タイムスリップ157 未来プロジェクト14

26.03.30

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




2001年11月某日、未来プロジェクト室である。今日は週のミーティングで、佐川を除く全員が集まっている。
佐川はラインの管理者なので、月一度の出席で勘弁してもらっている。野村課長も同じ管理者であるが、余裕があるのか毎週顔を出している。

例によって次年度の予知されたことへの対応案をまとめる時期である。


伊達隼人 「2001年はイベントがてんこ盛りだったね。
2月初めのえひめ丸(第148話)から始まり、芸予地震(第150話)、小学校に不審者が侵入して殺人(第154話)、明石市の歩道橋事故(第154話)、そしてアメリカ同時多発テロ(第154話)、日経平均1万割れ、その結果アフガン戦争も始まったし、

そしてまだ終わりじゃない。これから北朝鮮不審船との銃撃戦が起きるとくれば、もうお腹一杯だ」


石川さやか
石川 広報
伊達マネジャー 伊達隼人 本宮洋子 本宮 総務
野村財務課長 野村財務部企画課長 吉田 吉田 人事

吉田 「予言された事件を、我々が阻止したのもあるけどね」

野村財務部企画課長 「それだけど、発生するとされたものが起きないと、防いだのか、そもそも事件が起きなかったのかは分からないんだよね」

石川さやか 「理屈はそうだけど、私たちが介入しないものはすべて実現しているのだから、防いだと言えるのでは」

伊達隼人 「それじゃ、佐川さんから頂いた予知された事項について、どれを取り上げるか、それへの対応をどうするか検討に入りたい」



2002年に予知されたできごと

1/23 雪印牛肉偽装事件 輸入牛肉を国産表示
3/06 北九州監禁事件7名が殺されていた
3/28 "辻元清美秘書給与事件で辞任
4/01 ゆとり教育スタート
4/18 成田空港でB滑走路運用開始
4/28 株バブル後最安値(7607円)、2008/10/27(7162円)
5/31~6/30 サッカーワールドカップ日韓開催
6/24 東京都歩きたばこ禁止条例
7/12 中国から輸入の未承認薬品による死亡事故(注1)
8/01 ガソリン乗用車排ガス規制強化
8/06 日本ハム牛肉偽装事件 輸入牛肉を国産表示
8/27 SONYβマックス生産終了
9/17 小泉首相北朝鮮訪問(拉致被害者5人が帰国)
   北朝鮮が日本人拉致を公式に認める
9/30 台風21号(死者4名、床上浸水304棟)


本宮洋子 「でもさ、2002年は大きなイベントがないの。当社の事業に関わるものないのよ。
単なる犯罪を防ぐなんて、未来プロジェクトには似合わないんじゃない」

野村財務部企画課長 「私も気になっていることがある。
今まで予知されたことで、当社に関わることについては、そのイベントを有効に活用しようとか、ビジネス上の被害を最小化に努めるという発想だったと思う。

今までいろいろしてきたことから、私はそれで良いのかと疑問を持ってきた。
前提として、今まで予知されたことは間違いなく起きるという経験則がある。ならばその情報というか知識というか、それを当社が独占して良いのかが疑問だ。
青臭いと言われるかもしれないが、犯罪とか事故とか、多数の人命に関わることは大々的に公表すべきではないのだろうか」

伊達隼人 「野村課長のご意見は分かります。既に予知された中で最大と思われる東日本大震災とそれに伴う原発の問題は、しっかり経団連経由で政府や東電に伝えています。
また搦め手から広めた方が良いと考えたものは地震限定ですが今村先生、予言者の方が良いと思われるものはドクター・マジックを通して情報発信しているわけです。

ただ細かいと言っては叱られるかもしれませんが、広く社会に影響を与えることのない誘拐事件とか放火などには手を打っていません」

本宮洋子 「2002年度には大事件、大災害がありません。そうすると我々のすることはない。だからそういうことも取り上げる余裕があるわ」

野村財務部企画課長 「私は忙しい・忙しくないという観点でなく、社会に役立つことはするべきだと思うのですよ」

伊達隼人 「未来プロジェクトは職制上の組織ではないので、会社規則で職務分掌を定めていません。ではありますが、基本的にCSR部(注2)のようにフィランソロピー(注3)の推進を目的としてはいません。
討論 プロジェクト内の定めとしては『当社事業推進に関わること』となっています。プロジェクト内の文書ですから、その改定は会社規則より簡単ですけど」

野村財務部企画課長 「だからさ、そこを見直すべきじゃないかなと思うのです。
会社に直接利益にならなくても、社会の利益になることはするべきですよ」

伊達隼人 「今、目の前の仕事は、2002年度に起きるであろう事故・事件に、どう対応していくかの検討と提言だ。
職務分掌の見直しを提案するなら、それはこの会議ですることではない。予知されたことを社会に知らしめるかどうかは別途考えるとして、今回はこの表のことについて審議したい」

野村財務部企画課長 「仕事としてはそうだろうけど、例えば北九州監禁事件なんて犯罪は、今から関係官庁に知らせれば防止できるんじゃない?」


伊達はこれ以上議論しても埒が明かないと判断して、ミーティングを終了する。
皆が職場に戻ってから伊達は少し考えて実質的な上長である下山に相談することにした。
あの人はミーティングがもめるときには来ないし、来なくていいときに来ると内心愚痴る。




2日後、人事部の小会議室である。伊達が先日の定例会の経緯を説明するのを聞いてから、下山次長が話している。


下山 「まず未来プロジェクトは慈善事業ではない。佐川の持っている情報は社外と共有する義務はない。そしてまた情報公開したところで、社外の人に信用されるとは思えない。
原発だけは日本の将来に大きな影響があるから別格だ。東電を動かすためには経団連から話してもらおうという発想から情報提供をしている。

情報公開と言えば聞こえは良いが、例えば東アジア通貨危機の情報を、経団連が共有していたらどうなっていたと思う?」

伊達隼人 「多くの企業は自社の損害を最小化し利益を出すために、さまざまな動きをしたでしょうね。
その結果は一層東アジア通貨危機を煽るような、自動制御用語ならオーバーシュートとかハンチングというような変動を起こしたと思います。どう考えてもアジア危機を起こさない方向にはならなかったでしょう。
その結果、アジア危機が起きる以上の混乱を招いたかもしれません」


注:オーバ-シュートとは調整しようとして行き過ぎること、ハンチングとは目標を越えるオーバーシュートが止まらず、目標値の上下に振動して止まらないこと。


下山 「俺も、皆が知らずにいたときよりも悪化したと思う。当社の影響力が全体に占める割合が小さかったからこそ、我々は逃げ切れたのだと思うね。

我々は佐川から得た情報を活用したが、それは合法であることはもちろん、後ろめたいことをしたわけではない。野村たちは未来を知っていることに、負い目を感じているのではないのか」

伊達隼人 「原発は日本の国に多大な影響を及ぼすから特別ですか?」

下山 「まず地震には手を打てないが、地震や津波による損害、特に原発のメルトダウンは国家、国民にも大きな悪影響を与えるし、当社にとってもマイナスだ。そして何よりも影響が大きすぎる、日本の将来に禍根を残すレベルだ。

被害を低減するよう他を動かすことは他社にとってもメリットがあると考えられないか。自社のためにすることが他社のためになる」

伊達隼人 「全て私利私益が評価基準ですか?」

下山 打ち合わせ 「子供みたいなことを言っちゃいかんよ。資本であろうと情報であろうと、当社にとって最大の効用を得るように、それを使うのは経済活動として当たり前だ。

もちろん他人・他社を救えるなら、そうすることはやぶさかではない。だが誘拐事件を防止するとか、当社に無関係な殺人事件を止めることが、当社の業務ではないだろう」

伊達隼人 「来年の事件・事故・災害を見ますと、経済に関わる大きな出来事はありません。それで余力で事件や事故を防止しようという案が出たのだと思います」

下山 「下手なことをして、予言の秘密がばれると困ったことになるぞ。
例えば中国のやせ薬は危ないとかキャンペーンでもするのか?

そんなことをして中国の方がヤバいと分かって販売を止めれば、そもそも問題は発生しない。となると今までのように内輪のことでないから新たな問題が起きる。予言したことを信じてもらえない。
何のためにキャンペーンをしたかの問題となる。バカを見るだけだ」

伊達隼人 「黙っていて後で被害が出るのが最適解なのですか?」

下山 「最善の策は知らん。しかし報いられないことをしてリスクばかりだ。
どうして知っていたのかと問われたらどうする? 変なことを考えて余計なことをすると全部をダメにしちゃう」




下山は伊達を納得させたと思っていたが、すぐにまた問題がやって来た。
その翌日、野村から話があると言われてOKすると、野村と本宮がやってきて、未来予知を世の中のために使おうという企画書を見せられた。


下山 「まず言っておくが、私は君たちの主張を否定するつもりはない。実は昨日、君たちが打ち合わせした後で、伊達から君たちが持ってきた提案と同じことを聞いた。

それについては、まず未来プロジェクトの仕事はそういうものではないということと、予言のことを外に漏らすと我々のやっていることがバレてしまうこと、その観点から対応できないと回答した。

打ち合わせ
打ち合わせ
打ち合わせ

さて君たちの企画書がメリットがあり、デメリットをどうするのか、リスクをどう考えているのか、私を説得してくれれば中山取締役に話を持っていくことを約束する。納得できないなら却下だ」

野村財務部企画課長 「分かりました。
まず・・・・・・」




下山は考える。野村の説明は伊達から聞いたことと同じで、特に感銘は受けなかった。だが、現在のやり方はもう5年になる。下山自身、これで良いのかという思いもある。
それと佐川の記憶は2020年までで、既に3分の1の時間は経過した。残りあと19年しかない。それより先は基本的に見えないのだ。

そして今後10年間(注4)で最重要なのは東日本大震災、リーマンショックだろうか。民主党政権による日本の混乱である。

腕組みして考える そういうことを政府あるいは一般国民に知らしめることは可能だろうか?
知らせたとき、それはどのような影響を及ぼすだろう?
リーマンショックを知ることで、それより前に起業する人は大幅に減るだろう。
新型コロナ(COVID19)の流行を知れば、人間の行動は大きく変わるだろう。行動でなく価値観も変わるかもしれない。
知らせた方が良いのか、知らせないほうが良いのか?

極論すれば一般に公表するのではなく政権トップとか内閣への情報提供はどうか? 内閣は未来の予知情報を受け取るだろうか? 信用してくれるか?
担当する機関・部署となると、内閣危機管理監になるのだろうか?




とうとう下山が中山取締役に説明する段となる。
下山がアポイントを取ろうとすると、中山取締役はすぐにOKしたが、そのときは佐川と伊達も一緒に連れて来いという。

下山は野村の提言とか現状の問題とか要約を説明する。

中山経営企画室長 「話は分かった・・・というか、誰でも考え付くことだな。
ワシも現在の未来プロジェクトは行き詰まり状態だと感じている」

伊達隼人 「行き詰まりとおっしゃいますと?」

中山経営企画室長 「毎年、次年度に起きるイベントをまとめ、その対応策を提言するだけで同じことの繰り返しだ。年度ごとを積み重ねるのでなく、長期的観点で事業の方向を提案することができないと、目先の危機を乗り越えるだけだ」

伊達隼人 「とは言いましても、長期的安定は翌年の、いや今の問題を先読みして対応することの積み重ねでしょう」

中山経営企画室長 「そういっちゃそうだけど、そういう意味と違って方向を指し示すことが必要かと思う。
こういう事件が起きます、こう対処しましょうではなく、長期的にこういう部署を設けるべきだとか、こういう管理システムを構築しようとかいう発想はないのか」

伊達隼人 「今までの実績として、総会屋問題や談合を社会問題になる前に先手を打って糾弾を逃れた、焼却炉廃止とか東アジア通貨危機、消費税増税による影響、ブラックマンデー、株価推移・ドル・金相場の推移から投資やビジネスに大きな利益をもたらした、投資先を中国から東南アジアに移したとか、環境不祥事対策など、今まで未来プロジェクトが出した成果の金額的価値は1,000億を超えると思います」

札束

中山経営企画室長 「確かに効果はあるし、大きい。だが時と共にサチッてきたと思うがね」


注:「サチる」とはサチレーション(Saturation)で「飽和する」とか「頭打ちになる」という意味。
活動の効果が限界に来たとか、電子回路などで増幅が限界に達して歪むとかに使う。


伊達隼人 「いやこれからの10年間でも、民主党政権とかリーマンショックとか家電や車メーカーのの盛衰など情報は、ものすごい価値があります」

中山経営企画室長 「それに使う方の問題もある。経営層が予言を信じ頼っている恐れもある。
注意せねばならんのは、佐川予言は成就するが、反面、すべてを予言しているわけではない。予言されたことに目がいって、それ以外のリスクに注意を払わなくなっているのではないかという懸念だ」

佐川真一 「それは当然ですね。それについては、私も何年も前から注意申し上げていたはずです」

中山経営企画室長 「ワシの考えは会社がすることは、やはり会社の事業に貢献することでなければならない。スポーツの冠大会もそうだし、コンサートや寄付といったフィランソロピーもしかり。
刑事事件を阻止したり解決しても、それが会社のメリットになるのか?」

伊達隼人 「それは未来プロジェクトは解消ということですか?」

中山経営企画室長 「お前の論理はめちゃくちゃだ。会社に貢献しないことは未来プロジェクトの仕事ではないと言ったのだ。未来プロジェクトは会社に貢献することをしてくれということだ」

伊達隼人 「ということは誘拐事件とか殺人事件というものの、対応はしちゃいかんということですか?」

中山経営企画室長 「そう理解してもらって構わない、いや、そう理解してほしい」

伊達隼人 「確かに今までもそういったものには対応していませんね。対応したのは行田小の事件、明石市の歩道橋くらいですか」

中山経営企画室長 「あれも情報をドクター・マジックに渡してテレビで語ってくれと言ったが、よかったのかどうか悩む。
やはり営利企業のすることでなく、官公庁というか行政の仕事であると思う」

伊達隼人 「どういう意味でしょう?」

中山経営企画室長 「経団連経由で東日本大震災の情報は首相に流している。また今村先生やドクター・マジックのこともある。あれも最初は会社のルートで行ったが、本来はまずい方法だった。
もちろん形としては業務委託になるのか、仕事を頼んでお金は払っている。とはいえ定款にある仕事ではない。
監査では問題だろうな。

ということで佐川予言を、研究者や芸能人に語らせるのではなく、政府、つまり首相あるいは内閣官房に情報を伝えるのが最善ではなかろうか?」

下山 「そういうことが可能ですか?信用されるのですか?」

中山経営企画室長 「会社としてはできないだろう。首相につてのある人を頼って佐川君を紹介することになるだろう。信用されるかどうかはワカラン」

佐川真一 「まず、預言者なんて相手にされませんよ」



うそ800 本日のなりゆき

どうなるのでしょうか?
3月は人事異動の時期ですから、佐川でもどこかに飛ばしてごまかしましょうか・・・おっと物語は12月でした。これは困った。



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注1 2002年、インターネットを通じて購入した中国製ダイエット医薬品(未承認)の使用により、死者1名、肝機能障害などが複数名発生する事態が起きた。

厚労省 報道資料(2002.07.12)
個人輸入した未承認医薬品等の服用後に発生した健康被害事例について

注2 CSRとはコーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(企業の社会的責任)の略で、自社の利益追求だけでなく、社会の一員として従業員、消費者、投資家、地域社会、環境などのステークホルダー(利害関係者)に対して責任ある行動をとり、持続可能な社会の発展に貢献すること。

20世紀には企業の環境部の多くは、2010年以降かなりの割合でCSR部と看板をかけ替えた。仕事を変えたというよりも流行に乗ったのだろうけど。

注3 フィランソロピー(Philanthropy)とは、「人間愛」や「社会貢献」を意味する。
企業は税金を納めるだけでなく社会に奉仕しなければならないという発想は、明治時代からあるが、この言葉は1990年頃から使われるようになった。
それは日本企業がアメリカ進出して、工場を経営していくにはアメリカ流の社会貢献をしないと企業市民として認められないということから進出した工場の日本人が社会貢献活動をし、その思想が日本に持ち込まれた。

注4 2000年代に何があった






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