タイムスリップISO94 社長と話す

25.07.10

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。



第92話から2週間過ぎた8月上旬、もうすぐ盆休みだ。
1997年の夏は東京でも最高37.7℃だった日もあり、暑いのは暑いのだが、前年は更に暑かったので、夏はこんなもんだと慣れてしまった。

ここは吉宗機械の中会議室。10数名の幹部らしき人が座っている。
佐山佐山PJリ−ダーと下山下山次長の顔もある。佐川が余計なことを語らないようにと、監視役なのだろう。

プロジェクターのスクリーンの脇で佐川が話をしている。


佐川真一 「本日は説明会の第一回です。今日はこれからの20数年間、どんな出来事が起きるかという全体像を理解してください。
まず日本と世界全体の関りが一層強くなります。

プレゼンテーション
聴講者
聴講者

例えば観光に来日する人が増えます。今年1997年に来日した観光客は約422万人、日本人口の3.3%です(注1)10年後の2007年には835万人倍増です。2017年には2,900万人とその3.5倍、日本人口の23%、2020年には4,000万人、日本の人口の3分の1の外国人が来ることになります」

佐山 「オイオイ、そんなに来日したら食料が足りなくなるのと違うか?」

佐川真一 「おっしゃる通り。日本に10日滞在するとして
  4,000万×10÷365=110万人
1%人口が増加したことになる。食料消費もその分増加します。それだけでなく日本のルールを知らない、あるいは旅の恥はかき捨てなのか、交通ルールを無視、観光地のルールを無視の外国人観光客が増えて問題になります(注2)

その他、麻薬の密輸などが多くなるでしょう、日本は入る荷物のチェックが甘いそうで、日本を経由してアメリカなどに入る麻薬も増えるでしょう(注3)
日米間の問題になります。

人手不足などにより外国人労働者がどんどん増えます。1997年現在、日本では19万の外国人労働者がいるそうです(注4)
日本に住んでいる人口は今1億2700万人(注5)ですから、0.15%が外国労働者ということになります。まあ微々たる数ですね。
しかし10年後2007年には45万人くらいに増え、20年後には128万人にもなります。人口の1%です。

全国に均一に住むわけではないですから、外国人の多いところ、少ないとこも出ます。大阪市では17万で人口の6%、横浜市では11万5千で3%も住むようになる(注6)
割合だけを見れば長野県川上村は農業の実習生名目で同業労働者として住民登録では20%もいます。しかも農繁期には村の人口の半数が外国人という時期もあります(注7)

人物A 「うわー、そんな所があるんだ!」

佐川真一 「日本の人口減少よりも労働人口の減少が早いですから、それを補うためです。
大阪府生野区も20%ですが、ここは終戦直後からの韓国人住民が多いので事情は違います。
群馬県大泉町が18%、こちらは工場労働者ですね。他にも10%台が4つくらい続きます。人口の5%、20人に一人までとなると60市町村位になります。

20年後、再来年から平成の大合併というのが推進されて、市町村の数は1,741と今よりはるかに減ります。つまり3.5%の自治体の人口の5%以上が外国人になります。
想像できますか?」

人物B 「想像か……町で道を聞かれることは多くなるだろうな、それも外国語で」

人物C 「そのときの言葉は日本語でないのはもちろん、英語でもないぞ。タガログ語、中国語、ベトナム、タイ、フィリピン、アラビア語その他もろもろだ」

人物B 「宅配便も郵便配達も苦労するだろう。市役所や銀行も通訳常備だな」

佐川真一 「そんなもんじゃありません。我が家に書留を届けた郵便配達の人は、中国語会話教室に行っていると言っていましたよ。仕事をする上で必須だそうです。

そしてまた、電車や交通標識とか避難場所などは、多数の言語表示になります。今は日本語と英語表示です。多くの人は日本語もローマ字も読めますから、いつ電車内の行先表示を見ても分かるわけですが、中国語はまだしも韓国語になると表示が切り替わり日本語かローマ字になるまで読めません。
つまり5言語表示になると、日本人が読めるのは4割の時間だけになる(注8)分からない言語のときは日本語になるまで、待つしかありません」

人物A 「それって不便じゃない?」

佐川真一 「不便だと思いますよ。外国人のためかもしれないけど、日本人には不便になります。そんな時代になります。
見て来たような嘘を言うなんて言わないでください。私は見てきましたから。

とにかく外国と日本はつながってしまう。自分が住む街にタイ料理とかベトナム料理の店、高級な店でなく大衆向けの店ができ、飲んだことのない酒が売られている。通りを歩けば外国の食べ物特有の匂いがする。
家に帰る前にタイ料理と向こうの酒で一杯やって帰る時代が来ます。

家を出れば聞いたことのない外国語を話す人が行き来する。ヒジャーブを被る人、サリーを纏う人、ヒゲをはやす人も多くなります。それが当たり前になります。

ゴミを出す日を守らないなんて可愛いもんじゃないです。信号を守らないのも普通。私有の概念も違うので、他人の家の庭を通っていく人もいる。大きな声では言えませんが治安も悪化します。
ハト 東京の街中でもハトはたくさんいます。それを捕まえて食べようとした外国人が捕まったりします(注9)
否が応でも、そういう時代が来るということです。

とにかくこれからの20年は、過去の20年より変動が大きいと覚悟してください。
沢山の事件や不況や災害が起きますが、大きなものを話します。それが時代を理解する早道です。


佐川真一 「2001年9月11日、アメリカニューヨークのWTCビルが、テロによって2棟とも破壊されます」

同時多発テロ

人物A 「なんだって!」

人物B 「爆弾ですか?」

佐川真一 「旅客機を乗っ取りビルに飛び込みます。自爆テロですね。WTCビル以外にもペンタゴンにも突入します。また飛行機を乗っ取るとき墜落したりして、合わせて約3,000人が亡くなったと言われます。

その結果、当時の大統領ブッシュジュニアは、犯行を企てたアフガニスタンのタリバン政権、次にイラクのフセイン政権を攻撃し崩壊させます。
それから2020年以降まで続く戦争の始まりです」

人物C 「その戦争に日本は巻き込まれるのですか?」

佐川真一 「直接の戦闘には参加しませんが、後方支援の海上の給油、復興支援や医療活動に参加しました。
そういったことにより原油の輸入価格上昇とか、公海の航行が危険になるなど、経済や生活に多大な影響があります」


佐川真一 「今現在、日本ではあまり感じられないかもしれませんが、今アメリカはインターネット関連が好景気で、インターネットブームとかドットコムブーム、日本ではIT革命と呼ばれます。とにかくインターネット関連企業の株が急騰しています。

しかし2001年に株価は急落して、呼び名がITバブルに変わります。
日本ではアメリカよりIT革命が遅れていて、この影響を受けたのはITベンチャーが倒産した程度で終わりました」


佐川真一 「2004年にインドネシア沖で大地震が起き、それによって起きた津波はインド洋を囲む国々とモルジブなどの島国、そしてタイやシンガポールまで襲います。
この津波による死者は22万人と言われます」

人物A 「22万人だって! 想像もつかない」


佐川真一 「2000年代のアメリカは景気が良くなり、住宅価格の上昇を見込んで金利の高い低所得層向けの住宅ローンが拡大します。2007年頃、住宅価格が下落し始め、返済に滞る人が急増します。この結果2008年に住宅バブルが崩壊する。

9月15日には投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻して、連鎖的に世界金融危機が起きます。日本も東証株価は大暴落して10月27日には終値7,162円と1982年10月以降の最安値となります。

アメリカではリーマンショックによる破産や失業で3年間自殺者が4倍になったと報じられています(注10)日本でもリーマンショックで自殺者は1.8%増加(注11)との報道がある。

これにより日本経済は急降下し、派遣切りなどが大量に発生します。日本のGDPは▲5.7%となり、1950年以降最大の悪化です(注12)
この恐慌を日本ではリーマンショックと呼びました」


注:海外ではthe global financial crisis(国際金融危機)と呼ばれる。


佐川真一 「大変動はまだまだ起きます。
リーマンショックが収まる前に、日本では与野党入れ替わる大政変が2009年8月30日に起きます。
鳩山由紀夫代表が率いる民主党が政権を取ります」

人物C 「えっ、ハトヤマ?」

人物A 「ハトポッポじゃ。悪い未来しか思い浮かばない」

佐川真一 「自民党の派閥争いと違い、右側通行が左側通行に変わるように大きく変わります。
民主党政権ではたくさんトラブルがありましたが、なんとかやっていた時に起きたのが、東日本大震災です。

2011年3月11日です。地震より津波の被害が大きく、その範囲は北海道から神奈川まで観測され、浸水したのは青森、岩手、宮城、福島、茨木、千葉です。
一番問題は福島県の原発が津波の影響で冷却水が止まり、水素爆発、メルトダウンが起きました」

人物A 「日本は大丈夫なのか?」

佐川真一 「日本は滅びません。
福島県の東側約7%の地域から住民全員が避難しました。
その他、風向きとか雨の降水などの影響で、原発から離れたいくつかのスポットで放射能が高いところが見つかりました。

がんばれニッポン
大地震後には、こういう
スローガンが巷に溢れた

避難地域もその後、段階的に解除されて、私の知る限り2020年以降、7市町村の一部に減少しています。 この地震による死者・行方不明者は22,200人と言われています。 原発の対策は未だ対策途上で、完了は未定ですね」

人物C 「東京はどうだったんだ?」

佐川真一 「東京もかなり強い地震で揺れました。低地では液状化、鉄道や道路の寸断の他、沿岸部では津波の被害もあります。千葉県ではコンビナート火災がありました。

ディズニーランドは液状化により、長期間営業ができませんでした。
舞浜は人気の住宅地でしたが液状化がひどく、ブランドイメージは大きく棄損されました。多くの人が引っ越したようです」

人物A 「日本経済への影響はどうだったの?」

佐川真一 「先ほどのリーマンショックより、経済への影響は小さかったのです」

人物A 「へー、それじゃ、リーマンショックは大恐慌だったんだねえ〜」

人物B 「原発の対策は終わったのか?」

佐川真一 「いえ、正直なところ2023年時点で(佐川が戻った時)、完了の見通しも付いていません」

人物C 「今からなら地震までまだ13年ある。対策できないのか?」

佐川真一 「私は専門家じゃありません。事故調査委員の報告書を呼んだ程度です。現状でも地震には持ちこたえたそうです。その後に来た津波で浸水し、多くの設備が壊れ運転ができなくなったそうです。
報告書では、堤防が津波高さ以上であれば、問題は起きなかったと言われます。

ちなみに現状は、津波の高さを10.3mと想定して、堤防(防潮堤)は11m高さだったそうです。実際の津波の高さは14〜15mで、堤防を越えたのです。堤防が破壊されたわけではありません。
原発の建屋だけでなく敷地内全域が浸水して、補助電源やポンプなどが破壊されました。

宮城県にある女川原発は海抜14.8mにあって、被害を免れたそうです。岩手県や宮城県の海岸はリアス海岸が多く、場所によって津波高さが増幅されたり減衰されたりするので津波高さに大小が起きやすい。
福島県は海岸がほぼ平でまた直線に近く、震源が近かったことにより、津波高さが宮城より高かったと言われています(注13)

もちろん、建屋や設備は地震によって破壊されたものもあり、津波ばかりではありませんから、これからはテロ対策も含めて、総合的に強化しなければならないでしょう」

人物C 「原発の堤防を作ろうって話を聞いたが」

佐川真一 「そういう話があるようです。
お断りしておきますが、私は未来を話すだけです。会社で何をすべきかどうかは、経営者が考えることです。
責任は経営者が負うしかない。もちろん手を打った結果、成果を得たならそれは経営者の成果です。

無事に地震や津波に耐えたとしても、それを誰も評価してくれないと思います。
津波対策をして効果があれば無駄と言われ、効果がなければ無駄と言われて、結果として『やったのは無駄だった』というオチでしょう。
今から手を打って問題がなければ、手を打たなかったなら原発事故が起きると想像さえしないでしょう。

私個人としては、最終的に日本人が結果責任を負って処理費用を払い、高い石油を買い、停電に怯える、いやその前に放射能の汚染に怯えるより、何とか日本人を説得して災害を予防すべきとは思いますね」


佐川真一 「話を戻します。
2019年末に中国で奇病が出たと報道されます。そして既に中国国内で広まっているという噂がありました。
中国は報道管制をして、本当のことは分かりませんでした。後になって、中国が情報公開をしていればパンデミックが防げたと多くの国から批判されました。
WHOのテドロス事務局長は中国の対策を褒めたたえていましたが、後に多くの国から叩かれました。アメリカはWHOから脱退も表明しました。

ダイヤモンドプリンセス号

翌2020年2月日本発のクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号内で、新型コロナ感染者が多発する。乗員乗客3,700名中、712名が感染、13名が死亡した。

その後、日本も含めて世界中で感染者が大発生し、高い確率で死者が出て、大騒ぎとなります。
国境を超える移動の制限、マスク着用、ワクチン接種、勤務は可能な限り在宅勤務、不要不急の外出禁止、マスク着用、レストランやオフィスは人の間にアクリル製の仕切りの設置、 オフィスは仕切りを付けた 小中学校の休校や大学はオンライン講義、様々なイベントの中止というふうに、日常生活に様々な規制がされます。
規制が解除されたのは2023年5月でした。

コロナによる全世界の死者は553万人、日本の死者は13万人と言われています」

人物B 「21世紀はマスデス(mass death)の時代だな」


注:マスデス(mass death)とは大量死をいう。戦争、災害、事故、パンデミックなど様相は多々あるが、アメリカ同時多発テロ、インドネシア沖地震、東日本大震災、新型コロナウイルスは、十分マスデスに該当するだろう。


人物A 「東日本大震災の死者が意外と少ないね」

人物B 「日本の耐震建築のおかげだろう。その代わり津波対策が甘いのか」

人物C 「リーマンショックの方が東日本大震災よりGDPへの影響が大きいというのも驚きだ」

人物A 「長期にわたり足枷になるのは、東日本大震災の原発事故だろうね」


佐川の話の後、未来における政治の動向や経済指標の動向、犯罪や流行などについてものすごく多くの質問を受けた。
佐川は初めの質問10個くらいに応えて、それ以外はメールでも紙でも送ってもらうこととした。それを一覧にまとめて全員に送ることを約束する。



*****


数日後、佐川は社長室で社長に未来予測の説明をしていた。
そんなことになったのは、佐川が幹部を集めて未来予測について概要を説明したと社長が耳にして、経営企画室の中山室長に、自分にも説明しろと指示したのだ。

以前(92話)、中山室長と財務部長に、未来プロジェクトの活用を考え直せと指示したつもりが、徹底していないことに不満を持ったのだ。

出席者は、奥田社長、中山経営企画室長、佐川とその上長である佐山プロジェクトリーダー、人事部の下山次長である。


中山経営企画室長中山経営企画室長




机だよ
下山下山人事部次長
奥田社長奥田社長佐川真一 佐川
佐山未来PJリーダー

佐川真一 「社長が未来プロジェクトの危険性を、心配されていらっしゃると伺いました。未来から戻ったことはハッキリ言って超常現象ですから、その説明をする意味はないでしょう。信じてもらうだけです。信じられないなら、そう仮定してもらうしかありません。

私が未来から過去に戻ってきて、何を考え、何をしたか、その結果はどうなったかについてお話させてもらいます。
疑問があるときは、いつでも話を止めて質問してください。

私は高校卒業してから、福島工場に勤めていましたが、上司のいじめで退職したのが1997年でした。転職した会社で定年・嘱託と勤めて退職して、2023年に昼寝をしていたら、1993年に戻っていました。

実際に若返ったのか、あるいは自分の未来を夢で見たのか、どちらが正しいかは分かりません。それについてはそういうものと、無条件に認めてもらわないと話は進みません」

奥田社長 「分かりました。どうぞ進めてください」

佐川真一 「最初の人生でのこと、1993年現場の作業者が怪我をしました。それで病院に連れて行こうとしたとき、当時の副工場長に止められ、病院ではなく工場のそばの個人の医院に連れていくこと、労災でなく健康保険で診察を受けることを命じられました」

奥田社長 「下山次長、それは事実ですか?」

下山 「由々しきことですが、事実です。その副工場長と共犯者数名は懲戒処分と刑事罰を受けています」

奥田社長 「それについては後で下山君から聞かせてもらう」

佐川真一 「私が過去に戻ったのはその事故の一月後で、私は副工場長に歯向かったという理由で課長解任され、品質保証課という閑職に回されました。
品質保証が不要な仕事という意味ではありません。時代から当時は重要な部署ではなかったのは事実です。

1994年になると、EU統合となり、EU域内に輸出するにはISO9001認証が必須となりました。EUに輸出していた工場は、急いでISO認証に走り出します。ご存じのように、工場の認証とか認定は品質保証の仕事です。
ISO審査のとき事件が起きました。興奮した審査員がガラスの灰皿を女性に投げつけたのです。
実は私は前世で一度体験していました。前世では私は動くことができず、女性は顎の骨を折る重傷で、その後顔面が(いびつ)になってしまいました。
二度目のとき私は女性の前に飛び出して、その灰皿を自分の体で受け止めました。自分は肋骨を折りましたが女性は無事でした。
それが未来を知っていることを活かした最初でした。

私は一度ISO認証を経験していましたから、要領よくしましたので、その後、本社に来て全社のISO認証の指導することになりました。最初は当社の工場の認証を指導し、その後は関連会社の指導をしました。それが終わるとISO14001が登場しました。これも経験済ですから、まあ、そつなく処理しているのが現在です。
もうすることがなくなったので、これで工場に戻るかと思っていましたら、私が未来予知できることを環境部の吉井部長が勘づきました。

吉井部長に未来を知っているのかと聞かれました。特に隠すこともありません。未来を予知するのではなく、未来から戻ってきたと説明しました。
すると株とか為替で、儲ける方法はないかと聞かれました。この世界が、前世と全く同じかどうかは確信がありませんでした。そのリスクを負うならと、覚えていることは教えました」

奥田社長 「儲かったのか?」

佐川真一 札束 「我が家では家内が300万円ほどドルを買いましたので、来年で倍になる予定です。
社長から見ればわずかな金額でしょうけど」

奥田社長 「誰にとっても300万は大金だ。
1995年なら1ドル95円くらいか、今は120円だ、来年は?」

佐川真一 「130円になります。倍にはなりませんね。4割り増しですか。今の金利を考えれば大成功でしょう」

奥田社長 「吉井部長は買ったのか?」

佐川真一 「我が家の数倍は買ったようです。
プライベートなことは言っちゃいけないでしょうけど、それが基で吉井部長が未来プロジェクトを言い出したのです」

奥田社長 「なるほど、自分が外貨預金とか面倒なことをすることなく、会社に儲けてもらって賃金が上がったほうが楽だ」

中山経営企画室長 「実を言って、その話はだいぶ漏れまして、財務部も乗ったのですよ。
業務で行う投資の参考情報にしていました」

奥田社長 「3年も前から未来の情報を活用していたのか。
まさか、中山さんも?」

中山経営企画室長 「株も金も93年から2003年頃までは下がる一方と聞きまして、やはりドルですね。そういう情報があれば安心して売り買いできます。
先日、財務部長は話しませんでしたが、過去3年間、財務部がはずしたものはありません。

お断りしておきますが、会社の営業秘密には当たりません。当時は未来プロジェクトもなく、佐川氏の情報はまったくの個人的な発言にすぎません。
インサイダー取引でもない。すべて自己責任というだけです」

佐川真一 「私は経営に関わっていませんから、会社の判断に未来の情報を使うことの是非を何とも言えません。
ただ私が2度目の人生を生きると知ったとき、私は前世でできなかったこと、しなかったことをしようと決心しました。
若い女性を救えなかった反省として、我が身を盾にして彼女を救いました。自分は大怪我しましたが、後悔はしていません。いやその行為に誇りを持っています。それがきっかけで、自分の名誉回復もできました。

ISO認証で過去の失敗、審査員のやり口、そういった経験を最大限に活用することで、認証のトラブルの予防、審査員のいちゃもんを拒否すること、それによって会社のロス、無意味な仕事を大きく減らしました。
今年は前世でISO認証を指導した体験を基に書籍を発行して、それを当社、関連会社の認証のテキストに使ってもらっています。
自分が100万、200万儲けるより、会社だけでなくグループ企業の仕事が順調になり、無駄を省けたことは望外の喜びです。

それと気づいたことがあります。
SF小説では、過去に戻って何か手を加えると、それ以降の歴史が大きく変わるのがお約束です。子供向けアニメでも、恐竜時代の小さなネズミのような動物を殺すと、ホモサピエンスは発生しなくなったりしますね。
ですが、私の体験ではそういうことはありませんでした。

為替相場で儲けても、タイムパトロール(注14)はやって来ません。女性を怪我から救っても、女性が別の事故で怪我をすることもありませんでした(注15)
私はこれからも、過去に失敗したことは失敗しないように行動します。
もちろん人間にできることは、人間がすることを変えることだけです。天変地異を変えることはできません。

私一人にできるのは、ちょっとした金儲けとひとりの怪我を救うくらいです。しかし会社経営は別です。例えば東日本大震災対応とか、リーマンショック対応、革新政権対応、そういうことに大きな力が使えます。会社にとって社会にとって、より良い判断、行動をしてほしいと思います」

奥田社長 「佐川君は2020年までしか知らないのだね?」

佐川真一 「正確に言えば2023年ですね。それ以降は分かりません。でも今日の競馬の勝敗が分かれば十分でしょう。来年のダービーの結果が分からなければ、今日のレースで勝負ができないわけじゃありません。いや、私は競馬もパチンコも競輪もしませんけど。
ともかく仕事でも家庭生活でも後悔したことは、後悔しないようにするつもりです」

奥田社長 「すると見知った情報は、最大限に活用するということですか?」

佐川真一 「もちろん実行すべきか否かはよく考えます。考える時間は十分ありますからね。
とはいえどんな事が起きるかは、人生を繰り返した3年間で間違いはないと確信しています」

奥田社長 「家庭生活ではどんなことに活用したのですか?」

佐川真一 「私は役職に就いてから休日はほぼ出勤していました。理由として仕事に見合った工数がないことです。
2度目の人生では休日はほとんど休ませてもらっています。月曜日朝から出張先で仕事なら前泊ですが。

そしてまた、社会では当たり前を当たり前にできない・言えないこともあります。そういうのを自分を殺さず思ったことを話、行動するようにしました」

下山 「そりゃ当然だろう。人事はサービス残業しろとも、休日に休むなとも言っていないぞ」

佐川真一 「人事の元締めには申し訳ないですが、現実は違います。ブラック企業とは言いませんが、下っ端管理職は大変です。現場の職長も大変ですよ。
次長だって、我慢することは多いのではないですか」

下山 「まあ杓子定規にはいかないな」

佐川真一 「家庭生活では、家族といる時間を取るようにしました」

奥田社長 「それで何か変わりましたか?」

佐川真一 「娘が二人います。上の子は私と話をするようになって、世の中の仕組みと現実を知ったのか、人生で長く普遍的に使える技術が必要と考えて、大学の数学科に進みました。ゆくゆくは数学の専門家になって食っていくようです。

次女長女
下の娘は前世では高校生のときアメリカに留学しました。理由を聞くと、いつも疲れ果てている父親を見て日本の企業に夢を持てなかったと言います。

私が未来から戻ったことを娘は知りませんが、私が未来から戻ったときから、神経質な会社人間から肩の力を抜いた生き方に変わったようです。それを見て下の娘は精神的に落ち着いたようで、普通の大学に行って普通に就職するそうです。
良いか悪いは分かりません。ただ私の生き方が変わって、家族に影響を与えたのは間違いないです」

下山 「佐川君が未来から戻ってのんびり生きるようになったというのは、先行きの展開を知っているからじゃないのかな。
それは、未来を知っている余裕だよ」

佐川真一 「そう言われるとそうですね。私は弱い人間のままです」

奥田社長 「弱い人間でも、未来を知れば強く生きられるか」



うそ800 本日の言い訳

本日は説明ばかりですみません。
一応、流れの復習というか状況についての確認です。



<<前の話 次の話>>目次



注1 JTB総合研究所の「考えるプロジェクト」
インバウンド旅行者の2020年目標は4,000万人

注2 2025年、富士山に登って迷い救助を要請した中国人が翌日山に忘れたスマホを探しにまた登ってまたまた救助を要請したことがある。
富士山で救助された登山者、携帯電話捜しに戻り4日後また救助

また富士山がきれいに見えるコンビニに大勢が集まり、交通に支障が出て問題になったこともある。
「コンビニ富士山」撮影遮る幕の設置と撤去、いたちごっこの行方は

注3 2025年合成麻薬のフェンタニルが、日本経由でアメリカに渡っていると報道された。
日経新聞(25/06/25)米国へのフェンタニル密輸、日本経由か 中国組織が名古屋に拠点

注4 外国人労働者数の推移グラフ。どのくらい増えてきているか見てみる
・NHK 日本の総人口 推計1億2380万人余 14年連続減 日本人の減少最大

注5 ・総務省 人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)

注6 ここでは最近の外国人労働者ばかりでなく、従来からの住民、留学生などを含む
外国人住民ランキング

注7 全国の外国人人口率ランキングTOP100

注8 電車内の行先表示は、日本語、英語、中国語、韓国語が多いが、路線図、乗換案内、駅名、路線名になると、日本語、英語、中国語、韓国語の他に、タイ語やベトナム語なども表示されるものが増えている。

注9 私の同僚が秋葉原駅のホームで、ハトを捕まえたアラブ系の人が警官につかまったのを傍で見ていた。彼らにとって飛んでいる鳥を捕まえて食べることは、当たり前のことなのだ。
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(略称:鳥獣保護管理法)
第83条第1項違反 1年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金

注10 ・2012年11月5日英医学誌「Lancet」

注11 日経新聞 自殺の原因、「失業」65%増 「生活苦」も目立つ
ただ日本では、自殺が増えたのは男性だけで、女性は減少したというのも不思議だ。

注12 日本の名目GDP(自国通貨)の推移

注13 東日本大震災の震度分布

注14 タイムパトロールとは、タイムトラベルの作品に登場する、歴史の改変やタイムトラベルで金儲けする人たちを取り締まる警察組織をいう。

注15 過去に行って改変しようとしても元に戻ってしまうというタイムトラベルのお約束を「歴史の復元力」と呼ぶ。
殺される人を救っても、別の理由で亡くなるようなこと。ストーリーが自由になりすぎるのを防ぐための、小説を書く制約条件だろう。



外資社員様からお便りを頂きました(25.07.10)
佐川>「そう言われるとそうですね。私は弱い人間のままです」
簡単なようで、なかなか達観出来ない深い言葉ですね。
安っぽい架空小説だと、歴史改変が当たり前みたいに書くけれど、施政者が出来る事、会社が出来ること、個人が出来ることは違うのです。
後は情報を受け取った側の責任になります。
個人が身の丈を越えた現実改変をしようと思っても出来ないし、無駄に責任を感じて自分がメンヘラになってしまう。
佐川氏も色々と考えた末の結論なのだと思います。
それでも、佐川氏が周囲を変えた事は十分立派なのですし、周囲も理解し評価しているのです。
その第一歩は家族を守る事で、明るい未来が見えております。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
書いているのは全くの想像ではなく、私の体験とか見聞を基にしています。
怪我人を上長から「○○せよ」と言われたときは、どうしようかと悩みました。しかし何事かあったとき、責任を全部自分が背負うのか、法に基づいてまっとうな方法をすべき考えて、まっとうなことをしました。
ISO審査で上長が「さっさということを聞いて終わらせろよ」と言ったとき、まあ時間だけの問題で法律は関係ないかと割り切ったこともあります。
権限がないなら責任もないならよろしいですが、権限がなくても最悪のときは尻尾切りされると思うと、悩みますね。
あれから20数年、山口百恵ではありませんが、時は笑い話に変えてくれました。とはいえ、一歩間違えると手が後ろというのも事実、運が良かったと思います。
家父長的会社ではいろいろ大変ですね(曖昧なことしか言えませんけど)




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