注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
ISO14001は12月に制定され、翻訳規格であるJISQ14001も、すぐに制定された。そして認証が始まった。
まずはFDISで仮認証していたところが、正式版との差分の審査を受けることになるわけだが、FDISとIS(正式版)に実質的な差はない。仮認証を受けているということは、認証機関がFDIS適合と認めているわけで、切り替えにトラブルが起きるわけはない。
それで、1997年明けには仮認証を受けていた事業所に対して、じゃんじゃんと正式な審査登録証が発行された。
もちろん正式に発行される前から審査を受けていたのは、他よりも早くを目指していたからだ。
ISO14001は1996年12月に制定されたから、認証日はそれ以降かとなると、そうではない。
私が知る限りJABに登録された最早はS社で、登録日はFIDSよりはるかに早い1995/5/24である。しかもこの会社は2001/4/1設立と、謎だらけ😲
その他に1995年の日付の認証が20件近くある。
1996年でも規格制定前の1月から11月の間の日付で70件ほどある。どういうことなのか私には分かりません。
経緯をご存じの方いたら教えて!
それと同時に正式な規格での審査が始まった。
制定された規格で審査が始まると、いろいろとトラブルが起きている。正式な規格だからトラブルが起きるのではない。仮認証は、審査をする側・受ける側が、時を重ねて規格の理解を擦り合わせてきた。
それに対して正式な規格が発行されてからの審査では、擦り合わせなどなく、企業も認証機関もそれぞれの考えで相まみえるわけで、お互いの規格の理解が一致するなど稀有なことだ。
現実には、やはり著しい環境側面の決定方法での問題が最多だった。
おっと、仮認証は時を重ねて規格の理解を擦り合わせてきたと言っても、その理解が正しいかどうかは定かではない。双方が誤った考えで一致していただけかもしれない。
もちろん吉宗機械の加盟している工業会では、そういったトラブルを防ぐために、規格の理解とそれへの対応を考えて、それをまとめて工業会内部、そして工業会加盟の認証機関への広報をしたわけだ(第77話)。
だが説明を受けた認証機関すべてがそれに同意したわけでもなく、雇用する審査員に徹底したわけでもない。
その結果、
1997年2月、工業会のISO研究会には、「指導通りしたが問題多発だ、どうしてくれるのか💢」とか「助けてくれ😭」というメールがじゃんじゃんと入って来る。
F社 中村![]() | ![]() ![]() |
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H社 田中![]() |
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N社 金子![]() |
業界団体の会議室に、研究会の中心メンバー、田中リーダー、金子、中村、山口、そして吉本が集まり鳩首会談である。もっとも吉本は、コーヒーを飲んでいるだけだ。
まずは苦情、ヘルプを一読し状況を把握しようとしている。これから内容を精査して助っ人を派遣する予定だ。
トラブルは多種多様である。
「そんなバカな!」と思うようなものもある。そんな不適合を出す審査員がバカだと思うけど、説得は難しそうだ。理屈の通らない人を説得する方法は理屈ではなく、権威か暴力しかなさそうだ。
「中村さん、じっと見つめていて動かないけど、どうしたの?」
「ええと、不適合となっていますが……
『環境マニュアルに序文の図1が記載されていません。これはPDCAを理解するのに必要な図で必ず記載しなければなりません』
一体全体これは何でしょうねえ〜」
![]() |
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日本語の絵がなかったので手抜き |
「図1ってなんだっけ?」
「対訳本の20ページに載っている絵です」
「継続的改善……この絵が必要なのかね?」
「要求事項でないのは間違いないですが…」
「ISO9001のときも怪しげな絵があったけど、品質マニュアルに描かなかったな」
「あれはISO9000に載っていました。ISO9001に絵はありません」
「あっ、そうだった。ISO9000はISO9001の序文みたいなものか。
ともかく、これはナンセンスコール
「とはいえ審査員は確信犯
「対策としてはこれで問題ないと説得するべきだろうね。まさか審査員に言われたからと、卑屈に言いなりになることはないでしょう。
おっと、どのように対処したのかな?」
「他にもペンディングがあり、後日、認証機関を訪ねて協議するとあります」
「他にもあるって、それもナンセンスコールかな?」
「環境マニュアルの冒頭に『従業員の教育資料として使う』と記載しろと言うのです。
何を語っているのですかね。
教育資料として使うと書けば、実際に従業員に教育をして、そのときマニュアルをテキストに使わないとならないんじゃないですか」
「それって、不適合なの?」
「そうです。不適合を出すには根拠となるshallを示さなければなりませんが、どのshallかは記載されていませんね」
「頭が痛くなってきたよ」
ここで例示する不適合はフィクションではない。2000年頃は、このようなものが大量に不適合として出された。そしてその多くは会社が泣く子と審査員には勝てないと、言われるままに対応したのだ。 |
もしそんな不適合を出す審査員はいないとおっしゃる方がいれば、お会いしてじっくりお話したいと存じます。ご連絡ください。
私は裁判所で宣誓して証言できます。宣誓して嘘をつけば偽証罪です。
もちろんあなたも宣誓して発言することを約束してください。
古代中国では、自ら首に縄をかけて王に訴え出たそうじゃないですか。恨みっこなしだよね、
「山口さんの方はどうですか?」
「認証機関を集めた説明会で例に上げたのと、全く同じ不適合が出ています。
環境方針の項番で
『<組織の活動、製品又はサービスの、性質、規格及び環境影響に対して適切の記載がない。>
規格の言葉が使われていない。<遵守、枠組み、一般の人が入手可能>等』
説明会に来ていた認証機関ですが……」
「審査費用を返してもらいたいな。無料にしてもらっても対応した時間が無駄だ」
「田中さんの方にも面白いのがあるんでしょ?」
「面白いというか、問題あるあるだよ。
外部コミュニケーションで『外部コミュニケーションとは環境報告書を出すことです。環境報告書の発行を決めていないので不適合』というのがある」
「外部コミュニケーションは環境報告書の発行が義務なのですか?」
「そんな解釈はありません。外部コミュニケーションとは文字通り、組織外部とのコミュニケーションです」
そう言えば、昔、某コンサルがウェブサイトに「外部コミュニケーションとは環境報告書を出すことだ」と書いていたので、おかしいと思った私は、考えることもなく、すぐにISOTC委員に問い合わせた。
数日後、回答がきた。
「誰だ、そんな間違いを語っているのは💢」
私はそのコンサルにその旨教えてやった。すると返事が来た。
「私はISOTC委員よりISO規格に詳しい」
ISOTC委員を超えるとは、すごいコンサルがいたものだ(棒)
「著しい環境側面はスコアリング法が正しいと言われたというのがありますね。
その会社ではロジックゲートで著しい環境側面を決めていたのを、客観性がないからと不適合が出されています」
「あると思っていたよ。
だけど……審査員は真面目に審査しているのかね」
「真面目ですよきっと、ただ確信犯なのか単なるアホなのかは分かりません」
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4人は半日、苦情と泣き言のメールを眺めた。そしてとりあえずASAPで一つの認証機関に話し合いに行くことにした。
審査契約は当事者間だから、余計な人が入り込むのは筋違いだ。だから審査で問題があった会社の人が異議申し立てをする形にして、コンサル的立場で陪席することにした。
部外者が立ち会うのを禁じている認証機関は多いけど、それは審査であるからだ。単に審査についての二者間の意見交換であれば、有識者であろうと弁護士であろうと立ち会うのを禁じる法はない。あるいは代行の委任状があれば交渉を拒否できないだろう
研究会の全員が行くのはまずいだろうと、田中と山口が行くことにした。幸いその会社は田中さんの勤め先の関連会社だったので、認証機関を訪問する話をつけてもらうことにした。
そして田中と山口は佐川に、反論の根拠、方法について教えを乞うたのである。
数日後の午後、田中、山口、そして審査で不適合とされたA社の大河原さんが腹黒認証を訪れた。
H社 田中![]() | ![]() ![]() |
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A社 大河原さん![]() |
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吉宗機械 山口![]() |
挨拶の後、早速、本題の話に入る。
「弊方でいろいろ検討しましたが、審査で出された不適合すべてについて不適合でないと否定します。
ご検討をお願いします」
「まず環境マニュアルの前書きというか工場の紹介文ですな、そこに規格のPDCAの絵がないという不適合ですね。
これは当然必要でしょう。このような大事な図を入れるべきところ、何故入れなかったのですか?」
「まず、そもそも論から話をさせてもらいます。
環境マニュアルとは何かということです」
「あ〜、そういうこといいですから、」
「良くありません。
環境マニュアルはISO規格の要求ではありません」
「えっ、そうだっけ?」
「ISO14001規格では、環境マニュアルを要求していないことをご確認ください」
「おっしゃる通りです」
「じゃあ、なぜ環境マニュアルを作っているの?」
「なぜ環境マニュアルを作っているのかというと、それは御社との審査契約において環境マニュアルを作れという要求があるからです。
我々は御社の『ISO認証のご案内』という冊子を、審査契約書の添付文書であると理解しています。その冊子に、環境マニュアルを作成することと、その具備すべき要件の記述があると理解しております。
その理解でよろしいですね?」
「その通りです」
「中を見ますと、『審査予定日の1か月前までに、当該規格のマネジメントシステムの概要を記した文書(以下、環境マニュアルと呼ぶ)には、次の事項を記載すること』となっています。
ここまでのところよろしいでしょうか?」
「その通りです」
「では今までのことを前提として、話をさせてもらいます。
先ほど話に出た、ISO14001及びJISQ14001の序文にあります図1を、環境マニュアルに載せるという要求はないことにご同意いただけますか?」
「 『ISO認証のご案内』には図を書けとはありません」
「では図を記載する要求はないので、図を記載しないことに問題ないとご同意いただきます」
「えっ、えっ、要求にないから書かなくて良いの!
規格に載っている図なら転記するの当たり前じゃないですか」
「要求に適合していないのが不適合ですから、要求がないなら適合でしょう」
「おっしゃる通り、この指摘は間違いです」
「部長、そんなことじゃ困りますよ。社内の打ち合わせではこの図を書くことを必須と決めていたはずです」
「小泉君、ちょっとそれは後だ。
大河原さん、指摘を削除します」
「ご同意いただき安心しました。
では次の環境マニュアルに『従業員の教育資料として使う』という記述がないから追加するようにという口頭指示を受け、報告書では環境マニュアルの社内利用についての記述がないということが指摘事項となっています。
これについても、先ほど説明したように、環境マニュアルは認証機関への提出資料であり、元々御社(認証機関)でも審査を受ける組織内での利用を想定しておりません。
よって要求事項がないことにより、指摘事項でないとご理解願います」
「了解しました」
「えーー、困りますよ」
「後で打ち合わせよう」
「では次に参ります」
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「ではご同意いただいた結果、今回の審査で出された指摘事項はすべて問題ないということでよろしいですね?」
「その通りです」
「では報告書の修正と発行をお願いします。私は環境の管理責任者ではありませんが、管理責任者より全権代行の委任状を預かってきましたので、この場でサインをしたいと思います」
「部長、報告書を修正してすべてOKにするのですか?
そりゃ・・・・」
「小泉君、黙っていてくれ。
私どもも正式な認証を始めたところですので、署名の代行はしたくありません。日付はどうとでもなりますから、御社で責任者のサインをしていただけますか」
「了解しました。本日速達で・・・バイク便が良いかな、いや明日、事務員に届けさせます。電車で片道30分ですから」
「そうですか、
大河原君、すぐに……ここと、ここだな、間違いないよう朱記しよう。
こんな風にしてほしい。文章は接続をしっかり見直してくれよ」
大河原は不満そうな顔をして出ていく。
30分後、修正した報告書を確認してお暇しようとなったとき、大河原が爆弾発言をする。
「ええと佐々木部長さん、審査で問題があり、再審査をする場合、その費用は別途請求するそうですね?」
「そうなっております。
おっと、今回は再審査ではありませんのでご心配なく」
「弊社の管理責任者からの伝言ですが、今回の審査でのトラブルで弊社は御社訪問と私の労働時間のロスが発生しております。
より厳密に言えば、登録証の遅れもありますし、社内でどう対応すべきかと検討時間もかけております。またこちらのお二人、業界団体の環境部の方々にも手間をおかけしています。
このロスは御社に請求できるのでしょうね?」
佐々木部長だけでなく、小泉審査員、田中の皆が、ギョッとして顔を見合わせる。
山口は佐川から同じことを言われていたから、大河原のA社もしっかりしているなと感心した。
佐々木部長は、そういうことを想定していなかったと言う。
大河原はそれでは具体的対応手順を決めておいてください。そして管理責任者からの伝言であるが、それを『ISO認証のご案内』にもりこんで欲しいという。
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新橋までの道は行きも帰りも同じ距離だが、問題が片付いて大河原の足は軽い。
田中と山口は挨拶しただけで、大河原がすべて対応した。大河原の話が旨かったこともあるが、相手も誠意ある人間で良かった。断固否定という人間では揉めるだろうな。そう山口は思う。
そのときはリーサルウェポンである佐川に出馬してもらおう。
審査のミスで余計手間暇かかった分の、お金の処理が気になりましたか?
大河原さんも腹芸が得意なようで、「今回は請求権を行使せず様子を見ましょう」と
本日は時間がなくて
毎週、物語をアップしようという強迫観念にとらわれておりまして、田舎から帰ってきて急遽書きました。
そんなわけで、多少短いのはご愛敬
私は書き溜めておかないのですよ。ストーリーは考えていますが、ウェブにアップする二日前に文章化して、前日にhtmlにするという、自転車操業です。
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注1 |
ナンセンスコールとはメーカーにくる相談のカテゴリー分けのひとつで、電源が入っていないとか取説の絵を見違えたなど、お客様が注意すれば気が付くようなものをいう。もちろんナンセンスコールが多いなら取説が不親切、機械や表示のユーザーインターフェースが不適切などの原因が考えられる。![]() | |
注2 |
確信犯という言葉は誤用が大多数になったようで、言い換えると何にでも使えそうだ。 本来の意味:思想・宗教などに基づいて、法に反しても「正しいことだ」と確信して行うこと。 誤用:法に反する「悪いことだ」と分かっていながら、あえて行うこと。 法などに反して行うことは同じだが、悪いと思ってするか正しいと思ってするかの違いである。 ![]() | |
注3 |
民法第99条で、正式な委任状を持ってきた場合、代理者とみなして交渉しなければならない。但し内容が重大で本人確認が必要な場合は保留しても良い。![]() |
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