タイムスリップISO91 父と子1

25.06.30

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。



新橋駅から歩いて数分の雑居ビル、そこに「ISO認証」の出版社は間借りしていた。
大きな会社ではなく社長と総務経理なんでも屋の女性、そして編集長の押田と新人記者の増子の4人である。
今どき雑誌一冊の編集は、少し性能が良いパソコンとAdobe Creative Cloudがあれば、記者がひとりでさっさとできてしまう。AIに限らず科学・技術の進歩はすごい。


押田は先日、吉宗機械を訪問したとき、広報の広瀬課長に雑誌に広告を出してもらえませんかとお願いした。それに対して、広瀬課長は毎週のように創刊される環境雑誌の広告依頼が来ているという。

2000年前後は、環境が大流行した時期だ。毎月のように新しい環境雑誌が創刊された。
雑誌
厚さ6ミリの中綴じの雑誌だって、130ページはある。真面目に読んだら2時間以上かかる。
当時の環境雑誌は本文に白い紙でなく黄色っぽい紙を使っていた。そして「環境保護のために」と大書してあった。
私が当時勤めていた職場では付き合いもあったのだろうが、環境雑誌を10種類ほど定期購読していた。職場で購入している図書は所属員必読と思って、私は毎日持ち帰り、真面目に全部読んでいた。

しかし1日に1冊読んでも10日かかる。あまりの負荷に音をあげて、周りに聞くと「あんなもの読まない」という。少し安心した。
でもそれじゃお金も無駄、資源も無駄、環境に悪いよね。

ついでに言えば2005年頃には環境の流行は過ぎ、環境雑誌はドンドンと休刊し半減した。2025年現在に存在するのは、「日経ESG(旧名:日経エコロジー)」と「環境管理」だけだと思う。「環境管理」は創刊が1965年という、公害時代からの企業担当者向けの硬派の本だ。

広瀬課長 広瀬課長が言うには、企業が広告を出すには限度がある。安定して1万部出るなら広告を出すという。言質は取った。あとは1万部売るだけだ。

「ISO認証」誌は発刊からまだ半年、認証機関とか書店など歩いて宣伝と置いてもらうよう話をしているところだ。そういうことは社長のタスクだ。



*****


ISO研究会のメンバーとISO認証誌の、合同飲み会の翌日である。
押田と増子が、前夜の討論会のことを語りあっている。


押田 「増子君、君はちと感情が出過ぎだぞ。インタビューに行って、相手の話が気に入らなくても、それを表に出しちゃだめだ」

増子 「おとなしくしていたつもりです」

話し合い

押田 「まあいい、ひとつだけ言っておく。記事にするとき自分の主観を織り込むのは絶対にダメだからな。
昨日の話をワープロ起こししてもらうが、発言を切り取って自分好みにするのは即刻首だ。ジャーナリストの資質がないということだ」

増子 「私は朝日新聞じゃないですよ(注1)切り抜きはしません」

押田 「君はジャーナリストの矜持があると信じている。
とにかく記者は相手がされたくない質問をするのが仕事だが、喧嘩腰になることはない」

増子 「これから昨日の録音をワープロ起こししますね。そしたら押田さんの確認後、先方に中を見てもらうと」

押田 「俺が見たら、どの応答を採用するか印をつけるから、それをまるごと向こうに送り、向こうの取捨の希望を出してもらう。その後、調整だ」

増子 「承知しました」


1997年の弱小出版社に、自動的に文字起こしするレコーダーも、音声入力ソフトもない。
増子はICレコーダーを回しては止め、止めては回し、ひたすら文字起こしをするのであった。



*****


その夜である。
増子はだいぶ前に母親を亡くしている。二人いる兄たちは、遠くで家庭を持っているので、父親と二人で埼玉県某市に住んでいる。二人暮らしであるが、父親は仕事柄、出張が多く、家にいるのは金曜日の夜から日曜日の昼までしかいない。
今日は金曜日。10時頃帰って来ると思っていたら、珍しく7時過ぎには帰ってきた。


増子 「今日は、ずいぶん早かったじゃないか」

増子父増子

増子次郎
息子
増子康夫

増子父 「今日までの仕事は宇都宮だった。帰りは新幹線を使ったよ・・・京浜東北とは40分以上違うからね。40分に1,700円の価値があるかどうかだが、疲れてくると価値が上がるんだ。
あっ、飯は食ってきた」

増子 「ご老体に鞭打ってお疲れ様です。風呂は沸いているから先に入って」

増子父 「この業界では、俺なんて若手だぞ、アハハハ」

増子 「あの〜、後でちょっと話できないかな?」




息子が風呂から上がると、父親は乾きもので缶ビールを飲んでいた。
それを見て自分も缶ビールを持って来る。今日の帰り道、今晩のつまみに買ったナッツを出してくる。いずれにしても、寂しいことこの上ない。男暮らしはこんなものだ。

ナッツ
缶ビール缶ビール

増子父 「お前の話を是非とも聞きたいね。新しい職場はどうだ?
まったくロスジェネは大変だな(注2)入社したとたんに倒産では。これで二度目か」

増子 「一応記者という仕事なんだ。今週は企業でISO認証を指導している人たちの飲み会を取材に行った」

増子父 「ほう、今どきはISO認証がさかんだからな。ISO14001か?」

増子 「今回のテーマはそうだったけど、どこでも同じ人が9001も14001を担当しているようだ」

増子父 「どんな話だった? 面白かったか?」

増子 「うーん、面白くはなかったな。
参加者全員が審査員を敵視している。敵視しているばかりでなく、無礼だとか不勉強だとか(そし)る言葉ばかりだった」

増子父 「まあ、それは分かるよ。審査で、審査員相手に苦労していることだろうな。
興味があるな。原稿みたいなものがあるか?」

増子 「未完成だけど、懇談をワープロ起こししたものがある。それを読んでほしかった。
今日、明日は、家で仕事しなくちゃならないのでしょう。
秘密を守ってくれるなら電車の中で読んでも良いよ。同僚には見せないでほしい」

増子父 「報告書なんて、ちょちょいのちょいだ、今晩、報告書を書いてメールで送ってしまう。
明日は予定ないから、明後日、出かけるまでにその資料を読み終えるさ」


缶ビール缶ビール缶ビール

*****


翌朝、増子が9時頃起きると、父親は既に起きて朝飯を作っていた。
父親も炊事が得意というわけではないが、一応ご飯を炊き、おかずを作る。
増子は昼と夜はほとんど外食、朝は冷凍食品だ。これじゃ長生きできないなと、自分でも思っている。


増子父 「丁度良かった、朝飯を一緒に食おう」


父親が作ったのは、ハムエッグと鮭と味噌汁の朝食だが、いつもの冷凍食品よりは良い。
親子が一緒に飯を食うなんて珍しいことだ。
どちらからともなく、昨夜の続きを話し始める。


増子父 「昨日、報告書を片付けてから懇談会のワープロ起こしを拝見した。真夜中2時まで起きてしまったぞ。
朝飯 ああいう赤裸々なものを見たことがない。なかなか貴重なものだな。
しかもA4で30ページくらいあった。文字起こしも大変だったろう」

増子 「仕事だから……
参加者全員が、審査員を目の敵にしているでしょう」

増子父 「お前はISO審査というものを見たことあるか?」

増子 「話は聞いているけど、見たことはない。前の会社ではISOどころではなかったし」

増子父 「まあ、その懇談会で出た話はウソではないね。わしはISO9001がメインで、14001は時々参加する程度だが、正直言って自分自身、審査を改善しなくちゃならないと思っている。

それからお前、会社の人にどれくらいの腕前か聞いていたな。鼎の軽重を問うようなことはしちゃいかん。
世の中にはとんでもない奴がいるものだ。審査に来た審査員を指導するとか、コテンパにしてしまうなど、ハンパでない奴がいる。
記者なら相手も何とも思っていないだろうが、審査員だと、次回以降忌避されたりする。そうすると仕事がなくなってしまう」

増子 「そんな力が会社側にあるの?」

増子父 「審査前に、この審査員を派遣しても良いかと工場に問い合わせる。嫌だと言われたら、その審査員は派遣できない。
お前の文を読むと、参加メンバーは本社の人ばかりで、工場や関連会社の指導をしているとある。本社がこの審査員は忌避しろといったら、もうその会社、いや企業グループでは審査できなくなる」

増子 「そんなことができるのか、驚いたよ。これから気を付ける。
今回は話題にならなかったけど、別の人から聞いたことだけど、飲ませろとかお土産とか要求する審査員もいるの?」

増子父 「いるね。私自身が宴席を求めたことはない。リーダーになった人が審査だけでなくすべてを仕切るから、その人が要求すれば、皆同罪だ」

増子 「お父さんは、リーダーもするんでしょう?」

増子父 「いや、リーダーはできないんだ。
審査員には審査員補からスタートするのだが、これはまだ見習いで一人前ではない。審査員補は審査に見習いとして数回参加して審査員登録機関に申請すると審査員になる(注3)
審査員になり、一定要件を満たすとリーダーの見習いができ、何度かリーダー役をすると主任審査員に申請できる。目出度く認められると主任審査員になれる。
一人で審査するには主任審査員の資格がないとならない。わしはまだ審査員だ」

増子 「お父さんはもう2年位審査員をしているよね。主任になれないの?」

増子父 「審査員にもいろいろある。認証機関の社員もいるし、契約審査員というのもある。わしは契約審査員だ。
契約審査員とは簡単に言えばパートタイマーだな。別の仕事をしていて、審査が忙しいときに声がかかるというわけだ」

増子 「実際は毎週仕事でしょ?」

増子父 「毎週ではないよ。今週は日曜に出て金曜帰りだったが、そういうのはあまりない。審査は月7〜8日かな。前泊とかあるから、出かけている日が多く見えるだけだ。パートであることに変わりない。
ボーナスもなければ福利厚生もない。日本社会の構造だよ」

増子 「じゃあ、そういう非正規労働の審査員も記事に取り上げたいね」

増子父 「うーん、お前の雑誌社が誰を購買層に考えているのか知らんが、認証機関や審査員を対象にしているなら止めた方が良い。そういうことをしても、関係者から恨まれるだけだ。

認証機関の損益を考えると、決して甘いビジネスでないことが分かるだろう。
審査を受ける組織の業種と規模によって、審査員何人工(人日)かが決まる。 金勘定 これは国際規格で決まっているから、自由にはできない。
認証機関によって審査員1人工いくらと決めている。安いところは10万以下から、高いところは17万くらいまである。これに必要な人工をかけると審査料金になる。認証機関から見れば売上だ。認証している企業の数と規模で売上は決まる。

他方、支出は、場所の良いところのきれいなビルにオフィスを構え、打ち合わせ用の子部屋を揃え、研修会場とか用意すれば、結構な家賃になる。

問題はそればかりではない。日本の認証機関の半分は業界系だ。業界傘下企業の高齢者とかリストラで認証機関に押し込まれ、認証機関は彼らを使わなくちゃならない。言い換えると業界傘下の企業は、そこに依頼してくれるわけだ。

彼らの賃金は出向元で働いていた時と同じだ。そして概ね人件費の半分は出向元負担だ。半分の賃金で使えると言っても、元々が高い賃金を取っている人ばかりだから、最低でも500万は負担するだろう。人権副費は出向元が負担するのが多いな」

増子 「うらやましいな。年功序列は出向しても有効なんだ」

増子父 「私もそういう出向なら良かったのだがね。完全に縁が切れてからISO審査員を目指したから恩恵は何もない。

要するにその人件費を薄めなければならないわけで、それが契約審査員だ。
ワシみたいにリストラされた者などを、日給3万とか4万で契約審査員にして、社員の人件費を薄めるわけだ。

日給4万はすごいかもしれないが、仕事がない日はゼロだ。お前から見るとワシは毎週仕事に出ているように見えるかもしれないが、実際は月に10日も働いていない。
日曜日の多くは半日移動だけど収入はゼロ(注4)出張前に自宅で事前勉強もするし、昨夜は報告書をまとめたが、自宅で仕事をしてもお金はゼロ、認証機関で一緒に行くメンバーと打ち合わせしても手当は出ない。

建設業ほどではないけど、多重下請構造(注5)だな、そういう構造だから、リーダーは社員審査員にさせるようになる。リーダーになると審査員登録費用が高い。契約審査員でも主任の資格を持つ人もいるが、そういう人は元社員審査員で定年になって契約審査員になった人だろう。
おっと審査員登録費用も年2万くらいになるが、これも契約審査員は自分持ちだ。

契約審査員とは、ピンハネされる下請けのようなものだ。だが、これをしないと、昔の誼でやっている技術士事務所だけでは、食っていけない」

増子 「そうすると、ISO審査員と言っても、その所得はピンキリだね」

増子父 「そうだな。同じ社員審査員でも、元部長なら1,500万くらい取るだろうし、元課長なら1,000万とかね。我々ははるかに下だ」

増子 「同一労働同一賃金とは無縁だね」

増子父 「まあ、出向前の職階の賃金補償なんだろうな」

増子 「元課長とか元平社員だった人は不満じゃないの?」

増子父 「いや、審査員になれて良かったと思っているんじゃないか。
昔は出向となると、仕事を土産につけるなど会社が面倒見てくれた。だけどバブル崩壊以降はそんなに甘くない。受け入れた会社の目を思えば、成績を出そうと必死にならざるを得ない。
それに比べれば、ISO審査員は客を取れと言われているが、社員にはフルに仕事を入れているから営業をする暇がない」

増子 「社員審査員は賃金が定額だからフルに仕事をさせて、契約審査員は必要な時だけ依頼か」

増子父 「その代わり、契約審査員は暇な時間にコンサルができる。
ワシは積極的に客を探していないが、契約審査員の多くはISOコンサルをしている。むしろそれがメインだ。審査員をしているコンサルは客に信頼されるからね。
いずれにしても、そんないろいろがあるから、契約審査員に限らず審査員の実態を大々的に言うと差しさわりがある。

今、世に出ているISO関係の雑誌はみっつだ。アイソムズ誌は審査員研修機関が発行している審査員のための雑誌だ。アイソス誌は審査員だけでなく企業でISOと関わる人も対象とするとしている。
そんな雑誌が審査員の労働条件なんて書いて読者が喜ぶか?」

増子 「それじゃ、例の懇談会のような記事は、相当反発を食らうでしょうね」

増子父 「認証機関側としてはそうだろう。だが、あの中身はウソじゃない。だから反発するよりも、なるべく話題にならないように、速やかに忘れられるようにと願うだろう。

だが審査を受ける企業側としては、我が意を得たりと快哉を叫ぶだろう。なにせ高い金を出して、飲ませて食わせてお土産付きと、売り手と買い手が逆転しているビジネスが存在するはずがない。
だからああいった特集をすると、企業でISOを担当している人には売れるだろうね。でもこれから認証機関に取材するのが難しくなるかもしれんな。

認証とは契約によるビジネスだ。いかなるビジネスも、対等の立場のはずだ。審査で怒鳴られたり、机を蹴られたり、叱られたりするのが、審査であるはずはない」

増子 「お父さんはあれを読んで、発言者に憤りを感じるとか、反論する気はないの?」

増子父 「全て実話だとは断定できないが、7割はワシも体験しているな。日頃から審査側はもっと紳士的になるべきだと思っている。
礼儀作法とは言わないが、言葉使いは大いに反省すべきだ。審査員は教師でもなく警察でもない。
それから規格を理解しろとか法律を勉強しろというのは、全くその通りだ。ワシ自身、勉強せねばと常々感じている。

不適合を出すときは『証拠と根拠を書く』なんて、ルールそのものだ。それができてないのは審査員失格だ」


増子は考える。
審査員をしているオヤジがそう言うなら、懇談会で出た話は真実なのだろう。そしてオヤジはそれを良くないことだと認識している。
ということは、現実はそういうことなのだろう。

懇談会で、審査員が不勉強とか礼儀がなってないと言われ、父親が審査員をしているから気分を悪くしたが、それは筋違いなのだ。

ハテナ ハテナ ハテナ
増子
それから多重下請構造はどの業界でも同じようだ。それは認証機関だけではない。
押田さんの話では、審査員研修機関は事務処理と宣伝・催事運営だけで、場所は貸会議室、講師は雇用でなく請負、それを上手く回してピンハネする構造だという。

もちろんそれもひとつのビジネスモデルであり、その運営にはリソースもスキルも必要だ。
更に受講者が集まらなければ、胴元が負担するのはしかたない。世の中そういうものだ。


増子は考える。
自分自身、今は背水の陣だ。なんとかISO雑誌の記者として一人前になりたい。
父親が語るビジネスの構造において、どううまく立ち回るかだ。
企業側の人と、認証機関代表と、審査員代表で討論させるとどうなるのか? 認証機関と契約審査員を討論させたらどうなるのか?
いろいろ企画を考えてみよう。

そんなことを考えていると、いつの間にかお昼になっていた。
昼飯も父親に任せてはバチが当たる。増子は父親に好みを聞いて、冷凍パスタをチンしたのと、簡単な野菜サラダを作った。


増子父 「どんな商売もしがらみがあるから、世間を泳いでいくのは大変だよ。
ワシも思うことは多々あるが、口に出せないこともある。
お前も、勤め先の雑誌社の顧客は誰かをはっきり把握して、客に合わせた記事を書くべきだな」

増子 「おべっかを使えということ?」

増子父 「そうじゃない。客の立場で考える、客のためになる記事を書くことかな。
規格改定ひとつ考えても、認証機関の立場と審査員の立場では書くのが同じではない」

増子 「なるほど・・・参考になります」

増子父 パスタ 「あのな、わしは考えるのだが、ISO認証ビジネスが永続するとは思っていない」

増子 「えっ、本当? 何年くらい続くと思うの?」

増子父 「ワシも一応技術士だ、微分積分くらいは分かるぞ。
認証件数が増えているというけど、増分はどんどん減ってきている」

増子 「増分が減っているとは?」

増子父 「増分の増分は加速度だ。加速度がマイナスになれば減少に移る。
まあ、増加が止まり減少に移るまで10年はかからないだろう(注6)
そのとき認証機関はどうする、審査員はどうする、ISO雑誌はどうするか、それを考えておかないとならん。
ただ、ワシは年金がもらえるようになるまで働ければよい。あと7年、認証制度が持つなら良いと思っている。

それと……もしかして、お前の記事がトリガになって審査の質向上が図れれば、永続するかもしれんな」



私が最初にISO認証ビジネスは先が見えているという話を聞いたのは、2003年頃だと思う。
ISO認証を鞍替えしましょうなんて売り込みに来た認証機関の営業マンがいた。
もちろん当時の会社は、(しがらみ)で業界系の認証機関に依頼している。検討しますなんて言えるわけがない。
それは先方も分かっていること。せっかくだからコーヒーとケーキを出して雑談をした。

そのとき営業マンが資料を見せて、ISO認証件数の増分が減少していると説明してくれた。

ISO9001認証件数(JAB認定)
認証件数
1994-Q3755
1994-Q4928
1995-Q11,078
1995-Q21,232
1995-Q31,377
1995-Q41,619
1996-Q11,815
1996-Q22,003
1996-Q32,192
1996-Q42,526
1997-Q12,935
1997-Q23,218
1997-Q3???

注: この物語は今、1997年8月頃である。
日本適合性認定協会の設立は1993年11月で、統計は1994年から

その資料は営業マンやその認証機関が作った物ではなく、うろ覚えですがJACB(認証機関の業界団体)か何かが作ったものだったはずです。
もちろん私は身の回りの変化から、それ以前にそれを感知していた。
じゃあ、認証機関はどうしようとしているのか聞きましたが、回答は教えてもらえませんでした。

後知恵ですが、ISO9001の認証件数の変曲点は、2002年だったように思えます。まあ2000年から増分の増分は足踏みでしたけど。
ということは1997年に増子父が増分が減っているというのは事実と違うわけですが、実際の月ごとの認証件数は、月によって大幅減というのが起き始めたのは1998年くらいからでした。
まあ、多少のことはご容赦ください。



うそ800 本日の脚本は?

増子の父上が審査員であるのを暴露するのが早すぎましたか?
まあ悪人はいないというのが私の信条ですから、増子(子)の心情を理解できたということで。いや増子(子)が他人の心情を理解できたのかな?
もっとも悪人を許しても、悪は許しません。間違えた審査をした審査員は反省して謝罪すべきでしょう。忘れたり笑って済むことではありません。


缶ビールの絵はあったが乾きものの絵がない。せめてナッツかチーズくらいと思ったが、 ナッツ ネットにナッツの良い絵がない。良さげなのは有料だ。

しょうがないから台所にあったナッツを、ゴムの木の皿に載せて写真を撮った。
写真を撮ったついでにビールを飲んで……いろいろ大変です。

、ナッツじゃなくて、ジャイアントコーンと"きなこ大豆"じゃないか😧


<<前の話 次の話>>目次



注1 切取捏造で思い出すのは、安倍首相が2017年7月1日秋葉駅前で語った言葉である。
朝日新聞は今現在(2025/06/26)も一部を切り取った「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という記事をネットに載せている。

実はこの時、安倍首相が語った全文は
「皆さん、あのように、人の主張の、訴える場所に来て、演説を邪魔するような行為を私たち自民党は絶対にしません!私たちはしっかりと政策を真面目に訴えていきたいんです!憎悪からは、何も生まれない。相手を誹謗中傷したって、皆さん、何も生まれないんです。こんな人たちに、皆さん、私たちは負けるわけにはいかない!都政を任せるわけにはいかないじゃありませんか!」
であった。(出典:ウキペディア安倍晋三
実は私はその場にいたからしっかりと覚えている。

発言の一部を切り取っての偏向報道は、重罪だろう。ポルノ雑誌の体とアイドルの顔を貼り合わせるのと同罪じゃないか。

注2 20世紀末はバブル崩壊直後の低迷期で、大企業の倒産も多かったし、それより小さな企業はもっと大変だった。
この就職氷河期に社会人になった人たちをロストジェネレーション(略してロスジェネ)と呼んだ。

注3 このお話の時点ではまだISO17021は発行されておらず、審査員登録機関に登録する制度であった。

注4 出張前日が休日で移動する場合、正社員であっても賃金を支払う義務があるわけではない。
移動のみであれば労働時間とはみなされない。前泊を命令した場合等の場合は支払い義務がある。

注5 多重下請構造とは主に建設業で使われるが、ゼネコンが仕事を取り、下請け・下請けと出されて、末端は当初の契約金額の半分以下で仕事をする構造を言う。
他の業種にも見られる形態で、日本の構造的な問題とされている。

注6 このお話は1997年でISO9001がピークとなるのは2006年であった。このときの9年後に減少は始まった。





ふとし様からお便りを頂きました(25.06.30)
いつもお世話になっております。ふとしです。
仕事が少々忙しくお便りを出せていませんでしたが、毎回欠かさず読ませていただいております。
増子さんの親族の誰かが審査員なんだろうなと思っておりました。
主任審査員もしくはお偉いさんかなと思っておりましたので少々外れましたが、増子父のような普通の感性を持った審査員もいらっしゃるのですね。
「客の立場で考える、客のためになる記事を書くこと」
いい言葉ですね。全ての業界に言えることだと思います。
客のためになるものを売ること。客のためになるサービスを考えること。
ということですもんね。

ふとし様、いつもありがとうございます。
私は「客の立場で考えて、客を裏切ること」がサービスです。
いかに皆様の想像を裏切るかということに努力しております。
オホホホホ


外資社員様からお便りを頂きました(25.06.30)
今回は、親子の話で、良いですねぇ。 益子の態度の背景が判って良かったです。
いつもの事で、本旨と関係ない、息子の言葉への感想です。

>年功序列は出向しても有効なんだ
>同一労働同一賃金とは無縁だね
やっと、息子にも世間が判ってきた。 そして、これこそが日本経済の沈没の一因なのでしょうね。
自分で管理側を経験して判ったのは、学歴と能力は強い相関性はない、それよりも入社後の経験や実績こそが重要。
とは言え無視は出来ないから、入社時の初任給や処遇では学歴は見るけれど、その後は実績をみるべき。
その後 沈没していった大企業は、学歴重視、学閥重視、挙句に社内抗争。 そんな事をやる中心は、学歴や学閥から選ばれた人達。
偉い人達は結果を出せなくてもウヤムヤ、学歴が低い人や女性は能力が高くても昇給や昇格は頭打ちで便利使いされ、実際には、そうした報われない人達が黙々と会社を支えていた。
これは戦中の陸海軍でも同じで、陸大出た天保銭組や、ハンモックナンバー重視の海軍でも、ダメダメだった。
(もちろん例外もいますが、それ以上にダメ将官が多すぎ)
人事管理の観点で考えれば当然で、初めにエリートになれば安泰ならば、努力しないか、成功のリスクは取らない。
平時ならばともかく、戦時や社会変革が激しくドックイヤーと言われた時ならば、成果や能力主義に移行するしかない。
米軍はそれが出来たから大勝利して、日本は歴史的惨敗をした。
戦後も、その点は変わらなかったから、この小説の時期から後、ゆっくりと日本経済は沈んでゆくのでしょうね。
そうした衰退の原因は、すでに反映や発展時期に見えております。
それをしっかり書いているから、リアルだなぁと思いました。
これからも楽しみにしております。

外資社員様、いつもお世話になっております。
実は親と子の会話にはモデルがあります。
私の元知り合いの話です。そのおやっさんが1994年頃、某社をリストラで退職し、いろいろやったそうですが、結局ISO認証機関の契約審査員になり、60いくつかまでしていました。
ご本人の認識は、ISO審査員になって人よりも高齢になるまで働けてハッピーだと明るく語ってくれたことが救いでした。人間どんなことがあろうと、上を向いて歩く人が一番強い。
将官にならずとも、いや佐官、尉官にならずとも、与えられた場所で精いっぱい仕事をする、それを天職とすべきでしょう。
私も流れ流れましたが、天職にたどり着けたようです。




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