タイムスリップ148 法学者1

26.02.26

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




2001年1月末、佐川が長谷川記者と認証機関のボス、ハワードと会った翌日である。
吉井部長をみると暇そうだったので、山口も呼んでふたりに状況を報告する。


佐川真一 「先月というか去年というか、部長から(まき)をくべろと言われましたね(第142話)」

吉井環境部長 「薪?・・・ああ、Y新聞のことだったな。
君がISO審査の饗応問題はすぐに収まってしまうと言うから、煽ってやれと言った」

佐川真一 「実はその後、S新聞の記者が来ました。Y新聞と同じくISO審査での饗応を記事にしようとしていたがY新聞に先を越されたので、別の切り口がないかと当社に取材に来たのです(第142話)。

それで企業情報や品物の強請りとか、言葉使いとか態度が悪いなどのマナー違反、それに規格の誤解釈などの話をしました。まあ私は事例を示して、あとは自力で証拠を探せと言ったわけです」

吉井環境部長 「ほう、それで何か進展があったのか?」

佐川真一 「その記者はかなり執念深いというか、粘り強いというのか、認証機関や雑誌社をあちこち訪ねたようで、今度S新聞がISO審査における問題ということで記事にすると、昨日、報告に来ました。
饗応だけでなく、いろいろな問題があるという内容だそうです」

吉井環境部長 「それは審査を受ける側の利になるのか?」

佐川真一 「正直言ってそれを認証業界がどう受け取るかでしょうね。批判されても気にしないなら効果がありません。もっとも審査を受ける企業側がどう動くかもありますが。
皆、不満を我慢していたわけで、きっかけがあれば爆発するかもしれません。

ただそれだけでなく、S新聞の記者がISO雑誌であるISO認証誌の出版社を訪問して話をした結果、ISO認証誌でISO規格を大学の法律の先生に解説してもらうという特集をする話になりました」

吉井環境部長 「法律の先生?、それってISOに関係あるのか?」

山口 「ISO規格を一番理解できるのは弁護士だと、聞いたことがあります」

吉井環境部長 「ほう、ISO規格を一番理解できるのは弁護士なのか・・・
じゃあ、S新聞とその雑誌掲載後どう動くか楽しみにしているぞ」

山口 「佐川さん、新聞社が来たとき、私も混ぜてもらいたかったですね」

佐川真一 「初めはそう思ったのだけど、話の成り行きでは、最悪、泥をかぶることになると懸念して、山口さんに声をかけなかったんだ。
次回は参加してもらうよ」

山口 「以前、ISO認証誌で『俺にも言わせろ』という連載をしたことがありましたね(第100話)。
あのときは反響も少なく効果もなかったようです。あの時、問題にしたことは依然として今も問題です」

佐川真一 「あのときと今では条件が違うと思う。あれは・・・1998年でしたね。『俺にも言わせろ』が連載したときは、まだ認証件数が少なく(注1)規格解釈とか審査のありさまに疑問を持つような状況じゃなかった。

また当時審査受けた企業は、どこも一刻も早く認証が欲しくて審査員に言われるままだった思います。
ですから多少無理難題とか疑問があっても認証がもらえれば良いと、反論しなかったと思います。

2001年の今は、ISO14001が認証できれば審査員の無理難題も受け入れるという会社はないでしょう。だから今回は効果があると思います」


山口は納得しない顔をしているが、佐川も実際どうかは分からない。
どうなるかは結果を見るしか分からない。だが、佐川は効果があるだろうと予想する。

その後、佐川は、研究会仲間にS新聞とISO認証誌の特集について状況報告と、新聞に掲載されて反論があった場合、各位の利害に関わるようであれば、その対応をした方が良い旨、eメールで通知する。
もちろん真意は、新聞の援護射撃をしろということである。

数分も経たずに研究会のメンバーから、関心を持ってウオッチするという返信が返って来る。




2月初め、S新聞社会面の下の方に縦3段、横10センチほどの囲み記事が載った。
内容をまとめると、最近伸びているISO認証だが、実際の審査はきれいごとだけでない。饗応だけでなく、種々物品や会社の情報提供を求められるとか、審査員の無礼な態度・行為が目立つ。
主目的である審査においても、ISO規格に則り審査するところが審査員のユニークな解釈によってさまざまな弊害が起きていることが書かれていた。

佐川はそれを読んで、こりゃ、ひと波乱あるぞと思う。当然、認証制度側はS新聞社に苦情というか抗議をするだろう。だが新聞社が言われるままとか、すぐに記事を撤回して謝罪などするはずがない。S新聞が具体的な問題を公開したら大騒ぎになるだろう。
どちらにしても大変だなと冷笑する。事実は事実なのだから仕方がない。

その翌日からS新聞に限らず新聞の投稿欄に、ISO審査でいじめられた、審査員に物品を要求された、規格要求にない不適合を出されたなどというものが何件も掲載された。
他方、認証制度側からの情報発信はなく、静かに時が過ぎる。


2011年フジテレビ抗議デモ SNSが広まったのは2000年代中頃のMIXI、Facebook(注2)が嚆矢であり、2001年の時点ではまだ掲示板時代であり、爆発的炎上とか社会的問題になるという事態には至らなかった。

フジテレビの偏向報道に対してネットで呼び掛けて、大規模なデモが起きたのは2011年である。
2001年には、まだネットは社会の重要な情報源にはなっていなかった。





2月10日朝8時45分(現地時間 2月9日)
愛媛県立宇和島水産高等学校の練習船だった「えひめ丸」に、原子力潜水艦「グリーンビル」が衝突し9名がなくなる事故が起きる。

マスコミはそれに注力し、ISOの話などすぐに消え去ってしまう。




2月下旬になり、Y新聞がまたISO審査の問題として饗応以外の問題を報じた。だが報道は連日連夜、「えひめ丸」で埋められて、その他のニュースは水の泡のように消えていく。

すぐに「えひめ丸」の報道も雰囲気が変わり、森首相がゴルフを続けたことが悪いとかダメという風潮になってきている。
当時の報道を思い出すと、「セウォル号」のとき朴大統領を糾弾するのとラップする。セウォル号の場合は政府が指導力を発揮する効果はあっただろうが、「えひめ丸」では首相が対応できる余地は、ほとんどなかったように思う。いずれにしても両国の政治指導者も国民もレベルが低い。

しかしISO関係者はしっかりとISO関係の報道を見ている。佐川はS新聞の報道から時間が経っていないことから、Y新聞も以前から饗応以外の問題を把握していたに違いないと思う。しかし饗応と違いかなり微妙だから報じるのを控えていたのだろう。
S新聞を見て、Y新聞の記者にジャーナリストの心が燃えあがったのか?

数日が過ぎて、山口が声をかけてきた。


山口 「S新聞の報道があって批判論が燃え上がりましたが、えひめ丸事件でおさまったかとおもいましたら、Y新聞の報道もありISO批判論は、また火が点いたようですね。

私は思うのですが、審査員には悪い人もいるのは間違いないですが、悪くない人の方が多いのも間違いないです。報道された事例は事実と思いますが、現在の状況は行き過ぎのように思います」

佐川真一 「確かにそうだろう。だが認証業界として自浄作用がなければ叩かれるのは仕方ない。
特に異議申し立てを説明しないなんて、審査員個人の問題ではなく認証機関の問題でしょう。そして複数の認証機関が説明していないのを見逃しているのは、認定機関の問題だ。
『悪いことをした罰は、もっと悪いことをしていると思われることだ』という言い回しがある(注3)

山口 「佐川さん、それは論理的には正しくありません。強弁に近いと思いますよ。
薪をくべたのは悪手だったのではないですか?」

佐川真一 「私の願いはISO認証制度が真っ当になって欲しいことだ。
今までがマイナス5なら、正常にするには、ゼロになるようにしてもゼロはにならない。プラス5の力を加えないとゼロにならない。
行き過ぎて問題になったら泥は被るよ、それで良いかい?」

山口 「うーーん」




2001年2月も末となった。「ISO認証誌」3月号が発売された。1月に企画されたISO規格を法学者が解説する第1回が掲載された。


最初は御芳名をデタラメ教授にしようかと思ったが、ふざけすぎかと思いなおした。それで私の地元でよく見かける苗字で、音が近い班目(まだらめ)教授にした。
書いた後、苗字検索で調べると、この苗字は福島県にしかないらしい。
まあ、どうでも良いか。



法律家が解説するISO14001規格
 「その1 単数か複数か」

私は△△大学の法科大学院で法曹の卵を育成している。
今年1月にISOの雑誌社から、思いもかけない提案を受けた。
それは次のような話だった。

執筆者紹介 班目(まだらめ)真之介

196X年 東北地方〇〇県生まれ
198X年 〇〇大学法学部入学
198X年 大学3年時司法試験合格
198X年 〇〇大学卒業
198X年 △△大学大学院修了 博士(法学)
199X年 △△大学 助教授(注4)
ISO規格の解釈は難しいと言われている。今まで多くの人が解説しているが、要領を得ない。
実務の文章を最も正しく読むことが要求されるのは法曹だろう。その法曹を教えている人なら、ISO規格の解説には適任ではないかという。
つまり私がISO規格(実際は翻訳されたJIS規格)の意味を説明するというお仕事を頼まれたわけだ。

私は正直言って今まで製造業と無縁だったので、ISO認証制度というものを知らなかった。ISO認証という制度は10年ほど前に作られ、最初は統合されたEU(欧州連合)への輸出に必要な要件だったそうだ。
その後、時と共に認証を必要としない良い業種にも広まり、現在では認証すると優良企業とみなされているという。

今までまったく知らない世界であるが、文章を読んで解釈するのは私の商売だ。
法律もISO規格も一緒だろう、任せろと請け負った。


なぜ法律の研究者がISO規格を論じる自信があるのか? ちゃんと根拠はある。
ISO9001は元々品質保証契約の要求事項を統一することが目的だった。つまりISO9001は買い手が売り手に履行を要求する契約の一部である。
ISO14001はどうかと言うと、これも法規制や社会から求められる環境管理をするという「コミットメント」である。契約であろうと、コミットメントであろうと、情感や曖昧さを排した実用文であることは法律と同じだ。


それに契約なら民法とか商法の出番だ。記述に過不足ないか、誤解されないか、矛盾はないか、法規制に反しないか、そういうことを考えるのは法律の専門家のお仕事である。
だからISO規格の解説は法律の専門家、弁護士とか裁判官などが適任である。私も法学部の教員だから、ISO規格を解説する資格はあるだろう。


ご注文いただいたのはISO14001である。文章は多々あるが、解釈に齟齬があってはまずいのは、要求事項である。ISO14001には要求事項を記述するshallは45個あるそうだ。
ただ、ひとつのshallで複数のことを要求しているものもあり、一般論でshallがあり、具体的な要求に展開してまたshallがあったりするので、shallと要求事項の対応は1対1ではない。

では規格の頭からshallを探して行くのかと思ったら、雑誌社が審査の場で実際に問題になっていることから始めて欲しいという。緊急かつ重大なものを優先するのは当然だ。言い換えると平明な文章で誰も間違えないなら解説するまでもない。


もっともこの「法律家が解説するISO14001規格」が不評なら、即打ち切りと押田編集長から言われているので、初回だけで終わりかもしれない。
とりあえず今回はぜひお付き合い願いたい。

お断りしておくが、要求事項が現実に必須なのか意味があるのかは、ここでの議論の対象外である。ひたすら規格の文章をどう理解するのかを解説する。
それから英語原文を日本語訳しているが、翻訳が適切かという観点で疑問符が付くものがある。それについても規格の説明の過程で取り上げる。


前振りが大分長くなったが、では始まり、始まり、第1回目の本日のお題は「単数か複数か」である。
最初のお題は審査の現場で、文章の意味をいろいろにとる人がいて議論になっているという。いずれが正しいかも白黒つけてほしいとのことだ。
お任せください。

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本日のお題である。

4.3.4 環境マネジメントプログラム
組織は、その目的及び目標を達成するためのプログラムを策定し、維持しなければならない。

審査の現場では、上記の文章を「目的を達成するためのプログラムと、目標を達成するためのプログラムが必要」と読む人と、「目的と目標を達成するためのプログラムが必要」と読む人がいるという。

どちらでも構わないとはいかない。ISO審査の判定は試験と同じく、結果は適合(合格)か不適合(不合格)になる。審査を受ける会社が前述した後者の考えで前者の考えの審査員に当たれば不合格だし、後者の審査員に当たれば合格になる。まさに天国と地獄の違いだ。
これは大問題だ。
規格が二通りに解釈されるはずはない。一方が正しく、他方が間違っているはずだ。

ではいってみよう。
ハッキリ言って、この文章は日本語訳を読んだだけでは何とも言えない。英語原文を参照しよう。

英語原文は
The organization shall establish and maintain (a) programme(s) for achieving its objective and targets.

まずprogrammeは見慣れないスペルですが、これはイギリス流だからで、なぜイギリス流なのかと言えば、ISO規格や国連の文章はイギリス英語を使うことになっているからだ。
Programmeは英語と米語ではprogramとスペルが異なります。この規格では使われていませんが、例えばColor/Colourや、meter/metreも英語と米語で異なる。
これは文句を言わず納得するしかない。


次は言葉の意味の確認である。
日本語の「目的」には、「最終的な到達点」という意味と、「何のためにするか」という意味がある。 「目的」の原語は「objective」で「purpose」ではない。達成しようとするゴールの意味である。
だからこの場合の「目的」は「最終的な到達点」である。これ、忘れないように。

次に「目標」とは「target」で、目的に至るために細分化された経過すべき点とか途中の目標などの意味である。
いずれも日本語の目的や目標を忘れて、まず単語の定義を確認すること、定義がなければ英英辞典で単語の意味を確認する必要がある。
「目的」「目標」「プログラム」共に定義されているが、特段、英英辞典とは違わない。

「目的」と「目標」の意味を具体的に理解していないと話が進まない。例を挙げて説明する。
1年後大学に合格するためには、受験科目を勉強しなければならないが、このとき毎月の進捗を予め決めておく必要がある。このとき大学合格が「目的(objective)」であり、さまざまな科目の勉強の月次の達成点を「目標(target)」と考えれば良い。
目的がひとつでも、目標は複数設定されるだろう。

ここで問題がある。ISO14001規格で「目的」と呼んでいるものを、我々は通常「目標」と呼ぶことが多い。実際にISO9001では「objective」を「目標」と訳している(注5)こういう単語の意味を横通して考えないで、無造作に日本語の単語を当てるのは芳しくないと思うがどうだろう?

ここまで来ると、すぐに問題に気が付くはずだ。あなたも気が付いただろう?
ここまでで既に「単数か複数か」の答えは出てしまった。翻訳した和文が不適切なのだ。

「establish and maintain (a) programme(s)」「プログラムを策定し、維持しなければならない」と訳して良いだろうか?
日本語の文章、「プログラムを策定し、維持しなければならない」を読んだだけでは、プログラムが一個なのか複数個なのか全然分からない。

前述したが、我々は目的と目標を達成するためにプログラムが1個で済むか、複数か必要かを考えているのではない
今我々が考えなければならないのは、この文章で「目的と目標を達成するためのプログラムは単数を要求しているのか、複数を要求しているのか」を読み取ることである。

ここで重大なことは「(a) programme(s)」をどう訳すかである。英語の約束を知らなくても、一目見れば意味は想像はできるはずだ。
「(a) programme(s)」単数の場合の「a programme」と複数の場合の「programmes」のふたつの場合があると示しているわけだ。だから日本語訳は「目的と目標を達成するためのひとつ、あるいは複数のプログラムが必要」と訳すのが正解だ。これ以外にない。

現行のJIS訳はそこに配慮せず、無造作に「目的及び目標」としている。この日本語訳をいくら読んでも、単数か複数かは分からない。

日本語では基本的に名詞に複数形はない。日本語で単数か複数かを明確にするには、名詞の前に数詞か形容詞をおいて説明しなければならない。

だから「establish and maintain (a) programme(s)」「プログラムを策定し維持する」と訳したのは手抜きとしか言いようがない。
あるいは、訳した人は、英語の契約書を見たり書いたりしたことがないのだろう。

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ちょっと話を外す。
「I'll bring snacks and drinks for tomorrow's picnic.」を「明日のピクニックに、私が食べ物と飲み物を持ってくる」と訳しても重大な問題は起きないだろう。

だけど「We plan to lay off one employee.」も「We plan to lay off employees.」も「社員を解雇する予定」と訳せば日本文は同じになって、元の意味が大きく変ってしまう。
原文通り訳すなら「社員をひとり解雇する予定」と「社員を何人も解雇する予定」となり、前者を聞けば怠け者を解雇するのかと思うだろうし、後者ならリストラかと驚くことになる。単数か複数かをしっかり訳さないと原文の意味もニュアンスも変わってしまう。

今回取り上げたISOの文章に戻れば「ひとつあるいは複数のプログラムを策定し維持する」あるいは「ひとつ以上のプログラムを策定し維持する」と訳さないとまずい。
日本では和訳したJISQ14001が基本だからと「プログラムを策定し維持する」という文を基に解釈するのは間違いの元だ。

JISQ14001の序文には「ISO14001を基に、技術的内容及び構成を変更することなく作成した日本工業規格である」と記されている。故に日本語訳で意味が曖昧とか二通りに解釈できるなら、英語原文を読まねばならない・・・実際は対訳本を使っているだろうから、目を横に数センチずらすだけだ。

原文主義という言葉がある。文学翻訳や法律の解釈において、意訳や解釈を加えずに、元となる原文(の文字、言葉、構成)を忠実に解釈する方法だ。司法では条文の言葉を文字通り解釈する文字解釈をいう。

契約書や規格なども文字解釈でないと不味い。民法では民法1条2項に「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と決めており信義則と呼ばれる。
だが訴訟で信義則を言い出すのは、契約書に書いてなくて、相手のお情けにおすがりするようなものでしかない。
書かれた文字がすべてである。ISO規格もそうなのだ。

前述したように、この文章を「目的を達成するためのプログラムと目標を達成するプログラムが必要」と解釈する人もいるそうだ。
はっきり言って、それは間違いだ。JIS訳を読めばそうも受け取れるが、英文を読めばそうは解釈できない。
英語原文は前述のとおり、単数でも複数でも良いと読まねばならない。


ともかく本日のまとめである。
この文章は「目的と目標を達成するためには一つ以上のプログラムが必要である」と解釈するしかない。
複数・単数を間違いなく理解するためには、日本語訳でなく英語原文を参照すべき。
以上である。


なおこの記事の文章に異議あるときは、ISO認証誌宛に質問状を送ってください。必ず拝見し次回に返事を載せます。
でもそのためにはこのカラムが続かないといけません。このカラムが続くよう、皆さん「良かった」とか「役に立った」とISO認証誌の編集部にお便りを送ってください。

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ISO認証誌3月号が発売されて三日経った。
ここは産業環境認証機関である。

時田技術部長が社長に呼ばれた。この会社では部長といっても、広い部屋に皆と同じ机が並んでいる。個人で部屋を持っているのは社長だけだ。
社長室に入ると座ってくれといわれて、小さな応接セットに向かい合って座る。


社長はイライラしているようで、社内禁煙であるがタバコを吸い始めた。
オフィスが法で原則禁煙になったのは2020年(注6)だから、この時代はオフィスに紫煙が漂うのは普通だった。
しかし産業環境認証機関は、環境マネジメントシステムの審査を行う会社だからと、2000年から社内全室禁煙を実施している。

とはいえ環境マネジメントシステムには喫煙は含まれておらず(注7)環境保護と禁煙は関係なさそうだ。当時はそんなことを(うた)うのが先進的認証機関と思われていたのだ。


山形社長 「ISO認証というISO雑誌をご存じですね?」

時田部長 「はい、会社で購読していますね。私は毎月読んでいます。私に回ってくるまで半月位かかりますが」

山形社長 「まだ読んでいないか。私は昨夜、読んだ。
ええと、ああ、これだ」


社長が時田部長に渡し、時田部長は目次のページを開く。


時田部長 「何か問題になるようなことが載っていますか?」

山形社長 「ああ、大問題だ。『法律学者が解説するISO』というのがあるだろう」

時田部長 「あります。新しい連載ですか。今回のタイトルは『単数か複数か』ですか」

山形社長 「時田さんは、当社がウチで認証している会社に毎月発信しているメルマガ『ISOニュース』の今月号に、環境マネジメントプログラムについて書いていたね?」

時田部長 「はい、書いておりますが・・・」

山形社長 「その『単数か複数か』を読んで欲しいのだが、完璧に時田さん書いたものを否定しているよ」

時田部長 「そのようですな・・・」


そのときドアがノックされて、社長が返事をする前にドアが開いて本間氏が入ってきた。
本間氏は元取締役だったが、昨年春、退任し、今は契約審査員をしている。
とはいえ仕事が好きなのか、することがないのか、ほぼ毎日、顔を出している。


本間主任審査員 「社長、ISO認証という雑誌を読みましたか?」

山形社長 「ああ、本間さん、良いところに来た。状況はご存じのようですね。
問題は善後策だ」

時田部長 「私の書いたものがこの学者が否定しているから、私の書いたISOニュースの書いた記事をどうするかですか?」

山形社長 「それ以外にない」

時田部長 「この学者が間違えている可能性はないのですか?」

本間主任審査員 「時田さんもご存じのはずなんだが・・・話を遡れば、1996年に業界の環境部の研究会から、環境マネジメントプログラムは1個でも良いということを言われていました(第66話)」

山形社長 「ああ、佐川氏か、あの人は不思議だよな。自分を予言者と称していたが、本当に彼が語ったことはすべて事実となった。正しい規格解釈はこうだと言ったことはすべてその通りとなっている。
なぜ正解が分かったのか、規格を正しく読む能力があるのかどうか・・・」

本間主任審査員 「研究会からISO14001の理解はこうしろという申し入れがあったとき、我々はだいぶ反論したが、結局、彼の話を受け入れた。
しかし、それによって多くの問題を回避できた。不思議なことですな」

時田部長 「しかし私が当社のメルマガに、環境マネジメントプログラムは目的用と目標用が必要と書いてしまったので問題になってしまったと・・・」

山形社長 「ウチはマネジメントプログラムが目的用と目標用の二種ないからと、不適合にしたことはなかったよね?」

本間主任審査員 「私の知る限りはありません。
時田さんは、プログラムは二つ必要として審査していたのかい?」

時田部長 「いや不適合は出していません。二つあるべきとは語っていました」

山形社長 「それなら次回のメルマガで二つ必要と書いたのは間違いであったと、修正すればどうだろう」

本間主任審査員 「一月後ですか・・・芳しくないですな。できるなら、今日にも今回のメルマガの修正版を送ることをお勧めします」

山形社長 「時田部長できますか?」

時田部長 「やるしかありません。発信は営業部長に頼みます」

山形社長 「よし、じゃあ、それで行くことにする。直ぐ対処してください」




時田部長が部屋を出てから、社長と本間氏が話をする。


本間主任審査員 「最初、佐川氏と議論したときは、何も知らないくせにと思っていましたが、今はあのとき佐川氏の意見を採用して良かったと思います。
今回は時田さんの個人的考えと理解してよろしいのでしょうか?」

山形社長 「そう願っている。
過去の審査判定をすべて見ているわけじゃないから、今日、社内にいる審査員たちにチェックさせよう」

本間主任審査員 「佐川氏が語った問題点は10いくつありましたね。全部漏れなくチェックしないと不味いですな」

山形社長 「すべてチェックするしかないだろう。今から人を集めて作業させよう」




ISO認証誌3月号発行から1週間が経った、ISO認証社である。
社長と押田編集長が話し合っている。


押田 「来月号の反響はスゴイです。
今まで反論とか賛同のメールなど月に数件しか来ませんでした。今回は発売からまだ数日しか経っていませんが、あのような記事を毎月載せて欲しいというメールが既に100通以上来ています」

中岡社長 「班目先生の記事が良かったようだな。
認証機関からの反響はどうだ?」

押田 「まだ何もありません。
ちょっと聞いたことですが、産業環境認証機関では毎月、ニュースや審査員が書いたものをまとめたメルマガを認証した顧客企業に送っているそうです。
直近のメルマガの記事の一つが、そこの部長が書いたもので、環境マネジメントプログラムは目的用と目標用が必要とあったそうです。

その直後にウチの3月号が出たでしょう。それで焦ったらしく、メルマガの修正版を送って来たとのこと。マネジメントプログラムは目的・目標必要という個所はきれいに削除されていたそうです」

中岡社長 「ほう、すると認証機関の判断より、あの法律の先生の判断の方が優先ということか」

押田 「まあしっかりと根拠を示していましたし、あの先生は学会ではそうとう優秀という評価ですし若くして助教授になっています。異議を付けるのも二の足踏むでしょう。
そういう先生を見つけてきたつもりです」

中岡社長 「なるほど、まあ、いちゃもんに備えておくことは大事だ」

押田 「ところで社長、増刷しませんか。
今からなら1週間で店頭に出せますよ」

中岡社長 「アホ言うな。今月号が完売するかどうかも分からん。
連載記事が数か月、順調なら、掲載記事をまとめて書籍化しよう。
今月初め実習船「えひめ丸」が沈んだだろう。世の中は何が起きるか分からない、一寸先が闇だ」



うそ800 本日の予想

これからどうなるかって?
どうにもなりませんよ。事件、事故、戦乱、災害が起きるたびに、ISOMS認証というものの力がないということが明白になっていくだけです。


うそ800 本日の結果

書き出す前は7,000字に止めようと思っていました。ところが書いているうちにドンドン伸びて9,500字(前回の第147話と同じ)となりました。
下駄

ちょっと長すぎだから短くしようと二三度見直したのですが、結果は11,000字と増えてしまいました。
まさに下駄を履くまで分からないってやつですね(笑)



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注1 ISO14001の認証はISO規格が制定される前、FDIS(最終ドラフト)が出た1996年初夏から仮認証が行われていた。その数は公式に発表されていないが数十件だったと思う。

規格は1996年12月に発行され、1997年から正式な審査が始まったが、1997年末までに認証された組織は489件に過ぎない。
このお話の2001年2月には4,600件になっている。

なおピークは2009年第1四半期で20,799件であった。

注2 SNSと呼ばれるものの多くは2000年代後半から始まっている。
2004 MIXI、Facebook
2005 YouTube
2006 Twitter(後にXと改称)
2008  Twitter(日本版)、Facebook(日本版) スマホ時代となる。
2010 Instagram、Instagram
2011 LINE

注3 実はこれ、ジェームズ・ミッチナーの小説に出てくる言葉の借用です。元ネタは「嘘をついた罰は、それ以外のことも信用されなくなる」だった。

注4 大学の助教授の名称が准教授に代わったのは、2007年の学校教育法改正によるもの。この物語の2001年はまだ助教授だった。

注5 ISO9001:2000 8.5.1 quality objectives等

注6 改正健康増進法により2020年(令和2年)4月1日から「原則屋内禁煙」となり、従来の努力義務から罰則付きの義務となった。

注7 ISO14001では喫煙とか人間関係も含むのだろうか?
英語で人間関係を含む職場環境はwork environment(職場環境)とかpsychosocial environment(心理社会的環境)と、環境という名詞に形容詞を付けて表現する。
Environmentのみでは人間同士の相互関係を意味せず、外部環境と人間の関りと解するようだ。

また現在、喫煙問題を環境問題と呼ぶのは、タバコ栽培から喫煙、廃棄に至る過程で、森林減少、水資源の浪費、有害化学物質による土壌・海洋汚染、そしてマイクロプラスチック問題をとりあげているのがほとんどで、喫煙を環境問題としているのは見当たらなかった。
・(公社)日本WHO協会 タバコ産業の環境影響に警鐘を鳴らす







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