タイムスリップISO78 認証機関を集める2

25.05.08

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。



1996年9月某日午後
業界団体の大会議室に、ISO研究会のメンバーと案内状を出したISO認証機関からの出席者が集まっていた。

研究会のメンバーは、皆、ワクワクというか意気込んでいる。
案内を出した認証機関は16社で、参加したところは14社であり、出席者は30名ほどであった。呼ばれた方は、乗り気でないというかアホクサという顔をしているのが大半だ。
まあ、そんなことを気にしていてはISO認証機関と闘っていく、もとい、対等なお付き合いができるわけがない。ここは堂々といきましょう。

会議室の前方には長机があり、そこに佐川、田中、金子、中村の4人が並んで座っている。その脇に演台が置いてあり、司会の山口が立っている。


山口


中村さん 佐川 田中さん 金子さん





誰が説明するのかでもめたが、結局、一家言(いっかげん)ありそうな4名が選ばれた。
司会は当然の如く吉本がすると言い出したが、研究会のメンバーは、吉本が内部には上から目線で外部の人にはヒラメのような態度だから、公平な議論ができないと反対した。
それで研究会のメンバーから司会を選ぶことになったものの、自ら名乗り出る人がいない。結局、一番若い山口がすることになった。




山口 「定刻になりましたので、説明会を始めたいと思います。
ISO14001もFDISが発表されて3カ月経ちました。認証機関の中には予定されている12月のISO規格発行に先立ち、FDISによる仮認証を始めたという話も聞いております。ここにいらっしゃる方々のところも、今月か来月には審査を始めることでしょう。
当然、認証を希望する企業、私どももそうですが、認証機関と審査依頼の交渉中のところも多いです。


そういう状況でありますが、懸念もあります。
ISO9001では過去より品質保証協定を結ぶという商慣習もありまして、品質保証の概念や要求内容についてのイメージを共有していました。
しかしISO9001に比べてISO14001……まだFDISですが、顧客からの要求事項でないこと、またその記述は具体的ではないことから、実際の審査において、審査をする側、される側の相互の解釈に違いが起きるのではないかと危惧しております。


実際問題としてISO14001を読んでも、どう理解するかは人によって異なることもあるでしょう。
例えば、ISO14001の最大の要素は環境側面であることは議論の余地がありません。この著しい環境側面の決定方法については記述されていません。当然、認証を受ける企業が考えるわけですが、その是非についていろいろ議論が行われることを予想します。


そういった規格ではっきり決めてないことをどう理解するか、どのようなことをしなければならないかということが、審査で議論になると考えております。
これについて私どもの工業会では、昨年春から研究会を置いて、ISO14001の読み方を検討してまいりました。ご存じと思いますが、その検討結果を本にまとめてひと月ほど前に出版しております。

私どもの工業会傘下の企業に対しては、我々ISO研究会の検討結果として、基本的にこの考えで認証を受けたいと考えております。 本日はその解釈の説明をしまして、認証機関各位のご理解をいただきたいと思います。


そういったことについて、私どもの業界においてはこのように考えますということを説明させていただきたいのが本日のテーマです。
話の進め方としては研究会の代表として中村、佐川、田中、金子が分担して行います。

質疑については各項目をしました後に伺いますので、一つの項目の説明を通しでお聞きしてからと願います。
それでは説明を始めさせていただきます」


田中さん 「田中と申します。私は4.1項から4.2項について弊方の考えをお話します。
4.1は特段問題ないと思います。そもそもが一般論ですから。

4.2の環境方針です。
ISO9001も1987年版では品質方針の内容が具体的でありませんでしたが、1994年版ではひとつの文章の中ですが、品質方針が具備しなければならないことが、具体的とまでは言えませんが、説明というか要求が追加されました。

ISO14001のFIDSを見ますと、こちらでは箇条書きで細かく環境方針が包含しなければならないこと、方針をどのように周知せねばならないかまで記述されています。
具体的で分かりやすいとも言えますが、それでなければならないと受け取られるおそれもあります」

認証機関A 「規格に書いてあることなのだから、そうでなければならんでしょう」

田中さん 「おっしゃる通り、shallがあるものは義務ですね。私どもは細かな点で見解の相違が起きそうだと懸念しています。

まず4.2では品質方針が具備することを、a)からf)まで箇条書きで示しています。
単純な話ですが審査において、認証を受ける組織の環境方針を規格に合わせて箇条書きであることを要求するのではないかという懸念です」

認証機関A 「そんなバカなことを心配しているとは、何を考えているんだ」

山口 「質問時間は説明後に取りますのでご清聴願います」

田中さん 「現実には箇条書きしろというところ、それどころか規格で使われている語句をそのまま書き写せという認証機関もあるのではないかと心配しております」

認証機関A 「認証機関がそんなバカなことを語ることはない」

田中さん 「その声を聴いて安心しました。
実を言いまして昨年ですが、各認証機関にお問い合わせしたことがあります。
当時はDISですが、私どもで認証機関でも見解の相違があるのではと心配して、環境方針は規格要求に合わせた項番でなければならないかと問いました。
その結果……」


田中はわざと話すのを止めた。
会場の皆は沈黙して次の言葉を待つ。


田中さん 「環境方針は規格の項番通りの構成が望ましいと、回答された認証機関が複数ありました。
ええと、先ほどそんなことを語るバカはいないとおっしゃった、あなたの認証機関もそう回答したと記憶しております」

認証機関A 「うそだ! 我がJ○○はそんなことは言わないぞ」

田中さん 「お宅からしっかりと書面で頂いております。いつでもお見せ出来ます。
ここで言いたいことは、認証機関によっては、このように規格要求でないことに拘るところもありますので、そういうことでは困りますということです。

そうそう、環境方針についての問い合わせの回答の中には、企業の環境方針は規格の文言を自社に合わせて書き換える程度が良いという回答もありました。
どの認証機関かは申しません。

ええと、例えば規格に『継続的改善及び汚染の予防に関する約束を含む(ISO14001 4.1b)』とあります。それに対応して環境方針は『当社は継続的改善及び汚染の予防を行う約束をします』という風な文章ですね、そういうのが好ましいそうです。

しかし環境方針とは経営者の思いであり、そのような規格の箇条とか語句の使用とは無縁です。企業の環境方針は文章であろうと箇条書きであろうと、またどんな語句を用いようと、経営者が思うところを示せばよいと考えます。

そういうことで先ほど私が述べました『箇条書きしろとか、規格にある語句をそのまま書き写す』ことが必要と考えるようでは困るということです」


注:まさか審査員が、規格の箇条通りに方針を書けとか、方針の語句を漏れなく書けとは言わないと思った人がいるかもしれない。
現実にはそういうことを語る審査員と激しい討論をして、経営者の書いた方針を通そうとした歴史がある。
そんなことはないとおっしゃるなら、あなたは20世紀の審査を知らないのだ。


デイブ・ハワード 「おっしゃることは当たり前のことで、お宅の主張に同意します。
お聞きしたいのは実際には審査を依頼する前に、例を挙げられたようなことについて認証機関に問い合わせるのでしょうか?」

田中さん 「本日お招きした認証機関は、わたしどもの業界団体 傘下企業にアンケートしまして、審査依頼したいという企業が一定数以上ある認証機関に案内を出しております。欠席された認証機関も数社ありますが、
ですから本日来て頂いた認証機関には、ぜひそのような解釈をしてほしいわけです。

しかし私どもが強制できるわけはありません。独自の考えをお持ちのところもあるでしょう。我々としては皆さんのところのお考えをお聞きして、ユニークなお考えのところはその旨、業界傘下企業に情報提供するつもりです」

デイブ・ハワード 「それは依頼するなという指示ですか?」

田中さん 「そういう表現をしますと、営業妨害の恐れがあります。
私どもとしては、その認証機関の考えがユニークであること、そこに審査依頼するなら事前に確認して納得して依頼するべしという情報提供をするつもりです」

デイブ・ハワード 「良く分かりました」

認証機関B 「ここで異議なしとしても、審査員により考えの幅があると思います。そういう事態になったときはどうされるのですか?」

田中さん 「ちょっと、佐川さんどうするのでしょうか?」

佐川 「佐川と申します。
まず当たり前のこととして、審査員によって判断にバラツキがあると聞くと耳を疑います。
それは認証機関が審査員を管理していないという問題になりますね」

認証機関B 「いや〜、審査基準、判断基準が人によって違うということはないですよ。幅があると申したのです」

佐川 「適合・不適合に関わるような幅があってはいけないでしょう。判定に影響しない範囲ならよろしいのではないですか。
基本的にISO審査はISO14010や14011に基づいて行われるはずです。でもそれでは不十分として、すぐにGuide 66が発行されると思います」


聴講者の中で「なんだそれ?」という声が聞こえる。


佐川 「もし適合・不適合に関わるほど判定に幅があれば、今申しました審査のルールに基づき異議申し立てすることになります」

認証機関B 「なんと審査員の判断に異議を申し立てするのか?」

佐川 「審査員は全権者ではありません。ルールに従って審査は行われなければなりません。審査のルールから逸脱した場合は、定められた手順で異議申し立てが行われるでしょう。
もし異議申し立てで調整できなければ民事訴訟かと思います」

認証機関B 「裁判だって審査員の判断に異議を付けるなど……ありえん」

佐川 「ISO9001の審査において、審査員が規格を理解していないとか、誤った判断とか散見されています。
私はISO9001の審査が始まってから弊社グループの認証指導をしておりますが、不適切な審査判定には見直しを要求しております(第40話)。
幸い、今までは裁判まで行かず弊方の意見に対応してもらっています」

認証機関B 「そんなことが許されるのか

佐川 「ええとどちらの認証機関の方か存じ上げませんが、審査員の間違った判定は許されて、それへの抗議が許されないとはおっしゃらないでしょうね。
質問させてください。御社の審査で判断が誤っていた場合、どのような方法を取れと顧客つまり認証企業に通知しているのでしょうか?」

認証機関B 「当認証機関が間違えることはありえない。だから通知していない」

佐川 「間違えることがあり得ないなら、ISO規格に是正処置とか予防処置という項番はいりませんね。現実に人は間違えるものという前提で、ISO規格は作られているわけです。

裁判だって三審制といって、一審で有罪・無罪が確定するわけではありません。納得できなければ上告できます。
それと同じくISO審査にも、異議申し立ての仕組みがあり、それを審査員は審査のたびに説明しなければなりません。異議申し立ての手順を説明しないことも、もちろん異議申し立てに当たります。

現在ISO9001の審査のルールは、今年制定されたGuide 62(注1)に基づいています。その中で、審査のクロージングにおいて審査の判定に納得できなければ、異議申し立てできること、異議申し立ての手順を説明することが記述されています。
御社はそれを実行していますよね?」


注:Guide66でもISO17021でも、異議申し立ての説明はクロージングですると書かれていた。
実際にはオープニングで説明する認証機関が多かった。その程度の揺らぎはOKなんだろうか?

もっとも異議申し立てをまったく説明しない認証機関もあったし、オープニングのOHP(当時はプロジェクターが普及前でパワーポイントが使える会社は少なかった)の下の方に小さなフォントで記載しているだけという認証機関もあった。フォントサイズの規定などはなかったのか? いや、そういう方法での周知(?)が許されたのか?、考えるといろいろ不思議なことがある。

あなたの会社では、毎回の審査で審査員が異議申し立ての説明をしていますか?
していなければ異議申し立てをしましょう。


認証機関B 「勿論だとも」

佐川 「そうしますと、そんなことはありえないとおっしゃいましたが、実際は違いますね」

認証機関B 「……」

コーヒーコーヒー

会場内は仲間内で相談とかが始まったようで、急にザワツキが大きくなった。
山口は潮時と見て一旦休憩を宣言した。




休憩宣言によって皆が立ち上がり、用足しとか飲み物を取りに行くとか一層騒音が大きくなる。
田中や金子もどこかに行ってしまった。

佐川はすることもなく座っていると、佐川のところに産業環境認証機関の本間部長がやって来た。佐川は立ち上がり挨拶する。


佐川 「本間取締役、お久しぶりです」

本間部長 「久しぶりだね。佐川さんと会ってから、もう1年半くらいになるのかな(第68話)。当時はいろいろご教示いただき大変感謝しております。
先ほど質問された方を見ていると、当時の我々を思い出しますよ。

認証機関というか審査員は、自分たちの持つ情報量が審査を受ける側よりはるかに多いと思い込んでいて、上から目線というか教えてやろうという発想になってしまうのですね。大いに反省しなければなりません」

佐川 「そのような深刻なことじゃありません。お互いルール通りする、それだけのことです。
もっともルールを知らないのは困ります」

本間部長 セーフ 「とはいえ野球を思い浮かべれば、審判も競技者もルールをしっかりと読みこんでいると思います。高校野球ならルールブック(公認野球規則)を携帯している監督は珍しくない。

しかしISO審査においては、審査員も認証機関も、審査の規則を読み込んでいないとしか思えない。その半面、皆さん審査を受ける側が勉強しているのに驚いたよ」

佐川 「本音を言えば、審査を受ける側が、勉強する必要があるのがおかしいのですが」

認証機関C 「すまん、先ほど発言された人ですな?」

佐川 「ハイ、佐川です」

認証機関C 「認証機関J○○の○○といいます。
異議申し立てできるとクロージングで説明しなければならないとおっしゃったが、そんなことが決まっているのかな?」

佐川 「決まっています。とはいえ私が言っても信用できないでしょう。お帰りになってから、よくお調べください」

おかしいだろう  よく読んでください

認証機関C 「そういう制度があるなら、あること自体おかしいと思うぞ。
審査員に異議を唱えること自体、非常識じゃないか。
スポーツで審判の判定に異議を申し立てることは一般的に許されない」

佐川 「そんなことありません。スポーツだって今はチャレンジと言って異議申し立てをする権利が広まっています(注2)
それにおかしいと言われても、私がそういう規則を作ったわけではありません。審査の規則さえご存じない審査員がいることがおかしいでしょう。

それと誤解されているかもしれませんが、ISO審査の認証を決めるのは、審査員ではありませんよ」

認証機関C 「審査員ではないって!
じゃあ、企業側だとでもいうのか」

佐川 「そうではありません。審査員の書く審査報告書は、審査した組織が認証に値するかしないかを報告するものです。認証するとか・しないとかは書けません。
ISO審査の結果を決めるのは認証機関です。審査員は報告する義務があり、認証機関の判定プロセスによって判定をするのです」

認証機関C 「なんだ、それじゃ同じことじゃないか」

佐川 「同じことではありません。審査員が適合と考えたなら報告書に『認証することを推薦する』と書くのが正しいのです。
なぜなら判定は判定する権限のある人や機関が行うからです(注3)
審査員は審判ではなく、審判に報告する人なのです」

認証機関C 「信じられんな」

佐川 「信じることはありません。会社に戻られたらガイド62とかガイド66(注4)をじっくりとお読みになることをお勧めします。いやお読みにならなければなりません。それは審査する人の最低限の義務です」

認証機関C 「ガイド62? ガイド66? それはどこにあるのかね?」

佐川 「認証機関にあると思いますよ。なければ審査できませんからね。その前に、そういった規格を持っていない認証機関は、認定されないでしょう。
認証審査(認証機関が企業に行う審査)では、審査を受ける組織がISOMS規格の保有を確認して始めるはずです。認証機関は認定審査(認定機関が認証機関にする審査)で、審査に関係する規格を持っていることが確認されるはずです(注5)


また別な認証機関の人らしいものが登場する。

認証機関C 「環境方針のことだがね、規格の箇条通りでなくても良いという根拠はあるのかね?」

佐川 「規格を正しく読んでください。そもそも規格に箇条通りに書けという要求がありません」

認証機関C 「それは論理のすり替えだ

佐川 「論理のすり替えなんて言われては名誉棄損です。公共の場でそういうことを言ってはいけませんよ。それこそ罪になりますよ。
私は法廷で証言しているつもりで話をしています。故意に事実と異なることを話せば偽証罪です。

あなたはご自身の発言に責任を持つのでしょうね。単なるレトリックだなんて言わないでくださいよ。あなたもその覚悟をもってお話しくださいね」


認証機関C 「……」

たぶん審査員であろうその人は顔色が青くなった。何も語らない。


佐川 「話を戻しましょう。
規格要求になければ、規格不適合になる理屈がありません。なぜなら不適合とは要求事項に適合していないから不適合なのです。それはご理解いただけますね?
『箇条通りに書け』という文章が規格になければ、不適合になるはずがありません。ISO審査とはそういうものです」

認証機関C 「規格に『○○しなければならない』と書いてなければ、する必要がないだって?」

佐川 「当たり前じゃないですか。おっと、ハワードさんがいる。
ハワードさん

デイブ・ハワード 「佐川さん、どうかしましたか?」

佐川 「こちらの審査員の方は、規格に書かれてないことは、する必要がないのかと疑問をお持ちです。どう説明したら良いですかね?」

認証機関C 「あんた誰?」

デイブ・ハワード 「私はB○○社のトップです。
 (有名な英国系認証機関の社長と聞いてギョッとしたようだ)
ええと、ISO規格は文字解釈でなければなりません。それは日本文だけでなく、英文も同じです」

認証機関C 「文字解釈って?」

デイブ・ハワード 「文字解釈とは文章の意味を理解する方法です。文章を読んで、そこに使われている単語が定義されていればそれを代入し、定義されてないものは一般的な意味、つまり辞書に載っている語義で解釈します。 ヘルメット

例えば『ヘルメット着用』とあれば、暑いからとか危険がないからとか考えずに、無条件にヘルメットを着用すると理解します」

認証機関C 「えっと『○○しなければならない』と書いて無ければ、する必要がないのですか?」

デイブ・ハワード 「ISO規格はそういう考えで文章が書かれています。『雨が降ったら製品を屋内に入れろ』とあれば、雪が降っても屋内に入れることはありません」

認証機関C 「それは文章の理解として不味いのではないか。規格は文字で書いたことだけでなく、読む人が常識を持って規格に書いてないことにも対応するのが期待されている」

デイブ・ハワード 「文字解釈の反対語として、勿論解釈というのがあります。文言の意図に沿って当然であると解釈する際の考え方です。『雨が降ったら製品を屋内に入れろ』とあれば、雪が降ったらもちろん屋内に入れると解釈することです」

認証機関C 「そう、それが正しい」

デイブ・ハワード 「正しくありません。なぜなら規則を作った人が雪のときは、屋内にいれなくても良いと考えていたかもしれません。
もし雪が降って屋内に入れないと問題なら、それは解釈ではなく規則が悪いと判断します。

ISO審査においては、勿論解釈は採用されません。文字解釈オンリーです。そしてISOMS規格の文章が(せい)、つまり絶対という前提で行います。そうでないと解釈次第で人により場合によって審査基準が変わりますからね。
ということでISO審査では『雨が降ったら製品を屋内に入れろ』とあれば、雪が降っても屋内に入れることはありません」

認証機関C 「それは英語だけでなく日本語でもですか?」

デイブ・ハワード 「言いにくいことですが、日本語の翻訳が英語の意味と違うのであれば、英文が優先します。なぜならISO規格は英語とフランス語が『正』となっています。各国語への翻訳はその国の責任で行っているもので、あくまでも参考です」


注:ISO規格(国際標準化機構の規格)は、「英語」と「フランス語」のふたつの言語で公式に発行される。必要な場合ロシア語でも発行されることがある。
各国の標準化団体(日本では日本産業標準調査会(JISC))が、自国語に翻訳して発行したJIS規格は日本国内では正だろうが、疑問があれば英語原文を参照する。
かって某ISOMS規格では翻訳がおかしいということがあり、ISO規格改定がなくても和訳が改定されたことがありましたね。



その男はフラフラと自分の席の方に戻っていく。自信喪失なのか怒りに震えているのか?
佐川は自分の席で佐川が戻るのを待っている人がいるのを見てハワードにお礼を言って、自席に戻っていく。
脇で聞いていた本間取締役がハワードに声をかけた。

本間部長 「産業環境認証機関の本間と申します。失礼ですが、あなたは?」

デイブ・ハワード 「B○○認証のディブ・ハワードです。同業者ですよ」

本間部長 「私は佐川さんからご指導を頂いていますが、ハワードさんは佐川さんの師匠に当たるのですか?」

デイブ・ハワード 「いえ、そういう関係じゃありません。彼とはISO9001のときからの知り合いですが、彼は誰にも師事せずひたすら英文を読んで規格を理解したと聞きます」

本間部長 「それは、すごいですね」

デイブ・ハワード 「彼は規格を正しく読みたい一念で初歩から英語を勉強したそうです」

本間部長 「というと最近の話ですか?」

デイブ・ハワード 「ISO9001を担当したときというから、3年前ですか。そのときISO9001だけでは審査のことが分からないと、ISO9001の基になったBS5570、そして審査のルールであるISO10011、最近はGuide 62が出ましたが、そういったものを英文で読んで、審査の仕組みを勉強したそうです」

本間部長 「なるほど、やはり私とは違うのだな」

デイブ・ハワード 「おっと、討論会が再開するようです。
我々も席に戻りましょう」


……次回に続く



うそ800 本日の妄想

ISO9001やISO14001で、このような討論会ができたら良いなという夢物語でございます。
現実は、ISO規格は神である、認証機関は教会である、審査員は司祭である。企業側は農奴だ、奴隷だ、(ひざまづ)けという時代がありました。今もかな?
天動説は間違いだ なにしろ我々が異議申し立てても、真面目に対応する風はなく、審査員は己を絶対と思っていました。
天動説を信じるのは勝手ですが、信じても太陽は動いてくれません。地球が回っていることは変わりません。


まあ無茶苦茶な規格解釈が横行しておりました。異議申し立てを説明しない認証機関もありました。どういう頭の構造なのか分解して調べたかったです。

今現在、認証件数が減る一方なのは、その付けを払っているのかもしれません。過去に起こした数多の間違いを認めない、謝罪もしないなら情状酌量の余地はありません。
まあ人間、誰しも間違いをしますから謝罪は不要です。訂正だけはしてほしいですね。


いらっしゃい
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注1 ISO9001の審査のルールは1987年ではISO10011、1996年にGuide62が審査のルールであったが、2006年にISO17021が出て品質と環境の審査の規格が一本化された。

注2 正確に言えば、チャレンジとは審判の判定に抗議することではなく、判定に異議あるとき、ビデオ判定を要求できるルールである。
今現在、アメリカンフットボール、プロ野球、プロテニス、ラグビーなどで採用されている。
サッカーでは常時ビデオを見ている副審がおり、誤審や見逃しを防いでいる。相撲でも常時ビデオ撮影をしていて審判が判定の参考にしている。競馬はビデオ撮影がなければ判定できないだろう。

注3 ルール上、判定委員会が必要ではない。その認証機関として審査員の判断が適切かどうかを確認する工程が必要なだけだったはず。その形態は、委員会でもよし責任者が決裁するのでも良い。

ISO認証が始まったときは、社外の人を交えた判定委員会なるものを設置して、協議して認証の可否を決定する認証機関が多かった。外部への説明も良さげだったからだろう。
だが時が経ち、判定委員会の費用もかさむし時間もかかる。それで2000年以降はほとんど認証機関の部長級が一人でOK/NGを決めるようになった。

なお、認証機関の幹部が審査に行けば、審査の時点で認証する/しないが決定できるだろうという論理があるかもしれない。実際に取締役クラスが審査に来ると「認証します」という言い方をする人も多かった。
だが審査員としての判断と認証の可否を判断するのは性質が異なるはずだ。チェックして報告する人と、報告を見て判断する人は同一人であっても、プロセスはそうでないとおかしい。

注4 ISO14001の審査のルールは1996年のISO14010、1999年のGuide66、その後ISO17021に統合された。
正確には1996年の9月にはGuide66はまだ出ていない。

注5 実を言ってこれは確信がない。
ISO9001の審査では、組織が規格要求を満たすためにはISO9001規格を持っていなければならないという理屈で、JIS翻訳あるいはISO英文規格を持っていることを確認された。
認定審査においては同じ理屈で、審査に関わる規格類の保有を確認されると推定する。それとも確認しないのだろうか?

私だって審査を受けるとき、Guide62やGuide66を脇に置いていたのだから、審査員がガイド62の存在とか異議申し立てを説明することを知らないってことは絶対にないよね。それとも知らない審査員もいるのだろうか?






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