タイムスリップ158 未来プロジェクト15

26.04.02

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




先日の打ち合わせから2週間ほど過ぎた12月上旬のこと、佐川が工場からの排水処理施設更新の相談のeメールを読んでいると、吉井部長が呼ぶ。
呼ばれた佐川は、すぐに部長席に飛んでいく。サラリーマンの悲しさなのか軍隊流なのか?


吉井 「今日の午後、中央合同庁舎8号館に行ってくれ。おっと中山取締役と一緒だ」

佐川真一 「東京は不案内でして、中央合同庁舎とは何者でどこにあるのですか?」

吉井 「俺も知らん。所在は永田町、具体的には都道412号線のそばだ。
ググったら内閣官房や内閣府というのが入居しているようだ」

佐川真一 「政府機関というのは分かりました。中山取締役のお供なら、詳細は向うの秘書に確認しますね」

吉井 「そうしろ。ああいうところに呼ばれるとは、お叱りを受けるかお褒めを頂くか、どっちかだ」

謝罪会見

佐川真一 「製品事故とか起こすとか談合がバレるとテレビに映るあれですね・・・ちょっと待ってください。
毀誉褒貶、どちらも身に覚えがありません」

吉井 「たぶんというか間違いないと思うが、予言のことだろう」

佐川真一 「予言ですか、やはり刑法か何かに引っかかりましたか?
でもそれなら警察でしょうね」

吉井 「そこは知らん。予言に基づく実際の行動は会社の責任だ。予言者の佐川は法的な責任を負わないだろう。むしろ今村先生とかドクター・マジックが危ないかもしれんな。
ウジウジ考えてもしょうがない。行ってこい」

佐川真一 「屠殺場にひかれる思いですよ。吉井さんが放免とは運が良い」

吉井 「俺は未来プロジェクトとは無関係だ。午前中に中山取締役と会って話を合せておけ」




すぐに中山取締役の部屋に行く。
会社によって様々だろうが、吉宗機械の場合、取締役室のある区域に入るにはガードマンが立っていて、社員証を見せて行先を申告する。ガードマンが先方の確認を取ってOKなら区域に入れる。
以前、社外の人がロビー階まで案内された後、道に迷って社長室に来た事件があってからセキュリティが厳しくなったという。

取締役室がならんでいる。通路に面した壁はガラスで外から丸見えだ。取締役の机も見えるし秘書の席も見える。中にある応接室や会議室は、パーテーションで仕切られていて通路からは見えない。


中山経営企画室長 「おお、来たか? まあ、座れ」

コーヒー

中山取締役と向かい合って座る。中山取締役とは度々あって話をしているが、こんなところに来たのは初めてだ。
美人でもなく若くもない秘書がコーヒーを出してくれる。コーヒーは本物の香りだ。 まずは遠慮なくいただく。


中山経営企画室長 「お前の予言で重要なものは、2年ほど前から経団連経由で首相に伝えている」

佐川真一 「私の名前も出しているのですか?」

中山経営企画室長 「それはない。ええと東アジア通貨危機のときは通知していないから、1999年の全日空ハイジャック事件(注1)とか東海村臨界事故(注2)あたりからだな。
最初の頃は相手にされなかったようだが、今年(2001年)初めの芸予地震やえひめ丸、そして行田小事件と明石の群衆雪崩ときてから本気になったようだ」

佐川真一 「なるほど、予言と政府の関係は分かりました。でも私の名前も吉宗機械の名前も出ていないならどうしてでしょう?」

中山経営企画室長 「ワシにも分からん。まあ国家権力ってのは何にでもアクセスできるようだから、バレてるのかもしれん。
まあ取って食われることもあるまい」

佐川真一 「ここからですと丸の内線ですか? 何分前に出たらよいですかね?」

中山経営企画室長 「心配するな、車で迎えに来てくれるそうだ」

佐川真一 「へえー、重要人物みたいですね。
面会相手はどなたなのですか?」

中山経営企画室長 「ワシも分からん。官房長官ってことはないだろう。
昼飯食ったら自席で待機していろ。迎えが来たら連絡する」

佐川真一 「持っていくものとかありますか?」

中山経営企画室長 「手ぶらでは心もとないか。未来プロジェクトの各年の予測と対策提言を書いたものをもっていこう。用意してくれ」

佐川真一 「承知しました。では」


アタッシュケースに入れていこうかとも思ったが、武骨なのはセキュリティ上問題だろうと大型封筒に入れていくことした。




プリウス 指定された時間にお迎えの車がきた。センチュリーかレクサスかと思っていたら、プリウスだった。
以前は黒のセンチュリーとかクラウンだったそうだが、今は上はアルファードとか下はプリウスとかいろいろあるそうだ。


入門証 受付で一時通行証の発行を受けないとならないと掲示があったが、迎えに来た人が既に手配していたようで、渡された入門票を首にかけたら何も言わずに通してくれた。
さすが民間会社よりセキュリティが厳しい。部屋も通路から見えるようなことはない。
10人くらい入る会議室に案内された。偉い人が来るまで二人で待たされた。


待つほどのことなく、60前後の方と迎えに来てくれた人が入って来る。
名刺交換する。60前後の人は危機管理監という山田さんで、迎えに来てくれた方はその手足で伊藤さんというそうだ。
会社に帰ってから調べたら、危機管理監とは次官の次に偉い人らしい。驚くことに山田さんは元警視総監だった。
千葉県民の佐川は県知事の森田健作を知っていたが、警視庁の警視総監の名など知らなかった。


山田危機管理監
山田危機管理監
山田危機管理監
「危機管理監とは3年ほど前に作られた職です。内閣官房で防衛を除いた危機管理を統括する職務です。
日本は治安も良く大きな災害もなかったのですが、最近は地下鉄サリン事件とかテロ、ハイジャックだけでなく阪神淡路大震災のような大規模災害も起きていまして、内閣として必要な初動措置を検討するとか、関係省庁と連携して調整を行うなどが仕事です」

中山経営企画室長 「それは重責ですな。そういうお方が、私たちのような一般会社員にどのような御用でしょう?」

山田危機管理監 「ざっくばらんな話、以前より経団連から重大事件などの事前情報を頂いているということを聞きました。どのような方法で未来を予測するのか分かりませんが、頂いた情報は完全に成就すると聞いています。

情報の流れを探ったところ情報源は吉宗機械であること、御社には未来プロジェクトという部署がありそこで予測しているまでつかめました。
今年のえひめ丸、芸予地震、行田小事件、明石歩道橋、同時多発テロなど皆ズバリでした」

中山経営企画室長 「話をさえぎって済みませんが、行田小事件と明石歩道橋は事件・事故にならなかったと思います」

山田危機管理監 「マスコミ的には大事件ではありませんが、警察は重大事件、重大事故と認識しています。それぞれ発生を防止するために種々手を打ちました。そしてそういうことをしていなければ犠牲者が出ただろうと考えています」

中山経営企画室長 「それは良かった。内部では予測が間違ったのかと考えておりました」

山田危機管理監 「まあ、どういう方法で予測しているかは存じませんが、非常に有効な情報であると考えています。
おっと、いつの間にか話が本題に入ってしまったようです。

私どものお願いは、正式にそして恒久的に、御社の未来プロジェクトの成果を提供していただきたいといこと。そして秘密でない範囲で未来予測の方法を教えていただきたいということです」

中山経営企画室長 「まず確認させてください。私どもが今までしてきたことを、風説の流布とかで訴えるということはありませんか?」

山田危機管理監 「アハハハ、そこは御社だって、弁護士などと話し合って確認されているでしょう。
社会不安を招いたとか、それを目的としてデマを広げれば問題ですが、御社はそれを目的にしていない。そして会社を隠してやっているようですね。テレビに出てくる今村助教授とかドクター・マジックなどは関係ないのですか?」

中山経営企画室長 「ともかく刑事訴追はないと保証されたと理解します。

もうひとつ確認ですが、我々は社会貢献で行っているわけではありません。弊社の利益、リスク管理を目的としています。

ですから提供した情報を一般企業に渡す場合・・・刑事事件やテロなどは問題ないのですが、為替の変動とか国際情勢などビジネスに影響を与えることを、一般公開されるのは困るのです」

山田危機管理監 「具体的な例としてどんなことがありますか?」

中山経営企画室長 「大分前ですが東アジア通貨危機がありました。我々はあのとき1年前から対応を検討し、投資、発注・受注、工場建設などに反映しました。それによる損失回避は数百億と試算しています」

山田危機管理監 「数百億ですか・・・他社がその情報を知ったなら、どうなったのでしょう?」

中山経営企画室長 「予測がつかないとしか言いようがありません。というのは日本以外に情報を漏らさないと仮定しても、各社の対応はさまざまでしょう。それによって東アジア危機を回避できたかもしれず、さらに拡大したかも知れずです。

当社だけ対策をしたことで、東アジア通貨危機への道のりで外部からのノイズを最小にしたから我々の対策が有効だった。
ほかの会社がそれぞれ自由に対策したら、その雑音によって乱され我々の対策は無に帰したでしょう。
更に国外にも情報が洩れたら・・・これはもう予想がつきません」

山田危機管理監 「なるほど、為替相場とか株式市場の場合も同じことですな」

伊藤事務官
伊藤事務官
伊藤事務官
「ドル円相場なんて自分だけ知っていたら、もう丸儲けでしょうね」

中山経営企画室長 「正直言ってそれが目的です。弊社の財務部では情報を活用しています」

山田危機管理監 「そういうことは倫理上どうなんでしょう?」

中山経営企画室長 「ご存じでしょうけど現行法令では規制はありません。そもそもどこの会社でもそういうことはコンピューターを使って予測しているわけです。

刑法や商法では経済とか社会の予測とそれによる経営活動を規制していません。倫理と言うなら根拠になるのは民法の信義則くらいしかありません。そこでは経済活動の予測については言及していません。

弊社の予測作業の目的は、長期的なビジネス環境の変化、大事件、大災害などのリスク管理を目的としています。故意に騙すことは範疇外です」

山田危機管理監 「為替レートの情報は、リスク管理というより金儲けですよね」

伊藤事務官 「管理監、それは企業の目的そのものでしょう。金儲けそのものに企業倫理を持ち出すのは筋違いではないですか。正統な手段で大いに儲けてもらうのが筋です。
情報を盗むのではありません。いかなる方法でも未来を予測することが法に触れない現状では・・・」

中山経営企画室長 「ともかくそういうことをしている中で、大事件や事故について扱いを悩んで、外部に協力をお願いしたということです」

山田危機管理監 「うーん、釈然としないが罪刑法定主義ならそうなるか。
で中山さんがおっしゃった外部に知らせないという事項だが、これも線引きが難しいのではないですか?」

伊藤事務官 「難しいですね。為替レートの変化は、国家にとっても企業にとっても欲しくてたまらない情報です。当然他には知られたくない。そういうのをどうするか?」

山田危機管理監 「話は戻りますが、地震の予知で有名な今村先生と、手品から予言者に転職したドクター・マジックは皆さんと共同しているのですね?」

中山経営企画室長 「正直に申し上げます。双方とも私どもが流した情報を、お二人にそれなりに加工して広めてもらっています。

元々は地震の被害を少なくしたいと私たちが考えた結果、最初は地震学の権威である大森先生に話を持って行ったのですが、今村先生を紹介されました。
今村先生には1999年から地震の予知を発表してもらっています。

しかし今村先生が犯罪とか災害を予知するのはおかしいですから、それをドクター・マジックにお願いしました」

伊藤事務官 「そうだったのか。二人のソース(情報源)は同じかと思っていましたが、やはり」

中山経営企画室長 「20世紀末にノストラダムスの大予言というのがありました。あの予言で、鬱になったり自殺を図ったりした人がいましたね。
しかしあれだけ人騒がせを起こしても刑事事件にならなかった。
私どもは少なくても嘘とか妄想の情報を発信していません。また社会をかき乱すことを目的としていません。

芸予地震の当初の予知では死者2名でしたが、我々の情報発信によって死者をゼロにしたとおもいます。
先ほど出ましたが、行田小事件や明石歩道橋は事件を起きなかった。それが山田さんの努力なのか、元々そういう未来がなかったのかは定かではありませんが」

伊藤事務官 「では、えひめ丸はどうして止めなかったのですか?」

中山経営企画室長 「どうしてなのかといわれても・・・どうすれば良かったのですか?
今なら言えますが、事故が起きる前なら誰も信じないでしょう。もし情報を皆さんに伝えたら、日本政府はアメリカ政府に潜水艦の急浮上を止めろと言えたのですか? 理由を問われたら説明できますか?

佐川君、過去に知っていても手を出さなかった事件事故はあったよね?」

佐川真一 「たくさんあります。ナホトカ号の重油漏洩事故、ルクソールのテロ事件、ペルー大使館テロ、上げればきりがありません」

山田危機管理監 「なんだって~、そういうことをみんな知っていたのか。
そういう情報があればものすごく助かったのに」

佐川真一 「山田さん、もしその事件の前にそういう情報を伝えたらどうしましたか?
私の想像ですが笑い飛ばしてお終いじゃないでしょうか」

山田危機管理監 「うーん、」

WTC同時多発テロ

佐川真一 「ただ我田引水と言われるかもしれませんが、ルクソールやアメリカ同時多発テロの前には、当該地域への出張を禁止、海外旅行をする人へ止めるよう勧告をしました。
そしてアメリカ駐在員にはアメリカ国内の移動を禁止しました。特にニューヨークへ足を踏み入れないこと」

山田危機管理監 「うーん、何とも言えんなあ~」

伊藤事務官 「じゃあ、お宅の内部でとても役に立ったという事例はどんなものですか?」

佐川真一 「ここでの話は刑事訴追しないということだそうですから、本当のことを話します。中山取締役、よろしいですね?

テレビ朝日がニュースステーションで、所沢市近隣がダイオキシンに汚染されているという報道を覚えていますか?
あれは1999年の春だから3年前になります。私どもはそれを1996年に察知していました」

伊藤事務官 「3年も前に・・・」

佐川真一 「当時は工場ばかりでなく、どのオフィスビルにも学校にも市町村にも、ゴミ焼却炉がありました。
それは単なる焼却炉で、そこにゴミを入れて燃やしていたのです。それで1999年に問題になると知り、弊社と関連会社にある、そういった簡易な焼却炉をすべて廃棄しました。もちろん一朝一夕ではできません。3年かけて行いました」

山田危機管理監 「それにどんな意味があるのですか?」

佐川真一
焼却炉
家庭用焼却炉も
使えなくなった
「1999年にダイオキシン特措法ができまして、ダイオキシンを出さない燃焼炉でなければ使用禁止になりました。それだけでなく今まで使っていた焼却炉を廃棄するときは、ダイオキシンが付着しているかを調べて、ダイオキシンの汚染があればそれを無害化しなければならなくなったのです。
その費用は、1基1億円と言われています。

テレビ朝日が報道するときには弊社では全部処理済でした。それによる費用削減は50億と試算されます」

伊藤事務官 「法的な規制はなかったにしろ、それは倫理的にどうなのか?」

佐川真一 「それは異なことを・・・
家電メーカーのP社は、ニュースステーションを観てダイオキシン規制がされると推察し、法律が制定される前に焼却炉をすべて廃棄しました。
法律ができると、焼却炉の規制が強化されお金がかかるのを見込んで、抜け駆けしたのです。
そのときマスコミや社会はどういったか覚えていますか?」

伊藤事務官 「存じません。どういう評価だったのですか?」

佐川真一 「皆、べたぼめでしたよ。法規制に先んじて焼却炉を廃止したとはすばらしいってね、
その後、焼却炉を廃止する前にダイオキシンの測定とかダイオキシンの処理をすると決まっても、P社を批判する人はいませんでした。

弊社はそれよりも遥かに先んじて処理した、つまり何も手を打たなかったときよりも、ダイオキシンを3年分出さなかったわけです。それが倫理上悪いのですか?」

伊藤事務官 「P社が法制定前に処理してしまうこととか、それがほめられることも知っていたのですか?」

佐川真一 「もちろん知っていました。だからP社の後でなく、P社より先んじて処理したわけです。そうすれば弊社が批判されるいわれはありません。P社の真似でもありませんしね。

もう少し話させてください。
ダイオキシン特措法はまだ存在しています。しかしダイオキシンの毒性は時が経つにつれて当初言われたほど猛毒でないことが知られてきました(注3)むしろ弱い毒と言っても良いでしょう。
ですから私個人としては、弊社がしたことが罪だという意識はありません」

伊藤事務官 「そのことも焼却炉を廃止する前に知っていたのですか?」

佐川真一 「もちろんです。ですから天地神明に誓って、害のあるものを野放しにして倫理上悪いことをしたとは思いません」

伊藤事務官 「未来を知っているとはすごいことなんだな」

山田危機管理監 「今後20年くらいの間に戦争は起きますか?」

佐川真一 戦争 「世界全体を見れば常に戦争があります。
アメリカは同時多発テロの後に、復讐のためにアフガニスタン侵攻を始めました。
あれも立派な戦争です。あの戦争は驚くなかれ、今後20年間も続くのです。

ただ幸いに、日本が関わる戦争はありません」

山田危機管理監 「それは安心した」

伊藤事務官 「ところでダイオキシンのように、見方によって倫理上問題と思えることも多々あったのでしょうな?」

佐川真一 「東アジア通貨危機だってその範疇でしょう。東南アジア諸国で外貨が底をついて売り掛けの回収もできない、為替レートが極端に変化するということを、自分だけ知って事前に対策したことを倫理上問題と言えますか?

すべての銀行、商社、企業は様々な方法で情報を得て、あるいは推定してビジネスをしています。私たちはそれより精度が高い情報を得る方法を開発して行動したにすぎません。
仮に私たちが得る情報の精度が世間並であったなら、ここで話し合うことはなかったはずです」

山田危機管理監 「確かに。伊藤君、良いも悪いもないよ。スポーツで自分より才能のある選手をずるいというようなものだ」

伊藤事務官 「分かりました。しかしその情報をどこまで公開できるのか、共有できるのかははっきりさせる必要があります」

佐川真一 「それから一つ重大なことを申し上げておきます。
私どもの検討から分かった未来は間違いなく起きます。でも私たちが気付かないことは、多々あることを忘れてはいけません」

山田危機管理監 「皆さんが予測したことは必ず起きるが、それ以外にもイベントは起きることですね」

伊藤事務官 「地震がいつ起きると言った地震は必ず起きるが、皆さんが気付かない地震の可能性はあるということか・・・
それって役に立たないってことじゃないか。言い換えると御社が秘密にしたいことは、内緒にできるということだ」

佐川真一 「疑えばきりはありません。私どもにしても政府が機密をどのように使うか確かめようがありません」

山田危機管理監 「まあまあ、知っていることだけでも対応できれば、意味はありますよ。
危機管理監としては間違いなく起きることだけでも知っておきたい。
ところで今年はまだひと月あるけど、重大な問題が起きるとかありますか?」


中山取締役と佐川は顔を見合わせた。


中山経営企画室長 「あります。12月18日、アメリカ軍から東シナ海で国籍不明の小船が日本に向かっているという情報を受けます。
そして12月22日、海上保安庁がEEZ内(注4)で停船を命じると逃走したために、威嚇射撃をしますが向こうはバズーカ砲のようなもので反撃して銃撃戦となります」

佐川真一 「この予言はドクター・マジックが1年前にワイドショーで話しています(第143話)」

山田危機管理監 「えっ、本当! その結末は?」

中山経営企画室長 「ドクター・マジックは結末は話していませんでしたね。
もちろん海上保安庁が不審船・・・その後の調査で北朝鮮の船と判明します・・・を撃沈します。銃撃戦で海上保安官数名が負傷します。北朝鮮側は乗員10数名全員が死亡します」

山田危機管理監 「とんでもない事態だな」

伊藤事務官 「その案件で御社が対応したことはありますか?」

中山経営企画室長 「あります。巡視船の機関砲の機構部は弊社が製造しています。そのため、いざとなったとき正常に動作するかを、無償点検という名目で海上保安庁に申し入れ、今年夏から第十管区(鹿児島)、第十一管区(那覇)の巡視船すべての機関砲の点検を行いました」

山田危機管理監 「さすがだねえ~、そこまで製品に責任を持つとは」

中山経営企画室長 「万が一のとき役に立たなければ末代までの恥です」

伊藤事務官 「今から我々が手を打てることはありますかね」

中山経営企画室長 「何もしなければ予測した通りになるでしょう。
更にベターを望むなら生きたまま逮捕することでしょうけど、北朝鮮の船の最後は逃げ切れないと自爆したようです。
また、浮いている生存者を助けようとすると、救助にいった人に抱き着いて手榴弾を爆発させるのではないかと言われました」

伊藤事務官 「手はないか・・・」

山田危機管理監 「今日はとても濃密な話ができて良かった。情報提供についてはまた話をしたいと思います。来週でもまたご案内差し上げますのでお付き合い願います」

中山経営企画室長 「承知いたしました」




帰りも永田町から大手町の吉宗機械の本社まで送ってもらう。
受付から中に入ると中山取締役は佐川にちょっと来いという。
佐川はそのまま中山取締役の部屋に入る。


中山経営企画室長 「さて、記憶が薄れる前に話を確認しておくか。
その前におまえ、レコーダーか何か録音していたか?」

佐川真一 「特段ダメと言われませんでしたからオリンパスのICレコーダーを回していました」


佐川が胸ポケットから取り出したICレコーダーを、中山取締役はつかみ取り秘書に渡す。


中山経営企画室長 「グッドジョブ
ICレコーダー お~い、岡本さん、悪いけど文字起こししてください。
さてと、思っていた通りのことだったな」

佐川真一 「予想通りでしたか、私は予想外で疲れ果てましたよ」

中山経営企画室長 「ペンディングは、社外秘の情報を渡せるのかどうか、情報代をいくらにするか、お前の存在を説明するか否か」

佐川真一 「渡した情報が成就しなかった場合の免責は、契約に入れないと不味いですよ。
情報をどこまで渡すのかは会社が決めることですが、個人的には今まで以上は渡すべきでないと思います」

中山経営企画室長 「どうしてだ?」

佐川真一 「政治家は信用できません。今日お会いした山田さん、伊藤さんは官僚です。国会議員に指示されたら秘密にはできないでしょう。
情報は全部筒抜けです。どこに渡るかは知りませんが、議員の所属政党によっては中国とか北朝鮮とかロシアとかもありえます。
例えば東日本大震災の詳細が漏れたら、流言飛語攻撃とかされるでしょう」

中山経営企画室長 「確かにその危険はある。民間企業の方が守秘義務は守られるか。
お前の意見を参考にする。
それから、お前の存在についてはどうか?」

佐川真一 「秘密一択です。下手すると私を山田さんの部下に出向要請が来ますよ。そうなれば今後、私の情報は会社で使えないことになるでしょう。それは会社にとっても、私にとってもありがたくないと思います。
私も高級官僚の下働きをしたくありません」



うそ800 本日の無知

えー、私は政治家と知り合いもなく高級官僚とも縁がありません。
ただ民間企業から経産省に出向していた方からお話を聞いたことがあります。
官僚のみなさんは高度な知性と高い能力を持ってお仕事されているそうですが、企業とはまったく価値観が違い、細かいことは言えませんが民間企業から出向した人には理解できない世界だったそうです。



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注1 1999年全日空ハイジャック事件

注2 東海村JCO臨界事故

注3 参考文献
・ダイオキシン、渡辺 正他、日本評論社、2003
ヴィクトル・ユシチェンコ
・国立環境研究所ウェブサイト
ダイオキシン類(関係省庁共通パンフレット)(2001)

注4 EEZ(Exclusive Economic Zone・排他的経済水域)とは、自国の領海から2百海里までの範囲を言い、沿岸国が水産資源や鉱物資源の開発や管理を独占できる海域。
領海と違い外国船の航行や認められる。




外資社員様からお便りを頂きました(26.04.06)
おばQさま
重要な事件を思い出させて頂き、有難うございます。
設定が架空内閣という事で、背景が理解できました。
これならば予言により、今後の大災害が防止できる可能性もあるのですね。
実世界の不審船には80mm無反動砲、RPG7など、巡視艇に致命的な兵器があって、荒天だったから被弾しなかったが、装甲の無い巡視艇には、かなり危ない状態だったのですよね。
私も「船の科学館」に見に行きましたが、スクラップになるのを展示したのは日本財団のお手柄と思います。
兵器の実物がある事で、脅威である事が理解できました。
当時の海保も海自も、厳しい制限の中で良く対応したと思います。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
あの前に日本海を高速で逃げる北朝鮮の工作船を哨戒機が見つけたのですが、当時の内閣は見逃せということで後味悪いお終いでした。あのときは小渕内閣だったかと思います。責任感のない内閣ですね。
そういう「遺憾ですよ」を30年続けて、今、北朝鮮は核大国です。
日本よしっかりしろ!とドイツにいる川口・マーン・恵美は書いています。とはいえドイツも中国に骨抜きされてますし、自由主義とか民主主義というのはいかに戦争に弱いかということですかね。
悩みは絶えません。


わずー様からお便りを頂きました(26.04.06)
あしたの新聞は知らなかったのですが、恐怖新聞を何十年かぶりに思い出しました。
漂流教室、サバイバル、カムイなんぞは恐怖新聞を含めて私の世代の教養だったのかなぁ、と懐かしく思い起こした次第です。
ちなみにもうすぐ定年退職するので感想文まがいが増えたらごめんなさい。先に謝っておきますね。

わずー様、毎度ありがとうございます。
楳図かずおは絵が恐ろしくて苦手です。私はドラえもんが好きです(キリッ
いよいよ、わずー様もご卒業ですか! それはおめでとうございます。
私も最初は市の高齢者教育の老人大学にいき、それから英会話、年配者が必ずはまると言われる古事記とか邪馬台国の教室、囲碁は何就年も前やってましたので半年ほど碁会所をあちこち歩きましたが、強い人(5~6段)ばかりのところか入門者(級)ばかりとかで、私のような中途半端(2~3段)なものがいるところがなくて止めてしまいました。 最後に残ったのはフィットネスクラブです。
ただやりすぎないでくださいよ。私はやりすぎで肉離れとか骨折とか骨が変形とか、笑い話のようです。健康のためにしましょう。頑張ってもオリンピックは無理ですから。




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