タイムスリップ152 法学者4

26.03.12

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




佐川との対談(第151話)はかなり過激だった。それをそのまま載せれば、ISO認証誌は認証制度側から敵視されるだろう。
ということで班目と佐川の対談(?)の翌日、班目(まだらめ)助教授と押田編集長がeメールで、5月号の連載をどうするかを相談した。
その結果、5月号は書き溜めてあるものを載せることにした。そして班目助教授は対談から得たことから一文を書いてみると言い、それは翌6月号に掲載することにした。

班目助教授
班目助教授
10日ほどして、班目助教授から次回連載用として雑誌3ページ分7,000字の原稿が届いた。
内容はまだ過激だとは思ったが、ISO認証と無縁の法律家としての意見なら問題ないかかと悩んだ押田編集長は、社長に相談した。
社長は、毒を食わば皿までだとゴーサインを出した。
そして5月末発売のISO認証誌6月号に掲載された。






法律家が解説するISO14001規格
 「その5 裁判の原則はISO審査でも原則である」

私はこの連載の依頼を受けたとき、ISO認証という仕組みは知っていたが、その実体は何も知らなかった。依頼を受けてから規格を読んだ。
初回に書いたが法律家とは法律や契約の文章を論理的に、文章の意図ではなく意味するところを正しく読み取る専門家である。

注:意図と意味は全く違う。
「意図」とは、言葉や文章を発信した人が伝えることを目指した考えや目的
「意味」とは、言葉や文章が客観的に示すもの
ISO14001の意図は「遵法と汚染の予防」であるが、ISO14001の様々な要求事項が、遵法や汚染の予防を目指しているわけではない。要求事項が意味するものはマネジメントシステムの具備すべき要件である

ISO14001の規格が審査側(審査員)と受査側(企業側)の双方に正しく理解されているのかを知らねばならないと思い、ISO認証誌の押田編集長に相談したところ、ISO9001の初期から企業内で認証指導をしてきた方との対談をセットしてくれた。
私が聞き手となって、現実の審査の状況と問題点をお聞きした。

話を伺うと、審査員が正しく規格を理解しているのか疑問が多い。そのズレには審査員は会社の規格適合を確認するだけでなく、より良くしたいという気持ちがあるからと思えることもある。

だが審査員の経歴などによる偏見というと語弊があるが、理解にオフセットがかかっている思えることもある。また単純に規格要求を誤解していることもあるようだ。
そしてまた、規格の和訳が適切なのかと感じるものも多い。

上記を読むと審査側にばかり問題があるように聞こえるが、とりあえず今回は私が気付いた審査側の問題について論じる。


その1 翻訳は万能ではない
ある言語で書かれたものを、全く同じ意味のまま別の原語に移し替える翻訳が、難しい作業であることは言うまでもない。そして残念ながらISO規格のJIS訳は原文の意を表していない個所もある。
この連載の過去の回でも、規格原文の複数と単数が、翻訳では明確でないことを指摘した(第148話)。
私は英語の規格を、全く同一の意味を日本語であらわすことは不可能だと思う。

だから審査員も会社側も、常に英文を対照しながら読むという習慣を持たねばならない。もちろんお互いに規格の解釈にずれがあれば、英語原文で議論しなければならない。
和訳で理解に苦しむとか疑問のあるとき、国語辞典を引いても意味がないのである。

例えば規格原文「4.4.2training, aware and competence」を「4.4.2 訓練、自覚及び能力」と訳している。
ここでは「aware」を「自覚」と訳している。これは適切なのだろうか?

そもそも4.4.2 awarenessとはどういうことなのか?

aware矢印自覚
認識
哀れ(ダジャレだ)
理解
あるいは?

英和辞典で引いても役に立たない。英英辞典の出番だ。

オンライン・ロングマン英英辞典による「aware」の意味
1.if you are aware that a situation exists, you realize or know that it exists
状況あるいは存在を認識(知覚)している。
2.if you are aware of something, you notice it, especially because you can see, hear, feel, or smell it
見たり、聞いたり、感じたり、匂いを嗅いだりして、それに気づいている
3.understanding a lot about what is happening around you and paying attention to it, especially because you realize possible dangers and problems
何が起こっているかを理解して、起こりうることに気付いて注意している


「自覚」を国語辞典で引くと、①自分自身を理解すること、②自分の立場をわきまえること、③自分の六感で感じること(自覚症状など)・・・などが出てくる。
どれでも良いわけではない。英語原文の「aware」の意味を正しく示すには「自覚」でなく「気づく」とか「理解する」、ケースによっては「把握する」と訳すべきではなかろうか?
もちろん他人と理解が異なる場合は、最終的に英語原文で議論するしかない。

実は頂いたお便りを頂いた中に、「審査の際に審査員から『著しい環境側面で訓練が必要な側面には訓練をするが、自覚だけすれば良いものは訓練が不要である』と教えられた」というものがあった。その説明はちょっと違うのではないか。


それからISO関係者からは異議があるかもしれないが、私の見るところ、審査のスタンスとか規格の読み方において、裁判の原則と大きく違うものがある。
以下、それについて裁判における原則を適用すべきという意見を述べる。

その2 罪刑法定主義
私が連載を始めてからISO認証誌の編集部経由で、たくさんのお便りを頂くようになった。その内容は現在の審査で困っていることを記したものがほとんどだ。

ひとつ、お便りにあった例を挙げる。

「〇〇職場では古いバージョンの規定が使われていた。これは4.4.5文書管理の要求事項に反する」


という指摘事項があった。投稿者は「何がどのように悪いのか分からない」という。

これはもちろん不適合の記載がダメな例だが、何が悪いのだろうか?
不適合はどの要求事項に反しているかを記述しなければならない。文書管理の項番には、shallが2個あるが、shallそれぞれの後ろに要求事項が複数書かれており、実際の要求内容は14ある。不適合には、そのどれに該当するかを記述しなければならない。

ご存じと思うが、これは審査員研修のとき必ず習うことである。
上記不適合を出した審査員は、審査員研修の修了試験で合格したのだろうか?

上記不適合の文章を読んで分からないことは多々ある。
指摘事項には、証拠の記述が必要であり、それは具体的というよりも、読んだ人が現場・現物にたどり着けるよう(トレーサブル)に記述しなければならない。
〇〇職場には規定は1セットしかないのだろうか? 複数あるならば職場のどこか、作業場であれば工場の柱番号など、客観的に分かり、確認のためにそこに行けるよう記述しなければならない。
また前述したように、不適合にする要求事項を明記しなければならない。
文書管理の要求事項は14個あるので、そのうちのどれに当たるのか明記しなければならない。


不適合の要件を想像で補った例を示せば、
「〇〇職場の第〇工場の現場事務所において、ファイルNO.23の規定集に綴じられている〇〇規定のバージョンFであった。文書管理課に確認したところ現行はバージョンGであることを確認した。 これはISO14001 4.4.5文書管理の(c)『すべての場所で、関連文書の最新版が利用できること』を満たしていない」


くらいに書かないと、審査員はペナルティを受けるはずだ。当然であるが、審査を受けた企業は認証機関に対して、このような報告書は受け取れない(金を払う価値がない)と抗議し、力量のある審査員の派遣を要求すべきだ。

そもそも上記したような記述なら、認証機関の上司が差し戻さなければならない。
ISO14001の4.4.5(b)に「文書はレビューされ妥当性が承認されること」とある。他人に要求していながら、自らはできないのでは困る。
まさか上司が報告書を見ていないことはないとは思うが・・・


気になったのは他にもある。審査所見報告書のページ数は、認証機関によってものすごくばらつきがある。少ないものは4ページから、ボリュームのあるところは80ページほどである。多い方が良いとは限らないが、どう考えても4ページでは少ないだろう。
調査会社とかコンサルに仕事を依頼したとき、100万円払うなら報告書(成果物)は最低50ページはあるだろう。
税理士だって決算書、申告書など税務署に提出するものだけでなく、計算の根拠や解説、帳簿のチェック結果などを添えてくる。

ISO14001認証も大企業が一巡し、最近は中堅以下の企業の認証が増えてきている。それにしても審査単価は50万よりは100万に近いのではないだろうか。
なおページ数は審査工数に無関係なようで、審査対象範囲が50名でも400名でも変わらないようだ。これもおかしく感じる。

なお、文字数が少ないのは証拠と根拠を具体的に記述していないように見受けられた。不適合なら1件百文字は必要だろうし、現状を評価するにしろ、最低数百文字を書かないと審査員の思いを表せないのではないか。
百文字というと多いように思えるかもしれないが、A4ならたった2行半だ。
500円硬貨 お便りを寄こした会社の人が、1文字500円につくと愚痴を書いていた。
仮に100万円払った審査の報告書に書かれた文字が2,000字しかないなら、確かに1文字当たり500円である。
ちょっと高すぎやしませんか?

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その3 風説の流布
「環境側面に通勤を含めないとならないとUKAS(ユーカス)(注1)が言っている。だから著しい環境側面に通勤がないから不適合である」
これは多くの審査員が審査の場で語っているそうだ。

ISO認証とは要求事項を満たしているかを調べることである。ISO14001の「第2章 引用」に「引用規格はない」と記述されている(注2)だから審査される要求事項は、規格の4章(4.1~4.6)に限られていることになる。

実はISO規格4章以外に審査の要求事項にもある。それは認証機関との審査契約書である。
審査契約書を見れば分かるが、認証の表記やロゴマークの使い方が記述されているか、それを定めた認証機関の文書を、契約書の中で、参考文書として引用しているはずだ。そういう記載がなければ、認証機関の怠慢であるが、そんなことはないだろう。していないと認定を受けられないはずだ。

そして審査では、実際に規格要求事項以外に、審査登録証のコピー配布状況、ロゴマークの使用状況、審査登録証(認証書)のコピー配布状況を調べているはずだ。 もちろん初回審査においては、実績があるはずはないが、そういう行為に関する規定があるかを調べられる。

「UKAS云々」のお便りをされた方に連絡を取ると、審査契約には審査基準としてISO14001/JISQ14001とロゴマークの使い方があるだけで、それ以外の要求の記述はないという。

UKASが通勤を著しい環境側面にすることを要求していたとして、契約書に書いてないものを審査で要求事項に加えるのは、民民の契約として委託契約違反である。少なくても日本の法律ではそうである。
UKASが言っているから仕方がないなど言い訳にならない。もしそれなら認定機関が要求しているからという理由で、審査契約書を改定しなければならない。
そうしなければ契約不履行で民事訴訟を起こされる。被告(注3)はもちろん認証機関である。

そしてUKASがそういう要求を認証機関に通知しているのか、そして認証機関が審査を受ける企業にその旨を通知しているかが重要な観点である。

ここで法律の話をすると、基本原則の一つに罪刑法定主義というものがある。簡単に言えば「法律で犯罪と決めていなければ罪ならない」ということだ。
ISO審査は刑事裁判ではないが、「通勤を環境側面に加えないと不適合」と定めていないと裁判の原則に反するということだ。

ISOは裁判と違う。だがこういう決めは、スポーツでもゲームでも当然のルールである。試合が始まってから後出しとか追加するのは、アンフェアというだけでなく契約違反だ。
ISO規格ではどうなのか?

企業側は知らないだろうが、認証機関や審査員は、ISO審査の方法を定めたルールを知っているだろう。知らないなら審査員を辞めてもらうしかない。

それはIAF Guidance Document(IAF GD 6)というものだ。ガイダンスだから強制力はないなんて寝ぼけたことは言わないよね。しっかりとJAB MS100という文書に展開されている(この物語のとき)。

ではそこで罪刑法定主義に従っているか?
しっかりと決めている。
G.5.5.2(a)で「不適合の明確な記述」とある。証拠・根拠を書かないとダメですよということだ(注4)


ここで、更なるどんでん返しを語らねばならない。

このお便りを頂いて、私はUKASにeメールを出した。
法律家は裏付けを取るのが習慣なのだ。

「私は日本の弁護士である(嘘ではない)。私の顧客企業からISO審査の相談を受けた。
審査において、審査員から『UKASの通知により、通勤を著しい環境側面に含めなければならない』と言われた。
その会社は通勤を、著しい環境に取り上げていないので不適合とされたということだ。
私はその事情を確認いたしたく、UKAS発信のその通知を頂きたい」


数日後に返事が返ってきた。
「UKASは認定機関であり、規格解釈をするところではない。だからそのような通知を出すはずがない。
個人的な見解であるが、通勤は環境側面であることは間違いない。しかし管理も影響するにも実際は難しいだろう。そしてその環境影響の大きさからも、著しい環境側面にはならないだろう(注5)



「UKASが言った」という審査員は間違っている。いや嘘をついたのかもしれない。
なぜならUKASはそのような通知を出していないからだ。

よって「UKASが言っている」というのは事実ではない。UKASが言ったと騙る審査員は風説の流布を行ったということになる。企業もUKASも被害者である。

その理由で不適合を出された企業は、審査報告書の見直しと損害賠償請求はできるだろう。
また、なりすまされたUKASは信用棄損あるいは偽計業務妨害で訴えるかもしれない。
事実と異なる主張をした方は、それを覚悟しているはずだ。

注:信用毀損罪(刑法233条前段): 嘘の噂で、人や企業の経済的信用(商品、サービスへの信頼)を低下させる行為。
偽計業務妨害罪(刑法233条後段): 嘘の噂で、人や企業の業務を妨害する行為。
上記の成立要件は①事実と異なる情報②不特定多数に広める③虚偽であると認識していることである。
虚偽であることを知らなかったときは刑法犯にならないだろう。その場合でも、被害を受けた人は損害賠償請求の民事訴訟はできる。


その4 証拠裁判主義
裁判で有罪を宣告するには違法となる規定があること(前述した罪刑法定主義)と、違法行為をした証拠が必要である。
証拠には物的証拠も証言も入るが、証言は物的証拠より弱い。物的証拠とは物や現場・現実をいう。

審査とは証拠の収集である。だが、多くの場合、審査員は自分で調べるのではなく、相手が提出したものを見ているのではないか?
複写伝票なら1枚目と2枚目の記載がズレていないか、たくさんサインがあれば同じ氏名は同じ筆跡か、
ハンコなら触って色が指につかないか? よくあることだが、昨夜遅く作られた記録ならハンコは乾いていない。
そこでお縄を頂戴するのか、勧進帳を読むかは(あずか)り知らぬ。

審査員が、相手の提示するものを見れば良いと思っているようでは、真の証拠を見ていない。実際の証拠を見ずに、騙されたなんて言ってはいけない。自分が選んだ文書や記録を自分の目で見る、それが審査というお仕事だ。

同じことは審査を受ける側にも言える。記録とは日々蓄積していくものだ。審査の前日に作成するものではない。

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その5 不適合とは何か?
審査とは証拠を調べることだ。だが単なる羅列ではない。

文書のチェックをしたとする。
A部門で文書をチェックしたら、バージョンが古いものがありました。
B部門で文書をチェックしたら、文書に書き込みがありました。
C部門で文書をチェックしたら、規定3898と規定3839の綴じる順序がテレコになっていました。
文書管理で不適合が3件あります。


そんな不適合を出している実例がありました。

不適合とは不具合の現象を見るのではない。システムの不具合を調べるのではないか。仮に伝票の記載漏れがあっても、ごく少数ならシステム上やむを得ないと判断することもあるだろう。

上記にあげた例の場合、文章管理が悪いのは分かった。だが是正を求めるものは何かと考えたとき、文書管理の教育が悪いのか、仕組みが悪いのか、管理監督が悪いのか、上記情報だけでは分からない。ならば文書の発行管理とか文書の維持体制が悪いという切り口で不適合にすべきかもしれない。どう考えても不適合が3件ではない。


その6 法令に関する不適合について
これもお便りにあったものだ。

現場審査で危険物取扱所に行ったところ、設備が消防法に違反していると言われた。担当者はすぐに消防署に行き相談した。
すると審査員が指摘したことは間違いで、現状は完全に合法であると説明を受けた。もし審査員が言うように改造する申請を出しても許可しないという。


その旨、クロージングミーティングで説明したところ、審査員は「自分は消防署より消防法に詳しい」と語って審査結果を不適合のまま去って行ったという。

ここでまず確認しておくが、合法か違法かを判断できるのは行政と司法のみである。そして最終決定は最高裁と決まっている(注6)

弁護士であろうと「これは違法です」と語ることは越権行為である。もちろん行政の判断に異議あれば裁判に訴えることができる。
特に消防法とか廃棄物処理法のように歴史のある法律は、現行の法文をいくら読んでも、過去の改定時の特例措置などが重なっており、うかつに判断できるものではない。

このような場合、指摘事項にするにしても「法違反である」と書くのは非常にリスクがある。そもそもISO審査は遵法審査ではないとGuide66に書いてある。
審査員の立場として「何々について合法であることを確認した記録の提示を受けなかった」というような記述にして、法の調べ方に問題があるという指摘にするなど考慮しなければならない。
これは審査員にダメ出ししているのではなく、審査員が恥をかかないためのアドバイスである。


その7 審査は抜取である
ISO審査は抜取である。抜取で審査する人は、抜取検査とはどういうものかご存じだろう。

抜取検査とは、不良品が混入することを容認できる場合でないと採用できない。
なぜなら抜取検査で合格になったロットには、確率的に不良品が混入している。

もちろん抜取検査とは当てずっぽうで設計するものではない。
消費者危険と生産者危険という言葉があるが、合格ロットは買い手が容認する不良率以下であること、不合格ロットは売り手が納得できる不良品率以上であることだ。

ではISO審査で抜取とはどういう意味があるのか、それを納得して審査をしているのだろうか?
抜取審査をするということは、確率的に事故や違法が起きることを許容しているはずだ。

当然だが、ISO認証企業は神ならぬ身、確率的に事故や違法が発生する。
ISO認証した企業に違反があったとして、即審査の見逃しとか、企業がウソをついたというのは理屈に合わない。抜取とはそういうものだ。

一昨年から昨年(このお話しでは2000年頃)にかけて、ISO認証企業でいくつかの不祥事が起きてニュースになった。
認証機関は審査で騙されたと語っていたが、私は一消費者として現状の抜取方法は、いかなる根拠で決定したのかの説明を、認証制度に求めたい

何も事故も違法もゼロでなければならないとは言わない。いかなるレベルで抜取しているのかを社会に説明すべきだ。そのレベルが社会の期待に応えていないなら厳しくするとか全数検査にするとかを考えることになるだろう。
もちろん信頼性を上げたときコスト的に認証ビジネスが成り立つか否かは、認証制度が考えることだ。

そういう理論的根拠があって、異常値であるとか騙した証拠がなければ、抜取で不良品(事故・違反)が混入しただけで、騙されたと主張するのは理屈に合わない暴言である。
取引契約のAQL以下ならば不良品現品交換でおしまいだろう。それを「騙された」との発言が法に反するとまでは言えないが、表現によっては名誉棄損になる恐れがある。

そしてまた証拠不十分で不適合と断定できないなら、推定無罪とするのもルールなのである。それが嫌なら抜取審査を止めるしかない。


その8 審査員は裁判官じゃない
日本では裁判は1回勝負ではなく、3度チャレンジすることができる。これを再審制とか三審制と呼ぶ。
ISO審査で審査員から不適合と言われたら不合格なのだろうか?
そうではない。審査員はそもそも裁判官ではない。審査員は調査員なのである。
認証のルールで、審査員の報告を基に認証機関が認証するか/しないかを決定することになっている。

審査の最後に所見報告書をまとめる。そこには「〇〇工場の審査を行った結果、認証を推薦する」とか類似の記述になっているはずだ。
間違っても「〇〇工場を認証する」なんて書かれることはない。

当然、クロージングミーティングでも「認証します」ということはないだろうし、審査員にその権限はない。きっと「帰りましたら認証の推薦をします」と言うはずだ。

それだけでなく第三者認証制度では、審査員の結論に同意できない場合、異議申し立てができる。そして審査の際に審査員は、異議申し立てできることを企業側に説明しなければならないと決めてある。

驚いたことに、お便りを頂いた会社のかなりの割合で、その説明を聞いたことがないという。
これは説明しなかった審査員は、審査のルールを守っていないということだ。懲戒に値する問題である。恒常的なら資格抹消だろう。
不動産取引で重要事項説明義務(注7)があると同じく、ISO認証で説明義務を怠ればそれなりの罪を負うべきだ。
ルールを守らない人が、他人のルール遵守状況を調べられるのかは大いに疑問である。
執筆者紹介 班目(まだらめ)真之介

196X年 東北地方〇〇県生まれ
198X年 〇〇大学法学部入学
198X年 大学3年時司法試験合格
198X年 〇〇大学卒業
198X年 △△大学大学院修了 博士(法学)
199X年 △△大学 助教授


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うそ800 本日のダメ押し

ここに書いたことはすべて私が体験したことであり、私はその問題解決に頑張った。
頑張っても審査員に是正させられなかったから、ここで管を巻いてるんだけどね。

あのアホ審査員どもは、今は草葉の陰か?
それとも、(したた)かに老後を楽しんでいるのか?
どちらにしても、許せん



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注1 UKAS(ユーカス)とはイギリスの認定機関である。
日本の認定機関は日本適合性認定協会(JAB(ジャブ))である。

注2 ISO14001:1996 2章のタイトルは「引用」であるが、英語原文はnormative referenceだ。字義通り訳せば、単なる「引用」ではなく「引用される規制基準」とでも訳すべきだろう。

注3 「被告」とは民事訴訟で訴えられた法人/自然人のことで、「被告人」は刑事事件で起訴された法人/自然人である。

注4 Guide66の後継規格であるISO17021は2006年制定であるが、そこではしっかりと「不適合の所見は、審査基準の特定の要求事項に対して記録し、不適合の明確な記述を含め、不適合の根拠となった客観的証拠を詳細に明示しなければならない」と記載されるようになった。

注5 この文言は私が2005年頃UKASに問い合わせたとき頂いた返事そのものである。実際には、この前に「返事が遅くなって済まない。受け取った部門が、どの部門に回すか分からなかったようで遅くなった」とあった。気さくなところだと思った。
私でも、この程度の英文なら辞書なしで読めた。

注6 立法、行政、司法共に解釈は行うが役割が違う。

・行政(行政解釈・実務解釈): 法律に基づいて行政事務を遂行する過程で行われる解釈。行政事務の指針となる行政規則や通達などが含まれる。

・司法(司法解釈・有権解釈): 裁判所が具体的な事件を審査する過程で法律を適用し、解釈する。特に最高裁判所は、違憲審査権(憲法第81条)を有する。

・立法(立法解釈):国会が法律を作る際に、その趣旨を解説する。法律が成立すれば、制定の意図とか説明から離れて、文章そのものが法源となる。成文法主義である。

注7 不動産取引の「重要事項説明(重説)」とは、売買や賃貸契約の前に、宅地建物取引士が物件や取引条件の重要ポイントを顧客(買主・借主)へ書面で説明する義務

怠ると、宅建業法違反として、宅建業者への行政処分(業務停止、免許取り消し)や罰則(2年以下の懲役または300万円以下の罰金)、契約相手からの損害賠償請求や契約解除、消費者契約法に基づく契約取り消し などの処分や制裁を受ける。
手錠
そう言えばアメリカで逮捕したとき、警察は被疑者に「黙秘権のあること、発言は証拠に使われること、弁護士に相談する権利があること」などミランダ警告を告知する義務があり、それをしなかった場合、供述は証拠能力を失う。

ISO審査で異議申し立ての説明をしない場合はどうなるのでしょうか?
不動産取引やミランダ警告を参考にすると、不適合とされたものは再審、費用は認証機関負担になるのでしょうか。もちろん認証機関・審査員の両罰規定ですよね。
両罰規定(りょうばつきてい)とは、従業員などが業務に関して違反行為を行った際、実行行為者(個人)と所属する法人(会社)の「両方」を処罰する制度。





わずー様からお便りを頂きました(26.03.13)
毎週楽しみに読んでいます。
今週はいろいろあって木曜日に目を通せなかったので金曜日の朝読ませていただきました。

本当に、本当に小さなことなのですが、
”例えば規格原文「4.4.2training, aware andcompetence」を「4.4.2 訓練、自覚及び能力」と訳している。”のandとcompetenceの間のスペースがこぼれ落ちているようです。ちょっとawareしてしまいました。
どうぞ今後とも体調に気を付けられて楽しく執筆されますよう祈念しております。

わずー様、毎度ありがとうございます。
わー本当だ(棒)
いったいどうしたのでしょう? スペースが抜けたのは私の頭のネジが抜けたのか、いやいや指のせいです、年を取って指が曲がって来たので、打つべきキーを外れてしまったのでしょう。
という言い訳は見苦しいので、頭を坊主にしようかと思ったのですが、既に30年前から坊主でした。
不具合あればいつでもご指摘ください。
ISO審査でありませんので指摘事項は大歓迎です。


外資社員様からお便りを頂きました(26.03.13)
4.1.1.4 The certification/registration body shall confine its requirements, assessment and decision on certification/registration to those matters specifically related to the scope of the certification/registration being considered.
認証の判定は、対象範囲に限定しなければいけない

4.1.1.5 The maintenance and evaluation of legal compliance is the responsibility of the organization. The certification/registration body shall restrict itself to checks and samples required in order to establish confidence that the EMS functions in this regard. The certification/registration body shall verify that the organization has evaluated legal and regulatory compliance and can show that action has been taken in cases of non-compliance with relevant legislation and regulations.
法的要求と順守は組織の責任である。認証機関は組織が関連法規を順守出来ることを確認する為にサンプルや審査範囲に限定して審査で評価する。
認証機関は法規を守っていない場合の是正措置が行われたことの証明を確認する。

つまり順法判断は組織であって、認証機関は 順法の仕組みや是正を確認するだけ。

外資社員様、おっしゃる通りです。
それは法規制ばかりではなく、要求事項についても同じなのです。
どういうことかというと、要求事項を満たすのは審査を受ける側の責任です。そして要求事項を満たしていると説明する義務はないのです。
ところが不思議なことに、審査員の大多数(全部とは言いませんが)は「適合していることを説明してください」と言います。
それは審査員がすることです。そのためにお金を払っているのですから。審査員のすることまで企業がしてしまったら営業妨害になってしまいます。
なんか最近はお金をもらう方の態度が大きくなっているようです。

それと外資社員様は、わざわざGuide66を調べになったそうですが、それは既に過去のものです。このお話は2001年時点だから、その時有効な文書としてGuide66を引用しました。
現在はISO17021-1:2015が最新版で、下記のように直接的な文章です。
9.2.12(b)注記 マネジメントシステムの審査は、法令順守の審査ではない。

ISO審査で法令を引き合いに出すのは非常に危険です。私は内部監査でしたから(能力的でなく立場的に)遵法監査をできましたが、第二者監査とか第二者審査で法律に関わる判断をすると弁護士法に抵触すると思います。





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