注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
注:今回は全編、西東さんが主体であり、文中で「私」というのは、作者(おばQ)でもなく主役の佐川でもなく、西東さんのことです。
私の苗字は「西東」と書いて「さいとう」と読む。ISO認証機関の社長である。まあ小さな会社だがね。
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| お久しぶりです 102話でお会い した西東です。 |
ISO規格解釈についても何冊も本を書いているので、ISO認証に関わる人たちなら最低1冊は私の著作を持っているだろう。
今日は東京・大手町で、某審査員研修機関が主催した講習会で講演をした。こういうことを厭わないのが、審査を依頼する客を集める秘訣だ。他の認証機関の社長で規格の解説ができる人は少ないだろう。それどころか、大手認証機関の社長には審査員資格を持ってない者さえいる。自覚が足らん。
今日は、いつものように私が得意とし、また皆が関心を持っている、著しい環境側面の決定方法と、有益な環境側面の話をして、聴講者を感心させた。
今は単にISO認証すれば良いという時代ではない。ISO認証してから、いかに効果を出すか、そして儲けるかの時代だ。講習会ではどんなISO解説本でも書いてあるようなことでなく、ひとひねり、ふたひねりした話が求められている。
ところで、有益な環境側面というのは、誰が言い出したのかは分からない(第102話)。だが私の影響力が大きいのか、今では有益な環境側面というと必ず私の名前が挙がる。フフフ、
講演会を開いた研修機関の渡辺さんがやってきた。彼はこういうイベントの企画をしている。
今日のお礼を言って、またお願いしますという。任せなさい。
しかし挨拶の後、去らずに話を続ける。
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| 渡辺です 今回限りの端役 で悲しい。★★ |
「西東さん、お聞きになりましたか。『有益な環境側面などない』と書いた本が出ましたね」
「はっ、存じません。著者はどのような方ですか? コンサルか審査員ですか?」
「いえ、大学の先生だそうです。それもISOと関係ない法律の助教授とありました。まだ若く、新進気鋭という感じですね」
注:助教授が准教授に変わったのは2007年で、このお話の2002年はまだ助教授であった。
「はて、存じませんね。法律の先生が、どういう経緯でISOの本を書いたのでしょうか?」
「ISO雑誌で『ISO認証誌』という月刊誌をご存じですか?」
「ああ、そういえば『ISO認証誌』に、法律家が読んだISO規格とかいうタイトルの連載がありましたね(第148話)。その方ですか?」
「そうそう、あの連載が非常に好評で、この度単行本を出したわけです。なんと3冊同時です」
「3冊も・・・どういった内容ですか?」
「一冊は規格解説です。微に入り細に入りものすごく丁寧に説明しています。一字一句の意味を解き明かしているのです。
私はまだ全編読んでいませんが、読んだ範囲ではすべて納得してしまいました」
「ほう~、他の2冊は?」
「1冊は用語辞典です。ISO14001規格で使われているすべての英単語について、ラテン語とか英語の古語から始まり、どのように変遷を経てきたか、そして現在の意味を解説しています。
targetとobjectiveの違いなどの解説もあります。そういうのを読むと、単語の意味が良く見えてきますね。英和辞典とかで調べただけではなかなかニュアンスが分かりません。
しかしターゲット(注1)という言葉が、目標とか狙う対象という意味で使われたのは、20世紀初めからだそうです。驚きました。たった100年ですよ、アハハ
targetとobjectiveの違いと言われても解釈が難しいですが、そういう由来を聞くと親しみがわき、スッと頭に入ります」
「ほう~、残りの1冊は?」
「最後の1冊はケーススタディというか、事例集です。審査で規格解釈の見解の差でトラブルになった事例を集めて、問題点の指摘、対応などを示しています。このシリーズは売れますよ。この仕事に関わっている私でさえ、知らないことばかりです。
審査員も相当勉強しないと、これからは審査で往生しますね」
「なるほど、それで有益な環境側面はないと書いてあったのですね?」
「正確な場所は覚えていませんが、規格解説本とケーススタディ本だと思います」
「有益な環境側面はないというのは、どういう理屈でしょう?」
「規格にないのだからないと単純です。その方は、規格の英語原文を一語一語の意味を明らかにして解説しています。ものすごく緻密で瑕疵を見つけるのは困難でしょう。さすが法律家と感心しました」
「ありがとうございます。そいじゃ早速帰りに買っていきましょう」
「あのね、先生、こんなこと言うのもなんですが、この本を読んだ会社側の人たちは水を得た魚のようになるでしょう。そして今までのように『この規格要求はこう読むのだ』というような断定的な説明では納得しないでしょうね。
なにしろ法廷で通用すると、3冊の本のサブタイトルにありますように、弁護士流の理論武装をしています。
ですから、西東先生は、いずれ彼とは白黒つけないとならないでしょうね。有益な環境側面がないという理由で不適合を出す審査員はかなりの数います。先生は、その教祖と目されていますからね。
20世紀には審査員になりたいとか、企業に勤めていても審査員資格を持つのは当然というお考えの方が多く、受講者は砂糖に群がるアリのようでした。
しかし21世紀になると受講者は減り、講習会の開催も減っています。これからますます受講者を集めるのも大変になるでしょう。
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| 20世紀はISO審査員研修というと、IAFが決めている定員上限の20名以上が応募するのが普通だった。溢れた人は次回へと言われたものだ。 2000年代後半には満席になることは少なく、それどころか開催下限の5名を確保できず、サクラを入れるとか開催中止になることもあった。 |
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当たり前ですが、審査員研修機関もどんどん減るでしょうね。今、審査員研修機関も20近くあります。10年後には10社残るかどうか、15年後は5社くらいでしょうね。
そして有益な側面がない説がデファクトになれば、審査員研修機関で有益な側面あると語る方は、講師に呼ばれなくなるでしょう。
当然、そんな講師は淘汰されるでしょうね」
渡辺さんの話を聞いて、有益な環境側面が否定されたら、とんでもないことになると気づいて、私は返す言葉もなかった。
私は帰り道、オアゾの書店に入ると探すまでもなく、店頭に3冊並んで平積みになっていて、 待っていた本が出た!と手書きのPOPがついていた。今までのISO本と毛色が違うので、売れると思っているのだろう。
渡辺さんが教えてくれた3冊を買って帰る。
1冊3,000円近くで3冊で8,000円を超えた。まあ、本代は今日の講師代で賄える。しかしそれはともかく、本の重さは堪える。
自宅のある平塚まで東海道線一本だが、ラッシュ時刻前でもけっこう混んでいる。本屋によらず30分早ければ良かったなと思う。
自宅に帰り妻と一緒に飯を食べ風呂に入ると、規格解説本を開く。実は本屋では中を見る暇もなかったのだ。扉の後ろに"まえがき"があり、ISO規格を読むときのスタンスが書かれている。なんでここに読むときのスタンスかと思ったが、それこそ、この本の存在意義だと、著者も力を入れているのだろう。"まえがき"というよりも宣言文なのだ。
まえがきより
ISO規格は契約文書である。英語で契約や法律を読むときは、ひたすら文字解釈に努めないとならない。文字解釈とは印刷されている文章の通りに読み、その意味を読み取ることだ。
ISO規格もそのスタンスで読まなければならない。
そして決して拡大解釈とか推察をしてはいけない。書いてないことは書いてないのだ。
注1:以下、枠の中の文章は作中の書籍からの引用を表す。
注2:以下、紫色の文字は、正式な規格や法律の引用を示す。但しこの物語のときのバージョンである。現在は改定が進んでいる。
その辺の考えは法律の読み方を基本にしているようだ。たぶん、だろう、はずだ、などという読み方と真逆だ。
だがISO規格は契約とみなすなんて、おかしいだろう。
そもそもISO審査は会社を良くするためだ。規格の文言にとらわれることなく、現状の問題点を示し、改善を奨励するのは当然ではなかろうか。企業もそれを期待しているはずだ。
一番気になっている、有益な環境側面はないというページを探す。
目次を見ても「有益な環境側面はない」という項目はなかった。それで規格説明の中の「環境側面」というページを開くと、英語原文、JIS訳、著者訳が並んでおり、その次に規格の解説があり、その下に参考情報があり、更に顕在化している問題というところに有益な環境側面とはという段落があった。
要するにこの本は規格の説明本であり、その説明の中で有益な環境側面はないと書いている。
それにしてもISO14001解説本で環境側面の解説に13ページも費やしているのは珍しい。ISO規格解説本はページ数が200ページ前後がほとんどだが、いずれも環境側面に費やしているのは4ページ程度である。
注:ISO14001:1996の英単語数が1,549語で4.3.1環境側面が78語である。その比率で言えば、200ページの本なら環境側面の解説に6ページ費やすべきではなかろうか?
著者が書くべき情報を持っていないのか?
環境側面の項の冒頭には次の表が載っている。
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驚くことに、規格の複文を、二つに分けて翻訳している。文字解釈と言っているが複文を分解するのは問題ないのか?
意味としては二つの文に分けても変わらないようだ。しかし一文を二つの文に分けるとは、大胆な奴だと思う。
もうひとつ驚くことはこの本の和訳には環境影響や環境側面という言葉が出てこない。しかし間違っているとも意味が変わっているとも思えない。文章はJIS訳より平明で分かりやすい。
ということは、この方がJIS訳より良いということか?
しかし規格原文では「環境影響」や「環境側面」を定義しているのだから、それを使用すべきだろう。
いや、待てよ、原文で定義しているのは「environmental impacts」であり「environmental aspects」である。それらを「環境影響」や「環境側面」と訳したのはJISである。
environmental impactsが環境影響と訳したのはそのままで分かりやすいが、環境側面は特別な熟語を作らず「環境影響を与えるもの(定義そのものじゃないか)」と訳せば、日本語としてそのままで良かったのかもしれない。
いや、一歩戻って考えると、定義の日本語訳が不適切というか練られていないのだ。環境側面の訳語をもう少し考えるべきだったのだ。『名は体を表す』というが、体を表す語であれば「環境側面は理解が難しい」などと、言われることもなかっただろう。
元から気になっていたのだが、「aspect」を「側面」としたのは良かったと思えない。いやいや、まずかったのだ。
読んでいるとJIS訳とこの本の訳の違いが見えてくる。
「determine」はJIS訳では「決定」であるが、こちらは「判断」である。判断と決定は意味が違うように思うが、さて、どのように違うのだろうか?
私は国語辞典を引っ張り出して意味を調べる。判断とは論理的な検討を経て決めること、決定とは意志によって決めることとあり、文例として「ビジネスでは判断を経て決定する」とあった。
更に半ページ読み進めると、親切にもdetermineとdecideの違いを(3)で説明している。
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(3)JIS訳は「決定」であるが原文のニュアンスから「判断」とした。 英英辞典によると、Determine typically means to discover, calculate, or establish facts through analysis or investigation. 「determine」は、分析や調査を通して事実を発見、計算、または確立することを意味する。 他方、decideは、Decide means to make a choice or come to a conclusion between options, often involving personal judgment or preference. 「decide」はいくつかの中から選ぶとか結論を出すことであり、多くの場合、個人的な好みが伴う。 以上を考慮するとJIS訳の「決定」より「判断」が適切と考える。 |
英文の意味から、翻訳は「決定」でなく「判断」としなければならないとある。
なるほど、日本語のJIS規格を読むと「決定」だから、国語辞典の意味なら、自分が決めることができそうだ。「判断」なら決めるための論理と基準が必要だろう。
こいつは良いことを言っている。
ISO14001の規格全文の英文を載せ、英単語一つ一つにこまかい意味とか、熟語のときどう理解するかとか書いてある。
私は、ふと思いついて著者の経歴を確認しようと奥付きを見る。そこには法学部の助教授という「アイソス誌」に連載している人の名もあったが、それ以外に著者名が10人近く並んでいる。すべて弁護士で、アメリカの州の弁護士とかイギリスの弁護士資格が併記されている人も複数いる。
つまり翻訳はしっかりしていること、そしてそれだけではなく、法廷でも通じるということだろう。
そしてやっと、有益な環境側面について書いてあるところを見つけた。
「有益な環境側面はない」という論理は単純だ。有益な環境側面という言葉が規格にないからという理屈だ。
そんなことで良いのか?
そこには
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審査で有益な環境側面はないというと、もめるかもと心配するかもしれないが、裁判になれば問題なく勝訴する。 |
とある。
オイオイ、喧嘩早い人だな。
だがその理由はその続きにしっかり書いてある。
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まず審査を受けるのはサービス契約であること。その契約ではISO14001規格によって審査すると書いてある。それ以外の規格要求はISO14001では要求していない。 第2章「引用規格」では「現時点では引用規格はない」と書いてあるが、これは不適切な訳である。英文を正しく訳せば「規制を受ける引用規格はない」という意味だ。 |
とある。
まず4章以外の要求事項はないと確認している。
そしてISO規格に「beneficial aspect」という語は登場しない。
冒頭で文字解釈をしろと言っている。
これらを合せれば「有益な環境側面」は要求にないのは明白だ・・・という論理である。
現にイギリスでISO認証において「有益な環境側面」というものは登場していない。有益な環境側面というのは日本国内だけの考えだと語っているのは、イギリスの弁護士資格を持っている。
私は「有益な環境側面」と語っていたが、類似の考えで「プラスの環境側面(Positive/plus aspect)」と語っている者もいる。彼らも私と同じくこの論理で否定されてしまう。穴の狢で一網打尽だろう。
確かに法廷論争なら、この論理が通るかもしれない。だがISO審査は法廷とは違うだろう。ISO審査とは、品質でも環境でも、マネジメントシステムについて何も知らない会社を指導する場ではないか。
最近は審査員に堂々と反論する会社側もあるが、その論理は稚拙で笑ってしまう。本当なら門前払いしたいところだが、こちらは客だと思って我慢しているのだ。何も知らないのにバカなことを語ってはいけない。
そして審査のトラブルで裁判になった場合、有益な環境側面という語句は規格にないと理由で不適合になるはずがないとある。
これがこの男女たちの言いたいことなのだろう。たぶんだが、彼の後ろには有益な環境側面がないからと不適合を出された、あるいその場で有益な環境側面を追加させられた多くの企業の人たちがいるのだろう。
そして彼らは文面上では瑕疵がないのに審査で不適合を出されたことを、恨んでいるのだろう。
そうかもしれないが、ろくな知識もなく惰性で仕事している会社員に、活を入れレベルアップさせようとしている、私の気持ちを分からないとは悲しいことだ。
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だが、待てよ。会社が有益な環境側面を把握していなければ問題なのだろうか?
もともと規格の文言は、環境側面を把握するとき、有害な環境影響だけでなく有益な環境影響もある言っているだけだ(定義3.4)。
全ての環境側面を把握して、著しい環境影響をもつか可能性のあるものを「著しい環境側面」としているなら、規格を充足しているのは間違いない。
その場合は、単に有益な環境側面という言葉を使っていないというだけであり、そもそも規格にない言葉を使う理由もない。
審査のとき、そこをよく確認せずに、単に有益な環境側面がないから良く環境側面を調べなかったという思い込みが、なかっただろうか?
そこは自信がないなあ~
そこから話がそれるというか深みに入っていく。
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有害か有益かは、それに関わる人の価値観で決まる。 古い低層建物が建て込んでいるところに、中層のマンションを作って利便性を高めようという人と、マンションが建つと富士山が見えなくなるという人は価値観が違う。 同じ人間でも、自分に利益があるものと忌避施設(nimbyともいう)では対応が変わる。 反射的利益のある施設(図書館・公園など)を我が街に作れといい、自分に不利がある火葬場・データセンターは遠くに持っていけという。 同じ人でも、自分の置かれた環境や条件によって考えは変わる。学校に行く子供がいるときは学校が近い方がよく、子供が大きくなると通学や校庭の運動が五月蝿いから学校は遠い方が良くなる。 環境影響も人間が置かれた状況によって感受性や価値観が変わり、有益になったり有害になったりする。
例えばピアノを考えよう。 ある家庭で情操教育に効果があるからと、子どもにピアノを弾かせている。しかし周囲の家ではピアノの音が五月蝿いと感じる。 この場合、ピアノを演奏している家ではピアノの音は有益な環境影響であるが、近隣では有害な環境影響であることがお分かりだろう。 メッキに使うシアンは、動物の生命維持に有害な影響がある。だがメッキの効果とかメッキのコストなどを考慮すると、現時点シアンをつかう方法は有益な環境影響が有害な環境影響より大きいとみなされている。だから使われているのだ 余談だが植物にとっては、自分の体を食べる天敵(草食動物や昆虫)に対する防壁として、シアン化合物は有益で必要な物質である。 シアンだけでなくトリカブトやニコチンは、決して人間の殺人事件や喫煙者のために製造しているのではなく、天敵に対する防衛兵器なのである。 そして植物もコスト意識は高く、土中に鉛やセレンなどが多く植物が金属毒を多く含んで天敵に摂取されないときは、わざわざ毒物を生産しないという。 更なる余談だが、著しい環境側面である毒物や危険物を排除しなければならない、と考えている会社が多い。ISO規格はそういうことを求めていない。 規格の要求は、問題が起きないように、管理体制、教育、緊急事態対応などを整えよということだ。 |
私もそういうものを、どう説明するかは苦慮したことがある。
現実は、ピアノの例のように小さく単純なことではない。有害な環境側面として、どこでもトップに上がるのは、エネルギーの使用である。電気、ガス、石油(重油・軽油)などの消費は、有害な環境側面で決まりだ。
元々農作業、輸送、鍛冶、すべての仕事は人力であった。やがて畜力となり水力となり化石燃料を使う動力となった。どんどん環境負荷が大きくなったようだが、それは効用が大きいからだ。効用イコール有用であり、それは有益ではないのか?
なぜエネルギーの消費は有害な環境側面なのか?
資源枯渇するからなのか? CO2を排出するからなのか?
しかし太陽光発電など再生可能エネルギーはどうなのだろうか?
いやそもそもエネルギー消費という意味では太陽光であろうと火発であろうと同じだ。じゃあ、環境側面を購入する電気と使用する電気に分けて考えれば良いのか?
それをしっかりしようとなるとLCA(ライフサイクルアセスメント)が必要となる。
アネックスでは環境側面を把握するには、「詳細なライフサイクルアセスメントを要求するものではない(A.3.1)」とある。しかし太陽光や風力と言った再生可能エネルギーでもライフサイクルを通じてコスト計算して、化石燃料起因のエネルギー消費と比較されるべきだ。
風力発電によるバードストライクや動物への影響などは、コストとして把握できるのだろうか?
また風力発電や太陽光発電なら、無風時・夜間時や雨天時対応の電源や蓄電を考慮しなければならない。太陽光の宣伝で、そんなもの見たことはない。
工場の屋根に1,000m2の太陽光パネルを付けて、せいぜい100kWである。これで動く工作機械と言えば、通常の汎用旋盤で30台(注3)、タレパンなら3台である。それも晴天の日中だけだ。
第2種エネルギー管理指定工場とは1,200万kWh以上
自家発電を持つ工場では非常用の小さなものからあるが、定常時使う場合は最低数百から1,000kVA(力率90%として900kW)である。それくらいないと意味がない。
ましてや第2種のエネルギーすべてを太陽光で賄おうとすると、250m四方の太陽光パネルが必要となる。よほどの田舎で敷地があるところでなければ工場敷地がそれほどあるわけがない。
そこまでしても晴天時の日中のみ有効であり、夜間・曇天時の対応はまた別だ。
ところで環境影響というのはどこからどこまでだろう?
ISO14001のenvironmentの定義は「大気、水質、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動をとりまくもの」となっている。
これに人間関係とか職場環境を含むのかという疑問は、環境という言葉の故だろうか?
日本語の「環境」とISO14001の「environment」は同じではない。日本語の環境の守備範囲は広い。
日本語で環境と言っても、
まあ、人間関係は含まないと考えるべきだろう。
余計なことを考えて基本からそれてはいけない。
いかん、いかん、考えを有害か有益かに絞ろう。
おっ、ここでは有益な環境側面を批判している、やっとたどり着いた。
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有名な審査員の講演会での話である。 「旧タイプのエアコンをインバーターエアコンに更新した。これにより有害な環境側面を有益な環境側面にした」という。 バカバカしい論理だ。従来型のエアコンでもインバーターエアコンでも環境側面であることに変わりはない。単に効率の違いである。
別のところでは扇風機にまつわる話があった。「ある会社で休憩室にエアコンを使っていたのを扇風機にした。その結果、電力削減になった。エアコンは有害な環境側面で、扇風機は有益な環境側面である」 これは笑い話ではない。 エアコンが有害な環境側面で扇風機が有益な環境側面なら、扇風機も止めて風鈴を吊るせば、扇風機は有害な環境側面に、風鈴は有益な環境側面になるのか? 有益・有害はそんな怪しげな物なのか? 全くおかしな考えである。 |
いずれも私が以前講演会で語ったことだ。審査に行ったところでも、話したことがある。有益な環境側面の例えとして上手いこと言ったつもりだった。
それが100%否定されたのだ、一瞬、怒りで、いや羞恥心か、目の前が真っ赤になった。
まあ、我慢、我慢
更に続く
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ISO審査員が「扇風機は有益な環境側面」と言ったのは、間違いなのでしょうか? そうです、間違いです。 その審査員は環境影響と環境側面を理解していなかったのです。 環境影響は社会的制約や使用環境によって有害だったり有益だったり変わります。 しかし環境側面には有害も有益もありません。 先ほど例に挙げたピアノも、楽しい思いをした人がいても、嫌な思いをした人がいても、ピアノは何も変わりません。 それはISO規格に、有害な環境側面も有益な環境側面も出てこないからだけではありません。 環境側面に有益とか有害というもの当てはめると、矛盾がでてしまうのです。説明しますと、環境影響に有益と有害はあります。それは一つの環境側面から一方しか出ないわけではなく、ほとんどの環境側面から有害な環境影響と有益な環境影響が出ています。そして総合すると有益が大きい場合のみ使われているのです。 状況が変われば有益な環境影響か有害な環境影響かが変わるし、その結果、すべての環境影響を総合したものも有益か有害かが変わります。 例えば今、欧州で鉛や水銀の規制が検討されています(注5)。ゆくゆく電球型を含めて、蛍光灯は使えなくなるでしょう。 現実を見ると今現在、白熱電球から蛍光灯電球(注6)への切り替えが進んでいます。 今、蛍光灯電球は有益な環境側面だと語っている方々は、そのときどう説明するのでしょう? 私はどう言い逃れるのか興味があります。
あなたは間違えたのではなく環境側面というものを理解していないのです。 |
これも自分が語っていたことだ。私の講演を聞いていた人が速記していたのだろう。そしてこの本を読むと自分が愚かだったと自覚する。
しかし、ここまで有益な環境側面を貶すこともなかろう。
そう思ってページをめくる。そこには私の憤懣への回答が書かれていた。
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お断りしておくが、私は有益な環境側面があると語ることを禁じるとか処罰せよという気はさらさらない。日本国憲法は言論の自由を保障しており、私もそれを享受していることは明白な事実である。 もし権威を否定したら捕縛するとか、鼎の軽重を問う者は断罪するなどと言われたら、この本だけで数回の極刑に値するだろう。 まず、ここで語っている有益な側面とは、一般的な側面という言葉を意味しているのではない。 例えば、「消費税の増税における、有益な側面と有害の側面」とか、「ゆとり教育にも有益な側面はある ここではISO14001で定義する「環境側面」において、有益な側面がないことを主張していることを明確にしておく。 そして、更に、「有益な側面がある」と主張しても、私はそれをもって非難したりはしない。大学の講義の中で、「環境の有益な側面を考えることが、経営にとって好ましい」と語ることは自由である。学問の自由であり、おかしいと問題提起する根拠はない。 あるいは、ISO認証を指導しているコンサルタントが、「環境側面は有害だけでなく有益についても、広く考えるべきですよ」と語ることも許す。ISOの世界ではその論理は間違っているのだが、法に違反しないことはもちろんだし、悪いことだと断罪することもない。
ISO審査の場において、「有益な側面がないので不適合である」とか「特定された環境側面が有益か有害か区別されていないので、是正が必要です」などという審査員がいる。かようなものは断固として許すことができない。
注:審査で「不適合」あるいは「是正が必要」というのは、試験なら落第ということである。 なぜならそれは明らかにIAFの審査基準Guide66 まさか審査契約書に、「審査に当たってはGuide66に基づかず、認証機関あるいは審査員個人の要求事項の加除を行います」なんて書いている認証機関はないだろう。 この本を書く際に、多くの企業及びISO認証担当者の協力を得た。そして多くの企業において上記の「有益な環境側面を識別しないことによる不適合が出されていること」を確認した。 当然、その是正処置というか審査員に合わせる対応に手間暇かけていることと、そのための費用が掛かっていることを問題視しているという声を聴いた。 ゆえに、有益な環境側面は有害なのだ。 |
私は、全身に汗をかいているのに気づいた。どう考えても、言い逃れはできないようだ。
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そしてだ、この際だから社長を引退しよう。
幸い自分は「有益な環境側面がない」という理由で不適合を出した記憶はない。
考えると、もういろいろあるが、どうせ我が社の認証件数は300件そこそこ、大きな問題にはなるまい。後任には問題を残さないようにしよう。
本日の願い
西東さんは、正直な人ですね。大抵はいかに言い逃れようとするか考えると思います。
でもこれが最終決断でないかもしれませんよ。
なにしろ、大人になると背負うものが多すぎます。社長となれば、自分はミスと理解しても、多くの人の暮らしがかかっていますから、徹底抗戦、自爆攻撃とかあります。
このままでは・・・ないと思いますけど。
ところで有益な環境側面については、もう書くのは止めようと思います。
どうせいくら書いても、ごまめの歯ぎしりというばかりではなく、己の精神安定のためにきれいさっぱり忘れるのが吉だろう。
とはいえ、有益な環境側面について教えてくれなんて依頼が、あれば喜んで(以下略)
私の決心は柔らかいのだ。
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| 注1 |
13世紀頃、古フランス語でtargeは小さな丸い盾の意味だった。それが英語に入って、小さなの接尾語etを付けてtargetとなり小さな盾を意味した。この当時はその動詞形targenは守るという意味で、狙うという意味はなかったそうだ。 targetが弓の的の意味で使われたのは16世紀末という。 19世紀末から20世紀初頭に、的の意味から比喩的に狙うべき標的や人物を指す意味に使われるようになったという。 Cf.etymonline他 ついでにObjectiveとはob(前に)とjacere(投げる)の合成語で、その意味は前に置かれたもの・邪魔ものである。中世の大学で先生から投げかけられた質問をそう呼び、そこから探求すべきテーマの意味となる。 19世紀、軍事においてobjectiveは地図上の特定の場所を指す用語となる。時が経つにつれて特定の場所から攻略目標の意味に使われるようになった。 また望遠鏡や顕微鏡で対物レンズ(objective lens)は観察するものに近い方を指し、そこから目標をobjectiveと呼ぶようになったという説もある。 | |
| 注2 |
この物語より20年後、2020年頃になると有益な環境影響といわれたものは、社会から厳しく再評価されるようになった。それはESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)において重要な意味を持つからだ。
![]() 2015年国連がSDGsを採択し、ESG投資が脚光を浴びる。そしてESG投資額は2020年頃まで増加を続けた。 しかし2022年頃から「グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)」への批判が強まる。CO2ガスを減らす代替燃料の採掘が環境破壊をしているとか、太陽光発電による自然破壊、廃棄物の処理困難などを考慮すると、メリットがほとんどないと言われるようになった。 やがて負の面を隠したESG投資は「グリーン詐欺」と呼ばれるようになる。 その結果、ESGブームは沈静化した。そしてESG投資は「絶対善」ではなく、経済合理性とバランスを取るべきもの見られるようになる。 | |
| 注3 |
通常の汎用旋盤のモーター動力は3.5kW程度、タレパン(ターレットパンチプレス)の動力は30kW程度。 | |
| 注4 |
第2種エネルギー管理指定工場は、年間(4月〜翌3月)のエネルギー使用量が原油換算で1,500kL以上3,000kL未満の工場・事業場である。電力(kWh)に換算すると、概ね年間約1,200万kWh以上に相当する。 | |
| 注5 |
EUの鉛規制(鉛や水銀ばかりではないが)であるRoHSは、2003年公布、2006年施行である。しかし電子廃棄物の有害性が問題になったのは1990年頃で、1998年には鉛規制の具体案ができていた。 この物語の2002年には鉛規制の草案が採択された。 | |
| 注6 |
電球型蛍光灯は1990年頃から発売されたが、洞爺湖サミットの2008年頃から急激に普及した。だが鉛規制の水俣条約の採択は2013年(発効は2017年)で、その流行は5年と続かなかった。 | |
| 注7 |
ゆとり教育1980年代末から導入されたが、本格実施されたのはこの物語の現時点2002年であった。 そして学力低下などの問題が騒ぎになるのは翌2003年からであった。 日本もいろいろなトライアルをしたものだ(笑)
3.14 ⇒ 3 ⇒ 3.14
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| 注8 |
この物語の当時の基準はGuide66であった。 2006年にISO17021が制定され、Guide62とGuide66は廃止された。 |
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