タイムスリップ145 新聞記者2

26.02.16

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




産業環境認証機関の取材を終え、新聞社に戻った長谷川はいろいろ考える。
まずISO審査にはいろいろな問題があると言った、佐川の言葉に嘘はなかった。

ハテナ
長谷川記者

Y新聞の報道した饗応は珍しくもなんともなく、関係者は皆、体験していることだった。下手に藪をつついて恨みを買っては次回審査で被害が大きくなると、皆、諦めていたのだ。

三田氏や本間氏の話から、産業環境ではY新聞を読んでまずいと気づき、禁止令を出したようだ。
その他の認証機関もそうであれば、時間はかかっても、今後は自浄作用が働くことは期待できるだろうか?
それとも法に反しないと、新聞記事は読み捨てだろうか?


次に佐川の語ったマナーの問題だ。
これもISO審査の現場にいた人なら、だれでも知っているようだ。いたるところで発生しているのは間違いない。
しかし審査とは出先で各審査員がする仕事のため、認証機関の目が届かず、実態を把握せず、当然、管理もできないようだ。

灰皿事件が実際にあったことは確認した。これからも起きる恐れはある。
こういうことは大きな問題が起きて、怪我人が出ないと、本腰を入れた浄化はできないのかもしれない。日本は何事でも人柱(犠牲者)が立たないと改善されないのだ。
あるいは、もう一度事件が起きた方が良いのかもしれない。被害者には同情するが、それが抜本的改善の緒となれば・・・

そしてメインテーマはやはり規格解釈だろう。もっとも規格解釈の間違いだけでなく、規格に書いてないことを要求することもあるから、規格からの逸脱審査というべきか、
国際標準を称するなら、規格解釈は認証機関や審査員によって変わるはずはない。昨日訪問したところの本間氏は、設立当初は規格解釈で問題があったという。勘繰れば今も問題があるのかもしれないし、あってもおかしくない。


長谷川はまだ吉宗機械1社、業界団体ひとつ、そして認証機関1社しか取材していないが、それだけでも聞いたり読んだりしていたことの何倍も勉強になった。ISO認証を受けようとする会社は、こういう本筋でない余計なこと、本来する存在しない伏兵と闘っていることに気づかされた。

ISO認証はきれいごとではないのだ。ISO規格を満たしていても審査員の解釈がずれていれば不適合となり、必要ない是正処置を求められる。
是正処置と呼ぶのか、改悪処置と呼ぶのか定かでないが・・・


本間主任審査員
本間審査員
じゃあ、認証機関をまっとうなところに鞍替えすればよいとなるが・・・昨日訪問した認証機関の本間氏は、業界に入っている企業は付き合いも取引もあり、業界系認証機関を利用するのが多いと言う。
その理由として、その認証機関を利用すれば、審査員として出向者を出せるからだと言う。

バブル崩壊後、どこも経営が厳しく余裕がなくなり、子会社に出向者を引き取らせるのも難しくなった。
そういうとき、仕事のレベルが高く管理職でないとできない仕事だといって、部課長クラスの出向先ができたことは、人事から見てありがたいだろう。
東証上場クラスならISO認証は当たり前という状況なら、認証は必須だろう。認証と出向を抱き合わせで考えれば、ちょっとトラブルが起きようと出費があろうと良いと考えられる。そのとき認証機関のレベルとか審査の質などどうでもいいに違いない。

じゃあ出向者を出せない小さな会社はその縛りがないかと言えば、親会社とか重要な取引先から、その会社が出向者を出すためにその認証機関を利用してほしいと圧力がかかれば断れない。
工場だって本社から言われれば断れない。能無しの部長の老後のために、工場はバカバカしい審査を何年も受けないとならないのだ。
全くバカバカしいことだが、頼まれる方も頼む方も(しがらみ)で逃れられない。

そういう事情で、他の認証機関からは「認証機関の恥部」なんて呼ばれている問題の多い認証機関に審査を依頼せざるをえないのである。
それなら金は払うから半分目をつぶってサッサと審査をしてくれたら良いのだが、そういう認証機関や審査員は変にプライドが高く、お門違いの審査を、格調高い審査とか、経営に寄与する審査と自称している。


2000年頃にはISO認証企業は珍しくなくなり、差別化にならなくなった。
そのため付加価値審査と称して<付加価値でなく要求事項を付加した審査>をする認証機関が登場した。
 ●付加価値とはなんなのか?
 ●会社を良くするとは何を良くするのか?
それはどこも説明しなかった。語っている人も分からないに違いない。
キャッチフレーズや認証機関の社長発言はよく見かけたが、その実体を説明したものを見たことがない。
それどころか審査に来た審査員から「付加価値審査と社長が言ってますが、どういうものでしょうか?」と聞かれたことさえある。


そんな実態を知るにつれ、長谷川はISO認証とは一過性のブームで終わりそうに思える。よくよく見れば、ISO規格要求は高いレベルではない。企業というか組織として備えなければならない基本的な構造と機能そしてそれを実行することに尽きる(注1)

つまり認証を受けるとき、基本的な要素を満たしていれば、何もせずに認証できるレベルである。そして認証審査を受けるとき、そのレベルを満たして、それ以降そのルールを遵守していれば認証は維持できるのだ。


注:こう言うと、そんなことはないとか、生意気なと思われるかもしれない。だが普通の会社の仕組みは、ISO9001やIO14001の規格要求を満たしているのだ。じゃあ審査を受けたら不適合はないのかとなる。
多くは不適合多発だろう。それは仕組みがないとか悪いとかではない、ルールを実行しない、ルールを守らないからだ。
ダメでしょう
ダメでしょう

ルールのメンテナンスはまずしていない。会社規則は3年に一度見直しをするとあっても、10年も前のままで、情報システムを入れても現実に合わせて改定していない、職制が変わって職制規則は直したが、業務の割り振りなどは直してない、そういうのが普通だ。

記録を作成して3年保管・・・守っていない、決裁規定では部長がするところを課長がしている、稟議よりも根回しでオシマイ、なんてのを多数見てきた。


毎年審査を受けるわけだが、年々審査のレベルが上がるわけではない。継続的改善とはパフォーマンス改善ではなく、マネジメントシステムの改善のことだ。
要するに認証とはその会社が「優・良」であることを保証するのではなく、「不可」でないことを保証するだけだ。


長谷川は考える。
ISO9001の認証が始まって7年、ISO14001は4年経つ。いずれも認証件数の増加が鈍っているように思える。

新聞社では、様々な事象の数字を得ることは容易い。ISO認証件数の推移など知りたいと思えば、すぐにネットにあるデータにも自社のデータベースでもアクセスできる。
長谷川が10分もキーボードを叩くと、必要なデータを得てグラフを作り、状況を把握できた。


注:加速度とは増分の増分である。
  (増 分)=(今年の認証件数)-(前年の認証件数)
  (加速度)=(今年の増分)-(前年の増分)


ISO9001の加速度は既に2年前にマイナス、つまり毎年の増加数は減り始めている。あと5年経てば増加もマイナス、すなわち認証件数が減少を始めるだろう。
ISO14001もその呪縛から逃れられず、加速度がゼロになるのは今年2001年、減少に移るのは7年後だ。
もちろん実際に減少が始まるかどうかは定かではないが、サチる(飽和する)のは間違いない。


認証件数が減少すると言われるようになったのは、2002年頃からだと思う。
最初にそう言っていたのは、よく顔を出しに来ていた某認証機関の営業マンだった。
認証件数推移
彼は1998年頃からISO認証件数が増加しているが、段々と勢いが衰えてきている。この分では10年経たずにピークを迎え減少すると言った。

別に予言者でなくても、毎年の認証件数を記録して、増分と増分の増分(加速度)を計算すればすぐに分かる。数学なら微分の初歩だ。

右図はISO9001とISO14001の初期の認証件数推移である。
ISO9001の認証件数のピークは2006年末であった。2006年にならずとも、物語の時点2001年にこの図を見れば、数年後に減少が始まることが分かるだろう。


このことからどんなことが考えられるか?
その前に、ISO認証の業界規模はいかほどだろう。

2001年のISO9001認証の総売上は258億、ISO14001は86億とされる(注2)

注:私の推定ではISO認証業界の売上のピークは2005年頃で450億であった。認証件数より早くピークとなり減少に移った。これは2000年以降、ノンジャブの参入により審査単価の値下がりが起きたからである。

業界規模が400億円ということは、いかに小さなビジネスかということになる。コンビニ1店補の年間売上が2億程度という(2023年)。業界全体でコンビニ200店舗では悲しくて涙が出ないか?


売上は審査料金に等しく、認証件数かける審査単価(審査員の人件費、認証機関のオーバーヘッドや認定料金など)に審査工数(人日)をかけたものになる。
審査工数は認証機関で多少のばらつきはあるがguide66でだいたい決まる。

ピザパイ手
手手
パイの大きさは認証件数だ。大きさが所与のパイを認証機関が取りあうわけだ。
ISO認証事業の参入障壁は高くない。審査員の有資格者を数名集めて(注3)定められた資本金があれば良い。

認証という事業は本来なら少数の専門家が小規模の認証機関を立ちあげ細々と営むような事業だ。例えば船級検査のように・・・というか船級検査と全く同じ仕組みじゃないか。


注: 船級検査とは
船舶は事故・災害で大損害を起こしやすく、保険をかけないと海運事業はできない。
同じ理由で、保険屋はしっかりした船でないと保険を受け付けない。

船がしっかり作られたか構造や設備は基準通りかを検査して、保険を受け付けても大丈夫かを確認して認証を与える国際的な仕組みがある。この検査を船級検査という。国が行う船舶検査とは別物。
これは保険を受け付けるときだけでなく、その後毎年検査がある。ISOを同じというか、ISOがこれに倣ったのだろう。

この国際的な制度は、1760年代にロイズ船級協会が、船を調査して評価する仕組みを作ったことに始まる。
ISO認証機関の老舗であるロイズやビューローベリタスなどは、船級検査会社かその子会社である。


携帯電話 もう一つの問題は提供するサービスは同一であることだ。
1990年代登場の新商品と言えば、携帯電話やPHS電話だろう。携帯電話なら、サービスも製品も差別化はいくらでもある。

サービスなら、基地局が多く使えない地域がない、電波が強い、店舗数が多い・・・
製品なら、電波が弱くても感度が良い、折り畳みです、小型です、デザインが、着信音が、多色あって選べる、可愛い、老人でも使える・・・


だがISO認証は、審査項目は規格で決まっている、審査方法はguide66で決まっている。審査工数はほとんど変わらない。審査費用は工数が決まっているから人件費とオーバーヘッドを下げるくらいしかない。
差別化できるのは、礼儀作法・・・いや礼儀作法より、高慢、傲慢を競っていたか?


1990年代初期、日本での認証開始当初は、イギリスの認証機関が直接か、出先機関による認証がほとんどだった。
1990年代前半に日系の認証機関が立ち上がり、業界系、従来は評価試験や計測器校正をしていた財団法人系が急速に伸びてきた。
2000年頃には財団法人、社団法人系と業界系の数社がパレートの法則そのままのシエアを獲得した。上位数社が過半を占め、残りを30社以上が分け合った。
今(2001年)はまさにこの状態である。


注:パレートの法則とは、2割のものが8割を占めるという経験則である。
数学的にはべき乗則として知られるが、必ずしも区分が80:20になるわけではない。


認証機関はナポレオン(注4)ではないので、自分で👑冠を被るわけにはいかない。
第三者認証の発祥地のイギリスでは、DTI(貿易産業省)が認証機関を認定していた。だが国家がそれをするのはおかしいとなり、認証機関が自分たちを審査し認定する組織を作った。それを認定機関という。これは各国に1機関作ることになっている。

だが日本の認定機関である日本適合性認定協会(JAB)の認定を受けず、外国の認定機関の認定を受けた認証機関、あるいは認定を受けていない認証機関もある。それらはJABでないからノンジャブと呼ばれた。


その先は長谷川にも分かる。行きつくところは過当競争からのコスト競争だ。
だが今まで聞いた話では、コストだけでなく審査の質も大きな要素だ。
ところでQCとくればDとなるが、ISO審査でDとは何だろう?


注:普通、製品はQCDで評価される。Qは品質(quality)、Cは価格(cost)、Dは供給(delivery)である。
ISO審査のDとしては、例えば夜勤があれば深夜も審査する、忙しいから休日審査してほしいと言えばそれに対応するなどか


まず各認証機関は均一ではない。レベルの高い低いがあることだ。長谷川はいろいろ調べたつもりだったが、全然分っていなかった。
だがまだ氷山の一角でしかない。もっと認証機関の実態を知らないと何も言えない。今日行ったところは大手ではあるが、最大手ではない。認証機関は大中小あるから、それによる違いもあるのではないか?




長谷川はJABのウェブサイトを見ていて「マネジメント認証件数」というpdfを見つけた。JAB認定以外の認証機関も含めて、MS規格毎の認証件数が載っている。
前回は大手認証機関だったので、弱小というと語弊があるが認証件数が100件ほどの認証機関を選んだ。そこの認証件数は、ISO9001が80件、ISO14001は30件であった。


余計な話だが・・・
仮に認証1件90万円として110件認証していれば、年間売上1億円になる。
1件90万とは審査単価を12万/日とすると、審査工数は90÷12=7.5日となる。事前検討と移動込みで15日とすると、総仕事量は15日×110件=1,650人日。
1年250日として6.6人工。営業と事務作業を含めて8人。この人数で非正規雇用なら人件副費はほぼかからない。オーバーヘッドが小さいから十分やっていけそうだ。
実際、この規模の認証機関はいつの時代でも2割くらい存在する。名物審査員とかが、独立して認証機関を始める例がある。


ウェブサイトのメールアドレスに取材を申し込んだらすぐにOKの返事と、日時がいくつか提案された。長谷川は直近の日を回答した。




約束の日に中野区の教えられた住所に行くと、そこは何の変哲もないマンションだった。
確か、この住所はウェブサイトに中野事務所と書いてあったと思い出した。つまり登記された住所はバーチャルオフィスなのだろう。
賃貸でも分譲でもマンションに会社の登記をするのを禁じているところは多い。会社名には株式会社が付いていたが、実質、個人会社なのかもしれない。

タバコ

ここから中央線の最寄り駅まで1キロ弱、新宿駅まで二駅、来客が多いなら不便だが、めったに来ないなら支障はない。まあこんなものかと、長谷川は値踏みする。

約束の時間まで10分あったので、マンション前の歩道でタバコを吸う。この時代、まだ路上喫煙は禁じられていない(注5)


約束の時間を2分ほど過ぎたとき、マンションのエントランスで住所にあった部屋の番号を押す。
名前を名乗ると開錠されて中に入る。

玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに中でカギを開ける音がしてドアが開いた。
中からアイソス誌で見た50過ぎの男性が顔を出した。社長の荻原氏だろう。
玄関から入ってすぐの、間取りからは本来寝室らしき部屋に案内される。中は小さな応接セット、事務机、電話、レーザープリンターなどがギッシリと置かれている。事務所兼応接室らしい。

奥様らしき方がコーヒーを出してくれた。

長谷川記者 「早速ですがY新聞の記事はご覧になりましたか?」

荻原社長 「Y新聞・・・ああ昨年の、饗応の問題ですね。読んでおります」

長谷川記者 「私も大分前にそういう話を聞いて、調査していました。Y新聞に先を越されてしました。
しかし調査していると饗応よりも、規格解釈の問題とか、審査中暴言を吐くなどマナーの問題が多いと言われ、そういったことの解決に力を貸してほしいと言われております」

荻原社長 「まあ、あるでしょうな」

長谷川記者 「社長もそういうことを、見たり聞いたりされていますか?」

荻原社長 「ありますね。審査で規格解釈が問題なっているものは、典型的なものは10種類くらいあるかな。どこでももめていますよ」

長谷川記者 「規格の解釈が複数あるとは思えません。正しいものはこれだと決まらないのでしょうか?」

荻原社長 「決めようとすれば決まるでしょうね。だけどこのビジネスはマスが小さく参入障壁は低い。現実に私のような者が、認証機関を立ちあげているわけです。
もっとも大手と言ってもJQAのようなのは例外というか別格で、多くは賃貸ビルで細々とやっている状況です。

最近は付加価値審査とか、経営に寄与する審査とか称していますね。
長谷川さんもおかしいと思っているでしょうけど、他社に差別化しないと生き残れません。ですからISO規格以上の要求事項を加えている認証機関もあるのです」

長谷川記者 「しかし国際標準とか国際規格というわけですから、認証に差があっては困りますよね。
認証機関Aの認証は価値があるとか、認証機関Bと認証機関Cの判断は真逆だなんて言われています。これじゃまずいでしょう」

荻原社長 「ええと、例えば通勤の環境影響を取り上げてみましょうか。
ISO規格には通勤の環境影響を調べよとは書いてありません。Annexにもないし、ISO14004にもない。
だけど多くの認証機関は、通勤の環境影響を漏らさずに把握して評価しろと言っている。しかも多くの認証機関は規格にないがUKAS(ユーカス)が環境影響を評価することを要求していると言って企業にやらせている」


注:UKAS(United Kingdom Accreditation Service)の略で、英国認証機関認定審議会と訳されている。
イギリスでは当初、DTI(貿易産業省)が認証機関の認定していたが、その代わりとして1995年に創設された認定機関である。
1990年代はEUへの輸出もあり、欧州で著名な認定機関の認定を受ける認証機関が大半であった。一般企業もあまり海外で有名でないJABよりUKASを好んだ。
認証を受ける企業と認定会社はあまり縁はないが、審査登録証に🗻(JAB)富士山マークより👑(UKAS)王冠マークのほうが有難味を感じる人は多かった。


荻原社長 「認定機関が規格解釈に関わることはない。まして規格以外の要求事項を加えるなどあるはずがない。
もちろんUKASに問い合わせました。全くそういう事実はありませんでした。認証機関や審査員がそんなことを言えば異議申し立てに当たります。訴えられるかもしれません」

長谷川記者 「そうなのですか。どうしてそんなことを言うのでしょう?」

荻原社長 「私の想像ですが、他社より審査レベルが高いとか、あの認証機関はきめ細かく審査すると言われたいからではないですかね。
そして『審査員や当社がそう考える」というよりも、『認定機関が言っている』というほうが権威付けになりますからね。
他力本願ですよ。いや虎の威を借りる狐というべきか。
まだ日本の認定機関JABは知られていませんが、有名になれば『JABが言っている』というセリフが聞こえますよ、アハハハ


もしもし 注:2000年代後半になると、JABの名も知れ渡り、反対にUKASを知らない人も増えて、審査員は「JABが言っている」とか「JABが通知を出した」などと言うようになった。
会社側はJABに電話するとは、思ってなかったのだろうね。審査会場の後ろの方でJABに電話かけてましたよ。


荻原社長 「企業が通勤に影響を与えることができると思いますか?
可能なのは日産自動車と三菱重工くらいじゃないかな(注6)あそこは工場直結のJRの駅があります。通勤列車の時刻を変更したり、改札を開けたり閉めたりもJRに要請できます。
神戸の三菱重工の路線はおおぜい乗れるように、座席を廃して全員立って吊り輪の車両だと聞きました(注7)
そんな状況なら通勤に影響できると言えるけど、そういうのは日本全国でいくらもないでしょう。

一般企業で地下鉄をやめてJRで通勤しろと言うには明確な理由が必要です。上司の横暴、今はパワハラというのですか、そちらで問題になりますよ。地球環境のためという理屈は現在では通りません」

長谷川記者 「ではなぜ通勤の環境影響を調べさせるのですか?」

荻原社長 「一生懸命通勤の環境影響を調べたら、非常に小さいことが分かった、だから著しい環境影響ではない。あるいは法的にできないことが分かった。という説明付けをさせて、しっかり環境側面を調べていると審査で報告することが目的でしょうね。
そんな分り切ったこと、調べるまでもない。
UKASが言ったなど虚偽の説明だ。まったく・・・認証機関の恥、いや犯罪だな」

長谷川記者 「そういうことでは企業は迷惑ですね。認証の意図は認証を受ける会社を良くすることでなく、規格適合を証明することでしょう」

荻原社長 「おっしゃる通りです。
それにISO審査はコンサルではありませんから、会社を良くするなんて言うべきじゃないですね。
まして審査員や認証機関によって適合・不適合が異なるなど・・・」

長谷川記者 「社長は認証機関ごとにユニークな要求事項があることを許容するのですか?」

荻原社長 「おかしな審査を見ても、他人様(ひとさま)の会社にいちゃもんは付けられませんよ」

審査員、三人来れば、元の木阿弥

長谷川記者 「おかしいといえば、こういう事例も聞きました。
ISO審査で審査員が、これはまずいからこうしろといった。言われた企業はそのように直して是正処置を認められ認証を受けた。
翌年、別の審査員が来てその方式は不適合だとされた。言われた通りに改定して適合になった。

それで終わらず、翌々年また別の審査員が来てダメだと言われ、また変更するよう言われて改定したら、一回転して前に戻ったという実話を聞きました。
これじゃ審査を受ける会社側はたまったもんじゃありません」


注1:この話は都市伝説と思っている人も多いだろう。私もそう思っていた。
だが2010年頃、そういう事態になった会社からヘルプがあり、認証機関と交渉したことがある。事実は小説より奇なりである。
結論は・・・出ず、うやむやになった記憶がある。困ったものだ。
おっと、不適合だけは取り消してもらった。

注2:これには別の大問題がある。そもそも審査とは適合・不適合の判定である。
アドバイスを禁じているのは初期から変わっていない。「現状がまずい」は良いが「だからこうせよ」と語ることは即、審査員がアウトである。


荻原社長 「不条理のないものなんて、この世にないのですよ」


長谷川は2時間もの間、荻原社長の話を聞いていたが、とりとめなくあちこち飛ぶし論理が一貫せず参った。
ハテナ
長谷川記者
長谷川記者
良い人だと思うが、理詰めの話は不得手のようだ。
反省としてああいう人には、YESかNOかとクローズドクエスチョンで決めつけていかないと、時間の無駄だ。

そして佐川がいかに情報を集めているか、そして真っ当な論理で話していたかを理解した。知ったかぶりではなく、実際に知識も情報も一番あるのではないだろうか?
分ってきたことは、ISO認証の問題は思っていた以上に根が深そうだ。



うそ800 本日のお願い

ISO認証の信頼性が落ちたのは、審査で企業がウソをついたからだと認証制度側は言う。
私はまさに当事者だったが、そんな事実はないと確信する。
話を進めるため百歩譲って、そうだとしておく。

しかし 認証機関によって要求事項の解釈が違うとか、審査員が変わると適合・不適合が変わるのは、認証の信頼性に響かないのだろうか?

無知蒙昧な者なので、ご教示願います。



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注1 システムとは何ぞや? 1995年頃、ISO9001の審査員研修で習った。
軍隊や組織論でのシステムの要素とは、「組織・機能・手順」のみっつだ。
組織を作り、それぞれの仕事を割り振り、その仕事の手順を決めるもの、それがシステムである。

注2 この数字は産業構造審議会 新成長政策部会・サービス政策部会サービス合同小委員会(第5回)(2008)「平成20年4月22日‐配付資料4(10)」による。
この物語のとき、その資料は存在しないが、認証業界はこの数字を知っていたはずだ。

注3 当時は審査員資格保有者が必要だったが、2006年にISO17021が制定されてからは認証機関が審査員と認めれば良くなった。

注4 ナポレオン ヨーロッパでは皇帝とはローマ帝国の後継者でなければ名乗れず、神のご意思によりローマ法王が冠を載せることによって皇帝と認められた。

ナポレオンは神の思し召しによってでなく「市民の支持と己の力」で皇帝になったとして、戴冠式で自から皇帝の冠を被った。

注5 2002年6月に「生活環境条例」が成立し、同年11月から路上喫煙やポイ捨てに罰則が設けられた。東京駅付近(千代田区)で路上禁煙が本格的に定められたのは、2002年11月から。
なお、この物語の時点は2001年1月である。

注6 時と共に変遷がある。日産の駅はなくなり、現在、工場直結の駅と言えるのは三菱重工が2カ所、三菱自動車が1か所らしい。

注7 山陽本線和田岬線という。
聞いた話だが、現在は座席がちゃんと付いているそうだ。
なお三菱重工の人だけでなく近隣住民など一般人も使える。







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