タイムスリップ151 法学者3

26.03.09

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




2001年4月となり、新年度が始まった。
一般の会社はどうか知らないが、吉宗機械は3月末と4月頭が忙しいということはない。今どきは情報システムが電子化されているから、ほとんどの数字は期末に限らず節目に分かるのではなく、常にリアルタイムで把握できている。

環境関連であれば、省エネ法(注1)の前年度報告が7月末とか、廃棄物処理法の前年度報告が6月末であるのは、まさに前世紀の遺物である。99パーセントの会社は前年度十世紀は新年度初日の4月1日に把握しているだろう。



環境報告書は、環境月間である6月発行が普通だった。6月は環境月間ということもあるが、他の分野で〇〇月間に合わせて前年度のまとめを刊行する慣習はない。
2000年代半ばまでは株主総会も横並びで6月後半(注2)だったから、そのとき来てくれた株主に配るためでもあった。
そのため2000年頃は前年度の各種データ収集が間に合わず、発行前の担当部署は残業々々で青色吐息だった。

2010年頃になると、情報システムの進化で環境報告書は4月には発行できるようになったが、今度は日々の実績を見たい、最低でも月単位という時代になった。
情報は新鮮さが命、前年度の実績しか分からないのは死亡診断書だと言われた。

そして環境報告書は、数年変わらないような方針や活動テーマと仕組みを載せて、日々進捗があるデータは環境報告書に載せずウェブサイトに置くというところが多くなった。
紙代の節約に・・・ゲフン、環境にも良い。もっとも私がまだ働いていた10年前は、pdfでは分かりにくいから印刷した環境報告書が欲しいというお便りも結構あった。


PCwork じゃあ、佐川は暇しているかと言うと、いつもと変わらない。今年度の工場担当者への教育、必要な資格者育成のフォロー、数年前問題になって整備した環境監査の計画、更に言えば計画的人員配置である。

個人的には自分はこれから何をしようかと考えている。佐川も今年50歳だ。自分が課長でいられるのはあと3年だろう。
不文律だが54歳になれば、関連会社に出向か、業界団体、あるいは自ら道を探して・・・ということになる。
どうしたものか?



佐川は普通の人と違って、使命があると感じている。70まで生きて、40に戻った人生である。自分に与えられた機会は、自分一人のためでなく、世のため人のために使うべきであり、成果を出さなければ、このチャンスを与えてくれた神様の期待に応えないという強迫観念に付きまとわれている。

とはいえ、そんなに深刻になっているわけでもない。
未来プロジェクトでは2011年対応が進んでいる。地震を止めるなんて不可能だが、原発のメルトダウンを防ぐだけでも大きな効果だろう。

ISO認証についてはもはやどうでも良いという諦めもある。
企業の立場でいろいろやってきたつもりはあるが、改善はかばかしくない・・・ということは、この第三者認証制度というものは運用の改善では克服できない問題を包含しているのではなかろうか?

俗に戦略の失敗は戦術では取り返せないという。認証ビジネスの問題は、規格解釈とか審査員のマナーとかではなく、もっと根本的なところで対処しないとならないのではないか?
それが何なのか分からないが。




そんなことを思っていると、ISO認証誌の押田編集長からeメールが来ている。
彼と会ったのはだいぶ前になる(第99話)。ISOが始まったときだからもう3年になる。ISO認証誌も毎月1万数千部は売れているから順調のようだ(注3)

何々、ISO認証誌に「法律家が解説するISO14001規格」を連載している班目助教授との対談をしてくれないかとある。佐川はその連載は初回から読んでいる。まだ連載2回だが、佐川が読んで真っ当だと思う。
彼はISO認証がどうこうではなく、規格の文言を読んでどう解釈するかを語っているだけだ。それでも佐川の理解と全く同じなので気に入っている。

更にメールを読むと、対談場所に吉宗機械に貸してほしいという。なんだ、主目的はそれか。
希望日は・・・特に問題はない。一応、広報部に話をしてみるか。


🕿
広報部の石川に、押田編集長からのメールに「一読後、電話欲しい」と書いて転送する。
10分もしないで石川から電話が来る。


石川さやか 「佐川さん、お(ひさ)、用がないと電話もメールも来ないのね!」

佐川真一 「用がなくてメールとか電話する人がいるものか」

石川さやか 「哲学的な話は苦手よ。
押田さんには二三度会ったことがあるわ。結論はOKよ。
ただその場に私が立ち会いたい。それから内容はどうでもいいのだけど、談話している写真を撮って、広報活動の一つとして会社の広報に使って良いことが条件」

佐川真一 「分かった。その線で良いと思う。押田編集長はどうでも良いけど、今後、大学の先生が何か役に立つなら話し合いの後、一席設けたらどう?
それとさ、私宛に来たけど、回答は広報から正式に会社で受けたと回答したほうが良くない?」

石川さやか 「OK、じゃあ、後は任せて」




ということで4月末、吉宗機械のロビー階の一室である。
司会は押田編集長、対談者は班目助教授と佐川である。
陪席者は広報部の石川と山口、そして編集者の増子が荷物持ちで付いてきている。
写真に写るのはもちろん3名だけだ。広報用には石川も入って撮影した。


押田 「ISO認証の審査の場で、規格の解釈にバラツキがあると言われています。弊誌では現在、班目先生に『法律家が解説するISO14001規格』というタイトルで連載していただいています。
吉宗機械の環境部の佐川課長さんは、ISO14001認証が始まったとき、正しい理解についてISO規格解説本を出されており、現在も認証のトラブルシューターとして有名です。
お互いの体験とか規格についての考えとかを話していただいて、より良いISO14001認証を考えたいと思っております」


班目助教授 押田 佐川真一

班目助教授 「私はISO認証というものの実態を知りません。また審査に立ち会ったこともありません。
現実の審査で、問題とはどんな形で発生しているのでしょう?」

佐川真一 「私は班目先生と全く逆で、ISO9001のときからもう8年ほど、審査の当事者、立会者、審査で困った方の駈け込み寺の立場で仕事をしてきました。
当たり前ですが、認証しようとしている会社は、ISO規格を購入しまして熟読します。しかし全く事前情報がないと規格の意味を理解できません。法律を読むには法令用語の知識、法令解釈の仕方を知っていることが必要ですよね、それと全く同じです」

班目助教授 「えっ、法律を読むに専門知識なんて必要ありませんよ。日本語の読み書きができれば十分です」

佐川真一 「班目先生は身に付いているからでしょうけど、一般人は『直ちに』と『速やかに』の違いなんて分かりませんよ」


疾走 走る 歩く
直ちに
immediately
速やかに
as soon as possible
遅滞なく
within reasonable time

注:法で「直ちに報告」と決めてあれば、今すぐ報告しなければならない。
速やかになら週の内、遅滞なくなら10日以内ならOK


班目助教授 「ああ、そういうことですか」

佐川真一 「他にも『及び』と『並び』なんて正しい使い方を知っている人は少ないです。
規格の読み方とか、認証するための具体的方法を教える商売がありまして、ISOコンサルと呼ばれます」


注:同格のものをつなぐときは「及び」を使い「千葉県及び茨城県」という。「並び」は使わない。
同格でないものをつなぐときは、「小さなもの同士」は「及び」でつなぎ、それより「大きなもの」とは「並び」でつなぐ。例えば、「習志野市及び船橋市並びに茨城県」とする。
ISO規格の英語原文では両方とも「and」であっても、和訳では使う場所によって「及び」と「並び」を使い分けている。


班目助教授 「じゃあ、私はISOコンサルになれますか?」

佐川真一 「残念ですが、ISOコンサルは知識だけではないのですよ。規格が要求する様々な文書や記録の作り方、様式、更にはWordやExcelの電子データなどを提供しなければならないのです。
ISO認証をしようとする会社は一から規定や帳票を考えると大変なので、コンサルに要求します。雛形の作成と提供もコンサルの仕事なのです」

班目助教授 「なるほど、となるとコンサルは実際に認証した経験者でないと難しいですね」

佐川真一 「ほとんどのコンサルはそうですね。
しかもコンサルする会社は多種多様です。少規模、大規模もありますし、業種も製造業、サービス業、学校、地方自治体と様々です。
コンサルもいちいち作るのは大変なので、さまざまな会社や団体に対応したマニュアルや用紙様式を取り揃えていないとなりません」

班目助教授 「なるほど、なるほど」

佐川真一 「言い換えると、そういったデータを揃えていれば、コンサルする企業に見合ったものを渡すだけでお金になります」

班目助教授 「大学の先生も長年やっていると、それを小出しするだけでやっていけるのと同じですね」

佐川真一 「ところがそこで問題です」

班目助教授 「なんでしょう?」

佐川真一 「ISO認証すると、会社が良くなるとか儲かると宣伝しています。ですから高い金をかけて認証した企業は、当然認証の効果を求めます。
でも当たり前と言っては何ですが、実際に認証しても、客が増えたとか会社の評判が上がるはずがありません。
となるとどうなりますか?」

班目助教授 「客、つまり認証した企業が文句を言うですか?」

佐川真一 「そうです。ISO14001の前に品質保証のISO9001が登場しました。文書とか記録の要求が盛り沢山の繁文縟礼でした。
今もその気はありますが、当時よりは大分簡単になりました。

ISO9001のときは、認証しても品質が良くならないので『ISO9001を認証して良くなるのは文書管理だけ』と言われました。
今は『ISO14001認証して向上するのは環境意識だけ』と言われています」

班目助教授 「おっしゃる意味わかります。そして佐川さんの問いが分かりました。
その答えは、ISO審査する側は、ISO規格以上の要求を盛り込むようになったのではないですか?」

佐川真一 「おっしゃる通りです。そこが問題ですね。
それから環境負荷など微々たる会社では、環境貢献として何をしようかと迷います。
そこで出番は紙・ごみ・電気です。PPCを減らす、ゴミを減らす、電気を減らす。オママゴトですよ。

本来ならコンサルが『御社は(業種や規模から考えて)認証する必要がない』と言うべきです。
もちろん、その理由だけでなく、単に審査員や認証機関の考えで要求事項が追加とか拡大することが多い。要求事項が、縮小するのは見たことも聞いたこともありませんね」

班目助教授 「私の書いたものをお読みになられているかどうか存じませんが、もしお読みになられていたなら感想をお聞かせください」

佐川真一 「弊社ではISO認証誌を定期購読しておりまして、もちろん読んでおります。
班目先生のお説には全く同意です。
私は先生と同じことを4年前、つまりISO14001認証が始まったときから発言しております」

班目助教授 「認証が始まったときからとおっしゃいますと、その時から問題があったわけですか?」

佐川真一 「正直言いまして、私は認証が始まる前から、ISO14001の審査でどんな問題が起きるか 読みやすい 想像がつきました。
ISO9001のときも規格の読み方でトラブルが起きたことは多数ありました。
例えば『legible』を翻訳は『読みやすい』としました。どういう誤解が起きたか分かるでしょう?」

班目助教授 「読みやすい・・・分かりません」

佐川真一 「私のような無学のものが語るのもおこがましいのですが、英語のlegibleは『鮮明』の意味です。ところが日本語訳しか読まない審査員は、『読みやすい』『分かりやすい』と理解したのです。
そのために『この規定の文章は分かりにくい』とか、『社内用語を規定に使うのは分かりにくい』という不適合がジャンジャン出されました。
ISO14001でもlegibleはありますから、また問題になるぞと思いました」

班目助教授 「おお、そうか、そういう誤解、いや翻訳の不備というべきか」

佐川真一 「ですからISO14001の原文と翻訳を読んで、審査では誤解による不適切な判定が多々出るだろうと思いました」

班目助教授 「予想どうりになったのですか?」

佐川真一 競馬 「残念ながら、予想は大当たりでした。G1レースなら大儲けですが、こちらの大当たりは残念です。
先生も書いている、プログラムが複数か単数かというのがありましたね。これは実際に多くの審査で不適合が出されています」

班目助教授 「私も『目的を達成するためのプログラムと、目標を達成するためのプログラムが必要』と読む審査員がいると聞きました。それであれを書いたのです(第148話)」

佐川真一 「班目先生は純粋に学問上の正否を考える議論です。審査の場では審査員と会社という、平等でない立場での議論です。審査員にlegibleはそんな意味ではないと言っても通じません。
審査員が『私が言うことが正しい』と言えばおしまいです」

班目助教授 「そんなこと言うのですか?」

佐川真一 「本来、審査員は検事です。弁護側と対等な立場で話し合うべきでしょう。しかし現実には検事兼裁判官です。弁護側は反論できません。それに一審制ですから救いがありません」

班目助教授 「すると審査員が間違えれば即有罪確定ですか?」

佐川真一 「正確に言えば審査制度で、審査を受けた人に不満があれば異議申し立てできます。また、第三者が申立てる苦情の制度があり、審査を行う際は必ずその仕組みについて、審査を受ける人に説明しなければならないことが決められています。
ところが現実にはその説明さえしない審査員や認証機関が多いのです」

班目助教授 「何ですって! 全くの無法地帯じゃないですか?

佐川真一 「私の話は大げさとかウソではありません。現実に多くの企業が泣いています」

班目助教授 「契約不履行で民事訴訟を起こせば勝訴確定でしょう」

佐川真一 「でも異議申し立てできるという情報さえ与えられていないのです」

班目助教授 「うーん、」

佐川真一 「不適合・・・ISO審査では不合格という意味ですが・・・不適合を出された工場や関連会社では、もう打つ手がありません。
なにしろ異議や苦情ができることさえ知らされないのですから。

多くは泣き寝入りですが、我慢できない弊社の工場や関連会社は、本社の私を頼って相談にきます。
そこで私は認証機関に行くわけですが、たいていの認証機関は何も知らない奴がいちゃもんを付けてきたという認識でまともに相手をしてもらえません」

班目助教授 「なるほど、事態は深刻ですね」

佐川真一 「更に面白くない話ですが・・・審査員も規格解釈にバラツキがあります。
審査員、三人来れば、元の木阿弥 ISO審査で審査員が、これはまずいからこうしろと言ったとします。合格するためには、言われた通りにするしかありません。文書や手順を改定し直します。

翌年、別の審査員が来てその方式はダメだとされた。また言われた通りに改定して適合になった。
それで終わらず、翌々年また別の審査員が来てダメだと言われ、また変更するよう言われて改定したら、一回転して前に戻ったという実話もあります。

冗談ではなく実話ですよ・・・
これじゃ審査を受ける会社側はたまったもんじゃありません」

班目助教授 「まるで笑い話ですね」

佐川真一 「当事者にとっては聞くも涙、語るも涙のお話です」

班目助教授 「というと私の書いた規格の読み方は非常に重要ですね」

佐川真一 「重要どころではありません。ISO規格理解の基本で超重要です」

班目助教授 「なるほど、ISO認証誌から頼まれたときは、参考になればと思っていましたが、そういう状況なのですか」

佐川真一 「私の希望ですが、規格解釈よりも先に、ISO認証とはどんな意義があるのか効用があるのかを、法律家から見て書いてほしいです」

班目助教授 「そもそも認証の意義って何ですか?」

佐川真一 「認証を受けた組織はISO規格を満たしていることの裏書です(注4)

班目助教授 「それはどのような意味があるのでしょうか?」

佐川真一 「分かりませんね。裏書とはそもそも書画などの裏面に、これが本物であると証明する文と証明者の名を記すことでした。
当然、偽ものであれば裏書した人が責任を負います。責任を負うから裏書は信用されたのです。
しかしISO認証は一切責任を負いません」

押田 「企業の格付けのようなものですよね」

班目助教授 「企業の格付け・・・ああ、投資の際の参考指標ですね
とはいえISO認証していると投資の候補になる・・・とは聞きませんね」

佐川真一 「ISO認証は多面的なものではなく、品質とか環境など一面だけ見たものですから、単体で企業の評価はできません。株価への影響はほとんどないでしょう。
財務三表つまり貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書のように立体的に実態が見えるものじゃありません」

班目助教授 「では投資の参考資料にはならないのですか?」

押田 「重要性は劣るかもしれませんが、選定の際に会社のレベルを知る指標ではあるでしょう」

班目助教授 「なるほど、会社の格付けの一項目ですか」

佐川真一 「しかし会社の格付けとは違う点は多々あります」

押田 「ほう、どんな点でしょうか?」

佐川真一 「会社の格付けが誤っていれば投資家が損を出します。
投資家は投資先を誤ったのは格付け会社の責任と認識します。先ほど述べた裏書と同じです。

昔1929年の大恐慌では格付けが間違っていた格付け会社が淘汰、つまり倒産しました。ですから格付け会社は、正しい評価をするよう淘汰圧にさらされています」


注:リーマンショックはこのお話の7年後の2008年であった。
それを経験していたら、佐川の話はピンときただろう。


班目助教授 「それでISO認証との違いは?」

佐川真一 「2年ほど前、ISO認証では不祥事が多数報道されました」

班目助教授 「そう言えばそんなことありましたね」

押田 「あの時は環境問題もありましたし、食品の賞味期限の偽装とか問題が多かったですね。
再生材と称していて実際はバージンだったという偽証もありました」


注:プラスチック製品を成形するとき、まっさらな材料をバージンという。対義語は再生材である。
当然だが、バージンの方が成形性も良く品質も良くなる。そして意外かもしれないがバージンの方が安い場合も多いのである。
しかし環境意識が高い人はあえて再生材を使った製品を買うのである。製造する方では、再生材が切れたりするとバージンを使うこともあるが、ダマサレタ—と叫ぶ。


佐川真一 「多くの問題が発覚して、問題を起こした工場はISO認証停止とか取消、あるいは自主的に認証辞退とかしました。
そのとき認証機関は何をしましたか?」

押田 「審査で嘘をつかれたと言いましたね。そして早速、審査での偽証についてのルールを作った」

佐川真一 「企業の格付けとISO審査の違いは分かりましたか?」

班目助教授 「分かりました。明確な違いがあります」

押田 「えっ、何が違いますか?」

班目助教授 「会社の格付けを誤ったとき責任を負うのは格付け会社です。それは賠償するということではなく、間違えた格付け会社は存在できなくなった、倒産したということです。
しかしISO審査で問題を見逃したとき、責任を負うのは認証を受けた会社です。
これは理屈に合わない」

押田 「でも悪いことをした企業が悪いですね」

班目助教授 「そりゃ悪いことをした企業は刑事・民事の責任は負わねばなりません。
でも、認証すべきでない企業を認証した責任は認証機関にあるはずです。

その証拠に、格付けを誤った格付け会社は淘汰されている。犯罪なり業績を隠蔽した企業は刑事告発なり倒産なり社会的制裁を受ける。因果応報は成り立っている。なにもおかしくない。

企業が品質問題や環境問題を起こして投資家や顧客を失うのは当然だが、認証を受けた責任を負うことはない。
ましてや偽ったと非難されるいわれはありません」

押田 「偽ったことは犯罪でしょう?」

班目助教授 「裁判で偽証罪を問われるのは証人だけです。宣誓して陳述します。被告人は宣誓しませんし、憲法で自己負罪拒否特権(注5)があります。
裁判で被告人の嘘を信じたら、それは裁判官の力量問題です。
そもそも証拠裁判主義というように、被告人が言ったことより、証拠で判決を下さなければなりません。

刑事裁判で裁判官は、被告人ではなく検事を裁くという言葉もあります。検事が提出した証拠で有罪にできないなら、推定無罪(注6)です。
ISO審査は裁判ではないですが、騙されたと審査側が言うのは、己の力量がないと公言することですよ」

押田 「そうなんですか・・・・」

班目助教授 「企業がウソをついてそれを信じて認証したなら認証機関は自今以降、騙されないように努力するしかありません。もちろん自主廃業もあります。
それに『騙された』と言い訳する認証機関に頼む顧客が来るのか、そこの認証を信用するのかと考えたら、『騙された』ではなく『二度と見逃しをしない』と語らないと客が付かないでしょう」

佐川真一 「実際の審査で審査員が証拠を探すことはめったにありません。企業が出した文書・記録を見るのが9割以上です。
自ら調査することを放棄していますから、そもそも騙されたと言えることをしていません」

班目助教授 「どうもISO審査での考え方は、裁判に比べて原始的というか、理論的構築がなってないように思える」

押田 「班目先生は、認証の信頼性をどうお考えですか?」

班目助教授 「信頼性? 信頼性とは何でしょうか?」

佐川真一 「技術的な用語の信頼性とは、人間を信頼するという意味ではありません。
JISZ8115『ディペンダビリティ(総合信頼性)用語』で信頼性(reliability)とは『アイテムが、与えられた条件の下で、与えられた期間、故障せずに、要求どおりに遂行できる能力』と定義されています」

班目助教授 「それをISO認証に当てはめるとどうなりますか?」

佐川真一 「ISO規格の要求事項の遵守が担保されている割合でしょうか。
しかし割合と言っても一企業での要求事項が守られている割合なのか、全認証企業の中でなのか? 定かではありませんね」

班目助教授 「信頼性の指標は何ですか?」

佐川真一 「それを信頼度と言いまして、算式は
『信頼度=正常に動作している個数/総テスト個数(%)』
または時間経過における
『R(t)=e-λt
λ(故障率)で表されます」

班目助教授 「実際にISO認証の信頼度は算出されているのですか?」

押田 「私の知る限り聞いたことはありません。
皆が信頼性と語っているのは、実際は技術的な『信頼性』ではなく『感覚的に信頼できない』という意味でしょう。
そもそも認証の信頼度を出す前に、何を指標にするかを議論しないと」

班目助教授 「今までお話を聞いた話では、信頼性とか信頼度は計算でなく感じでものを言っているだけのようですね」

佐川真一 「おっしゃる通り、食品の賞味期限偽装があった会社が見つかった。それでISO認証が信頼性が下がったと言っているだけです。全認証件数の何パーセントなのか、審査で偽ったのか、審査員が見つけられなかったのか、環境と関係するものなのか、過去より不具合発生が増えているのか、何も分からない。

騙すというのは、うそを言ったり、にせ物を使ったりして、それを本当と思わせる故意の行為です。環境担当者が別部門で賞味期限を操作したかどうか知っていたかどうかもさだかでない。そもそも品質問題と環境問題は無関係です。

『ISO審査で嘘をつかれた』とは、単に認証機関が認証している企業で事故や犯罪が起きたという意味しかありません。本当に嘘をついたのかどうかの証拠もない」

押田 「それは言い過ぎですよ」

佐川真一 「そうでしょうか? 賞味期限偽装のあった会社にISO14001を認証していた認証機関が入ってすぐに14001でも問題があったとして認証停止になりました。
そんなに簡単に見つかる不適合があったなら、通常の14001の審査でなぜ見つけなかったのでしょう。
逆に認証を受けた企業は、自責の念から認証機関を契約不履行で訴えていないだけです。

そもそも環境犯罪のデータで、統計上ハッキリ把握できるのは毎年数百件です。ISO認証している企業だから目立つだけです。認証している企業が認証していない企業より比率が高いのか低いのかさえ分かっていない。
ISO認証した企業が事故や違反を起こしたから憎い、ウソをつかれたと思っているだけじゃないですか?」

押田 「そうなんですか?」

佐川真一 「本当に多いのかそうでないのか調べるのは、ジャーナリストのお仕事でしょう。
私は裏付けデータなしで、騙されたとか信頼性が下がったと良く語っているものだと驚きます。それこそ嘘をついているとしか思えない」

押田 「企業がウソをつかなくちゃよかったのではないですかね」

佐川真一 「企業が自主的に、企業犯罪が起きたとか問題があったと公表すれば、良い会社だと誉めてもらえますか?」

押田 「それはやはりないでしょうね。自主的に悪事を公表しても制裁は受けるでしょう」

佐川真一 「IBMは1990年代初頭から、環境報告書を出しています。その中で使い込みなどの企業犯罪、事故や違反とそのために支払った罰金額などを公表しています。
IBMはそれで制裁を受けましたか? 素晴らしい会社だと称賛されました」


注:IBMのアメリカのウェブサイトにアクセスすれば、前年度の事故や罰金を知ることができる。


押田 「ほう、それはアメリカだからですか? 日本じゃ厳しいでしょうね」

佐川真一 「ともかくIBMは今もそれを継続しています。
考えてみてください。そのように素晴らしいと称えられた会社でも10年経っても社内犯罪もなくならず、事故も違反もなくなっていない

押田 「賽の河原の石積みですか」

佐川真一 「そして忘れないで欲しいのですが、IBMはISO14001の認証を継続しています」

押田 「ほう・・・・・・」

佐川真一 「話がぐちゃぐちゃですが、ISO認証の問題をご理解いただけたでしょう」

班目助教授 「ISO認証の意味を良く考える必要がありますね。最終的にレーゾンデートルを問うことになるかもしれません」



うそ800 本日の主張

認証の信頼性って何でしょうかね?
「信頼性が下がっている」と語っていた、多くのISO関係者、消費者団体の方、大学の先生に説明してもらいたい。

信頼性が「与えられた期間、故障せずに、要求どおりに遂行できる能力」であるなら、「要求どおりに遂行できる能力」がはっきりしないと分かりません。
それが定かでないなら信頼性を語ることは不可能と思います。
多くの場合、自分が気に入らないから信頼性が・・・と言っているだけに聞こえます。



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注1 省エネ法の正式名称は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」であり、廃棄物処理法の正式名称は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」である。

注2 株主総会は、総会屋が来るのが困難なようにほとんどの会社が同一日に開催した。その密集具合は次の通り。
・1995年 96% 3月決算企業(約2,200社)が株主総会同じ日に開催
・2016年 32%
・2022年 26%
・2025年 25%
それにしても今現在でも、同日開催が4分の1と言うのは異常だ。

注3 月刊誌の発行部数は、日本雑誌協会の「印刷証明付部数」や、日本ABC協会の「ABC部数」(公査された実売に近い部数)をWebサイトや資料で確認できる。
他にも広告を募集する際の媒体概要というものに、雑誌の形態、公告の大きさと料金の他に発行部数が記載されている。

注4 ISO/IAF共同コミュニケ「認定されたISO 14001認証に対して期待される成果」がISO認証の意味を説明したものであるが、2009年7月発行で、この時は存在していない。

注5 憲法第38条で「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」とあり、己に不利なことを言う義務はない。

注6 刑事裁判で有罪判決が確定するまで、被疑者や被告人は「罪を犯していない人」として扱われなければならないという、近代法における重要な原則
検察が有罪にできなければ無罪ということ。少し怪しいということはなく、有罪でなければシロなのである。







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