシステムを備えない組織はない。 飲み会とか入退場自由の趣味の会あたりは組織ではなく、マネジメントシステムを持たない集団となるだろう。 ![]() | |
注2 |
審査員をお名前に「さんつけ」で呼んで返事をしないので、「○○先生」と呼んだら返事をしたというのを、都市伝説か冗談だと思っていた。![]() 私が退職する直前だから2012年だと思うが、アイソス誌に度々寄稿していた、ISOの世界では有名な方が審査員に来て、その「○○先生」をやらかした(笑)。 問題にするほどのこともないが、こういう審査員は審査される人を生徒と思っているんだろうな。 ![]() |
おばQさま いつも有難うございます。 当時の雰囲気を思い出して拝読しています。 なるほど、あの時代だなと思ったのは、片岡と青山、分工場長の関係。 退職して別会社にいっているはずなのに、先輩後輩の関係は続いている不思議。 退職したら所属は違うでしょうし、コンサルから見れば顧客だろうに、当時でも空気を読まない私には、こういう関係は不思議でした。 今のコンプライアンスの基準で見れば、駄目なんでしょうけれど、まだ「先輩がぁ」と仕事を持ってくる人がいますね。 加えて早慶に日大みたいがマンモスだと、顔見知りでも無いのにその時だけ同窓生だと便宜を図ったり。 なんか不思議な関係でマイナー大学出身の私には理解できませんでした。 >湘南新宿ライン 95年 当時はまだ、高崎線だったような。 阪神淡路対応で、高崎で仕事をした記憶があり、高崎線で赤羽で乗り換えで新宿まで面倒だった記憶があります。 (当時の社内規定では高崎は近距離扱いで、新幹線には乗れなかった) 湘南新宿ライン(新宿経由)になったは、2001年の冬だったような気がします。 >水泳の話 年をとると出来ない事が増えるから、出来ないが、出来なかった訳では無いですね。 初心者向けの山で、高名な登山家にあったことがありますが、笑いながら今はこの山が私には丁度良いと言っていたのが、印象的でした。 本当の名人は自分の実力を冷静につかめるし、むしろ高齢になって重要です。 |
外資社員様 毎度ありがとうございます。 その1 どの会社も同じようなものなのでしょうね。私は高卒でしたから、大学同窓なんで仲良くなる人が多くて仲間外れでした。 まあそんな関係とか空気の会社では先行き危なそうです。 その2 新宿湘南ライン。アイスミマセン! 正直言いまして書いているとき、これは私が都会に出た頃(2002)だったかなと思いましたが、しっかり調べないといけませんね。 修正しておきます。 その3 >本当の名人は自分の実力を冷静につかめる 私はいつも無理しちゃうからいけません。実をいいまして先週末泳いでいてつるなと分かったのですが、そのまま泳いでいてつりました。 土日休めば治るだろうと思っていましたが変わらず、ただいま(月曜日の夜)ゼスタックを塗って治るようにお祈りしております。 |
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